【女装男児】在る漫談師と歌姫の戀:其の参
一組の家族と二日の列車旅。
それが終わる頃にはに少女は沢山の紙折人形を窓際にならべ
簡単な物であれば小さな指で折れる様になる。
いつの間にか憮然とした態度でうたた寝を決め込む夫を脇に置き
且来と婦人は言葉を交わす。
勿論。それは夫婦の絆もあろうから大概は且来の知らぬ國事情が主にと話に登る。
漢縁國倭之御國上州自治区。
丸めて言葉にするとそれなりに長くも文字にはちゃんと並べられる個の土地は複雑怪奇と言える。
先ず大陸地図を卓の上に垂直に立てる。
世界大陸の其の一つでも一際に鼻息荒く闊歩する漢縁國の上の方の海岸線近くを鉛筆でなぞり
数多の中に家屋の屋根に溜まる雨雫を思い浮かべ地図の裏柄に手か板を添えて
今にも屋根の軒下に堕ちて行く雨粒の形を大陸地図に書き込む。
其れが終わったら大陸地図を卓の上に置いて覗きこむ。
確かに地図の上ではそれほどにまで大きくはないだろうが
漢縁國の重要な交易港を含む倭之御國軍が雨粒の様に占領する領地は結構広く
世界に覇を唱える漢縁國にとっては非常に大きな目の上の腫れ物である。
極端に脚の速い日進月歩の技術が生み出す兵器と古くから侵略と言う戦を悉く避けて耐えきた
倭之御國の兵法と猛将なる兵士達の士気の高さを誇る倭之御國の戦兵に対し
昨今にてやっと近代化の波に乗り始めた牧歌的な漢縁国の間には歴然の差が有るのだろう。
人頭数の多さで押し返してはいるにしても倭之御國上州自治区をかれこれと
二十年以上も実効支配と納めているのはやはり倭之御國ならではだろう。
地図の上の細い線の上を今度は太い線でなぞってみよう。
其の太くなった雨粒の形の線を実際の土地の上に奔るのが防衛鉄道で有る。
其の防衛鉄道は広大な領地を守る鉄の城壁にも良く似てる。
尤も倭之御國上州自治区統治司令官に言わせればとても防護壁とは言えないとも唸る。
防衛鉄道の線路の上を奔るのが二十両編成を綴る武装列車であり確かに鉄壁を誇る。
漢縁国の精兵大隊を用いてもおいそれとは陥落も脱線もしない。
ただし豪速を誇る武装列車であっても動かせる数には限りが有る。
朝から夜までそして又朝まで全ての領地を城壁の様には覆う事は出来ないのだ。
二十両編成を綴る武装列車であっても線路の上を通りすぎてしまえば
次の列車や並行に奔る列車が来るまではがらりとあいてしまう。
勿論その穴を埋めるために歩兵を配置したり監視塔を作って合ったりと
工夫はなされている物の漢縁國にとってはそこは確かに責め所でも有る。
同時に自治区の統治は難しい。
言葉よく自治政府による民主的な統治と言うが言わば実行支配領地だ。
それは其れで問題も多い。統治する側は倭之御國の人間であるが
統治支配される側は漢縁國の民だ。牧歌的で有るとは独自の文化と宗教や習わし
倭之御國の軍が入り込んで来るずっと以前から土地に根付いて生きて来た民である。
突然に港の向こうから銃を構え現れた倭之御國の兵を歓迎する者は当初は多いはずもなく
それが自治区と言う形に成った今でも頑固に意を唱え拳を振り上げ声高らかに拒む
抵抗組織も確かにある。とは言えそれが弐十数年も立つと人々は慣れもする。
何より倭之御國が自治区領民にもたらす恩恵は大きい。
先ず税金が極端に安い。
倭之御國は遠方に求める領地からの収入に余り拘りを求めないのが原因でもある。
何よりも古くから行くぞも其の資源と財を求め侵略戦争を跳ね除けて来た倭之御國が
今や遠地大陸の其の土地に二十年以上も実行支配する領地を持つ意味は大きい。
その軍事力は世界有数のレベル迄上り詰めてもいるし
安易に島国へと責めるなどすれば海と山とも超えて自国の土地を奪いに来ると
連邦各国に知らしめる効果の方が遥かに大きい。
しかも上州自治区に限らず大きさや名前は違えど同じような場所を倭之御國は領地としてる。
税金が安ければ民は暮らしやすいし商売も流行る。
海の向こうから入ってくる商品や技術の恩恵は自治区の生活を豊かにもする。
倭之御國を毛嫌いする老人も若い頃にはなかった甘餅に舌鼓を打ち
それが無ければ孫に駄賃を払って迄買い出しに行かせる。
拳を上げて列を作り庁舎の前で騒ぎを起こす中年漢でさえもそれが終われば
倭之御國がもたらした携帯電話を取り出し、今から帰ると妻に連絡し
この國は我らの物だと鼻息荒く抵抗組織を名乗る者達さえ
倭之御國産の部品を使ったトラックを乗りまして声に猛る。
自治区の中の住民は自分が商人でもないかぎり余り防衛鉄道の外には出ないだろうから
いつの間にか自分達の生活基準が高く登る事に気がついてはいないのだろう。
そんな側面も有りもせず。
且来軍曹が心の中で心地よいと感じるは漢縁人の女性の美しさと魅力だろう。
倭之御國の女性とは肌の色も性格も大きく違う。
牧歌的とは言っても、それは身にまとう衣装がそれを示しているだけで
おちついた印象を受ける色の男性のそれとは違い
慣れなければ目に突き刺さるのではないかと言うほどの極彩色の衣服と
独特の巻き布で一切の髪を隠す。幼き子供も若い女性も既婚の者も
みな同じ様に一切の髪を他人には見せないのが礼儀と習慣であるが
実際には皆総じてかなり髪を伸ばしているので手入れが大変で有ると
同室の婦人が口元を指で隠して嘲笑って見せた。
白く濡れる肌で漢を誘う倭之御國の女性とは違い褐色の肌と蒼い瞳を輝かせるが
貞操観念は意外とゆるく総じて離婚率は高い。
この話には且来も首を捻って唸りを上げる。
自治区に根を下ろし営みを持つ女性の最近はそうだとは言い切れないものの
貞操観念がゆるいと言うのは自分にとって利益をもたらす漢や
魅力的な男性に対し自分からはっきりと思いを告げる事は慎むが
相手にはそれとなくも寧ろはっきりと色目を使って誘う。
断固一人一妻性を唱える習慣が根強いために結婚していても
自身が他の漢に魅力と甲斐性を感じ惚れ込めばた、とえ結婚し子供がいても
平気で伴侶に三行半を突きつける。それも大抵は妻から夫へで有る
そうなると自然と離婚率が上がる事にも繋がる。
成人の儀が十と五の歳であり村や僻地に生まれ育つ者には早くに伴侶を決める習慣も多く
離婚する機会も当然多い。
漢縁国の女性が伴侶と求めて決める時必ず最初に相手の結婚回数を確かめるそうだ。
一般的にはそれが二回三回なら許容範囲四回以降は甲斐性がないと諦める。
此処で聞かれた問に少々誤魔化して指を立てあとでばれると断罪と極刑島流しが待つとも言う。
断固一人一妻を良しとする漢縁国に結婚のその時にきちんと届けを出す時に
自分の結婚は何回目の結婚で何回離婚してますと記載する欄が有るからだ。
後で虚偽がばれて伴侶が國に申し立てすれは書類詐欺としての罰せられる
それが島流しで一生戻れぬとはこの國での結婚とは首が縮む思いである
ちなみに・・・。
遊び足りぬと騒ぐ娘を寝台へと追いやり自分も話解らずと早々に寝込んだ夫の
結婚回数は何回なのか?とこっそり聞くと
あれはあれでそこそこ甲斐性がある弁筆士で稼ぎもそれなりで自分との結婚は三回目
自分は弐回目の夫との間に子を授かったと婦人は答え。
貴方は何人の妻を娶ったのだと逆に問い返されれば
自分は思った以上に腹もでてるし思った以上に縁に恵まれず
この國の習慣にはそぐわぬだろうが倭之御國の男児は晩婚の者も多いと
恥ずかしげに頭を下げ未だ伴侶もおらずと告げると
一女を授かり夫を持つ婦人の目がきらりと輝きその唇が唾液で濡れる。
二晩を窮屈な列車の中で過ごしその日こそやっと且来が勤務地に付くと言う朝
既に小さな指を匠に扱い熊の紙折りを自分で折れるようになった少女を横に
婦人は殆ど、寧ろ一切に且来の方に顔を向けず言葉も掛けず
自分の夫に漢縁の言葉を早口で話し終始嘲笑って過ごしていた。
慎ましくも微笑ましい家族と夫婦のあり方であると素直に思うし
遠く離れた故郷への思いも湧き上がり少々寂しさを感じつつも
次の駅で且来が降りるとなれば丸めた倭之御國軍服に袖を通す。
恐らくは今生にに会うこともないと成れば且来は少女を抱き上げ巨躯を生かし
天上高くに掲げ上げ達者で過ごせと暇を作って辞書を引き憶えたばかりの
漢縁の言葉で告げて見せる。
縁会って共に過ごせた時間は有意義で会ったと弁筆業を営む夫に礼言葉を告げ
その夫人には敢えて言葉も礼も目線も向けず軍帽の鍔に指を添えるだけにする。
それが失礼に当たるかは知れずとも旅の出会いに感謝しこそすれ
夫婦一家円満を良しと願うだけである。
轟音虚しく黑煙を煙突から吹上げ列車が去りゆく。
最後の車両が過ぎて小さく点と成るまで見送り改札を潜ると
且来素子軍曹がこれから生活を営み職務に励む上州自治区の街角と成る。
どれどれまずは腹ごしらえと御國では食べる事の出来ない大びりな海老が
丸々一匹入った黒胡麻饅頭を口の中に放り込み味を堪能した途端
且来の頭の中でピカリと電球が輝きあの文言が浮かび上がる。
我が領地上州自治國に渡航し現地陸軍情報将校を妻として娶り
幸せな夫婦生活を送りつつも現領地にて差別迫害の対象にされる人々に
愛と勇気を与える女装家として活躍して行くものと命ず。
無理やりに原隊復帰を強いられた陸軍命令書の文言。
その余りにもいい加減ではたまた通常の陸軍の作戦とは到底に思えない内容。
この命令の内容は主に前半と後半に分かれている。
女装家と生業として道を歩んできた且来にとって後半は掴み所がまだないとしても
なんとか凌げる算段は有る。問題は前半部分である。
現地陸軍情報将校を妻として娶り幸せな夫婦生活を送るべしとでも言い切られた
と言うか押し切られてる部分の意味を且来は正直に不快に思い尚且つ意味つかみ掛けていた。
命令書を胸に押し付けられたその時。初めての船旅で大陸人の娼婦と肌を合わせも
随行兵士の尻を狙って居た時。その後の列車の旅で幼き少女に紙折りを折ってみせて居た時
そのどんな時であったも常に頭の奥何処かに蟠りを濁しても居た。
時として倭之御國の陸軍と海軍は時々突拍子もない作戦を平然と実行する傾向がある
大抵の場合それは大失敗に終わるが十回の内一回位は大成功を納めるのだから不思議でもある。
それにしても嫁を娶れとはどういう事であろうか?
