派遣業:覗き屋化鹿四魏志のんべんだらりと

化鹿四魏志・・・。
園の生れは北方地方最奥の地。凍風吹すさぶ欧州漢ノ御國の村の果日出刻に生まれる。
村の名字は皆同じに化鹿四で一族一派が肩を寄せ合って生活を営む集落でもある。
尤も其の魏志自身は早くから集落を飛び出し欧州漢ノ御國のその都に上り渡る。
更に尤もと魏志は頭もあまり良くもなく人付き合いも苦手であった。
方々と点々と職を変えても長続きしない。
いつもいつも財布の中は故郷と同じ凍風吹いている。
食うに困る事もしばしばだとすれば当然良くない輩と付き合うようにもなり
後々は悪行仲間と一緒に堕ちて行くばかりであろうが。
「大体にして御前の其の名は読みにくい。解るように字で綴れ」と他2人にはよく言われ
態々と漢ノ御國言葉では無く国際的な標準文字で【ばかし・たかし】綴ってもみせる。
「何を化かすのか?人様か?到底まともな奴に観えはせぬ」
其の名前だけで役所からの出生証明書が届くまで参日も四日も憲兵隊の留置所に止まった事も有る
つまりは容姿だけで無く其の容姿風体其の物もやっぱり持って悪党面なのだろうか?
背は高い。6尺と半近くと成れば國の平均を遥かに超えている。
其れに加えて禿でもある。実は生まれつき肌が弱く特に頭部の荒れが酷いから
薬を塗ったりするのに伸ばした髪が邪魔である。其れ故に出来るだけ短くもバリカンで
刈り込んでいるのだが軍兵よりも短いのは坊主か懶怠者位でもあろう。
6尺の高さを超える背丈に丸刈り坊主の頭。決して逞しくなく最低限の筋肉しかもなく
天井の低い安アパートを長年に居と構えているから当然猫背でもある。
少量の食事でも直ぐに腹も膨らむからまさに棒切のよう容姿風体でもさもあらん。
其の近年。化鹿四魏志は一風変わった職業を営んでいる。

世に俗世にそれを大きく捉えて派遣業と括ってしまえばそれまでだが
何処ぞの工場に出向いて車鉄を組み上げるとか暗い工房に籠もって何かを作るとか
そんな単純な仕事ではないのが味噌である。
もっともお天道様に顔向け出来るそれでも到底にない。
何処ぞの会社もどきに就労し場所を違えて派遣される業務であるが
魏志の仕事場は自宅であり所謂に派遣であっても在宅勤務と言う奴だ。
人との関わり営みを極力嫌う魏志にはうってつけの仕事とも言えよう。
比較的にもとにかくも貧相な安アートの一片の壁を仕事用の機器が埋め尽くす。
本来であればそこまでの機器など必要もないはずなのであるが
この仕事に就いて暫くもすればむしろ楽しくも嵌まってしまい魏志自身が
食費を削り私財を投じて揃えた機材でも多い。
もっとも極めればもっと精度も上がるのだろうがご求められる業務内容がそこまでに
高い物を求められる訳でもないから適度に妥協もしている。
古臭い安アパートの壁面に中型大型の所謂モニターが据え付けられている
見れば其の外見は軍用にも近いのではないかと言うモニターとそれに繋がる配線コード
行きた蛇の様にうねうねとうねりつ繋がる先も又高性能のコンピュータである。
数台のモニターとそれに繋がり管理するコンピューター。
否然し・・・。
高性能過ぎるとも取れるモニターに映し出される映像は妙に生々しい。
やたら生活感あふれる映像で有るし。正にそれだけである。
大抵の場合それは他人と誰かの家屋の中であり居間であったり食堂であり風呂場でもあれば
寝室でもある。それぞれの部屋に多数のカメラが据え付けられてもいるようで
魏志の指使い一つで瞬時に映し出される部屋の映像が切り替わる。
部屋の中をかなり上の角度から観る映像もあれば家に住む者によくばれぬという位置に
据え付けられたカメラからの映像もある。匠に上手に隠されているのだろう。

