偽装結婚の嫁

「候壱郎様殿・・・。
だからいつも言っているで御座いましょう。
靴下と下着は脱いだら洗濯籠に入れて下さい。全く本当に呆けた亭主殿で御座います・・・」
「ご・・・御免なさい。次からはきちんと片付けます」
「其れって何回目ですか?何時も何時も私奴が注意する度に頭を下げて謝るのは良いですが
三日もすれば又、ド忘れして御パンツや褌を脱ぎ散らかして小さい漢の象徴をクルクル振り回して
悦んでる変態夫様を娶ってしまうなんて私奴も一生の不覚で御座います」
細く切れ長の目を更に細め嫁・词语が僕を睨む。
「其れには多少なりとも語弊があると思うのだが・・・
パンツに御は要らないし褌も付けてない。更に漢の象徴なんて振り回してない。
ちなみに猥褻行為なんて一人手淫を除けば実践で使ったのは日も数え切れないほど前だぞ。
其れも又、君と出会う前だし・・・」言いたい事を最後まで言わせて貰う前に
僕の嫁はきすびを返しお玉をクルクルと回し大きな尻を振って台所へと消えてしまう。

何時もそうとなる。
日々の生活でちょっとした事をまるで重箱の隅を爪楊枝で突くように文句を言う。
それも極々と丁寧な口ぶりで有るが何処かに僕を侮蔑する言葉を織り交ぜる。
しかも何故か猥褻な下ネタを挟むのも忘れない。だからと言って僕の弁明なんてまるで聞かない。
先にそっちが振って来たのだからと此方も猥褻話を履いた瞬間
まるで馬の耳に念仏とでも言うように怒顔で此方の話も聞かずに何処ぞへと行ってしまう。
其れが僕の嫁・词语である。

どうやら词语は間違って覚えたのをそのままにしてるのだろうがそれとも気づいてないのだろうか。
僕の名前は候壱郎ではなく叢一郎である。
近所の人混みでも词语は臆面も無く候一郎と声高く叫び呼ぶので周りの者には
早漏とも耳に届き、顔を向け返事をする度に要らぬ嘲笑を呼ぶことも時によく有る事でも有る。
言わずもがな词语を言う女性は大漢之國の者であり言ってしまえば國違え結婚と成る。
個の國に入国して四年と言うけれども、其の割には多くの言葉を習得している。
最初に就労したのが外務局と言うのも影響してるのだろう。
個の國の人々とは違う少し大柄な体躯と白に近くなめらかな肌が特徴と成る大漢之國の民で有る词语
外見を観れば疑う事もなく美人で張りのある大きな乳房を持ちふくよかで柔らかそうな尻をも持っている。
日々の手入れに長い時間を要する白銀髪も後ろでに結って纏め歩けば世の漢共が蝿のように集ってくる。
「私奴。夫様に尽くす身で御座います。御遠慮下さいな。うすら禿げの中年野郎様」
其の度に同じ台詞を投げ返し特に相手の髪が薄くなくても薄くても罵倒台詞は変わらない。

其の癖に本当に夫の僕に尽くしているかと言えば全くもって嘘に成る。
僕の妻・词语は家事をこなす。
嫁入り道具と持ってきた黒鉄鍋に具材をぶち込み、之でもかと油を注げば火柱も上がる。
そんな炎で調理されれば出来上がるものは黒炭であるかと思えば、以外にもきちんとしていて味も良い。
尤も一番最初に調理場に立った词语は壁に据え付けて有る火災報知器をお玉でぶん殴って壊している。
確かに大漢之國の豊かな食文化を支えるのは火と炎と言われる。
同時に大漢之國の女性は時に無遠慮と言われもするが词语も又それに漏れない
料理も上手ければ綺麗好きでも有るらしい。鼻歌交じりにハタキを振り回し
力任せに洗濯物を振り回し水飛沫を斬って飛ばす姿はいじらしさも感じられる。
若しできるならそれは僕の部屋でやらないで欲しいと強く願うばかりで有る。

外の御國の人のはずなのに妙に玄人好みの癖も有り浅草神宮が一番好きだと言えば
「それは愚弄と言うものです。候壱郎様殿。
弐八蕎麦には卵一個迄です。弐個も乗せるのは邪道です。
本当に御馬鹿な旦那殿を娶った私奴の顔に泥を塗る気で御座いますか・・・プンプンのぷん」
「蕎麦くらい。好きに喰わせてくれてもいいのに・・・」
たまに肩を並べ一緒に出かけた昼食の時まで文句を突き付けてくる。
そうかと思えば同年代の女性などが絶対に見向きもしない古典落語を強く好む。
「やっぱり柳屋流より三遊亭流が粋で御座います。
候壱郎様殿。ちょっと真似して下さい。三遊亭圓歌様の方。
禄代目様じゃなくて三代目の圓歌様の方です。ほら。早くして下さい」
当の昔に故人となった偉人の噺家の真似を袖を引っ張って強請ってくる。
端正な顔突きで楽しそうに微笑むのは女の武器と演技と知っても
冗談半分で適当に演じて魅せたら
之も又、気に入ったらしく次の週に至る前に何処から買って来たのか
三遊亭の家紋が入った羽織と演者着物に紫の座布団弐枚を押し付けられる。
少しでも互いの距離が近く成ればと無理して演じるといつの間にかそれらしくもなってくる。
落ちが判ってる落語を幾度も幾度も強請り、其の度に臆面もなく綺麗な顔を歪めて嘲笑う。
何時もは険悪な雰囲気の夫婦ふたりでも其の刻だけは素直に楽しい時間でもある。

