【女装男児】仄か麗ん
自分の妻が他の漢と寝ているとしった刻
つまりは不倫していると知った時、どんな気持ちになるのだろう?
「貴方。御免なさいな・・・。少し具合が悪くて休んでいたの」
「そうなんだね。大丈夫かい?夕飯は僕が作るとするよ」
何処かすまなそうに眉をひそめ後ろ手に寝室のドアを締める妻。
その奥でガタンと何か音がする。
はたとそれが何時も二人で肌を並べる奥の寝室に誰か居ると知らせてくる。
そういえばと思えば美しいも丸みの有る四肢を覆うのは何時もの寝巻きではなく
白いバスタオルでもある。
何処か気まずい雰囲気の中にも妻は寝室の扉の前に立つが儘でも有る。
まるでその奥を覗いては欲しくないとでも言うように寝室の扉一枚の前に立ちはだかる。
当然の如くにも先に歩を動かしたのは僕の方だ。
「何食べる?もちろん料理は上手なほうではないから期待しないでくれ」
「余り体調が良くないですし、軽めの物を御願いします」
長い睫毛を二度伏せて苦くも優しげに微笑む妻の姿に軽く微笑みキッチンへと向かう。
僕がキッチンへと歩き冷蔵庫の中を漁りだすと
それを良しとして妻は再び寝室へと其の奥に姿を消していく。
恐らくは着替えの為だろう。確かにも具合が悪くとあっても下着もつけず
バスタオル一枚で身を覆っているのは不思議であり不可解で不自然である。
美しい四肢を持つ妻であるが以外にも寝巻きはパジャマを好む。
「貴方はキャミソールとか来て欲しいんでしょうけど体が冷えるから」
事実に寝台の中で時折振れる妻の四肢は確かに冷たい。
具合が悪い時でもそうでない時であっても体が冷えるのを嫌う妻が
バスタオル一枚で部屋から出てくるとすればそれは体に熱が宿るからだ。
「何か軽い物って思ったんだけど・・・。
気がついたらちょっとこってりしちゃったかも?」
「いいえ。大丈夫です。お腹も空いてしまってるので有難う。貴方」
妻は嘲笑うと八重歯が溢れる。初めて観た見合い写真の其れにも八重歯が煌めいていて
妙に其れに惹かれたのも事実であった。
考え事という気が付き晴れない疑惑に頭を巡らせてしまえば手が勝手に動くと成る。
我に帰れば確かに妻の好みではあるがチーズをたっぷりと仕込んだパスタとなれば
調子が悪い体にはきついかもしれない。
それでも妻は相当に腹が減っていたのだろう。
勢いに任せて重めの味と量となるパスタを遠慮なくも平らげる。
烏の行水と言えば疾いと知れる。
僕は何時もそうだ。
若し個の家に僕と妻。夫婦一組の他に誰か居るのならば。
この一刻が足音を忍ばせて退散するのには絶好のチャンスで有る。
最もそれは僕の思い過ごしでもあろう。
相当に具合が悪くとあり熱でもあってパジャマを着込むのも億劫であり
そのままベッドに倒れ込んで休んでいたのかもしれない。
確かに今日は少しばかり仕事も早く済み。真っ直ぐと帰宅したのも事実だ。
意図せずにも不意をついたと成れば夫を出迎える妻の努めでもあれば
慌てて起き上がり手近なバスタオルで身を覆ったのでもあろう。
閉じた扉の音のそれとは違う音は聞き違いか若しくは何か物が倒れる音に違い
幸いにも少しは潤沢な収入のお陰で住居がマンションの五階と成れば
窓はあってもそこから出ていくわけにはいかない。
其れこそ寝室に潜む輩が本当に若し居るのならば、其れこそ烏の行水を楽しむ
この時間こそしか出ていくチャンスは無いだろう。
愚行にも窓からでてベランダに渡りそこから飛び降りるとかは出来ない。
そうなれば何時出てくるかもしれないとはいえ熱いシャワーを浴びている
今この時に潜む寝室から足音を忍ばせ自分の衣服と靴を持ち
コソコソと出ていくのが得策と成る。
妻と間男のことだ。
やれやれとんだ目にあったものだ。
早く返ってくるなら連絡の一つも入れるのが常識だろう?
これだから年下の漢なんかに嫁ぐからこうなるんだよ。
坊や旦那はこれだから困る。
そんな会話が寝室の奥から聞こえて来そうでもある。
忍んで歩きたどり着いた間漢の背を妻が良いから早く出ていってと押せば
苦く嘲笑うも漢が接吻を強請りしょうがないわと妻も答える。
そんな光景が確かにも見える。
「やっぱり・・・少し具合が悪いの。先に休んで良いかしら?」
「勿論。構わないよ。ちゃんと薬を飲んで休むと良いよ。
僕は少し仕事の続きをこなすから。結構溜まってるだ」
これも又気まずそうな仕草で長い髪を耳にかける妻に声を掛けると自室へと籠る。
疑惑はあっても思い過ごしと決めつけ。
なるべくなら何事もなかったようにと互いに気を使いやり過ごす。
本当に何事もなく僕の杞憂であるならそれでよい。
元より四つとはいえ年上の妻を娶ったのだ。
世間世情からみても同世代に比べれば早くに結婚したし元々細身で童顔でも有れば
どこか頼りない出で立ちでもある。
例え廻る世界が大戦と呼ばれる戦争の中で日常を過ごす昨今であっても
日常のそれは大きくも変わらない。
縁会って嫁いでみたものの夫として尽くすには少々と頼りない。
妻からしてみればきっとそうでもあり、隙間を逃さず入り込む間漢の技に身を預けたのかもしれない。
どうにも晴れぬに疑いが頭を埋めるが確証はない。
確かめるのは簡単であるが具合が悪いと寝息を立てる妻を脇に置き
自分の疑念を確かめようとがたがたと音を立ててクローゼット扉を叩き開けるのも気が引ければ
窓を開け放ち何処に居るんだ間漢野郎とベランダにでて叫ぶのはもっと嫌だった。
製図台の上に木炭の線を刻むも意識はそこにはない。
烏の行水の間に出ても行かずとなれば、今と個の時が二度目のチャンスだ。
頼りない坊や旦那は自室に籠もり仕事に没頭する。
個の夜。間漢が運悪く寝取った妻の体を貪っている時に夫が帰宅する。
逃げ出すにはその家は高所に有ると知ればあたふたと動揺するのは確かであろう。
なんとか逃げ出そうと様子を見て夫が風呂に入ったと知る
今こそと思い寝室のドアに近づいてみれば
(今は駄目。あの子。烏の行水なの。
何時でてくるかかわらないわ。頼りない顔だけど感は良いの。だから駄目)
さっきまで漢の一物を咥えていた人妻がドアの向こうではっきりと告げる。
それは不味いと思いつつもあの童顔で感が良いとは思えないともおもいつつ。
再び隙を待てば以外に早く妻が寝室に戻ってくる。
(どうなってるだ。やばいくないか?)
(今は自室に籠もってるわ。それでもちょっと出ていくのはよくないかも
感がいいだけじゃないの。音にも敏感なの。それに優しい子なの)
(どうしろって言うんだよ?優しさだけじゃ満足して無いくせに)
病を言い訳に寝室に戻ると間漢が潜むクローゼットに近寄り声を潜める。
妻にしてみれば間が刺したと問えば最初の一回だけである。
その後一年の間は間男とズルズルと関係を続けてる。
自分の体がそれを求めてしまってる背徳感が堪らない。
今だって同じ家に愛して尽くす童顔の夫が居ると言うのに
クローゼットの隙間から手を伸ばし乳房を弄る間漢の手の動きに感じてる。
確かに感も良く耳も良い夫であるがこうしてる事は観えやしない。
危険な状態ではあればこそ背徳と快楽が身を焦がすのは良く知っていれば
ついには自分からクローゼットの向こうへ身を滑り込ませ
妖艶と不敵に口元を歪め間漢の股間を弄りだす。
結構な深夜までに木炭を疾走らせると流石に腕も体も疲れ果てる。
先程まで頭を埋め尽くした疑惑も忘れると倒れ込むように妻が眠る横に倒れ込む。
寝息を立てる妻の寝顔を愛しげに一度盗み見る。
暗く灯りもない部屋の中。妻の寝顔からずらしたした視線の先。
妻が未だ全裸であり大きな乳房の先が熱に火照り尖っているのが瞼の奥に焼き付く。
部屋の片隅のどこかで微かに何かの気配が動くも僕は疲れて眠りへと堕ちていく。
「ねぇ~~~。貴方。今度の休みに一緒に美術館に行きません?
