懶怠者の純恋(仮)

其の鐵屋根に紗雨雪を載せた路面電車が行き交う冬景色
昨今ではあまり流行もし無い喫茶店の片隅。
濃くの苦く漂う液面の上に硬めのクリームをたっぷりと載せた珈琲。
其のカップの取っ手に優雅に細い指を掛け金戀顋かねこいあぎとは其の味を楽しむ。
口の中に広がる甘くほろ苦い其の味を楽しみながらも顋の視線はずっと同じ所を見つめている。
軽くウェーブがかかり細い髪が柔らかく波打つ。
横に流した部分は段々に刻み後ろは刈り上げる。
顋が営む懶怠者の界隈でも其の顔立ちは優しすぎる。
一言で纏めてしまえば美男子である。それも相当な美男子であり
下手に街でも歩けば若い女共が群がってくるだろう。
背も高く柔らかな物腰であり、接する人々に礼儀と優しげな態度を忘れない。
一見すればとても懶怠者とは見えない容姿であるが細身の体を包む黒いスーツは
近寄る者には冷淡な印象を醸し出し眉を顰める。
容姿こそ優しげで親近感を与えもするが否として近寄りがたい重さを醸し出している。

白い陶器の受け皿の上にカチャリと音を立て珈琲カップを置く顋。
細い睫毛が揺れるその視線は最初からずっと同じ人物を見つめて動かない。
美男児であるが懶怠者の顋の視線を受けるのも又、一人の青年である。
昨今の若者流行りに沿って短く刈った髪を薄茶色に染め真ん中から左右に流す
何処と無く儚げでも有り白い肌。整った容姿では有るが眉を顰めるのが癖でも有るのだろう。
帝国政府運営の大学生か院に属する者なのだろう
分厚い書籍を覗き込み傍らのノートに汗癖と書物をしている。
黒ずくめ姿の顋がじっと見つめて居るとは全くも気づいては居ない。

 

「顋さん・・・そろそろ時間です」
儚げでもあるが当の本人は必死に筆を動かす青年をじっと見つめる顋の側に歩み寄る付き人の若い衆が時刻を告げる。
「もう。そんな時間か・・・」掛けられた声に流れる時間の速さを感じ顋は仕方なく顔を上げる。
世間世情の其の裏を歩き営む懶怠者の顋であれども人としての想いも有るらしい。
生まれながrの目つきの悪さを誤魔化す為に色付き眼鏡を鼻に乗せると一言。
「いつもの様にしてやってくれ」懶怠者の若衆頭らしく威厳を込めて自分の突き人に捨て吐く。
「へぃ。わかっておりやす」何処へ出してやっても一発で懶怠者とわかる大柄で強面の漢が頭を伏せる。

置字

 

天鼠蛭姫

天鼠蛭姫

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