かつては新宿とも歌舞伎町とも呼ばれた古い繁華街。
駅から繁華街へ向かって三丁目の角の店主と婆様と一緒に同じ位に古ぼけた煙草屋の角を曲がる。
結構い遅い時間であっても開いてるのは店主の婆様の趣味であろう。
眠そうにも面倒くさそうにも眉を潜める婆様にしわくちゃになった千円札を差し出し欲しい品物を伝える。
欲しい物は他の場所では手に入りにくいドリンクである。
実はある地下系アイドルの限定コラボ商品であるが、世間の評判は芳しくもなかった。
もともと地下アイドルの販促品であれば数も少ないはずであるのだがこの店の婆様の店には置いてある。
あまり商売気のない婆様が適当に仕入れているのだろう。
少々肥満気味で見るからに運動不足のヲタクである其の漢にとって弐か月から三か月に一度に行われる
推しの地下アイドルのライブの日であればこそ一本のドリンクは大事な一品である。
相手が愛想もなく寧ろ面倒くさそうな接客態度であっても自分は頭を下げて礼儀を尽くす。
数少ない自分の推しの販促物を買い占めてしまいたい衝動はあってもそれはしないと心に決めている。
もともと数が少ない商品であれば自分だけで一人じするのは気が日が引ける。
何しろ音が店を立ち去って直ぐにも同じ様に推しアイドルの限定ドリンクを買い求める別の客がやってくる。

【同士よっ】
買い込んだ限定品のドリンクを少し大きめの鞄に詰め込みながら漢は心の中で呟く。
同士と唱えた漢の先にもそれともわかる別の漢が背を丸めて歩いてる。
気がついて頭をめぐらせば確かに似た風体の輩が数名、同じ方向へ向かってる。
愛想もなければ接客に無理がある婆様の煙草屋の先を暫く歩くと昼間は若いママ達が子供を遊ばせる公園がある。
だが刻には公園の脇に大型のヴァンが止まっている。沈黙栄える公園には黒い制服にスタッフと言う腕章を
はめた数人の黒尽くめの輩が控えてる。

※夜ですので近隣の住民の方々の迷惑にならない様に気配りを!
※必要備品以外の危険物等は持ち込み禁止
※帽子・ゴーグル・手袋・膝当て等忘れずに
※格闘技経験者等の参加は禁止
マスクの下の口を固く結ぶ、その日が初めての勤務となる若いスタッフが掲げる看板には
いくつかの注意事項が書いて有てはあるが。その日の参加者にとっては当たり前すぎる事であり当然頭に染み込んでる。
自分より後で限定ドリンクを買い求めた同士の一人がペコリと頭を下げてきてこちらも無言で答える。
先に準備を済ました同志が鞄を腕章をつけたスタッフにリュックを渡し引き換え紙を受け取れば
自分もそれに続き可愛くも巨乳のスタッフに鞄を渡し引き換え紙を貰うとぽけっとにしまう。
正直、ちょっと心が揺れた。漢であれば誰であっても女性の乳には視線が吸い付いてしまう。
自分は推し一筋と慌てて頭を降って姿勢を正すとさっきの漢がこちらを向き嗤ってくる。
「同志よっ!・・・・行くかっ?」
「おぅっ!・・・・行こうっ!!」
パンッと手袋を打ち付けて感触を確かめ互いの勇気を称え公園の出口へと向かう。



天鼠 蛭姫ノ壱

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