女装男児】女装家且来素子闊歩歩いて候:其の禄
「どうしてた?何故に救援を出さないんだっ」
「何度も言っているぞ。道筋噂徳成しずゑ上級大佐
敵の攻撃。その詳細が良くと分からない以上。安易に列車を動かすわけにはいかん。
「あの馬鹿が置き去りにした兵士を今度は貴殿が見殺しにするのか?
私情挟まずともそうであろうとも生き残って死にかけの者も居るんだぞ」
「先んじて我等のすべき事は列車の安全な運行であるぞ。
貴殿の軍夫の事も存じておる。残した兵の事も重々判ってる。
然し今。列車を出せば又、蜂の巣になるだけだぞ」
國領線を区切る中間基地の一つの指揮局作戦室で
道筋噂徳成しずゑは悪鬼の如く声を張り上げる。
それを相手に一歩も譲らずにも渡り合う老翁司令官も又と正しい。
自分の軍夫の行方を確かめたいが一つの為にしずゑは老翁司令官に怒りをぶつける。
尤も老翁司令官の言う事は正しい。其れもよくわかる。だからこそ怒りも収まらない。
しずゑが数刻前に殴り顔を砕いた列車司令感の判断は愚行である。
それは軍略を練るべき老翁司令官にも面倒な厄災を齎していた。
漢縁の軍共が新兵器成るものを持ち出してきたのは判明している。
我らが用いる武装列車よりは長くはないがそれなりに巨体である。
どうやら固定式の砲台を用いて砲撃するが詳細は不明である。
それが何故かと言えば愚行極まりない列車司令管が早々に自分だけ生き延びようと
後方車両を切り離し思惑通りに山谷のトンネルに列車を奔らせたからである。
其の為に前方車両の損壊は少なく兵も生き延びたものの失った者も又多く。
手に入れる事が出来た情報が皆無を言っても良いくらいに少ない。
当然早急にでも列車を換装し憎き陸の船を打ちたいとは願っても
この中間区基地の先のトンネルから頭を出した途端に
待ってましたとばかりに狩られるだろう。
あの手この手を頭をひねっても打つ手一つ全くないのが現状であった。
あれから一日と一晩。弐日と弐夜。
「さ。散歩してない。二日もしてない・・・」
いらいらと胸の奥に渦巻く言葉が口に出る。
軍食堂の列にならび銀鉛盆をずらしながら厨房の向こうでお玉を握る当番兵を睨み問いかける。
「貴様。自宅で犬を飼っているか?散歩出来ない時はどうしてる?
・・・何?猫しか飼ってない?あのツンデレが良い?馬鹿者め。時代はやっぱり犬であるぞ。
貴殿はどうだ?其の顔は犬派であって当然だろうな?
何?脚が付いてるのが苦手だから大蛇を飼ってるだど?愛護法違反ではないか?
届けは出してるんだろな?檻に錠前二個付けてると?脱走対策だな。それなら良しとしてやるぞ
・・・次・・・だから犬を飼えと言っているんだ。出来れば雌犬をっ」
銀鉛盆の上に器が乗せられる度にしずゑは問いかけ隣にずれては又問いかける。
老獪司令官も馬鹿でない。互いの立場も分かった上の衝突でもある。
軍夫の行方も知れずに初な自分の我儘で許せる事が散歩で在る。
其れさえも世間世情から見れば十分歪んでいるとは言え
嫉妬も含んでしずゑが思いを伝えられるのが其れしかないのであればこそ
倒錯と言える問を他人に投げては鬱憤を晴らして回る。
もっともそれや八つ当たりと知っていても問われた方は迷惑この上ない。
漢勝りと其の物にドンと卓の上に銀鉛盆を叩きつけがに股開いて跨ぎ
ちょっと大きくも形良い尻を椅子に置いただけでも又ドスンと音が成る。
如何にも機嫌わるくとばかりに金曜curryを匙でかき回し
運悪くも対面に座っていた漢の顔を黙って睨む。
半顔朱色の布で覆い食事時でも白皮手袋を外さず匙を持ち上げcurryを喰えば
「じ。自分は蜻蛉一佐であります。実家では大型犬を飼っております。
こいつは少々手間の掛かる奴で御座いまして・・・。
日に二度の散歩を誤魔化すと玄関の靴を咥えて暴れるのです。
雨の嵐もありますので。散歩出来ない時などは
喉を撫でてるとか腹を擽るとか・・・おやつを余計にくれてやっております」
美麗甘美な顔のしずゑに睨まれ其の気迫に呑まれたのだろう。
対面で食事をしていた蜻蛉一佐とやらは声を張り上げる。
「何だと。喉を撫で回すだと。その指で飼い犬の喉を撫で回すのか?
無骨な御前の手が飼い犬の腹を擽り回すとぉ~~~。なんて羨ましい。
うぐぐ・・・その・・・あの・・・厭。浮気はいかん。浮気は・・・。
・・・その・・・コロッケで我慢してやろう」
匙でcurryを口に運びながら犬の機嫌とりの話で何故か悶絶し悶えるしずゑに睨まれ
蜻蛉自身も好物の蟹肉入コロッケを嫌嫌ながらも道筋噂徳成しずゑ大佐に献上する。
無線科に勤務する者は総じて耳が良い。
そうでなくては無線機から僅かに漏れ出る音を聞き逃してしまう。
今は打つ手なしじっと我慢と老翁策士の司令官が黙りを決め込もうとも
その部下達はそれぞれに出来ることを粛々と熟す。
自分達はこの場から離れる事は出来ずとも生きてるかもしれない戦友の為に
思い一つに無線担当の一等兵は一時の休息も惜しんで雑音静かな無線機の前に座る。
「ちゃっ。着信です。着信っ」
「我ら倭之御國陸軍大陸鉄道第弐女装家連隊・全五十七名。
中間管理基地を目指し行軍中。負傷者多数成りて救援も求む。
嗚呼。饂飩食べたい饂飩食べたい。出来れば車海老の天麩羅饂飩」
「・・・且来准尉。且来准尉の部隊でありまっす。絶対そうだ!」
突然に無線機から若い兵士のかすれた声が吐き出され無線室は歓喜の声で騒然と成る
「こちら倭之御國陸軍大陸鉄道中間管理基地無線係である。
よっ。良くぞ生きておった。なんとしても救援を出す。詳細を伝達されたし。
尚。饂飩の件。自分が責任を盛って食堂科に伝達する。
汁は帝都自慢の越後屋仕込か?それとも喉越しつるりの上州風味か?
車海老の天麩羅饂飩は少々高価な上。野菜のかき揚げで我慢出来るか?」
「・・・わっ我ら五十七名。死線とくぐり抜け今生別れの間際に有り
たどり着けなくもしれん故に車海老天麩羅饂飩饂飩は譲れぬなり
老翁司令管殿の髭を毟ってでも予算を捻り出して頂きたく候。
嗚呼。饂飩食べたい饂飩食べたい。出来れば車海老の天麩羅饂飩」
その時迄も過去にも正確には軍として認められても居らずとも
且来が拾った命を兵士を纏めた第弐女装家連隊と無線科のやり取りは全文と
その後直ぐに中間管理基地の全区画に放送される。
今日も又その時憮然としたまま椀から匙で粥を救い
対面に座る大型犬を自宅に飼い、時に腹を撫で回す蜻蛉一佐を眼を飛ばし
それでも少しは楽しげに噺弾ませるしずゑの耳にも聞かされ届く。
「い・・・生きていた。あたしの軍夫。あたしの飼い主。
ぐっ、愚兵どもっ。何してる。戦友五十と七名が生きてたぞ。
我らが惰食を貪ってる間にも泥水啜って生き延び歩いた戦友の為に
黙り決め込む憎き老翁の自慢のあの髭むしりに行くぞっ」
其れこそ饂飩が乗った鉛盆所か食卓までひっくり返す勢いで怒声上げて拳を
突き上げるしずゑに兵達も答えて拳を突き上げる。
軍夫の且来と其の部下五十七名。中には歩けぬ者も死の淵に溺れる者もいるだろう。
例えそうであっても一人残らず救ってみせると中央司令室へと兵士共が押し寄せる。
食堂で粥を啜っていたしずゑは出遅れたと言っても良いだろう。
其れは寧ろ他の者が速すぎるとも知れる。
しずゑが策略とりっぱな髭を自慢する老翁司令官の執務室に人の黒頭かき分けて
たどり着いた時には部屋の隅に追いやられ自慢の髭も少しはむしり取られていた。
「どっ。どうしろ言うのだ。且来の部隊の位置は解り知っても
一度でも列車を出せば敵の的だぞ?得体の知れない砲弾の餌食と又成るぞ。
其れに車海老は確かに高い。在庫はあってもおいそれとは出せん。
こらっ。髭に手を伸ばすな。馬鹿者。止めてお願い。許して。毟らないで」
司令官の言う事は筋も通るし正しくも在る
且来の部隊を迎えに行くは線路の上を列車を奔らせねば成らず。
当然陸の上を奔る船が手ぐすね引いて牙を磨く。
「ぼっ。僕に妙案があります・・・」
部屋の隅にポツンと立つ年はも行かぬ一兵卒の若者が恐る恐ると手を上げる
「小童ではないか?観るところ配属されたばかりの新兵だな。
この状況を上手く切り抜ける妙案が在ると貴様にあると言うのか?