命令の文言を自分なりに頭の中で反芻し熟考を重ねて行くとなんとか答えであろうものにたどり着く
つまりは偽装である。恐らくは既に領地上州自治区に潜入しているか若しくは在中している
情報将校は女性なのだろう。且来自身が男性であるから普通であれば相手は女性と決まる。
漢縁の國の女性情報提供者かも知れないし倭之御國の女性兵士かもしれない。
何方にしてもその情報将校は女性であり漢縁の國地で活動をするならば
回りに良くと馴染んだほうが都合もよくなる。漢縁の民は総じて早婚でもあり離婚を繰り返す傾向にもある
兎に角も適齢である女性情報将校が漢縁の地で活動するなら回りから疑われなく活動するには
形だけの結婚を成して置くほうが都合が良い。
つまりは現地で情報収拾に当たる女性将官の偽装の為の結婚であると且来は結論つける。
「云々。きっとそうに違いない。
否然し・・・初めて会う女性に形だけとの夫と言っても
まさか海老黒胡麻饅頭だけでは、ただの食いしん坊と思われ嘲笑われるに違いない。
此処は何か喜んで頂けるものでも容易すべきであろう」
すこしは倭男児としての心意気を魅せようと駅前の広場の辺りを見回すが
露天の食べ物は覗けば分かるが店の看板の文字は全く読めない。
そこで且来はきすびを返し露天に戻ると揚げ焼売の屋台を覗き一皿買い求める代わりに
女性主人の耳に輝く耳飾りを指差し辞書を捲ってなんとか自分の言いたいことを伝え
やっとの事で宝石店が何処に有るかと聞き出す事に成功する。
尤もそこでもまた揉める。
揉めると言うよりは國違いの場所で上手く会話する事の難しさを思い知らされる。
光り輝く宝石と加工品の前で気難しく構える店主に結婚指輪が欲しいと伝えるのは
さほど難しくはなかった。其れらしい品物を指で示せばいい。
次にぶつかったのはそのサイズだ。
且来は指定された新居で待っているであろう妻となる女性の指の太さをしらなかった。
はてどうしたものかと散々首を捻った挙げ句近々に接した女性の細い指を頭に浮かべ
大体にこれくらいであったろうと自分の指で輪っかを作ってその場を凌ぐ。
且来はそれで難を逃れたおもったが宝石店の店主の商売眼は確かなものである。
結婚指輪を買い求める倭之御國の軍人と成ればそれだけでは男気が立たないと知っている。
次いでに懐も重いであろう事も。宝石店の店主は求められた結婚指輪を少し大きめな箱の中に納める。
それをこれ見よがしに且来の前に差し出してくるが其の箱には結婚指輪と対と成る耳飾りも収まっていた。
且来は困惑する。言葉が通じなかったのか誤解を生んだのか?
求めたのは指輪一つで有るが納められた箱の中には指輪を対のデザインと成る耳飾りも収まる。
まるで当然これも買いなさいとでも言うように商売人らしく蛸が膨らむ指で算盤を弾き
それを且来の方へと向けてくる。値段交渉は万国共通であればこそ恐らくは指し出された算盤を
且来が弾き次に主人が弾き妥協点を互いに探るのがこの土地の習わしなのだろう。
且来はその玉を弾かなかった。算盤の球数が故郷の物と違うとか最初から分からないからとではない。
仮にそれが偽装であっても結婚の契の印となる品を此処でにぎってしまうのは
倭男児の恥であると見知ったのである。その場に妻となる人物が居なくてもである。
確かに且来は渋く顔を顰め腹が出始めた頃からの悪い癖で自分の腹を数回なでまわした後に
黙って云々と頷く。寧ろ当惑したのは店主である。昼過ぎにひょっこり店中に顔を出した
大きな鞄を一つもつやたら腹のでぱった倭の軍人が妻の為に指輪を求める。
妻の指輪の大きさも指で示したとなれば港に付いたばかりで漢縁の言葉は苦手らしい。
少しばかり商売に欲をだし指輪の他に耳飾りも一緒に箱に詰め示し
幾ら懐が温かいであろうとも算盤を互いに弾いて値段算段は当たり前である。
算盤の使い方が分からないのだろうかと思ってみたが
しばしの間其の玉を覗き込んではいたものの。云と頷くと軍証書に算盤の金額を万年筆で刻み
ひらりと卓皿の上に置いて来た。漢縁の國では一度客が店の卓皿の中に金銭を置いたら
それは店の金となり客は手を出さない。代わりに店は商品を必ず渡すと言う仕来りがある。
自分が商売に欲を出し当然値切られる事も予期して指輪と耳飾りを合わせて詰めた物の
個の軍人はそれを定価で買うと言い切るのである。
少々所がかなりの儲けを生む取引であると商売人としてはほくそ笑む主人であるが
大きな体で指輪と耳飾りの入った箱を受け取り胸奥に大事そうにしまうと
これで男児の面目は立ったと誇らしげに腹を出し背筋を伸ばし店をでていく軍人姿を
目で追う主人であったが手元に残った軍証書を暫くの間換金する事は出来ないと成る。
雑多に漢縁の人々が行き交う住宅街の街角。
独特の民族衣装に身を包み童が奔り声を張って奔る。
昼もすぎた頃であると言うのに達並ぶ家々からは美味しそうな香りがまだ登る。
小童を叱る妻の声が吠えれば長い拍子を唄い物売りが歩いて来る。
且来が玄関とその前に立つ家は他のそれよりも二回りほど大きい。
軍の活動も兼ねると成ればそれくらいは当然なのだろうか。
且来は海老黒胡麻饅頭と揚げ焼売が入った手土産の他に大きな花束を抱える。
何しろ且来は嫁を娶った事がなかった。異性と交際したことは数度と合っても
芸の道に身を投じてからは真剣な物とはどれも縁遠くもあり
倭之御國の作法にも漢縁の國の仕来りのその何方も良くとは知らなかった。
咥えて自分の容姿は美男とは言い難い。
軍事の命令となれば個人の意志は関係と一蹴されるとしてもである。
それが偽装であると違いに理解しているとしても
少なくてもこの家を拠点とし暫くの間であれそうでないであれ寝食を共にする相手が
余りにみっともなく腹の出た漢が相手では妻を演じる女性の心も削がれるでもあろう。
好きになって貰えるとは思わず。精々なんとか嫌われぬよう。
最初の印象位は良き物にしたいと言う且来の足掻きとも言える行為である。
「たのもぉ~~~。御邪魔する・・・」
倭之御國でも随分と古臭く成り殆ど誰も使わなくなった挨拶を高々と喉から絞り出し
何処か懐かしい作りの家屋の引き戸をガラガラと開け中へと脚を運び
軍礼儀として腹がでっぷりと前に出るのもまわずに敬礼する。
「本日。一丸二十九分。
小生。且来素子軍曹。陸軍特殊任務。
嫁を娶って幸せに面倒見つつ女装家大作戦の為、着任します」
去年とその前迄女装家として漫才師として活動していた且来は今日から女装家軍人として
任務に励む事になりその第一声を高らかに上げる。
それを受けての事だろう。
外観こそは漢縁作りの屋敷であるが其の中は且来にも馴染みやすい田舎倭作りの
土間上がりの廊下の床上に三指を付いてじっと待っていた女性の姿が目に入る。
主人の帰りを待つ新妻の仕来りの一つで確かにあるが着込む衣装は漢縁の物だ
極彩色の色と模様の布を頭に巻き一切の髪の毛を隠すのは漢縁の女性の仕来りだ
生活の影響がない限りずっと髪を隠す。水浴びや風呂。寝所の中愛する者との夜伽
それ意外の殆どは一切の髪を隠すのが礼儀で有りこの地に根付く宗教概念のそれから来ると言う。
玄関に直立する且来の視界の中では固い廊下の上に三指を付くと言う女性の姿勢はその姿を
はっきりと区別することは出来ない。当然である
「欢迎回家。我亲爱的丈夫。我们一直在期待着你。
我是你的妻子,八条尾巴的狐狸。
从现在起,我们将作为丈夫和妻子一起生活。请照顾好我们
(おかえりなさいませ 私の愛しい旦那さま。お待ちしておりました
私が貴方の妻八尾狐です
これから一緒に夫婦として暮らしていきます よろしくお願いします。)
後二十弐秒遅ければ着任時刻に遅刻するところだったな。このおでぶ」
ゆっくりと三指を付く行為から倭女性特有の仕草で姿勢を正し
これもまた緩やかに微笑みながら夫を出迎えつつも数日前に耳に聞こえた罵倒の言葉が投げつけられる。
且来素子軍曹は絶句し言葉を失い直立したまま半分気を失った。
「どうした?且来素子軍曹。
私が御前の妻で在る事が不満であるのか?私の美貌と乳房が不満とは何事であるか?