素敵な絵画展がやっているの。久しぶりにデートしたいのです」
翌朝から妻は上機嫌だった。無理に繕っているのではなく本当に愉しげに
にこやかに声を掛けてくると思えば僕の苦手な絵画展に行こうと強請る。
勿論それに悪気はない。
初めての見合いで互いに緊張が消えない時に偶然に近くでやっていた絵画展に
妻が僕を誘い絵画好きな妻があれこれと愉しげに燥ぎ話す。
年上と知っても無邪気に喋る彼女の姿に惹かれ打ち解けられたのも確かだった。
それから幾度か食事や絵画展に脚を運び絆を重ね互いを知って縁を結んだ。
あの頃を思い出すと人生で一番楽しかった日々かもしれない。
夫婦として共に人生を歩む前の互いに恋する時間であればこそである。
「行ってらっしゃい。貴方。お気を付けて」
「云々。行ってきます・・・」
年上女房で有り童顔の夫。それも結婚生活もそれなりに長くと成れば
朝の見送りも挨拶も極めて簡素な物と成る。
短く言葉を交わし夫はドアノブに手を捻り体重を掛けて押しやる。
歳上の妻は夫がドアの向こうに姿を消すと定番のドラマを見るために部屋奥に身を翻す。
幾回も繰り返される。極々普通の朝の風景。
「誰だよ・・・。僕の妻寝取ったの」
扉の此方がわに立ち尽くすと童顔の夫・八丈縄丈は下を向き吐き出した。
妻の手前もある。縄丈は出来るだけ平静を保ち何時もと変わらぬ足取りで有るき出す。
昨夜。あの家には縄丈と其の妻の他に確かに誰かいた。
居たに違いないというような曖昧な物ではない。確実に誰かがいたのだ。
精密線画技師と言う一風変わった仕事を営む縄丈の性格は正に精密と言っても良い。
尤も仕事がそうで有るからと言って生活のそれもそうなるとは限らない。
「脱いだ物は洗濯籠入れて下さいって何度も言ってるのですが」
年上で色香漂う妻が眉を潜めて小言を言うように普段の生活は結構陀羅しない。
否然し。それが仕事となれば人が変わる。
結婚して四年と成る妻にさえ自分の作業部屋には近寄らせない。
製図台の隅に落ちる木炭の屑も作業が終われば専用の刷毛で集めて捨てる。
線図を描く紙も特に拘り地方の個人職人工房の物を態々と取り寄せている。
年に一度は職人の工房に脚を運び歳を重ねる職人の技を褒めて労う。
使う道具も同じようにと拘りを持てば、一度精密画を書き出すと手が止まらない。
時に食を忘れ妻に迷惑をかけることもしばしばであったが
何時からか夫と襟を正すべきかと思い立ち。
未だ未だ若くも夜遊びに興じる同僚を後目に仕事が終われば多少の寄り道はしても
早めに帰り妻と食卓を囲むように心かけてもいる。
それでも妻から観れば縄丈は未だ子供なのだろう。
或いは緩んだ一瞬に間男がその尻に手を伸ばしたのだろうか?
自分がそれをしないとすれば相手の妻もそうしないと言うのは
単なる自分の妄想でしかないと改めて知った縄丈である。
では何故、妻が浮気していると縄丈が知り得たのだろう。
それも又、精密線画技師を営む縄丈だからとも言える。
夜も丑三つとなれば誰も眠気を押さえられなく成る。
それでも又。どうしても疑惑を捨てきれないとなれば確かめたい。
なるべく小さな方法で。そして確実に答えを知りたい。
縄丈は極々と単純な方法を選ぶ。
寝る前の戸締まりの確認とばかりに人が安全に通り抜けられる場所。
玄関に近づくと鍵の掛かるドアの隙間。
床から少し高く位置。
それでも意識して目線を落とさなけければ視えない高さに何重かに折った紙を挟む。
確かに何気ない紙束であるが効果覿面となる。
つまり誰かが玄関の扉を開けて外に出れば紙束は床に落ちる。
その日はゴミ収集の朝でもないから
縄丈が出勤するまで玄関の扉は開かず紙束も床に落ちるはずもない。
落ちるはずもない紙束が縄丈が玄関のドアノブに手を掛け目線を堕した時に
すでに床に堕ちている。縄丈が家を出る前に誰からドアを開け出ていった事になる。
昨夜に縄丈と妻の他に誰かが居た事を紙束が証明した。
知りたくのない事柄を知ってしまったとして
それが又自分の妻が不貞を働いていると言う事であっても。
案外普通に知らぬ振りが出来るものなんだなと縄丈悟る。
勿論、共に寝台を温める妻の体が思い掛けず振れるだけで嫌悪感が胸に湧く。
自分の体も未だ若く。それ故に勢いに任せて一辺倒であっても妻はそれに答えて喘ぐ。
尤もそれが女の演技であるのかもしれないと疑っても猛る思いは抑えされない。
だからと言って間男の事は忘れる事はなく同時に疑いの眼差しは消えはしない。
妻の不貞が確実と知って落ち込んだのは二日にも至らない。
気丈に胸を張っているのも当然あるだろう。
妻に気取られないようにその前ではぼんやりと過ごしてみせるが
いつの間にか自分も仮面を顔に付けるように成る。
あの朝に約束した絵画展に妻と通えばはしゃぐ妻が喜ぶようにと話を弾ませる。
勿論と事前に調べた情報をネタとして披露し妻の機嫌をも取る。
何気ない普段の生活の中で仮面の下で当たりを睨む。
そうと構えて物事を観察してみれば以外と簡単に周りも見える。
一応と懲りたのか用心のためか間男と妻が秘事を営むのは
月に二度縄丈が出張と成る時にずらしたらしい。
其れが終わり家に返ると大層に明るく振る舞う妻の笑顔と引き換えに
玄関には男物の靴跡がうっすらと埃の上に付いていたり
「あれ?旦那さん。髪の色そんな感じだったかしら?
それにもっと長くなかった?」二件となりの伯母さんが声をかけても来る。
最近染めた髪色と違うしかも長さも違う男が家に出入りしてるとそれからわかる。
特に目を見開いてなくても烏の行水を終わらせリビングに戻れば傍と我に返って携帯を妻が手放す。
話こんで居たのが親類や友達ではないのは明白で有るのは妻の仕草が教えてくれる。
出張の後に体を求めれば何かと理由をつけて断っても来る。
当然の如く。その日僕が帰ってくるまで間男の体を貪っていたからに違いない。
何が理由というわけでもない。何時からという訳でもない。
何か色々な物が重なって。勿論僕に原因があったのかもしれない。
それでも少しづつに静かにと何が冷めて冷えていく。
互いに求める指が遠くなり。何時しか互いに背を向けて眠る。
間男がいると知っていると薄々は気がついているのだろうか。
それもこれ幸いと距離を置いているのだろうか
何時しかに交わす言葉も少なくなれば最低限と成っていく。
徐々に重くなっていく雰囲気に耐えきれずか目に見えるほど
温もりをも求めて妻の外出が多くなる。
垣間見る噂の影に漢の影が二人三人とも数えられる様になり
それから壱年と巡る残暑の夏に・・・。
「あ~~あ。妻は憚ることなく情事を楽しんで居ると言うのに。
こっちの僕は最近はめっきりご無沙汰で。猛る思いをどうしろっていうんだよ」
毎度月の二度の出張の帰りに自分の街の繁華街を縄丈はよたよたとふらつく。
「御兄様。御兄様。溜まってるんでしょ?
良い女の子いるわよ。あら。結構可愛い顔じゃん。何なら私が相手してあげるわ」
突然に腕を捕まれ見下ろせば戦時風情を物ともせずと派手な格好の女性がしがみつく。
「いや。結構です。僕結婚してるので。そういうのは困ります」
慌てふためき掴まれ腕を離そうと身を捩るが恥辱とも言える独り言を聞かれてしまう。
「そんな事言ったって奥様が浮気してるって言ったじゃん。
奥様が漢遊びを嗜んでいるなら。御兄様が遊んだって責められないでしょ?
