【女装男児】女装家且来素子闊歩歩いて候:其の五

「ぷはぁ~~~しょっぱっ」
其の漢が気づけばそこは塩水漂う海藻の上で有る。
海藻に漂う端切れ板に乗った片腕が偶然に海深に身体を鎮むを防いで居るらしい。
「しょっぱっ。塩水で有ると言うのなら海の上と言う事か?
殴られたのは憶えているし何かを踏み外したの憶えてる。
川にでも堕ちたと言う事はまさか海まで流されたとでも居のだろうか?
えっと。儂は泳げない。土左衛門である。どっから見ても土左衛門である。
あと。御疾呼したい。御疾呼。この場合。此処でして良いのだろうか?
良いか。誰も見てないし。否・・・どうやってすれば良いのだ?」

たった一枚の端切れ板の浮力を頼りに残りの手足を適当にバタバタとやってみても
海流の上の板は只只流され行きたい方向には一項に進まない。
あっちへいったりこっちへいったりとしている内に恐らく多分は倭之御國上州自治区の
その土地とはかなりと離れてしまっただろう。
どのみちどの方向を向いても海と波と海鳥の姿しかない。
「やれやれ・・・此処が冥土の納め時となるやもしれんのか・・・
随分と未練もやりのこした事も多すぎる。
おでぶおでぶと煩い嫁も元の鞘に収まるだろうな。
もう一人は雪華と言ったか?随分と癖の有る御名子であったが。
結局女壷には入れず終いか。孕む孕ませろとこれも又煩かったが。
儂と関わらないほうが身の為であるな・・・それにしても・・・又御疾呼したい」
数刻もしくは数日の内に海藻の上で端切れ板を抱いたまま餓死するやも言うのに
且来素子の頭には肌を重ねた女達の事しか浮かばない。
尤もそれもこれももう二度と会える事もないと未練に少し塩水涙流すと
海藻の上の端切れ板が大きく畝る。
直ぐに雲ゆきが妖しくなれば雨も振れば雷雨に変わり海波が大きく畝る。
「嵐か?海嵐なのか?こりゃ堪らん・・・もう無理・・・死ぬ」
辞世の句の一つも読まずの儘には切れ板の手が滑りドプンと波泡立つと
熊の如き漢は海深く消える。

且来鏡蔵。享年33才 漢縁海の海藻の果に・・・。
二日も立たぬと言うのに二度も殺すとは何処まで馬鹿なのだ。
熊の如き声が地獄の底から届くのか?
それとも少し先の道筋に何か光明見えたとするのか?
且来は土左衛門と成りても小島の縁にたどり着く。

我が家に妻が待ってるあの土地から海藻の流されてそろそろ壱年。
まぁどうせ元鞘の漢の元へ戻って尻を振ってるに違いないであろうとも
兎に角も熊の如きの漢は漢縁辺境の街を闊歩する。
その風体は随分と以前と変わる。
倭之御國の男児で有れば肌は白く濡れるが何処か海の近くで長く過ごしたのだろう。
一目見ただけでは解らぬほどに褐色で乾いた色に落ち着く。
以前の職業が女装家、基漫才師であったが其の気配もさっぱり消え
意外にも年が若いくせに黒い髪は全部抜けつるりと輝る禿頭である。
顔つきも随分変わり何処かにあった優しさがなくなり
ごろつきところか極悪人そのものになる。睫毛がないのもそう見える原因だろう。
若し未だに頭毛が有るのならそれと一緒に事ある事に剃って居るのかもしれない。
まぁその風体からそんな細かい事を毎日こなして居るとも思えない。
大体にして漢縁の民であれば色鮮やな民族衣装を丁寧に着こなす物だが
漢は戦手甲脚甲を嵌め残りの部分に民族衣装を被せる。
つまりは山賊海賊崩れにしか見えず。どうしてもやっぱり山賊にしか見えない。
面白いのは後ろ背に刻まれる倭之御女であろう女性と艱難肌の女性の入れ墨。
川べりで水浴び摺る背後ろに独特の構図で描ける入れ隅を観て
在る物は目をそむけ在る者は影指を指して嘲笑う。
「旅の途中で儂が死んだら。背の皮を剥いで妻に届けてくれ」漢は大真面目に吐き捨てる。
見た目がやはりそうであるように。
心にあった正義と倫理は影を顰めて久しい。
生きる為といえば聞こえが良いが結局悪事に手を濡らしたのも自分の業であろう。
最初に溺れついた小さな島村で漁師として生きる道もあったし
歩け歩けで辿り着いた街でも料理人としても又商人としても働き口はたしかにあった。
それでも汚れ仕事に手を染めたのは嘘だとしても恋して止まない妻が待つ我が家に
どうしても帰りたかったし。孕む孕むと喘いだ女への未練も未だ残る。
そして何よりも自分を嵌めて騙した奴の顔を潰して遣らねば気が済まない。
思えばそれは執念であり漢の力であり怒りでも在る。

