【女装男児】女装家且来素子闊歩歩いて候:其の弐

「それで僕は何故此処に呼ばれたのでしょう?
それに目の前にいらっしゃる化け物紛いのおじさんはどちらさまでしょう?」
「且来素子・二十八歳。今日は気合を入れてEカップである
「そっ。それはどうも。且来さんの活躍は常々遠目ではありますが良くと存じております。
男性で有りながらも敢えて女装と言う苦難の道を歩む裸一貫。正に芸人の鏡と存じてます。
それにしても偉く厳重な警備がなされてますがどうしてでしょう?」
且来の元相方・輿光がやらかした件騒ぎの後始末は気使い気配りを特技とする四月一日の
手腕を持っても二週間ほども時間を費やす事になる。
先ず第一にパーティの主催者側に約束通りに一連の事柄を説明に脚を運び
挨拶と謝罪の意を仕えた後に輿光が薬を入手した経路はどうやら主催者側の
手配に問題があったようだともやんわりと指摘し彼等の協力の元に
薬を会場に持ち込んだ当人の割り出しに成功する。
大体の予想を裏切らずに薬を持ち込んだ物は世間の影日向を彷徨く懶怠者紛いの
売人で有るとも判明する。
何処から何処までが法の範囲であり、
又そうでないにしろ四月一日は礼儀を通すべきであると考える。
理由はいとも簡単でありあの日輿光は財布を持っていなかった。
そうであれば売人といえど商売であるから怪しげな薬であってもそれは商品である。
財布を持たない輿光に売人が薬を渡したとすれば姑息な輿光君であるから
大方変な難癖を付けて奪い取ったか後で払うからとでも言ったのかもしれない。
若しそうだと成ると商品の代金は未払いとなる。
懶怠者達の下調べと言う調査能力は侮れない。
恐らく多分輿光君の身元はすでに割れているだろうし
不祥事を起こしたタレントを数日前の日付けて解雇しましたと
世間様を誤魔化せても懶怠者が納得するはずもない。
ここできちんと礼儀を立てなければ後々まで尾引くのは目に見えて居る。

[春夏冬映像研究所]
看板と言うのも憚られるほどの見窄らしい板にビニールテームを貼り付け
社号示した二階建てのやたら古い建物の近辺に四月一日は佇む。
「どう見ても彼処だと思うんだけど・・・それにしてもボロボロ・・・」
研究所というよりは上方の町工場としか視えない其の場所を観察していると
ブオンブオンと大きな音を立てて一台のスクーターが止まる。
予め懶怠者絡みの場所と知っているから若い漢の姿もなるほどそれらしいと納得出来た。
頭を守るはずのヘルメットも最近はまともな物がないのだろう。
所謂半キャップと言う種類の物を被る若い者は四月一日を一瞥すると鼻を鳴らす。
それでも他人であり素人衆に手出し無用とでも言われているのだろうか?
大きな鞄をバイクから下ろすと肩に掛けもう一度四月一日の顔を睨むと
とても研修所には視えない春夏冬映像研究所の中に姿を消す。
懶怠者が平然と出入りする場所の懐に脚を踏みれるのは勇気がいる。
出来るなら玄関先か軒先で話を済ませたい四月一日は頃合いを見切ろうとするも
やっぱり勇気が出なかったので用事を済ませ研究所から出て来る若者に声を掛ける。

「あの・・・すいません。
僕は有る芸能事務所の者なのですが・・・
春夏冬映像研究所様の代表の方にお会いしたいのですが取り付いでもらえま・・・」
怖怖とそれでも出来るだけ丁寧に声を掛けたつもりでは有るが
最後まで言い終える前に結構背の高い四月一日の首にスルリと細い腕が回された。
妙な事に甘い肌の香りがする。
「あのさ・・・アンタ。芸能関係者なんだろ?
隠岐崎歩ってレズビアンって本当?
噂に成ってる韓流グループのメンバーって実は全員インド人って事実なの?
グラビアアイドルの頬有って実はものすごく貧乳でパット15枚いれて
胸盛り上げてるって本当よね?本当って言いなさいよ。このスケベ。
それから女装芸人の且来素子のサイン貰ってくれる?ファンなのよ。
・・・あっ。今。アタシの胸観たな・・・ブラしてないって確認したよね?
このド変態芸能マネジャーめ。触りたいなら2万円払いなよ。
男色好みの一尺八寸さ~~~ん。美味しそうな若いお兄さんが用事あるってぇ~~~」
四月一日の首に手が回り顔を寄せ耳元で話せば確か目線が下る。
首後ろに回る細い腕と耳元に掛かる甘い吐息、当然に漢なら極々に目線の先に
見えてしまう小ぶりではあるが形の良い乳房に視線が固定される。
「さっ最初の二つは芸能界の都市伝説かと・・・
頬有さんは僕の事務所のタレントで御座いますが・・・
胸よりもお尻の大きさと形の良さを売りしてまして。
15枚は言いすぎですがちょっと位は盛ってるかもですが・・・ご内密に。
且来素子さんに若し会うことがあればサインは頂いて来るようにします。
なるほどお手頃サイズではありますが十分に鑑賞に耐えうるお胸でざいます。
否然し・・・本日は所用を優先すべきで有りまして。又の機会を楽しみに。
男色って何ですか?懶怠者界隈で男色が流行ってるのですか?
・・・・あっ。これはどうも。一尺八寸ですね。初めまして・・・」
先んじて豆鉄砲を乱射するように言葉を発する女性のそれに
きちんと答えたつもりの先に研究所から出てきた顔の半分を顔で覆った漢と目が会う。

「どうも。芸能事務所の四月一日と申します。」
「どもども。映像研究所を営む一尺八寸です。
余計な事を聞いたかもだが流してくえたまえ。公にはしてないのでな。」
「やっほ~~~。触ってお手頃摘んで感度抜群Bカップの八月一日でっす」
「こら。初対面の素人衆の御方に失礼だろ?大体八月一日は仕事残ってるだろ?
戻らないと組頭にどやされるぞ。ほら行け。さっさと行け」
「やだも~~~ん。それに四月一日さんとはもう恋仲なの。
八月一日の胸じっと観て視姦するのよ。この変態。」
「倭男児であればこそです。眼の前に綺麗な乳房があれば愛でて当然でっす。
本日はお日柄もよく・・・・じつは先日の芸能パーティの件で」
四月一日・八月一日・一尺八寸とそれぞれどれも珍しい名字で有るのも
その場に居る者は誰も突っ込まず。寧ろ四月一日は研究所内の雰囲気に圧倒されていた。
所冷ましと雑多に山と積まれるのは女性の裸体が描かれるDVD。
それを購入する若者に景品と成る女優の裸体の巨大なポスター。
発売イベントで店に飾られる全裸の販促品。
何台と並べられるPCの画面には今も男女の性交シーンが写し出される。
映像研究とは名ばかりでありどうやら実態は懶怠者絡みのAV関係の映像を
加工する工場のような場所であった。

回りの雰囲気に圧倒される四月一日でもあるがなんとか話を進めるも
「気になるか?持って帰るか?
好きな女優の名を上げたまえ。此処では一社だけじゃなく。
業界のかなりの数を扱ってるからな。大抵は見つかるだろう
特別にモザイク加工なしの生まれ儘のバージョンをくれてやるぞ」
「いえ。それは・・・その・・出来れば・・」
相手の行為を無下に断るのも失礼でもある。色欲に負けたと言う方が正しい。
「ふ~~~ん。四月一日さんてそっち系なんだ。意外や意外」
妙に関心した素振りで山高く重なるDVDから数枚を八月一日が投げてよこす。

四月一日が告げた言葉を一尺八寸は云々と頷く。
あの日、妙に煩い若い漢に確かに薬を暮れてやったが飽く迄も個人的にであった。
そもそも研究所の仕事の手漉きの日に組の上に言われてちょっと手伝いに
昔とった杵柄でバーテンのマネごとをしていただけあるし。
あの薬も個人的に所持していた物を投げてやっただけで代金はいらぬ。
元よりあんな強い薬を商品としたら苦情ところか死人が出るぞと顎髭を撫でながら嘲笑う。
懶怠者であっても小童如きの三下相手に下手な商売など出来ないとも言い捨てる。
どうやら最後まで貧乏くじを引いたのは輿光だけらしい。