それが本当に上手くいくと言うのなら、私が直々に頭を撫ででやるぞ。
物は試しに言ってみろ。小童新兵。」
これも又別の場所から声が上がりずいっと前に人混みを分けたのは
この基地一番に背の高さと乳房の大きさを誇る女性将官で在る。
確か細棒と言う名の女性少佐としずゑは記憶を探る。
生まれの地と他之御國の血が交じるのか随分と背も高く肌の色も濃く濡れる。
それよりも大きな乳房を靭やかな四肢を誇る女性将官に頭を撫でて貰えると成れば
小童と呼ばれた新兵も張り切り鍔を飛ばして意見する。
「あの陸の船の砲撃は確かに驚異です。どうやって陸を奔ってるのかもわかりません。
道筋しずゑ大佐が撃った主砲が命中しても平然としてました。三回も撃ったのにです。
それは防御面も強固で在ると想定出来ます。
でも逃げ切ったでは有りませんか?多大な犠牲を払いました。
だけど前方車両は無事に駆け抜けトンネルに入りましたよ。
つまり疾走らせる列車の車両を短くすれば良いんです。
戦友五十七名を乗せて帰れるだけの短い車両を疾走らせるです。
車両が短ければ速度が速くなる。それなら陸の船は追いつけない」
静まり返った指揮官室に新兵卒の声が響く。
「なるほど。それは妙案だな。坊主。確かにそれは良い作戦だ。
いい子。いい子だぞ。小童新兵殿」
これもまたずいずいと人をかき分け豊満な四肢を揺らし新兵に近寄ると
優しげにも愛おしげに彼の頭を撫でて魅せる。
新兵の案は確かに妙案であり其れを称えて細棒少佐が眼を細めて頭を撫でる。
「奔る時は良いだろう。然し戦友を列車に乗せるとなると停車しなければならない。
それはどうするんだ?」又、誰かが声を上げ問題を提示する。
「それを解決出来たら。自分も頭を撫でて貰えるのだろうか?」
頭を撫でて悦ぶ年でも無いくらいに少しは老けた兵士が恥ずかしそうにも前に出る。
「勿論だ。たとえ貴殿が御國に嫁がいようとも此処は遠地の果となるし黙っていればわかるまい。
戦友五十と七名を無事に連れ帰る事が出来るのなら喜んで頭を撫でてやろう。
なんなら少しくらいは別のところでも構わんぞっ」
「おおおおおおっ。そっそれは。手を握って貰えるとかでも良いのか?」
「男性野郎だけはずるいです。私も頭撫でてほしい」
「じっ自分は失礼ながら道筋大佐にお願いしたい。」
「あっ。それずるい。私も道筋大佐のお側に。」
「僕はやっぱり細棒殿が素敵です。あの大きな手で・・・」
何か随分と趣味趣向に奔る要望があがり始める。
然しそれは且来の部隊を救出する作戦会議の始まりであった。
あれだけ盛り上がれば自分の出る幕も無いだろうと
こそりこそりと忍んで司令室を出ようとする老翁司令官氷箸の肩をぐいっと誰かが掴む。
「司令官殿。小生。この基地の食料倉庫を預かる物です。
無線科の一兵から伝達のあった饂飩をつくるのには車海老の箱を開けなければ成りません。
なにやら予算がどうだこうだとおっしゃっておりましたが・・・。
小生。指の圧には自身があるのです。何事かと申しますと」
背後からぬぅ~~~と漢の手が現れる。其れが何だといえばとよく見れば。
人差し指と親指の間に硬化一枚摘んで身えた。
二つ指にぐっと力が入り震えれば一気に一瞬に固い硬化が折れて曲がる。
「小生。少々指の圧には自身があるのです。
自慢の御髭ではありますが、これで摘んで捻るとどうでしょう?」
「くっ車海老の件。了承しよう。つ、注いでに烏賊のかき揚げも付けてやれ。
こ、この際。貴殿の好きなように箱を開けたまえ。全て儂が責任を持つ」
「承りました。司令管殿。次回も何か渋るようで御座いましたら。
必ずや其の髭ねじ切りきりに参りますので夢々お忘れなきよう・・・」
ふと肩の重さが消えたの良いが寒気と悪寒で髭も身体も縮む思いに司令官氷箸は晒される
腹が出ててもやっぱり人の子。且来自身もそれを実感する。
脚が棒。本当に木の棒とかした脚を一歩、又一歩と前に出すのが精一杯である。
大きな背後ろには呼吸するのもやっとと言う兵士を三人抱え
更に担架橇板に繋がる紐を三本引く。腰には猿轡をしたあの人形を括る。
小柄で女性の粗胡椒少尉さえ担架橇板の綱を二本と引く。
最初こそ山肌を背に中間基地まで行軍する道路筋を選んだが
それでは大きく遠回り摺ることになり中間基地にたどり着く頃には
生き残った兵の半分は息絶えるかもしれないと且来も身にしみる。
仕方なく敵陸戦の射程に入るかもしれない自軍線路の脇を
砲撃覚悟の上で行軍せざる負えなかった。
事実も2回ほど陸の船が姿を現し暫く且来達の部隊と併走した事もある。
自身は脚を失うが人を殺める殺気と夫の浮気を疑う女の嫉妬にはやたらと敏感な中尉が
痛む脚の苦痛に耐え大声を上げ警告してくれたお陰で急ぎ列車残骸の影に身を隠す。
「撃ってくるな。撃ってくるな」と誰もが念じて願い唱える。
「否。撃てるはずである。何故撃ったこない。でも撃って来ないで・・」
且来自身も口の中で何度も且来家始祖となる御先祖様の名を唱えて祈る。
道筋噂徳・其の怪人が預けてくれた羊胃袋の水筒のお陰で水には苦労しなかった。
それを何故かとは誰も追求はしなかった
瀕死とも死に際の顔に水が落ちれば意識を取り戻し眼を開ける事が出来る。
砲弾に千切られた脚を洗う事も出来たから脚を失っても感染症で腐る事もない。
仕掛け仕組みはどうなっていようとも豊富とも言える水を生み出す羊胃袋の水筒は
彼らの宝であった。
予定より遅れる行軍の中で食料は手に入り難い。
水筒一つの水だけでは腹に力が入らない。
短刀と木槍を持つ手と立って歩ける者は狩りに勤しみ蛇や栗鼠と鼬を追いかけ
脚が傷んで動けぬ者も手を動かして土をほり土竜さえも糧とする。
人形砲弾が貫き鉄の瓦礫となった列車を見つければ誰もが無言で乗り込み
使える者はないかと黙々と漁る。
運が良ければ無線機が見つかるかとも願ったがそれが見つかったのは
明日には部隊全滅するやもしれんと且来自身が腹に覚悟を決めた後である。
「なんとまぁ滑稽な列車である・・・。儂は好かん」
「そう言うな。毟り髭の司令官殿。
古き伝統を忘れてたわけじゃない。策を労しなければ救えない。
今は伝統も恥もいらないんだ。五十と七名救うためだ。」
遺恨が残るのは確かである。交わす言葉もぎこちない。
それでも肩を並べ、煙吐き出す救援列車を毟り髭の司令官殿としずゑはじっと見つめる。
毟り髭の司令官殿。
すでに中間管理基地の誰もがそう呼ぶが、意外な事にも其の自慢の髭は半分程健在で在る。
あの指の圧を自慢する調理課倉庫係に胡麻をすっただけではない。
当初は弐連の機関車で速度を上げる計画を立てていたが・・・
「儂とてこの基地を預かる者である。一番長く此処で戦ってきたんだ。
逝ってしまった兵を一番多く見送ってきたのは儂である。
・・・これ以上。髭を毟られては困るとかじゃないんだぞ。
ふん。老齢翁の取っておきを持っていけ」
その時ばかりは大げさに髭を撫で自慢気に豪語摺る毟り髭の司令官殿の背後には
旧式ではあればこそもなんと驚け弐拾車輪の大型機関車が倉庫の奥から煙を吐いて現れる。
あれはなんだと兵共が眼を丸くしたのも当然に。
猛々と煙吐き車輪を回して姿を魅せた弐拾車輪の旧型機関車はこの武装列車の防衛線が
張られた時に最初に運行された初代機関車である。
「癖は有るが確かに速い。儂と一緒で頑固であるが。今、奔らなければ何時奔る」
老翁が虎の子であると豪語する機関車は今の技術者は古すぎてと笑えども
その性能を知ると頭を抱える。時に技術革新の進む方向は世情世論に左右される。
一般的には扱いやすく手に収まる常識の範疇である。革新的な技術でも誰かが使ってくれなければ
金銭は産まないし評価もされない。つまりは判っていても性能が下がる事もある。
最初に世にでた弐拾車輪の無骨な機関車は当時の技術者の意地の塊である。
「こんな化け物動かしたら・・・それより途中のカーブを曲がれるのか?
