椅子の雌


焔灰之灰之御國。
國名に灰が2つもくっつく此の御国。
此の國についてから虎言は随分と嫌な思いを強いられている。
仕事絡みであってもなくても異国の地ともなれば旅の醍醐味でもあろう。
それでも虎言は腹に据えかねるほどに此の國特有の事情に悩まされている。
1つ目は食事である。結構旅慣れるも胃も丈夫な方である虎言であっても流石に根を上げた。
食の観ためは普通以上に旨そうにも観て取れる。否っ。実際にとても旨そうに視える。
肥沃な土地で育てられる牛や豚。広大な農地で際限なく作られる野菜と豊富な海鮮類。
他國でも観られない食材と豊かな味を楽しめると思えば全くそうではなかった。
これは食べ物全般にわたる。原因は此の國の肥沃な大地と歴史的事情が関係している。
焔灰之灰之御國。
此の國の歴史と其処に営む國人の関係は常に焔の山と関係している。
最初に焔の山有りき。
歴史上何回も其の山頂口から吹き出す焔と熱と灰。それが全てでもある。
歴史長く幾度も焔を吐き出す頂口は焔と煙と灰で大地を覆い尽くす。
岩漿と灰。地を覆い。年月を得て泥と雨がつもり重なりつもり土となれば大地である。
岩漿と灰が混じる土は他のどの大陸とも違う特性を持っていた。
過剰とも言えるほどな栄養を与える岩漿と灰。
大地に草が生えればその影響ですくすくと育つ。牛が草を食べればまるまると太る。
鶏が土を突き草を食べれば鶏肉になる。野菜は土の影響で育ち、海に流れた栄養が
魚の腹を満たす。食物の連鎖の全ての元が岩漿と灰である。
過剰なまでの栄養を吸い尽くした食物をやがては此の國の食物を潤す。
だが然し。幾世代前からもこの國人にとっても。特に大陸渡りの旅人の口には合わない。
栄養はあったとしても岩漿と灰の味は食物に残ってしまうのだ。
栄養と素材の味はあってもその味には灰が交じる。肉を噛めば肉汁に灰味が交じる。
野菜も噛めば灰の味がする。魚の頭を齧れば灰味で口がいっぱいに広がる。
何世代もの間に岩漿灰が交じる食べ物を食していたとしても味覚を騙すことは難しい。
食物に交じる岩漿灰と粉味は消して旨いとは言えなかった。
尤も数世代に渡る料理課の努力により其の問題も解決される。
その方法として味と食感を無理やり変えて誤魔化すと言う物であり
尤も一般的なものはタレである。ソースである。
有りとあらゆる種類の香辛料が研究され何時かにやっと完成されたソース。
此の國人はほとんど全ての料理にチュブレと呼ばれるソースを掛けて食事をする。
それは多様な香辛料を含むものであり辛い。とてつもなくすごく辛い。
食事は岩漿灰が交じる食物にとてつもなくすごく辛いチュブレソースを掛けて食べる物である
下手をすると岩漿灰が混じらないレストランで出される飲水にさえチュブレソースが
注がれている。國人は慣れていても大陸渡りの虎言は到底に辛すぎて腹を壊してばかりとなる
焔灰之灰之御國へと旅するならば尻の下にひく綿袋を忘れてはならない。
其処へ行くならば絶対的な必需品であるとどの良好指南の雑誌に必ず記載されているのだが
虎言は持って来ていなかった。
頭の隅の何処かにはあったかもしれないが旅の目的ばかりに気を取られ忘却してしまう。
「あの・・・・済まない。
部屋の椅子がおかしいのだが・・・どの椅子も蓋がしてあるのだ。
取り外せる様にはなっている様にはなっているようであるが外せば穴が開くだけである。
これでは椅子の役目を果たすはずもないであろう?」
仕事絡みの旅であるから見栄もある。
結構に高い金額を払って名のあるホテルにとまってるのであるがこの有り様だ。
長くもやっと海路と陸路を超えてホテルについて腰をドスンと貶したら
自分の尻に衝撃が奔る。尻と椅子蓋がぶつかって手酷い痛みが帰ってくる。