薬の代金何かどうでも良い。
それよりも素人衆の癖に懶怠者の所に礼儀を立てに来るとは立派なもんだ。
持って帰れ。これもこれもと秘蔵とも言えるDVDを箱に詰めて渡される。
「やらせてあげるから。ホテル行こ。ホテル」
初対面なのに何故か気に入られ触ってお手頃摘んで感度抜群Bカップの八月一日の
強引な誘いを断れずホテルで浅まで一緒に過ごしもする四月一日である。
それでも薬を渡した張本人に話を聞けたのは直ぐに役に立つ。
既に解雇が決まり投げ出した輿光の体なんてどうでも良いが
時を同じくに飲薬した女性達の健康は気遣うべきであった。
幸いな事に確かに強烈な幻覚と性欲を促進する薬剤であり
その効果こそ絶大であるとしても常習性は無く。その後の健康に悪影響がないとも知れた。
詳細を知りえた事を吉報として女性達の所属事務所に出向き謝罪し
弁償とも言わずも弊社事務所の仕事をそちらへ何本が譲る事で手打ちにこぎつける。

つまり手擦りはしたが輿光が起こし関わったマネージャーとして
全てを上手く丸めこんだわけである。それなのに・・・。

「中々にと端正な顔つきである。今でこそ漢姿であるが
きっちりと仕込んで躾ければそれなりに観れる女装男児に成るであろう」
支える木が細く弱いのかギシギシときしむ丸台座の上に大きな尻を無理に乗せ
巨躯を誇る体に腹を突き出し気合が入ったと言うEカップの胸下で
これもまた極太の腕を組み交わして眼の前の獲物を且来素子がじろりと睨む。
「へっ。女装男児?且来さんですよね?」驚愕し四月一日が飛び上がる。
「何を言う。我はもう女装男児として大輪と咲かせておる。
本来興味も覚悟もない者に女装などさせるのもか。大体なんで我がこんな事しないといないのだ。
後進の指導なんて面倒くさくてしょうがない。」
「興味も覚悟もない者に女装させるって誰にですか?僕じゃないですよね?」
「面倒くさいって言わないで。私を貴方の仲じゃないの?
惚れた女の為に骨を折るのも漢の甲斐性って言うでしょ?
契約社員の契約書に署名したんだから諦めなさい。これも仕事の内です。
それでデート何時にする。デート。ムフフ」
何の気配もまったくなかったはずなのにこつ然と鮫鰹女史が姿を現す。
「鮫鮫鰹女史。且来さんが僕に女装しろって脅迫するんです」
自分の直属の上司を見方に付ければと悪漢且来の顔を指差す。
否然し。諸悪の根源こそ鮫鰹女史のその人で有る。

「綿貫くん。件の件。見事な手腕だったわ。御苦労様。
いろんな方面への手配と謝罪。細やかな対処。その手腕。さすがだわ。
でもね。一度ポッカリと開いた穴のは埋まらないのよ。困った事にね。
最後の穴はちょっと大きくてね。これがどうしても埋まらないの。
愛しの且来素子さんの元相方輿光野郎よ。解雇したのは確かだけど
あれはあれでそれなりに売上があったのよ。それがなくちゃうと社の売上落ちるでしょ?
だから貴方。其の分稼いで頂戴な。ぬふふ」
「そっ。それって僕に女装してデビューしろっと?無理それは無理」
何故にその場所が厳重に警備されてるかがこの時知れる。
これは極々と事情を知る者達だけの極めて極秘と成る事情故の事である。
つまりは今日。四月一日に女装させ其れが観れるものならデビューが決まる。
もしそれが決まったとすればその後正体が四月一日であると言うのがバレるのは不味い。
飽く迄も飽く迄も女装男児として表舞台に立たせその素顔は非公開と言う売り方を
大手事務所の敏腕マネージャー鮫鰹女史が目論む。

「待ってくれ。否。待って下さい。且来さん。
僕は漢ですよ。胸も乳房もありません。女装の覚悟なんて毛頭ないんすよ
そっ。それに観てくだい。この親ゆずりの濃いすね毛。
こんなすね毛でステージ立てるわけないないでしょ?ねっ。ねっ
自分が置かれた状況と使命に恐れおののき我をも抑えられず
若気の至りか必死さからか臆面も無くジーズンを捲りあげれば
なるほど確かに親譲りの濃いすね毛がびっしりと生えて見える。
「云々。確かに女装家に取って日々伸びて生える毛と髭は天敵で有る。
だが!案ずるな。我が弟子よ。先人達の知恵と勇気と技術に感謝したまえ。
まぁ~~~。今日は予算の関係もあるので荒療治で」
「何ですか?先人の知恵と勇気って?弟子入りなんかしません。無理です。
予算の都合ってそんなのあるですか。お願い助けて・・・」
きしむ丸椅子の台座に鎮座するく熊如きに構える且来は動かない。
代わりに二歩と三歩と下がった四月一日の背が高い壁にぶつかる。
それは固くでも壁でもなく柱でもなく。確かに固くもあれば弾力に弾む筋肉の壁と成る。

「本日は各所から君の女装の為に先輩方が助力を惜しまずと推参してくれておる。
まずは筋肉こそ我が芸と命。牛頭馬頭姉妹のお二人で有るな。
ちなみにお二人は生理学的には女性で有るのだが美しい筋肉を求め
日々邁進するために姉妹揃って婚期を逃したのが人生最大屈辱であると言う。」
「あの。ぶつかって御免なさい。初めまして牛頭馬頭姉妹様
婚期をお逃したのは僕のせいではないのですが申し訳なく存じ・・・ぐふっ」
思わずにも後付さりしぶつかったのが女性の体であり故意ではないにしろ
セクハラ扱いされるかと思えば相手は肉と筋肉の塊であり
いっこうに気にしないところか一気に四月一日の体を天井高く持ち上げる。
「すまんな。牛頭姉殿。何分不詳の弟子で有るのだ。手間を掛ける。
御無礼を許されよ。その辺の位置で良い。宜しく頼む」
熊の如き構える且来の前に牛頭馬頭姉妹の姉がスクワットの体制を整える。
「タイム。タイム。これは恥ずかしから。恥辱だから。
牛頭馬頭姉妹様許して。慈悲を。お許しをっ」四月一日が声を上げて愛玩したのも無理はない。
牛頭姉は天に一度抱えた四月一日の体の向きを変える。
自身はスクワットしたまま四月一日の体を抱っこした形で胴体に腕を回して固定する。
その相手が男性であれば背後から押さえられたとでも言えるし脚が自由であれば
抜け出しようもあるかもれない。然し牛頭姉は女性である。
元より四月一日は牛頭姉に抱かれた形で頭の当たりには乳房もある
変に脚をバタつかせれば女性の股間にあたるかもしれないのだ。
何よりも肉体派であっても女性に抱っこされるとなれば四月一日は恥辱に塗れる。

牛頭姉が四月一日の体を抱きしめ固定すれば馬頭が出番とばかりに
この時すでに半泣きの四月一日の太腿に手を添え足首を掴んで直線に伸ばす。
「昨今は男性でもすね毛の処理はおしゃれに気を使うと一定の需要もある。
故に男性美容サロンもあるが。なにせ今日は予算がない。
此処は昔ながらの方法でいくぞ。我が弟子よ。」
「しっ。師匠。其れガムテーム。ガムテームでっす。
まさかガムテームで僕のすね毛剥がそうって言うんですか?鬼。悪魔。変態。」
「いや。これが一番効果覿面だし・・・あと安いし」ムカつきながらも且来がつげる
「クリーム位塗ってあげたら?何かあったんだじゃない?」鮫鰹女史が横槍を入れる
「塗って。クリーム。塗って。お願い。初めてなの優しくして・・・」
状況に馴染んできたのかそれとも恐怖からならのか且来を師匠と呼べば言葉使いも変に成る。