もしかして貴殿は貧乳趣味なのか?事前調査書には確かに大きければ大きほど好みであり
女の背後から乳房を絞り上げ嬲るのがやっぱり大好きな変態と記載されておったぞ。おでぶ
そんなに私が妻で在るのに驚き不満か?今更返品とか変更とか出来ないのだぞ。
私が御前の妻である。文句があるなら言ってみろ。この乳搾りおでぶ」
「滅相もありません。少々意外で驚いただけであります。少佐殿。
否。猫拍子八尾狐少佐殿。貴殿を妻に迎えられる事は且来素子生涯の幸運で御座います」
正月三日に且来を原隊陸軍に強制招集したばかりがおでぶおでぶと連呼し罵倒した挙げ句も
其の後に且来が苦手な船に七日も押し込め更に二日もと余計に手間を掛けて移動させた理由が此処で分かる。
おでぶおでぶと連呼しつつもはっきりと説明もせずに猫拍子八尾狐少佐は恐らく車を奔らせ
空港に向かったのだろう。且来が船酔いに苦しんでる間に自分は倭之御國の空港から漢縁の國へと
直行便で飛ぶ。其の後は若干の時間を移動に当てても態々と遠回りを強いられて到着する且来と
外見ばかりは漢縁作りの屋敷で準備を整え指定した時間の少し前に廊下に三指を付いてじっと待つ。
時々突拍子もない作戦に無駄に経費と手間を掛けて兵士を弄ぶ陸軍のこの上ないおふざけで在る。
「云々。私のような絶世の美と四肢を持ち文武両道な嫁を娶ったのだ
一介の職業女装家の御前にしてみれば天にも登る心持ちであろう。
それに女性の乳房を絞るだけが能ではないようだ。
妻に紅白の薔薇束を送る漢儀は礼儀として当たり前であるし。おでぶのくせに
私の好物海老黒胡麻饅頭と揚げ焼売の匂いがするぞ?
ちゃんとお変わりと侍女の分もあるのだろうな?
何?そこまで思いつかなかったと?この馬鹿おでぶ。御前が我慢すれば良いだけだな。
駄肉が減って良いではないか。
それにいつまで玄関で敬礼してるつもりだ?自分の家なんだから夫らしく堂々としろ
さっさと上がれ。このおでぶ。」
人は極度の緊張すると自分でもよくわからない行動を平然と取るらしい。
御前の妻であると言い切り次いでにおでぶと罵倒しつつも八尾狐は丁寧にそして優雅な手付きで
且来を家屋の奥へを招き導く。もっともその間且来は一度上げ敬礼とした手がこわばり
下ろすことは到底出来ず。後に思い返しても人の体と言うのは時に自分の意志ではどうにもならないと知る。
畳作りの居間に通され促されそれも又、態々と御國から取り寄せたのであろう座布団に座る。
対面に膝を折って自分の嫁八尾狐と向かい会うのは良いがその端正な顔と豊満な体に
魅了されてしまい視線が動かなくなる。
障子扉がすっと開き女性姿が目の隅に映れば先程聞かされた侍女であろう。
軍事任務の遂行が任務となれば嫁としての仕事はおろそかに至る。
きっとそれを彼女が補ってくれるに違いなくもすすめられた茶を一気に呑み込むとやっと少し楽になる。
「侍女の紹介は後にして。まぁ立会いも兼ねてではあるが
ほら。おでぶ夫。先にしなかればならない事が在るだろう?」
長い睫毛を揺らし細い目をさらに細め八尾狐は且来を睨む。
先にしなければならない事と聞き未だ状況に頭が付いてこない且来は
手土産の揚げ焼売の包を解こうと手を伸ばす。それを脇に座る侍女が指で制する。
「焼売よりさきに摺るべき事があるだろ?このお馬鹿おでぶ。
焼売は焼売でちゃんと頂くぞ。好物であるからな。
そのまえに夫婦としてやるべき事が在るぞ。このおでぶ」
どうしても言葉の中間と末尾におでぶと言う単語は必要らしい。
それでも且来は合点が行かずと頭を撚る。
「戒指。
标志着丈夫和妻子之间联系的戒指。你会在我胸前的口袋里找到它。我花了半年的工资买这个戒指。
指輪です。夫婦の契りの証の指輪。胸ポケットにはいってるでしょう?
給料半年分払って買った指輪です」
漢縁の言葉の後に且来にも分かるように倭言葉をつけ加えて侍女が耳元で教えてれる
それにどうやらこの侍女は空気を読まない癖があるようでもある。
且来の対面を保つもするべき事を教えてくれるのは良いが給料半年分と言う所だけは
態々と八尾狐にも届くかとのように大きめの声で告げてくる。
なるほど合点が言ったとばかりに頭の中で手の平をポンと打ち鳴らし
「失礼しました。八尾狐少佐殿」と漏らせば
「你可以在那里把他读成一只八尾狐狸。像一个丈夫。
そこは八尾狐と読んであげて下さい。夫らしく」と侍女が耳に囁く。
「失礼。八尾狐・・・」いつもよりも意識して声を太く喉しぼって何とかやり過ごし
軍服の胸奥から随分と高い買い物である結婚指輪と耳飾り箱をの取り出し蓋を開け
八尾狐にも見えるように差し出して見せる。
陸軍基幹情報少佐であるとしてもやはり女性である八尾狐は心の奥に驚きと嬉しさを宿す。
表面上こそは心の内を気取られないようにと箱の中から指輪を摘む且来の手をじっと見つめ
顔に浮かぶであろう表情をひた隠しに誤魔化しもする。
且来が摘む指輪の側に八尾狐がそっと細く白い手を差し出しそれを且来の手と指が支える。
且来と八尾狐。夫に成る者と妻に成る者。その二人に取って時間がゆっくりと流れてるかに思えるも
実際に八尾狐の指に妻である証の指輪が嵌めて括られるのは一瞬で在る。
「谢谢你。 你。我现在是你的妻子。(有難う。貴方。これで私は貴方の妻です)」
且来には伝わない漢縁の言葉で礼を告げるとも任務ゆえの演技とは到底思えぬ女性らしい仕草と
笑顔で嵌められた指輪を逆の手指でそっと撫で八尾狐が微笑む。
続いてと成れば少々苦労したものの八尾狐の耳に侍女が耳飾りをつけて上げる。
「嵌めてもらった指輪は確かに嬉しいのであるがこれは私の立っての我儘でな。
知っての通り倭之御國の風習であるし漢縁の國の儀とは違うのだ。
御前に私から送るのは五色の括り紐一本と成る。
これを互いに送り合うのがこの國の習わしである。まぁ簡単に作れるしな。
聞いているのか?おでぶ夫様。聞こえて居るならさっさと腕をだせ。おでぶ。」
そうは言われても結婚を示すものであれば右を出せば良いの左なのかと迷えば
後に词语と其の名を知る侍女が左肘を小突いて教えてくれた。
無骨にも突き出した且来の手首に極彩色の編み紐が結ばれる。
「これで互いに夫婦となったわけだ。おでぶちゃん。
私は家事と掃除は一切ないしないからな。御前と侍女に任せるぞ。
今日は兎も角。朝に出かけて夕飯までは軍務に励む。
それにまだ作り掛けの屋敷ゆえ風呂場がせまいから一緒には入れない。
覗きたいのはわかるが覗いたらしゃもじでその出っ腹百叩きの刑だぞ。おでぶ夫様
寝室は一つだし一組の布団しかないから一緒には寝てやる。仕方なくだぞ。
この後にも仕事があるから出かけるが。先ずは海老饅頭を頂いてからだ。
数がたりないなら御前は我慢しろ。駄肉おでぶ」
しとやかに新妻らしく微笑んでいたのはそこまでだった。
簡素で在るのだろうが結婚の儀を形だけ済ますと八尾狐は堂々と宣言する。
結婚生活を送るにあたっての条件とでも言うのだろうか?
家事も掃除もしないし軍務もあるから貴様等がそれを担え
風呂は覗くな。覗けは拷問。
一緒に寝るのはいとわずとも下手に手をだせば・・・わかっておろうなとでも言いたげである。
(それにしても。夫様は何故私の薬指のサイズを知っていたのだろうか?)
(通りは尾行出来ても店中には入れません。事前に盗聴器を仕掛けてあったにも
関わらずず拾えるのは音声だけですし。サイズに関しての言及はありませんでした)
(御館様に惚れているのですよ。愛の成せる技ですね?)
(云々。何せ私の美貌と四肢に夫様はべた惚れだからな。むふふ)
且来が手土産に持ち込んだ海老団子と焼売をいささか不公平に分けて小皿に乗せ
茶と一緒にすすりながら館の主を務める八尾狐と侍女二人にだけ通じる漢縁の言葉がやり取りされる。
人一倍欲張りで食いしん坊の且来の小皿の上には一個の焼売の半分だけがちんまりと乗る。
それを一杯の茶で胃に落とすと新婚初日の言わず一刻も十分にすぎてないのに
新妻どころか二人の侍女の尻に敷かれる嵌めになろうとはこれは随分苦労しそうだと
且来は胡座の上に手を突きガックリと項垂れ頭を垂れた。
軍務が残っていると告げた八尾狐は焼売の汁油を拭紙で拭い見た目の良い唇の上に紅い紅を指し
且来の方に態々と顔向けて微笑んでから身支度を整え軍務の為に出かけていく。
「改装中だから風呂の床が抜けるかもしれん。御前の体重が重すぎすぎてな。くくっ
今夜は遅くなるからひとり寂しく夕飯を腹に納めて寝てるがよいぞ。おでぶ夫様」
極彩色の頭巾と衣服を纏い。一般的な女性より遥かに大きな乳房に態々手を添えて注意を引くも
言葉の端にはおでぶと蔑み言葉をつけてなげよこす。
八尾狐という女性に過去に惚れた漢共はよっぽど鋼の意志と根性を持っていたに違いない。
新妻となったのが嬉しいのかそれとも腹に納めた焼売の数が且来より多いのが楽しいのか
心なしか軍詰所に向かう八尾狐の胸と尻は昨日より大きく揺れ愉しげであった。
八尾狐付きの侍女・词语と春欄にきちんと挨拶をされ且来も返礼する。
褐色の肌から推測すればやはり二人は漢縁の國の民らしい。
その日は且来の頭の中は終始ぼんやりと霧がかかって居たのかもしれない。
軍服から漢縁の男児衣装に着替えしばし屋敷の中と庭を案内され
夕飯は結構に豪華であった飯の米が少々パサパサで食べにくく
改築中であると言われた風呂も檜作りで結構大きな体躯の且来が脚を伸ばして
使っても十分な広さのものであるとは知れる。
旅の疲れを成れぬ結婚の初日であれば流石の熊漢も早めに床に潜り込む
深夜遅くに純白の寝巻きを羽織同じ布団に潜り込んできた八尾狐の背の暖かさを
感じはするものの強く微睡む意識のなかではその暖かさも消えて溶けて行く。
無理な長旅とそれまでの人生と大きく変わった環境への戸惑いを疲れは
たった一晩の睡眠では宥める事は出きなくとも
朝食の席で振る舞われる温かい飯と新妻の笑顔はやはり精機を与えてくれる。
「今日は先んじて役所に届けをだしに行く。おでぶ夫。
え?自分も行くのかと?当たり前であろう。我が且来家の家長は御前だぞ。おでぶ夫様
貴殿がいかないくてどうするんだ。何?いい加減おでぶと呼ぶのはやめてくれだと。
それは無理だな。でぶでぶおでぶの夫様。大体百を超えて五キロも在るくせに
それがでぶ意外の何者で在るというのだ?