夫婦共々同じ穴の狢って奴よ。夫婦で浮気し合うなんて最先端だわ
それにやっぱり可愛い顔してるの。この際、私が頂いちゃおう。
はい。こっち。此処のお店よ。ちょっと特殊だけど。
御兄様なら大丈夫。寧ろ溺れちゃうから。絶対に。云々」
細身ではあるがそれでも男児で有る縄丈の腕をグイグイと引っ張る小柄な女性。
「厭。無理だから。訳わからないし。溺れないから。間に合ってますから」
仕事道具のはいった鞄を持って行かれては後が困る。
何より小柄癖に漢一人の体を割りと簡単に地下の店へと階段を降りながら引づっていく。
「可愛くて絶対たべたく成っちゃう御兄様。御案内~~~。
ちなみに一番最初は私が食べちゃいます。絶対食べてやるのです。」
小柄な女性に手を惹かれる儘にヨタヨタと扉を潜る縄丈の目にも耳も
その先の店内の世界は異様な光景であった。
先ずに店内に流れる音楽は縄丈の常識ではありえないほど大きくもあり
聞いたこともないようなチャカチャカとリズムを刻んでいる。
確かに煩いが其れ以上に目にも目に留まるのは据え付けられた大きな鏡
枠にはこれでもかとリボンや飾玉の装飾が付け等ているかと思えば
眩しいライトも括られる。
鏡の反対には少し大きな椅子がある。思い当たるのは散髪屋のあれに近い。
空いてる席の向こうにはすでに女性が座っており後ろから店のスタッフが長い髪を整えている。
「さっ。散髪?こないだ散髪したばかりだし・・・」
「なに言ってるのよ。お兄さん。此処をどこだって思ってるのよ。
えっと。八丈縄丈。変わった御名前。云々。縄ちゃんね。
私は小春。これでもお店の店長でっす。えっへん。」
「えっへんは良いから。勝手に人の鞄漁らないで。
小春店長様ですね。宜しくどうぞ。じゃなくて腕ひっぱらないで」
訳もわからずとあせる縄丈の腕をぐいと強く誰かが引く。
ひぇと情けなく声を上げたのは引かれただけではなく腕を引いた当人の風体に驚いたからだ。
店には似合わずほどに巨漢であり筋肉たくましい。
「五郎と申します。本日はご来店、真に有難うございます。
それでお客様はどのような感じをお望みでしょうか?」
一度、体が宙に浮いたかとおもうと大きめな椅子の上に落とされる。
筋肉逞しい店員・五郎にとって其れくらいは大した事もないだろう。
「これはどうも御丁寧に。八丈縄丈と申します。
散髪なら間に合っているのですが。僕は小春店長さんに無理矢理・・・」
状況を把握しきれない縄丈は隣の席の女性に助けを求めようと顔を向ける。
目線が合えば互いに頭を下げる。
「こんにちは。初めての方ですか?ゆっくり楽しんで下さい。」
「ど・・・どうも。ええ。初めてで・・・色々・・・」
最後まで言えずに縄丈は言葉を呑み込む。
たった今。挨拶を交わした女性に違和感を覚える。
艶の乗る長い黒髪。瞬けば音がするかもしれない睫毛。
すっと通った鼻筋。少々大きくも有る唇は好みがわかるかもしれない。
否。通好みと言うべきか。ぱっとした華は無くても惹かれる物がある。
薄桃のワンピースも大きくはないが確かに膨らんでいるし
黒のスカートも良く似合う。脚の毛も綺麗に処理されている。
それでも何処か何かが違う。
頭の中で思い出せば聞いてとれた声の質は妙に太い。
確かめようと目線を遅れば返る微笑みの首に喉仏
「あれ?女性の方ですよね?それも綺麗な」
訝しげであれども綺麗を言われば嬉しい。
「ええ。褒めて頂いて嬉しいです。確かに今は女性です」
「えっ?今は女性?・・・今は?それならいつもは?」
隣の女性の喉元から目を剥がせない縄丈の肩にぐっと圧力が掛かる。
文句を言おうと顔をあげるとそこにはニタニタと笑顔を浮かべる五郎。
「細かい事は気にせずに勝手に始めちゃおう。
云々。やっぱりいい肌してるじゃん。きめの細かさも逸品だわ」
「ちょっと待って。シャツの釦はずなさないで・・・」
なにが起きるのかと焦る縄丈に構わずにも丁寧に脱がされたのは外着とズボンだけだ。
それは帰宅する時に乱れが合っては成らぬとの一応の店の配慮でも有る。
下に着込むシャツは釦ごと引き千切られると開けられ体を小春が弄る。
「駄目。そこは敏感だから。五郎さん。否。五郎殿。離して下さい。」
声を上げても五郎はニタニタと笑顔を返すだけである。
「観念しなさい。この小春の腕に掛かれば縄丈さんなんて。
あっと言う間に縄子ちゃんにぃ~~~。どうしましょ?
此処は定番のAカップかな?でも意外と肩幅があるから不釣り合いよね。
Bでもちょっとイマイチかな。思い切ってDでいこうかな?」
あれこれと思案する小春が顔を上げると云々と五郎が頷く。
少し羨ましそうに隣の女性も云々と頷く。
「ヨッシャ~~~。
細身な癖に脱いだら御満足のDカップの縄子ちゃんで行こう
助手君。アレ持って来て~~~。何?特級品しかない。ここは奮発しましょう!」
「何ですか?細身な癖に脱いだら御満足のDカップの縄子ちゃんって?
奮発するって何ですか?何を奮発するんですか?
五郎さん。否。五郎殿。満面の笑み浮かべないで・・・ひゃっ」
悪魔か地獄の閻魔様かとも見える五郎の笑みを見上げていると胸板に冷たい感覚が乗る。
乗ると言うよりは本当に糊でも付いて居るように肌の上にピッタリとくっつく。
「えっ。えっ?これはなに?胸・・・女性の・・・乳房・・・えっ」
当惑するにも当たり前であるが縄丈の胸板の上には女性の乳房を模した丸い物体が二つ張り付く。
確かにと記憶を弄れば乳がんなどで乳房を失った女性のために作られた言わば義乳で有る。
「よく馴染ませないとぉ~~~。う~~~ん。いい感触。
感じてきちゃうでしょ?縄子ちゃん。ねぇ~~~。か・ん・じ・る?」
「否。全然。僕は漢ですから。全然感じません」
椅子に体を抑えつけられ無理矢理に義乳を胸に付けれても断固として縄丈は否定する。
とはいえ錯覚とは恐ろしい物である。
たしかにまがい物であり自分の体に奔る神経もないから感覚もない。
それでもなじませようと強く押しつけられれば義乳も妖しくも淫らに歪む。
例えば傷口を模したシールなどを体に貼れば、其れがまがい物であると知っても
痛みを感じたりかばったりする疑似感覚のそれに近い。
むっとして怒声混じりに暴れる縄丈が妙な感覚を覚えたのは其の後で有る。
「以外としっくり来てるわね。つなぎ目はファンデーションで埋めるとして。
白とピンク。どっちが良い?それとも奥さんとおそろいの紫?」
「誰が妻とおそろいの紫ですか?なんでそうなるですか?・・・あっ」
細身の体には少し大きなDカップの乳房を付けられ、其の上から淡桃のブラジャーが覆う。
少し厚手の生地ではあるが柔らかく肌心地は悪くない。
乳房を包む布の心地は気持ちよくもあり後ろでホックが止めれられる
肩に紐が通されると縄丈は羞恥に身を焦がす。
生まれて初めて男児で有りながら女性の感触を味わい恥ずかしさに顔を赤らめる。
「きゃ~~~。可愛い。鍔つけちゃおうっと。」
頬に生暖かい感触が生まれ小春が舐めてると気づく迄、間が空いたはずだと思えば
小春の細い指がブラの上から執拗にと乳房を揉みしだく。
頭でわかっていても目の間で乳房が揉まれ嬲られ光景にいつしか
小さく喘ぎが漏れた其の後。縄丈は呆けて何が起きたかを覚えていなかった。
「御来店有難うございましたぁ~~~。ニヒヒ」
意味有りげに嘲笑う小春と寡黙に並ぶ五郎の視線を後に
「困った。本当に困った・・・これどうしよ?」
自分ではしっかり歩いてるつもりでははるが他からみれば千鳥足で店を出る。
なにしろ自分の人生で初めて女装を営んだのだ。
それも女性物の衣服や下着をこっそり来てみると言うのではなく。
儀乳まで付けてそれも嬲らる。
それだけならまだましとも言える。
初めて義乳をつけブラで覆い呆けしまった其の隙きに小春と五郎とスタッフは
己の欲望のなすが儘に縄丈の体を弄ぶ。
義乳は兎も角、トランクスを剥ぎ取りブラと同じ色ではあるがレースのパンティを履かせ
ウィック言えば今風であるが要はカツラをかぶせては五郎が腕を振るって化粧を施し
あれやこれやと悩む店長の命令によりスタッフが在庫を漁り
気がつけばれっきとした女装男児が出来あがったかと思うと
そこに居たのは儚げに睫毛を揺らす少女であった。
これはたまらんと襲い掛かる小春を流石に初めての客には不味いと皆が説得する。
代わりに手を引かれた先は十分にも本格的と言える写真室で有り
メイクだけでなく多彩な技を持つ五郎のカメラの前に
最初こそ掛けられる言葉のままに。熟れてくれば自分からポーズを取り
これもこれもと次々に運ばれる衣装に袖を通し際どい下着姿にも成る。
「これは使える。逸材だわ。この子。
いっそ写真集とか出しちゃうとか。むしろアイドルとかいけちゃうじゃね」
ジュルジュルと鍔を垂らす小春の思惑もよく知らずに縄丈はシャッターの音に良い知れる。
「大丈夫だろうか?僕の貞操は?覚えてないんだ。本当に。
否。僕の貞操より。これどうしよう。結構高い値段だったし。
捨てる訳にも行かない。妻にばれたらどうしよう?」
ある意味。部が悪いのは縄丈の方で有る。
夫が出張に出かける度に間漢の体を貪る妻。
妻に隠れて胸に義乳を付けて女装を楽しむ変態夫。
何方が世間世情から後ろ指を刺されるかは明白であり
恥を知れ。変態野郎と罵られるのは縄丈である。
匿名で罵り合うインターネットの界隈で最近話題に上がる少女がいる。
(知ってるか?観たか?今週発売の仄か麗んの写真集)
(仄か麗ん様と言え。馬鹿野郎。麗ん様だぞ)
(際どいよな。乳首観えてるぞ。ところでなんて読むんだ?難読すぎる?)