契約社員となればその上司となる鮫鰹女史の言葉には頷くしかない。
ふんふんと鼻を鳴らし愉しげに白いクリームを四月一日の脚に塗る且来
対に反し牛頭姉の体の中で蹲り体を縮め次に来る衝撃に耐える四月一日。
「ぎゃ~~~~~~。思ったより痛い~~~~~」
衝撃を和らげるはずのクリームの荒療治のガムテームの衝撃と痛みには意味もなさない
「痛いの~~~~。痛いんだってば。本当に痛いの」
且来がガムテームをすね毛の上に張り強く押さえたあとに遠慮なく剥がず。
其の度にに涙を堪えもぜずに臆面もなく憚らす四月一日は声を上げる。
「無理。女装なんて無理。泣いてやる。牛頭姉の胸の中で泣いてやるぅ」
スンスンと鼻をすすり甘え声を上げ逃れようと企むも
「今のは女性に対するセクハラよ。四月一日君。
減点二十点ね。5日間の奉仕活動決定だわ」間髪入れず命令が飛んでくる。
「そんな。ご無体な。すね毛剥がされた上に奉仕活動って
どんだけ鬼なんですか?もうちょっと男児に媚びる事を学ばれたほうが・・」
「私結婚してるから夫いるし離婚しても次の漢も確保もしてるし
これ以上他の漢なんていらないから媚びる必要ないの・・・坊や」
部下に苦言を言われむっとしたのだろう。
最後に残ったガムテープを渾身の力込め雷の如く一瞬で剥がせば四月一日の悲鳴が部屋に轟く。

「つるぺた・・・つるぺた・・・観られた・・・牛頭馬頭姉妹さん所か
直轄上司の鮫鰹女史にまで観られた・・・つるぺた観られた・・・」
一連のすね毛の処理は今は漫才で言えば前座であった。
女装を強制され暴れる四月一日の体を選手交代と入れ替わり馬頭妹が抑え込む
「暴れると怪我するぞ。大人しくしてる方が早くすむし
その分恥辱の時間が減ると言うものだ。はっ。お主もしかして其れが良いのか?」
馬頭妹四月一日の体を固定すると牛頭姉がフンっと気合を一閃し
見事に新しく買い求めたばかりのジーンズが剥ぎ取られる。
一瞬何が起こるか考えるが其の結果は目の前の且来を見れば直ぐ分かる。
「此処は流石にちゃんとした泡がいるからな。
予算がないと言うくせに床屋で使われる本格仕様の髭反り刷毛を持ち出し
慣れた手付きで泡をこねくり回す。
「そこは駄目。見えちゃうから。色々見えっちゃうから。
あんっ。くすぐったい。暖かくで気持ちいい。
否。そうじゃなくて。牛頭姉さん。覗かないで。見ちゃいやん。
なっ何ですか!鮫鰹女史。其の笑い。こんな事されたら縮こまるでしょ。
いやん。でもあったかくて・・・きもちいい・・・」
完全に体を固定され無理に脚を開かせられ男児の股間の其れに
石鹸泡を塗りたくられる。
相撲の行司が仕切り扇子を上げると同じに四月一日に良く見えるように剃刀が掲げられる。
「案ずるな。日々の毛の手入れは成れておるからな。動くなよ」
「動かない。動かない。動かない・・・」
慣れているのは且来の方だけで下の毛を剃られる四月一日は初めてである。
動くなと言われても敏感な所に刃物が触れる度にピクリと跳ねてしまう。
「案外可愛いのね・・・否。顔じゃなくてちっちゃい坊やの方」
クスクスと意地悪げにも愉しげに鮫鰹女史が嘲笑って魅せる。
「意地悪・・・みんな意地悪だ・・・大体下の毛剃ってどうするですか?
見えないでしょ?こんなとこ剃ったってい見えないでしょ?」
「何を言う。病は気から女心は移ろいやすく女装の真髄は股間の毛と言うであろう。」
「言いません。絶対に言いません。パンティでも履かせるつもりですか?」
四月一日を抱える馬頭妹と脚を抑える牛頭姉が寡黙にも顔を見合わせにんまりと嘲笑う。

「つるぺた・・・つるぺた・・・観られた・・・牛頭馬頭姉妹さんにも
鮫鰹女史にまで観られた・・・つるぺた観られた・・・
・・・しかもおパンティ履いてるの僕。・・・ちゃんとリボンがついてる方が
前だからって鮫鰹女史が指さして教えてくれたの・・・おパンティ・・・」
相当であろうショックを受けたのだろう。
一連の作業が落ち着くと有る程度観念したのか泣きじゃくりながらも
濃桃色のパンティを履かされガウンを着せて貰った四月一日は
放心しふらふらと壁際まであるくと膝を折って屈み込み
脱走しないようにと警備するスタッフの腕袖を引っ張りながらいじける。

「ちょっとあれで大丈夫なの?相当落ち込んでるわよ?あんな状態で女装とか出来るの?」
此処までは提出された計画書をなぞる形で着々と進行しているものの
予想以上の精神的ダメージを受けた様子の四月一日を鮫鰹女史が指差す。
「あれくらいの事でいじけるとは情けない男児で有る。然しだからこその女装でもある。
理を入れるならば我は職業女装を営むのであって真の意味では女装家に程遠い。
否然し・・・女装道を極めるとは如何なるものかっ。
其の目見開いて良くと見給え。これが女装の真髄と知れ。先生御願いします」
又もや台座きしむ丸椅子から一歩も動かずに口上を且来が垂れる。

たかが一人の青年に無理に女装を強いるには随分と広い部屋である其の理由。
其の影奥から黒子服に見を包んだ者達がわらわらと現れたかと思えば
皆々に黒い台座と壁と押す。その部品と隅間が噛合い埋まれば
れっきとしたステージが生まれ出る。組んだステージから黒子が手を離し
影に消えた途端、室内に大音量で音楽が鳴り響く。
それは誰もが何度も耳に聞き馴染む今は流行りの化粧品のテーマソング。
部屋の対面でいじけるおパンティを履いたまま何事かと首を捻る。
昼に夜にと渋谷の街の大画面で流される化粧品のスーパービジョン
誰もとよく知るそのテーマーソングと一緒にブシュとスモークが弾け舞う。
白く舞い上がり曇るその奥に立つ影見えるが未だ姿見えず。
影の主が歩を進めれば曲調が華やかに奔り煙を裂いて女性が現れる。

蒼銀の髪を長く背後ろ迄伸ばし真紅のブラジャーとパンティ姿。
スラリと伸びる脚をも紅色のストッキンで包み隠しカードルの紐線は黒
踵を覆うヒールはエナメル輝く黒であり。下着姿を真っ白なショールが際立てる。
「素子さん・・・?あの人って・・・・?貴方、どうゆう捏ねつかったのよ?」
初対面であればこそ失礼に当たるはずではあるが思わず鮫鰹女史が指で指す
「捏ね等ではないぞ。真摯に頭を下げてお願いしただけだ」

余りの意外さとその清楚で可憐でありながらも同じ女性として嫉妬さえする
美貌とスタイルを惜しげなく人前に晒し部屋すみで屈む四月一日へと歩み寄る。
「坊や?どうしたの?そんな顔して・・・」
膝を折りかがみ込む四月一日の顔頬を細い指で優しく包み声をかける。
可憐でもあり儚くも甘くそして淫猥に濡れた声が四月一日の耳に響き届く。
「あっ。貴方は確か・・・。僕・・・僕女装させられそうになって・・・」
「そうなの?それは大変な目にあったわね。可愛そうに・・・」
微睡みの夢の中にきこえるようにゆっくりと労る言葉が唇から漏れる。
涙と鼻水で濡れる顔に構わず指を這わせ一寸も先に前に出れば
振れると言う程に顔を寄せ長い睫毛を閉じて女性が唇を開いて漏らす。
「安心なさいな。私が助けて上げるから。坊や・・・」
「はい・・・」夢うつつにも眠りに落ちたとでも言うように四月一日も頷いてしまう。
白いショールと下着姿の女性の助けを仮りて呆然夢現にと立ち上がると女性に手を惹かれ四月一日は歩く

