【女装男児】女装家且来素子闊歩歩いて候:其の拾之五。

バキっと音がして刀芯が折れ刃先が緑血に染まる地に落ちる。
「ちっ。又折れたかっ。恋次郎。次だ。寄こせっ」
「はっ。親方様。後三本です。」
恋次郎と呼ばれた妖精族の雌が腰に束ねた鞘集めから一本抜くと且来に渡す。
受け取った鋼を翻し一閃すると化け物の顔が真っ二つに割れて溶ける。
緑色の血が吹き出せば大地に滲みを作って直ぐに消える。
「あとどれくらいだぁ~~~。小童ぁ~~」
4本の石柱が屋根を支える広い中庭から声を絞り近藤に叫ぶ。
「さっ。三分の一。三分の一位でっす。准尉」こちらもあらん限りの声で叫ぶ。
且来こそ藁藁と湧いては切り捨てる魑魅魍魎共相手に切り込んでいるが
他の妖騎士はどうしても押され気味である。
陸の船を堕したイグでさえこの勇者もどきには手を焼いている。
得意の雷撃さえも喰らって腹に納めてしまうからだ。こいつを倒すのは切って捨てるのが一番であるが
藁藁とごぞごぞと次に次にと地面から吐いてくる。
「折れたぞ。恋次郎。次だっ」
「はいっ。」恋次郎は腰の鞘集めから次の一本を抜いて投げるがはたっと気がつく。
一連の動作の流れて刀を抜くがその時必ず刃を鏡に自分の顔を移す。
其の時。其の一本の刀鋼に曇りを確かめ切れ味を知る為だ。
「親方様。それっ」自分の前の敵を小刀で捌きながら声を掛ける。
否然し。且来の耳に届いた時にはもう襲い。
ぼきりと刃先が折れて且来の顔に跳ね瞼の上を霞め血飛沫が飛ぶ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ。頭気たぁ~~~~~~~」
その日八本目の倭刀をぼきりと折ると且来は癇癪を起こし
ついには勇者もどきの腕を掴んでグイっと体を反らし勢いを付け頭付きを食らわす。
喰らった勇者もどきは勢い余って後ろの奴を数体巻き込み弾け緑地を吹いて弾け死ぬ。
「お前ら。纏めて掛かって来い。臆したかぁ~~~。
何が気に食わないかって?ちょっと儂に似てるのが気に食わん。
中途半端に出た腹が気にくわん。どうせ腹だすならちゃんと出せぇぇ」
鷲掴みにした勇者もどきの腕を引締切り頭を潰し腹を殴り割る。
癇癪を一度起こした且来は止まらない。猪突猛進雑魚どもを踏み潰し
その日の勇者頭に猪と迫る。この時に既に後ろで近藤がぴぃ~~~と鳥笛を吹鳴し
戦闘終了を告げればズムは不甲斐ないとため息を一つ付き腰の鞘集めをじっと見つめる。
若しに勇者頭が意志や感情を宿すなら。事実少しは其れが有るのだが。
自分より体躯は小さい癖に自分より大きな腹を抱えた鬼が奔り迫って来る。
爛々と怒りに燃える眼差しで鬼が迫ってくるならば言葉縛りがなければ後ろを
向いて逃げて居ただろう。其れが出来ないであるからこそに
鬼と化した且来の体当たりに腹を突き破られて勇者頭は緑地を飛ばして地に果てる。

勇者頭の体を突き破り勢い余って先の湖に落ちる手前で踏みとどまり
石柱支える屋根広場にはぁはぁと息を履きながら戻ってくると
ばきりばきりと武具を自分で剥ぎ取る。且来が信頼を置く妖精雄共が最初に掛けよる。
隣にはやはり素早く倭甲冑を脱ぎ捨てた恋次郎がとなりに立つ。
しゅるりと且来の褌が解かれれば恋次郎は自分で下着を脱ぎ捨てる。
勇者もどき緑血は厄介で皮膚の上に長く残すと凝固し殻と成る。
一度固まった殻は壊すのも剥がすのも危険を伴うので出来るだけ早く流す必要がある。
それ故に妖精の雌で有る恋次郎も他人に体を観られる事を恥ずかしがってはいられないし
他の妖精騎士も同じである。下仕えの雄達が湯桶を掲げ緑血を洗い流す。
且来だけはこの時容易された簡単作りの椅子に大きな尻を乗せる。
嫁共が衣服を脱ぎ捨て且来の肌にふれると直ぐに妖精塊となり中に溶ける。
ふうふうと鼻息猛る且来と嫁達の交わりを恋次郎は当然羨ましく妬ましいが
且来は大陸をとんでから随分と気を使ってる。色々と事情あればこそだろう。
大きな且来の体の中を妖精妻達が羽根て踊り光り遊ぶと。
「今日も又。随分と楽しげに御遊びに成った事ですわね。且来様」
涼やかでもしとやかでもない。陰湿で棘の有る声が耳に届く。
「貴殿の為ではない。民が要るからこそである。
儂の姿が嫌いなら鶏一羽も貸してやる。預かる民を残してど声でも行けば良い」
「粗々。怖い怖い。民は夫が残してくれた宝で御座います。
守って下さるのは宜しいですが。裸で雌共を咥えるとは随分と破廉恥な」
且来の中の妻たちが互いに光って言葉を交わす。中にいれば相手に聞こえぬが通りで
悪口の漫才デパートオンパレードである。
「漢で有るからな。血が猛れば御名子も欲しく成る。儂の國では当たり前だ
観たくないなら顔を態々と顔を出さなくて良いだろう。飯だ。恋次郎」
「はいっ。親方様」するりと新しい下着を身につけると立ち上がる且来の背を追いかける。

