【寝獲られ噸麟】奇々怪々万策尽きて魑魅魍魎跋扈せり候:弐
縊犂桶噸麟は逃げた・・・。
勿論、昨日明日と直ぐとは行かずも半月程は村から離れるのは無理でもあった。
七年ぶりに歳越しを村で過ごすと成ればそれなりに用事も耐えない。
何より喰らい蛇を見事祓ったと成れば功績著しく厄介事も増える。
逃げ出した気持ちも高らかにあれども噸麟を村に縛り付ける理由もあった。
それが毎夜毎夜と二番家本宅の離れ部屋から漏れる義父と乳姉しずゑの責め情事の漏れ声である。
他の者がいくら止めても噸麟が聞かず離れ部屋から漏れる声を聞きたさに
軍服の上にコートを羽織り。軍帽を深く頭伏せ寒空の中。
義父のそれを壺深く咥え込み態々と外に漏れるように喘ぐしずゑの声を雪降中で聴くのである。
内心であればこそ悔しくも激しく苦しいはずであるが。
其の反対に噸麟の其れは熱く猛るのだ。
恋しさと恨み辛みが増していくほど想い裏腹に部屋から漏れる声だけを頼りに
義父に責められるしずゑの悦楽を貪る姿を心内で妄想すればこそ噸麟の其れは熱く猛り狂う。
自分でも抑えきれなくもどうとも我慢できずと成ればそそくさと退散し
先刻の声を頭の中から引きずり出し怨念まがいに其の名を呼んで他の女の壺に思いをぶち撒ける
なんとも奇妙奇天烈と随分と病んだ情事が婿取り村の情事と暫く知れ渡った。
雪積もる婿取り村を誰一人の見送りも許さず立ち去った日からまるっと弐年が過ぎて消える。
寝取られ噸麟と名付けられた村の一切無欠に断ち切った噸麟は勤め先の陸軍に転属願いを申し出る
直ぐには受理されぬも結果的に希望通りの他国と渡る事が出来た。
そこは倭之御國との戦時中の相手国欧州漢の御国の占領地と成る。
もっとも占領地と言っても飽く迄も一時的な物であろうし前線はすぐそこでも有る。
敵軍漢の御国の兵士が何かの拍子に図にのって奇襲作戦の一つも成功すれば
たちまち占領地は奪還されるだろう。つまりは命こそ今日はあっても明日はないか。
運良く生き延びても囚われ北方北の國での強制労働が待っているぞと覚悟がいる場所である。
不憫極まりなくも其の想人は皆必ず誰かに寝盗られると評判高くも其の噸麟は以前と風体が変わる
あれほど重ねた剣の鍛錬を全くと捨てる。
代わりに何かの趣味には精々昔遊びのけん玉を嗜む程度でもある。
婿取り村の出であればこそ元々希薄な霊丹も遠く國を離れて意識も薄れれば更に薄まる。
生まれながらに薄い霊丹を村との絆と剣の鍛錬で維持したとなればその両方怠り忘れると成れば
最早常人さながら只の軍人であり一介の街人と代わりにない。
勿論其れ塊霊が見逃してくれればで有る。
仕事場はともかくとして噸麟は占領区を見下ろす少々高い丘の欧州西洋の館を居と構える。
「あそこは出るのだぞ?幽霊が・・・しかもいっぱいだぞ?」
「構いません。全くもって。一向に」訝しる上官の忠告にも耳を貸さずに人里離れた洋館を
縊犂桶噸麟は好きに勝手に居と構えて久しい。しかも結構過ごしやすい生活をも楽しんでいる。
規律正しい軍生活であっても私室に戻れば好きに過ごせる。
鍛え抜いた筋の体もほっておけば痩せて細る。