「どういう事?あんなに嫌がってたのに・・・其れにあの人」
さっきまで嫌がり部屋の隅でいじけていた四月一日素直に手を惹かれ付いて歩く。
その様をステージの邪魔にならないようにと場所を変えた鮫鰹女史が小声で確かめる。
「真髄である。あれこそが女装道を極めた御方の技である」
「えっ?あの人って男性だったの?どう見ても女性でしょ?」
真か嘘か?否それは絶対あり得ないっと世間でも今だ論争の絶えない噂の
その真実を知らされた鮫鰹女史は二度目に女性を指で示す。

少しはまだ項垂れる四月一日を優しげに導く女性こそ仄か麗ん其の人である
仄か麗ん・・・ほのかうららん。
ある時。有る刻。恐らくは弐年と幾月かと前に
突如インターネットの渦中に投げ込まれた美女の写真。
最初こそ数枚であったが直ぐに正式な写真集として発売される。
最初の一冊こそ発行部数に限りがあり世のヲタクと人々はこぞり買い求める。
二冊目となる写真集はその部数も多く印刷されるがこれも又数日の内に売り切れになる。
元より可憐で儚くも大胆に肌を晒す少女の姿は世情世間の漢も女も魅了しつづけるも
何せその正体も名前と姿意外に分からない。
とある時期まで正式な写真集意外にその姿を見ることは出来ず。
どんなに人々が求めても契約と言うなの縛りがある以上。
幾ら売れるとわかっていても出版者といえども飽く迄も一般人として理りを入れられ
増刷は出来なかった。

仄か麗んの人気が高くなるにつれ其の影も暗く大きく成っていく。
秘密裏に極々少数のコミニティに投げ込まれた不鮮明な写真。
それは仄か麗んが小汚く狭いどこかの部屋でソファの縁に手を突き
巨漢の漢の一物を迎え入れようと尻を突き出していた。
誰もが営む行為で有るはずも超が付くほど人気者の性交写真となれば皆が観たがる。
問題があるとするならば明らかに蒼銀の長い髪を背に垂らし
こちらを向く仄か麗んの胸に乳房ははく・・・
股間の間に女の体にないものが付いていたと言う事である。
秒という速さで広まり奔るインターネットの世界で
その写真に共に仄か麗んは漢である。
男性で有りながらも仄か麗んを演じる女装家であると噂が流れる。
直ぐにそれは現実世界にも飛びし仄か麗んは詐欺まがいの犯罪者であるとも言われ
人々は落胆するが彼女の魅力にとりつかれた者達は其れに納得するはずもない。

最初こそ一枚の写真のはずであったが
技術と人の業の成す業は尽きること無く。鮮明さに掛ける画像が修正され
オリジナルでは苦痛と苦悶に歪める顔が漢の猛りに貫かれ悦に浸る物になり
後ろの漢の立ち位置も変わりより深く入れる物にと調整され
終には漢の猛り自ら迎え入れ尻をふって歓びを貪る仄か麗んの動画が出回る。
世間もメディアも規制ギリギリの表現と加工を咥え
果たしてこれはいかががるものなのかと物議と論争を売りにだす。
観たい物を観たいからと言う人の良くとえげつなさを
元より一般人と公言する人物の性交写真を加工し動画に迄するのは
確かにどうであるのかと騒ぎが極まり無く大きく成るその時。

世界中の女性達が本当に求めてやまない商品を誇る化粧品会社が一枚のポスターを公開する。
どの場所でも一番大きな場所に張られ看板も雑誌もよく目立つ所に観れる其れは
仄か麗んが全裸で椅子の上に剰え脚を広げ物思いげに拭ける姿であった。
This work has not been manipulated in any way.
必ずと注意書きが添えられる其の写真に移る仄か麗んの体はどう見ても女性の物である。
若し男性が女性の体を模すのであれば乳房が必要と成るが現時点で人肌にあうような物は
簡単には手にはいらない。病理学的に言えば癌などで失った乳房の代わりに義乳なる
商品も千差万別と販売されて入るが仄か麗んがそれを使っているは思えない。
更には男性には男性器成るものが付いておりそれは女性のものより歪でもある。
上記の理由からかつてネット界隈や好色者達の根拠のない噂は一蹴される。
それでもまだしつこくも男性論を唱える輩が騒いでも
仄か麗んを専属モデルとかがげる大手化粧品会社が相手では部が悪すぎる。
今となっては仄か麗んが男性であろうとも女性であろうとも。
女性と世間の羨望の眼差しを一新に集める人気モデルの其の一人である。

「此処にお座りなさいな。坊や。最後で大人しくしてなさいな」
赤子や幼い子どもをあやし諭すように仄か麗んが告げる。
何か魔物の力でも働いているかのように四月一日は深くうなずくと
何もない空間であったはずのそこに黒子が椅子を用意する。
肩を押され素直に椅子に腰掛ける四月一日の前に四月一日が腰を折り顔を寄せる。
「せっかく可愛い御顔してるだから沢山の人に観て貰わないのね。
でも。このままじゃ駄目なの。皆が求める物がたりないの。
貴方にもやっぱり足りないの。大丈夫。私が教えて上げる」
可憐であり甘く儚い声を四月一日の耳元で囁くと
仄かはゆっくりとバスガウンの襟を広げると四月一日の漢の胸板がさらけ出さえる。
何かを探るように細く広い指が胸板に振れる。
肌の上を円を描くように丸くなぞり。少しづつ小さく丸く指が動く
やがて終には乳首の上を指が届くと四月一日の体がぴくんと跳ねる。
「やっぱり感じるのね。かわいいっ坊や。でもこうすれば持っと感じるのよ」
眼前に迫る仄か麗んの顔は美しく耳障りの良い声が耳に届く。
胸をなぞられるが人に寄っては全く伝わらない感覚であるが
ないより四月一日はそれに敏感でもあり人に振れられば快楽が奔る。
二度目に仄かが胸を触るとその感覚数数十倍にも跳ね上がる。
胸に何か押し付けられたかと思うと最初こそひんやりと冷たいが直ぐに馴染む。
何より指で揉まれ乳首を摘まれるとそれまでの人生で味わった事のない快楽が奔る。
今まで自分が何故それを得る事がなかったのかと悔み
与え刻まれる快楽に喉の奥から声がもれそれは確かに喘ぎとなる。
「ほら。新しい快楽でしょ。ねっ気持ち良いでしょ?」
云々と頷く四月一日の頬に軽く口づけすると仄かが微笑む。

「御見事だわ。・・・仄か麗んさん。
ところであれは何なの?本物なの?どうなってるの?」
「称賛すべき技である。恐るべし仄か麗ん殿。
あれは義乳と呼ばれる物だ。極一般には癌で乳房を失った女性の為の物である。
確かに義手の類ではあるが日進月歩の医療技術でもあの精度の物は早々有るまい。
今回は平に頭を下げた我の心粋の礼と言う事で仄か殿独自開発の物を容易して頂いた。
一度あれの快楽を味わったら小童如きの四月一日など雌堕ちする等容易い」
「そうなの?そんなにすごいなら興味あるわね」
「貴殿には親から貰った豊かな乳房があるではないか。
どうしてもと言うなら堕ちたばかりの四月一日を嬲って見るのも面白い」
「すっごく引かれるけど商品は商品なの。お古になったら試そうかしら」
四月一日にとっては少々物騒な話が続く中に仄かに言われるままに
義乳を付けた四月一日のそれに桃色のブラジャーが嵌められる。