「薄いです。給仕。味噌。味噌を持て」
身内ばかりの食事となれば外者である恋次郎も遠慮せずとも良い。
「日が浅いと言うのに恋次郎さんもすっかり倭の味になじんでしまって」
クスクスとセシーグが嘲笑う。
「だって。味噌汁ですよ。味噌汁。何度言っても屋敷の料理人はわからないです」
「其れはしょうが無いで有ろう。雌が上に立つ以上下働きは雄に成る。
頭に蓋をされて要る以上冒険は出来ぬ。決まった味しか作り出せんさ」
「それはそうですけど。それでも私達が交じるには雄が要るじゃないですか?
守ってあげてるのですよ。強い敵と雌から」
「そうそう。可愛い雄を守ってるのです。私は違いますけど。むしろ・・・コホン」
何かを思い出し急に咳真似で誤魔化すセシーグ。
「それにしてもだな・・・」且来は余り味のしない魚フライに噛みついた。
・・・それにしてもだな。
且来は其の言葉につづけて妖精月数えで参ヶ月。倭数えで半年近くを振り返る。
鶏竜ヘンリエッタが掴み籠に乗っは良いが列車には酔わぬが籠酔いした
且来と近藤を笑いながらも皆が介抱し碧空遠くと旅路の後に見えて来るは妖精の國。
本来の予定であればこそそのまま真っ直ぐに妖精王都での姫娶りとなり
その後に國の驚異に立ち向かうつもりと成っていたがが
横切る森の其の下に朱く炎が上がれば街が燃える。
直ぐに王都の援軍が辿り着くと思えば大きな渓谷を超えねば成らず。
それでは仲間が死に落ちると成れば且来は直ぐに剣を寄こせと叫ぶと
街の広場に勝手に飛び降りる。後は慣れた戦であれば切った張ったと大暴れ。
セシーグが鶏竜の籠を下ろした時は既に街の殆どに勇者もどきの怪物は
大地に緑の滲みと溶けていた。
それは良き事であるとおもったが気づけば剣の先が折れてない。
自分の腕が悪いのかと思えば其れとは違うと後で知れる。
妖精国には質の良い鉱石がすくないのだ。言われてみれば倭之御國は良質な鉱山を持ち
古くから長くと刀鍛冶が技を振るっている。
なるほど其れは知らなんだと一件落着と相成れば。
領主の未亡人が言いすてた。
「でぶ・・・でぶですわ。まるで勇者の如くの腹ですわ。
誰か槍で突いて空気を抜きなさい。早くなさい。早くっ」
自分の腹を指差し恐れおののく女領主との出会いがこれであれば。
且来の頭も血が登る。慌てて兵士が遣りを突き出せば先を掴んでブンっと投げる。
転んだ兵士に遣り先を突きつけ未だやるなら命を捨てろと言い捨てる。
これが又一つの縁を結び。今では味噌汁をこよなく愛する恋次郎との出会いでも有る。
「だれが勇者だ。倭之御國帝国陸軍且来素子准尉である。
久しく女装はしてないが心は錦の漢である。でぶはでぶでも筋肉だぞ。
穴を開けたいなら掛かって来い。その代わり蒼い血の雫を垂らす覚悟は良いか?」
パンパンと手を打ち鳴らし四股を踏むと石床がべこりと沈む。
「控えられよっ。
我が精錬妖精因法國一等貴族騎士。セシーグ・モレヌ・ウリンで有る。
領主殿。こちらにおわすのは我が王国が国賓騎士としてお迎えに上がった
且来素子鏡蔵殿である。(おまけ付き)同時に我ら52人の夫様で有る。
我等が夫様に刃むけるなら一等貴族騎士団52人の妻を切り捨てる
覚悟あるなら向かって来たれよ。抜刀許可!」
すらりすらりと刃剣が52本分全部が当たりで抜かれる。
「あれが夫。52人の嫁を持つ夫。一夫多妻厳禁の個の國で・・・
でっぱらな漢の嫁が・・・52人・・・あわわ・・・」
未亡人と成れば熟れ頃の妖精領主は耳をピクピクと震わせて卒倒する。
「おまけだって。僕。おまけだって・・・かっこの真ん中でおまけだって・・・」
それが未亡人領主シリヌル・シシル・モリヌとの出会出会いであり
腹の事を貶された且来にはなんとも言えぬ物であった。

勇者と言えば正義の味方で有るはずががどうやら嘘らしい。
悪口ならみな頷くが間違って褒めたりしたら後ろ指を刺される。
子供や信心深いものが吐き捨てる悪魔と言えば伝わるだろう。
それでは魔王に集う魔物とは何処が違うと言うのなら
魔物は魔法や因法をつかう生物で時に厄災を齎すが
勇者は人間其の物であるが悪魔の如きの所業を行う。
「誰が悪魔だ勇者の如くだ。このキュートなおめめをみろ。チャームポイントだぞ。
腹が出てるからとか人を喰ったりせん。好物は饂飩と蕎麦だぞ」
多少の伝承や噂はあれど人々が重い描く勇者は腹の出た勇者と手下のもどきとよく似てる。
「人を外見だけで判断しちゃいかん。それは差別と成る」と言っても
妖精族にはその言葉自体がないからわかって貰えない。
特に未亡人領主のシリヌル・シシル・モリヌに取って且来は侮蔑する対象である。
先ずこれは当然であるが且来は漢であり妖精の通例からみれば雄となる。
妖精族の世界では雄は雌の脚元傅くのはありえない。体の作りも雌が大きく靭やかに逞しい。
雄は貧弱で細く脆い。雌は常に上に立ち雄は常に下で働く。子供を成す時にだけに
体を合わせ契を結んだ後も上と下は変わりない。
差別用語に等しくも勇者の如くと腹を膨らませたブサイクな漢雄が52人も雌の夫であるとは
言語道断の子豚ちゃん。許せるはずもない上に嫁と自負する雌は体の中に楽しげに潜る。
人前憚らずも多種族の雄の体の中で跳ね回るなど許せるはずも有りませんわの子豚ちゃん。
そして又に・・・。
二晩に一度必ず決まって街と領主屋敷に勇者もどきが現れる。
且来が切って捨てれば又に湧き脚で潰せば又滲み出る。
夫が命を落してⅣ年ずっと繰り返す悪夢が続く。

且来の下で働く様に恋次郎は色々と驚く事が多い。
「コンジュロウ・ペゲゲ?恋次郎で良いじゃん。お前は今日から恋次郎」
初めてあの路地で負けたと知り頭をげた途端に名を付けられた。
52人もいる妖精騎士たちが次々に恋次郎と呼べは逆らえず今日も其の名で呼ばれ通す。
「恋次郎様・・・今夜結構と相成ります」
「うむ。小麦の量は?其れと白粉は?」
「何方も抜かり無く。然し箸の数が少々足りずと・・・」
「馬鹿者。饂飩は箸で喰らう物である。削れ。木刀を材料に削り出せ」
「はっ。心得ました。恋次郎様」
渡り廊下をしずしずと歩く恋次郎の背後で気配が溶ける。
報告を上げて来たのは雄である。雄であるが才能があった。
やって魅せろと自分に言われても自分に真似は到底出来ない。
且来が言うには忍びの影跳びと言う技らしいが今の所それが出来るのは常に雄である。
だからこそ密偵紛いの仕事は彼等が熟す。
恋次郎は又と仕込まれた技を使い折り畳んだ紙を空に飛ばす。
渡り廊下の窓から異国折に折られた紙飛行機を仕込まれた飛蜥蜴が飛びついて咥える。
そいつは仕込まれたよりも遥かに頭が良く未亡人領主の屋敷を出ると
目的の匂いの先までの道順を最短ルートで割り出し転がり奔る。
市場の隅まで来るとそいつの靴にべったり張り付き小さく鳴くと
雄が紙折を受け取る変わりに砂糖粒を二粒落してやる。
「えっと何なに?蝋柱?何に使うんだ。兎に角其れがいるんだな」
これも又。且来の下で働く雄でありやたらと気が利くやつであり
主に買い物を任されいる。何処が気がきくのかと言うと
相手が雌の商人や騎士であっても物怖じせずに言いくるめ安値で商品を取り繕うところで有る。
「商売。商売っと」紙織りを丸めると安く買えそうな店をさがして歩き出す。

結婚して子に恵まれずとも夫が勇者もどきに喰われて数年。
其れに成りに熟れた四肢が疼いても流して我慢出来る位には成る
未亡人領主シリヌル・シシル・モリヌ。
確かにその日は彼女に取っても喜ばしい日ではあったはずでも
自分の事よりは民の事先にと棚に上げて書類仕事に没頭すれば
夕食も忘れてそれなりに遅い時間・・・。
ふと紅茶を飲もうとカップに目をやれば。
何やらそれは紅茶ではなくどうやら珈琲で。ミルクの泡が渦を巻く。
全く雄の馬鹿者めと一口飲んで味を確かめれば意外と美味しいと思うのだが
白い泡が未だ回り。何やら文字と顔にも見える。
誰かの悪戯か目の間違いかと細めて見れば・・・。
[女装家・且来素子・Eカップ・参上]
異国言葉が並べば読まないが回る泡の濃淡が憎き且来の顔になる。
そして目の中に星が飛んだ。