こんな性能で本気出したら・・・動き出したらとまらないじゃないのか?」
「そんな事知るかっ。儂だって協力したいんだ。
髭だぞ。儂の髭が毟られるだぞ。絶対に先頭を引かせるからな。
我が初代弐拾車輪武装機関車。出陣である。・・・そんな眼で見ないで。
儂だって。頑張ってるだからね。ねっねっねっ」
結局にも若手の技術者が頭を抱える前で巨大過ぎる初代弐拾車輪武装機関車が
鉄輪を回し準備が進む救援車両の先頭に無理矢理接続される。
後に余りに危険で余りに速すぎ二回も脱線事故を起こし掛ける救援列車の構成とは。
先頭車両こそ毟り髭の司令官殿が無理につなげた初代弐拾車輪武装機関車。
弐両目と三両目が当初から予定された高速型十輪機関車。
予定外に化け物機関車がくっついた為に三両目は小型の物に変えるべきだと
技術者が声を上げるが、あの化け物がとまらなかったらどうするんだ。
あれは前に進むのは得意だが止まるのはすごく苦手な頑固爺さんだぞ。
実際に運転を任される運転手が猛牛の様で抗議する。
且来達の部隊を救護車両に乗せるには列車を停車させる必要が有る。
逆にそこにたどり着くまでは敵船・陸の船に追いつかれてはならない。
頑固な翁先頭車をなだめブレーキをかけても列車は急に止まれないで困るのだ。
それゆえにそれこそに現代技術の粋を集めた弐両の機関車が必要と成る。
この二両の機関車は逆輪機構を持つ。つまりこそ先頭の翁機関車を
なだめ速度を落した後でもどうせすぐには止まらない。
そこで繋がる弐両の機関車に逆輪走行させ速度を相殺し短い距離で止まる。
極めて危険な掛けであり勿論にも過去に前例など一個もない作戦である。
巨大機関車の次に高速機関車弐両。
燃料車両二両。大食いの機関車が前にいるからだ。
指揮車両。医療・物資車両。且来達を収容する為の特殊車両が弐両とあり
戦闘即時対応の為の砲台車両が一両。勿論不安は有る。
確かに国際的な人命救助を示す桃色の線を胴体に塗っているが
それが破られる事も多々にある。だれも見てない状況では特にであり今回もそうなる可能性もある。
それなのに三連主砲を搭載する先頭車両が一両だけとは心もとない。
「我らは玄人だ。心配はいらない」
皆が胸の内に抱える思いに戦闘班を仕切る大尉は無骨に吐き出す。
彼が言うなら任せるのが良いと皆が二つ心に納得したのも又彼が歴戦の兵と知るからだ。
「貴殿が側に居てくれると安心だな。細棒少佐」
「何を言う。この戦でのけ者にされたら一生悔やむ。
それより良いのか?軍命で契っただけの夫で有ろう?向かうは死地であるぞ。道筋大佐」
大きな乳房を互いに揺らし手を握り握手を交わす。
「軍命で契った夫だからこそである。
私情は抜いても本妻の元に首と胴体がくっついた状態で返してやらねばならない。
況してや腹に穴があいた遺骸となれば。こっちの腹に穴が開く」
冗談を交わしながらも二人は一瞬見つめ合うと少し恥ずかしそうに細棒少佐が腕を大きく広げる。
これも又とはにかみながら微笑み遠慮もなくその胸に飛びこみ手を背に回した抱き合い
友情に親しみを込めて背を叩き会い互いを鼓舞する。
「良いな。良いな。僕もそれやって欲しいです」直ぐに後ろで小童新兵が声を上げる。
「御前も乗るのか?小童だろ。死に逝くのには早くないか?
事によっては抱っこしてやっても良いが貴様には未だ早いな」
「僕が発案した作戦ですよ。皆のそれでもありますけど。
僕が乗らないで誰が乗るんです。怪我したら抱っこして下さいね」
「考えてやらんこともない。だが今は集中しろ。
・・・こら。貴様等。集中しろと言ったばかりだぞ?何故手を止める?」
「怪我したら細棒少佐が抱っこしてくれるって・・・
死に際にさまよったら道筋大佐が抱いてくれるに違いない・・・」
誰かがぼそりと呟くと皆がうなずき邪な欲望に眼光を燃やす。
「どうやら・・・我らは皆に好かれているらしい。
我等二人の抱擁であれば戦死神も数分は待ってくれるかもしれんぞ?細棒少佐。あはは」
準備が整い車両の中で楽しげに兵が嘲笑うと汽笛が成り猛る。
いざ出立。且来素子女装家第弐連隊。五十と七名の救出。いざゆかん。
漢縁之國第八攻撃部隊陸船[御亀丸]船長兼戦術士官・大亀草丸。
朝の一杯の漢方茶を当番兵に作らさせはっきり言って船長室とはとても思えない
狭くて狭くてたまらない部屋で啜る。
この陸戦は非情に特殊であり誰がこんな構造にしたのかと大亀は何時も怒る。
問題の原因は山の様に重なる。人形の砲弾を打ち出すと言う特徴は船にも多くの制限を強いる。
先ず砲台の向きは一切変えられない。砲台というよりは人形の射出口であり向きを変える事は無理である。
一般的な砲弾を砲で撃つとはちがうのだ。確かに人形砲弾自身に組み込まれた噴射機構のお陰で
砲弾でありながらもその方向を変えると言う大胆な性能で敵列車と併走する必要はない。
もっともこれも限界があるからやはり望ましいのは敵列車と併走出来るのが理想だ。
それから人形砲弾は貫通弾である。それ自体に爆薬は搭載出来ていない。
頭の先にでもつければよいではないかと技術者を怒鳴れば
其れが出来てればやってますと逆に噛みつかれる。
それと砲弾の数。使用する人形砲弾の数は思いの他多い。
前回の戦闘でも敵の主砲砲撃は三回もあった。
それも動いている列車の上から三回。直撃でもあったのだ。
それを寸前で止めたのも人形砲弾の弾幕を打ちだしたして防いだ。
御亀丸は敵列車の攻撃も彼らの主砲からの攻撃を防ぐにのも共に人形砲弾に頼っているのだ。
勿論多少の回転機銃等は装備している。それも敵が近くによってこなければ無意味だ。
砲弾一発よりも砲弾の部類としてはかなり大きくなる人の形をした砲弾を
御亀丸は相当数と腹に納めている。結果に兵の往来には不便が生じる。
「所詮は実験船に過ぎぬのだ・・・」
称賛と期待を込めて万感と港を送り出されたが失敗すればやはり無能であったと嘲笑われる。
体よく誰もやりたがない実験船のを押し付けられた苦く口唇を大亀は舐める。
「我。敵影視認せり。敵列車視認せり」
待っていた。随分と待たせてくれたなと漢方茶を当番兵に押し付け部屋を出る。
途中何度も角を曲がる度に兵と打つかりはしごを登れば軍靴に指を踏まれる。
やっと指揮室に入ったと思えば船は止まったままであり兵員も黙ったままだ。
「馬鹿者。やっと出てきた獲物だぞ?さっさと動かさんかっ」
実験船であればこそ一つでも多く功績を上げる必要がある。
前回の戦闘に打ち勝ったこそ今度も絶好の機会で有る。
「あれを獲物と呼ぶには抵抗があります」
普段から意見の具申を求める度に自分が欲しい答えとは真逆の態度を取る副官が
双眼鏡を手渡してくる。観ろ言わんばかりだが普段はそんなことも一切しない奴でも有る。
その副官が差し出した双眼鏡を無造作につかみ眼に当てると。
「あっあれは・・・暴走してるではないか?しかも線路を逆走してるぞ?」
「頭腐ってるじゃないですか?指揮管殿。あれは救援列車です。
あれを獲物と言うのはやはり抵抗があります」
腹の立つ言い回しではあるが大亀は非を認める。認めざる負えない。
双眼鏡の中に移る列車。あれを列車と言うのかと言う議論は後にして
正に巨大車輪を唸らせ黑燄を吐き出し猪突猛進に爆走する列車は
本来の進行方向に対して逆に進む。
其の胴体にはやたら目立つ桃色蛍光色の太い線が横に奔る。
あれは国際人権機構に正式認可される救援活動の示す識別色である。
更には国際標準語は元より漢縁の漢字言葉で
【手出し御無用。我等、母と子供の元へ帰り足し候】と刻まれている。
明らかに救援列車で在ると声宝かに宣言している。
これを獲物と呼ぶなら自分は悪魔の手先に違いない。
大亀は癖で双眼鏡を空にむける。何処かの誰かが航空偵察機を飛ばしてないかと
心配になったのだ。幸いにそこには鳥の群れしか観えてはない。
「大亀丸起動。進路逆進。速度全速。急げ・・・。見極める必要はあります故」
時より副官の漢は自分より冷酷なのではないかとも大亀は思う。
この時点で桃色蛍光の線を確認してるのだ。空に誰も見てないとしても。
此処に留まり見逃してやれば戦果は上がらなくも世情は責めない。
それでも罠を疑うのか副官は双眼鏡を再び目に当てじっと睨む。
「合流地点まで残り三分の一です。吐きそう。僕」
「我慢しろ。小童。戦友は血反吐吐いて待っているんだぞ」
激しく揺れる車両の中で耐えて備えて怒声が上がる。
胃には何も入ってなくても何度も戻る胃液をぐっとこらえ地図と時計を新兵が睨む。
「敵船が現れたらしいな。後少しで射程にはいるとか?」
その時又と列車がグイグイと加速する。
「あの翁機関車は何処まで馬鹿力なんだ?未だ余力があるとでも言うのか?