「えっ?これ誰?誰よ?この人」
仄かに大人しくてなさいと言われたからかずっと夢現だったのか。
傍と気が付き我を取り戻した四月一日の前に見た事もない女性が居る。
少々派手なボブカットの茶髪にクール系のメイクを施すが何処か儚い。
誂えたばかりかと言う様な香りのする黒いツーピースとロングスカート
奇妙な事に四月一日が目線をずらすと彼女もずらす。
顔を前に出せは彼女の顔も大きく迫る。
まるで鏡のようだと思えども其の中にいる女性とは初対面である。
「誰よ?この人?・・・えっ?僕っ?」
未だ逃げ出さない様にとでも言うのだろうか其の隣で腕組みする牛頭馬頭姉妹が頷く
「えええええええええええええええええええええっ。僕っ女の子?
ぐは。本当だ。でも胸もあるの。あっ。おチンチン無事?でも女の子」
パタパタと自分の胸を触り今度は股ぐらを触ったかと思うと困惑して鏡を覗き込む
「傍で見てるとおもしろいけどど・・・ちゃんと説明してあげたら?」
「以外にも良く似合ってるじゃないか?流石仄か殿直々のコーディネイトで有る」
未だに何がどうなって自分に乳房が付いていたり可愛い女の子になっているのか
困惑しつつも鏡の前でポーズを取り出す四月一日に説明がなされる。

「ちょっとぉ~~~。何よこの衣装~~~
幾らアタシの胸がお手軽サイズのDカップって言っても
踊る度にちょっとは揺れるのよ。なのに布が柔過ぎてめっちゃ揺れるのよ。
踊りにくいってありゃしない。衣装さん首にして欲しいわぁ~~~」
八月朔日十三の其の事四月一日はその日弐回目のステージの幕間に
バックステージに戻って来た途端不平を漏らす。
八月朔日十三。ほずみじゅうぞう。
あの惨劇とも言える女装家計画の餌食と成ったはずの四月一日は女装に目覚めた。
女装に堕ちたとも言えば良いのでもあろうがその師匠と成る且来は少々にも困惑する。
勿論仕事はきちんと熟すも前の相方よりも遥かに人気を博す。
だがしかし人気が有るからこそ八月朔日十三の姿で居る時は我儘でも傲慢で有るくせに。
縁つなぎでかろうじてレジュラーのコーナーを貰う且来の楽屋には脚繁く通い
あれやこれやと通い妻でも有るかのように世話を焼くのである。
元々気配りの出来る四月一日が十三の正体であれば暗に理解出来るが其の意図は解らずじまい。
そうは言っても乙女心をぼんくら漢は気づかず素知らぬであるのはいつもの事に有れ。
「十三さん・・・。
乙女心はぼんくら漢は気づかず素知らぬって言いますけど
なんで且来さんなんですか?仄かさんじゃないんですか?
十三さんを導いたのって仄かさんでしょ?そっちに目が行くのが普通では?」
その日はねたステージの後に担当のメイクアーティストに問われ十三が答える
「仄かさんは女装界の天上人よ?
導いて貰ったからって恋なんて恐れおおいのよ・・・。
あと体力持たないわ。あの人絶倫すぎて恋人さん5キロ痩せったって言うのよ。
無理無理そんなの・・・。それにやっぱり好みのタイプは巨漢よ」
「十三さん。デブ専だったんだ・・・。ちょっとショック。」
「良いから早くして。且来師匠返っちゃうからさ」
「そんなに好きなんですね。いつかの仄かさんみたいに写真流出しちゃいますよ?」
「寧ろ大歓迎だわ。師匠に入れて貰えるなら何だってするわよ・・・ぼく」
初めて見る者を親と思い込む刷り込み現象であるにしても
それが恋心に直結するには無理があるだろう。
それでも八月朔日十三・その四月一日は螺曲がっていると知りつつも自分の想いを隠さない。

事虚ろぎて年が一つ重ねて過ぎる。
且来が生まれたその日はめでたくも1月1日で有り正月が来る度に自身は年を重ねる。
巨躯を誇り一介の職業女装家であり漫才を営み刻にタレントして活躍を続ける
且来ではあるが、此処数ヶ月其れらしくもあまり仕事と呼べる物はない。
元をたどれば且来はタレントで有る前に漫才であるが。
自身が悪くないとは言え警察沙汰を起こしたがゆえ師匠の怒りを買い
演芸界からも何故から知れずと厄介者扱いされ舞台には上がれない。
頼み綱で縁つなぎのレギュラーコーナーも番組の改変で終われば其れで終わる。
慕われ縁深いと思っていた鮫鰹女史の関係も相手が過剰なまでに忙しく
いつぞやの約束とやら実現など出来なかれば言って見ただけの口約束にしかならない。
元の相方の事もあり随分と手と体を動かして色々と奔走してのも昔の事となり
師匠。師匠とまとわり付いて弟子も人気を博し多忙に暮らし疎遠となる。
志した漫才の噺も舞台に上がれず。女装家若しくはタレントとしても演じる場所もなく。
何時しか深夜食堂の厨房に立つ日が日常となり
壱年が過ぎ年を迎えるその日に年を頂き・・・
昔と変わらぬ安アパートの一室。
一人に焜炉で炙った烏賊を頬張り温く冷めた熱燗で喉を焼いて虚ろに過ごす。

時に倭之帝国・弦鬼二十八年壱月三日。
世界の半分以上か其れよりはちょっと少ない位の領土と富を覇する大陸連邦と
国土としても決して大きくもなく一介の島の連なりである島国でありながらも
堂々と十数年も渡りあって見せている個の御國は今日も又大陸大戦の最中の國。
その國の情勢は決して豊かと言えずも繁栄も衰えずなのは一重に國民の努力と
豊かで貴重な鉱石を蓄える鉱山有れども何より強固盤石といえる軍事政権有りきである。
そして又、国民の隅々まで御國に貯めならばとの皆の心粋あっての又これで有る。

歳を重ね三日過ぎる。
男児として自分の脚でしっかりと未だ立ってはいないのだろうと思いつつも怠惰にと
布団の上でごろりと転がり人肌寒く何か温かい物か熱燗でもと思った矢先。
ドンドンと拍子心地よく薄板の戸口扉が叩かれる。
布団の上で三日もごろりと過ごせば体も鈍る。
多少なりともよろよろと脚を回すが遅いのに変わりない。
間髪あけずに直ぐにドンドンと戸口扉が殴られる。
「はい。は~~~~い。今行きま~~~す。お待ちを~~~」
数日も自室に籠もれば声を出さないから其れも調子は悪い。
なんとか戸口にたどり突き鍵をもどかしくも解錠し引き戸を開けた瞬間。

「日出る其の大帝国倭之御国・陸軍基幹少佐・猫拍子八尾狐で有る。
何だ。御前。其のでっぷりとした腹は!しゃんとしろ。
腹をだすな。みっともない。何?背筋を伸ばすと勝手に腹が出る?
それは御前がでぶだからだ。おでぶなのだ。
自分はその腹を売りに仕事とし飯にありついてると?
御託をならべるな。おでぶの癖に。大体そんな有様がら
御年三十にもなって嫁の一人もいないのでではないか?
なんだど。つい先日。歳を頂いて三十壱になったと。
貴様。帝国男児の癖に細かいな?そうやって重箱の隅を突くから
愛人の一人も作れるぬのだ!このおでぶ。でぶ。でぶでぶおでぶ。
一人くらいその腹を愛でてくれる愛人を紹介してやろうか?
はっ。その前に嫁だな。嫁も貰えぬおでぶちゃん
正月開けぬとは言え倭之御国男児が自室でごろごろ熱燗三昧では顔を膨らみ腹も出るわ。
女装家・且来素子とは貴様か?こんなふぬけてぶよぶよの腹の奴に
御國の為とは重要な任務を任せ成れば成らないとは情けないない
それからおでぶはおでぶでも人相が違うぞ?このおでぶで合ってるのか?」