お陰でこちらは風呂の改修までしてやってるのだし。軍服も漢縁の服も特大サイズの特注品だぞ。
シュっとしろとはいわないがもうちょっと腹が減っこむ様に運動の一つもする気になったらどうだ
でぶでぶおでぶの夫様。・・・あっ。アタシにもご飯とお漬物のお替り頂戴な」
新婚であればそれなりの手続きもたしかに必要であろうが勝手も解らぬでぶの夫が
ついていっても何が出来るだろうと心に浮かぶ言葉をぐっと我慢し且来も4杯目の飯をお替りする。
お屋敷とまでは行かないにしても少しは大きな家の敷居を一歩跨いで外に出ると
八尾狐は見事に新妻を演じて魅せる。
倭之御國の習わしでは妻は夫の後を弐歩下りて・・・と言われるが
八尾狐が習うのは漢縁のそれとなり常に且来の左側を付かず離れず小さく半歩送れて歩く。
道行く近所の顔見知りには気さくに声を掛け遠地から帰って来たばかりと夫を紹介する。
良くも解らず漢縁の言葉であればこそ。其の後こっそり耳につぶやかれる。
どうやら八尾狐は壱年ほど前にこの地に入りその後しばらくしてあの家に住み着き
近所には弐年ほど前に腹の出た夫と結婚していたがつい先日やっと遠地の戦場から帰ってきたと
言う設定でとおしているらしい。なるほどなるほどと頷く且来であるが
近所の顔も知りの間で其の出る旅に腹の出た夫とかおでぶの夫とか散々言いふらしていたらしい
道理で紹介を受け頭を下げる度に相手は且来の顔より先にでっぷりと出た腹に視線を送り
妙に納得してうなずくはずで在ると苦く嘲笑わずには居られなかった。
結婚届けの役所への提出はつつがなく終わる。
且来家と改めて言われてもピンとこない頭の中でも。慎ましくも丁寧に新妻八尾狐の手を借りて
いざ。婚姻届けを役人に手渡すと結婚したと言うよりはこれで後がなくなったと
どこか不思議な気持ちが湧き上がり気が引き締まる思いが且来の心に渦巻く。
それも又つかの間の感傷であり直ぐに現実が押し寄せる。
「おでぶ夫様。午後の勤務の前に腹ごしらえと行きましょう。
その後は私奴は詰め所に参ります故に。後はぶらり街の散策等なさると良いでしょう。
私の愛しい・お・で・ぶ・さ・ま」
そもそも愛しいなどさもあらん。最初から無理に押し付けた偽装結婚であるはずで
愛しいの後にお・で・ぶ・さ・まなどと甘声を鼻にかけて言われても
それで怒らずにいられるかと憤慨した心根が聞こえたのだろうか。
八尾狐はにこりと微笑み細い指を初めて且来の指に絡めとたとたと嬉しそうに
饂飩屋の方へと手を引き小走りに歩く。
傍から見れば特に饂飩屋の主人から見ればあの夫婦は何者であろうと頭を悩ませる。
確かに漢縁衣装に見を包む二人連れの男女であれは夫婦にも見えるが
主導権をにぎる婦人の肌はしっとりとした白肌であれば間違いなく倭之御國のものであろう。
席となりに座るはぱっと見ではわからない。肌の色は褐色にも見えるが日焼けにも見える。
大体にして総じてスラリと背が伸びる漢縁人の漢があんなに横に広がるはずもない。
倭之御國の者が事情秘めて漢縁人に成りすますのも珍しくもない。
それにしてもあの二人の腹には穴でも空いてるのだろうか?
最初こそ普通にずるずると美味しそうな音を立て倭仕込の饂飩をすすると思えば
直ぐに婦人が手をあげ丁稚を呼び止め漢縁言葉を匠にお替りを注文する。
その直後に日焼け肌の夫が顔を巡らせ注文板の一番右を指で指す。
それから後は厨房に二人からのお替りと新たな注文が怒涛に飛び込む。
あっという間にあの二人の卓には二杯・参杯・四杯・五杯と啜って食べた後の椀が重ねられ
それが十を超えても止まらずとなれば二人合わせて都合二十と九杯の饂飩が平らげられる。
日焼け肌の夫の腹は見事に膨らむが負けずと椀を重ねた妻の腹はぺったんこであるから
やっぱり胃に穴が開いているに違いない。それも結構大きな穴だろう。
店に入った時の夫は妻に手を惹かれ鼻の下を伸ばすが何処か不機嫌の様子であったが
腹に詰め込んだ饂飩のせいで機嫌もよくなったのだろう。
しっかり正しくと饂飩の代金を現金で払い。息も絶え絶えに厨房で座り込む料理人に
恐らくは旨い饂飩を馳走になった。通わせて貰うと倭言葉で礼を言い。
深々と頭を下げて先に道行く婦人を追いかけ店をでていく。
更にと言えば。倭之御國の夫婦二人が店を出た後。
厨房で座り込む料理人達は皆腕が痺れ手が上がらなかった。
つまりは饂飩の湯切籠を持つことが出来ずその日の饂飩屋は半休となる。
ぶらり街の散策等なさると良いでしょう。・お・で・ぶ・さ・ま
自分の妻八尾狐に言われた其の言葉にはそれ相当の意味が在ると
たらふく喰らった中身が全部饂飩の出っ腹を撫で回し且来素子軍曹は睨んで思いを巡らす。
まず第一に何故且来素子軍曹なのか?それが且来の本名とは違えていると言うのは棚上げとする。
軍曹は軍曹であるから軍務をこなす必要がある。
上州自治國に差別迫害の対象にされる人々に
愛と勇気を与える女装家として活躍して行くものと命ず。
妻を娶るのが命令であるがそれとは別の命令となるのが
個の漢縁の自治区にて生活を営む差別迫害の対象にされている人々を救い希望を与えろと
きっちと又もはっきりと明言されている文言であるならば。
倭之御國が統治する自治区に置いて実際に差別と迫害が起きて居ると言う事だ。
勿論。統治に反対し声を上げる者も居れば、実際に徒党を組んで拳を上げる者も居る。
影で良からぬ密談を繰り返す抵抗組織もちゃんとあると聞く。
それは先ず横に奥として
倭之御國帝国陸軍の将兵共が領地の民に拳を上げる事はない。
それは帝国陸軍元帥直々に厳命されている事である。
暴動や戦さなどで武器を手に持ち握り掲げ陸軍将兵に仇を成すなら話は別だ。
それらには己等の命を投げ出しても必ず相手を仕留めるのが陸軍将兵で在る。
武器を置いたものに自身の片腕を切り落とした相手にも情けを掛けて肩を叩き
捕虜になった者にさえ手枷脚枷を嵌めもせず丁重に扱う。
元より武器を持たぬ平民に拳一つ上げること等、帝国陸軍の恥さらしと仲間に罵られる。
それも又、本国の世間世情の中でも差別迫害は人殺しと同等に扱われ極刑に至る事さえある。
熟考を重ねれば帝国陸軍将兵が漢縁の民に差別迫害の矛先を向けないと知るなら
それは漢縁の民の間でおきているのであろうし。それは同族の同族への差別迫害と成る。
翌々考えてみれば自分の嫁は生まれこそ倭之御國のそれであるが
十分に漢縁人にと染まってもいる。良くその性格と特性になじんでいると言えば良いのだろうか
彼等の世間世情では声を上げ主導権を握ろうと摺るのは女性が多い。
結婚・離婚に付いてはそうであり男女の営みもそうであろう。
あの列車ですごした二日の間。同室となった夫妻の関係と婦人が教えてくれた諸々の話は
確かにそれを裏付ける。
それも又どこかで聞いた話であるが大陸の漢縁人のおよそ6割の人々が
揉め事は暴力で解決するのが良しと普段から考えているらしい。
たとえ揉め事の原因が自分に非が在るとしても取り合えす大声をあげて相手に殴り掛かっておけば良い。
運良く拳が相手の急所にあたり倒れたら。それ見たことが自分が正しいと鍔を吐いて逃げれば良いと・・・。
確か牧歌的で温厚な生活の人種で合ったはずと思えどもどうやら一度、激情すれば
見境なく拳を振りあげ、其れが手近に握った包丁と成れば殺傷事件も多々とある。
そんな人々の差別迫害の矛先が弱者に迎えば悲惨な結果になって当たり前だろう。
饂飩で膨らむ腹を撫で回しながら且来は歩き回る。目印にするのは屋台である。
最初こそ観光と倭軍人で賑わう屋台市場を歩き回り
次に目ざずのは漢縁の人々が何時も使う屋台。主婦が夕飯を買い求める店と屋台。
労働者が仕事の合間に摘みを売る屋台。
奥まった迷路路地の更に奥の貧相な屋台。その先には・・・
段々と屋台の数が少な成って行き。その店先に上がる食品も何やら得たいの知れない肉と成り
やっと目当ての貧民街にたどり着く。
それでもそこは人気が多い。どこから流れてくるのか且来と同じような少し小綺麗な
民族衣装を着込み腰帯布を手に握り目を光らせ物色する漢達がうろうろ歩く。
目配せして色目を使うのは当然娼婦相手であればこそ。
且来が脚を踏みいれたのは上州自治区でももっとも貧相な娼婦街である。
且来は心の中でこれは中々面白いと苦く嘲笑う。
娼婦街と言ってもも元々はちゃんとした商店街だったのだろう。
横と立てに交わる大きな通路を軸として今は閑散閉店となった店の前に
色彩豊かな天幕がずらりと並ぶ。朱もあれば黄色もある。蒼があれば黒もある。
一つの天幕の前に一人の娼婦が立ち前の前を通りあるく漢に声をかける
体をくねらせ値段が決まると客となった漢の手を引き天幕の中へと誘う。
その中で情事を営むわけでは有るが。
それにしてももう少し包ましやかに出来ないものかとも且来は思う。
情事であれば声が漏れる。女がよがり喘げば漢が猛る。
娼婦であれば其れが演技であれでもなおさら大げさに成るだろう。
薄い天幕の中で声を上げれば回りは良く聞こえる。
これが夕暮れや夜ともなれば天幕の中に灯りがともされ
体を重ねれば営む格好が影絵を移し出される。
幾ら金で娼婦を買うと言っても他人に猛る自分の声を聞かれたり
腰を振って猛る姿を他人に影絵に観られても平気とは漢縁の男女は節操がないのであろうか?