それでも誰も居ないと成れば気兼ねなく帰宅した途端に衣服を脱ぎ捨て豪勢な居間の寝椅子に
寝そべり腹が空いてたまらなく成るまで惰眠を貪る。
ぐぅと耳障りな自分の腹の音で薄めを開けるとのそりのそりと居間を出て食堂へ向かう。
以前この屋敷は漢の御国でも有名な地主が立てた当時としても流行りの洋館で有るとも聴く。
それ故に屋敷自体も広ければ食堂の厨房もきちんとしていてしかも広い
尤も村の者などおいそれと負ってこれない國飛びの地となれば臆面も無く好き勝手に過ごせる。
誰も居ないと知っていればこそほとんど裸体のままで過ごす噸麟であるが
厨房に立つ時位は一応気にして白いエプロンを身に纏もする。
どうせ誰もみてないのであるが。
否然しと・・・。
それでも時々変な事があるやもしれんと気づいてしまった。
それは好物のパスタを一人用には大きすぎる鍋に湯を貯めて茹ででいる時だ。
パスタの麺を茹でている時に興が乗ってポトフのスープでも作ろうかと思い
此方も別の鍋に湯を沸かし材料を入れて適当に煮込む。
軍属漢の料理で有るから細かい事は適当である。
お玉で掬った汁をすすってみれば随分と味が薄い。
何分漢寡婦の一匹暮らしともなれば満足に調味料等有るはずもない。
それでも厨房まな板の奥にでも塩の小瓶あったはずと思って視線を投げるが
其処に有るのは倭醤油と味醂の瓶である。
あれれ?肝心の塩は何処だと探せば意外な事にまな板の横にちゃんと有る。
何だこんな所にあったのかと思い手に取り鍋中に一振り二振りこぼして瓶を置き
お玉で再び汁を掬えばやっぱりまだ一味足りない。
長く一人暮らしもすれば料理の腕もそれなりのはずだが異国情緒の外食三昧では
濃い目の風味が舌に成れたのでも言うのだろう。
其れならばもう少し足せば良いとさっき置いたばかりの塩の小瓶に手を伸ばせば空振りに終わる。
「あれ?何処言った?塩・・・塩・・・お塩っと・・・」
きょろきょろと頭をめぐらせば今度は厨房の奥に倭醤油味醂塩の瓶ときちんと整列している。
「はて?いつの間に片付けたのだろう?」と頭を捻ると部屋の電灯が一瞬瞬いて消えて落ち
そのまた一瞬に灯り戻れば塩の小瓶は手の届くまな板の側に鎮座している。
「可笑しいぞ・・・。激務が続いてるし疲れているのだろうか?
それとも若年性小呆け症候群でも患ったのか?」冗談めいた言葉を一人で吐き出し
今度はちゃんと小瓶を握り泡吹く湯鍋の中に塩を振り落とす。
漢寡婦の料理にしては比較的繊細な味に仕上がったのかと満足して
何やら面妖な珍事は記憶の霞に溶けてしまったが。
それが弐度目となると流石に鈍感極まりない噸麟でも考えこむ。
昨夜確かに喉の弐流した赤葡萄酒の量は多かった。
パスタは夜食がてらに二度食したのも覚えてる。
其れ然し・・・。
二日三日は持つだろうとそれを目論見多く作り込んだポトフスープの鍋が空っぽなのだ。
しかも何故が鍋其処には金物束子が放りこんでも有る。
これば誰かが屋敷に忍び込んで厨房の鍋を覗き込み、腹が減ったとばかりに噸麟の手作り
ポトフスープを盗み食いしたとでも言うのだろうか?