去れども。夫婦の夜営みは全くとない。
最初から寝室は別々で有る。
弐週に一度、火曜の日だけ词语は僕の寝室にやって来ては同じ寝台の反対側で寝息を立てる。
それだけで有り、陽が待ち遠しくもブツブツと文句を吐いては朝陽が窓にさせば直ぐに起きて寝室を出ていく。
これは決まり事であり。体裁を整える形だけの行為と成る。
夫婦として妻として最低限の事を熟していますと言う宣言である。

なぜならそれは僕と妻・词语の結婚は偽装で有る。つまりと示す事もなく真に偽装結婚である。
勿論、御國の役所には正式な婚姻届けをしっかりと提出している。
出した届けには判子一つではなく血判まで押してもある。
それでも互いにしっかりと了承し条件を交わした偽装結婚で有る。
理由は簡単であった。
词语は大漢の御國の出身であり倭之御國の国籍は持っていない。
今の倭之御國は大陸御國と戦争の真っ只中であれば男女問わずと軍の徴兵の対象と成る。
徴兵制度年齢に達する健康な女性が免責を受けるとすれば結婚して子を宿す事に成る。
少なくても結婚し夫に尽くす身と成れば、それは御國に尽くすのと同等であるとみなされている。
特に又、外の國からやって来た词语などは身寄りも無いと知れれば真っ先に軍の通達が飛んでくる。
もとより國の線引を超えてやって来てるとなれば、普段よりも目に止まる。
御國の生まれで無ければ制約も多いし満足に就労するのも難しい
まともに就労出来ないとなれば歓楽街で肌を晒して踊って魅せるか漢共の慰みに尻を振って稼ぐしかないだろう。
端正な顔つきであり乳房も尻も大きいと成れば、何処かのお偉方が鍔を飛ばして愛嫁にと口説いて来るだろうから
態々と結婚を偽わらなくても良いかと思うのであるが当人成りの事情も在るだろう。

词语に事情があれば僕にもそれは在る。
だからこそ世情から見れば鬼嫁とも取れる词语の言い草と態度にも背筋を丸めて耐えていると言えるだろう。
初めて彼女に会った事を思い出せば、それも随分昔に思えてしまう。
大漢之御國の女性となれば確かに大柄であるが思ったよりも細身で背も高い。
儚げで可憐な印象の何処かに妙な暗さもあり、其れが又魅力でもあった。
意味ありげな仲介人の言葉に二つ返事で了承した瞬間词语の顔にぱっと華と咲いたのを覚えている。
後で聞けば偽装と言えど一つ屋根の下で暮す相手が懶怠者でないかと心配していたと答えた。
実と成れば词语の偽装結婚の御相手探しは難航していたらしい。
世界大戦と姿を変えて行く世情で戦國相手の連合に最近大漢之御國が名を連ねたのが理由の一つでもあろう。
偽装と言っても外から見れば正式な物であるから词语の相手は敵國の女を娶る事になる。
世情的には夫婦生活を営む間、肩身の狭い思いを強制される事にも成る。
「これでも大分緩くなったですよ。随分と拘りの在る女の様で・・・」
事前に仲介人の漢がすまなさそうに押し付けてきた词语の条件を纏めた書類は確かに分厚かった。
最初こそ誠意を義務として読んでみたが、色々と無理があると感じて途中で投げ出す。
「候壱郎様殿。それは書類に書いてあります。倭之御國の男児は約束を守らないのですか?」
女は子を産み落とすと別人と変わると言うが词语は結婚が決まり我が家の敷居を跨いだ瞬間に鬼と成った。
兎にも角にも鬼面で強く睨まれ慌てふためき頭を畳に擦り付けて謝罪した後
「ああ・・・之は失敗したな。確かに五ページ目の三十八行目に書いてあった」
こっそりと先の書類を読み探し深く反省するものの。
この結婚は失敗だったとも一人天井を見上げ後悔する。

少なくても一緒に床を温める日が度々とあるのなら。漢の意地と腕力で襲ってしまえば良いとも思える。
それを成さない理由は二つ。
词语が我が家に来て僅か数日の午後。
自分の部屋の扉を閉めれば声も漏れぬと信じたのだろう。
手淫を楽しみ喘いだ声に混じて词语は在る漢の名を呼んで叫んだ。
偶々と扉の側に立っていた僕の耳にそれは届く。悪気があってそこに立っていたわけでもない。
その証拠に日を違えても一人籠る部屋の向こうからでも。
汗を流す温かい風呂の湯気向こうでも词语が喘げば漢の名が交じる。
好いて愛する漢が居るのなら態々と僕に抱かれるのは苦痛であろう。
もとより営みの最中に我を失い他の漢の名を呼ばれると初めから知っていれば萎える事もこの上ない。
若しかしたら词语はそれを見込んで態々と他の漢の名を呼ぶのかもしれない。
それほどまでにするのなら自分の猛りは手で済ませたほうが疾くすむ。