これではたどり着く頃には船酔い所か列車酔いで脚がフラフラに成るぞ」
「構わん。それでも五十と七人全員救ってやるさ。我ら倭之御國帝国陸軍成るぞ」
あまりに早く線路の上を爆走する列車に皆が驚きか身体と機材を支えるのが必死と成る。
最初の大きく先頭の翁基機関車がぼお~~~~と汽笛を猛り
それに答えて後ろの機関車二両がぼお~~~~と答える。
「来ます。衝撃に備えて」小童新兵が怒鳴る。
幼いと言えども漢だ。腹から出した声はよく響く。
ゴンっと頭を殴られる勢いで衝撃が奔る。
先頭の翁機関車が弐拾と数える車輪を一斉に止める。
待ってましたとばかりに最新式を誇る続く二両の機関車の車輪が逆に回転する。
最初こそ勢い激しく前に進む物理法則の慣性には逆らえぬが徐々に速度が堕ちて行く。
巨大な車輪を止め輪がガッチリと抑え線路が燃える程に火華を上げる。
二両の機関車の車輪は逆転し勢い良くも激しく回れば速度が堕ちる。
確かにと列車の速度が緩くなりやがて且来達が待つ合流視点も近くなる。
当然それは対陸を追って奔ってくる陸の船その砲弾の射程に入ることにも成る。
あの謎ともいえ正体見たりと知る人形砲弾が飛んでくるかも知れぬ距離である。
「此処です。行きますよ。皆さん」合図と指揮を取る小童新兵が手を挙げる。
「行くぞ。必ず助けるぞっ。全員降車。行け行け行け行け行け行けぇ」
女性であるにも関わらず野太く猛る怒声を上げて細棒少佐が先人を切る。
遅れてならずとしずゑが飛び出し軍夫がいるはずの丘の影に真っ直ぐ奔る。
列車を運行する機関士とって尤も難しくも尤も腕の良さを見せつけるのが停車である。
時にもまたこの時帝国軍中間管理基地に属する十二名の機関士の腕は冴えに冴え
設定された場所に寸違わずに停車して魅せる。爆走然り暴れまわる機関車共で有りながらである。
「貴方。貴方。私の飼い主」憚らずも声を上げ軍夫の且来にしずゑが駆け寄る。
「儂はいい。先きに兵どもを・・・」
流石に披露困憊で少しは体重をしぼっておけば良かっと人生一度に後悔する且来であるが
それでもしずゑ一人では動かせない。
「細棒少佐であります。奥様から噂は聞いております。
犬の躾けが偉く得意で在るとの事。私も誰かに頭を撫でて貰いたいですからな」
且来にも負けない位の背丈を筋を持つ細棒少佐は腰に力を込めて重い且来の身体を支える。
「それ。それを持ってくれ。粗胡椒少尉。粗胡椒少尉は?」
満足にも動かぬ手を振り何やら変な人形もどきを指差すも部下の名前を連呼する。
「此処に。此処に居ます。おでぶ准尉。此処にいますから」
最初からずっと生死を共のこの日まで過ごした粗胡椒少尉の名を呼び安否を確かめる。
「すまん・・・手間を掛ける。しずゑ」満足に目もあけられぬ癖に軍妻に一つ且来が詫びる
「妻で御座います。夫婦で御座いますよ。散歩の回数増やして貰いますけど」
良くも解らずも何処か嬉しく感じるのだろう。且来の顔に笑顔が浮かぶ。
そこは真に戦場で在る。
救護活動で成ればこそ。状況は良いとは言えない。
列車から飛び降りた陸軍兵士は銃を持たずともそこは戦さ場で在ると知り
己の脚二本で丘を駆け上り回り込み戦友五十七名の元へ辿り着く。
巨漢を誇り体力に自信が在るはずの且来さえ満足に動けずに
妻と背高の将校に身体を預けて脚を引きずるのだ。
自身で動ける者などいるはずもない。
救助兵は戦友を見つけると肩を貸す。抱き上げる。背中に担ぐ
そして真っ直ぐ着た道を戻り列車に友を預けて又奔り担架板の引く仲間に手を貸し奔る。
救助に掛かる時間は思ったよりも長くかかり時計を見つめる小童新兵の額に汗が滲む。
「どれくらいです?どれくらい残ってるです?」
手のがない兵士を抱えて戻る救助兵にもどかしく聞く。
「半分。後半分。泥で脚が捉えれるんだ。思うように行ってない。」
投げられた問に焦りと不甲斐なさを混ぜて兵が唸る。
「良いから行って下さい。後は任せて」其の一言を信じて泥の中と兵は奔る。
小童新兵と字名に呼ばれるが自分はそこを離れる訳には行かない。
本来なら一人でも多くの仲間を巣食うために自分だって泥の中を奔りたい。
否それこそ然し。軍の兵士には役割がある。
小童新兵は時計を確認し作戦項目を記した板に印を弾く。
「やって下さい。扉を開けて下さい。今です」
出来るだけ冷静な声を出していると願いつつ小童新兵は無線機に向かって指示を出す。
「撃てる距離ですよ?司令官殿。並んでは居ません。
然し人形砲弾の曲射なら捉えられます・・・」副官の冷静な言葉が嫌味に聞こえる。
煙突に直接薪を投げ入れたかのように通常進路と反対に逆走した化け物機関車は
ある地点で減速し線路を紅く燃やして突然止まる。
未だ直線砲撃位置とは行かずと砲撃は可能である。
そうは言っても相手は国際人権法にも基づく救助列車だ。
自分達にもちゃんと読める文字で其の旨も伝えて来てる。
此処で救難列車を撃てば避難を浴びるのも当たり前だろう。
然し実験船で在る限り戦果は一つでも多くも欲しい。それが自分の功績にも成る。
空には鳥しか群れを成していない。
簡単なことであろう。誰も観てないのなら救援列車で有ろうとも
その残骸残さず完膚なき迄で破壊し鉄屑にすれば良いだけである。
「撃つのですか?本当に・・・?」
まるで本当に馬鹿ではないのかと言う目つきで睨む副官を無視し
「八番から十六番まで射出口開け。人形の準備ができ次第。砲台に送れ。
後は各射撃手のタイミング合わせで射出しろ」
汚くも卑怯なやり口だと副官は心に思う。
あの射出口にはそれぞれ四対同時の人形を発射出来る。
指定した四倍の数の人形砲弾が打たれる事に成る。
敵車両は確かに停止し此処からでも丘の向こうに兵は奔り救出活動を行なっているのが分かる。
負傷した兵に肩をかし動けない仲間を担いで泥に脚を取られながらも奔る姿が視える。
必死に奔り救護車両に運びこむと汗も拭かずに又丘へを駆け上がる。
そこは人形砲弾を打ち込めばあっとゆう間に壊滅するだろう。
余りに残酷過ぎる上に砲撃のタイミングを砲手に任せると言うのだ。
自分は責任を負わないつもりである。これで撃っても自分は知らぬと後で言うのだろう。
[犬の九番人形砲弾装填完了。再度確認求む。こちらでも救助列車と確認
それでも尚砲撃せよと言うのか?]