それにしても几帳面なのかものぐさなのかわからない。
結構な量を食べきったあとでに態々鍋を洗うのは感謝の印としても
金物束子を放ったままなど言語道断。どうせなら所定の場所に整理整頓成すのが当たり前である。
そうは言っても随分と珍妙面妖摩訶不思議な出来事で有る。
確かに霊丹は薄いとしても・・・
確かに想った恋人は必ずむしろほとんど寝盗られるにしても
婿取り村の出であれば多少なりとも感は鋭くても良いはずである。
むしろ真っ先に疑えと遠くの乳姉に眉を寄せて叱らるのだろうが・・・。
言われてみれば色々と可笑しいとやっと気づく。
思い返せば屋敷に潜って三日目の朝。
天気予報では気落ちよく晴天高らか雲の一つもと謳っていたのに
お空は真っ暗どんより滴る雨模様であったが。
気がつくと左手に大きな傘を握ってもいた。
全くもって覚えもないし何故か婦人用の傘で有るのも不思議である。
良くと考えて観るならば・・・
人目憚ることもなく洋館屋敷の中を裸一貫で有るきまわっても
一切の寒さを感じた事がない。
帰宅後に軍服を脱ぎ捨て褌一本でも将又それをも脱ぎ捨てて
何処へ言っても丁度良く部屋も廊下も温められている。
時に猛る事も有る朝方に少し寒いかなと薄め開ける事があっても
いつの間にか熱気屯しめが覚めれば少々気だるくてもどこかスッキリと目も覚める。
家の中だけでもそうならず・・・
時に戦さ場街の勤務中でも其れはおきていた。
直ぐ其の先で戦さが毎日行われてるのだからこそ街ぐらしも命がけである
ちょっと昼飯を食べにと軍舎をでて横断歩道を渡ろうとしたら
ぐぃと誰かに手を引かれた思いに前に出す脚を止めれば
その参歩先で敵弾激しく地面に突き刺さる。
ジリジリと時計の音が聞こえるとどうやら旧式の時限式だったらしい。
そうとわかれば其の隙きにえっさこいさと疾走って距離を取れば一命を拾う。
もっとも誰か何かに手を引かれなければ直撃必死の爆死であったろう。
御前。馬鹿だろ!婿取り村の出の者がこれを塊霊の仕業と悟れるぬとは
いっそ。いっそ戸籍を抜いてしまえと此れも又に乳姉しずゑが眉間に皺を寄せるのも必須であるが
当の本人噸麟はこのことばかりに気取られる暇もなかったのである。
弐十代半ばをそろそろ過ぎて三十路の足音も聞こえる縊犂桶噸麟。
其時一世一代の恋煩いで有る。
尤も其の頃には村の噂風だけなく務める軍の其の中でも寝取られ噸麟の噺は噂に高くなっている。
何せ彼奴は毎月恋人を変えるのか?今月はどこぞの誰だ?又寝取られたらしいぞ?
今週は漢か?女か?人妻の次は未亡人だと?全くもってけしからん
何故に彼奴だけモテるのだ?上官下士官一兵卒の間でも真剣に喧々諤々と論じられる程に
噸麟の遍歴は激しかった。
答えは簡単で有る。
噸麟の理想と恋愛の形とその趣向の形態は寝取られである。
言わずもがな。当人がそれを求めている以上。相手が噸麟の全てを受け入れるのは難しい。
勿論深く愛してくれるのは嬉しいが同時に他の者に寝盗られるのを期待されてるとなれば
常識有る者からすればちょっと変態。否。絶対変態御免被ると成って当たり前で有る。
「倭之御國帝国陸軍・欧州漢之御国占領区霊丹諜報科所属・縊犂桶噸麟殿。
その嫌らしくも腐った目の猿如きの視線で私の胸を視姦するのは止めてほしいのだが・・・」
「これは。失礼。词语殿のあまりの美しさについつい我を忘れて・・・」
「それは褒めているのか?誉高いと美しさを褒めるならその容姿であろう。
何故ゆえにねっちょりとした視線が私の胸元から離れないのか?強く説明を求める」
「容姿こそは美しくも艶やかで有るのは当たり前。
それが壱番であるのなら弐番はやはり其の胸である。軍服の上からでも解るほどに
其の大きさは倭之御國霊峰御富士の山如くと知れれば気になるのは布地の向こうの其の形
それも又美しくも柔らかいに違いない。いつか其の山のような乳に指を食い込ませて・・・」
