【女装男児】女装家且来素子闊歩歩いて候:其の拾之七

「待て。この野郎うぅぅぅぅぅぅ。儂の店で食い逃げするとは言語道断。許しまじ」
薄汚れ土埃上がる悪党街の裏路地を腹を蛙の様に付き出した漢が猪突猛進をばかりに迫って来る。
「御免なさいぃぃぃぃぃ。美味しいの饂飩の店だって聞いたので出来心ですぅぅぅ」
ちらりと後ろを見ればやっぱり蛙腹を膨らませお玉を握りしめた熊が迫ってくる。
土埃上げ草履で土を蹴って走る雄は俊足であった。
そこまで早い脚を持つならば飛脚の真似事でも請け負えば饂飩のお代くらいは稼げるのでないかと
思えても怠慢無精に怠惰がくっつけばまともな職にも付けわせぬ。
何やら異様な風体で市場通りの角を曲がれば其の名を半蔵。おっとり半蔵と名乗れば異国の者か。
ざんばらに伸ばした髪を束にと結んで纏めるがとんずら覚悟の今では邪魔でしょうが無い。
商い荷物の木箱の縁に脚を掛けると思えばひょいと跳ね家の屋根を知れば意外に背も高く
ひょろりと長い手足を生かしてぴょんぴょんとあっちこっちと跳ねて飛ぶ。
「おっさん。蛙腹の割にしつこいな。否然し。これを土産に。はいっ。さよならバイバイっ」
骨ばった指の間に挟んだ爆竹を振り返りも得ずにうしろに放つ。
ポンポンと軽い音が弾ければ煙が上がる。それを見越して屋根を右に飛び体の向きをくるりと
宙で変えればスタンと大地に手を伸ばして着地する。
「10点。10点。10点。・・・・ふっ。流石おっとり半蔵。技を極めれば蛙腹など・・・」
自慢げに歩いて屋台の饅頭を握っても個々はけちらずと小銭を投げる。
「饅頭代払えるなら儂の饂飩代払えっ。この痴れ者め。
大砲の為を受け止める儂の腹が竹の玩具でどうにかなると思うたかぁぁ~~~。
そこに直れぇぇ~~~。獄門打首。目障りな髪も下の毛も全部纏めて毟ってやるわぁ~~~」
爆竹遊びも効果もなく。精々腹肌が精々ちょと焦げた位と見えれば尚に。
「うそぉ~~~。大砲ってなんだよ。大砲の弾受け止める払ってどんなんだよっ」
勝った勝ったと見事にも逃げ切ったと思えば爆竹なんて子供の遊び。
猪突猛進倍速でこれも悪鬼と閻魔様。形相仁王で迫ってくれば再び市場に喧騒戻る。

喧騒怒涛が戻れば再びの逃走煩く市場を逃げるおっとり半蔵を追うのは饂飩屋且来之素子ちゃん。
「爆竹が駄目なら奥の手この手。これで駄目なら代金払って手打ちと致す」
たかが饂飩屋の亭主と侮れば思ってよりは手強くも後がないとばかりに運悪く
おっとり半蔵は実刃の投げ短刀の刃を翻し手裏かして投げつける。
殺傷止めと成らずとも怪我のひとつもすると分かれば身も凍る。
ちょっと位は怖がって脚が縮めば儲けもの。四肢に力を込めて跳ねれば真っ直ぐに川向こうに跳ねて飛ぶ。
かんっ。かんっ。かんっ。
見事三つの短刀がお玉で弾くと思えば饂飩屋の声が風にのる。
「倭之御國帝国の大砲屋は三回狙って2回は外す。否然しの頃の一発で全部の的を射抜くで御座る。
陸軍大砲屋直伝。必殺お玉の偏差射撃。喰らえぃ」満身剛腕怒髪と三拍子揃ってお玉が空を切り裂く。
ポカンっ。頭の後ろにお玉と言うより饂飩屋の親父の拳で殴られたと言わんばかりの衝撃貰い
ぼっちゃんとばかりに波紋作って饂飩食い逃げ半蔵は川に落ちて土左衛門と成にけり。
「ふっ。馬鹿め。真っ直ぐ宙に跳ねれば真っ直ぐ堕ちるに決まってるわ。
鶏竜でもなければ羽根もない。万有引力の理から逃げ切れる物か。
お~~~い。川渡しの船頭。その土左衛門。突いてこっちに流してくれるか?
何?死んでるかもって?良い良い。それなら身ぐるみ剥いで肉屋に卸すから」
物騒極まりない言葉を川向うから聞こえ首を縮め船頭は川面に浮かぶ土左衛門を竹で突いて岸に追いやる。

「倭之御國でも無銭飲食はお尻ペンペン百叩きの刑かその場で銃殺と決まっております。且来准尉殿」
「おやつ代わりに脚肉食べたいです。腸は夜のおやつにが良いです。顔は腫れてるから厭です」
「持ち主様の饂飩代をかすめるとは許すまじ。夏の因で消炭にしてしまいましょう」
運良くも客引けた店裏の庭で且来の仲間が亀甲に縄で括った饂飩の未払い盗人半蔵と囲んで睨む。
「うぅ・・・。もう殴られて前がみえないですぅ。ごめんなさいですぅ。おおしかったですぅ」
「旨いと思ったなら尚更である。料理人への礼儀と知らず。
それを怠れば道理が通らず臍も曲がる。特に雄となれば煮て喰う所も少ないとしれる。
ここは肉屋の下ろして饂飩の煮汁の出汁にてもしてくれようか」
「勘弁してください。親父さん。一寸の虫にも五分の魂って言うじゃないですか?御慈悲を・・・」
「丹精込め茹でた饂飩を食い逃げされて、ほいほい許す料理人が何処に居る?
御前の様に人を見下して生きてる彼奴に掛ける情けも情もない。
とは言え・・果てとさてどうしたものかと言うのが本音だな」
既に散々皆で小突き回し拳骨の雨を食らわした後ではすることもない。
かと言って財布の中身は饅頭代ですっからかん。饂飩代代わりに働かせても不貞を働くに決まってる。
小さい悪事に思えても無銭飲食を許せば皆が真似をする。個々はきっちり見せしめてやる必要もある。