「ちょっと離しなさいよ。でぶでぶのおでぶの子豚ちゃん。あんっ。エッチ」
「普段。虐められておるからな。これくらいは約得である。
なかなか大きな尻しておるではないか。好みである。ぶはは」
ズカズカと足音を鳴らし未亡人領主シリヌルを脇に抱え尻を撫で回し廊下を歩く。
「私を何者と思っているです?
主人無き後この領地を納めるシリヌル・シシル・モリヌですよ。
何をしようと言うです。パンパンお知り叩くの止めなさいな。
ちょっと気持ちいい。違うから感じてないんだから。あんっ」
「こんな大きな尻を布きれの下に隠して奥とはもったいない。
御主人殿も草花の影で嘆いておられよう。もっと愛でて起きたかったとな
さてついたぞ。貴殿との因縁は確かに有るが今日くらいは鉾を収めよう」
散々に太鼓変わりに叩いた尻を最後に人無でしてから片手で開けた
扉向こうにシリヌルを下ろしてやる。
自由に成った途端に且来の頬を張ろうと手を振り上げるがそのまま止まる。
中央広間でありそこでかつてシリヌルと夫が結婚の儀と彼の葬儀を行った場所である。
然し今日は出で立ちが違い広間の半分に厨房が組み上げられそこに人々が
群がり列を作る。残る反対には倭之御國仕来りに習い床に座布団が敷かれ
その前に四つ足の一人用の盆を何やら袋に入った棒が置いて有る。
大抵の者はそこに座って何やら不思議な器を抱えて食べ物を食べている。
貴族のシリヌルからすれば絶句するほどの行儀の悪さであるが
奥隅の方にはきちんと卓が据え付けられ下級貴族が陣と構える。
「まっ。今日くらい皆が心休める時があっても良いと思ってな。
何せ夫を無くして一人も長いとは言え領主様の誕生日だからな。
皆でで祝うのは当然と言える。
飯を振る舞うと言っても儂の財布からは半分した出しておらん。
後は国費だ。渋る近藤の財布を抉じ開けてやった。
だから飯を食わせてやると言っても嫁とりにはならん。
・・・迂闊に御名子に飯を奢ると後が怖いのでな」
古い慣習の事を言っているのだろう。
腹を摩りながら歩く且来に付いて歩いてシリヌルも列に並ぶ。
「知っていたのですか?私奴の誕生日を。
然し今日は勇者もどきの猿曜日ですよ。後半時もたてば中庭に湧いて・・・」
「心配するな。一応の見張りは立てて有るが。看板も立てて有るからな」
「看板ですか?そんな物が訳に立つとでも?」
「知らぬのか?確かに残忍な彼奴等ではあるがあれでも少しは頭が回る。
字もちゃんと読める。閉店休業で兵が一人もいないのぞ?
誰を相手に暴れると言うのだ?石柱が4本有るだけだぞ?ほら。盆は自分で持て」
禄にこちらを観ない癖に盆を一枚取り上げてシリヌルの前に且来が突き出す。
「オイ。お前はクルヌだったな。尻を撫でてもらってウキウキな未亡人領主様に
倭寿司を握ってやれ。そうだな。雲丹軍艦と烏賊と鮪の大トロ。後は適当にだ。
クルヌはな。起用なんだ。儂が手本を一度見せただけで直ぐに覚えてな。
そっちのピノピが天麩羅を上げせたら儂より上手く上げるのだ。
儂には車海老と大根を。ワクワクな未亡人領主様には海老と卵焼きが良いだろう
「誰がウキウキワクワク何ですかっ?その赤い野菜のも寄越しなさい。
名前を憶えてるのですか?雄の名前を」
「当たり前ではないか。雌も雄も人であるぞ。妖精族に上も下もあっても
儂の國はないのでな。ちと語弊があるが。人は人だ。礼儀は通す。
饂飩と蕎麦。どっちが良い?甘みが強いのは饂飩であるな」
列の横にずれる度に観たこともない倭料理が盆の上に並んで行く。
「甘みの強い饂飩とやらにします。貴方御名前は?・・・ジリリね。
私は饂飩を所望します。ジリリ。其の小鉢も寄越しなさい」
倭御国の慣習はよく知らないし意味もわからない。
個の國では雄は常に下であり必要がなければ雄の名前を呼ばないし憶えない。
それでも礼儀と言う意味はシリヌルも知っているし重んじる。
突然名前を呼ばれたジリリは頭を下げ小鉢の上におまけと銀杏を一個乗せて
シリヌルの盆の上に置く。雄の名前を呼ぶのに成れぬが礼儀を通したお陰で
何やら得した気分に未亡人領主は心た温まる。

「儂は嫁が多いのでな。それに胡座は無理であろう。
上品な客殿は向こうに卓が有る。整然楽しんでくれウキウキワクワクの領主殿」
言い方にちょっと棘があっても祝いの席なら愛嬌だろう。
それに招かれた身であればこそとシリヌルは且来の隣の座布団に腰を折る。
勿論に床の上に腰を下ろすのは抵抗が有るし座り方も雌と雄とでは違うようだ。
シリヌルは近くに座る恋次郎を盗み真似て何とか座る。
異国御国の作法も知らぬ故に恥ずかしくも下を向いてると
態々と恋次郎が隣に盆を持ってやってきて。
「歪み合うのは明日からと親方様が申しております。
今日は祝の席の御本人と成れば私が手ほどきしますので真似をして下さい」
そう言うと静かに微笑み盆の上の袋から箸を抜き取り手に取り頭を下げ
「頂きます。恵みの神様」と唱える。
「いたんだきます?いたたんたき・・・頂きます。恵みの御神様」
妖精族であるから耳は良いはずであるがシリヌルは何度か言い直す。
それでもちゃんと恋次郎を真似て手を合わせ頭を下げてから
まずは寿司。次に天麩羅と食して行く。
初めて食べる異国御国の食べ物は妖精族には味が濃い。
刺激が強いがその分旨味が強く舌の上に転がり箸が止まらない。
饂飩などは最初に口をつけ始めた恋次郎の後かた啜りだしたのに
早く食べ終わり盆を持ち上げ勝手に有るき出し食器片付所まで歩くと
そのまま又。列に並んでしまう。其の日の倭御国の食べ物の種類は山と有るのであるが
且来を覗いて全種類を食べたのは妖精族ではシリヌルと食通の貴族だけであった。
「しっ。シリヌル様。何杯目ですか?お饂飩は?
私も喰い意地は張ってる方ですが・・・ウププ」
「雌のくせにだらしない。剣の鍛錬より胃袋の鍛錬をなさい。
そんな事だから雄を娶れぬのです。雄を娶るのなら先ず胃袋からです。恋次郎さん」
「良く喰らう雌には雄も惚れると言うからな。喰らわせ甲斐が有ると言うらしい。
だが少しは腹の隙間を作っておけ。ウキウキワンワンの領主殿」
「お酒が入りすぎなのでは?でぶでぶおでぶの子豚さん。
あら・・・あれは・・・?」嫌味の切れはいつもと同じでも声がはずむシリヌルのまえに。
大きな銀盆が運ばれる。其の上には観た事のない白く甘い菓子らしき物が鎮座する。
「儂の國では生まれた日にケーキを喰らう習慣有る。
上に立っている蝋柱は歳の数を表してな。
灯した火の前で願い事を密かに唱え消すのが習慣である。後は好きに食らうと良い」
「大きいのが柱が30として。1・2・3・4・5・・・一本多いで御座います?
私奴。今日で三十と四となりますが・・・」指をさしてシリヌルが数え得る。
これは不味いと慌てて余計な一本を摘みあげ
「こっ。近藤ぉぉぉ。貴様35と言ったではないか?領主度のお年は35と
こら。逃げるな。捕まえて殴れ。イグ。ついでに釜茹でにしておけ。
失礼した。あれでも儂より偉いのだが國の女にモテぬといじけるのがくせでな。
ちょっとした余興の後で蝋柱に火が灯され胸に手を握り異国の習慣に習い
口の中で願い事を唱え吹き消すと回りの雌と雄が領主を祝う。