「もう良い・・・変態霊媒師め・・・早く食を終わらせないと・・・」
昼食がてらの僅かな時間でも一つ年上の女性を中年親父の下品な言い回しで
同僚で有りながらも諜報科の上司を噸麟は口説こうを必死で有る。
「全く。これで霊視とやらがいんちきであれば境界線の向こうに縄で縛って捨ててやれるのに」
顔を合わせる度に嫌らしく自分の旨を視姦されるのに碧々する词语は言葉と鍔を吐き捨てる。
「其処を右に・・・。次の三叉路を左に・・・」
「遠回りではないか?午後の報告会に遅れてしまうぞ?」
「10分もすれば敵陣から爆弾が落ちてきますから避難指示を忘れないで下さいよ」
「何だと?こんな市内まで降ってくると言うのか?不味いぞ」
既に降り注いだ爆弾の跡でボコボコになった市街地の道路を視姦魔の噸麟と词语は
無線にわめきながら軍用車を詰所へと奔らせる。
霊丹薄い噸麟であっても毎日毎刻と人が死に逝く戦場近しと成れば
嫌が負うでも見えなくて良い物が観えてしまう。
御国の為であればこそ無念無常に生を散らした軍霊で有ればこそ
此処は危険だぞ。向こうに回れとうっすらと其の陰見える噸麟に彼等は指を示して教えてくれる。
時に其れは過去であったり未だ過ぎぬ刻の先であったりと何とも不思議で有るが
常人其れ分からず知らず観えぬとあっても縊犂桶噸麟がそういえば必ずと言って悲劇が起こる。
軍にしてみれば最初こそ眉唾者が嘘八百並べて出世を狙う大馬鹿者と罵るが
今年三つ目の月夜に置きた補給列車転覆事件に血相を変える事になる。
月夜新月の特攻列車事件・・・。
そうと名高く後の歴史に残る大事件はその被害が徐々に明らかに成るほどに
如何に変態趣向のとても強い縊犂桶噸麟の其の名声も渋々と高く評価される事に成る。
満月久しくも漆黒の新月の夜。
時間通りに大陸内部からの兵站補給列車が占領地区に続く土手河原の付近から
急に加速したと思えば勢い激しく車輪を回し軋む線路の上を激走する。
其の夜巡りわせか只の当番の順番であったか兎も角。
いつもの洋館にこもらずに軍詰所の仮眠室で深夜に全裸でけん玉遊びに興じていた噸麟が
大皿小皿に乗せて回す準備運動中にあろうことか木剣の上に玉が入る。
果さてに。此処で手元が狂うはずがないと思った矢先に霊丹激しく背筋に奔る。
「逃げろっ。警報を鳴らせ。敵襲だぁ~~~。
死ぬぞ。大勢の民が逝ってしまうぞ。電報官は何処だ。早く知らせろ。
何処観てるんだ。助平爺。
全裸で廊下を奔るのは変態だって?御前だって漢と乳繰り合ってるではないか?
そんなことより電報官を早く。
橋が堕ちる・・・あれが堕ちて人が死ぬ・・・・大勢死んでしまう」
霊獄災難迫りくるとなれば全裸であろうが気にしてられない。
確かに多少ぽってり腹が出てきて右手に子供玩具のけん玉を握りしめて廊下を
疾走る変態であるとしてもで有る。
「何を言ってるのだ。正に変態其の者の格好ではないか?
其のけん玉どうやって慰めるのだ?結構器用な嗜みをもっているのだな」
何の騒ぎかと湯浴みを済ませたばかりと胸にタオルを巻き付け部屋から顔を出した
词语の眼の前を全裸で赤玉けん玉をしっかり握りしめる噸麟が奔り去る。
ドタンバタンと体を廊下の角に何度もぶつけ蹴って殴った通信室に転がる
「電報。電報を打て。何処にだって。軍本部だよ。軍本部。
敵襲!敵襲来たり!暴走列車が突っ込んでくる。
鉄橋大橋を超えて軍属施設所か民間地まで突っ込むぞ。
グズグズするな。これか?これで打つのか?良いから早く打って知らせろ。
人が逝く。沢山死ぬぞ。死んでしまう。ああ。なんてこった」
鬼面の如くに顔を歪ませ喉をあらん限りに喉を絞って噸麟は喚き散らす。
何が起こるか分からずとも其れが冗談でないと知れると担当官は慌てふためき電報板を叩き出す。
それでも刻遅しとは正に其れ。
明日は休日となればこそ急報受け取る軍本部の担当官は気が緩んでいた。
カタカタと機械音並べて吐き出す電報紙を同僚と昨日の賭け事噺で盛り上がり