[装填了解。撃って良しとの命令で在る。貴殿のタイミングで撃って良しで在る]
なんともいい加減で曖昧命令であるが撃って良いなら撃つだけである。
何処か釈然としない気持ちで犬の九番砲手は稼働式の照準器を覗き込み引き金を半分絞る。
[こちら犬の九番砲撃担当射手・・・砲撃の許可あれども・・・砲撃を拒否する。
繰り返す。自分は一切の砲撃を拒否する。必要であれば後日軍法会議の席で弁明する]
[同八番砲撃担当射手・・・同じく本日の職務を放棄する・・・
理由は昨夜食べた鮎の塩焼きがに腹があった為である。砲撃室に鍵掛けた・・]
[こ・・・こんなの撃てるか?あんたはそれでも撃てと言うのか?馬鹿野郎]
撃って良いと命じたはずの担当砲手達が次々に砲撃を拒否する。
在るものは正式に軍法会議に進んで出ると宣言し
他の者は昨夜食べた焼き魚に今頃あったたと言い訳し
溜まった有給休暇を今使うと宣言したり。最後には平然と上官を罵倒する者もいる。
「やって下さい。扉を開けて下さい。今です」
やたらと若い。こいつ子供じゃないかと疑う若い兵士の声が無線機から跳ねて届くと
次の作戦を担当する兵士は疑いも躊躇もせずに反対側の扉を開いた。
「很好,可以走了。你是自由的。你不再是战俘了。你可以返回你的国家与家人团聚。
行って良いそ。貴方は自由だ。もう捕虜ではない。國の家族の元へ帰って良いぞ」
相手に伝わるように彼らの國言葉で大きくはっきりと叫ぶ。
困惑したのは長い間倭之御國帝国陸軍に捕虜として扱われてきた漢達だ。
その日中間管理基地に囚われていた八十の漢縁國の兵士達は突然に
風呂に入るように言われ肌にこびり着いた垢を落すと今度は温かい料理を与えられる
これは最後の晩餐かと覚悟すればは懐かしくもありがたい漢縁の民族衣装を渡される。
本当に最後で在ると覚悟したのはやたらと早く振動も激しい列車に乗らされたからだ。
見張りの兵士は一応の拳銃を腰に括るもののこちらには余り気を使わずに
無線機を耳からはなさない。これも又車輪がきしんで止まり暫くすると
兵士が扉を開けて声を張り上げる。
それは間違いなくも國へ帰れ。彼処に御前の仲間がいると観た事もない船を指差す。
当惑しても其れが希望であり漢縁の兵士達は歓喜に震え列車を飛んで降りる。
「捕虜です。あれは我が國の兵士です。
彼奴等。自軍の兵士を助けるために捕虜を開放したんです」
敵ながら大胆である。真逆このタイミングで捕虜を開放するとは誰も思わない。
列車をに照準を向け引き金を絞る射手の眼に漢縁の民族衣装を着た同胞が手を振って跳ねる。
これでも撃てというのなら御前が勝手にやれば良いと砲手は怒りに声を上げる。
「あとどれくらいです。そろそろ限界です。」
「あと・・・二人。早く・早く。且来准尉は?奥様は?」
「其れは大丈夫。二人だけ?。早く早く。」
居ても堪らず小童新兵は作戦板を投げ出し列車から半身を乗り出し残りの二人に手を貸す
「どっこしょ。点呼確認して。直ぐ。」
「五十五。五十禄。五十七。良しっ全員確保だ。小童」
「救助隊も全員無事だ。良かった。貴方」
披露困憊なのだろう。且来は車両の上で大の字のままピクリともしない。
その太い指を粗胡椒少尉が握ったまま離さず隣にへたり込む。
「こちら救助隊。機関士へ。且来素子女装家連隊五十と七名全員確保
出してください。出発御願いします。」小童新兵が誇らしげに無線機に吠える
「了解。ご苦労。やったな。若造め」これも又自慢げに低い声が変えると
機関車の汽笛が三つ綺麗に並んで青空に猛る。
行きは良い良い帰りは怖い。それが旅路の当たり前。
古く昔から言われるように何事も事が起きるのは帰り道である。
元より最初からこの救助列車は線路を逆走してる。
三連と繋がる機関車の内先頭の翁機関車は逆輪機構がない。
前には勧めても動力を持って後ろには進めない。
帰り道に残りの二両が逆輪に動力を伝え車両を押して行く形になる。
御荷物とも成るしどうしても速度は上がらない。
それでも汽笛を鳴らすと機関車の車輪がゆっくりと回りだし動き出す。
[警告・敵船に動き有り・・・撃ってくるぞ]
今までずっと沈黙を守ってきた主砲列車の中佐が吠える。
[本当ですか?ほんとうに?]
[射手機に動きが見える]
[こちらに出来る事はありません。お任せします。]
[了解した]短く重い答えの中に歴戦の兵の殺気が滲む。
【こちら奇猿十六番砲塔射手。自分の砲台は自動機構です。
司令室からの指示がでるとあとは自動で発射します。同胞に当たります・・・】
まるですでに人を同胞を殺めたかのように震える砲手の声が御亀丸の指揮書に響く
「十六番・・・だから十六番を開けたのか?この馬鹿野郎。
砲手の撃てるタイミングで・・・自動計算装置に同胞が識別出来るはずもない。
的だ。只の的だ。あんたは同胞を的にしたんだっ」
副官に言われるまでも無く司令官大亀は気づいていた。
自分の口で十六番の砲台を開けろと射手の裁量で撃って良しと命令したのだ。
例え何か不慮の出来事有りきでも十六番砲塔自動計算装置は適切なタイミングで
敵列車を砲撃する。それは自分の功績と記録に残る。
然しそれは同胞殺しの大亀司令と言う肩書きであった。
「进入。快,上火车。乗れ。早く列車に乗れ」
短くも早い言葉が繰り返される。降りたと思えば乗れと言う。
しかも列車は動き出している。人数も多い。すぐには戻るのは無理だ。
事態を疑う者もいるし。味方の船にいまだ手を振る者もいる。
それでも陸の船の射出装置の奥に朱く光が灯るのが視えると意味を知る。
我先へと列車にもどるが脚がもつれ転んでしまい諦めると誰かが方を掴む。
言葉解らずもそれが帝国陸軍兵士であり転んだ自分を助けるために
列車から飛び降りたも知れる。手を借りて貨車に這い上がれは
帝国陸軍兵が皆が手を伸ばし漢縁の者を救い上げる。
昨日自分を殴った看守兵が真っ先に列車を降りて皆を救う。
それでも願い構わずに砲弾が今まさに射出され死ぬと悟って
敵一人の漢をかばって地に伏せる。
ドンっと言う鈍い音が射出口に響くがその時には既に人形砲弾は射出されている。
常に音は後から響く。そして光は其れより早い。
四基の人形砲弾が我先にと目標目掛けて空気を切り裂く。
迷いも躊躇も慈悲も一切なく。目標に向かって起動を修正し破壊するために真っ直ぐ進む。
稲妻光りて閃光煌めきドンと音が炸裂すれば土塊柱が高く舞い上がる。
そして音より人形よりも光は早い。
「閃光弾発火良し。目標砲弾進路変更確認済み。二つは落下
残りはこちらを捕獲出来ず的を外し山向こうに着弾。我ら被害なし」
全車両に流される無縁を身にに皆が安堵にため息を付く。
「観物だぞ。倭之御國帝国陸軍の大砲撃ちを怒らせると後が怖いぞ?」
皮肉交じりに肩脚を引きずる負傷兵が言い放つ。
三回に二回ははずず癖に残りの一発で三つの的を全部破壊すると言う
訳の分からない特技を売りする大砲撃ちを誂う冗談でもある。
否然し。その日救援列車に乗り込んだ大砲撃ちは年季と踏んだ修羅場の数が違う。
「閃光弾発火良し・・・良し次だ。主砲外装はずせ・・・砲を回せ・・・弾込め初めっ」
最後尾であったはず主砲車両は逆走となれば先頭と成る。