無理に二つめの理由を上げるならそれは二週に一度。木曜の日の来客が原因と争乱をもたらすからだ。
「叢一郎さん。未だ一人で済ませてるの?私が手伝って上げてもいいのよ?
大体。新しい奥様は夜の営みはしてくれないでしょう?嫁らしいこと全然しないじゃないの?」
「夜伽は丑三つ時が過ぎてからと言うのが新しい我が家の決まりで御座いますの。
其の頃に疲れて勝手に候壱郎様殿は鼾欠いて寝てしまってるのですの。
御料理も洗濯も掃除も大好きで御座いますの。あと古典落語も。
大体、そちらの元嫁様殿は候壱郎様殿の余りの変態趣味に付いていけなくて別れたのでございましょう?」
「余りの変態趣味ってなんだよ?
多少の拘りは遭っても世間一般の枠から外れてるとは僕は思わないぞ」
「叢一郎さんの変態ぶりは多少癖が遭っても・・・寧ろそれが良かったり・・・ポッ。
それが別れた理由ではないわ。私がちょっとつまみ食いしたのが悪かったのよ。
ちょっと他の味が欲しかったの・・・でも存外普通の情事だったわ。
がっかりしただけど、時既に遅しだったのよ。
叢一郎さんは許してくれたけど黙ってはいてくれなかったのよ。
後は家柄の問題だったわ。
・・・それより総一朗さん。そろそろ。私二人目が欲しいの。
だからその辺の貸し部屋茶屋に致しに行こうよ。
「元の奥様?新しい嫁の私奴の前で堂々と淫猥な顔をするのは御止めになって欲しいですの。
大体、お二人は正式にきちんと離婚なさったのでしょう?
それなのになんで何時も我が家にやってくるんですか?
その度に私奴の夫を誘惑するとは言語道断で御座います。
・・・あっ。鬼燈ちゃん。御饂飩のお替りはどうします?
二杯目は油揚げを星の形に斬って乗せてあげますよ。
旦那殿様にはケチャップと蜂蜜打ち込んで上げますからね。愛情です。愛情。」
これも又、嫌味混じりの声を上げ词语は元気に尻を振りながら台所に奔る。
「父者・・・父者?
おうどんにケチャップと蜂蜜いれると美味しいの?」
「我が愛しき娘・鬼燈よ。
饂飩にケチャップと蜂蜜掛けて食べさせられるのは世界中で父者只一人で在る。
そしてそれは途轍もなく不味いに決まってる。
父者は再婚してから舌の味覚が少々と狂ってる。
旨い時もあるのだが、そうでない時はものすごく不味い。
漢は我慢だ。結婚とは我慢の連続である。そしてそれはとても辛いのだ。」
隣の席に座る、今年四つの歳を数える愛娘の頭を撫でながら
词语の作る饂飩に余計な物が入ってないことを強く天井を見つめながら祈る。

僕の結婚人生は二度目だ。
形もよく尻も特に大きな元嫁の冱ゑと別れたのは三年前。
その前の数年を夫婦として共に歩み愛しい子に恵まれた後にあの件が起こる。
なるべくと穏便に済ませたかったし告げる事をしなければ良かったとも後悔するが
威厳と心を潰された当時の僕はふとした時に言葉にする。
あとは家柄の問題と事情に流され離婚に至った。
悪妻に裏切られたとはいえ、子は宝珠。罪もなければ父者としての義務は果たすべし
それが本家家長の御達しだった。
せめて愛しの我が娘が成人と成るまでは面倒をみるべきであるし
時に修羅場と化してもそれも又、何かの糧になると信じていたい。

「どうしたと言うのです?フリフリ御ちんちんの役に立たない旦那様殿っ!
お部屋の塵が片付いてる所かっ。おパンツも褌もちゃんと洗濯籠に入っています。
しかも汚れたおパンツなのに綺麗に畳んであります。
明日は槍が振ってくるのですか?それとも天地厄災の大地震ですか?」
仕事から帰宅した途端に今では専用武器となったお玉を振り回しながら词语が声を上げる。
「否否。大した事でもないだろうに。
少し気がついたから片付けでもしてみようかと思っただけだよ。
それに使い所がなくても決して役に立たないと言うわけでもないぞ。僕のは。
それから褌は趣味に合わないし。槍も振らなかれば地震も起こらない。
明日も極々平凡な一日が訪れるに違いない」
余りに词语の小言が煩くも面倒であり聞き流すのもそれを口にする方も
互いに疲れるのではないかとも思い立ち、時間を取って部屋の片付けをしてみただけっだ。