扉を開けた途端に矢継ぎ早に言葉が飛んできたと思えば説教である。
隣に立つ部下を睨み写真と違うぞと不平を言いながらも身分を明かしたのは
日出る其の大帝国倭之御国・陸軍基幹少佐・猫拍子八尾狐名乗る女性将官である。
然し且来の姿を観た途端に口から出たのはでぶと言う単語であり
話の間にその単語を匠に織り交ぜ罵倒さえしてくる。
然し正月早々に軍人が訪ねてくると成るとそれなりに訳がある。
其れに悪口はともかく陸軍基幹少佐・猫拍子は女装家の且来に要件が有るらしい。
且来は職業女装家であって平時から女装をしてるわけではない。
腹を突き出して立っていても猫拍子の口から出てくるのはおでぶと言う単語だけなので
且来は丁寧に理をいれ一度戸口扉を絞め急いで女装身支度をすますと
再び平山香の前に女装家且来素子として姿を示す。

「うぬ。人相はあってるな。貴様が且来素子と見受けする。
然しまぁなんとも言えぬ風体だな。服装が変わっただけでおでぶは変わらぬ。
世間世情の御國の民はこんなおでぶの何処に魅力を観じていると言うのだ?
何か物言いたげだな?言って観ろ。黄色いワンピースがちょっと似合うおでぶちゃん。
うぬ。戦が長くも突けば心も荒む。勝ち続けて行く度に歓喜の裏に荒んでいく心も影に有るとな?
自分よりも目下に道化を演じる者がいるからそれを観て心が潤い明日へと繋がると?
それを演じる者さえいなく成れば心荒で戦兵の士気も下がり民も下を向くだど?
そうなれば勝ち戦も遠のきいつかは敗北するかもしれんとな。
自分達演者が居るからこそ人は嘲笑って明日に空を見上げる勇気を養えるだと?
・・・貴様。おでぶの癖に馬鹿ではないな?ただのおでぶの方が幾分可愛げがあるのに。
そんな御前に朗報だ。無駄に出っ張った腹と気色の悪い化粧の女装姿で
御國の為に人肌脱いで頂こう。こら。本当に脱ごうとするな。この変態おでぶ・・・
おパンツまで脱ごうとするな。貴様。態とだな。この変態おでぶめ」
もはや矢継ぎ早というよりは戦場で速射砲でも撃ってるかのように言葉を投げてくる
猫拍子八尾狐少佐の前にして芸を売りとする且来は臆面もなく緊張していた。
陸軍の将官に女性と言うのは少なからず存在すると確かに記憶しているが
自分の目の前で丸眼鏡の部下から書簡を受け取り広げる猫拍子少佐は美人過ぎる。
十分過ぎるほどに小馬鹿にされてるのは分かるがそれを気にしなければ
且来の人生三十壱年の其の間にこれほどの美人に罵倒若しくは話をされた事はない。

「良いか?腹のでっぱった豚ゴリラ且来素子殿。
この際腹が出るのは我慢してやるから背筋を伸ばして拝聴せよ・・・」
正直な所、陸軍には余り良い記憶も感情持たぬ且来であるが
陸軍制服の上からでも十分過ぎるほど大きな乳房から視線が剥がれてない事を
気取られないようにと踵を叩き合わせて腹を突き出し言われた通りに従う。
「日出る其の大帝国倭之御国・陸軍退役一等兵。且来素子殿
本日現時刻を持って貴殿は栄光正しき陸軍に復帰とする。
貴殿はその任務の特性上必要とされる為に軍曹に昇進を認める。
次に其の任務として次の事を命じる。
貴殿は我が領地上州自治國に渡航し現地陸軍情報将校を妻として娶り
幸せな夫婦生活を送りつつも現領地にて差別迫害の対象にされる人々に
愛と勇気を与える女装家として活躍して行くものと命ず。・・・以上である」
命令を刻んだ書簡を且来の顔に向けて唾を飛ばしつつも堂々と猫拍子少佐である。

「しっ。失礼ながら。猫拍子八尾狐少佐殿。
もっ。もう一度読み上げてい頂けないでしょうか?」
且来は確かに緊張していたし、それでも其の内容は聞こえてもいた
否然し・・・陸軍が発行する命令にしては奇妙すぎるのだ。。
「貴殿は我が領地上州自治國に渡航し現地陸軍将校を妻として娶り
幸せな夫婦生活を送りつつも現領地にて差別迫害の対象にされる人々に
愛と勇気を与える女装家として活躍して行くものと命ず・・・」
確かに奇妙な命令であるがゆえに困惑するのも当然であろうからと猫拍子少佐は繰り返す
「あの・・・その・・・もう一度・・・」
「貴殿は我が領地上州自治國に渡航し現地陸軍将校を妻として娶り
幸せな夫婦生活を送りつつも現領地にて差別迫害の対象にされる人々に
・・・・・・云々かんぬん。」
「あの・・・その・・・もう一回・・・」
「貴様・・・。聞こえておろう。それとも何か私を愚弄してるのか?
若年性難聴でも患っているのか?それともただのおでぶなのか?」
何度も同じ事を繰り返し言わせられたのが気に食わないのか
ついに猫囃子少佐はぶちりと堪忍袋の尾が切れて鉄拳を繰り出す。
ぼよよ~~~ん。
なんとも言えぬ独特の感覚が猫拍子少佐の拳に帰ってくる。
「己ぇ~~~。おでぶの駄肉腹めぇ~~~。
我が必殺の拳をものともせずにと跳ね返すとは。
恐るべしおでぶの駄肉腹めぇ~~~。
・・・なんだと?おデブちゃん。色々と聞きたい事がある?
却下だ。却下。私は帰る。任務が有るからな私にも。
何?腹が痛むから休みたい?駄目に決まってるだろ?
脂肪の腹がちょっと波うっただけだぞ。でっぱらめ。
わからないことは貴殿の部下に聞け。そして直ぐ行け。出発しろ。
この。うすらとんかちのウルトラおでぶ軍曹め」
言いたいことだけ寧ろおでぶと言う単語だけ並べて叫ぶと
殴られた腹を擦る且来に命令書簡をおしつけきすびを返しさっさとかえってしまう。

「直ぐに出発だ。三段腹のウルトラスーパーおでぶちゃん」
且来宅の戸口から去りつつも回りの住人宅にも態々と聞こえるようにおでぶと叫び
足早に去って言った猫拍子少佐の其の後に玄関口に佇む女装したままの且来に
申し訳無さそうに然ししっかりとアパートの外を指差し銀縁眼鏡の陸軍兵が指差す。
日出る其の大帝国倭之御国・陸軍弐等且来素子軍曹。
今やそれと成った且来は黄色のワンピースとサンダルと言う女装姿の儘で
アパートの前に堂々と鎮座する軍用トラックに詰め込まれる。
「帝国陸軍は彼のような無謀な徴収を常々行っておるのだろうか?
きちんと正しく兵役を納めた者をこのような形で・・・。
それに予算とか有るのか?給料は出るのか?その辺の明言がなかったぞ?」
流石にこれはありえないぞと女装姿のまま同乗する眼鏡陸軍兵をじろりと睨む。
「余りジロジロ観ないで下さい。
その格好の儘で且来素子軍曹に睨まれると背筋に虫唾と悪寒が奔ります。
小生。恋人が折りますが。後ろの方は未体験で御座いまして
出来れば貞操は守っておきたいと・・・。
任務の方は火急の案件と成っております。
それ故。無理を承知で今回の形に。
あっ。お給料はちゃんと出ます。帝国陸軍ですから・・・」
狭いトラックの中で女装した漢と一緒に座れば自分の貞操の心配もせずに
いられないとソワソワと見を捩り出来るだけ且来とは距離を取ろうと兵は尻を捩る。