つまりは向かって追いかけて来た敵陸の船とはもっとも近い距離に入る。
当然射程距離内となり未だ列車の速度もそれ程ではない。
砲身が回り砲塔が上がる。計測師が数値を読み上げ砲手が照準機を覗く。
「当ててやるな・・・止めは次回に取っておけ。・・・撃てっ」
主砲が火を拭きドンっと音が跳ねて車両が揺れる。
「着弾。本線進路の直ぐ左。追ってくるなと警告です」
御亀丸の横で土煙猛々と跳ね上がり船体が揺れる。
警告であるのは重々承知。されど撃った砲撃が外れるとは恥であり窮地である。
態とであれ故意であれ事故であれも救難車両と知って撃ったのだ。
弾が当たらずこのまま逃げられては国際法まで無視して撃った甲斐がない
むしろ証拠隠滅せねば後がない。
「後進全速・・・あの列車に並べ。意地でも並べ」
冷酷な言葉と態度を毎日のように投げてくる副官よりも更に冷たく大亀が吐き捨てる。
「意外と早いんだな・・・漢縁の陸の船って・・・」
「そりゃそうだ。陸の上を奔っても戦艦だからな。
其れにこっちは一両車輪が空回りしてるからな。デカブツが。」
「そいつのお陰で連隊を救えたんだ。文句言う前に礼を言え」
「判ってるさ。後できちんと手を入れて磨き上げるさ。
老翁機関車とか言ってもあの馬力だぞ。未だまだ引退なんかさせるものか」
敵船が迫りつつとあると言うのに意外にのんびりと機関士達が笑いあう。
「あの・・・無事に助かったのは良いし。皆には礼を言う。
然し未だ。敵船が追ってきてるぞ?」
何とか手足を失わずに自分の脚で立つ事が出来る連隊の兵士が窓の外を見つめて告げる。
そこには猛々と又船煙突から煙を上げ迫る陸の上を奔る船が迫ってくる。
「貴殿は鉄道部隊の隊員で有ろう。つまりは駅員だ。時計を観る癖を忘れたのか?
悲惨な行軍をこなしたのも分かる。否然し。駅員たるとも運行表は暗記しておくべきだ。」
自分と同じ位の年がそれとも少し若い兵士が声を掛け、まずは落ち着けと手で示す。
言われるままに窓を覗くのを止め腰を下ろすと隣の兵士が車両の取手に結んだ綱紐を握らせる。
「歯を食いしばったほうが良いぞ」にやりと嘲笑うと自分も綱紐をしっかり握る。
皆がしゃがみ綱紐を片手でしっかり握り開いたで動けない戦友の身体を抑える。
「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・」
息を呑む車両の中で誰かが秒を読んで声を上げる。
最後の1の次のタイミングでドンっと衝撃奔り皆の身体が同じ方向に揺れる。
座って無ければ綱紐を握って耐えてなければ容易に反対側に飛ばされる程の衝撃である。
だが次の瞬間には身体に反対向きの加速が掛かる。
「うはっ。これはきつい・・・だが何だ?加速してるぞ。列車が加速してる?」
そして車両全体に無線がアナウンスされる。
【本日壱丸四字弐拾分発・中間管理基地行特別急行列車・只今参上。
尚当方。機関車のみの六両編成で構成される為。
速度に自信あってもカーブを曲がりきれるか不安有り
嗚呼。饂飩食べたい。嗚呼。饂飩食べたい】
救援車両に乗る全員が歓喜の声を上げたのは確かである。
その日の午後一つ前の管理基地から出発した正規の時刻表にも乗る列車は
特別な車両構成に換装される。一つ向こうの中間管理基地で本日に振るまわれる
車海老の天麩羅饂飩は基地の料理人が腕を振るう極上品らしい。
それを噂と聞いた機関士達は我先にと自分が扱う機関車を操車場へと勝手に出して
次々と連結し始める。騒ぎに気がついた基地司令管が慌てて止め。
責めて四両までにしろと厳命するも車海老の天麩羅饂飩の悪魔の囁きに囚われた
機関手達は手を止めず言う事を聞かない。
確してこちらも定刻どおりにきっちりと発進し。
それて今に予定通りに救援車両の後ろに連結し猪突猛進ばかりに突き進む。
「早い早い。速すぎる。これって列車の速度なのか?」
「耐えろ。耐えるんだよ。やり過ぎだと思うが奴らだって饂飩たべたいんだ。
頑張らないと車海老が只の野菜かき揚げになるって噂だぞ。
連中だって必死にもなるさ。でもカーブ曲がれないかもって恐怖だぞ」
1両が沈黙し2両が逆輪機構で車輪を回す後から連結した6両が押せや押せやで
押して通せばもはや機関車の速度の域はとっくに超えてる。
これでは幾ら陸の船が全力で煙突から煙を履こうとも追いつけるはずなどありえない。
「恥を掻きましたな。司令官殿。
敵であろうがなかろうが救援列車に砲を向けた所か発泡するも
手口読まれて発光弾で目眩まし。的は外すし今度は後続から特急列車とは。
オイ。未だ止まらないのか?壊してもいいから16番を止めろ。馬鹿者」
今でこそ追いつけるはずもなく遠くへと離れて行った倭之御國救援列車であるが
自動思考装置が管理する16番砲台は暫くの間勝手に砲撃を行っていた。
幾度は後方に当たるかもしれないとまでの砲撃をおこなったが
当然敵の発光弾で目眩ましをくらい在らぬ方向へを弾が落ちる。
後続の機関車が突然現れ連結された後はもうどうしようもない速度をで逃げ切られ
恥の上乗りをしただけである。同時になにか不具合でもでたのか
何をしても自動思考装置が錯綜し未だに16番砲塔は稼働しているのが尚に悪い。
「道筋大佐殿。旦那殿は寝てるのか?気絶してるのか?」
無事に敵船から逃げ切れたと確認みちた声が無線から聞こえて暫く後に
床に大の字になって転がる且来の顔を覗き込んで細棒少佐が問いかける
「気絶してるんだとおもうわ。一応。寝てるなら少し鼾描くもの。
鼻を摘むとおきるわ。いつもなら」膝に軍夫の頭を乗せてしずゑが答える。
「そうかなるほど。では今は気絶してるのだな?
車海老の天麩羅饂飩の丼を抱えてるとかの夢は見てないのだな?」
無事に敵砲の射程から離れたと言う安心感も在るのだろう。
漢のそれにも負けないのではないかと言うくらい大きな指で
眼を閉じている且来の鼻を摘もうと迫る。
「道筋しずゑ大佐。それとも且来婦人とお呼びしたほうが宜しいのでしょうか?
少々時間と手間をお借りしたいと存じます」
確かに救援隊として参加してる中尉であるが何故か急に改めた物言いである。
「私が変わろう。いやちょっと狸ねいりかと心配になっただけだ。
帰ってくるまで悪さも悪戯もしないと誓おう」
既に互いに親友の儀をむすんだ二人であるからそ互いに信じで軍夫の頭を細棒に譲る。
「何事であるか?作戦事項の変更か?」車両の奥へ後ろへと案内する中尉に問いかける。
「否。見事な作戦で有りました。自分も参加出来て光栄であります
別な問題と言えば良いのかそうでないのか。
開放した捕虜の代表がこちらの上官とどうしても話をしたいと」
「倭之御國帝国陸軍・道筋しずゑ上級大佐である。
すまなかった。本当なら貴殿等は今日國家に帰れるはずであった。
不慮とかはいえ迷惑を掛けた・・・。そちらは?」
「道筋しずゑ上級大佐殿。配慮痛み入る。
あれは事故ではも不慮でもない。確固たる悪意の結果だ。
貴殿が気に病む事ではない。寧ろとっさの判断で皆を拾ってくれたのは感極まる。
然し。私の名前は伏せてほしい。祖国を裏切るのだ」
「相わかった。・・・それで?