且来顎を撫で少々不安にも思う。
妻を迎えたばかりの且来はその日娼婦街の天幕の列の前を横切らず
入り口にある得体の知れない肉をうる屋台の側に立って待つ。
特に何を待つという訳でもないのだが次に何が起きるのを見極めたかった。
それでも時折、手暇な娼婦がちらりちらりとこっちを観たり
天幕から離れているのに態々と歩いて寄ってきては視線を送り
くるりと体を回し小走りに自分の天幕に戻る娼婦の尻を眺めていた。
豊満な四肢の娼婦達を暫く見つめていると
隣で肉を売る屋台の痩せこけた主人がゴソゴソと手を動かす。
目の隅でそれを追いかけると売上を入れる箱に手を突っ込み半分ほどを
自分の靴の中にしまい込む。且来に気づかれると口元に指を当て
黙って居てくれと頼みこむ。
途端に娼婦街の反対側から人影が現れ娼婦の態度が固く膠着する。
空気が嫌な形に塊り怒声と拳が振り上げられる。
余り大きくない娼婦街の広場の天幕の間を肩で風をきり闊歩するのは
腰に黄色い腰巻きを一応に皆巻き付けた三人の漢達だ。
真ん中で加え煙草を摺る奴が仕切り役。右と左の漢達は集金係だ。
直ぐにそれと分かるのは次々と娼婦達のところへ歩み寄り顔の前に麻袋を突き出す。
娼婦達は嫌嫌ながらにその日の売上の大半を麻袋の中に入れる。
その日食べるだけの小銭は許されているらしい。
得体の知れない肉を売る屋台の親父が売上を靴の中にしまい込んだのは弱者の知恵だ。
売上を誤魔化そうとする娼婦は遠慮なく漢が殴る。
余り人気のない娼婦も漢は殴る。逆らい暴れる娼婦にはもっと余計に殴り鍔を飛ばす。
テントの中で仕事中であっても潜り込み娼婦の売りあげ所か客の財布を奪い取る。
其れがすむまでの結構長い時間の間。咥え煙草の漢は自分が贔屓の娼婦を無理に犯し
自分だけが楽しみ逆らえば暴力に訴える。
なるほど。これが漢縁自治区の裏の顔と言うわけだ。
あの黄色い腰巻きの男達は平然と同胞の女達に拳をあげ弱者から搾取してるらしい。
なるほどなるほど・・・これ又なるほどで有る。
贔屓の娼婦の愛撫が良かったのか単純に腰でも痛めているのだろうか。
たっぷりと時間を掛けてと言うわけでもなく咥え煙草の漢は天幕から
出てくると手下の方をみやり顎をしゃくる。
其れが合図でも有るかのようにたっぷりと膨らんだ麻袋を後ろ手に持って頭領のろ頃へやってくる。
「すまないが少し話をしても良いだろうか?
儂は漢縁の言葉が話せないのであるが・・・貴殿は倭之御國の言葉を話せるだろうか?」
且来は頃合いを見計らい何の肉を売ってるか分からない屋台の主人の側を離れ
小さくも蒼白い天幕の前に蹲る痩せて背中に傷の有る娼婦に声を掛ける。
「はい。旦那様。私は以前。港で売り子をしてました。
倭之御國の方々に随分と情けを掛けていただきました。何なりとお申し付け下さい」
「ふむふむ。では其の恩を少しばかり儂に返して貰うとしよう。
先ず。あの屋台の痩せた親父が売っている肉は何の肉だね?」
「はい。旦那様。笑平の親父さんが売っているお肉は犬を捌いて焼いたものです。
・・・此処では鳥のお肉とか豚のお肉とか手に入りません。
一番上等なお肉が犬の肉です。・・・それでも食べられるだけマシで御座います」
「なんと・・・驚いた。此処では一番上等な肉が犬を捌いた肉と言うのか?
ふむ。それも稼ぎによっては皆が食べられる分けではないと・・・」
「はい。旦那様。おっしゃる通りで御座います」
まだ新しい布の香り漂う漢縁の民族衣装を無理に着込んでいるとしか思えない巨躯の漢に
突然話しかけられその背に傷を持つ娼婦・小鈴の事は段々を小さくなる。
正直言えば巨躯の漢がこれ以上言葉を綴らないで欲しいとも願いもする。
なぜなら直ぐ近くまで黄腰犬党の三人組が歩いて来てるからだ。
このままでは自分が殴られる。彼らに鞭打たれまだ痛む背中の傷が痛みだす。
痛みが激しくなり身を固めるも巨躯の漢の野太い声は聞こえない。
態と黙っているのだろうか?
下を向いて視線をずらす小鈴の目の中に巨躯の漢の拳がグイっと塊と成る。
あの大きな拳で殴られたらきっと顔を潰れしてしまう。
眼の前に居る巨躯の漢が自分達娼婦の味方で有る証拠はない。
むしろ黄腰犬党より達が悪い輩かも知れない。倭之御國の者にも悪漢は居る。
その時。案の定。むしろ自然とそうなるで有ろうと異様に
ドスンと大きな音が小鈴の耳だけでなく辺りの娼婦にもちゃんと聞こえ得る。
地面に情けなく転ろがったのは明日の集金の時にどの娼婦の天幕に潜り込もうかと
娼婦の尻を物色していた黄腰犬党の咥え煙草の頭領で有ろう。
普通なら直ぐに立ち上がりそいつ自身が金切り声をあげるか
回りの二人が怒声を威勢よくぶつかった相手に啖呵を切るかであろうが
その何方も出来ないで居る。
咥え煙草の頭領が見上げるのは山とそびえる腹の出っぱった巨躯の漢。
その山が動いた。其の山の脚が振り上がる。
山の脚は巨木でありドスンと音が成る。
動いた山の脚が着した場所は幸いにも転んで偶偶広がった自分の股間のその間。
然しその地面に山の脚はしっかりと喰い込んでいる。
まるで何もなかったように山の脚が動くとそこにはくっきりと山の脚の形に地面が凹む。
「儂は漢縁の言葉は慣れずしゃべれずである。
・・・すまんがこいつに分かる言葉で伝えてほしい」
あまりにも突然の事で恐怖に怯えながらも小鈴は身を屈めコクコクと頷く。
「箸の一本転がし動いたら貴様の急所を腐った柿の如く潰してやる」
小鈴が訳す言葉が届く。倭言葉の独特の言い回しであれば咥え煙草の漢には伝わり難い
それでも山の漢が言いたい事はよく分かる。
ちょっとでもその場を動いたら股間を踏み潰すと山の漢が言い放ったのだ。
其れが本気であるとくわえ煙草の漢は悟る。
一瞬も立たずに娼婦のその日の売上を詰めた麻袋がどさりと脇に堕ちたからだ。
巨躯を誇り腹の出た倭之御國の漢は疾い。岩塊如くの拳が唸る。
疾風纏いて右に唸ると手下の顔に直撃するとそいつの顔にめり込み潰れる。
返す刀で力を蓄え再び岩拳が吠えると逃げ出す手下の脇腹に喰い込む。
ぼきりと鈍く骨が確実に折れる音が皆に聞こえ痛そうに誰もが脇腹を抑えた。
右と左にと拳を振っただけで手下二人を屠った巨躯の倭之御國の漢。
彼はのそりのそりと動くなと言い渡した咥え煙草の漢に近づき顔を覗き込む。
そこで自分が漢縁の言葉を話せない自分を思い出しさっきの娼婦を指で招く。
山の漢は頭領の頭と顔を太く大きな手で何回も撫で回しながら
「今日の所はこれで勘弁してやる。だが明日もくれば話は別だ。
この辺でお前と仲間を見つけたら。先ずお前等の家族を遣る。それから親族だ。
御前は最後まで殺さない。代わりに家族と親族を屠ってやろう。
そんな事出来るはずないとおもうのか?御前の人相書きがあれば良い。
後は役所の台帳を当たれば家族の名が分かる。それをなぞってひとりひとり遣れば良い」
山の漢は最後まで咥え煙草を唇に貼り付けて儘であるが、其の耳に届いたのは
余りに残酷な宣言である。運悪く山の漢は自分の顔を観て憶えた。
何処かの役所でその人相を伝え家族の名前と住所を割り出す。
要は二度とにもこの辺一体の娼婦街に自分が近寄れば家族と親族が殺される。
其れが出来ると言う証拠に自分は倭之御國陸軍・且来素子軍曹であると
小娘娼婦の声を借りて名乗る。
そして同時に顔に衝撃が奔った。
恐らく数日の後に気がつくと片目もよく見えず鼻も歪に曲がり口もよく回らない。
無事な方の目に移るのは鉄格子と軍服姿の見張りの立ち姿であれば
そこは牢獄であり罪人として捕まり顔の怪我も禄に手入れしてもらえないと諦める。
「さて。これで事が済んだが。腹が減ったな。
それに夕刻もちかい。遊んでいては嫁に怒られる・・・」
ちょっと前迄剛腕岩拳を振るった倭之御國の漢の背が急にしぼんだように見える。
何かと言うよりは誰かに怯えるように背を丸めたからだ。
それでも空腹には逆らえないらしくズタズタと脚を進め犬の肉売り屋台に近寄ると
漢縁の庶民さえ毛嫌いする犬の串焼きを買い求める。
それも自分だけではなく最初に言葉を訳した娼婦小鈴を側に招き串焼きを頬張る。
嬉しそうにと言うよりも何日も食べてない遭難者でも有るような勢いで食べる
小鈴に更に二本と振る舞うと屋台親父の顔をじっと睨んで言葉を吐き出す。
慌て喉を鳴らし犬肉を呑み込み小鈴が且来の言葉を訳して伝える。
「お主。この串焼き少し高くないか?娼婦達の僅かな金銭を巻き上げてないだろうな?