ついつい暫しの間後回しにしてしまう。
それでも凡そ弐分と少し後やっとのことで電報紙に手を伸ばせば
目ん玉剥き出し声上げ怒鳴り驚かせられた小鳩の如くにわめき等して上官に知らせる。
それでも此れも又に時遅し。
「駄目だ。駄目だった。情けない。情けないぞ。縊犂桶噸麟。
想人を寝取られるばかりか同胞どころか國民の命まともに救えないなんて・・・
僕は変態のごみくず野郎だ。情けない・・・。」
「うむ。人目憚らずも軍舎広場のど真ん中で紅いけん玉握りしめ全裸で
自虐に泣き咽ぶのは由緒正しくも変態道極めたりであるが・・・」
刻遅しとなれば何も出来ずと知ればきちんと身なりを整えた同僚词语が見つめる視線の先に
新月深夜丑三つ時に静黙極める時刻に音はそこまで届かずとも
轟々と紅く街並み焦がす焔焔を只の街火事と見間違うはずもないだろう。
本来。イ参号補給列車と呼ばれる其れは次の朝の新聞に月夜新月の特攻列車と解明され
紙面を華と飾っただけでなく。その次の日も又其の次の日と紙面に華々しくも記録される。
街を襲った特攻列車は最初に噸麟が打った電報これ然りとばかりにその文面等しく
占領区の入り口の鉄橋大橋の上を通ると大型爆弾を積んだ後ろ弐両を切り離し
その橋を粉砕して魅せれば後に港からの補給線を見事に断ち切り
其れに又にと留まらず軍兵站基地と兵器倉庫及び砲弾工場。
やっと最後に民間地区の先端門を見事に破壊して結果甚大な民間被害を齎す事に成る。
この事件は多少なりとも今となっても疑問が論じられている。
国欧州漢の御国の占領地というのが良いが其の戦場矛先は大陸内部の漢の御国である。
きちんと言えば倭之御國陸軍が前線をはるのが大陸の東から西へと防衛線を張っている。
戦相手の欧州漢の御国の地が南に有ればこそ防衛線は東から西へと伸ばすのが定石。
敵軍が南から責めて来るなら月夜新月の特攻列車が疾走って来たのは北である。
大陸の先端北側から此方側のほとんどは倭之御國と同盟国が抑える地でも有る。
では何故その北側から暴走列車が突っ込んできたのか?
自軍の中に裏切り者がいるのか国際的な犯行機関の仕業なのか未だに良くと分からずである。
尤も相当量の爆弾と大掛かりの仕組みが施され災事に見舞われたと成れば
やはり戦相手の欧州漢の御国の図り事と値踏みするが妥当でもった。
されども紅いけん玉を握りしめ疾走った噸麟の電報は厄災を完全に防ぐ事は出来なかったし
軍施設の破壊も甚大であったが電報を発すると同時に鳴らし響かせた警報は皆に届いた。
これは結果論でもある。
それでも新月深夜に狼の遠吠えの如く街に響いた警報は少なくてもある程度の
僅かであっても確かに民の命を救ってもいた。
逝ってしまった人の思いはともあれ其の家族を逃がす事は少しは出来たので有る。
起きた厄災はともあれ。
正式な記録とその証拠として噸麟が係官を脅して発した電報と警報は
紛うこと無く厄災の先ふれとして皆に届いた事実に寄り
多少なりとも。けん玉一本握りしめ裸一貫で夜な夜な奔る変態であっても
その才だけは真摯に高く評価されるのである。
「悪猿如く淫猥な目つきで私の胸を視姦さえしなかれば・・・。
もう少し我慢できる者なのに・・・こらねっちょりした目で此方を観るな。変態め」
凝りもせず食事の度に嫌らしくも堂々と胸元を視姦してくる噸麟を词语はぎりりと睨む。
戦果激しくも霧雨やまずの木曜の夕方混じりの頃合い。
薄茶の軍用コートに軍帽深くを頭を隠し痩せた漢が瓦礫高く崩れる街角を訪れる。
其の名を縊犂桶噸麟と誰知らず。
友も軍友も同僚も又連れと拒み俺も薄茶の革手袋で指を冷やさずときをつかう。
多少よろめきながらも店の瓦礫土を踏んで分け中に入ってみれば元は喫茶店とも想像できる。
砲弾見舞われる前は人々が憩いを求めて集った場所だろう。
爆風凄まじくも跡方も何もかも瓦礫と化した喫茶店の店内は満足な脚の踏み場も少ない。