鋼鐵のピュウシャは又に字を鋼鉄之処女。戦さ場に出ればアイアン・メイデンとも言われて久しい。
否然し。だからと言って汚れてないという訳ではない。
毎朝の様に漢濁を肌に浴びてるからだ。女神の絵壁にも良く似てると言われる顔にも。
長く伸ばした蒼艶の髪にも細く長いまつげとその瞳にも。目をつぶるなと言われば瞬きを無理に我慢し
その目玉でも漢濁の汁雫を受ける事もある。筋通る鼻も頬ももベッタリと垂れる痕を付けるし
厚ぼったい閉じた唇にも。当然の如く口を開け其奴の一物の先を突き出した舌で支え
唸り猛り吐き出し飛び散る汁の全てを口で受け止め喉を鳴らして飲み込む。
首から下のあらゆる所にその所も其奴の漢濁が降り掛かってない場所なんてない。
乳房も乳首も濃桃色の乳輪までも当然の如く。入るはずのない臍にも一物の先を押し付けて
其奴は漢濁を吐き出す。尻肉を無理に退けて穴襞にも同じ様に押し付け漢濁を擦り付ける
四肢をぴったりときつくと閉じた女襞目掛けては狙いすまし又そこにも漢濁をぶちまける。
太腿も脛も漢濁が滲みを作り垂れ筋を流して作る。
それでも人はピュウシャと呼ぶ。鋼鐵之処女・勇者ピュウシャ・ヌギ・オラクルヌ。
そう呼んでピュウシャを称え羨望の眼差しを向ける。
確かに処女であり雄を迎え入れた事はなくても売女娼婦ともピュウシャは自分を思ってる。

絶大な因法術を扱う勇者であっても突き詰めれば職業で有る。
魔族共との戦さ場にでてもそれは斡旋所の戦兵募集の張り紙依頼だし。
そうでなければ勇者一党の頭の機嫌次第の命令である。
どちらにしても仕事に変わりない。もっとも最近は一党頭も平穏を求め街に屋敷を構えて
落ち着けば勇者の加護を当てのして人と商売人が集まれはいつかにそれは勇者街と呼ばれる。
領主貴族は居るにしても実効支配は一党頭がするとなれ当然守りも一党の仕事。
戦で命削る方が遥かに楽だと知れずとも街の守りも勇者の仕事。
小物魔物が騒げばそこそこ偉い奴も居る。
その日ピュウシャが相手をしたのはこつ然と街中に現れた磯巾着みたいな魔物であった。
技も力も無いくせに無限で有るのかと思う程の再生能力と撓る触手が厄介である。
それでもあまり手こずらに成敗出来たのは勇者一党でも其の実力は頭と肩を並べるか
それに勝るかもと裏噺のネタにされるほどのピュウシャの実力あっての事だろう。

「ピュウシャ様。屋敷にお帰りになる前に何処ぞでお体を洗ったほうが良いかと存じます。
直ぐに近くの風呂屋の愚民どもを追い出すますので・・・」
それには及ばぬと戦長を務める漢を諫める。愚民などでは在らん。民があっての勇者である。
ピュウシャは心の中で唱えるが言葉にはぜずに一人で近くの仕切り風呂屋に脚を踏み入れる。
風呂屋の番頭はピュウシャの体に付き纏う磯巾着の匂いに鼻をぎゅっと摘み嫌そうな顔をして
番号札と突き出してくる。相当に強い匂いであるのだろう。
自分ではそれ程とは思わぬが刺激臭が確かに鼻につく。
「御主人様は意外と長風呂ですし。ちょっとあっちの大風呂にも入ってきます」
「こらこら。そっちは混浴でしょ。チビ変質者の近藤が居たらどうするんですか?
私は厭ですからね。持ち主様意外の漢に肌を晒すなんて・・・。
時にあのチビ変質者近藤に四肢を視姦されると思うだけで鳥肌が・・・」
領民大衆が騒がしく脱衣所の中をうろつきまわる。
匂いが付いた鎧と衣服を脱いで籠に入れそれを部下の女勇者見習いに預けると
何やら変わった女の尻が目に入る。二本脚の癖に腰を折り手を床に付いて走り去る尻に
丸い線の中に読めない文字の入れ墨があった。果て?あれは何かと思えば
隣で声を上げる女の胸の谷間も形歪んでも同じ模様がちらりと見えた。
ピュウシャはそれまでに幾つもの旅をして来たし沢山の街も知ってるし
同族の偽人の事は当たり前に魔族の世情にもそれなりに詳しい。
それでもまるで囲んだ中に変な模様の入れ墨をすき込んで肌に刻んむ雌は観た事はない。
世間世情の流行りであるのかそれにも自分は疎いとは思わぬがひたりひたりと床を踏み
成るべく人の居ない湯場を探して奥へと脚を進める。
人気の風呂屋となれば人の気配はすれども一番奥の仕切り風呂が良さそうな感じだった。
洗い場で湯を浴び石鹸で肌を擦るも中々匂いも取れずとなれば終いに春の因法唱えて
付いた匂いを華香で包み落して仕切り風呂の扉を開けて湯船に浸かる。
仕切り風呂と言うのは面白く大きな湯船を木扉で仕切った物である。
風呂の個室と考えればいいだろう。もっともそれは茶屋風呂とも呼ばれ
誰と分からず雄と雌。雌雄あれば色々と色華求めて肌を濡らす。
多少なりとも色事在らずの運任せ。要は見ず知らずと相手と風呂を楽しみ互いに気が合えば
その場でするもしないも営み任せの風呂遊びの場所で有る。
ピュウシャも当然知っていたし若しにもそこに先客が居ても無視を決め込むだけで良い。
少々肌を観られても人袖振れても朝くれば誰もが決まって他人事である。
キィと音を立て木扉を後ろに閉じひたりひたりと脚を慣らしちゅぽんと湯船に体を鎮める。
はぁ~~~と声にもれてため息が漏れ多少熱いが其の湯が滲みて体を温める。