その後はちゃんと用意された余興が始まり。
妖精騎士セシーグ達が演舞を行えば恋次郎が組み手を披露する。
文芸に秀でたものが自慢の喉を披露すれば床を蹴って放て踊る。
その日有る意味注目を集めたのは倭之御國近藤少尉である。
先歩ほどにイグに小突かれ目の回りに痣を作りながらも
気をつけの姿勢から腹に力を込めて喉を鳴らして唄う妖精因法国国家は
後の代まで涙涙と語り継がれる程に美しく皆が聞き惚れ起立で兵士が聞き惚れる。
そこから又と喉を震わせ天に届けと唄うのは領主シリヌルの誕生日を祝う歌で有り
有ろう事にも御國のオペラ歌手にも負けず劣らずの声量を見せつける。
流石に且来も目を丸くするが其れ以上に羨望の眼差しを送ったのは妖精族の雄達であった。
常に雌の下で暮らす雄の彼等の楽しみこそが歌であれば熱い視線を近藤に送る。
近藤の隠し芸が終わると今度は且来の番である。
それまで妖精族の歴史習慣に所謂女装と言う物はなかったが
久しぶりにやってみるかと且来は張り切り妖精族の雌衣装に顔を白くと化粧し
苦労して探した黒炭棒で眉毛を太く繋げて演上に上がると四股を踏む。
「我こそは言う奴がおるなら掛かって来い。多少の手がげんはしてやろうぞ」
突き出した腹をパンパンと叩き鳴らし取って魅せるは倭相撲。
鶏竜相手に稽古を重ねてるとは言え5,6とまとめてなら勝てるか知れぬとばかりに
雌も雄も我も我もと土俵に上がっては且来に転がされるが真打ち横綱となれば
領主シリヌルの名前が呼ばれての一騎打ち。誰もが勝てぬと信じるが
物は試しと払った手は且来の頬を張れば参ったとばかりに且来が転がる。
小芝居然りと領主の顔を立てたと皆が知っても尚、自分達の領主が勝てば尚嬉しい。
やんややんやと酒の杯と饂飩も蕎麦も寿司もなくなりかけそれでも民の宴が続く。

「親方様。少々困ったことに成ったようです」
「ぬ。どうした?儂は団子が喰いたいぞ?」
久しぶりに羽目を外す且来の耳に恋次郎が真顔で告げる。
「中庭のほうでちょっと面倒と言うか・・・様子が可笑しいのです」
「あっちには看板がでてるだろう?彼奴等も宴でもしてるか?」
「はぁ~~~。それならまだわかるのですが。どうやらいじけてるようでして」
「えっ。勇者もどきがいじけてるのか?それは又面妖な」
久しぶりにたらふく食ったし酒も飲んだし千鳥脚にふらふらと中庭にでてみるとなんとまぁ。
「おいおい。なんだ?彼奴等は何をしてるのだ?
床に転がり星を観てるぞ?なんとも言えぬ哀愁が漂ってるではないか?
あっちは壁に落書きしてるではないか?あれは儂の顔だぞ?
むむむ。儂の顔にむかって石投げてるぞ。けしからん
そっちの片隅では草むしりしてるぞ。ご苦労さまだな。もしかして本当にいじけてるか?」
呆れる且来の前で手持ちぶさたに勇者もどきが草むしりに没頭してる。
「あの彼奴等も相当の覚悟で此処に推参したのでしょう。
所がいざ湧いてでてみれば[本日領主殿の誕生日祝いの為休業]と看板が出てるわけです。
領主の誕生祝いに殺傷事起こすのは気が引けるというのでしょうか?
かと言ってすぐに帰るわけにも行かないでしょう。草を毟るくらいしかする事が。」
白く顔を塗ったとは言え其れが且来と分かると勇者もどきの顔がぱっと輝く。
待ちかねたぞ。祝い事がおわったかとばかりに剣を握ろうとすれば壁に立て掛けたのを
思い出し小走りで鳥に行く者。毟った草をそのままにするのは不味いと口に放り込む者
落書きした本人が現れて驚き慌て背伸びして隠そうとする二人組。
何時もは刃交えて戦う相手であるが滑稽過ぎて話しにならない。
「あ~~~あ。せっかく来てくれたようだが申し訳ない。
看板に書いてあるとおりでな。儂も酒を喰らいすぎた。
到底貴様らの相手などする気になれん。饂飩でも奢ってやるから喰ったら帰れ。
上司に怒られると言うなら菓子折でも付けてやる。
落書きは消しておけよ。せっかく毟った草であろうが中途半端はいかん。
最後まで雑草は抜いてくれ。ちゃんとやったらおまけをつけてやる。
あとは任せた。恋次郎」「御意。」
短かいやり取りの後に恋次郎が睨むと勇者もどきは褒美目当てと体を動かす。

宴浮かれれば騒ぎも起きるが其の日一番の騒ぎはやっぱり大変で有る。
宴たけなわの屋敷から中には降りるには長くはないが石階段が並ぶ。
一度庭に降りた且来は面倒臭そうに毛のない頭を書いて階段を上がる。
「うぷぷん。倭のお酒は甘くて旨い。きりりと切れればやっぱり旨いのです。
うぷぅ。夜風が冷たく・・・私は今日から。35?34?・・・あらん
あらあら。とっとっと・・・・飛んで転んですってん・・・」
ぴしりと殺気を感じた且来が顔を上げ思わず見構え腹を突き出す。
階段上に千鳥脚で倭酒の一升瓶を握り締めた未亡人領主シリヌル・シシル・モリヌが
姿を表すと思った通りに階段を踏み外し一段二段と飛ばして宙に跳ねたと思えば・・・
にゅるるりんっと音をさせて且来の腹にぶつかりそのまま体の中に溶ける。
「あっ。やばい・・・」且来が呟いた時には未亡人領主の着ていた服がぱさりと階段の上に堕ち
シリヌルは妖精体全裸となって且来の体内に溶けて堕ちる。
「むにゅ?此処どこかしら?なんか暗いのに温かい?あんっ。くすぐったい
やん。気持ちいい。誰かいるかしら?あんあん。これはすごく。あの其の・・・
とってもとっても至極と刺激的な・・ああ・駄目・・気持ち良い。・・ああん」
「御館様?今のは?領主様の妖精体では?もしかして?」
「儂は悪くないぞ?恋次郎。柱の如く立っていただけだからな。
うぉ。そこはいかん。大胆な。駄目だと言うのに。臍の芯を弄くるな。領主殿」
「真逆本当に?領主様と親方様は夜空の下で逢引きとかなんて破廉恥な
ぬっ布を持て。布だ。早くしろ。覗くな。雄の癖に。スケベ」
「はぁはぁ。これはとっても・・・えっ?私奴子豚ちゃんの中に?
あんあん。此処は駄目。そこはもっと気持ちいい。なんて破廉恥な子豚」
酒の勢いもあるのでは有ろうがシリヌルは妖精族意外の者の体に潜るのは初めてである。
意図したものでもなく覚悟の上でもない。当然戸惑いも有るが交わりで有るから
快楽が付きまとう。自分でどうして良いか動く度に例え様の無い刺激が伝わる。
「奥様。奥様。聞こえますか?子豚の中で何してるんですか?
新しい遊びですか?出てこないと子豚になりますよ?」
忠実な従者がポンポンと且来の腹太鼓を遠慮なく叩く。
「何が子豚になるだ。こら。シリヌル殿。そこはいかん。そこは
感じちゃうから。僕。元気に成っちゃうからん」
段々と確信に迫るところを責められて且来ももじもじと身を捩る。
「はぁはぁ・・・駄目。ぼぉ~~としちゃう。休ませて・・・ああ。
何てこと。気持ち良すぎて吐きそう。うぷぷ」
バタバタと張り仕込んできたセシーグが且来の腹に手平を添え
「これは御愛でた妊娠4ヶ月ではなくて夫様酔いです。
早くしないと気持ち良すぎて本当に妊娠してしまうかも知れません(嘘です)」
「誰が妊娠4ヶ月だ。妊娠線できても愛してね。違うわ。このボケ。
何が夫酔いだ。重い病に聞こえるではないか?妊娠とか脅かすな。
出てこれるだろ?お前等でも好きに出てくるではないか?
おおぅ。そこはお尻。そこも駄目。出てこい。馬鹿領主め」
「多分無理で御座います。シリヌル様は初めて夫様の中に潜ったのですよ。
しかもお酒をたら福飲んだまま。飲酒して鶏竜で飛ぶのと同じで御座います。
勝手も解らず強い刺激に酔いしれているのです。羨ましい。
兎に角。夫様も服脱いで。出てきやすい環境を作らないと。
どいて。どいてぇ~~。でぶが通るのよ。どきなさいってば」