何とかより掛ける柱に噸麟は預けてみるがどうもしっくりともこないらしい。
弐度参度とせに当たる柱との位置調整して無理に天井を見上げる。
二階にも人々の営みがきっとあった違いない。尤も今は大穴の向こうに屋根も無く
曇天の雲が屯し霧雨を降って堕としてう止む気配も当分にないのだろう。
顔に塗れる霧雨そのままに足元の崩れ散った硝子を軍靴でしゃりしゃりと蹴っては
戦争の一端を噛る軍人風情が何を思うとでも言うのだろうか。
故郷遠くに置き忘れたとしても噸麟は異国の街が好きだった。
原因やきっかけはどうであろうとも先に戦を仕掛けたのが何方であったとしても
其処に営む人々の日常は死とは無縁で慈しみ尊い物で有るはずだった。
やっと心向きが落ち着いたとでも言うのだろう。
背を預けた壊柱から背を離すとしっかりと自分の脚で床の上に立ち。
少々恥ずかしげにもポケットの奥からハーモニカを取り出し唇に当てる。
勿論人前で拭く事はめったにないし個の國に来てから練習し始めたものだから
たどだとしくももどかしく。時に大きくも音階も外れる。
街角に缶詰でも置いて道芸人の真似事然りに挑んだら小銭一銭も恵む等いないくらいに
聞きづらくも情けない音色であるのは保証出来る。
それでも無理に覚えたハーモニカが奏でる音色は欧州漢の御国の葬送曲で有る。
そうと言うっても大きな葬儀で打ち鳴らされるほどに大げさな楽曲ではなく
何方かと言えば極々親しい者たちを別離を惜しんでひっそり涙の向こうに送り出す。
そんな小さくも寂しくそして涙累々と静かな鎮魂歌であろう。
外も暗く道行く者にも届かぬはずであればこそ。
最初に小さく物音がする。
誰か道行く者でも壊れた喫茶店の扉を開けたのだろうか?
その主は静か物音立てずに以前は温かい飲み物が置かれていたであろう
カウンターの側にそっとよりそい。下手の横好き如くに軍人の拙い鎮魂歌に耳を傾ける。
その又横の椅子にうら若い女性が椅子に越し抱掛ける。迎えに来る夫と待ち合わせなのだろう。
奥からひょっこりと顔を出したのは店の者に違いない。
手もみしながらも客の注文を取ろうとでも言うのだろう。
ふと誰かがどこかで蝋燭に灯りを灯す。
温かい光の中に流れる鎮魂歌につられ一人又一人と誰知らずと逝ってしまった人々が集まってくる
それを死霊と決めつけるのは性根が悪すぎる。血肉通った体持たずとも心残り有るとしても。
人の戦の都合で一瞬に命奪われた者であれば死に行く覚悟も無くて当然で有る。
散って天に昇ることも悪行に手を染め地獄に堕ちる事も儘ならぬ人霊の心は大地に根付く。
それを癒やして慰めるなど到底一介の軍人如きにできる筈もなく
ど下手の横好きと陰で笑われても週に一度の早番上がりの夕方に噸麟は個の場所で
一人でハーモニカを吹いて鳴らして人霊を送る・・・。
「まったく。只のド変態の癖で有れば好きにも惚れもしないのであるが・・・
占領庶民の人霊まで見送るとはお人好しの大馬鹿である。
尤も下手すぎて聞いてられん。弐回所か四回も音程はずすとは・・・。
あれでは聞かされる方も気になっておちおち成仏等出来まいて・・・変態視姦魔の噸麟め」
はぁ~~~と深くため息を付くと词语は車の中で軍帽を脱いで脇席に置き
胸前で手を組み合わせ欧州漢の御国の送り作法の印を結ぶと口早に呪文念仏を唱え
逝ってしまった彼等の為に深く哀悼と黙祷を捧げて目を閉じる。
倭之御國帝国陸軍・澱宮拳舞中佐は気づいてしまう。
もしかしたらもしかしたら・・・やっぱりもしかしたらである。
妻の態度が変わっのだ。
結婚して七つの歳を重ねれ子供も出来ずと成れば夜伽の回数も少なくおざなりに成れば
普段の生活にも倦怠感が付きまとう。
其れは妻も同じであろうはずなのに。色々と気づいてしまう。
朝に顔を合わせればその日次の日と段々に化粧が濃くなっていく。
先週当たりまでは一緒に朝食を取ってもTVのニュースから一切目を離さなかったのに
昨日今日には真っ直ぐに此方の顔を見つめ