ちゃぽと音を鳴らして右手で左腕を撫で回し睫毛上げて前を見ると
観たこともない山とも言える雄が湯に使ってる。巨漢で有るのは見間違うはずもないが。
それにしても大きくも控えめに言っても醜男である。
剥げた頭に折り畳んだ布を載せ大きな顔に太い眉。あれは木炭棒で3回程重ね書きせねばそうはなるまい。
目は閉じてるから解らぬがどうせ悪党の目に違いない。ちょっと曲がった団子鼻とも鷲鼻。
十分に餌を与え太られた蛭の様な唇。あんな唇で接吻でもされたら雌が窒息する違いない。
太ってる癖に二重顎でないのは奇跡だろう。肩幅も広いが湯面から上の腕も胸も逞しく
それでも腹は相当出てるとも見て取れる。
ピュウシャの回りには雄も雌も美形が多い。勇者となれば容姿も才能のひとつと言われるし
自分のそれを備えてるからこそに。眼の前の漢の醜男ぶりには目を瞠る。
もしも鏡がそこにあるのなら目を大きく開いて半開きに口を開き指を指して嘲笑っている姿に違いない。
これはこれは厄介な仕切り部屋に脚を踏み入れた。外れも外れの大外れと自分の運を軽く呪う。
もっとも誰が先客後の客としても相手などするつもりは毛頭なくてもあまりいい気持ちとは言えないだろう。
それでも責めて体が温まるまでは我慢すれば良しと考える。

自制心を取り戻すと何処か面白く暫し雄の姿を盗み見る。
その雄は蛭の様な唇を時折り動かしぶつぶつと考えしてる様にも見えれば
湯船の中で赤い光炎がゆらゆらと動く様子も解り得る。
身近の知識と比べても其れが因法とは思えない。
因方術の鍛錬にしてもこんな醜男がそんな器用なはずも無い。
あれこれと思い巡らせているとそこに思った以上に野太い声が湯場に響く。
「失礼したで候。後客が入ってくるとは思わなかったのでな。
暫く考え事をしていた。いやはや失礼。儂はこれで上がる故に許されよ」
野太くも妖精語訛が吃るこの地の言葉だが。其の回しも独特で有る。
次に起こるのは当然であろうがピュウシャは予想も出来なかった。
山の如くの漢が湯に浸かりそこから立ち上がれば湯量が削れる減る。
湯船の湯量が減ればピュウシャの肌が露わにもなる。
「きゃっ」驚き乳房を覆ったのは雌の性だろう。急激に減った湯の波に体もぐらりと持っていかれる。
その肩に漢の手が重なり振れ支えると同時に湯量が戻る。
「重ね重ねと失礼である。食い意地も張ると腹もでるのでな。
おおきな体の儂が風呂に入れば湯船の外に湯が流れ
食い意地の張った腹を抱えて湯船を出れば湯のかさもたんと減るのは当たり前である。
いやはや驚かせてしまって申し訳ない」漢が湯船に腰を下ろしてくれたお陰で湯のかさが戻る。
咄嗟に支えてくれたからそのまま転ばずに済んだのも確かである。
思ったよりも礼儀正しい醜男なのかと思うがその前にピュウシャの口は別の言葉を吐き出す。
「その入れ墨。雌に見えるのだが。何の意味があるの?」
「おっ。これかぁ。説明が難しい。数も多いし。未だ入れてない物も有るしなぁ~~~。
まぁ。つまりは儂が歩いて来た人生で深く縁を結んだ者立ちと言うのだろうか?
儂の最初の頃の仕事は噺家だった。この大陸言葉は知らないが。
次が軍人である。兵士だな。何時死ぬか分からない。
戦さ場で死ぬと知っているし責めて縁を結んだ家族に抱かれて死にたい。
そんな儂の我儘である。そろそろ儂は上がろう。のぼせてもいかぬしな。
湯場の係よ。御婦人の為に湯を足してくれ。すぐにだぞ」どこかで湯口を撚る音もする。
縁も事も済んだとばかりに多少の気を使いゆっくりと雄は体を持ち上げ立ち上がる。
さっきとは違いゆっくりと湯かさが下がると雄の全身も露わと成る。

