脚を痛めて闊歩と歩けば雌の色気に阿炎狂乱成り:弐


それらしい店作りの奥から2番目の席で何やら書類をにらめっこしている漢は
人の目を良く引いていた。悪目立ちすると言えば分かりやすいだろう。
少し茶色の上に毛の毛は地毛の色なのだろうか?
4人掛けの席を一人で占領する彼の腰横に置かれた鞄はどこかのブランドぽいのかもしれない。
全体的に細身で薄弱な雰囲気を醸し出している姿でもあるが何より目を引くのは一本の杖だろう。
鐵作りの杖となればいわゆる健康な体ではないのだろう。
難しく言うなら健常者と対になる非健常者と言うことに成る。
それでも一般的に知られる言葉でもない。
傍らに杖を携えるとなれば思いつくのは目の疾病にも思えるが書類を睨んでいるならそれはない。
それと成れば他の場所に疾病を抱えていると想像もつく。

その店は最近、巷でもそれなりに通う言う輩も多い相席屋。
周りにも明るくも楽しげな店内の中で一人に黙々と書類と格闘してる漢。
そもそも相席屋という場所は漢と女の出会いの場所である。
昔がてらの言葉で言えば出合茶屋とでも言うのだろう。
流れ的に言えば客を呼ぶのが店であるし儲けを企むとなれば工夫もいる。
客集めの方法として女性は最初の1品と飲み物はただである。
それ以降は女性を聞き入り同席した男性がそれ以降の会計を払う。
女性は美味しい物を同席した男性共がすべてはらってくれるから機嫌も良くなる。
男性共は彼女達の機嫌を取るために高い食べ物と酒を貢ぐ。
女性達も機嫌が良く成りその気に成れば後は互いの気持ち次第と成る。
そんな店で鐵杖を友として一人に相席屋の席を占領してるとなれば尚更に悪目立ちしてる。

少々に癖けのある茶色い髪を細い指で掻き上げる仕草が何処か憂いでもある。
「それ・・・おかわりしたら良いんじゃんない?好きなんでしょ?」
いきなりにも声を掛けられ斎玉子五郎ははっとして顔を上げた。
「えっ・・・・」
全くに予想してなかったのだろう。
割りと長い時間に会社に提出するべき労災関係の種類を睨んでいたのに
頭の高い位置から声を掛けられ驚く。
「前にも来てたでしょ?先週くらいにさ
その時も頼んでいたよね。崩したこ焼きクリームのチーズケーキ」
緩くウェーブが掛かる前髪を揺らすが其の項は今流行りの刈り上げにしてる
優しげに五郎を見つめる漢の顔は童顔でありまだ若い。
「まだ食べられるでしょ?ボクが奢って上げるよ。
店員さぁ~~~ん。
こっちにエキストラポップのカフェラテと崩したこ焼きクリームのチーズケーキ。
それとトミーズ・マルガリータをお願いしま~~~す」
全くも予想もしてない展開に五郎は当惑もしつ向席の漢の顔を見つめ直す。
生理学的に言えば明らかに男性であるが若く童顔であり
緩やかにかかるウェーブの髪は五郎の髪色より明るい茶色に染めている。
顔付きと言えば童顔と言えども何処か少年の雰囲気が残る
くるりとした少し大きめな瞳が印象に強く残るし細厚い唇も目に止まれば
本当に美少年でこの上ない。
「何の紙を睨んでるの?
この前は本をずっと読んでいたよね?難しい顔して・・・」
「えっと・・・よくわからないけども。
仕事関係で怪我をして揉めていてね。提出する書類を・・・」
「ふ~~~ん。そうなんだね。怪我をしてるのは左の脚かな?
痛いの?大丈夫なの?痛くないの?
・・・擦って上げたほうがよい?」
パッチリとした瞳をくるくると回し心配そうに身を乗り出して五郎の顔を覗きこんでも来る。
「いや・・。痛むし・・・自分で動かすこ事はできないんだけど・・・
そもそも・・・君とは・・・」漢であれども美形の顔が間近に迫り五郎も困惑する。
「ボクは梅串麗らん。君は?」
「僕は・・・斎玉子五郎・・・・」
「云々。これで友達だね。三回デートの一回目だね」
「よっ・・・よろしく。梅串君。デートって・・・」
「五郎くん。なにいってるんだよ。ここは相席屋だよ。
君の好きなケーキを奢ってるんだしデート以外に何があるって言うんだよ」
梅串麗らんろ名乗る若者は勢いと言えばそうであり強引にも皿の上に乗った
崩したこ焼きクリームのチーズケーキをフォークで切り分け掬い上げ
五郎の顔の前にぐいと突き出して来る。
顔の前にフォークを突き出されてしまうと反射的にお口をあけてしまう。
パクリと口の中に放り込んだケーキは旨い。
「クス。可愛い顔してるじゃん。五郎くん。好きになっちゃいそう」
斎玉子としては飽く迄も反射的な反応であったがその仕草に麗らんは嬉しそうに嘲笑う。
相席屋であるから気のあったカップルが仲むずかしくもいちゃつくのは良くある光景と言えよう。尤もそれが漢同士で向かい卓を囲んでいたとしてもだ。
更に尤もに客の注文を盆の上に乗せ行ったり来たりする店員にとっては少々迷惑とも言えた。
常連とは言わずとも偶にやってくる其の美形の青年は女子店員の間でも人気であった。
今までは勿論知る限り相席の相手は女性だったはずだ。彼を目当てに店に通ってくる女性も多い。
それに彼は一度好みの女性の席に腰をおろすとまるで相手をお姫様のように扱い尽くす。
話す言葉のリズムも良くもあり匠であれば卓の上に並べる料理の数も多くなる。
当然にそうなれば注文された食べ物を運ぶ定員にとっては故に甚だ迷惑とも言える。