適正価格で真っ当な商売していると?本当だろうな?嘘なら殴るぞ?
儂が殴ると顔が潰れるぞ?
まぁ良い。さっきの麻袋の中身であるが。御前が皆に返してやれ。
一円一銭でも誤魔化してみろ。漢縁市場の闘犬の折りに御前を打ち込んでやるからな。
それから今日は皆に儂が奢る。これで足りるか?釣りはいらん。
御前の家族に美味いものでも食わせてやれ。泣くな。この馬鹿野郎。
こっちが恥ずかしいわ・・・あと、肉たれがしょっぱいぞ。甘たれしろ」
言葉を訳する小鈴もいつの間にか且来の野太い声色を真似る。
且来が睨むと小鈴も目を細める。存外に気の合う二人組にも観て取れる。
その日いくつもある娼婦通りの其の一つで娼婦たちが笑い跳ねて愉しげに声を上げる。
昨日まで意味もなく黄犬腰党の輩が売上の上前を跳ねてきたが
そいつ等はもう居ない。顔を潰され腹の骨を砕かれ又顔を張られた。
突然現れた倭之御國の御人は娼婦達の間で山の旦那と呼ばれる。
又、数日もすれば黄犬腰党の別の奴らが殴りに来るかもしれないが
少なくてもそれまでは殴られる事もない。
もう一つ不思議な事にそれから天幕の後ろで犬の肉を売る屋台店主の
愛想が良くなり暫くの間犬の串焼きがただで配られると言う珍事が起こり
それから又暫くして料金を取るようになっても日々の稼ぎで
十分変える値段に落ち着く事になる。山の旦那様々である。
歯に悉く詰まる犬の肉を平らげると意外にも早足で且来は着た道を戻る。
「旦那様。奥様がいらっしゃるのですか?」
「まぁ~~~。新婚なのです?」
「それも昨日届けを出したばかり」
「えっ?夕飯に間に合わないと怒られる?其れは難儀な事でございますね」
ズタズタと背を丸め歩く且来の一歩後ろを背中に傷を持つ娼婦小鈴がついてくる。
最初に旦那様と呼んでしまい。恩を返せと言われればやはり付いていなかくてはと
小鈴は急いで最低限の荷物を纏め且来の後を追いかける。
矢継ぎ早に飛んでくる質問に云々と且来は答え道を間違えると小鈴がそれを正す。
途中背中の傷が疼き歩を止めると且来が振り向いて様子を伺う。
山の旦那と聞こえた名の漢は見た目こそ無粋でみっともないが人の心は良くと知るらしい。
「少し休めば平気です・・・旦那様」と健気に我慢する小鈴の姿は痛々しくもあり。
それを放って於けば男児の恥と且来は頭を巡らし巡回に託けて屋台を覗き込む陸軍将兵を呼び止める。
「儂は且来素子軍曹である。
出で立ちこそ漢縁の物となるが。現在特殊任務継続中で有るので理解されたし
何?随分と腹の出た軍曹だと?失礼なっ。その口に娼婦街で買い求めた犬肉の口焼きを突っ込んでやろうか?
儂の身分を疑うなら猫拍子八尾狐少佐殿に確かめられよ。儂の嫁で有る。文句があるなら彼女に言ってくれ。
ふむ。要件であるが・・・。
こちらの御婦人は少々体に傷を負っているようなのだ。
手間と承知で頼むのであるが陸軍本部の軍医に観て貰えるように手配してほしい
傷が治るまで客人として扱い。その経過は数日事に我が家の使用人に伝えてくれ。
身元の引受人は儂で良い」
まず、且来が声を掛けた将校の位は若くとも軍大学を卒っし少尉の位を持っていたから
軍曹如きの且来の願いを聞き届ける事も無碍に断る事も出来た。
それでも且来が言葉を綴って行くほどに態度が変わる。
且来が特殊作戦といったそれは嘘か真か調べれば分かる。
太った且来が口にすれば何やら大げさに聞こえるし嘘っぽくもあるが
それが真であれば下手に足蹴にすれば自分の失態に直結する。
次にそれこそ何かの冗談にしか思えないが
この太った軍曹はあの猫拍子八尾狐少佐の夫で有ると豪語するのだ。
猫拍子八尾狐少佐がこの地に駐在しているのは知っている。
一度は陸軍駐在本部の廊下ですれ違いその美貌と乳房の大きさに視線が張り付いて剥がれなかった。
その猫拍子八尾狐少佐の夫がこのでぶでぶおでぶなのか?と頭の中で疑問符を三つ並べる。
兎に角も漢が飽く迄そう言い張るのなら確かめればすむ事であろうと少尉は無線機を握る。
陸軍駐在本部の無線部と何回か介し透き通るようで何処か肌を舐めるような声が無線機の向こうから成り届く
「且来八尾狐少佐で御座います。何か御用でもありますか?」
「じっ。自分は笹之葉蒲鉾少尉であります・・・実は云々・・・」
無線機から漏れる麗しくも可憐で濡れた声がまだ頭に響き酔いしれる。
「ああ・・・確か・・・本部の廊下で私奴の四肢を舐めるように視姦なさってた蒲鉾少尉で御座いますね。
その容姿の漢は確かに私奴の夫で御座います。少々でぶでぶおでぶですが。愛しいおでぶで御座います。
・・・そうですか。そのような事を所望しておりますのね。夫のしたいようにさせてあげて下さい。
万が一ひとつにも違える事が有るならば、いつぞやの視姦のお返しをさせて頂きますね。少尉殿。
・・・それから夫に絹の裏ごし豆腐を三丁買って来るようにお伝え下さい」
そこまで言うと無線機はプツリと切れる。
間違いであった。眼の前のでぶが言う事はすべて真実であった。
それを疑い手間を掛け八尾狐少佐に確認を取ったのかが失敗である。
若し万が一且来軍曹の願い事のその一つでも違えれば視姦ところではすまされない。
こんな自治区の警備等とゆるい任務なんてゆるされない。三日と立たずに銃剣をもたされ最前線に送り込まれるか。
懲罰軽くて男色の上官の制裁部屋に送り込まれ縄で縛られ尻穴にいろんな棒を突っ込まれるかの何方かだ。
「しっ。失礼した。且来軍曹殿。
自分は笹之葉蒲鉾少尉となる。無礼にもきちんと名乗らずに申し訳ない。許されよ。
貴殿の身分と特殊任務中である旨。しかと確認出来た故にそちら御婦人は預かろう。
任せたまえ。この笹之葉蒲鉾少尉が責任を持って軍医の元へお連れしよう。
怪我をしてるらしいから客人として私が直に面倒を観させて頂こう。
・・・だっ。だから奥様には寛大な御慈悲を頂きたくと。
それから奥様から伝言で有る。
自宅への帰宅の際に絹の裏ごし豆腐を三丁買い求めて来るようにとの事である。
良いか?絹の裏ごし豆腐であるぞ。絹ごし豆腐でないぞ。絹の裏ごし豆腐である。
間違うなよ。絶対間違うなよ。貴殿が間違ったら僕の貞操が・・・」
しばし呆然と話の先行きを見守る且来と小鈴の眼の前で
笹之葉蒲鉾少尉は何か後ろめたい事でもあるのかそれを又見透かされたとでもあろうなのか
よく解らずでも早口で且来を叱咤したかと思えば最後には情けない声で半泣きとなる。
たとえ自身の貞操を守る為とはいえ少佐に脅されたかもしれないが
軍務軍命とあれば責任を持つべきで有り且来にきちんと敬礼すると屯する部下を脚で蹴り
少々不安げな小鈴に先ずは怪我の治療を優先とばかりにその身を預かる事になる。
これでひとまず安心とばかりに落ち着いた且来は自分にばかり鬼嫁であるのかと思っていたが
他の軍人将兵まで恐れを抱かせるとはやっぱり自分の嫁は鬼であるのだと思い直し
蒲鉾少尉とやらが伝えてくれた絹の裏ごし豆腐を三丁を買い求めて帰宅する。
余談では有る噺ではあるが・・・。
笹之葉蒲鉾少尉の尻の貞操は三日も持たずに上官の一物に寄って奪われ
泣いて許しをこう少尉の願いがも虚しく一週間後には使い回された銃剣を握らされ
最前線となる武装列車の隙間を縫って襲ってくる漢縁の兵士と命のやり取りを摺る事になる。
女一人の四肢を密かに視姦したその代償にそれを支払わせるとなれば
やはり且来の嫁は鬼である。
絹の裏ごし豆腐を三丁が塩出し昆布に巻かれ湯豆腐と化けた夫婦二人の夕食
且来は何気なく今日あった事と成した事を新妻八尾狐に話して見せる。
軍務報告という訳ではないのだろうが何しろ且来は軍曹であって何処に所属してるわけでもない。
軍務任務の報告や噺をするのなら今の所同じ軍属である新妻八尾狐しかいなかった。
尤も当の八尾狐はものすごくつまらなそうに顔を顰め川魚の塩焼きを突き
事細かく話す且来の隙きを付いて夫の漬物をかすめ取れば次いでに卵焼きも弐切れ奪う。
「どこぞに自分が相談出来る部署でもないのであろうか?