「待ってくれ・・・。あの・・・その・・・」
とっさに体が動き乳房を隠すべき手が雄の太い手を握る。太いがそれは脂肪のかけらも一切とない。
「あの・・・貴殿の其の肌に姿を刻んで貰うのに私は何をすれば良いのだろうか?」
確かにピュウシャは雄の顔を見つめたがすぐに顔を下げに落し長くも太い一物に視線を堕とす。
「珍妙であるな。御自分の言ってる事が分かってるであるのか?
確かに茶屋湯であっても。この肌に姿刻むとなれば儂だって痛い思いをするのだ。
袖すれ違う一本の縁浮かれ肌に御名子姿を刻む程青臭い小童で有るはずも無かろう」
流石の且来も行きずりの女の姿を肌に背負うのは馬鹿であると眉を潜める。
「貴殿が肌を痛めると言うなら私も体を痛めるのはどうだろう?
娼婦売女の様に漢濁を浴びても幸いにその一物を咥えたことない。
雄の気まぐれで頭からそれを被っても
四肢を閉じれば襞の裏には届かない。況してや壷の奥に迎え挿れた事もない。
私の処女を捧げ貴殿の雌と成れば其の肌に顔のひとつも挿れてくれるか?」
且来は黙り込み目を閉じる。女の素性も得体も知れぬ。気まぐれひとつで縁を一本でそれを成すのは無理が有る。
「約束は出来ぬ。御前次第だ・・・」
「構わない・・・今直ぐにとも言わぬとも。何時か私の姿に抱からて死んでほしい」
熱情弾けピュウシャは且来の手を引き自分の方へ体を迎かせる。
長くも未だ柔らかく頭を垂れる雄の一物を握り舌をべろりと出して舐め始める。
どこかで湯の蛇口を誰かがひねり湯が流れ込んで来る。
湯船に半身沈めたピュウシャが湯場床に座る股座に顔を埋めた
「んん。散々に漢濁をかけられ味を知ってもこうやって舐めて咥えるのは初めて故
粗相があったら許してくれ。売女娼婦と罵ってくれても構わない。・・・ああ。」
れろりれろと竿を両手で握り先端を舌を付けて舐める仕草は確かに拙い。
それでも熱情に魘され無心にピュウシャは一物を貪る。

「おいっちにさんし。おいっちにさんし。今日も元気に朝の体操っとっ」
枯れ枝掃除の庭師とかつては呼ばれた其の勇者は今では其の名を語らずに居る。
気分しだいで適当に名乗りもすれば人が自分に見合う名を呼ぶことも有る。
好みとしては出来るだけ長い文字数であればそれで良い。
なんかそれっぽく聞こえ格好良いと思ってる。
「云々。今日も一層不機嫌な顔。元気そうで何より。それではあの運動その弐回目
今日は。何処かいいかな。昨日は乳房だったから今日は顔だな。ほら口開けてっ」
人形の様にピュウシャは澄ました顔で目を閉じ口を開け舌を出す。
この漢が何故に自分の体に触れぬが随分と悩んでいたものだ。
それもいつと昔の事になるのかもしれない。兎に角。其の雄はピュウシャの肌には
一度たりとも一切とも触れた事も無いから運動と称して雄濁を掛ける時でも
ピュウシャの顔の前に一物を突き出し自分で支え扱いて昇り詰める。

「薄っす。薄いっ。何これ?子種なんかはいってないじゃない?
ぺっ。ぺっ。こんなの呑まされて酔える雌なんて居るはずないじゃない。
馬っ鹿じゃない?水っ。ちょっと水。頂戴。早く早くぅ~~~」
それまで人形の様に雄の前に膝まずいていたピュウシャが突然に立ち上がると
暴言とも思える戯言を吐き出しパタパタとどっかへ走り去ってしまう。
今まで自分に対しても一党に対しても忠実であったピュウシャが逆らう事を厭わずに
自分の思う事を吐いたのがあまりにも驚きでその雄はポカンと口を開け
萎れた一物をただ握りしめた儘に棒と立ち尽くすだけであった。

「ちょっと何で教えてくれなかったの?
貴方。夫持ちでしょ?彼奴のがあんなに薄くて味もしないって知らなかったわ」
「その・・・確かに夫よりも確かに薄く。今まで知ってるどれよりも薄いのですが・・・。
お気づきに成らなかったのですか?ピュウシャ様」
「知らなかったわ。あれが当たり前だと思ってた。雄濁の味って皆あんなものだって」
「ピュウシャ様?あれが薄いとお知りになったと言う事はあの者の味をお知りに?」
「雄が出来たわ。初めて・・・。
口に咥えた儘。喉奥に出して貰ってすっごく濃くて口から溢れ出るくらいに量も多かった。
喉には絡みつくし匂いもきつくて辛かったけどすごく嬉しくて呑み込んで
全部舐め取ったわ。何よ?その目つき。私に雄が出来て悪いって言うの?」
「いえいえ。憚らずに正直に教えて下さったので。
それでその雄はどちらの方でしょう?」ピュウシャと肩を並べる又雌の勇者も爛々と目を輝かせて聞いてくる。

勇者枯れ枝掃除の庭師は憂いに悩む。
面と向かって逆らう奴はいないし況してや雌の癖して自分を馬鹿にする奴なんて居ない。
それなのによりに寄って一番のお気にりの人形ピュウシャが正々堂々と暴言を吐く。
なにかの気の迷いかと思ったが。自分に対する態度を変える気であるのは間違いらしい。
自分が勇者一党の頭で有るから形だけは脚を突っ込んだ儘であるがそれじゃ言う事を聴くのか
と言えばそうでない。元々実力は拮抗してるのだ。因法の上でも剣技の上でも二人が本気で打つかり
あったら土地の地形がかわってしまう。雄が先頭に立てば見栄えも良いからと参謀が言うので
一党頭を努めてるだけでピュウシャは別に自分に従う義理もなかった。
朝の運動の相手も魔族との戦も自分がやれと言えばやっていたがどうやらそれも命令に従っただけらしい。
勇者の癖に早起きな枯れ枝掃除の庭師に付き合う事もしなくなり朝の会議にも送れて顔を出す。
それもいつの間にか代理の者の出席となりその代理も最近は手を抜き議事録を張り出す
掲示板を見て内容を確認して必要があればピュウシャに伝える。
魔族と小競り合い戦に出そうと思えば。
「貴方が行けば?私の邪魔しないでくれる?」と平然に言い返して廊下の向こうに消えていく。
癇癪を起こして因法のひとつも唱えれば
「いいの?女の前で一物振るのに忙しくて。鍛錬怠っているんじゃない?
勝てなくも半身くらいは潰して上げるけど。本当に良いのね」
対峙する猿の挑発を稚技と決めつけ見下す飼い主の如くと乳房を腕で支え因法なんて唱えもしない。
数で押せば勝てるとしても向こうは必ず自分一騎を狙ってくるだろう。
只でさえ力も技も拮抗と成れば鍛錬を積み上げるピュウシャが勝どきをあげるだろう。
故に庭師の漢は憂いに沈む。