{麺麭にバターとコーヒーに砂糖とやたらと世話を焼いてくる。
何か欲しいのか点数稼ぎの子供じみたやり口でも有るがどうやらそうでもないらしい。
さり気なくも足音忍ばせ風呂の脱衣を覗いてみれば今まで身につけたこともない
悪趣味とも見える濃紫のガードルをうれし恥ずかしと脱いで籠に収めてもいた。
止めは明らかに自分から夜伽を強請って来たことだろう。
「駄目・・・。服は嫌・・・ずらして入れて・・・」
倦怠期久しく新しい趣向とでも言うのだろうか個の國でもそれなりに奥の深い営みの形は
確かにあっても下着だけとは言え衣服を来たままで交尾するのは慣れぬ事である。
其れも今までは互いの顔を見えるように絡んで居たのに
最初から四つん這いに成り大きな尻を突き出して振り上げる。
普段とは違い目の前にずいと突き出された尻肉に手を添えて突き上げるのもこれ又刺激が強い。
「貴方・・・。素敵 気持ちいい。もっと・・・ああ・・・我慢できないの・・・もっと・・・」
久しぶりでもあった。いつもよりも激しく寝室に響く妻の喘ぎに其れも猛る。
「ああ・・・。良い・・・逝きそう・・・昇っちゃう・・・逝っちゃう・・・貴方・・・
頂戴・・・中に頂戴・・・ああ・・・逝く逝く逝く・・・逝っちゃう」
激しく打ち付ける尻肉と昇り詰め猛り股座の塊か熱が登り猛る。
「ああ・・・もう駄目。逝く逝く。気持ちいい。ああああ・・。あああ・・・噸麟様ぁ~~~」
上り詰め熱い粘汁を妻の壺に注ぎ放ったその瞬間にこそ自分の妻は何処ぞの馬の骨と知れず
否。ド変態極まり無くも寝取られ噸麟の名を叫び喘いで逝き果てた。
はぁはぁと寝台の枕に顔を埋め突き出した白い尻から夫の粘汁を垂らしても
確かに我妻はあの漢の名を叫んで喘いだ。
「噸麟~~~ん。貴様ぁ~~~。我が妻を・・・我妻を手籠に。
其処か?底にいるのか?このド変態野郎。顔を魅せろ。この変態間男野郎」
激怒憤怒と顔を真っ赤に染め上げ洋服棚の扉を開けて手を突っ込んでは声を上げ
隣の箪笥を開けては中を引っ繰り回し未だ寝台の上でビクビクと四肢を痙攣される妻を放り置き
全裸で腹を突き出したまま窓のカーテンを引きちぎり窓を開け放つ。
其処には確かに・・・。
からっ風寒い路地街灯の側に薄茶の軍服にコートを着込み目深に軍帽で頭を隠す噸麟が立っている
暫しの間軍務で家を開けた弐週感の間にあのド変態の噸麟は巨乳と知れる妻を手籠に仕込んだのだ
以前とは違う化粧も下品な濃紫色の下着も噸麟の好みに間違いない。
暫く久しい情事を妻強請ったのも四つん這いになって尻を突き出したのも
夫の顔を見ずに頭の中で間男然りの噸麟を頭に浮かべて尻を振る為にすぎなかったのだ。
全ては噸麟の思惑どおりで妻が噸麟の言いつけどおりに夫の其れを咥えっこんだのも
夫のそれを道具に自慰の真似事然りと家外に立つ噸麟に態々と喘ぎを聞かせて喜ばせるためだ。
こっそり家の窓枠さえも開け放って居たのだろう。妻の声は近所にも良く届いたに違いない。
「ど変態の縊犂桶噸麟め。このままで済むと思うなよ。其の首絶対に堕としてやる」
未だにはぁはぁと刻まれた快楽に酔いしれつつも虚ろな目つきで噸麟の名を呼ぶ妻の体に
悔しさと腹出しさを隠さずにも我慢出来ぬと澱宮は弐度目三度目と伸し掛かる。
「聞いたぞ・・・。噸麟霊視官。
遂に澱宮中佐の奥方様まで見事手籠にしたそうではないか?
嘸かし登り甲斐のあった乳の山であったろう?」
午後の霊視巡回の合間の軍用車の中で唐突に词语が切り出す。
二人の仲であまり個人的な噺など有りもしないので噸麟は驚く
「確かにあれは登り甲斐性も有り尚且つ躾けるの大変でしたが
やはりその分に夫に責められ喘ぐあの声は寒空で聴くのは中々良くも・・・」
そこまで悦に浸って垂らした言葉を噸麟は喉の奥に飲み込む。
「何が寒空の下で奥方の喘ぎがどうこうと・・・。
貴様は私ではなかったのか?私の乳の山を登りたいのではないのか?