「旦那様殿が約束を守るとは吃驚仰天で御座いますが・・・。
私が重箱の隅を突いて文句を言う機会が減ってしまいます。
それはちょっと困るのですが、どうすれば良いのでしょう?」
普段着に着替え夕食の卓に一緒についた途端に词语は真顔で聞いてくる。
「僕の部屋が綺麗なのは词语にとっても良い事だろう?
少しでは在るけれど空いた時間が作れるなら自分の趣味にでも当てればいいさ。
それに毎日毎回きちんと掃除出来るとは限らないし
まぁ僕の事だから三日もすれば元のだらしない僕に戻るだろうしね。」
「そ、そうですね。旦那様殿。ちょっとおバカさんですものね
云々、三日坊主ってやつですね。是非、それでお願いします」
妙に真剣な表情で自分勝手に納得し白飯を词语は口に運ぶ。
「あの・・・。好物を作ってくれるのは嬉しんだけど。
これはちょっと違うじゃないかな?」
自分の前に置かれた皿の上に置かれた黄色のオムレツに視線を落し少しだけムッとして告げる。
確かに好物のオムレツであり词语の得意料理でもありふっくらとふくらんだオムレツの中には
溶けて柔らかい卵の中に海老が入っていると言うやつだ。
問題はオムレツの上に赤いケチャップで大きく書かれた文字。
それは・・・馬鹿・・・と書いてあった。
「あっ。これはその・・・ついつい癖で。手が勝手に。御免なさいで御座います」
流石にばつが悪いと知ったのだろう。
自分の箸でオムレツの上をなぞり、確かに馬鹿と書かれた文字をぐちゃぐちゃにかき消す。
词语と結婚で決まりごと約束事は多々と在るにしても、その内の少しをちゃんと出来た時くらい
大見得を切って馬鹿と呼ばれるのは流石に癇癪を起こしそうになる。
それでも少しやり過ぎたと白飯を口に運びながらも顔を下に向けて反省の素振りを魅せる词语。
「まぁ。何時も決まり事を守らないのは僕の方だから。
手が勝手に動いたのだからしょうが無いよ。気にする事でもないよ」
「そうですよね。三日坊主ですものね。旦那様殿。
三日もすればお馬鹿さんに戻るから大丈夫ですよね。云々」
腹に貯まる怒りをぐっと押さえて落ち込む词语を気遣った積りがやぶ蛇を招いたらしい。
词语はぱっと顔あげると嬉しそうにあかるく微笑む。
何処か納得もいかずとも我慢我慢と二度唱えその日の出来事を知りたくもなり
TVのスイッチを入れNEWSに視線を送る。
世間を騒がす事柄に没頭すれば隙きも生まれるのだろう。
確かに好物の海老入りオムレツの中に入った海老が数匹。
词语が手に持つ御箸によって誘拐されている事に僕は全然と知る良しもない。

[su_spoiler title=”「今日は愛弟の所へ泊まる日で御座います。旦那様殿
御夕飯は作りません。代わりの夕飯代は五百円です。よろしくですの」”]

週に一度。共に寝台を温める火曜日があれば
四才の娘を愛でる束の間の安らぎと後ろで巻き起こる修羅場の木曜日もある。
二週に一度の土曜と日曜の午後まで词语は矢鱈と小綺麗に身なりを整え
自分の家族の元へと脚を運ぶ。
自分でもしっかりと公言するほどに弟を溺愛しているしそれも事実でもある。
それでも目が届かぬとなれば好きに過ごすのも悪くわ無いない。
尤もに夕飯代わりの小遣いが五百円ポッキリと成れば少々心許無いだろう。

大陸國との戦の最中となれば街行く人々もどこか忙しない。
戦時となれば憲兵隊も腕ろ大きく振って辺りに目を光らせる。
早めに上がった仕事帰りの駅前で何気に視線を送った相手が悪かったらしい。
至って平凡な僕の姿でも一度目をつけ喰らいついたら離れてくれないのが憲兵隊だ。
街中雑踏を離れ裏細い道を歩んでも自分の足音とは違う物が後ろから交じる。
只の憲兵ならともかくも公安員となれば面倒だと思いつつも馴染みの小料理屋の前で停まる。
「すまないが、ちょっと時間良いかね。お兄さん。
手間では在るだろうが身分証を確かめさせてくれないだろうか?」
僕が店に入ってしまえば騒ぎにもなるかもしれない。
それを考えて声を掛けて来るのはやはり公安員の絶妙なやり口だ。
「どちらさまでしょう?
こんな裏路地までついてくるならまずはそちらの身分を明かすのが筋ですよ」
小料理屋の戸口に手を掛けたの止めて公安員の方を振り返る。
誰もしもが良くと知らぬ漢に突然と声を掛けられたら警戒して当然である。
それでも背中に軍の後ろ盾があればこそ公安員は面倒くさそうに黒皮の身分証をかざしてくる。
「確かに公安の方の様ですね。お努めご苦労さまです。
阿阿斎さんですか?珍しい御名前でございますね。生まれはきっと上方ですね。
・・・。
それは兎も角。今日は二週に一度の土曜の日。
雑踏離れた裏路地の小料理屋に通う漢の名をお知りにはならないのですか?
僕は名乗っても構いませんが・・・御家族が悲しむ事になるのでは・・・?」
確かに園の日は土曜であり隔週でもある。
目をつけた怪しい若造に灸の一つでも据えてやろうと目論む公安の阿阿斎は
言われ返された言葉を反芻する。
隔週の土曜日と裏路地の少々と時代遅れの小料理屋。
阿阿斎自体も二度ほど食事を味わった事がある。
古びた店の割には三十路を少しと過ぎた女将が仕切り手を貸す者もうら若い少女
鮎の塩焼きと烏賊詰め飯が絶品であり、何より笑窪をみせて嘲笑う女将が優しげでもあった。
その店の名を【倭之小料理屋・怨蛇屋】
「あっ。すいません。み、身分証は結構です。
脚を止めさせてしまい。申し訳ありません。本当に申し訳ない。
肌寒い夜で御座います。熱燗で温まってください。では小生は失礼します」