領主シリヌルの妖精裸体を腹と言うか体の中に抱える且来は
セシーグや屋敷付きの物に手を引かれ背を押され庭裏のサウナ小屋に連れ込まれる
妖精国にサウナが有るのかと思うがもっと豪快であった。
少し他床に成ってる木造りの小屋の真ん中に全裸で座らせられたかと思うと
「ごゆっくりお楽しみ下さいませ」と意味深に従者が頭を下げ扉を閉めると
床から朦々と湯気が上がる。確かにサウナとも言えるが迫力が違う。
その時以来且来は何度か妖精国式のサウナに入り仕組みも知るが。
まずは高床式の床には窓があり其の下には専用の石を並べ。
夏の因を使う者が因で石を温める。其の柄に遠慮も躊躇もなく大量の水がぶち撒けられる。
あとは思惑通りに朦々と熱が且来が座る小屋に充満する。
何処まで我慢したら良いのか解らずに。
下で石を炊く雄も緊急事態と言われ加減も解らずの其の中で。
はぁはぁと体の中で喘ぎが聞こえ形になるとうっすらゆらゆらとシリヌルの姿が見える。
いつの間にかと自分の体から出てきたのかと思えば。
「おい。こら。シリヌル殿。何をしてる?
お主。咥えてるではないかっ?根本迄ずっぶりと。離れろ。馬鹿者。」
「はぁはぁはぁ。気持ちいい。気持ちいい。御前様の気持ちいい」
奇妙な事に若しくは器用と言うのだろうか?
且来の猛る一物をくわえ込む女陰は人の体を維持しつつ。
ぐちゃりぐちゃりと音を立ててるくせにそこから上は半透明な妖精裸体であったり
触る手の先は上手く抜け出せないのか体の中で踊って跳ねる。
「こら。正気に戻れ。旦那ではないぞ。うぉ。そこは良い」
「此処が良いの?こうすればもっと感じる?ちゃんと観て。咥えてるのちゃんと観て」
脚を開いてばちんばちんと尻を一物に自分で打ち付け声を上げて強請る。
「乳房嬲って。弄って絞って。舐めて吸って。早く。ああ。良い」
且来自身も快楽に呑まれ強請られる儘に熟れた乳房を握ればそこも人肌に変わる。
「もっとももっと強く吸って噛んで契って・・・ああ」
且来の体をきつく抱きしめ乳房を押し付け狂おしくと喘ぎシリヌルは悶える。
人の体で漢の一物に喰らいつき快楽を貪り漢の体の中で跳ねて踊り悦楽を貪る。
「いくっいくっ。出して。頂戴。種頂戴。お前様の種頂戴。孕ませて。ああん
いくいくいくいくイクっイクっイクっあああ。駄目いっちゃうぅぅ」
ガクガクと四肢を痙攣させ且来の首後ろに手を回したまま弓に反り
絶頂まで上り詰めると人の体女陰からこぽりと白濁を滴らせ口づけを求め
抱きつくとそのままにゅるんと且来の体の中にシリヌルは消えた。

「嘘であろう。あんなに熱い思いをしたと言うのに。
シリヌルと言う雌は何処まで傲慢なのだ?勝手に尻を振り果てたと思ったら
儂の腹中で寝息立てておるわ。せめてこそは儂も満足は出来たものの出てこんぞ?」
「あらまぁ。匠の技で御座いますね。親の仇と言う癖に漢の腹中で惰眠とは。ぷぷ」
死ぬかと思うほど熱いサウナを我慢したのに結局腹から出てこないシリヌルに
それこそ腹と立てずかずかとあるき去る且来の背中でセシーグが笑う。

先日の領主の祝い事の時に草を最後まで毟って居た勇者もどきが
その後に裏庭の戦事で顔を見せた。
全部で5人であったが顔見知りと成ればやりづらい。
刀刃を翻し峰打ちにしてやったがその後に様子が可笑しい。
一度は確かに地面に倒れて気絶したのは良いが他の奴を切って捨てた後に
ちらりと見ればむくりと起き上がり回りをギョロリと見定めて
今度は庭の隅に奔ると地面に手を付いて溶けて消える。
逃げ出す術を持って居たとは驚きである。
しかもそいつ等は別の猿の日にも且来の前に現れるが
顔を見せれば最初から遠巻きに戦さ場から離れ壁際で構えている振りはしてる。
要は体よくさぼってるのである。親玉上司に見つかりそう成ると
慌ててこっちに向かってくるが刃が通る寸前を見切って地面に溶けて消える。
「親方様。変な奴がいます。顔に見覚えが有るやつです。
わ・・・私の可愛いお尻を触るのです。ぺたりと・・・。
びっくりして匕首を向けて睨んだら頭を下げて消えたのです。地面の中にするりと」
相変わらず領主シリヌルとの歪み会いが続く今でもあるが
雄が掛ける湯に身を任せ不機嫌では有るが又不思議相に恋次郎が告げてくる。
「知っておる。儂の刃を見切って地面に溶けた奴もいる。
面妖な技でも有るが其れよりも何かと器用でもある。妙である」
「夫様。私もで有ります。私の雷撃を喰って避けるやつが
今日に限ってちゃんと当たり痺れて倒れて地面に溶けました。
其れも随分と態とらしく。芝居が下手で吹き出すほどに。
話しが聞こえたかイグが湯気を纏いながら近寄ってくる。

「するとなんですか?
領主様と且来准尉が裏庭で人前憚らず乳繰り合ったあの日に
土産をもたせた5人組が猿の日に毎回顔を出すけども
上司の目を盗んで手抜きしたり誤魔化してお茶を濁して早退してる奴らがいると?」
「近藤少尉?それは言わぬと約束したではないか?
イグ。吊るしてしまえ。首に縄かけて吊してしまえ。
それはともかくと。概ねそれで合っている。面妖である。
猿の日の戦事後の恒例の食事の集いで且来はそれを話題に乗せる。
「私もちょっと気になる事が有るんです。夫様。
私は仕事と癖も合っていろんな物を書いたり憶えたりするんです。
後でちゃんと記録に記す為に。それで気がついたんです。
全部調べたってわけじゃないんですけども猿の日に中庭に現れる
勇者もどきの数は毎回同じなんです。
それから持ってくる武器も槍が5斧が13の鋸3石金槌9・・・皆同じ数なんです」
大人しいセレンで有るが自分の出番は逃さない少し甘い声で謳うように話す。
「それも又面妖であるが・・・もう少しだな・・・」
「僕らは毎回同じ敵と戦っているのではないでしょうか?
且来准尉と領主様が・・・(痛いから痛いから止めて下さい)
あの日に饂飩を奢った奴らがその後も出てくる。
でも恩義があるから積極的には前にはでてこない。
セレンさんが言うように使ってる武器が毎回同じ。
くっ擽るのは止めて下さい。微妙に可笑しな気分になります」
最近は天井から吊るされる事にも慣れて来た近藤が身を捩って発言する。
「猿の日に出てくる奴らは手強いし数も多いです。
こちらも必死であります。勇者もどきの顔はみな同じにも見えます」恋次郎が告げる。
「手間ではあるが何か仕掛けが有るようにも思える。調べる価値も在るかもしれん
それからちょっと聞きたいのだが・・・これは何だ?」
何気ない仕草で且来が丸めて固めた拳の回りでゆらりゆらりと赤い光がまたゆらりと揺れる。