ピュウシャは自分の名と素性を名乗らなかった。あの漢も同じである。
茶屋風呂の慣例に従ったと言えば其れまでだがすぐに又会えるとも信じていたからでもある。
とは言えども一度絡まる縁糸でも又別々の先へと伸びて行くのならあの雄の
元へと中々辿り付いてはいなかった。
分かって居るのは剥げた頭と肌の入れ墨。衣服で覆えば良くと見えないし
勇者の身分であればこそあの雄とはすむ世界は違うのかもしれない。
其れも又枯れ枝掃除の庭師の回りも騒がしい。
魔族共との小競り合いが続いているのか又近く戦遠征が近いのか配下の勇者兵の動きが
慌ただしくも嫌な予感が首筋を撫でている。

「どうした。近藤少尉。浮かぬ顔をしているな。さては恋が花咲く雄でも見つけたか?」
「否。且来准尉。何やら奇妙な事が起きてます。狩りを始めた奴らが居ると市場街で聞きました。
獲物は剥げた頭に手拭いを乗せ太った雄だと言う事です。山狩りと言ってもいいでしょう」
客受けが良いひらひらの付いた袖に黄色い腕章付けて近藤が告げる。
「ほう。やっと出番とあい成るのか?それなら目の前に餌をぶら下げてやらんとだな」
毎日頭に手拭いを乗せて居るわけではなのだが且来は足元に座るシルヌミルカの頭を撫でる。
「わんっ」と元気に鳴いて見せるシルヌミルカの口に犬牙が光る。

街の裏奥その奥の悪童街のあの食堂が市場街に新たな店を出すらしい。
そんな噂が耳にも届くがピュウシャは其れがなんだか分からない。
饂飩と言うものがどうやら異国御国の食べ物であると聞くが旨いのか不味いのかも分からない。
近々にと正式な店の開店に向けては居るが今は昼時だけ限定で車海老の天ぷら饂飩を提供してるらしい。
其の数が一日100杯のみと言われれば領民庶民もこぞって列を作るらしい。
「饂飩と言うものが有るらしいわね。食べた事ないけれども・・・」
「市場街のあの店ですか?随分と人気と聞きましたよ。食べに言ってみます?」
「そうね。最近小煩く勇兵が彷徨いてるけど。外食位の時間は有るわ」
ピュウシャは仲の良い勇者見習いの手を握りいそいそと勇者屋敷を後にする。
短い時間の移動でも勇者ピュウシャが移動すると成れば馬車を使わざる負えない。
領民庶民への目と言うのもある。その馬車窓に映る景色を見ても
何か何処か異様である。明らかに群れを作って彷徨く勇者兵の数が多い。
「なにか知ってる?あんなに怖い顔で群れていたら領民がおびえるわ」
「狩りを始めたと言う事です。枯れ枝掃除の庭師様が狩りを始めたと」
「えっ?あのうすら金槌が?領地の中で狩りって。魔物でもいるの?」
「魔物では無いらしいですね。何やら体躯の大きい雄だとか」
「体躯の大きい雄?随分と曖昧なのね。彼奴にしては適当ね・・・」
珍妙であるが其れ以上に深く話が進む前にどうやら目当ての店に付くらしい。

確かに店の前には群衆が列を作り並ぶ。
昼の一日に提供される食事の数が決まっていれば早く並ぶのが道理である。
その日の残りの数がわからないけも結構後ろの方に並ぶ勇者二人。
少々場違いとは分かる物のそれだけ旨いと評判あれば皆と一緒に並ぶ価値も有るのだろう。
列に並んで待つと成れば要は手持ち無沙汰でしかない。
少しづつは進んでも話す話題もあまりないから列の先にと視線を送れる。
結構広い店のその奥には食卓が並ぶし店先にも卓が出されてる。
その間を何やら元気なひらひらの服を来た案内係であろう雄が駆け回れば
給仕の者がやたらと跳ねている。たかが食べ物を出す店にしては随分と人出を抱えて居るようだ。
「あっ」ピュウシャは思わず声を上げる。
どこかで見たと言うよりはあの風呂やで見た犬の尻が列のすぐ横を後ろから前へと走り行く。
記憶も目も良いピュウシャは直ぐに犬の尻に書かれた文字と店の看板に流れる文字が同じと気づく
「異国の文字を書いた暖簾でしょう?何やら変わった趣味の雌犬ですども」
ピュウシャが気にした犬尻の印と店の前にはためく暖簾のそれを確かめるように
同僚が目を細めて確認してる。
程なくすると観た顔の雌がピュウシャの前に脚を勧めて寄って来た。
「勇者鋼鐵のピュウシャ様とお見受けします。
本日は私の持ち主様が営む饂飩やに態々と脚を運んで頂いて有難う御座います。
実は店主が勇者の方々をあまり待たせるのは失礼だど。生憎店内は人で溢れております故。
店先では有りますが席を用意させて頂きました。どうぞこちらへお越し下しませ。
悪童悪鬼の魔物から街を守る勇者であればこそ多少の特典は付いて回る。
「貴方は確か・・・銀飾杖のミシヌ・シンでは?貴方がこんな店で?」
「お恥ずかしくも誇らしく。勇者の奢りと持ち主様に喧嘩を売り
見事帰り撃ちと成りまして。今は持ち主様の物で御座います」
しゃりしゃりと砂利を踏んで歩くミシヌの後ろに付きながら
随分と妙な話しを聞いたと小首を傾げる。話の中身が妙である。
銀飾杖のミシヌ・シンと言えば勇者である。この街に勇者と名乗れる者は少ない。
喧嘩を打ったと言うなら良くある事だ。自分で一党を抱えればしがらみも多い。
面倒事に絡まれば悪党ごとに手を上げるのも数多し。
否然し。勇者が喧嘩に負けると成ると一大事だ。ミシヌは決死て弱くない。
仕掛け罠にでも填ったとでも言うのだろうか。
それに持ち主の物と言うのも解せない。自分が世間知らずなのかとピュウシャは思う。