既に人払いをしてある狭い車掌室の中で息をのみ漢縁の捕虜の言葉をじっと待つ。
「最初にあの船とそれに息を掛けたのは漢縁ではないと思える」
「何故に?そして誰か漢縁に手を貸したと言うのだ?」
「漢縁の民は粗暴で物事を拳骨で無理に解決する傾向にある。それは認める。
だが反対に牧歌的でも有るがゆえに繊細な知恵を持たない。
あの船は繊細過ぎる。漢縁の民と技術だけでは作れない。
自分は3年捕虜となって囚われている。でもその前に一度だけあれと似た物を観た事がある。
今の半分くらいの大きさで試験船だった。あれも陸の上を奔る船であり造ったのは
豪州商運連合の輩だった。間違いない。」
「豪州商運連合・・・。
噂はあった。然し表向きは現在でも中立であるぞ。奴らは金の匂いにしか興味ないと思うが」
「逆だよ。道筋大佐殿。
金の匂いがちょっとでもすれば何処にでも現れるハイエナである。
貴殿等の列車防衛線を突破出来ればその先の自治領に豊かな土地と鉱山と港
そして民と商機があるではないか?そこにハイエナが食いつかないはずはない」
「なるほど。それは分かる。
私に読みきれなくても軍の誰かがやっておろう。
態々個々に呼びつけて告白するには虚ろな話でないか?」
「云々。ここまでは前菜だよ。大佐殿
私が見た船は試験船だからあれとはちがうかもしれない。
否然し・・・。いかんいかん。貴殿らの言い回しが口についてるな
兎に角だな。試験船もあの陸の船も形がおかしくないか?
「形?すまぬ。そこまでじっくりと敵影を観る暇がなかった。
前回も主砲の標準の中でしか見れてないから全容までは記憶にないな。」
「うんうん。ぱっと観ただけではわからないとおもう。
あの船は前も後ろも同じ形なんだよ。」
祖国を裏切ると行った捕虜は口に指を小声で呟く。
「前も後ろも同じ形?それがどうした?」
「前も後ろも同じ形であれば。前にも後ろにも好きに進めると言う事。
普通に海を奔る船は方向転換するには旋回するだろうに。
前にも後ろにも旋回する必要がない乗り物は?」
「列車だっ。あれは船の形をした列車なのか?」しずゑは自分で言葉にしても驚く
「御名答である。大佐殿。あれは戦艦の形をした列車だよ。
勿論大型ではあるしわからないことも多い。恐らく地面に溝を掘って一本のレールを
埋め込みその上をあれが奔ってるだろう。
しかも大きすぎるから大きくは曲がれない。精々ゆったりとした孤の動きしか出来ない。
砲弾に付いての秘密は分からない。でもあの船の秘密は確かに告げたぞ。大佐殿」
それ程年配でもない癖に随分と芝居かかった奴だと思ったが
当人も大きな秘密を暴いて興奮を無理に押さえていたのだろう。
こちらも線路の上を奔る列車使いであればこそ相手が同じとなれば扱いやすい
未だ問題はあるとはおもうが確認も必要だ。
「貴殿の勇気ある行動に感謝する」
しずゑは最大級の敬意を払いと敬礼しすると車掌室を急ぎ出る。
「中尉。あの方に珈琲を差し上げろ。入れ置きは駄目だ
貴様が責任を持って新しく入れて差し上げろ。
それから捕虜一同の状態を確認しろ。不都合があったら即対処するんだ
・・・捕虜殿?野菜のかき揚げ饂飩で宜しいか?それなら私の裁量で奢ってやれる。
勿論。捕虜全員分である」狭い車両を尻を揺らし去りゆきながらも大声で大佐が叫ぶ。
夫が女性少佐の膝上で惰眠を貪る車両に戻ると通信課の兵を探し出し
電文を飛ばす。
それは倭之御國上州自治地区の港前に常駐する海軍戦艦当てであり
当然全文暗号極まりない物で有るがわかりやすくなおせば要件は二つ。
最初には本日の陸軍の作戦遂行時に不慮の事態に陥り十数名の兵士が
敵陣との交戦地域に取り残されている可能性が濃厚であり其の中には
漢縁の捕虜もいるので成るべく早く救出してほしいと言うもの。
2つ目は同作戦にて遭遇した敵船舶戦艦の上空に偵察機を飛ばし
該当戦艦と付近の状況写真を撮影して欲しいと言うものであった。
これに対し倭之御國帝国海軍所属戦艦光月の対処として・・・。
軍嫁の膝の上でそれは何とか眼を覚まし見知らぬ特に肌の色も違う女性将校に
白湯を呑ませてもらいしっかりと且来の手を握りながらも5つ目のおにぎりをほおばる
貧乳の少尉の笑顔に安心する且来の耳にも良くと聞こえる。
「こちら倭之御國帝国海軍所属戦艦光月艦載機・強襲偵察爆撃機新沼機長で有る。
先刻。貴軍将校から通達があった件にて。
陸軍兵士・及び捕虜については既に別働隊が救出済みである。
そちらの基地にはまもなく到着するであろう。
尚。当機は該当戦艦の上空を旋回し要望のあった写真を撮影・本部へ送信済みで有る。
参考になるか分からないが懸念のあったが大型戦艦の戦後に単本線路らしき物を
目視で確認。詳細は本部解析後の結果を参照せよ・・・。
あっ・・・・ごめん・・・。ちょっと落としちゃった・・・爆弾・・・2発・・・。
御免なさい。せっかく飛んだのに写真撮影だけって悲しいじゃん。
大丈夫。当たってないから船には・・・云々・・・潰したの線路だけ。云々。
これより強襲偵察爆撃機新沼機。帰還する。
嗚呼。御蕎麦食べたい。鰊の一本蕎麦が良い。嗚呼。御蕎麦食べたい。交信終わり」
「何故に私の顔を観る?私は只。救助してくれと写真撮ってくれといっただけだぞ
爆弾投下しろとは言ってない。例えあれが都合よく暫く動けなく成ったとしても。
私は悪くない。そんなやりすぎたのは私じゃないぞっ」
頭を膝に乗せるもその且来にもじろりと睨まれ況してや車両内全員から
こいつは好き勝手にやり過ぎる危ない上官であると睨まれれば道筋しずゑ大佐も肩身が狭い。
既に昔にその役目を終え倉庫の隅に眠ってた初代武装機関車。
それに引かれ又帰りには逆輪機構に車輪を回し先人と成る翁を引き倒した現代の2両の機関車。
常に日頃に定時に出発し必ず定時に次の駅に到着する事を原則とし
次駅で振る舞われる車海老の天麩羅饂飩食べたさに押し倒した六両の暴走機関車。
その余りにも強引な機関車に牽引され確かに数回程は脱線事故をおこしかけるも
倭之御國第弐女装家連隊救出作戦の終了到着時間において
これも又と定刻通りに中間管理基地操車場て駅に到着した。
駅に到着したと汽笛が鳴らされ、担当駅員兵士が安全確認ごに笛を高らかに吹いた後。
関わった将官なり兵士は拳を天に突き上げて歓喜に声を上げる。
駅舎基地からは蟻の巣を突いたように人々が彼らを出迎えようと走り出る。
「すまぬ。一人で歩かせてくれ・・・」
疲労困憊であり自らも又身体の何処かにも怪我を負ってるはずの且来は
両肩を支える軍妻と自分を支えてくれる女性将校に願いを伝える。
互いにうなずき巨躯の漢の肩を離すと且来はふらりと少しふらつく
何くそこれしきと脚と大地に踏みつけゆっくりと駅舎を降り中央降車広場に向かう。
気がつけば側には前回任務の最初から一緒に任務に参加し死線を潜り抜けてきた
粗胡椒少尉も自らの二本の脚でしっかりと立って寄り添う。
又、更に見渡せば且来と共に死線を超えもし死の淵をさまよった者も
歩ける者は自分で。肩を借りる者も又側に。担架に乗る者も且来の側を指差し
側に行きたいと仲間につげる。徐々に集まり疎らで在っても塊となり
臨時で在っても且来率いる第弐女装家連隊が列を成す。
「東に日昇り入出。人の営みの夜果と西に日沈み給えの御國。
倭之御國帝国陸軍・且来素子鏡蔵准尉以下五十七名。
第弐女装家連隊。本日此処に帰還致す。
我らの救出の為に御助力頂いた方々に深く頭を垂れて感謝する。
有難う御座いましたで。いざ候」
風を巻きパタパタと音とならし跳ねる倭之御國国旗と戦友の前に且来は腰を深く負って一礼し
連隊隊員全員も動かぬ身体に満身の力を込め敬礼とする。
気を張りすぎたとでも言うのだろう。
腹の大きさと体力を自負する且来もそこまでありどかりと地面に尻を落とす。
「貴方。お帰りなさい。貴方。貴方」軍妻しずゑが涙に破顔して掛けより抱きつく。
「良くぞ。お帰りに成られた。且来殿。
つきましては正しい犬の飼われ方を教えて貰えないか」
少々困惑する声を細棒と言う将官に投げられたり。
「道筋御先祖様から頂いた物。列車の中で開けてみたんです。私。
そしたら離婚届なんです。正式な奴。これって貧乳弄りの夫と別れて
准尉の元へ嫁げと言う事でしょうか?天啓が離婚届ってどうゆう事でしょう?