今日の所はあれで良しとしても直ぐに別の蛆虫共が湧いてくる。
それでは彼の者達の厄災は終わらん。かと言って自分が毎日通うわけにも行かぬ」
今度は自身が眉を顰め吸い物の椀を掲げるとやっぱり隙きを付かれて最後の卵焼きがこつ然と消える。
「ご馳走さまでした。美味しゅうございました。特に卵焼きが。
私奴は先にお風呂を頂きますね。おでぶの夫様。
覗いても良いのですよ。覗いでても・・・
御話出来る場所がほしいのなら。電話帳の三頁目上から五番目で御座います。
覗いてもよろしいのですよ?おでぶのでぶの夫様。」
それは覗けと言っているのかそうでないのか解らぬが何より風呂場は改装中で有り
一度締めた扉は向こう側からしか開かずの仕組みに成っているし
そもそも最初に腹をしゃもじで百辺叩くと言われてるのだからそんなの痛くて叶わない。
忽然と消えた卵焼きの行方といつかその敵を取ってやるぞと心に誓い
しばし梅昆布しぶ柿茶を堪能してから妻が教えた電話帳を捲り番号を確かめる。
じーこ。じーこと少々いらつくほど細い電話のダイヤルを太い指で何とか回し
誰かに電話するには遅い時間であるかと柱の上の時計に目をやり受話器を耳に当てる。
「はいっ。もしも~~~~~~し
こちら倭之御國上州漢縁第四自治区内。倭之御國帝国陸軍第一級女装科連隊
遅番受付担当・尊純次一等兵で御座います。
今日のお夜食は甘口カレーでした。余り好きではないので福人漬け大盛りで胃に詰めたんです。ゲップ
御要件は何でしょう?」夜もこれから深けていくとしても元気な声が受話器に届く。
「倭之御國帝国陸軍第一級女装科連隊とはなんだ。そのふざけた名前はなんだ?
又、帝国陸軍は馬鹿な事に帝都の民の血税をぶち込んだのか?」開口一番且来が怒鳴る。
「その声は且来素子軍曹で御座いますね。ご連絡お待ちしておりました。
倭之御國帝国陸軍第一級女装科連隊は倭之御國帝国陸軍第一級女装科連隊であります。
ある種特殊な趣味趣向を持つ将校と兵士共を無理やりごっちゃりと集めた連隊でありまして。
つい先日実践投入されたばかりの実験的な部隊です。
まさに且来軍曹が率いるのには最適な部隊ですね。ぷぷのぷ。
何せ皆女装趣味と真髄を極める将校兵士の集まりですからよりどりみどり。
恋の噺に身を捩る乙女の如く女装談義が飛び交う夜勤勤務が楽しくてたまりません。
それではご命令を・・・。且来軍曹殿」
且来は怒鳴る。怒髪天にと頭に血が上り何を口走ったかも余り解らず
最後にガチャリと電話を切った且来の頭にガツンと風呂桶が投げつけられる。
「覗きに来いって言ったでしょ!このうすらトンカチスペシャルおでぶ・・・」
新妻。否・・・恐妻八尾狐の癇癪と説教がその後弐時間且来の頭上に雷を落とす。
「傷はどうだ?飯はちゃんとくってるのか?あの少尉は何処に言った?」
「旦那様。傷は御医者様に縫って頂きました。後は残ると言われましたが。
女の肌に鞭傷背負えば好む漢も御座います。
ご飯はとても美味しくてお客がぷにぷにお腹を摘んだらどうしようと悩んでおります。
それから面倒を見てくれる方は女性に変わりました。あの御方は何やら激しい場所へと転属とか?」
細い背中に大きな絆創膏を貼り付け痛々しくも見えるが意外と元気そうな元娼婦小鈴とともない。
数日後に且来はあの娼婦街の通りに姿を見せる。小鈴が使っていた天幕は太ったオバサン娼婦が譲り受けて居る
特に文句も小鈴が言わない所を見るとそれも習わしにも見て取れる。
且来が天幕通りに姿をみせる娼婦達が英雄来たりを手を叩く。
余りにおおきな歓声に且来は驚くも手を振り答え同時に辺りを見回し状況を確認する。
大げさに言えば且来に取ってそれは確認のための軍務視察であり事前に下した命令がきちんと
遂行されているかの再確認である。
色とりどりの娼婦天幕とその前に立つ娼婦。その間をぶらり歩く客の男達。
「やっぱり以前より繁盛しています。旦那様。
たった数日しか立ってないのに。客漢もこの通りが安全だと知ったのでしょう」
小鈴も又娼婦で合ったのだから実入りが有る情事商売でも反対に危険も多いと肌で知ってる
例の黄帯犬の一党は最悪であるしそうでなくも漢は我儘だ。
最初に決めた交渉を違えて暴れる輩も多すぎる。
天幕娼婦街はこの辺一体の事を示すけども小鈴が元に天幕を置いていた通りは随分と変わる。
目につくのはあの犬の肉の串焼きだけを売っていた屋台だ。
いまはでは犬のそれはなくなりちゃんと鶏の串焼きになり時々には豚肉も焼かれて売られる。
食料品や日用品それに避妊具も店に並び息子が金を数えて店主を数える。
且来の巨躯に気がつくと息子が走りより駄目な親を叱ってくれたお礼だと小瓶を小鈴に無理に持たせる。
小鈴を山の旦那に使える侍女と悟っての事だろう。
客がこの天幕通りを安全と知ったのは黄帯犬の一党が姿を消したからだけではない。
山の旦那がそいつ等の顔を言葉通りに本当に潰した次の日からこの通りにだけ刑察官が巡回している。
彼らは倭之御國の兵士とは違い。漢縁領の警察機構の者達である。
どこから命令をうけて居るのは知れずとも同族であれは倭之御國の役人や兵士よりも親しみやすい。
さらに彼らは娼婦を買う事に文句を言わない。煩く憲法を引っ張れば確かに違法となる回春を罰する事をしない。
暗に黙しているだけであるが実際の所は客漢達が落とす金で娼婦達が生きて生活してるとわかっていればこそであろう。
辞書を引いて膳と悪の線引を正しく引くだけなら簡単で有りすぎる。
且来は全ての人を救えるはずもないとよくと知ればこそ先ずは小さい事から始めるとする。
何やら未だ得たい知れないなんとか女装連隊を直接動かすにはまだ早い
まずは簡単な言いつけと命令を連隊兵がこなせるかどうかをみたいと思う。
且来は連隊の受付係を怒鳴りつけ関係部署に圧力を掛けさせる。その矛先が自治政府漢縁領の警察機構である。
怒声上げ苦情を申し立てなんとかしないと悪鬼の如く女装軍団がお前らの所に押し寄せて宴会するぞと脅し
指定した天幕娼婦通りに刑察官を常時巡回警備させる。勿論。娼婦達の商売の邪魔を厳禁とし勤務時間が
正しく終わったなら目をつけた娼婦の天幕に潜り込んでも構わないと黙す。
その代わり問題を起こすや客は厳粛に対処し警棒で殴り倒した後に外へ投げて捨てる。
特には黄帯犬の一党とその取り巻き連中を付近で見つけたら即座に捉え行きずり回した後に
倭之御國憲兵に引き渡す。これについては刑察官は神経質なほどに気をくばり目を光らせる。
お陰で左右2つ向こうの娼婦通りまで悪党どもは迂闊にも近づけないとなる。
「まぁ奴らも少しは出来るようだな。
それにしても脅し方は何とかならんのか役所に押しかけて女装しながら宴会とは異様である。
少し見てみたいきをするが怖くて背筋が凍る思いであるな・・・」
女装という言葉の意味までも良くと理解出来ない小鈴が首を撚るが
休憩であると言い張り不味い不味いと言いながらも参杯目の粥に匙を運ぶ且来の隣に人影が立つ。
緩やかで少しだけ温かいわずかな温もりと口に合わないとはいえ注文したのだからもったいないと
匙をかき回す且来が顔を上げる。当然不機嫌に顔をしかめる。
擦り傷だらけの小汚い卓の上に固い麺麭を包む皺くちゃな包み紙に木炭で刻んだ文字が浮かぶ。
[帮助。照顾好我们。先生]
「先生とは誰だ?先生って?え?儂か?儂の事か?」
且来は聞き慣れた言葉でだけに実直に反応するが恐らくは意味は違うだろう。
先生と自分の事を小鈴に刺されて困惑するが不味い粥を口に含んだまま姿勢を正すと
胸奥から且来の手には小さすぎる辞書を取り出す。
紙の上の文字が短い文章であることひだまりを遮った人影が女性であり
赤紫の漢縁の民族衣装に包まれる旨の膨らみがこれ又大きい事。
更には隣と後ろに立って並ぶ幼さの残る二人の少女の何かを訴える目つきに気圧されたのか
どうやら紙の上の一文くらいは自分で辞書で引き意味を調べる気になったらしい。
「なるほど。助けてほしいと・・・面倒を観ろと・・・。これまた面倒な・・・」
言葉尻とその音調で機嫌が悪くあまり気乗りしないと伝わるのだろう。
赤紫の民族衣装を着込む恐らくは他の者と変わらず娼婦で有ろう女性が且来の丸太い手首を握り
乳房に押し当て何かと呟く。
「この方の体を好きにいたぶって構わない。自分と二番目の姉妹の体を虐めて嬲っても構わないから
どうか助けてくれと。ちなみに二番目の姉妹は漢のあれを口で咥えてもいまだ処女だそうです。
それも捧げるからなんとか助けて面倒を観て欲しいと・・・」
随分な厄災に見舞われているのだろう。悲壮な思いと共に尚も強く且来の手を胸に押し付ける。
「新婚の身でな・・・。しかも運良く娶ったのは鬼嫁である。悪鬼の如くの鬼嫁である。
確かに此処いなくてもきっと誰かが言いつけるに違いない。取り合えずその手を緩めてほしい」
且来の言葉を小鈴が女性に伝えると力が緩む。願い叶わずと知ったのか唇を噛むとそれは
漢の肌味を口では知るが女としてはまだ知らぬ次女が且来を睨んでまた唇を噛む。
「弐時間だぞ?昨夜は弐時間も説教されたんだぞ?