銀飾杖のミシヌ・シンがいった通りに店先で有るが食卓が用意されていた。
特別な計らいであるのは見て取れる。他の卓は地面の上に無造作に置かれているが。
其の卓の周りはきれいに土小石が吐掃き掃除され卓の色も朱色とお洒落でもある。
それに合わせて日除けの大傘も掲げられられれば店主とやらの気遣いも知れる。
「御二人様こちらで御座います。
店の開店は少しと先となります故に出せる食事は車海老の天麩羅饂飩となりますが
直ぐにお出ししますのでごゆるりと。お替りを食したければ手を上げて下さいませ」
深く頭を下げミシヌが店奥に消えると同僚は不安げな顔で身を竦めた。
勇者見習いの域から抜け出せない彼女が銀飾杖のミシヌ・シンに丁寧に
頭を下げられると成れば落ち着かないのだろう。
ミシヌの言う通り店の看板商品車海老の天麩羅饂飩とやらは直ぐに二人の卓届く。
当然に二人にとっては観たこともない食べ物である。
何やら透ける薄茶の汁の中に小麦であろう。白く輝き少々太い麺がたごまる。
面の上には贅沢品の車海老が衣に包めれて浮いている。
香る匂いも美味しそうであるがはてさてどうやって食すのかと悩めば
同僚が盆を覗き込み敷き紙を覗きこむ。どうやらそこに饂飩とやらの食べ方が書いて有るらしい。
未だ熱い器を指でずらしピュウシャも覗いて合点っと納得する。
成れぬ客もいるのだろう。箸と言うやらの他に先が割れた匙がついており。
それで饂飩の麺を刺して掬って食する。汁もそれで掬い呑めと書かれている。
他にもあれこれ書いてあるが居ても堪らず二人は顔を見合わせ
「頂きますっ」と唱えて甘じょっぱい汁を掬い麺を絡めて口に運ぶ。

「んんっ。ちゅるちゅる。んんっ?ずるずる。うむむ。ちゅるちゅる。むにゅ?」
一度口の中に運んだ麺を息をして啜れば良いと書いてあったが其れが長い。
甘くも塩っぱい汁が麺に絡み旨いと思うがそれでも長い。
「ピュウシャ様?無理せず噛み切って良いと書いて有ります。
本来は何本かの麺で椀を満たすらしいですが。秘技一本麺と言う物らしく」
「ぶはっ。最初にそうって欲しかった。でも旨い。すっごく美味しい。」
椀を満たす白太麺をやっと噛み切り顔を上げたピュウシャはちょっと苦しそうにも満面の笑み浮かべる。
車海老の天麩羅も又逸品である。汁の上に浮いていたなら衣はさくらくと浸せば甘みがもっとます。
これなら皆が列を長く待ってもその甲斐があるプリプリとした食感が堪らない。
食し方が分かると後は止まらない先にお替りの手を上げたのは同僚の方で有る。
直ぐに麺が店の奥から宙を切って飛んできたそれを丁稚が楽しそうに受け止め
ちゃちゃと湯切りしくるりと回して椀に滑り込ませる。
これも又楽しい店の計らいなのだろう。汁が足りないとなればつゆ壷持った係が店中を回り
天麩羅がほしければ声を声を掛けえばそれで良い。
成れてくると勇者同僚は互いの顔を見合わせどちらが先に一本麺を切らずに啜るかと
子供じみた競争を始め。ピュウシャが四杯目で成せは同僚は六杯目でそれを成す。
楽しげにも美味しい饂飩を腹に啜った二人は満足し支払いを済ます。
店主とやらの顔を観たい思い店中を覗くが思ったよりも暗く厨房の奥までは見渡せない。
されど又直ぐ来るだろうしと思い直し同僚と一緒に腹を撫でて店をでる。