吐いた言葉の意味が伝わると公安員阿阿斎は豹変する。
尤も最初に気づくべきでは在るだろうし、迂闊にも自分の名前を晒したにも公開する。
阿阿斎と名前を知られた上にその日、怨蛇屋に脚を運ぶ漢を止めたと成れば一大事だ。
慌てふためき態度を変え世辞まで付け足し逃げるようにその場を後にする。
普段なら二人一組で動くのにその時だけ渋ったとなれば
彼奴は気づいていたにちがいない。
名前を示して見せたのは失態だった。当人の気まぐれ一つで左遷が決まる。
軍の後ろ盾は当然失うだろうし公安も同じだろう。
下手すれば社会的にも立場をなくすかもしれない。
これは帰りに離婚届けを手配ししたほうが良いかもしれん。
自分とした事が失態を犯すとは・・・潮時かもしれん。
迂闊にも犯した失態を阿阿斎は悔やむが時遅しでる。
あとは怨蛇屋に通う漢の機嫌が良くなる事を祈るしかないだろう
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これは妄想で有る。それは夢想と成る。
自分の頭と心の中で一人勝手に思うなら何をしても良いだろうし
それを咎める事なども誰にも出来やしない。
こんな関係でも無ければこんな事を思い描く事も無いだろう。
妄想の中でその体に手を伸ばすのが自分の妻で有ると言うのは確かに歪んでる。
普通の漢であれば恋する恋人か妻子あるなら不倫相手のうら若気乙女。
そうでなければいわゆる肌を晒して稼ぐ玄人の女達であろう。
それでも僕の頭の中に居るのは何時も妻・词语で有る。

词语が自分の部屋の内鍵を時として掛けわすれるのは知っている。
僕の失態を細かく突くのは得意でも自分の事となると以外を間の抜けているのも词语だ。
なるべき静かにとドアノブを回してそっと扉を開ける。
その日の終わりと成れば部屋の灯りも少しと落し
結い上げた銀髪を下ろそうと手を伸ばす词语。
静かにその後ろに立ち腕を回し乳房を掴んでやる。
「・・・だ。旦那様殿・・・?」
自分以外は誰一人と入って来た事のない部屋の中となれば驚きもする
「旦那様殿・・・?何をしてるんです?」
この家の住人が二人でしかなく自分以外の誰かと成れば夫しかないと直ぐにも解る。
妻词语の脇の下から腕を伸ばし片方の乳を下から支え
反対に方の上からその乳房をの根本に手を添え絞り上げる。
灯りで色のぼやけたキャミソール一枚の布地の上でも大きな乳房の感触が手に伝わえる。
一つの乳房の根本を両手で絞られれば乳房の形もいびつに歪んで突き出てしまう。
「旦那様殿。痛いです。止めて下さい」
背の高い僕に後ろから羽交い締めにされれば姿勢もままならない。
普段こそ大人しく文句を言われれば情けなく頭を下げる夫が勝手に部屋に忍び込み。
背後から腕を伸ばし乳房を弄る。
それも一度に両方ではなく片方の乳房の根本を絞り上げ尖る先端を指で嬲り回す。
「旦那様殿。そんな事したこと無いくせに。無理はいけません。
大体、約束があるでしょう?ちゃんと護って頂かないと・・・駄目。そこは駄目」
きつく絞り上げた乳房の先をキャミソールの中に指を入れられ弄られば喘ぎも交じる。
「約束はあっても猛る思いと体は収まらない。どうせ頭の中となれば
御前の体を好きにしても構わない。御前は僕の妻なんだから」
十分に尖りたった乳房の先端を摘み潰した後は残る片方に手を伸ばし絞り上げる
「駄目です。感じちゃう。
旦那様殿。止めましょう。こんな事似合いません。あん。ちょっと気持ちいい」
「御前の乳はこうやって漢に絞って貰う為に大きいんだ。
其れが出来るのは夫の僕だけだ。だから好きにする」
形の良い乳房の感触と弾力を楽しむと背中からキャミソールに手を掛けて
力任せに下げて下ろす。ぷるんと音がするように押さえつけられた布地から
弾けて晒された乳房を揉みしだくも直ぐに背を押し寝台へと押し倒す。
「ずっと。こうやって御前の乳房を嬲ってやりたかったんだ。
そしてもっと嬲ってやりたいんだ。だから止めない。絶対に」
「旦那様殿。今なら許して上げますから辞めましょう。ねっ」
寝台の上に仰向けにと転がるも魅せてしまった乳房の前で腕を交差して隠す词语。
「黙ってされるがままに喘げばいいんだ。
どうせ直ぐに欲しくなってたまらなく成るくせに」
「そんな事ありませんの。旦那様のちっちゃい奴に私奴が感じるはずもありません」
知識とすれば词语の生まれ國のと漢は体躯も良く大柄だ。視線とそれも大きく成る。
経験とすれば一度や二度と風呂上がりの体を観た事も有るはずだから僕のそれもしってはいる。
「それなら御前が欲しがり強請るまで責めて嬲るだけだぞ。我妻・词语」
何時のまにか自分の衣服は溶けて消え全裸で有ったのはやはり夢想の中だからだろう。