陸軍弐等且来素子軍曹は自分をおでぶおでぶと連呼する絶世の美人少佐に
無理に預けらた軍位に戸惑いを覚える。
日出る其の大帝国倭之御国帝に住まう男児には確かに兵役が義務つけられており
男児は成人の十七の歳を迎えるとよほどの事がない限り軍役に付く。
短くても2年長ければ老兵去らずとなるまでの兵役の内、且来は比較的頑張って3年の間兵役を務める。
それでも最終軍位は一等兵でありって下っ端であった。
尤も軍曹のそれも下の方から数える方が速いとしても部下を纏めしっかりと命令を
こなしていく立場を預けらたと成れば少しは気が締まる。
否然し気が締まる思いとは裏腹に命令書を正しく読んでも
裏を返して何か暗号でも隠れてないか睨んでも
終いには命令書の隅角を指で弾いて弐枚仕掛けになってないかと疑っても
命令書には先程読んで聞かされた文字が並んでいるだけである。
「上州自治國に渡航し現地陸軍将校を妻として娶り
幸せな夫婦生活を送りつつも現領地にて差別迫害の対象にされる人々に
愛と勇気を与える女装家として活躍して行くものと命ず・・・?
何だこれ?帝国陸軍上層部は敵に猫またたびでも盛られて
頭の中がチンチリンくるくるパーにでも成ったのか?
それともものすごく美人で巨乳の猫拍子少佐の陰謀か?
あの人は世界征服を企む悪の組織の頭領に違いない。」
「軍のする事に概ね間違いはありません。多分。
この任務も確固たる信念を必要に迫られて発行されたものです。
それより且来軍曹。そろそろ着替えて頂けますか?
余りに目立ちすぎて任務に差し支えます。これから先長旅になるのです」
「何が目立って気色悪いだ。
貴殿等が人相を確認したいと言ったから態々手間を掛けて化粧までしたのでないか?
この小童一等兵の癖に。そうだ。縁をあって出会ったのだから記念品をくれてやる」
ぶちゅ~~~。
ごつくも太い手が且来を担当した一等兵の頬を包むと抵抗許さず顔を近づけ
そのまま分厚い唇を押し付け接吻する。
むぐむぐと藻掻くも力任せに口中に押し入ってくる舌には抵抗も出来ず
ばたばたと手足をばたつかせるもやがて意識を失ったのかだらりと息絶える。
「ふん。この程度で失神とは情けない。帝国陸軍はいつから軟弱者の集まりになったのだ」
記念品と言い張り自分の趣向任せの勢いに一等兵を気絶させると口元を腕で拭いトラックを降りる。

「じ・・・自分は諸星上等兵でありますっ。
お初にお目にかかります。且来素子軍曹殿。
自分の任務は且来軍曹殿を無事上州までお届けする事であります。
一緒に旅をする事になりますが。宜しくおねがいしまっす」
軍用トラックから降りた途端に腹から声を出し元気な声が飛んでくる。
軍靴の踵を鳴らし敬礼する諸星上等兵がいつもより声を張り上げたのは
当然。且来がトラックの中で一等兵に接吻し気絶させたのを目撃したからであり
上州までの旅の間に且来軍曹の機嫌が悪い事でもあれば
唇ところか間違いなく尻の貞操が奪われる事は間違いないと悟ったからである。
ふんっ。と鼻を鳴らすも一応返礼を返す且来の舐めるようにまとわりつく視線さえ
自分の体を視姦されているような錯覚に陥る。

且来と諸星が上州についたその日まで諸星のその貞操は見事に護られる。
尤も且来が諸星の尻を撫で回さった訳では無い。寧ろ好きあらば進んで撫で回したが
最後まで至らなかったのは諸星が予防策を取りその矛先をそらしたからである。
もう一つは且来の体調が原因である。
諸星がどこから見つけてきたのかも知れぬが大陸人の女性を且来に充てがう。
勿論互いの話す言葉は余り理解出来ないでいても喘ぐ声は伝わり情も移る。
次に最後まで諸星が貞操を守りきった理由は上州までの旅が
船による渡航であった事に大きな一因であった。
「且来軍曹が長い船旅に慣れてなかったのは天の恵みに違いない。
しかもこの時期この地域は台風で海が荒れる。
それも又、船長が到着日を遅らせたくないと迂回しないのが良い。
且来軍曹にはもうしわけないが・・・婚約者に顔向けが出来るぞ」
船酔いに苦しむ且来に大陸人の女性に介抱を押し付け諸星はほくそ笑む。

「今時。迂回路を使っても何故に空路ではないのか?
何故ゆえに7日も掛けて荒れる海を船で渡る必要があるのか?
観ろ!お陰で5キロも体重が堕ちたではないか。
女性に取ってなら体重の変化は嬉しいだろう。
否近し。女装家に取っては威厳と評判に弊害がでるぞ?
あいつ。痩せたな。女装家の癖に痩せたなっと指差されるだぞ?どうしてくれる?」
上州の港に到着し大地を踏みしめた途端且来は怒り出し
無事に貞操を守った諸星の頭の上に拳骨を落とす。
「そんな事言ったって自分の責任ではないです。上層部が決めた・・・ぐへ」
二度目にゴツンと頭の上に岩が堕ちて星が飛ぶ。
「諸星上等兵・・・。貴殿の心使いと任務への奉仕と忠誠立派で合った。
右も左も解らずの我の為に骨を折ってくれて有難う。深く感謝する。
次回あった時には・・・必ず貴殿の唇と貞操を奪ってやるから覚悟して置くように。
では。達者でな。諸星上等兵殿」
女装家で有りながらも一介の軍兵として茶色に船焼けした手を突き出し
漢と同士の固い握手を交わすと軍靴の踵を鳴らし且来は敬礼する。
次回あった時に必ずと宣言されるも苦笑いし返礼を諸星が返す。
軍兵の礼儀を通すと鞄一つを持ち手にぎり且来は直ぐには次の目的地は向かわずに
先ず脚を向けたのは港に並び栄える市場と食堂である。
やはり落ちた五キロの体重をもとに戻すのが自分の任務と決めるらしい。

漢縁國倭之御國上州自治区。
その玄関口とも言える港市場で大きな体を揺らし且来素子軍曹が楽しげに歩く。
既に何件かの屋台の品を物色し異国の食べ物であれども気に入れば腹に収める。
色どり豊かで珍しさもあれど且来の目を引いたのは海鮮の多い食べ物ではなく
港で商いや生活を営む人々の目の輝きと人柄の良さそしてその出で立ちで有った。
玄関口の港であるからこそ外国からやって来る客は多いだろう。
特に上州自治区を実質的に統治する倭之御國軍人は多い。
且来もその軍服を着込んでいればこそ屋台の主人は愛想も良い。
軍人の財布の中身を狙った事ではあればこそ悠長に倭之言葉を操る者も多い。
5キロの脂肪を直ぐに取り返すのは至難の技とはいわないが
とりあえず数件の屋台を回り市場の食堂の卓の上にこれでもかと並べた
海鮮料理の皆々をぺろりと平らげると相場にしてはちょっと多めの置き金を卓の上に置き
それから二日ほどの距離にある自分の勤務地に向かうために蒸気列車の駅へと向かう。

軍曹としての且来のへの軍の対応はその任務も然りではあるが
随分といろいろ手間を掛け同時に預けられた路銀も多い。
この先待ち受ける任務の前に鋭気を養えとでも言う様に路銀には十分な余裕もある。
列車で二日の旅となれば一等個室で船旅の疲れを癒やすことも出来たが
且来は乗り合いの二等個室の切符を握る。
少しばかり大きい列車個室ではあるが他の客との乗り合いになる。
腹の出た軍服の且来が切符番号の個室の扉を開けると先客が居た。
且来が顔を出した途端、目を見開いて最初に声を上げたのは幼い少女であり
母がその隣に座る。反対側には父親だろう。
別に軍服を着てるからという訳ではないが温厚で質素を旨にしているだろう
父親が丁寧に且来を招き入れ、影で母親は且来の軍服を見て
嫌悪間を隠さない気配を且来自身も見逃さない。
二日の旅を一緒に過ごす漢縁國の一家に頭を下げ名を告げてから
一応の気遣いと上着を脱いで丸め籠棚の上に押し入れる。
これは倭之御國の軍兵には珍しい事である。とても。
御國の為に自分の命さえ極々簡単に炎の中に投げてしまう倭之御國軍兵の
その彼らが命令を受けている其の間に制服を脱ぐと言うのはありえない行為である。
こんなにも間近で倭之御國の軍兵。更には腹の出た熊如きの人物を見たこともないだろう。
子供特有の不躾な迄の純粋な態度で矢継ぎ早に言葉を綴り且来に質問を投げてくる。
残念ながら且来には少女が綴る言葉の大半を理解できていなかった。
且来はつい先日までは戦争とも上州自治区の其の民と言葉にも一切振れぬ生活を営んできたのだ。
余りにも元気で余りにも不躾な自分の子供の行動をその意味を知る母は諌めようともする。
且来はそれを大きな手で制する。相手は尤も好奇心の強い時期の子供であればこそ
それを大人の都合で抑え込んでしまうのは良くもないし教育とも言わない。
されど子供の探究心を満たすにはその言葉の意味を且来は知らない。