(ほのかうららん様だ。変な目で観るな。馬鹿野郎)
(あんな下着で堂々と写真に写るなんて嫌らしい売女の証拠じゃないか)
(だからそんな色香に塗れた目で仄か様を観るな。彼女は清楚で純粋な御方である)
(それは嘘だろ。最近こそ話題になってるけど元は情婦だって言うぞ?)
(そんなことはない。仄か様に限ってそういう事は断じてありえない)
(ちゃんと証拠もあるぞ。ネットの何処かに物を握ってる写真があった)
(それも嘘だな。何処ぞの女の顔をすげ替えているんだ)
(実は漢が女の真似してるって言う噂だって有るぞ)
(・・・・・・)
真しとやかに語られる噂の大半の真意と成れば、其の殆どが事実であると言うのは
女装専門風俗店の其の店長小春の毒牙にまんまと嵌められた縄丈には屈辱であった。
初めて店に転がり込み迂闊にも無理矢理に女装姿で成すがままに色々された上に
呆けた頭で小春と五郎に弄ばれるも自身も調子に乗ってポーズと取った写真は
巧みな罠に堕ちるきっかけに成る。
なにせ写真はしっかりと記録に残る媒体である。複製も簡単で有ればこそ。
「今日から貴方は仄か麗んよ。私に逆らうと結婚生活が破綻するんだから!」
小柄な体で更にひもじい胸を突き出し縄丈の前に仁王立ちに構える。
そうは言っても所詮は悪事に染まる事はないとの縄丈の思惑に構わず事は勝手に回りだす。
先ずは最初に撮り貯めた写真が数枚だけネットの海に投下される。
すぐに反応があったのは小春も驚く。
蒼銀の長い髪を背中まで垂らし紅いソファの上に白いキャミソール一枚着込む少女。
一見すれば少し胸が小さく見える角度に体を撚るものの
細身な癖に脱いだら御満足間違いなしのDカップでもある。
匿名で有ると言ってもそれは男性からの反響に混じるも
可愛い。すごく素敵な御嬢さんと女性からの人気も高い。
以外でもあり驚愕でもある反応に小春も五郎も顔を見合わせ頷くと
次はきちんとした地元出版会社を通して写真集を出してみる。
これが売れる。売れると言うには売れすぎる。
帝都の片隅の地元に店を構える小春達にとっては正に棚からぼたもちが幾つもと
振ってきた様である。地元出版社とその工場では印刷が間に合わずと成れば
当然に大手出版社もほってはおかない。
嫌だ無理だと騒ぎ立てる縄丈に最先端の義乳と新しくも可愛い洋服を買ってやると説得するも
それは小春店長と五郎殿の趣味趣向でしょ?と逆ギレされた。
嫌よ!嫌よ!も好きの内と勝手に開き直り最後には巨漢の五郎が腕力を唸らせる。
第二集となる写真集の撮影となった大手出版会社の玄関守衛の記憶が正しいのであれば。
時間に合わせ来社したのは小柄で胸がぺったんこの女性一人とやたら巨漢の漢が一人
其の漢の小脇に抱えられ暴れ疲れたのがげんなりとされるがままの男性一人であったが
撮影終了後に会社を出ていったのはあの胸はどう見てもぺったんこであると言い切れる女性と
一日に六度の食事でもしなければあんなに大きくは成らないだろうと言うほどの巨躯の漢。
その後ろを少し疲れたかとでも言うように気怠い雰囲気ではあるが儚げな少女が付いて歩く。
不審に思った守衛が声を掛けようとした瞬間に気配を感じたのか付いて歩く少女と目が合う。
一筋の風が舞うのか振り向く勢いで揺れるたのか、蒼銀の長い髪が乱れる。
すぅっと細い手が上がり指で髪をすくと耳後ろにかけられる。
その仕草があまりに自然で儚く見えると少女は瞬きし守衛に頭を下げる。
遠目では有るが可憐で儚げな女性に挨拶とを投げかけられば仕事真面目に姿勢を正し敬礼を返す。
何故か気持ちが通じる所もあるのか蒼銀の女性は口奥から八重歯を魅せて微笑みが溢れた。
あまりにも魅惑の微笑みにぐらりと守衛の腰が砕けてしまう。
後に全国規模のコンサートが開催される度に件の守衛はいかなる手段を使っても
仕事を休み常に最前列に陣取り声を上げ少女を応援するほどのファンと成る瞬間がこの日であった。
儚げでも又可憐な少女・仄か麗んの人気と裏腹に暗い噂が何時も付きまとう。
最初から最後までその正体が不明で有るのが拍車を掛けた。
ネットのそれや現実の写真集の中では虚ろげにも儚く肌を晒してみせるが
仄か麗んと言う名前のそれ以外が一切わからない。
何処かの専属事務所がタレントや役者として売り出すのなら最低限の素性は公開される。
それが全くもって何もない。時期を見計らって突然出版される写真集だけでもある。
今となれば電子版と印刷版が同時に発売される物のだからと言ってその正体はわかっていない。
そもそも現実世界に本当に存在するのか?写真に映る仄かは最初から別のモデルが演じていて
後からそれを色々と脚色したのだろうと憶測が飛べば
そもそも仄か麗んとは男性であり女性を演じる女装家で有るとファンが激怒する噂が流れもする。
実際にあった事があるかと言えば大抵の人がそれはないと答え。
否否。自分は会ったと言い張る輩は極に少数となり。
彼等が言うには密かに影で体を売っているのと偶然見知って抱いたとも言い張り。
それが漢だけでなく女性もいると声をも上げる。
責めて現実世界のTVの画面の中にでも姿を魅せればそれで済むのだが
TV局や広告会社が動いても。そもそも連絡先の一つも手に入らない。
先に写真集を出した大手印刷会社に強く問うて正しても
秘匿契約に基づき公開できる代物ではないと突き返され
金の成る木そのものである大事な虎の子を安安と手放すはずがないと
説教される始末である。
画しても仄か麗んの名前と姿こそ皆がよく知る人気を誇るが
その姿を実際に観る事が出来る者など数も少ないと知れるとなる。
蛸多言十郎にとって其の日は一生一大事の大勝負の日で有る。
そこに至る迄の道のりは自他共に我の人生はヲタク一筋で有ると
少々訳もわからぬ御託を並べる言十郎を持ってしても苦難の道であったと胸に刻んでいる。
最初に淡桃のキャミソール一枚でソファの上に身を捻る仄か麗んの名と姿を知った時は
正直、皆が騒ぐほどの代物ではないと軽く流した。
ヲタクとしての言十郎の信条には手で振れられない偶像に心も金も動かぬと言うのが根付く。
なんとも変な拘りではあるが要するに手に入らない偶像に金と時間をつぎ込むのは馬鹿である。
世に吐いて捨てるほどある偶像のそれを例えるなら流行りのアイドルがわかりやすい。
多種多様の表現方法を駆使して作られ魅せるアイドルなどのそれを一例とするならなば
言十郎達が稼いだ金を幾ら貢いでもアイドルを手に入れる事は決してない。
若しも実際に会うことが出来ても厳重に管理された環境で数秒数分の間のやり取りだ。
それも型通りの挨拶言葉と握手がせいぜいであり、その手に暖かさが伝わる前に
はい。次の方とスタッフが声を掛け背中を押してくる。
後には残るは虚無しかないとなれば虚しさが胸に渦巻く。
現実世界のアイドルでも突き詰めていけば漢の欲望の慰みのはずだ。
極めて淫猥な言い方でもあり余りに日常的な言葉にすれば
結局、思いの丈をつのらせても所詮は一人手淫のネタでしかない。
出来ることなら思いの丈を募らせるアイドルを自分の手の中で抱きしめ犯したい。
そんな事が出来ぬ偶像のアイドルに金を時間をつぎ込むのなら
はじめから期待もせずに生きていたい。
それと言い切る言十郎が行き着く世界極めて狭くも。
紙に描かれる想像上の女性か粘土を捏ねて作られる人形立ちの其の世界で有る。
次に仄かの姿を観たのは大手出版社が先に続いてだした写真集の表紙である。
どうしても売りたいとなれば写真集の表紙となれば力も入る。
通常であればこれでもかと露骨に肌を晒し購買欲を煽るものであるが
仄かのそれは確かに違う。
仄かの顔だけがアップの写真が使われるがその顔がやけに印象的でもある。
きめ細かやな肌に薄っすらと化粧をし長い睫毛を伏せて目を閉じる。
絵に書いたようにすっと通る鼻筋と小さくも形の良い鼻。
朱く飽く迄も紅い紅を指し半開きにした薄い唇。
ともすれば何処か無表情で有り人形の様な何処か又硬さのある表情。
仄かの顔の横に流れ刻まれる文字も又に言十郎に息を呑ませる。
【私奴は・・・漢】
信じられない言葉が綴られている。それが写真集のタイトルだ。
否。確かに仄か麗んは昔からそうであるかもと界隈で噂されていもいる。
能面でも人形でも確かに女性その物の顔であり、過去に数枚見かけた写真には
女性の乳房が付いていたはず。残念ながら虚ろな記憶であれば股間膨らみまでは覚えていない。
仄か縄丈が漢であると言うのならきっとそうなのかもしれない。
否。それは売りたいが為の宣伝文句か?それとも巷の噂を肯定するのか否定するのか?