ねっ。准尉聞いてます?聞いてますか?おでぶ准尉殿」
少々小煩くも纏わりつく子犬共の吠声であると苦く嘲笑うも安堵感が腹を空かせる。
「御所望の車海老の天麩羅饂飩です。少々気合が入ってな。
弐枚乗せで有る。堪能してくれると嬉しいぞ」
ずいと眼の前に出された車海老の天麩羅饂飩は確かに且来が所望した一品であり
当然。たった今にと茹で上げた物である。
「忝ない。頂きます。有難う」無骨でもあり怪我を放置したままの手をバチンと合わせ
一例すると何日も食にありついてなかった野良犬の様に天ぷらに噛みつき饂飩を啜る。
且来の腹では一杯で当然に収まるはずも無く。2杯3杯と椀を重ねる。
其の度に態々と寡黙で指の圧に自信のある料理人は且来の元に饂飩を運んでくれる。
気前よく中間基地の将官兵士と又其の日に故郷に変える夢を自軍の船に裏切られた
漢縁の捕虜たちにも遠慮なく饂飩が振る舞われる。
饂飩の杯が十と七を超えると人心地がついたのか又壱に手を合わせると
「馳走になった。料理人殿。残りは又後で頂くとしよう。
やりたい事があるのでな・・・。御先祖様に礼を申さねばならん」
「御先祖様・・・?」隣で饂飩を啜るしずゑにはそこで待っていろと告げ
代わりに未だ離婚届のを睨む粗胡椒少尉をそれはあとで考えろと促す。
且来自信も本調子と言えずふらつくが感謝の気持ちを示すのは心が冷えない内が良い。
気配を察し連隊の動ける者が後に続く。
且来は古く使われてない倉庫の一角に脚を運び。簡単では有るが箒でさらりと掃除する。
物資調達課から成るべくも古い年季の入った神棚とそれなりに大きな木箱を持って越させ
倉庫の隅に二つ置くと先ずは倭之御國儀礼をなぞり壱礼壱泊と手を打ち鳴らし
あの怪人道筋噂徳の名を唱え。貴殿のお陰で五十と七の其の命を救えたと頭を二度目に下げる。
それから預かり物であった人磁石と最後まで皆に水を与えてくれた羊皮の水筒を
お返しすると箱に納める。それから貴殿はおしゃれおしゃれと申したが
商売人で有るならばやはり靴は大事であるからと死線を越えた軍靴を納める。
それを観た粗胡椒少尉はあの砲撃を生き抜いた且来と自分を繋いだ綱紐を納め
他の物も皆それぞれに命繋いだ品々をいつか誰かの役に立つようにと気持ちを込めて箱に入れる。
その時こそに且来率いる女装家連隊だけの風習と成り得たが奇妙な事に
中間基地の兵士達にも広く伝わる。もしかしたらと帰れぬかも知れぬと重い任務の前に
兵士が道筋噂徳の名を刻んだ神棚に祈りと酒を捧げ祈り、無事に帰還すれば
命をつないだ品を箱に詰める。近くの街村の新妻が態々基地を訪れ神棚に夫の帰還を願い
お供えし再び家族で過ごす事が出来れば感謝を込めてお供えと命繋いだ品を箱に納める。
何時しか道筋神社とも呼ばれる様になる其の場所の最も不可思議な光景を
運巡り悪く知る事になるのがこの基地でも変わり者と稀有される兵士である。
其れが親の付けた名前なのか字名なのかは本人も覚えてないらしいが
軍名簿には確かに瓢箪と記載されている。名字なのか名前なのかも知れん。
回りが瓢箪一等兵と呼べばちゃんと答えるし非番の時に基地外で太った娼婦を買う時も
瓢箪と自分の名を名乗る。
この瓢箪一等兵。先ず運巡りが極端に悪い。女にモテない。不器用手癖悪し
容姿も独特。性格悪し。捻くれてる。金巡りも悪い。不器用醜顔。金遣い荒く。
世の中の悪い漢の全ての要素を一人で全部持ってる様な漢であり
唯一の長所が悪行三昧と成る。つまりは最低の漢である。
その瓢箪が深夜に兵床を抜け出す。日課で有る軽い薬麻煙草を吸う為である。
ふらりふらりと適当に歩きまわった後に偶然に道筋神社の倉庫に脚が向く。
其れもまた偶然であるが瓢箪の仕事場の一つであり朝を夕に掃除を言いつけられている場所だ。
実は何度かこっそりと何か金目の物でも盗めないかと蓋と開けようとしたが
瓢箪には無理だった。何か仕掛けがあるのか瓢箪が信心深くないせいか。
どんなに箱の蓋隙間に指を挟んで力を掛けても蓋は開く事はなかった。
その日に特に用事無く神社の影で潜み薬麻煙草吸ってると
どうやらなにかあの箱の前に人影がごそごそ動く。
遠目でしかないからわからないが飾り羽のついた山高帽を被ってる。
黒い旅燕尾服と白皮の手袋。半顔を何かの布で覆うようにも観て取れる。
その漢は何やら箱をゴソゴソと漁っては横に開いた鞄につめ。
今度は鞄から箱に品物を入れ替える。
「これはまぁ~~~。且来殿。
お気遣い頂いた様で御座います。立派で丈夫な軍靴で御座います。
少々と私の脚には大きい様ですが、其れも又一興で御座いますね」
神社の倉庫に声をはずませ自分の脚には大きい軍靴に嬉しそうに脚を入れると
代わりに脱いだサンダルを箱に入れる。
「刻の巡りの其の場所に命繋ぐ頼みの品。巡り巡りてまた繋ぐ。
云々。これは良い商売で御座います」一人で納得すると鞄を閉じると
自身の名が刻まれた神棚に壱礼壱泊すると其の姿がするりと消える。
信じられない光景に眼を擦っても其の怪人の姿はない。
薬麻の煙に在ったかと思い数日それを止めた後に
やっぱり我慢できずに煙をくねらせい神社に入れば
今度のその日は先日とよくにた出で立ちの女性が尻を振って楽しげに箱を漁る。
また別の日には大きな鞄とを踏み台にして半身を箱に突っ込む子供が漁る。
流石にその次の日だけは箱の側にごちゃごちゃと雑多な物が転がる。
まるで片付けが出来ぬ子供の様であると文句を言いつつも
自分は箱を開けられないからとその上に並べて我慢とし
真似事に壱礼壱泊して頭を上げると並べた品が蓋の上にはない。
まぁ箱の中の誰かが閉まったのだろうと勝手に決めて知らぬ存ぜぬと去ろうとすれば
自分の手に一本の黒い塗箸が握られている。
そしてそれはどんなに離そうとしても離れない。
「斯々然々後は略・・・且来准尉殿。助けて下さい。
この箸。俺にずっと付いてくるんです。捨てても投げても直ぐに戻ってきて
気味悪言ったら・・・なんとかして下さいよ」
未だ病床から満足に起き上がるにも苦労する且来が散歩に出ると瓢箪が泣きつく
「瓢箪・・・。御前がか?御前がその箸を持つのか?
それは御前が入用なものだ。何時使うかわからん。御前が入用な物だからな。
然し。瓢箪がなぁ~~~。あの怪人殿のする事はわからん。
瓢箪・・・気張って魅せろよ?御前の死期も近いと視える・・・ガハハっ」
隣に付きそう若い女性看護服の尻を撫でながら朱い夕暮れ染まる病床へと且来が変える
「死期が近いって言われても・・・
塗箸一本でどうやって生き残れって。そもそも僕が死んでも誰も悲しまないし」
その時ばかりは汚れ者の瓢箪も少しだけ本の少しだけ自分の人生を後ろ観て悔やむ。