ばぁ~~~んと突然銅鑼の音が鳴り上がる。耳に馴染み有る戦銅鑼だ。
そして直ぐに戦槍旗が上がる。
市場街の広場の左から上って一本。二本。四本並べば勇者枯れ枝掃除の庭師の旗数で有る。
ざっざっざっと鎧脚音を鳴らし勇者兵が突き進む。
剣を振っては回りの物を切り倒し脚で踏潰しては道を作る。
巨躯兵と呼ばれる大柄な兵士が槍をぐるりと回し屋台を潰して壊せば又兵が踏み潰す。
驚き逃げる民に構いもせず銅鑼が成るたびに兵が屋台瓦礫を踏み倒して前にでる。
民を巻き添えにせずとは言え槍を振り回せば刃先が当たる。剣も盾も当たれば怪我人が出る。
それも厭わずに屋台を潰し前に出るのは足場を作ってるからだ。
自分達剣を振るった時に邪魔に成らない様にと容赦なく市場を瓦礫と戦場を作り出す。
「裏切ったわね。それとも最初から?勇者字が欲しくて密偵の真似事とは
私より二杯も余計に饂飩食べたくせに」
「申し訳ありません。こんな事に成るなんて夢にも思わず。
饂飩。美味しくて。奢って下さるって言ったので。欲張りました」
ピュウシャが横目で睨べは同僚も答える。正し其の顔は恐怖に染まる。
こんな所で罠に嵌まるとは情けない。何時かは来るかもと思っていたが
これだけの数の兵を出して来るとは夢にも思わず。
勇者相手なら何とか思っても巨躯兵混じれば勇者兵の数も多い。
いくら自分が預かり納める勇者街とは言え、その市場を潰して戦さ場を作るとは
姑息と言えば大胆に。只の馬鹿とも言い切れた。
「安心したまえ。僕の愛しい人形ピュウシャ。
君の心が離れていったとしても。僕は全然構わないし恨みもしない。
寧ろ心晴れ晴れ清々しているよ。もっとも戻ってくる気に直ぐに成るだろう。
狩りの獲物は君には在らず。その後背に潜む異国の雄だからな」
広場の対面。良く回りが見えるように組んだ指揮丸太台座の上に両手を広げて立つ
勇者枯れ枝掃除の庭師がかすれた声で叫び通す。

「えっ?私じゃない?異国の漢・・・?」
ピュウシャは困惑する。街の市場の半分以上を埋め付くす勇者兵。
それだけの兵を出してくるとなれば相手は勇者で有ろう。
然しあのうすら金槌野郎が自分の領地の中心と言える市場を潰し戦さ場を整えて迄
兵を出して来たその的が異国の漢一人だと言うのか?
そんな事はありえない。たった一人の漢を潰すためにこんな事をするはずはない。
虚栄心だ。きっとそうであろう。見栄であろう。
自分はこれだけの兵を動かせる。自分に皆が付き従うと見せつけているだけに違いない。
その証拠に丸太作りの指揮台の上でふんぞり変えるあのうすら金槌はいつもより大きくも見える。
「異国風情の饂飩屋の主人とやら。
僕の領地のど真ん中で異国の変な食べ物を出して商売するなど不届き千万。
枯れ枝掃除の庭師が直々に成敗してくれる。ブサイクな顔を出して見せるが良い」
既に勝ったとばかりにこれから起こる戦事に興奮し上ずりながら声を上げる。

誰も見上げぬ天の空か岩の塊が落ちてくる。
ひとつ堕ちれば砂塵巻き上げ竜の羽根。二つ堕ちれば土埃飛ばして竜の掻き爪。
咆哮上げれば竜骨笛がぼおぉぉぉと吹登る。竜が羽動かせば饂飩屋如き瓦礫と吹き飛ぶ。
剣を盾をぶつけて叩き威勢良くも高らかに瓦礫の向こうに人影見えれば戦士である。
左右に陣取る弐羽の竜が互いの首を折り曲げ大地の溝から咥え上げるのは
濃紺に止められる旗地を倭之御国の白筆文字でまるに且来と流し描いた饂飩屋の暖簾看板なり。
人の体の何倍も饂飩も飯も喰らう鶏竜が口に咥える暖簾旗であればこそ。
これみよがしにと抱えた旗兵の四本の旗生地を合せたよりもと遥かに大きい。
剣と盾を打ち鳴らす兵の肌色はこの地では珍しく藁藁と何処から湧いて来ると知るならば
大地で旗を咥える弐羽の竜よりも一回りも二回りも体は小さくても数多く。
其の背の上で怒声を上げる兵達が我こそ先にと地に向かい飛び降りてくる。
どど~~~~ん。どど~~~~ん。どど~~~~ん。聞いた事もない倭太鼓の打音が腹に響く。
「よっ。待ってましたぁ~~~。大将。倭之御國随一の女誑し。雌誑しぃぃぃ」
「きゃぁ~~~。親方ぁ~~~。こっち向いてぇぇぇ~~~。素敵ぃぃぃぃ」
「倭仕込の饂飩やぁ~~~。今日の饂飩は生煮えだったぞぉぉぉ」
「かぎやぁ~~~。たまやぁ~~~。饂飩屋やぁ~~~」
「妖精誑しの雌たらし~~~。玉には雄の僕らも構ってよぉ~~~」
剣と槍を打ち鳴らしそれぞれ好きに歓声を上げるのは冷やかしか戦鼓舞の掛け声か。
いつの間にか槍と斧を掲げて騒ぐ一団にあれよあれよと回りを囲まれたピュウシャと同僚
「何よ?この人達?何処に隠れて居たのよ?あとすごく怖い。何が始まるって言うの?」
「ピュウシャ様。戦です。これは戦です。観た所妖精族にも見えますが」
「妖精族?こんなに?勇者街よ。勇者街の膝下よ?ちょっと下がってくれるかしら?」
まるで魔物か悪魔か敵兵かもと解らぬ程に高揚した声を張り上げ二人をも飲み込む。
どど~~~~ん。どど~~~~ん。どど~~~~んと倭太鼓が又と成れば。
頭上の竜がぱっと嘴を開け咥えた暖簾旗を天宙に浮かせる。
其れまで生地の左右を強く引かれ浮いて居た旗生地がはたはたと風撃ち地面に堕ちてたごまる。
地に堕ち暖簾旗の向こうが観えれば芝舞台とばかりに一列弐列参列と戦武器を構えた役者が顔をずらりと並べる。
左から順に観ていけば耳が少しと尖った妖精兵が鋼の槍と携える。
隣に我こそはと剣と掲げて空を付く。其の数ずらりと十と数名。
右から覗けば今度は戦斧を土に打ち付けまっすぐと敵兵睨む斧兵居れば
やはり隣は戦金槌と土に打ち付け鼓舞する金槌兵が並べば十と数兵。
真ん中左に目を寄せれば細身の妖精雌がすらりと立ち頭を垂れて腰に手を添える。
何やら其の腰には何本もと縄で括った刃鍔がくくられている。一度も何本の刃を使うとでも言うのだろうか。
真ん中右に目を泳がせればこれ又変わった妖精雌が突き出た腹を愛惜しげに撫で回すが
反対の手には一際長い棒の槍を土突き。これから起こる戦に心踊らせ不気味な笑みを隠せない。
腹が出てると言うなら子を宿しそれでも血を欲して戦さ場に尚も立つと言うのであろうか