細いわりには結構と力強く抵抗する词语の上でを掴み広げる。
幾ら逆らっても猛る漢の力の前に隠す乳房を曝け出し
其れでも親の敵と睨む妻の腕を掴んだまま寝そべるその体に跨る。
「旦那様殿?何をしようと言うのです?
例え何をしても私奴は感じませんよ。役立たずの短い・・・」
そこまで言葉に吐いて词语は黙る。
確かに普段こそそれなりの大きさかもしれないが一度猛れば大きさをも返る。
何より词语が黙り込んだのは大きさではなく夫が自分の体の上に跨がり
腰を前に突き出し双房の間に漢の一物を挟んだからである。
逆らう词语の手を離すと大きな乳肉の脇に手を添えて一物を包む。
それだけで済まさずに遠慮かく腰を振る。
柔らかくも張りの有る乳肉の間に挟んだ一物が擦れて熱を持つ。
「何を・・・。何をしてるのですか?私奴に乳房で・・・」
「大漢の御國にも大きな乳房を嬲る時はこうするだろう?
言葉達者な御前でもこの言葉は知らないのか?
普段は一人で済ます手淫であるが、僕は御前の乳房で手淫してるだよ。
僕は御前の乳房に一物を挟んで一人で手淫を楽しんでいるんだ。
御前の乳房は僕の一物を気持ち良くさせる道具なんだ」
今ままでにも頭中で幾度をしていた词语の乳房で手淫を楽しむ。
「嫌。嫌で御座います。
私奴の乳房で一人で手淫してるなんて。私奴の乳房が道具だなんて・・・」
恐らくは初めてされる行為に嫌悪感を覚えるのか乳房を嬲る手を掴み抵抗する。
鷲掴に乳房を掴み先端を掴んでひっぱり円錐にと形を歪ませ腰を振る。
自分の乳房を嬲られ挟む間から猛る一物が腰が突き出される度に顔をだす。
何時もだらしなく自分に罵倒される夫が主導権を握り自分一人で快楽を貪り
互いに求めて愛し合うそれと大きくも違う行為は嫌悪を生む。
それでも乳房につたわる熱と固い一物が少しの快楽を词语にもたらす。
「安易に済まされると思うなよ。词语。
御前にはきちんと教え込んでやるんだからな。思い知ってもらう。」
「フン。こんな稚技の一つで私奴が欲しがるはずも御座いませんの。
そろそろ諦めてください。お小遣い減らしますよ?」
「小遣いが減るのは困るな。只さえ雀の涙でしかないだぞ。
どうせ減ってしまうならとことん最後まで犯してやろう」
「そんな事やめましょう。本当に小遣い減らしま・・・」
二度目に言葉を呑む词语の顔の上に体を入れ替えた僕の股間が押し付けられる。
それまでずっと乳房を嬲られて居れば下半身は無褒美となる。
全くと言うほど抵抗も許さずに白肌の四肢を大きく開かせ股ぐらに顔を埋める。
四肢が大きく開けば词语の女陰も大きくと開く。
構わず女陰に舌を這わせてやれば。やはり我慢していたのだろう。
濡れる所はしっかりと濡れ愛蜜が垂れている。
「ああ・・・むぐ・・あん・・だ・・むぐぐ」
太腿に手を添えられ無理に脚を開かされ股ぐらを舌で嬲られる。
たまらずに喘ぎを漏らすにも言葉にはならない。

僕が词语の体に覆いかぶさり股間を嬲れば反対に词语の顔の上に漢の一物が乗る。
世間では六と九の交わりとも呼ばれ漢女が互いの性器を舐めて味わう体位となる。
それでもそれは互いに愛するか浮気としっても快楽を求めるならば許される。
無理矢理四肢を開かれ女陰の襞を舌で嬲られ快楽を与えられる代わりに
好きでもない夫の一物が顔の上に押し付けられる。
「こんなにも濡れてるぞ?词语。
御前の女陰はだらしなくたらたらと蜜を垂らして強請ってる。
欲しくてたまらないんだろ?御前の御愛用のヴァイブが此処にある。
入れて欲しいだろ?入れてほしければ。
僕の一物を舐めて咥えて呑み込めよ。词语」
乱暴な言葉と共に夫の一物が顔の上でのたまう。
執拗に女陰を弄られ襞を広げられると最初は指をこすり付けられそれはよく知る感覚になる。
好きな漢に強請って勝手貰った紅色のヴァイブが押し付けられる。
広げられた女陰の襞にヴァイブが押し付けられると思うえば否応なくスイッチが入り
ブルブルと震え出してしまう。
「ああ。駄目。ぬぐぐ。それは駄目で・・んぐ・・」満足に言葉に成らぬ喘ぎが漏れる。
夫の手の中で震えるヴァイブが与える快楽に堪らず词语は押し付けられる一物の
匂いにも惑わされ口を開いて夫の一物を初めてに舐めだす。
れろりと舐めれば夫が握るヴァイブが探るように動く。
又、レロレロと舐めれば股間のヴァイブが強く襞に当たる。
一度諦めてしまえばあとは流されていく。
べちゃりべちゃりと一物を舐め回し唾液を擦り付けていく。
夫に気取られないようにと隠してはいても词语は快楽に貪欲であった。
襞の入り口の快楽だけでは物足りずに顔をずらしじゅるりと音を立て
亀頭を口の中に飲み込む。直ぐに夫がヴァイブを女陰の中に差し込む
夫と妻の呼吸とでも言うのだろうか?それとも夫の企みなのだろうか?
自分が何をすればもっと快楽を貪れるかを知ると词语は素直に一物をしゃぶりだす。
ジュルジュルと音を立て一物をしゃぶり根本迄呑み込めば
ヴァイブも奥に深くと潜り込み浅く舐めれば入り口でひねりが加わる。
夫が握るヴァイブの動きは匠でもあり又乱暴でもある。
「ああ。駄目。気持ち良い。欲しい・・・」
一物を咥えたまま喘ぎを漏らしてもはっきりと言葉に出来ずにもどかしい。
「欲しいんだろ
ただ硬いだけの代物じゃなくて血が宿り脈打つ僕の一物が。
御前は漢にどうやって強請るんだ?言って観ろよ」
普段こそ柔和で词语の小言に頭をうなだれる夫が傲慢とも言える態度で告げる。
「い、入れてほしい時はいつも・・・。
漢の前に四つん這いになって尻を突き出して強請ります」
羞恥心に身を捩りながらも一物を咥えたままに夫に告げる。
ふと、身が軽くなったと思えば夫が体を浮かせ寝台の脇に退ける。
強請れと言われそれを魅せろと言われえばそうしない限り入れてはもらえない。
おずおずと四肢を起こし夫の顔を盗み観れば今まで知った事のないような
反り返り猛る一物を勃てたまま嘲笑の嘲笑みを浮かべ词语の四肢を視感している。