果とさてにそれを覗くのが鹿四魏志の仕事で有る。
懶怠者の借金からも密かに黙って安アパートに篭り首を縮める魏志が見つけた
求人紙の謳い文句のそれとなれば。
人様の営みを覗く仕事。
干渉許されぬ故・冷静沈着冷淡寡黙なみ秘密を守れる人求む。
それとだけ描いてあった。
その後の面接もやり取りも全て携帯電話のメールのみのやり取りで
雇い会社から送られてきた必要事項のメールに適当に記載して送り返せば
その弐日事には必要機材が宅配便で届く。
後に魏志自身が色々付け足すが当面はそれだけで業務を行う。
其の頃はまだ人並み以下の知識で機材を組み上げるのにも苦労するが
やっと作業を終えてモニターを起動させたら何やら何処かの他人のマンションらしく
にこやかにも楽しげに食事を楽しむ夫婦の姿が写し出された。
それがどうしたと言うのだろうか?それが仕事であると言うには生々すぎる。
冗談半分であるまいかともう一度就労規定と業務内容を確認すれば
それと確かにはっきりと黒線まで引かれた文字が目に入る。
対象と認定された人々の生活風情を出来るだけ多く記録すべすし
なるほどそれが仕事内容なのだなと理解は出来たが意外にこれが難しい。
対象となる他人は此方の言う通りには動いてくれない。
居間で食事していると知れればその辺に有る紙にあわてて食事中と書きなぐれば
次の瞬間には勝手に席をたって何処かへ消える。
超が付くほど慌ててPCを操作してあちこちとボタンを叩いて画面を切り替えれば
どうやらやっと妻らしき女性が台所で薬缶から湯呑に茶を注いでいる。
尻を振って妻が戻ってくれば今度はいつの間にか新聞を広げて覗いてる。
妻・台所からお茶を持ってくる
夫・新聞を開いて三面記事を読む
慌てて紙の裏に鉛筆で書き殴る。これで良いのかと訝しむもその直後に夫が席を立ち上がる。
いとも簡単に居間を移すカメラの視界から消えた夫を再びスイッチを叩いて探すのにも苦労する。
何やらトイレに新聞を持ち込む夫の姿を見つけた時な安堵にため息を漏らしたが
これは意外厄介であると思い考え直す魏志でもあった。

初日とその後の数日は実に苦労した。
勤務と決められた時間の間。夫婦2人の生活を覗いて紙に書き記す。
派遣就労覗き魔とでも言うのだろう。
恐らくは当人達は全く気が付かない内に家屋室内に無数多数の監視カメラが据え付けられている。
それを派遣会社に雇われた魏志の様な者が対象者の生活仕草を事細かくも記載する。
最初こそ慣れないことでもあり好奇心も多少はあったもものの罪悪感もあった。
ある意味で幸いなのは何処の誰とも知らなくて済んでいるのと部屋に仕掛けられてるのは
カメラだけであり一切の音声が聞こえない事である。
遠慮も道徳も全くもって不要であるとばかりに誰と構わず対象者はありのままの姿を曝け出す。
最初こそ一組の夫婦の覗きだけであったが魏志の仕事ぶりが気に入ったのか
雇い主は徐々に覗きの対象の数を増やして来る。
コトリと郵便受けに茶封筒が堕ちる音がすると魏志はそれを引っ張り出し中の紙切れを覗き見る。
そこには覗きを開始する日と終了の日。
実際に覗き対象の家屋にしかけられたカメラにアクセスする番号だけが記載されている。
それをもとに魏志は大きなマグカップに好きな飲物を片手に今や軍用基地にも劣らない
PCワークステーションの前に座る。
認識番号を叩けば新しい覗きの対象の家屋のカメラに接続されくっきりとした画像が写し出される
更に幾つかのキーを叩いて対象の者がカメラに映ると後はカップから飲み物を啜りながら
結構に長い時間対象者の姿をモニターの中に追いかけ続け何か動作すれば
それを手元の冊子に記録する。
これが覗き屋化鹿四魏志の仕事で有る。

時派遣業と知っても就労である。
例えそれが人様皆々様の営む生活を盗み観ることであっても。
就労である限り当然と昼休憩もあれば休日も有る。
日中深夜とモニターの前に座ってもいれば運動不足にも成る。
故に覗き屋・化鹿四魏志であっても私用があれば家を出る。
奥に自体は此処に十数年の間何処ぞの島国との侵略戦争に明け暮れていても
軍兵聴衆の別れ儀式の情景を除けば近代化著しい街並みに出かけるのはそこそこに心も弾む。

置字

天鼠 蛭姫ノ壱

天鼠 蛭姫ノ壱

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