毎日。毎々にちと視姦してるくせに。一向に絞ろうとしない所か
たの女の乳の山ばかり握っておるではないか?この変態浮気漢のトンチンカン
このままでは憲兵隊の白塗り仮面に旨を弄らせた方がよっぽどましだわっ」
思いもかげず嫌われてるはずなのに噺が変わってる事に驚くも
鳩が豆鉄砲食らったように噸麟は間延びした顔で身を固める。
「どうした?私が強請って何が悪い。年頃なんだぞ?適齢なんだぞ?
色々うずいて藻掻いて一人枕に喘ぎ涎を立たす時だってあるわ。
其れに知っているぞ。貴様の汚い一本槍は癖が有りすぎる。
山となりせし乳を持つ女性どころか真が通るのはしかも夫持ちか未亡人
既に誰かの女でなければ満足に猛る事も極々稀だとな。
つっ・・・つまりだ。貴様は最初から私を相手にする気なんてないってことだ。
どうだ。情けないだろう。嫌いだからこそ頭から離れないんだぞ。
火照った体を慰めるのに夜な夜な御前の顔が浮かぶのだ。
もっとも私も偏屈だからな。そう簡単に乳の山を登らせてやらないからな。
このド変態の覗き視姦魔野郎・・・」
词语の気迫迫る鬼面の説教に流石に臆したのか顔の横に手の平を掲げ
降参せしとばかり情けなくも怖がる噸麟
「词语殿・・・其の噺は事務所でゆっくりいたしましょう。
今は何より其奴の方がやっかいで・・・」
「何を呆けた顔でいっておる。
痴話喧嘩の方がよっぽど大事ではないか?
どんなに変態でも好きと惚れたと言っておるのに御名子の気持ちを・・・
うげ・・・?なんだコイツ等」今までは大嫌いだと言っていたのに
今度は真逆に嫉妬をあらわに勝手に癇癪を起こす词语。
首をすくめ顔の横で小さく降参万歳を掲げた噸麟の右手が窓の外を示すと
その表情が一変する。
防弾ガラスとはいえずも軍用車であるからそれなりに堅い。
その硝子にベッタリを顔をくっつけ紅い舌で舐め回す醜顔の漢。
其のすぐとなりに長く伸ばした髪を乱れ頭にふりあげ硝子を割ろうと
痛みも感じず無心にガンガンと頭を打ち付ける女。
言われて気がついてみればそこら中にいつの間にか屯する人々の其の顔
狂気に取り憑かれまるで自分の意思ではないのだろうか。
力なくふらふらと立ち止まったかと思うと首だけ回しギョロリと
車窓の向こうに怯える词语と噸麟を見つけると突然に油をさされた人形の様に
バネじかけ宜しく四肢に躍動乗せ地面を強く蹴って走り出す。
「早くっ。早く。早くしててばっ」
御名子の様に甲高くも情けない噸麟の悲鳴で傍と我に返ると
軍人魂凄まじくガコンとギアを後進に入れ思いきりあくせる踏見込み奔り出す。
「あっあれは何だ?化け物だぞ?
塊霊所か実態があるぞ。観ろ。窓に涎がついているぞ。
あんなの化け物現世にいないぞ?こら失神するな。変態野郎。軍人であろう?」
そうは言っても無理であろう。形のない塊霊なら兎も角実態を持つ人である
人の形をし他化け物である。妖怪は管轄外と婿取り村の者も憚りにげるのであれば
震え上がって白目を向くのも当然であろう。
なんとも情けない塊霊払いの変態視姦魔噸麟である。
「どうして・・・。どうして・・・。
あんな奴等が街の中にいるの?何なのあいつ等?」
追いつこうにも人で有るからどんなに早く脚を回しても限界は有る。
進む車の前に陣取って手を触れる事は出来てもしっかりと掴んで
襲いかかる前に词语がハンドルを切り回しアクセルを踏んで人化者を蹴散らし交わす
「其れにしても何か変だ・・・。絶対に変だぞっ」
置字