「そんな書類なんかに没頭してないで僕を観てよ。
せっかくのデートなんだからさぁ~~~」
「デートって言われてもついに20分前にであったばっかりだろ。
それにこの書類は大事なんだよ・・・。明日までに会社に出さないと」
「つまりはその書類を片付ければ僕を観てくれるってことだよね。
・・・ふむふむ。煩雑複雑怪奇だけども僕に掛かれば鶏の首をきゅっと・・・」
麗らんという若くも気さくな青年は斎玉子の目の前の書類をくるりと取り上げると
軽く読み込んで細い指で示す。
「個々と個々に署名して・・・6枚目と13枚めは斎玉子君に不利になるから署名しちゃだめ
それに関しては友達の弁護士を紹介してあげるよ。僕に任せてよ」
短い間にも分厚い書類を読み込み精査したのだろう。
斎玉子に必要な場所には署名を促し不利になりそうな所はきちんと指摘してくる。
「あっ。有難う・・・梅串君・・・助かったよ。こういうのは苦手でさ」
「云々。法学部に通ってるからね。これくらい簡単。簡単。
さぁ終わったから僕を観てよ」事が終わると麗らんはぐいっと体を前に出す。

勤め先の工場で怪我を負ってこっちあまり良い事はなかった。
否しかし自分では清く知らずに脚を運んだ相席屋の席向かいを囲んだ梅串麗らん。
美形そのものと言う印象の美青年との会話は良くはずんだ。
見かけよりも気さくで体の不自由な斎玉子をさり気なくも気遣い
尚且つにも話が面白いし好きな事にも共通点が多いのにも斎玉子は気を許しつつ。
それでも・・・。