「は~~~い。吸ってぇ~~~吐いてぇ~~~。
こっちみてぇ~~~。あっちみてぇ~~~。あっち向け。ホイっ。
お馬鹿さんですね。私の勝ちですぅ~~~。
あっ。睨まないで睨まないで。怖いから。
えっと体重も順調に増えてますし。母子共に健康ですね。
自分は漢?雄であるって。入ってるでしょ。絶対入ってるでしょ。このお腹は。
睨んじゃいやん。膝に爆弾抱えてるはずだ?それはないですね。
因の影響もあるのでしょう。至って健康で御座います。
拳の光は何だ?光炎と言ったほうが良いでしょう。
手を動かすと光炎が付いてきますし。ほら指を立てて動かても付いてきますよ。
宙に文字とか書けそうですね。云々。精錬医学的には全くわかりません。
お手上げです。偉い学者様も匙を投げたと?云々。そうでしょうねぇ~~~。
未知です。わかりません。未だ知れずの未知。前代未聞の現象ですね(にっこり)
お薬出しておきます。脂肪吸収の下剤と精力剤ですね。
はいっ。次の方ぁ~~~」
この岩壁の領主の街にはろくな医者が居ないらしい。
セシーグがシリヌルの菓子折を押し付け機嫌を取り何とか紹介して貰った
医者も学者も且来の光る拳手の現象の正体を知る者は居なかった。
さっきの医者等は且来の腹を観て子を宿してるとまで決め付ける。
あの医者は馬鹿かも知れんが収穫はあった。
医者が口にした光炎と言う言葉。思いつきであろうが面白い。
それから宙に文字とか書ける。それもまた面白い発想である。
病院小屋からの帰りに拳を丸め指を立てて動かすとその先に光炎が付いて着て
文字が書ける。自分の名前を書いてみたり覚えたての妖精文字を書いてみたり
ちょっと真面目に偏差砲身射撃の計算式を書いてみたり・・・。

「退け退けぇ~~~邪魔。邪魔ぁ~~~。
あっ。御婦人方はそのままで結構。着替えは衝立の向こうでしてね。
退け退けぇ~~~退け退けぇ~~~。退いて頂戴な」
猿の日でもないし3匹の子猫ちゃんの日でもなければ戦の無い休日の午後である。
皆が思い思いに羽根を伸ばす午後に電光石火の達磨の如く且来は屋敷の図書室に
殴り込みを掛けてくる。最近やっと妖精文字が読めるとは言えそれでも苦労して
精錬数学の学術書を引っ張り出す。慌てているのだろう。バラバラと他の本も棚から堕ちてくる。
図書館ではお静かにの札も無視するとドスドスと床を踏むならし卓を一つ占領し
書司官を一人捕まえ羽根筆と羊皮紙を大量に持ってこさせる。
次に云々と頭を撚ると倭数字を書き出し精錬妖精の学術書を見比べ突き合わせて行く。
苦労はする。且来は体を動かすのは得意であるが学問は近藤の方が学が在るだろう。
妖精族で言えばセレンの十八番と言える。それでも且来が思いついてるのは
もっと専門的とも言えた。最初に頭に浮かんのが偏差砲身射撃の補正計算式で有る。
かと言って偏差砲身射撃の補正計算式を近藤やセレンが理解してるとは思いにくい。
近藤は知ってるかも知れないが頭の隅にしまっていても実戦で培った
補正変数までは理解できないだろう。やはり且来自身がやるしかない。
この専門的な式を倭のものから妖精族のものに直そうと言うのだ。
もっと簡単なもので良いのではないかと言えば確かにそうであるが
思いついたのがそれであれば他は頭にないだろう。
極々。基本的な事は倭数学と妖精数学は同じに近い。
倭数字の1と妖精数字の壱は文字の形が違っても同じ1として取り扱える。
倭の大陸でも妖精の大陸でも言い方と表現方法は違っても一つの世界であれば
数の概念の根本は同じである。
なんとかかんとか苦労して偏差砲身射撃を妖精数学で表記出来たとなると
今度はそれをばらしてもっと単純なものへと組み替える。
一つ一つの要素を組み直し根本的な数式を読み解いていく。
「せっかくの休日をいつもは嫁雌を腹に納めて踊ってるでぶの子豚ちゃんの癖に
こんな所で云々唸っているのは滑稽ですが。何をしているのですか?」
こちらもまた仕事が上手く行かず図書室のテラスでサボっていたシリヌルが
紅茶のカップを携えて静静と且来の隣に歩いて寄る。
「ちょっとした思いつきでは在るのだが・・・上手く行きそうで上手く行かぬ。
知恵を貸してくれれば助かるし。饂飩の一杯でも奢ってやるが」
相当に行き詰まっているのだろう。シリヌルの嫌味も気にせず腕を組む。
「雲丹の軍艦巻きも付けてくださるかしら?
随分と面倒臭い式で御座いますわね。上の方は皆目さっぱりですが
これはわかります。これを解くならこれを持ってきて・・・
こうすれば・・・・あら・・・代入変数値が可笑しいですわね。
ポポリンさん。紅茶を持って来てくださいます?それからお菓子も何か?」
「おい。麦茶と大福餅を持って来てくれ。
尻を撫でると怒る領主様に馳走してやれ。饂飩の粉を練っておけ」
羊皮紙の前で且来が腕を組み頭を右に捻れば。
隣で領主シリヌルが紅茶を片手に左に頭を傾ける。

数日前のシリヌルの私室にて。
「なんですって?子豚ちゃんは悪口じゃないとっ?」
あまりのショックにわなわなと身を震わせシリヌルが慄く。
「はい。奥様。
私もてっきり子豚ちゃんは悪口にであると鶏岩の如くと固く信じておりました」
「だって貴方言ったでしょ?私も確認したわ。
でぶでぶおでぶの子豚ちゃんは侮蔑言葉の三段活用。最上級の侮蔑言葉って
倭之御國御国気をつけよう!これだけは言っちゃ駄目だよ悪口読本に書いて在るのよ?
でぶでぶおでぶの子豚ちゃんは最上級の悪口だって書いてあるのよ?」
「はい。奥様。私も確認しております。確かにそう書いてあるのですが・・・」
「書いてあるなら良いじゃない?やっぱりでぶでぶおでぶの子豚ちゃんなのよ」
「注釈が御座いました・・・。
確かにでぶとと言う言葉は且来殿の様に体躯の良い者を中傷するのにも使われます。
同時に愛情を込めた呼び方でもあり必ずしも強い侮蔑と成らないのです。
特に子豚ちゃんと言うのは愛着を込めたり愛情を込めた言い方でもあり。
恋心を持つ雌が愛着をと愛情を込めて恋雄を呼ぶ時に使う言葉で御座います。
ほら。此処に注釈の印が有りましてぱらりぱらりと捲ると・・・此処で御座います」
「あら・・・ほんとだ・・・。子豚ちゃん。太った恋人の相性。
どっ。どんだけ愛情込めて呼んでるのよ。私?
日に百回は言ってるのよ?態々姿探して通ってはでぶでぶおでぶの子豚ちゃんて言ってるのよ?
まるで・・・本当に想雄に愛を告白してる雌じゃない」
「正にそのとおりで御座います。奥様。
道理で且来殿は痛くも痒くもない顔をなさってますし
回りの者は奥様ご且来様は敵同士とは見えず。
恋人同士がじゃれ会ってると見る者も。それで調べてみればこの始末で御座います」
「遅いわよ。百や千では効かいわ。満に届くくらいは言ってるのよ。
そこまで言ったら立派な想雄よ。ちょっと貸しなさいよ。それ。
こうなったらモット過激な物を・・・。
駄目だわ。響きに品がないわ。これもあれも」
災難であり。壮絶な勘違いであるがシリヌルは悩む。
心に秘めて黙する想いが有るからだ。それは先に逝った夫に後ろ髪を惹かれる物でもある。