抵抗が有るのは当然である。
夫とはいえ。所詮は仮初であり元より互いが承諾した偽装結婚である。
数々の決まり事を交わした中には確かに夜伽に関しては寧ろ記載はなかった。
かと言ってよほどの事がない限り肌に振れるのは遠慮すべしとあるならば
ましてや性交などは持っての他である。
词语も叢一郎も出来るだけ避けて来た事でもある。
其れが今にと寝台の脇で立つ夫の前に脚を下ろし尻を向けて寝台に手を突く。
「入れて下さい。旦那様・・・。殿。
御願いします。私奴の膣中に貴方の一物を入れて下さい」
強請ると言うのはこうとなるのだろう。
夫の前に白い尻を突き出し女陰の襞が見えるように四肢を開いて魅せる。
態々と頭首をひねり夫の顔を見つめながら词语は夫に強請る。
「欲しいのです。貴方の一物が欲しくて堪らないのです。
貴方の好きに私奴を犯して下さい。御願いします」
夫の一物を招き入れるのは初めてであり強請れと言われてもどう言えばいいか良くもわからずとも
湧き上がる羞恥のままに尻を突き出し词语は強請る。
それが十分で有るかは知らずとも夫は词语の態度に満足したのだろう。
眼の前に突き出された尻肉に手を突き愛液を垂らしパックリと開いた妻の女陰の襞に
一物の先端をあてがうと躊躇せずに一気に置くまで貫いてやる。
「ああぁぁぁぁ~~~~」
待ち遠しくももどかしくも欲しかった物で一気に貫かれ词语は弓成りに体を反らせ仰ぐ。

・・・・・・

妄想と夢想の中で逝き果てた妻を部屋に残し夜風に当たる。
随分と久しぶりの感触だなっと苦く思う。
我ながら自分でも少々所か随分とやり過ぎであると思うほど。
幾度も幾度とも妻の体を求め貪る。
快楽に溺れ身を捩り仰け反る妻の髪を乱暴に引き
口の中に指を突っ込も紅い舌を掴み
張りの有る乳房を手絞り嬲る。細縄で根本を縛り上げ形を歪めて先端の乳首を嬲る。
舐めて回し歯に挟んでギリギリと噛んでしまう。
反対の乳房に爪を立て指を食い込ませる。
何度も強請らせ其の度に羞恥に塗れた言葉吐き出させ。
欲しければ犬のように自分の体を舐めろと言いつける。
犬と同じ様に首輪を嵌めさせ鎖を引き四つん這いで歩かせ脚指までしゃぶらせてやる。
反抗的である词语も刻まれて行く羞恥と快楽の味に浸り
徐々にと従順になって堕ちて行く。

其れが妄想夢想としりながら今も尚、其の中に身を置いて居ると知ると
少々不安にも成りながら家の外の庭で涼み。
喉が渇いたと感じて歩道へと向かう。
これが現実で有るはずもなくと、意識が戻れば自分は書斎の椅子の上であり
又直ぐに小言が飛んでくるのだろうと渋く顔を顰めた刻。

世界が跳ねる・・・。
瞳の中に夜空の綺麗な星が舞い踊って流れ赤い月が怪しく煌めく。
そして世界が暗転する。

「ねぇねぇ。三号室の軍人様。かっこ良いわよね。
結構大変な目にあったと言うのに慄然として動じてもないし。
其れに漢前の顔。素敵だわぁ~~~。当番変わって貰おうかしら?」
「えっ?軍人さん?
三号室って言えば唐変木でしょ?
ニタニタと変な笑いを顔に貼り付けた変態野郎じゃん。
投薬の度に隙きを見つけて私のお尻さわるのよ。すごく嫌らしい手付きなの。
あれは絶対玄人の変態だわ」
「二人とも違うわよ。あの部屋に居るのはまるで人形みたいな人よ。
幽霊って言ったほうがいいかしら。全く何も感じないのか能面のような顔で
ほとんど動かず宙を見つめているだけの幽霊みたいな人じゃん」
其の漢を看護する者達の印象はそれぞれ違い正体がわからずじまいの患者である。

後に見せられた記録や周りの人々の話を纏めれば
本来、真っ先に姿を見せるべき妻・词语は遅れて現れた。
彼女の所に連絡が届くのは極めて遅れたからだ。
もっとも最初の一週間の間には身内と呼べる者の誰にも連絡は届かかった。
理由は簡単であり身分を証明する物を全く持たず。
更には事故に関わった者達の思惑もあった。
其れよりも体の損傷が著しく激しい事の方が重要であり医者達は其の処置に掛けずり回る。
起きた事はしょうが無い。勿論諦めて受け入れるまでには時間を要する。
人と妬みもするし人生を呪う事もする。それでも状況は変わりない。