「んん・・・」
微睡ぬ意識の中にもだるく体の上に重さが伝わる。
もとより怪我もしてるから体の調子が悪いのは良くわかる。
微睡みの縁から目覚めつつあれば瞼の向こうにうつるのはよく知る自分の部屋の天井だ。
次に半身を起こそうとすると今度はうまくいかない。
なぜだろうと思えば顔頬に生温かい感触が伝わりもする。
「むにゃ~~」
良くも知らずにも記憶の何処かにはある声が耳に届くとその感触が誰かが自分の頬に
手を添えてると理解できた。
「あれ?なんで君が個々に・・・?」
もそもそとゴソゴソと斎玉子の体に覆いかぶさるように裸体の上の這いずるのは
梅串麗らんである。
「どうしてって・・・一回目のデートの後に2回めと参回目をふっとばして
愛欲のままに求めあったじゃないか・・・。あんなにも激しくもとめて・・・」
「に・・・弐回目と参回目をふっとばして愛欲のままに求めあって・・・」
斎玉子は困惑する。
それはそうだろう。斎玉子自身としても今までの人生で情事に溺れる事はあっても
その相手となればすべて女性である。
「ボクも経験少ないからどうしようかと思ってだけど。
五郎たらあんなに激しく求めてくれて・・・嬉しい・・・」
寝台の上でのそりと半身を起こすとそのまま五郎の胸上に体を乗せると
そのまま麗らんは唇を重ねてくる。
「んん・・・ちょっと・・・ちょっと待って・・・なんで・・・」
べちゃりと音を立てて唇を割って入ってくる麗らんの舌を拒みながらも受け入れ
当惑を隠せない斎玉子の乳首を遠慮なくも麗らんの指が抓み嬲る。
「あっ。だから待って・・・。僕が求めたって・・・そんな・・・」
「何いってるんだよ。五郎君。
最初こそボクが誘ったけど。いざに始めたら襲いかかって来たくせに。
あんなに責められたらもう離れられないよ・・・五郎」
「ぼっ僕が襲いかかって・・・そんな・・・?」
当惑も困惑仕切りの五郎にも構わずに勝手にも麗らんは五郎の一物を弄りだす。
「そこはだめだってば・・・」
「朝だもの。元気でしょ?僕だって我慢出来ないよ」
弄りだした一物が鎌首を上げると待ってましたとばかりに
五郎の股間に顔を埋めると欲望ままにしゃぶりだす。

遠慮がちにも憚らずとも鬼瓦大角は緊張気味にそのうあすアパートの鍵を回す
大きく太い手のひらの中に収めたドアノブもともすれば潰せてしまうのでないかと思われるが
器用にもそれを回すと早る気持ちを抑えてアパートの住人へお声を掛ける
「頼もう。斎玉子殿・・・。
本日の介護はしずゑ殿の代わりに小生鬼瓦大角承けたまり・・・」
いかにも安アパートと言える暗く狭い部屋の中を覗けば、又これも何とも言えぬ光景が目に入る・
窓から差し込む光の中にチラチラと埃屑が映り舞うその先。
寝台の上に四肢を投げ出しさらけ出す斎玉子がいる。
「とっ。斎玉子殿っ。如何がなされた?どうなされた?」
細くかぼそくも儚い全裸を寝台の上にさらけだした斎玉子五郎の姿を見ると
ドスドスと足音を上げて駆け寄る。
「あれぇ~~~。大角君。どうして個々に?」
全裸となれば直前まで何をしてたかと言うのは騒動に容易い」
「いつもは漢湯に努めてはおりますが、あそこは派遣先でして・・・」
あまりに怠惰とも言える斎玉子の姿に心配をも隠さずに思わずにもかけより
その手を握り斎玉子を見つめる。
「何があったのですか?斎玉子殿?」状況もよくわからずに頭を撚る大角の後ろに声が掛かる。
「あれ?お客さん?・・・いつの間に?
はっ?もしかして・・・こっ・・・恋人?愛人?もしかして夫?
・・・えっと。五郎君って結婚してたの?ボクとは遊び?不倫?寝取り?
ぼっ・・・ボクとは遊びだったの?・・・ぐすっ」
これも又狭い部屋奥の風呂場からこれも又全裸のままで美青年麗らんが姿を魅せる。
その手には冷蔵庫を勝手にあさり見つけたコーヒー牛乳をしっかりと握る。
「貴殿は何者で有るか?なぜ故に五郎殿のご自宅にいるのか?
察するに想像はつくが・・・それでも聞きとどける。五郎殿とのいかなる関係か?」
怠惰感に包まれまともに喋る事もできそうにない五郎の手を握ったままとっさに
声のした方を睨み見つめ返す。

 

 

 

置字

天鼠 蛭姫ノ壱

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