その日も大分と夜も巡り本来は夕飯の時間も過ぎる頃。
石柱四本が屋根を支える中庭にセシーグ配下の52人の妖精騎士と
領主配下の近衛兵に恋次郎率いる忍雄共が鎧を着込み刃を並べる。
且来自身も初めてであればその日が猿の日でなくても戦さ事に成る可能性も合った。
且来の悩みに手を貸し褒美を貰った苺大福の粉で口の回りを白くしながらも
自分を守る近衛兵の頭を手で退けて且来の姿をシリヌルは覗き込む。
心配なのは当たり前である。
この世にもこの世界にもなかったはずの物が生まれようとしているのだ。

「本来となればあの医者の名前を付けるべきではあろうが。
なんか癪に障る。あの言い方が癪に障る。貧乳なのが癪に障る。
女医は決まって巨乳で有るべきだ。そこはゆずらん。
兎に角だ。光炎式術と名付けてみたのだ。ちょっと語呂が悪いがな。
だが試して観よう。とくとご覧あれ。いざに・・・」

且来は利き手の右手の拳を無骨に丸め
人指し指を立てると何もない空間に文字を描いて行く。
且来の指を追いかけて赤い炎がゆらりと付いて歩くとそれは文字と読め
数学に強い者でなくても数字とは分かる。数字が並べは記号も追加され
まるっこい指が宙をなぞっていけばそれが数学式にと変わっていく。
何度か練習してみたが宙に文字を描くと言うのは難しい。
それでも式の応えを導き出すと・・・。

「全員構え。抜刀準備。
近衛兵何してる?領主様が大福落して前に出てきてるぞ。仕事しろ」
立ち尽くす近衛兵をセシーグが叱咤する。
シリヌルが大事な大福を落して思わず前に出たのも。
近衛兵がその場に立ちすくみ我を忘れたのも。
且来自身もあんぐりと口を開けたその理由は正に陰謀然りと言える光景である。
且来が宙に描いた式はそれ程長い物ではなかった。
そもそもその効果となれば且来自身も疑い至りで有った。
否然し。石柱四本が屋根を支える中庭に灯る光とばかりに浮かび上がったのは
幾つもと幾つもにと地面に書かれた因法印。魔法陣とも魔法印とも好きに言えば良い。
其の数中庭一杯の土の上に書かれた因法印の数多数。
恐る恐ると恋次郎が匕首構えて覗き込めば透けて見える印の向こうに勇者もどきが息を潜める。
「親方様。中に勇者もどきがいます。
何故か気持ちよさそうに寝て居ます。こっちは阿呆面で涎垂らしてます」
恋次郎が声を上げ知らせれば真っ先に飛び出したのは夫の敵と知るシリヌルである。
危ないとばかりに且来が盾にと近寄るとシリヌルは因法印を覗き指を指す。
「ここがこうでこうなってるから変数は此処に。逆否定数値はこれを示して
こっちに掛けて参で割って・・・。合ってるわ。正解だったのよ。
でぶでぶおでぶの子豚ちゃんの可視否定式。目に見えない因法印を見せたのよ。
伊達に腹の中に双子も三つ子も抱えて無いわね。おでぶちゃん」
「誰が三つ子を腹に抱えてるんだ。脂肪だ。脂肪
それにしってもちらっと観ただけであるが儂の頭もまんざらではもないのだな」
且来は少し伸びた顎髭を擦りながら自分一人で悦に浸る。
「且来准尉。こいつじゃないですか?草むしりのさぼり魔。
目を覚ましてこっちに手を振ってますよ」
「こっちにも居ます。声は聞こえないようですが印のこっちを叩くと
中には聞こえるようですね。それに印の回りに時計式が有りませんか?
くるくると回っていますよね。動いてる式が有るはずです」セレンが大きな声を上げる。
騎士が安全の確認するとシリヌルは元より学者肌の者も因法印の回りに集まってくる。
「は~~い。皆さん。聞いて下さいよぉ~~。
因法印の調査は一度に二人までです。突いたり小突いたりしちゃだめですよぉ~~
印に触れても駄目ですからねぇ~~~。必ず護衛のお姉様の立会いを守ってくださいね~~」
自分は戦闘に不向きだと言う事を知ってる近藤は階段の上から注意を歓喜する」
「なんて子豚ちゃんなの。何度か観たと言っても刀を振っていたのでしょう?
その最中に因法印に書かれた式文字を憶えたと言うの?
それも妖精文字よ?いくら変な事が出来るように成ったからって思いついて
式を読み解き組み換え。それを可視化して魅せる否定公式と組み上げるって。
あっ。褒めてないわよ。私も手伝ったし。私の大福どこ。苺大福ぅぅぅ」
親の仇と如くの且来を褒めたかと思えば自分で落した大福をさがしてシリヌルが奔る。

「何で突然起こすんですか?僕らには僕らの都合と使命が有るんです。
こっちの都合も考えて下さい。困るんですよ。上司にばれたら縛り首ですよぉ」
観た事の有る顔の勇者もどきが槍で小突かれながら且来の回りに連行されて来る。
セレンが思い切って時計式の数字を弄り零にしてみたらしい。
すると中で鼾を書いて居た勇者もどきが傍と目を覚まし仕事の時間かと印から這い出て
来たらしい。それを確認して饂飩を喰らった他の四人も起こされる。
「あっ。旦那。その節はどうも。あの麺まだ残ってます。しょっぱい汁の」
「馬鹿野郎。あれは仕事の後の報酬なんだぞ。まずが仕事が先だ。
旦那。今日は草むしりですか?壁の水拭きですか?」
二匹も三匹もそろうと個性も色々らしい。昼寝を邪魔されて文句を言えば。
胡麻をするものもいる。助平なやつは恋次郎の尻を探して首を回す。
真面目に仕事をしようと手を上げて学者を脅かせばイグに殴られて涙する馬鹿もいる。
物珍しさもあるが警戒をしつつも且来は勇者もどき共を座らせて噺を聞く事にする。

「惰眠を貪ってたなら起こしてすまぬ。
だが聞きたいことが山と重なる。きちんと吐いたら饂飩と握り飯を馳走してやる。
どうせ。お尻もみもみ嬉し恥ずかし領主殿に馳走すると約束したのでな
まずは貴様ら何時から此処に居る?それとどうやって此処に入った?」
これが今日の仕事だと知った勇者もどき共は互いに顔を見合わせ
妖精大陸の子供遊びを真似て互いの鼻を順番に挿していき
間違った奴が負けと言う遊びをこなしてから一番多く負けた鉤鼻の奴が進行役に決まる。
且来の隣で後ろに護衛のセシーグとイグ。記録係りのセレン。
残る4人の見張りに尻を気にしながら恋次郎が匕首を握る。