本当にそうで有るのかを確かめるのは自分の信条を此処で曲げても写真集を買って観るしかない。
仕方なく或いは期待に胸を踊らせ写真集を手に取りレジへと歩く。
途中。閲覧用と保存用と分けて購入すべきかと迷うがすでに列に並んでしまったのもあり
あと何冊かあったとも思いもし。所詮は群像であり単純に確かめたい事が有るだけだからと
自分を納得させる。
これもまた言十郎が時より踏みぬく地雷であり失敗である。
同時に手にいれたお宝はいかなる理由があっても自宅で開封の儀を行う為にその場で開けない。
これも又ヲタク特有の拘りが仇ともなってしまう。
能面人形の顔を張り付かせた仄か麗んの写真集は言十郎が開いた最初の頁から心を鷲掴みにする。
硬さが残る表紙とは全く違い妖艶でも可憐れんでも儚くも虚ろでも有る少女が頁をめくる度に現れる
春うららに木々実る公園で舞い散る葉と風の中眩しそうに麦わら帽子を押さえて立つと思えば
何処かの海岸で背中姿で胸を押さえ健康的な色気で漢を誘う。
更に頁を捲れば彼氏の部屋に遊びに来たのにかまってくれないと軽くいじけて頬を膨らませる。
胡座に開いた四肢の足首に手をのばし態々と挟んで寄せた乳房が大きくも目が吸い付く。
どの写真も生き生きと少女の魅力を描き出すが漢を喜ばせる術もよく知っている。
時に健康的な色気が前に出るかと思えばそれこそ薄い下着一枚で手枷に括られ縄に括られ
身を捩りならもキリリとこっちを真っ直ぐ見つめ屈して成るものかときつく睨む。
それでも次頁にはなれば隠す布が堕ちて消え乳の肉を魅せ妖艶な嘲笑で漢を誘う事も忘れない。
時に可憐な少女でも一枚捲れば淫乱な女の姿とくるりと変わる。
正に世に巣食う漢を惑わす悪鬼の如くの世情に住み着く女を描き出す仄かであった。
「これは失態を犯したかもしれぬ。出遅れたと言うべきか?
一冊では足りぬ。鑑賞用。保存用。神棚に一冊。夜のお共に追加で一冊。厭それは二冊はいるな。
汚してしまうかもしれん。そうなるとやはり出遅れたか?」
本の出来心で買い求めた写真集。正にヲタクの信条を発揮する蛸多はすぐに書店へと奔る。
尤もと言えば当然の如く。最初に手にした時に悩むのならそうするべきなのは世の常である。
書店までの途中の電車が事故の為余計に時間がかかったのもあった。
世のヲタクのご多分に漏れずそれなりに腹の出た蛸多が写真集の売り場にたどり着いた時は
最後の一冊しかと残って居らず。当然買い求めたが揃えると決めた数には程遠い。
その後何件かの書店を回っては見たものの。追加で手にいれる事が出来たのは一冊のみでもあった。
こうなるとヲタクとしての意地が胸に渦巻く。
確かに仄かは実在するやしないかもしれん。所詮は偶像なのかもしれないが
それでも揃えると決めれば粘って魅せるのが漢の意地。
蛸多は自宅の居城へと帰宅すると汗垂れる体をよく拭きもせず腕をまくるとPCの前に座る。
当然。業者とも呼ばれる転売品は元より封を切ってはいなくても他人が既に所有してる物のは
一切の興味を示さない。あくまでも正規品。つまりは書店の在庫を確認して回る。
それでもやはり人気が有るのは確かなのだろう。これだけの逸材であれば当然だろうか?
そもそも発行部数が少ないのか?それ以上に蛸多の様に買い求める者が多いのか?
思うように数は揃わない。
ヲタク根性丸出しでPCの前に座るも思うように行かずとなれば思いの丈も冷めてくる。
恋する乙女の熱が覚めるとでも言うように大きな体で溜め息を突くとPCを閉じて
再び仄かの写真に目を通す。
「股間に膨らみは一切ないぞ?修正しているのか?それとも漢と言うのは嘘なのか?」
一番最初に確認したいと思った事が頭に蘇り。熱の冷めた心で確かめるが
そもそも股間のアップとの写真は少ない。全身が映る物は数枚あるがそれでも
衣服で隠れていたりそれを目当てに写真集を買い求める者もいても売れれば良しであり
作りてもそれを意識して伏せているのかもしれない。
「可憐だ・・・。信条に反するが・・・仄か嬢・・・可憐だ」
家と言うには余りに狭いが一国一城の主。ヲタク居城を構える蛸多であるが
まるで恋する乙女の様に心を踊らせる。
これでもか!と言う長い時間を掛けても揃えて魅せると誓った冊数には中々届かない。
在庫有りと記載された頁の書店を見つけすぐさま電話をしてみても
ついさっき寧ろ今しがた売り切れにと返事が帰ってくるのが大抵である。
どんなに人気のあるアイドルででもそれなりの冊数を用意しているものであるが
仄かのそれはなかなか手に入らない。事情通の友の話を鵜呑みするのならば。
仄か麗んと言う少女は偶然生まれたらしい。
有る地方の小さな場所。それもアイドルと言うのも痴がましい。
せいぜい街の人気者にでもとそれくらいの感じで居たらしい。
然し余りにも可憐で儚く虚ろな少女の写真はネットの中で人気と成る。
最初に出した物は地元の印刷所であるが当然印刷能力に限界もある。
蛸多が手にした二冊目は大手出版社が手掛ける物の仄かとの契約で
初回印刷した物以外に重版の契約は認められていない。
つまりは今。世に出ている冊数が上限であり、それなりの数を刷ってるにも
関わらずそれ以上に買い求める男児と女性の数が多すぎて話にならない。
増してや複数冊を手に入れようなどど言語道断と友人は激怒する。
今から覚えばあの時に禁欲の誓いを立てた自分を恨むぞと言うほどに
其の写真集を揃えるには時間が掛かる。
決めた冊数を揃えるまで手淫も風俗も一切慎むべしと自分で書き殴り壁に貼られた紙を
何度と無く見上げ首をガックリと堕とす日々が辛かったのは言うまでもない。
其れが解禁となり嬉々として踊る心を押さえもう少し夜もふけるまでと時間を潰し
携帯の画面を適当に覗くとそこに仄かがいる。慌てて正座して確認すると今度はいない。
何か起きたかと体を丸め画面を調べると納得が行く。
仄かの写真とおもったのは実は動画である。動画サイトの広告に仄かがいるらしい。
動ける巨躯のヲタク。もしくは電光石火に跳ねるでぶ。と言う速さでPCを開く蛸多
太く丸い指でキーボードを叩くのはまどろっこしいがそれでも苦労して目当ての広告にたどり着く。
何処かの地方の動画広告らしい。余り予算も掛けてないのだろう。
すっぽりと頭からピンクのレインコートを着込んだ少女が何処かの駐車場に歩く