戦芝居の役者と成れば其の主役こそが列の真ん中に立つ漢である。
山の如くと言うのは容易く熊と言うには未だ届かずにそれでも戦と成れば
突き出た腹も其の筋肉も一回りともふた周りも大きく見えるのは鬼の気迫の成せる技。
日差し退けか芝居の粋か漢の後ろでひらひらと少女好みのひらひら袖の背もあまり高くない
異国の漢が緋色い腕章を腕に巻き背一杯と踵を上げて山の如きの漢に番傘を掲げる。
傘の日陰に身をおくも上半身向いて晒した肌にこそ縁を結んだ女雌の姿が入れ墨と乗る。
憤怒と睨む太い眉の上。つるりと剥げた頭に目印と白い手拭いを兼ねて乗せる。
山と観え熊の如しの漢が一歩前出るて腹を膨らませ吐き出す行きに口上が乗る。
「やぁおぉぉ。やぁおぉぉと皆の衆。
倭之御國帝国陸軍且来素子鏡蔵准尉で有る。儂の店の饂飩を食べに来てくれて有難う。
勇者枯れ枝掃除の庭師のうすら金槌とやら。饂飩屋の開業届ならきちんと役所に届けて有るぞ。
ちゃんと役所が認めた免許を持つ店前に兵を並べて商売の邪魔とは姑息な領主だ。
何より貴様には我が嫁の庭先に化け物仕込んで前夫の命を狩られた恨みが有る。
其の恨み因縁晴らしに今日個々で貴様の其の首。首且来素子鏡蔵が貰い受ける。
いざ。覚悟ぉぉぉぉぉ」
どんどんどんっと耳を劈き腹響く倭太鼓の鉢が唸れば且来が奔り回りの戦役者がが風となる。
それを合図と一斉に竜が脚を前に出し又脚を出せば敵兵に向かって猛進する。
「恋次郎ぉぉぉ。刀寄こせ。刀よこせぇ」どすどすと大地を蹴って且来が走る。
「合点承知。先ずは正宗参ります」
すらりと銀鋼煌めき正宗と名をつけられた刀が鞘から剥身となり且来の手に渡る。
「且来様の53番めの妻。シリヌル・シシル・モリヌ。
卵を抱えて6ヶ月。そろそろ一度目の産卵で御座います。
勇者枯れ枝掃除の庭師の尖兵共。前夫と仲間の狩られた命の敵。撃たせて貰います。
一番槍は私が頂きます。覚悟なさい」
大きな腹を突き出して突進する且来の横を撓る四肢を唸らせ飛ぶのは
身重のシリヌル・シシル・モリヌ。
真っ先に誰よりもと前に出ると他の者より長い槍先を前に突き出せば
宣言通りと一番槍の壱人弐人参人と串刺しにと貫き通す。
「且来様。とりあえずの弐番妻。セシーグ・モレヌ・ウリン。出ます。
我が速剣の前に切れぬ物成し。刻まれたい者から前に出なさい」
速剣と言われても理解は出来ぬと成るが答えは直ぐに知れる。
セシーグが一度剣を振るうと相手の首と手がほとんど同時に斬れて飛ぶ。
目にも止まらぬところか剣先全く見えぬ速さで剣が振り抜かれ敵兵の体が斬れて飛ぶ
「且来様十七番目の娶り妻。イグ・ラ・ジリ
我が心と夏の因を結びて我が夫様の宿敵勇者枯れ枝掃除の庭師の尖兵度も目
今とこの時我が夏因法の片鱗見せたる故に四因の法のそのひとつ・・・
ひとつふたつと数えて夏の因。稲妻来たりて刃となれ。堕ちろ。雷撃槍十本!」
雷鳴轟き天空割れれば敵兵が真っ黒の墨と化し前進する傭兵に藻屑とされる。

「観て下さい。彼処。あの漢の左腕。ピュウシャの姿が入れ墨に」
「えっ?何。あれが私の想い人?あっ本当だ。やだ。あの格好恥ずかしい」
一度しかあった事もないあの漢は約束を守ったらしい。
左の二の腕に尻を突き出し快楽を貪り寄って喘ぐピュウシャの姿が掘られている。
「行くわよ。ほら。私達も戦うの」
「ピュウシャ様。戦うって仲間ですよ?同じ勇者です」
「饂飩食べたでしょ?二杯も多く啜ったでしょ?私と一緒にいれば貴方も的になるわ」
「ぐはっ。御饂飩美味しかったです。又食べたいです。お供します。ピュウシャ様」
どのみち回りにいるのは妖精族だ。彼等と一緒に戦う他に道はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

置字

天鼠蛭姫

天鼠蛭姫

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