それも先日覗くなと言われたと風呂を今度は何故覗かないのだと怒るのだ。
覗いていいのか悪いのかどっち何だ?はっきりしてくれ。
儂だって覗きたい。漢だそ。新婚なんだぞ。あんな四肢を持つ女性を視姦するのは漢の務めだぞ
良いか?美麗美女色気ムンムンの娼婦共。
風呂を覗く覗かないっで正座させられ弐時間説教頂く可愛そうなでぶの夫だぞ。
こんなところで巨乳の乳房を生で嬲ってみろ?
幼い癖に漢のアレの味を口で知る少女だと。けしからん。実にけしからん。
こんなにも可愛い少女を好きに弄んで観ろ!
縄で縛られ天井から吊るされはみ出た駄肉を洗濯鋏で摘まれ鞭の代わりにじゃもじで千回殴られるぞ
・・・貴様ら。何故笑ってる?想像したな。儂が裸天井から吊るされあえぐ姿を・・・
・・・さっさと行かんかっ。狩ってこい。このうすらトンカチどもめ」
余り大声を上げないはずの且来が怒声を上げ多少意味不明な部分も小鈴も必死に言葉を介す。
山の旦那且来に助けを求めた情婦の姉妹達も意味を理解すると初めは怖がるも終いには吹き出笑いだす。
且来が投げた命令は短くも強かった。
機嫌悪くもどかりと椅子にでかい尻を落とすと屋台の主人をじろりと睨む。
「不味いぞ。主人殿。でももう一杯貰おう」
だまり言葉を黙する且来の代わりに気持ちを声色を真似小鈴が介する。
慌てて手を動かす主人を横目にため息を付くと長女であろう娼婦がしとやかに横に座る
反対側には負けじと次女が陣取りでかい腹と卓の間には幼い末っ子が滑り込む。
股ぐらの間に潜りこみ真っ直ぐな瞳で子供に見つめられれば且来の気も緩むだろう
「店主。この子に何か菓子でも都合してくれ。上の二人には不味い粥だ。
儂は粥より串焼きで良い。どうせ歯に挟まる犬肉だろ?
なに?内のはちゃんとした牛の肉だと?嘘に決まってるだろ?
いいからそれを十本だ。早くしないと店ごと潰すぞ」
娼婦街に身を於けば代金はきちんと払っても口は悪くなるらしい。
それでも卓の上に並べられた粥を娼婦姉妹が嬉しそうに啜りだすと且来の頬も緩んでほころぶ。
不味い不味いと良いつつも粥の杯は山と重なり
又の間の末っ子菓子つつもも山となるもどうやら漢縁の民族衣装なのに
言葉が通じない且来に上の姉妹は興味が耐えないらしい。
「山の旦那様は女をどうやって責めて喜ばすのですか?」
「大きい?やっぱり大きい?でも太っちょおじさんはみんな小さい」
「縄ですか?鞭ですか?それとも筆ですか?」
「小父様さん。巨乳好きなの?時代は貧乳よ。将来の発育に愛を見出さないと」
「私は水責め以外なら大抵の事は大丈夫ですよ。山の旦那」
「時代は小柄な女の子を求めてるのよ。だからやっぱり貧乳よ」
成るべくそれっぽく小鈴は声色を真似て伝えてくれるがどれも赤面するような話であり
一々真面目に答えるのが気後れしてしまう。
色事噺が弾む中。狩ってこいと言った命令は確実に実行され且来の前に
どずんどずんと麻袋が転がされる。どれも又黄帯犬の一党の輩で
且来の部下となる女装連隊の兵士が狩ってくるのである。
もっとも娼婦姉妹を災いに巻き込んだのが誰だかわからないから手当たり次第である。
娼婦通りに屯する黄帯犬の一党の漢を見かけると一応の確認はするとりあえず殴り倒す。
あとは麻袋に詰めてズルズルと且来の前まで引きずって行き娼婦姉妹の前で顔見聞となる。
「然しまぁ~~~。糞に集る蝿の様に随分と湧いて出てくるものだ 。
これでは幾ら身を粉にして働いてもいっぱいの粥を啜るのが精一杯であるな」
村に生活していた姉妹を騙しこの街で娼婦に落した輩五人の顔見聞が終わる。
突然殴られ麻袋に詰められ引きずり回られたと思えば確かに自分らが
村で親に良い働き口が有るからと僅かな金を握らせ買い付けた後
荷車の中で強姦し娼婦とは何たるかを無理教え込み街で漢相手に腰を振らせた
姉妹達が粥を啜りながら自分の顔を見て頷き指を指した。
そして今には山のような漢の前に関わった仲間と一緒に膝を付かされている。
「村から姉妹を買ったのは御前か?人身売買だな。
馬車中で犯したのは強姦罪になる。其の後無理に回春させたな?
売春斡旋罪に当たるぞ?御前自分のしてる事わかってるか?」
云々と頷くしかない漢の前でブンっと音がして隣の漢の姿が消える。
回りで悲鳴と驚愕に交じる声が聞こえる。ぐちゃと後の方で音も聞こえる。
「貴様らにも言い訳のひ一つ位は在るだろう。
だが・・・。子供はいかん。子供はな・・・」
又。ブンと音がして二つ向こうに並んだ漢が消える。
確か自分達が列をつくる後ろにはコンクリートの壁がある。
その壁に且来の岩拳が殴り飛ばし頭の潰れた仲間の意外がぐちゃりとぶつかりべったり張り付く。
「成人の儀もまだすまず。男女の営みも愛も知らず。
生きる術も選べす。前途洋々で在る恥ずの少女も又これ然り」
参人目の仲間の頭を岩拳が潰し飛ばし壁に血飛沫を上げて張り付く。
「人生の進むべき道を自分で選べる様になって
自分で肌を売ると知っていても・・・やはり御前等のような奴は許せない。」
四人目の漢はさっきより激しく強くそしてやはり顔を潰される。
それは且来が拳ではなく脚で蹴り飛ばしたからだ。
「それで御前はどうしたら良い?」
山のような事は最後に残った首謀者の漢の髪の毛をつかんで覗き込む」
「たっ。助けてください。何処ぞの旦那。私には女房子供がいるんです」
三下下郎共が観念すると大抵口にする三文芝居である。
「よかろう。御前は助けてやる。」つまらなそうに且来は漢の頭を離す。
「へ?本当ですか?」急死しに一生。巨躯の漢の気移りにしめたっと思ったし瞬間。
「御前の顔は憶えた。後は役所の台帳を捲る。
其の年なら確かに女房もいるだろうし年頃の子供もいるだろう。
女房は鉱山夫の寝蔵の娼婦にし子供が女でも男で娼婦情夫としてこの通りで働かせる。
御前がやった事と同じ用に御前の家族に苦しみを与えてやる。
ずっとずっと何年も何年もだ。儂は蛇よりしつこいからな。
直ぐに見つけて働かせてやる。御前のせいで女房と娘が苦しむんだ。
御前の目の前で娘が馬鹿で醜い漢買われるんだ。楽しみだろ?」
男は絶句する。仲間四人が山の漢に殴られ後ろの壁に血を流して滲みとなってるが
自分は殴られもせずに痛みも痒みもない代わりに自分の女房と娘そして息子が
娼婦情夫としてのこりの人生をずっと苦しむ事になる。
後ろ手に括られた手が自由に成ると別の漢が髪の毛をつかみ人相を
又確かめられる。ふんっとそいつは鼻息を鳴らし
良し。顔は憶えたとばかりに在るき出す。これから役所にはしって素性を確かめるのだろう。
直ぐに女房も子供も捕まるだろう。
情けなくも悲しくもどうすることも出来ず黄帯犬の一党の漢は風習に習い
反省と慈悲を求める作法に後ろを向いて頭を上に天を仰ぐ。
それが一分二分。五分と立っても山の漢から許しの言葉は届いてこなかった。
「あの漢は何をしてるのが?小鈴。・・・儂を馬鹿してるのか?」
頭を潰した拳を小汚い布で拭き磨き動いたら腹が減ったと店主をに睨み
客卓の前に座れば末っ子が股ぐらから顔を出す。
「漢縁の國ではあれが反省してるから慈悲を恵んで下さい
と言う神聖な態度です。随分と反省してると様子なので悪事は働かないでしょう。
あの仕草を相手がしたら。責めての慈悲を与えてやるのが又礼儀です。旦那様」
「だって。こっちに尻と向けて天を見上げてるぞ?
幾ら御國の風習が違うと言っても謝るべき相手に尻を向けるのか?
とても信じられぬ。我が倭之御國の謝罪の印とは土下座と決まっておる。
尻をむけて天を仰がれても到底ゆる好きなどなれん。
勝手にいつまでも尻を突き出して空をみてるが良い」
小声でそう吐き捨てると不味い粥と団子を腹に詰めると且来は立ち上がる。
いつまでも天を見上げ慈悲を乞う漢の耳に背に傷の在る娼婦が声を掛ける。
「あの・・・。旦那様は衣装こそ漢縁の物ですが
出身は異国倭之御國のお方で御座います。
貴方が幾ら反省し天見の儀で慈悲を求めても何やら文化が違うので
伝わらない所か馬鹿にされてれるとお受け取りに成ったようです。
御家族の事は災難で悲しい事ではありますが
やっぱり貴方が悪事を働き欲にまみれた結果で御座いましょう?
諦めて御家族に土下座でもなさると良いでしょう」
小鈴は丁寧は有るが所詮悪党風情の生き末であると冷淡な声で告げて且来達を追いかける。
異国言葉の土下座と言う物がよく解らずも漢は最後に自分に出来る事を選択するしかなかった。
面倒だから後はお前等が勝手にやっておけと余り顔も見たくない
女装連隊の小隊長に後始末を押し付け後日薄っぺらな報告書で顛末を知る。
天幕娼婦街を仕切り闊歩する黄色い腰帯の一党は根強くしつこくいるものの
あの日だけで二十人以上を麻袋に詰めて刑察に引き渡したので少しは静かに成っていると
且来軍曹が壁に飛ばし貼り付けた遺骸は見せしめに放置すれば犬と猫が喜んで腹に収める。
生かしてやると言った漢の家族は即刻身柄を確保したが
当の漢が育豚農家に自分の体を身売りし。其の夜無事に豚の餌と成り
自分を売った金で妻と子供の自由を求めると遺言を残した故。
こちらの裁量で妻子無罪放免と致したと成り。