雨の中アップに成ると少女は細く白い指でフードをずらず。
天を見上げる仄かの顔を雨粒が跳ねるとすぐにずぶ濡れになってしまう。
目を閉じたまま愉しげに恍惚と天を見上げると胸元に手が堕ちていきレインコートを脱ぎ捨てる。
天使の様にそれも堕天使のように手を広げ雨粒の中立ち尽くす少女。
その肌があらわなになり一糸纏わずの姿であると知れる途端にカメラがぐっと引き
【本日お買い得セール・二足で980円ポッキリ・佐藤長靴店】ドンっと文字が堕ちてくる。
なっなるほど。動画の広告となれば商品名が主役で有るのは当然である。
余りの衝撃に蛸多は弐分ほど固まった。
それまで動かぬ写真絵の中にしか存在しなかった仄かが動いている。
明らかに仄か嬢はこの現実世界に存在し動いている。
それは世の人々に衝撃を与える。
何しろ元より人気のある少女だ。其れまで世に姿を現したのは弐度しかない。
三度目に姿を魅せた途端に今度はレインコートの下は一切衣服を付けず肌を晒している。
尤も巧みな演出ですぐに引きのカットに変わるから良くは視えない。
しかも動画サイトの広告であるからランダムであり狙ってそれを観ることも出来なれば
広告自体のダウンロードも出来ない。記録を取るなら偶々見かける仄かの広告の画面を
ビデオカメラなどで外部から撮影するしかない。そもそも地方CMであるから観るのも難しい。
世の中に蔓延る猛者共の飽くなき努力の賜によって蛸多達も動く仄かに出会える事に成るが
同時にあの噂が頭を持ち上げる。
仄か麗んはやっぱり漢であるしかも情婦だ。
つまりは伝手を伝って連絡をとり現金を詰めば抱ける。
其れが情婦仄か麗んの裏の顔だ。
これが事実であるのなら驚愕ではあるが名も売れれば悪評も集る。
もし事実であるなら夢でもある。
情婦であっても漢であっても実際に仄か縄丈に会えるのかもしれないのだ。
蛸多は一筋の望みに再びヲタク人生をかける事にした。
妻にばれない。妻にばれないように。
偶然転がり込んだ。寧ろ無理に連れ込まれた女装専門風俗店店長・小春
其の右腕を務める寡黙な主任・五郎。悪鬼の如く。寧ろ二人の存在自体が鬼門だと
仄か麗んの中の人・縄丈強く怯える。
迂闊にも人生始めての女装体験で義乳をつけられ恍惚とした快楽に溺れ
長い時間呆けてしまったのが人生最大の失態である。
意識を取り戻した時には女性物の衣服一式。蒼銀のカツラ
男児であれば決して履く事のない紅いエナメルのヒール。
諸々のアクセ一式。それから大きな問題となる義乳と下着。
これらが手に握る紙鞄に詰め込まれたいた。
其の日は出張の帰りとなり幸いに荷物が多くてもさして疑われる事もなく
自身の奥にしまい込む事が出来た。
当然たどたどしくもわざとらしい会話で妻との夕食の席に望んだのは言うまでもない。
人生一度切り。たった一度きりの女装で有り。
折を見て女装用具一式を破棄すれば済むことだし縄丈は確固たる意思でそうするつもりであった。
そうといかずままならず一週間と立たず。五郎からのメールが携帯に届く。
[新作のお洋服と下着が入荷。本日のデートの相手は佐々木さん。至急来店されたし]
「なんだ。新作のお洋服って・・・?
デートのお会い手って何?佐々木さんって誰?僕にだって都合あるんだし」
憤慨し断りのメールを五郎にいれるとすぐにピコンと携帯が鳴る。
そこに添付された写真は前回の撮影で五郎が取った縄丈のそれであるが
けっして直視出来る物ではなく世に出回れば縄丈の結婚生活どころか社会的抹殺が確定となる一枚である。
「これはいかん。こんなの出回ったら僕死んじゃう・・・」
余りの衝撃に項垂れるが指定された時間に遅れそうでも有る。
時の風潮でもあり偶々自宅内勤であった縄丈は二度と手にする事はないと
心に固く誓ったはずの紙袋を胸に抱き妻にバレないようにと例の店へと走り出す。
「大体なんでもっと考えてくれないですか?
事前に連絡下さいよ。当日いきなりだと役に入り込むのがきついんですよ
前のデートも失敗したし。嫌われたらどうするですか?」
腕脇を高く掲げ義乳と本来の肌をファンデーションで馴染ませる五郎の手に身を任せなから文句を言う。
「ちょっとうごかないでよ。仄かちゃん。
ネイルがずれちゃうから。名前の件はごめん。適当でした。
こんなに人気でるとはおもわなかったの。佐々木さん喜んでたわよ。
ぎこちなさがこれ又新鮮だったて。今日は信成さんね。神経質だから気をつけるのよ」
「何を気をつけるって言うんですか?
勝手にあんな写真店の看板前にべったり貼って。あれでじゃ見世物でしょ?
あっ。其のネイルよりそっちのが可愛いです。云々。それが好き」
小春が店長を務める女装専門風俗は幾種かの客を抱える。
数はすくないが女装趣味をもつ男児が店の中だけで女装を楽しむ一般の客。
それから一歩踏み込み自身が女装を楽しみつつも女性として男性とデートをする客。
女装した男児と店内や街外でデートやそれ以上の事を楽しむ男児。
これも又、半分以上冗談で女装男子デート可筋肉質の男性求むと適当な文言を
殴り書いた写真を店の外に貼って10分も立たずに麗ん目当てに指名が入る。
商売事となればこれ幸いと週に弐回は脅迫紛いに店に縄丈を呼びつけ
女装を強いて店内の華と客を呼び込むか指名の入った客とデートをも強要する。
「これって犯罪まがいじゃないですか?交番に駆け込みますよ?
あれ?このまま駆け込んだら僕が変態扱いになっちゃう?」
「そもそも漢で有ると信じて貰えぬのではないか?
警官の前で全裸にでも成らぬと無理ではないか」
普段から寡黙な五郎がブラの背紐を引っ張りホックを止めてくれる。
「それは確実に変態じゃないですか?逮捕されるのは僕ですよ」
される我儘に身を任せるが縄丈は五郎に苦手意識がある。
仄か麗んとして生まれた時からの知り合いではあるがある意味と
彼が初めての相手となったのもある。激しく興奮した五郎の体を受け止めるのは
ひどく大変であり苦く思いが残るからでもある。
「警官のお兄さんが欲情して留置所でレイプされるのよ。
手錠とかされちゃって身動き出来ない仄かちゃんに後ろから
きゃ~~~変態だわ。変態仄かちゃん。ジュルル。堪らないわ」
「警官のお兄さんのすべてがそうじゃないでしょ?
一人くらいは真面目な人がいますって。
はっ!其れ以外の真面目じゃない警官のお兄さんが突進してきたらどうしよう?