屋台で品物を食べたい時はそれを指させば相手に伝わる。
食堂で食事を頼みたい時も同じだ。言葉でなくでも身振りで相手に心は伝わる。
且来は父親が読み捨てた新聞を譲ってくれと身振りで頼むと
大きく太い指を器用に動かし一定の大きさの四角形を作る。
それを少女の目の前に掲げよく観てる様にと促す。
云々と頭を上下に揺らす少女の眼の前で且来が指を動かし新聞紙を折り始める。
且来が軽く鼻を鳴らし其れが何かに歌にも聞こえ
指が動いて紙が折られるた度に新聞紙は形を変える。
倭之御國では子供達が必ず楽しむ紙折りである。
古くから子供遊びとして倭之御國に伝わるものであるがその技術は奥が深い。
且来自自身も幼少の頃に近所の子ども達と一緒に遊び近所では弐番目に旨かった。
久しぶりに折って見たし紙もやわらか過ぎる。
それでも鼻歌が終わる頃には且来のその姿と良く似た大熊の姿が出来上がる。
眼の前で一枚の紙が指で織り込まれ行く様と出来上がる熊。
差し出された熊を受け取ると少女は歓喜に目を輝かせ椅子の上で跳ねて指を一本立てる。
且来も同じ様に指を一本立てて笑う。
それはもう一度やって魅せろとの少女のお強請りだった。
わかったわかったと且来は頷き又一枚新聞紙をつまみ上げ少女の目の前で折り始める。
今度は鼻歌のその曲が二回と続く。それは複雑な物を折っているからだ。
やっと出来上がる紙折りの姿は紛れもなく母と手つなぐ子の姿であった。
これには少女だけでなく母親も父親も驚く。
先ず最初に付け加えるならば漢縁國の國民の子供遊びは幾つかあれども
主に外で玉蹴りなど体を動かす物が多い。
そして漢縁の國は紙を折って何かを作り遊ぶと言う文化がなかった。
少女が宙の指で形を描き強請る物を頭を捻りながらも巨漢の熊如きの軍人が
新聞紙や父親の仕事道具のその紙さえも使い折っておく紙折りには驚愕する。

幾つもにと且来が折った動物の紙折りを摘んで少女がごっご遊びを始める頃
「私にも何か作って頂けますか?軍人様。
それから倭之御国の軍人様は皆それが出来るのですか?」
最初こそ嫌悪感を隠さずにいた母親が初めて且来に伝わる言葉で問いかける。
「これはこれは美しい御婦人殿。
美しいだけではなく倭之言葉まで話すとは才も又豊かなのですね。
勿論。一つ。とびきりのを折って進ぜよう。
倭之軍兵に限らずに幼年の頃に誰でも遊ぶ子供遊びである。
旨い下手は有るだろうが大抵の者はほどほど熟すであろう」
世辞であっても褒められは嬉しいのだろう。
少しうつむくが夫の手前もあるから唇を軽く噛む。

且来が婦人の為に折る作品は特別だった。
態々に列車車掌を呼び出し固めの紙。それも赤と白の物を用意させる。
それから余り長くもなく扱い安い定規を一本を持って越される。
尤も個室の中では無理が有ると判断するとお気入りの熊の紙折りを
離さない少女の手を引き食堂車両に脚を運ぶ。
妻も後ろから付いて来たが夫は留守番である。
最初に嫌悪感を懐いていたのは妻の方であるが今は逆らしい
夫は倭之言葉は理解できないがなんとなく察してるのだろうし
それなりに夫婦の事情も有るのだろう。

食堂に大きくも固い紙と道具を持ち込み、皺がつくからと食卓の掛け布を取り避ける
木創り肌の卓の上に紙を敷き、先ず最初の一枚を置いて手でなぞる
何処をどう折ってどう描いて行くかと頭の中に描き出す。
食堂車両には数人の客がいて食事を楽しみながらも何事かと巨漢の且来を見つめて睨む。
それも構わずに折る為の線を見切ると且来は息を吐いて真っ白い紙を折り始める。
一度折り始めると且来の指は止まらない。
只でさえ大きな体なのにそれを丸め一心不乱にと白い紙を折って行くが
直ぐに紅い紙に手を伸ばし重ね合わせて織り込んでいく。
時に折った紙の線をシュシュシュっと三回なぞりなでつける。
「お主。帝雅の生まれか・・・?」目線の外から声が掛かる。
「何故分かったのだ?」紙の上から目を離さずに且来が答える
「紙撫での回数だよ。上方の生まれの奴はせっかちだから力任せに一回ですます
東峰の奴らは念の為だと二回撫でる。三回なでるのは繊細な技を持つ帝雅人だ。
・・・大作だな?何を折る?」
「貴殿も紙折りには拘りが有るようだ。
縁あってこちらの御嬢と御婦人と同室となってな。
言葉も通じぬから挨拶代わりにと一枚折ったら強請られてな。
御嬢なら動物でも良いだろうが。御婦人に送るとなるとそれは失礼であろう?」
「なるほど。それは確かだ。
御嬢さん。その熊は此方の大きな熊殿に折ってもらったのかね?」
言葉は図らずも熊の紙折を見つめられて察したのか少女が頷く
「故郷を離れ徒労の任務が続くのにこんなところで紙折の手腕を魅せつけられるとは
これは負けておれんな・・・一枚儂にも紙をくれるか?車掌」
声だけは聞こえても紙を折っていれば姿は見えず。その声も消える。
同胞で有る事は確かであるがこんな所で出会うとは思わずとも皮肉にも思える。

行く枚かの紙を重ね折り曲げ線を撫でつけ織り込む。
白と赤の紙を重ねて混ぜ込み織り上げる。
しばしの時間を真っ直ぐに紙と向かい会い額にうっすらと汗さえ滲ませた且来が
静かに待っていた婦人に差し出したのは紙で折った薔薇の花束である。
赤と白の紙の薔薇束。水に濡れれば萎れても決して枯れない花束である。
「少々、興が乗った故、仰々しいとは思ったが
貴殿にはやはりこれが似合うと思ったのでな。要らぬ誤解を生まないと良いのだが
それと知っても漢心を擽られたと申しておこう」
額に汗までかいて織り上げた紙の花束を言葉に出さずにも嬉しそうに婦人が受け取る。
其の脇で新しい紙折りを自慢げに少女が且来に魅せてきた
「なんと?これを折るのはむずかしいぞ?
熊は熊でも親子熊。それも母熊が子熊を抱いているではないか?
これを一枚の紙でおったのか?あの御仁。何者で有ろうか?」
且来が折った熊とと一緒に新しい熊を抱きしめ嬉しさに少女は跳ねて回る。

一組の家族と二日の列車旅。
それが終わるまでに少女は沢山の紙折人形を窓際にならべ
簡単な物であれば小さな指で折れる様になる。
いつの間にか憮然とした態度でうたた寝を決め込む夫を脇に置き
且来と婦人は言葉を交わす。
勿論。それは夫婦の絆もあろうから大概は且来の知らぬ國事情が主に話に登る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

置字

天鼠蛭姫

天鼠蛭姫

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