「自分等がこの庭に書かれたのは6年前の冬でっす。
印法印を書いたのは枯れ枝掃除の庭師と名乗る勇者様です・・・
結構イケメンなんですが腹がでてないのが勇者様の風上におけぬ野郎でして・・・」
勇者の中に腹が手でないのも居るのかと興味を引く言葉から始まる噺には驚きが転がる。
領主のシリヌルの夫が勇者もどきの爪に倒れたのが5年前。
敵討ちするするならあの柱の印で眠る鼻の曲がった奴ですと指を指す。
この街には定期的に日を開けずに勇者もどきが現れ残虐非道を繰り返す。
領主の庭に現れるのが猿の日とよばれ。他に鰐の鼻の日。犬が尻尾を右に振る日
参匹の子猫がにゃぁ~と鳴く日と呼ばれそれぞれに且来と騎士団と領主騎士が
対応して刃を重ねている。
その発端は枯れ枝掃除の庭師と言う勇者がこの領主街を6年前に訪れ
それぞれの場所に因法印を刻んだ。
落した大福の変わりに何か無いかと食堂の倉庫を漁りに行ったシリヌルの代行の
髭を蓄えた専従秘書が確かにその時期にちょっと変わった庭師が現れ
仕事をくれとあまりに煩いので短期で雇ったものの地面に何か書いては居るが
肝心の庭師の腕は最悪だったと憶え証言する。
その時に書かれた印法印の因果により勇者もどきは決められた時間に庭から出てくる。
倒されて死んでも土の上に印が残っている限りは何でも復活することが出来る。
それ以来6年間定期的に巣と言える因法印から顔を出し悪事を働いて来たと言う。
偶然の出来事と何かの縁が重なってその秘密を且来が暴いたと言う事である。
「腹の出てない勇者がいるというのは初耳であるが。其の因法印を消せないのか?
なんとか平和を街に平和をとりもどしたのですが?」恐る恐ると秘書が聞く。
「因法印を消すに消筆が入やす。持っているのは腹の出てないあれですけど」
鉤鼻は一度仲間の顔を見つめて黙り込む。何かあっても秘密なのだろう。
「貴方達は私奴の夫を殺め。憎き子豚ちゃんが来るまでに民と兵をも殺め
敵を打ちたくても印が消せなければ殺しも出来ません。
然し其の枯れ枝掃除の庭師の勇者を打つ手助けをすれば見逃して差し上げます。
それまで饂飩に天麩羅を乗せる事は許しません。七味だけの素饂飩です。
何とかする方法が有るなら御言いなさい。言わないなら巣の上におっきな石で蓋をしますよ」
苺大福がなかったのか恋次郎が愛してやまないかりん糖の袋を握りしめ口に運びながらも
何時の間にか戻ってきたシリヌルが悪鬼と睨む。
「おっ。奥方様。天麩羅って言うのはサクサクのやつですか?
あれがまた旨いんですよ。あれが無くなるんですか?言います。儂が言います。
時計が合ったでしょう?お嬢ちゃんが零にしたから儂らは出てきてるんです。
だからあれを増やせば良いんです。10にすれば10時間。100にすれば100時間
儂らはその時間眠ります。途中で起きても印の蓋が空きません」
「なるほど。時計式の数字を大きくすればするほど長く眠る。
誰かが小突いて起こしてもその数字の時間に成らないと印の蓋は開かないから
中からは出てこれない。つまり10年後100後までこいつらを閉じ込める事が出来るとな」
妥協案では有るが且来が唸ると勇者もどきが腹を揺らして身震いする。

此処から少し妖精族記録騎士セレンの記録書から噺を読み拾おう。
且来が生み出した光炎式術は確かに因法の一種では有るがこの時は未だ完全な物ではなく
全ての因法印に有効とも行かない粗末と言えばお粗末な物であった。
それでも使い道も多く効果は絶大である。領主の庭に視覚化された無数の因法印は
「面倒だから百年後の時計数値をぶち込んでおけ」
と且来が言い捨て実際にその数字に調整される。次に他の曜日に湧いて出る因法印の
可視化については且来の未熟さを敵と睨むシリヌルが倭の食い物と交換で補完し
光炎式の記述と過程をセレンが記録する。その上で実際に試して観て効果があれば
それで良しと時計式の時間を勧めて勇者もどきを閉じ込める。
上手く可視化が出来ない時や怪しい部分はサボり魔5匹組が残りを探し
それを且来が又修正する。それを何度か繰り返すとシリヌルが納める領街の
勇者もどきは地面の下からパタリと出てこなくなった。
光炎式術の考案者は確かに且来であるが。それを真っ先に習得したのはシリヌルである。
何故かと言えば何となく察しもつくであろうが且来の嫁の中にも何人かは力に差は在っても
使える者もいる。長い式を宙に書けるか短い式かであるかとか
長い式を一気にかけると思えば次が続かないとか。短い式なら連連と書いて行けるとか
それぞれに特徴も有るようだ。

妖精大陸の恩恵を全く受けない近藤であるが童顔の割には抜け目なくも
且来が書いた光炎式術のうち可視化式を版画布におこして移すと
一家に一枚でっぱらおじさんのお守り布として領民相手に商売し
無駄に大食らいの且来と仲間の食費を補おうとあざとい商売に精を出す。
シリヌルの夫を殺めた鼻の曲がった勇者もどきは当然殺す事は出来ないが
だからと言ってシリヌルが許すはずもなく。事ある事に時計式を弄られ
呼びだされては殴られ虐められ八つ当たりされるもそれでも未だ許されず
泣いて謝る日々をずっと繰り返している。

そして・・・暫しといろいろと落ち着き
且来はさっさと面倒な妖精族のお姫様の娶り事に出向くと思えば気が変わる。
枯れ枝掃除の庭師とやらの首を取らねば気がすまぬと腹を擦ったのである。
それは確かに全うな噺では在るもののはてさてこの先どうなると。
食い意地の張ったシリヌルの領地を離れて向かうは大陸初めての
敵陣本拠地。敵と狙うは勇者枯れ枝掃除の庭師の其の腹。基首ひとつ。


「娶れって言ってるでしょ!!このでぶでぶこぶたの子豚ちゃん
好きなの。愛してるの。未亡人はもう飽きたの。馬鹿馬鹿おでぶ」
「馬鹿とはなんだ。馬鹿とは。今まで散々絡んできた癖に
急に手平返して好きとか愛してるとか乙女にキラキラ目輝かせて」
「急って事ないでしょ。あの熱い夜を忘れたって言うの?
私の乳房絞って吸ってた変態の癖に。愛してるって言ってんのよ」
「お主が先に儂の物咥えて吸い付いてはなさかったくせに」
(且来准尉。露骨です。もっとマイルドに!)
「見ろ。お前のせいで怒られたではないかっ。
全く雌にもてないから最近はちょっと雄の誘惑に負けそうな近藤に」
「いい気味だわ。でぶでぶこぶたの子豚ちゃんの癖に
さっさと娶りなさいよ。判子押しなさいよ。正式な倭之御國の婚姻届けよ」
「貴様。そんな物どっからから持って来たんだ。
大体。一夫多妻を嫌うくせに。儂は52婚だぞ?國に帰ればプラス2だぞ。
どうしろって言うんだ?これ以上。嫁娶ったら痩せるぞ。痩せてしまうぞっ」
「この際國の法律とかどうでも良いの。
50こえたら一人二人増えても同じでしょうにっ。痩せるのは許さないわ
可愛いお目々の次のチャームポイントだし潜るのに広い方がいいの。
そんなに嫌なら意地でも認めさせてやるわ。私。籤運は良いのよ
孕んだの。貴方の子がお腹に居るのっ。事実婚よ。どうだっ」
後ろ隣で秘書が医師の懐妊証明書をぱっと広げる。
「勝者。シリヌル・シシル・モリヌ様」
その場にいた52人の嫁とプラス数名全員の手が上がり且来は愕然と膝を折る。

 

 

天鼠蛭姫

天鼠蛭姫

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