僕。輪姦されちゃう。回されちゃう。真面目じゃない警官のお兄さんに回されちゃう」
時に清純なイメージを持たれる事も多い仄かであるが実際の多くはそれとは違う。
しかし同時にこうやってワイワイと騒ぎながらも身に着けていく義乳や衣服が
重なって幾度にそれまで男児であった縄丈の態度が変わり声質が高くなり
仕草さが変化すれば男児縄丈は仄か麗んへと心と姿を返る。
「それでは皆様。御手数を掛けました。行って参ります」
今日のデートの相手が会社の御曹司でありパーティの同伴依頼となれば
身なりも其れに合せた物に成り仄かの仕草も大人のそれと成る。
仄かが注目を集めるのはそれもある。相手の求める理想に合わせてクルクルと変わる。
衣服だけではなく乳房の大きさ。女としての嗜み。身につける小道具。
求められれば求められるほどにくるりくるりと姿を変え表情をかえ女を演じる。
多くの場合。決められた時間の中で好みの女を演じて魅せるが
時に強く求められば肌を晒す事もある。もっとも当人の趣味趣向の先は女性であるから
欲望のままに手を伸ばせば学生時代に心得た古武柔術がうなり腕を取られ
ブンっと風を切って相手の体は宙を舞う。受け身など大抵の者はとれないから病院通いが常である
「仄かちゃん。恋愛とかどうなの?好きな人とかいるの?」
例の店のラウンジと呼ばる場所の奥。腰座が回転する椅子の上に座り片手で容器を支え逆の手で
ストローを押さえチュルチュルと音と立てドリンク啜るの仄かが顔を上げる。
声を掛けたのは初めて店に転がり込んできた時、隣で挨拶を交わした人物だ。
「う~~~ん。僕は結婚してるし。恋愛関係とかすんだ感じだし」
「それって男児の話ででしょ?仄かちゃんとしての恋愛よ。
そろそろ仄かちゃんのままで恋愛してもいいんじゃない?どんな感じがタイプなの?」
「仄かとしてはまだないな~~~。一応、五郎さんがいるけど。
あの人、一度火が付くと猪突猛進イノシシ野郎でつっこんでくるし受け止めるのが辛いしね。
やっぱり何処かに漢が残ってるかもだから尽くしてくれる子がいいかなぁ~~~」
「仄かちゃん・・・受け止めてるんだ・・・五郎さんの・・・。
あの巨体にくっついてるの。受け止めててるんだ。いやらしい」
「にっ。弐回くらいだけだって。鳶さんの馬鹿。はずかしいじゃん」
話の流れで情事の様をまんまと告白扨せられ赤面しポンと殻になったボトルと鳶の顔に投げつける。
陽間怠く落ちる午後。ちょっとお洒落なショッピングモールとでも言うのだろう。
その日のコーデは気分のキャラメルに染めた髪色に合せた茶色を基調としたものである。
特に店のデートの予定等もなく只ぶらぶらとプライペートで店のウィンドウを観て回る。
仄かとして仄かであるために縄丈は常に努力と労力を惜しまない。
勿論。我に帰れば未だ不貞を働き他の誰かの体に覚える妻と向き合う夫であるが
大体の所。それはどうでも良くなった。諦めたといっても良い。
それを構う暇もなく体を動かしているし、第一に女装趣向がばれるのは怖すぎる。
仄か麗んとして姿を偽る様に成ってしばらく立つと八丈縄丈としての生活にも変化を余儀なくされる。
一定の間隔で店に顔だなさいとあられもない姿の写真がばら撒かる。
まさかそこまでするまいと思っても小春と五郎ならやりかねない。
祝日・休日に予定が入るなら兎も角もそれが平日に喰い込むとなれば自分の仕事がままならない。
逆に仄かとしての売上と出版した写真集の取り分が技師としての給料を軽く上回る。
好きか嫌いかを別として仄かで有る時間を増やしたほうが収入が上がる。
会社勤めをやめてしまうのが得策だと睨むと八丈は独立した。
住まいとは別のマンションを賃貸し妻には仕事場だけと嘘を付くが
きっちり住居してすめる広さも確保していく。
そこでなら存分に仄かとしての生活と仕事もこなせるだろう。
独立したてであるから身を粉にするのは当然であるともいいわけし
極力自宅に帰ると約束もしたし、事実殆どの日の夕飯は自宅で妻と過ごすが烏の行水の後は
事務所に戻り仕事に励むと同時に仄かとしての二重生活と営んでいる。
(このネイルの色素敵かも?今の服には似合わないけど。今度のデートにつけていけそう)
頭の中で考え買って見ようとカラフルな店内に脚を向けた時
「仄か麗ん様で御座いますよね。私奴。大ファンで御座いますの」
一際高くもそして興奮交じる声が背中の向こうから聞こえ届く。
しまったぁ~~~と口の中で毒づくも届いた声に驚きついつい振り向いてしまう。
キャメル色に染めた髪が揺れ頬を擦る。其の向こうの視界にこれも又猪突猛進の猪の如く。
背の高い女性が乳房と尻を揺らしもカツカツとヒールの音を鳴らし走り寄ってくる。
「仄か麗ん様で御座いますよね。私奴。九狐廊狂香と申します。御見知りおきを
少々名前と名字が浮世離れしておりますが、それは名家旧家の習わしで御座いますの。
・・・サイン下さいませ。仄か様。それから是非に愛人の末席に私奴を!」
「近い。近い。近すぎるから。美人だけど御顔寄せすぎです。
私は仄かとかではないです。人違いです。あと愛人も募集していません」
それなりにすこし男性としても背の高いはずの縄丈と同じか少し背が高いとすれば
それは脚にはくブーツのかかとが高いのだろうか。
余りに突然であり意表を付かれ身を縮める仄かに遠慮もなくズイと端正な顔を寄せて言う。
「いいえ。貴方様はこれ間違いなくも仄か麗ん様。御本人で御座います。
御写真と髪色は違いますしメイクもちがいますが、それは乙女の嗜み故で御座います。
目尻の上がり具合。鼻の形と。薄い唇の隙間から漏れ溢れる左側の犬歯
つまりは八重歯ですね。美しくも流れる顎の線。
どんな姿であろうとも私奴が見間違えるはずなど御座いません。
あの御写真集を何度も喰いいるように見つめ舐め回し事か。何冊買い込んでも足りません。
ああ・・・こうして実際にお目にかかれる日が来ようとは。感動に打ち震えて漏らしちゃいそうです。
だから。サイン下さい。是非に愛人の末席に私奴を!」
よりによってかなり癖のある女性に正体がバレたと仄かは焦る。
確かに例の写真集と同型のウィックではあるが染色が違う。
当然着込む衣装も違うし乳房の大きさも変えてあった。
それなのに九狐廊狂香と名乗る女性はウィンドウを覗く少女を仄かと見抜く。
確かに一介のファンであれば口外するなと口止めをし色紙にサインでもかいてやれば
なんとかやる過ごせるかもしれないが何やら剣呑な雰囲気が伝わってくる。
「さっきも言ったけど仄かなんとかなんてしりません。困りますから
大体サインなんてしたこともないし。色紙もない・・・」
言葉を最後まで言い終える前に狂香は白く真新しい色紙を仄かに突き出してくる。
御丁寧にもポンと音がしてそれ前でなかっはずの細いマジックが手に握らせられる。
「我が愛しき奴隷。否。我が愛しき下僕・肉奴隷。九狐廊狂香。
私の趾指を舐めろ。この豚野郎!と御書き下さい。御願いします。
それと私奴の妹と弟の分も御願いします。此方は処女と童貞なので当たり障りなく。
父は既に他界しておりますので家長を担う母上殿にもご挨拶を。
此方は筆書きで御願いします。はっ、美魔女趣味をお持ちで御座いましたら
一度お試しくださいませ。母も喜ぶと思いますので。では御願いします。仄か様」
狂香が弟妹。そして母と名を並べる事に横から真っ白な色紙が重ねされる。
あまりの勢いに圧倒されながら一歩と下がり遠目にみれは狂香の後ろに数人の人影が潜んでいる。
世話焼き人と言えば格好がいいのだろうか?皆黒服に見を包み白手袋をはめる。
狂香が言葉を並べ必要に応じてなにかが必要になれば彼等が動く。
仄かが気づかずうちに最初にマーカーの蓋を取り握らせたのも彼等であり
色紙を重ねたのも又、彼等であり
そして今もモールの床に座り込み広げた新聞紙の上で仄かが筆を取るために墨を摺る者もいる。
こうなると仄かも後には引けなくなる。当たりも何事かと騒ぎ出す頃合いでもある。
「仄かとかじゃないですけど。これを書いたら帰ってくれるんですね。
認めたわけではないですからね。ボクは仄かとかではないですからね」
「ボクっ娘ですか?普段言葉はボクなのですか?