叢一郎事。僕は深夜の路上で大型車両に衝突され跳ねられたらしい。
しかも一度跳ねられた後に又別の車の下敷きに成ったと聞かされる
其の結果、いつくのも怪我と頭部に損傷を受ける事に成る。
中でも左四肢の損傷が激しく修復も回復も不可能であり
更に事故現場の土汚れが酷く傷口から雑菌が入り込み急速に
四肢に壊死が進行して行く状態でもあった。
結果には昏睡続ける患者の意思をも確認出来ず勿論了承も取れぬまま
患者の命を救う為に左四肢大腿部下部から下の脚を切断すると言う決断に至る。

最初に目覚めそれを聞かされた当人は至って冷静に受け止め。
「軍属で有れば戦地にて命を落とすのも多々と有る。
このような体と成れば不本意ではあるが、命を拾ったのなら良しをすべし」
状況を冷静に受け止める所か極めて冷静な態度を見せ剰え的確な判断をしたと
気まずく頭を下げる医者達に礼さえ述べたと言う。

次に意識を取り戻した時軍属であると言った漢は姿を消し
それこそ形容のし難い漢が顔を出す。
勿論、自分の左足が動かずそれがないと知ると絶叫し暴れ出し
なだめる看護婦の体を触りまくり抑え込む介護人を殴りつける。
鎮静剤を打ち落ち着かせるとするも中々効果が現れない。
それどころかにたにたと不気味な表情を顔に貼り付け
「お前らは下手だ。素人すぎる。ちょっとよこせ。」
追加の鎮静剤を持つ介護人の胸を押し注射器を奪い取ると
自分で腕をパンパンと叩き血管を浮き出させると注射をうってしまう。
余りに見事で巧みであると褒めたく成る反面。其れが薬剤中毒者で有るとも解る。
通常よりも多くの鎮静剤を自分で打ち効果が現れると
にたにたと変質者のような笑みを顔に貼り付け目を閉じて倒れ込む。
厄介な患者であると医者も看護婦も顔を見合わせた。

他に何人の僕が現れたかは記録にはないが恐らくは彼が最後であり
僕に尤も近いだろう。
彼は終始呆けたように無表情であり動かせる四肢であっても自分では動かさない。
只に一日中。能面のような表情で只一点の宙をじっと見つめて居るだけである。
否然し。意識を持たずというわけではなく、寧ろ明晰な意識と能力をもっていた。
特に数の学問には精通しているらしくあり、他に入院している子供の学習から
女子大生が持ち込む数学論文などはいとも簡単に解くばかりか
冗談半分で物好きな医師が差し出しす世界的に未だ未解決な難解数式まで
口元を軽く歪ませ黙したままで紙に鉛筆を奔らせて解を示す

幸いに当人自身の名と名字を記憶していたのも彼であるが
現れた人格としてはかなり遅くしかも問いかけに応じる事も稀であったり
実際の会話に声や言葉と一切使わぬ。宙に指を浮かせ文字をなぞるか
若しくは筆談のみでしか返答を経ないとなればやはり難儀でもある。

ドンッと病室の扉が開くと荒々しくも銀白髪を揺らし嫁・词语が走り込んで来る。
「旦那様殿・・・否。旦那様。
わ、私奴の事忘れちゃったって本当ですか?
右手と左脚切って捨てたって本当でございますか?
私奴を躾けて堕とした後に焼酎飲んでよっぱらって車の前に飛び出したって!
大体、貴方は普段から呆けてばかりです。
私奴の体を弄んでおいてそのまま消えるなんて
約束したでしょ?
首輪付けたまま夜に一緒にお散歩して公園で素っ裸で性交しようって
澁山の公園でロングコートの下には一切下着も付けず
ホームレスの小父様さんの間の前で脚を開いて自慰して小銭貰って来るって
約束したでしょ?全部わすれちゃったですか?」
「ちょっと。本妻の词语さん。一番遅く来てる癖に偉い剣幕だこと。
歳はの行かない稚子もいるのよ。それに貴方達何時もそんな事してるの?」
それまで静かであった病室に嵐が訪れる。それでも予期していたかのように前妻は
子供の耳に手をあてがい塞ぐ事をわすれない。

「随分とけたたましい女性であるが、先ずは落ち着き給え。
そして・・・君は誰かね?」慄然とした声が響き词语は戸惑う。
「叢一郎様・・・。紹介するわ。
私は貴方様の前妻に当たるのなら、現在の正式な妻はこの词语さんです」
「えっ?君が正妻ではないのか?
彼女が僕の正妻?こんなに煩い女性を僕が選ぶはず無いだろう?
随分と苦労と仕込の趣味を持ってるではないか?
大体、君と僕との間には娘もいるんだぞ?なんで別れたんだ?
君と別れてどうして彼女を妻として迎えたんだ?説明を求む」
状況が読めずとも半ば愚弄されたのは理解出来ると词语は泣き出し病室から走り逃げる。
「少々互いに誤解が有るようで御座いますね。
宥めて来ますのでこの子を御願いします。」幼子の頭を撫でると前妻は词语を追いかける。

 

置字

 

置字

天鼠蛭姫

天鼠蛭姫

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