きゃ~~~これもまた良きでございます。ボクっ娘様」
一歩下がったはずなのに又詰め寄られ互いの体が密着する。
甘い香りと以外にも豊満な乳房を押し付けられ疼きが湧き上がる前に狂香の体を押しのけ色紙にむかう。
人生始めてにサインを強請られるも仄かはもともと字を書くと言うのが苦手でる。
線画図面を描くのは仕事でも有り慣れているがその他の字は読みづらい物である。
女装しているとしても仄かとしてサインを求められる事もはじめと成れば困り果てる
それでも出来るだけ少女仄からしい字を描くべきと思い色紙を睨む。
どうやら九狐廊狂香は仄か麗んの狂信的なファンで有るらしい。
それならこの場をしのげはなんとかなるかもしれない。
そう考えると縄丈は意を決するが言葉がうまくでてこない。
狂香の言う通りに文字を綴っても芸がないともうし長過ぎる。
「はい。これ・・・豚の狂香ちゃんへね。次は妹さんかな」
「豚っ。ひとつまるに豚でございますか?感激で御座います。
家宝に。我が家の家宝に致します。有難うございます。仄か様」
感涙に咽ぶ狂香を訝しくも睨み捨てながらも世話掛かり手袋から次の色紙を受け取る。
会った事もなかれば知りもしない人物に言葉を贈るのは難しい。
狂香の妹には友達と喧嘩などせずに真っ直ぐに生きろと言葉を送り
弟には勉学と摂生に励めと。
他界した後に家長を務める母にはそれを労い体を大事にと気を使う。
「はい。これで終わりです。どっかに消えて下さいな。
ボクもせっかくの休日なのでたのしみたいのでっ」少し強めに声を吐いて捨てる。
「仰せの通りに致します。仄か様。
本日は私奴のような豚風情の我儘を聞いて頂き有難う存じます。
では。これにて失礼させて頂きます。」深々と頭を垂れ腰を折って狂香は礼を尽くす。
後ろに控える世話人達も同じく礼を垂れるが一人が歩みでて紙袋を差し出してくる。
最近色紙の礼とでも言うのだろう黙って受け取り渡り歩く廊下の先で覗いてみれば
先程仄かが買い込もうとしたネイル一式と店の新作が一箱。
ぶらついた後に食べたいなと思った炭焼の焼き芋とドリングが詰まっている。
確かに狂信的で芝居かかっているが何時もそうであるわけでもあるまい。
憧れ人の仄かに合間見れた故こその言動であると信じれば
残り数刻となった休日を仄かは一人楽しむ。
高級ホテルの一室其の窓辺に細い腰を落ち着け濃緑の髪を邪魔だとばかりに払う。
季節が夏へと向かう時期であれは全裸に肌を晒すには未だ疾いだろう。
苛立ちを態々と隠す事もなく仄かはくぃっと顎を向ける。
それが決まり事なのか気持ちを察ししたのか人影が動き過去の悪癖と決めた煙草が差し出される。
尤も仄かの代わりに細い指の持ち主が箱から一本取り出し自分で咥え火を付け紅い紅を指した
唇から紫煙を吐き出した後にそっと優しく仄かの口元に運んでくる。
「悪癖で御座いましてよ。仄か様。それに今日は一箱を超えております。
少し控えて頂かないと。私奴の肺も黒くなってしまいます」
丁寧であるが明白に苦言を告げるのは縄丈の妻ではなく九狐廊狂香である。
わかっていても胸に渦巻く不安を押さえきれぬばかりに仄かは狂香の四肢を強く押しやる。
切迫する事態に仄かは最も頼りたくもない人物に助けを求めた。
其れが九狐廊狂香であり助けを求め力を借りるとなれば恩義を尽くす必要もある。
それでも嫌嫌であっても仄かは姿を隠す必要があった。
極力に気を使っても人で有る以上、不徳と言う物が付きまとう。
其れがどんなに正確で几帳面で有ればこそ。寧ろ其れが仇ともなり得る。
夜な夜な寧ろ昼夜を問わず仄か麗んの姿を追い求める者たちの前に
見たくもあり目をそらしたく成る一枚の画像が飛び込んでくる。
画像自体は其のオリジナルとは程遠く質の悪い物であったが十分に写真として
成り立っているのは確かにそれで有り写っていたのは雑多に物が散らばる狭い部屋
とても寝室とは思えぬソファの縁に目に突き刺さるほどの青の髪を背に垂らし
突き出した尻の穴に漢の一物をの先端を咥えこんでいる姿だった。
耐えきれずなのか此方に向ける顔には余裕もなくいつもの妖艶で儚く虚ろな表情でもはなく
眉を顰めやめて欲しいと拒絶の意を示す苦しそうな表情で有る。
行為事態の流れの一瞬を捉えた物であるのなら其の後はいとも簡単に想像が付く。
厭よ厭よと拒んで見てもソファの縁に手を付いて尻を突き出しているのなら
理由を付けてもそれは和姦のはずである。どんなに眉を顰め唇を開いても
結局は漢が尻肉の上に手を乗せ突き出せば仄かの尻穴に根本でズブリと入ってくる。
そんな一瞬を捉えた画像である。
心底急迫したのは撮影者自身。女装風俗店に務める五郎である。
その時はまだ女装も二回目で有り今でこそ受け入れているが
呼びつけたのも女装させたのも。ましてや手籠にしたのも無理矢理だ。
仄か縄丈になる前の八丈縄丈の時であり完全に脅し力ずくで犯した時の画像である。
その時に脇でカメラのシャッターを切ったのが店長・小春である。
この時の写真をネタに八丈縄丈を強請り後は成り行きで仄か縄丈が生まれていく。
画像の管理には五郎も十分に気を配っていた。
縄丈を揺するネタでもあるが同時に世に出しては行けない写真の一枚だ。
これが有るからこそ多少の何代でも八丈縄丈は此方の言う事を聞き仄か麗んを演じる。
その写真が表に出てくる。
どうしてそうなったかを思い描けば意外と答えは簡単でもある。
女装専門風俗店は来店するし女装を楽しむ客にサービスとして写真をサービスしている
当然カメラも何台と有るスタジオには人も自由に張り込める。
カメラをしまう金庫棚には鍵も掛かっておらず誰でも触れた。
同型機材のカメラを使用していたのも運が悪い。
どのカメラのメモリーカードに何の写真が入っているか?
それを管理するスタッフのミスもあったのだろうか?
仄かと五郎の情事の写真はいつの間にか誰かの悪意でコピーされたのだろう。
後は刻が巡って世にでしまう。
昨今のカメラには写真の中に撮影者や日時・場所のデータも書き込まれる。
読み取る知恵と方法を知っていれば簡単に抜き出せるとなれば
仄かの住む街と通う場所がネット界隈の玄人によって特定され公開される。
当然一目観ようと悪意のある無しに関わらず小春の店に人が集まり騒ぎに成る。
偶々其の日は仄かは非番であり仕事漬けであった縄丈は手を止め覗いたネット界隈の騒ぎに息を止めた。
自称仄かのファンは興奮を押さえられず店の前所か中まで押し寄せて来る。
電話の一本でも入れた方が良いと言い張る小春を五郎は諫める。
只でさえ対応に追われているのに当人に連絡すれば収拾がつかなくなる。
仄かの正体とプライベートを守るべきなのはこの世界に引きずり込んだ自分達の責であると
言い張り仄かのとつながりを一切認めなかった。
多少の時間稼ぎになったかどうかはいざしらずに。それでも縄丈はすぐに対応する。
事務所の隅で最低限の身支度を整え仄かと姿を変えると街外に出る。
これだけ騒ぎになればすぐに見つかるだろうに何故に仄かとなるのかは訳がある。
あんな写真が世に出た以上。正体がバレるのは時間の問題であろう。
とにかく本当の素性から遠くへ身を隠すべきであるが時間もない。
あの店の小春と五郎を頼れないなら後は一人しかない。
否然し連絡先なども持っていない。持ってはいないが術は有る。
見てるはずだ。あの女なら絶対に見てるはず。若しくは彼等が見つけてくれるはず
一途の望みに掛けて仄かは道路の脇で手を高く上げる。手をあげたのは別にタクシーをよびとめるわけではない
「見てるんでしょ?この豚野郎。ボクは此処にいるぞっ」
上げた手よりも高い声で空に向かって罵倒する。向かい側の道路の人々が騒ぎ出す。
あの日モールでサインを書いた時と同じキャラメルの髪色と茶色を基調にした服。
そうである。これなら彼等も見つけやすい。豚野郎と罵るのは合言葉だ。
きっとあの子なら見つけてくれる。思いよ届けと声を張り上げた。
空に向かって必死に叫ぶ仄か。
その前に弐分と立たずに黒塗りのSRVが横付けされる。実際はもっと短かったかもしれない。
自動で開いたドアの向こうを確認もせずに中へと滑り込む。
騒ぎのせいかいつの間にか汗が肌をも濡らしてもいた。
「探しておりました。仄か様。本日より専属護衛を努めさせて頂く齋藤と申します。
流石でございます。街中で豚野郎と我が御嬢様への愛を叫ぶ等。
やはり仄か様にしか出来ない事で御座います。御嬢様もさぞ御喜びになるでしょう」
専属護衛とか大層すぎると思いながらも軽く手を上げ挨拶とする。
「兎に角。信頼できる人物以外はってこれない場所へ連れて行ってくれる?
ボクの部屋から荷物を持ってきてほしい。それから痕跡を消してほしいの?」
「承りました。
仄か様の御荷物を確保した後に八丈縄丈様の痕跡をけすので御座いますね。
奥様への対処はどうしましょう?此方で最善の対処を施しますか?」
「任せるよ。君たちを信じる」
「御意に・・・」
仄かの下知を受け取ると齋藤は黙り込みSRVを発進させる。
【本日。午後四字頃。路上で豚野郎と叫ぶ女性が誘拐された模倣です
尚、未確認ではありますが仄か縄丈さんではないかと思われ・・・】
空に手を上げ声を張り上げた後仄か縄丈はその後一切の姿をけしてしまう。