「旦那ぁ~~~娘買っておくれよ。処女だよ。処女」
猪の干し肉を噛りながら街市場の夜天通りを歩くと声が掛かる。
この辺の街村の裏をちょっと歩けばそんな光景当たり前だ。
ちょっと違うのは串焼き肉の屋台の隣に置かれた箱の前で堂々と娘を売っている。
山賊熊の漢は当然無視を決め込む。自分一人の旅でも路銀に余裕もあまりない。
娘一人買っても世話する必要も有れば金も居る。そんなの面倒くさい。
勿論使い道はある。しわがれた声で娘を売る親が言うように本当処女であるなら
味見も出来るし少しは楽しめる。そいつに身体を売らせて路銀にも出来る。
もっともそんな事をしてる暇があるなら少しでも自分の街を目指して脚を回すのが良い。
其れが自分に取っては正しい道筋だし黙って通り過ぎれば良いだけである。
どうせ今日娘を買ってやっても明日には別の客に別の娘を売りつけるに違いない。

山賊熊の漢の悪い癖は此処ぞと言う所に顔を出す。
確かに今日。娘を買ったとして。
本当の親か商売親か知らないが・・・。明日には別の娘が売りに出される。
今日、娘を買わないとすれば其の子は売り残りとなり殴られるかもしれないし
鞭で打たれるかもしれない。それとも今売ってる娘がものすごく美人で好みで
儂がかわないで他の漢が買って・・・明日売りにでるのがものすごく普通だったら?
ええ~~~い。面倒だ。
山賊熊の漢はその一本もない頭髪を掻きむしり通り過ぎた子供売りのところまで
どすどすと足音を鳴らして戻る。
「御前が子供売りか?売りに出すのはこいつか?他に何人子供がいる?」
如何にも山賊と言う巨躯の漢にしわがれた声で漢親が答える。
「へぇ~。旦那。一番大きな娘を売ります。嫁にも行ける年ごろで。
他に二人の男の子がおりやすが・・・働かせれば金を生みます」
「すると長女を買えばいずれ息子二人が金を生む。
口減らしにはよく在る話だぞ。本当だろうな?」
この手の話は大抵が嘘である。信用できるはずもない。
そこで初めて山賊熊の漢は売りに出されてる子に視線を向ける。
「御前名前は?」
「语汐」山賊崩れの漢に睨まれこわいのだろう。返事の声は小さい。
「歳は?」
「もうすぐ17」この辺では確かに17で成人を迎えるから嫁に行ける年だ。
「恥技は何処まで出来る?」
「手扱扱きと口を使って・・・」
少女はチラリと自分を売ろうとしてる親の顔を盗み見る。
「よかろう。儂がこの娘を買おう。これが代金だ」
のそりと腰に括りつけた猪の干し肉の包を漢親に投げつける。
「だっ、旦那これは困ります。只の干し肉ですよ?ちゃんとした金で」
山賊崩れの漢の腕がピタリと漢親の額に止まる。
単発式ではあるが戦拳銃である。
練習すれば即座に二発目も打てるし山賊崩れの漢はそれも楽に熟す。
「この歳で処女で恥技が口だけって嘘だろ?絶対嘘だろ?
教えたの御前だろ?親だよな?親の御前が恥技を教えるか?
漢縁の民は風習を大事にする。嫁入り前の娘に恥技教える親なぞいないぞ?
御前が本当の親なら絶対しないぞ。良いかこの娘は儂が貰う。
嫌なら御前の頭を弾いてやる。どっちが良い?」
がちゃりと躊躇なくも漢親の眉間にぐりぐりと銃口を押し付けて嘲笑う。
子供売りの漢に仲間がいて木の陰から出てきても良いように予備の球も手に握る。
「わっわかりましたよ。旦那。商談成立ですっ」
山賊崩れの漢に押し付けられた干し肉の包を抱きしめ漢親が震え上がる。
この漢に逆らえばその場で頭を撃ち抜かれると悟ったからだ。
「语汐とやら。今日から儂が御前の親だ。付いてこい」
「はいっ。父者様」素直に嬉しいのだろう。ぴょんと跳ねて在るき出す。

「あいつ。本当の親か?」
「ううん・・・ちがう。・・・私の村は貧しくて自分出でてきたの」
「うぬ。相わかった。長い旅に成るぞ。语汐」
「云々。父者様・・・助平」
「ぬははっ。良いか?我が娘语汐。親であっても油断してはならぬ。漢は皆助平なんだぞ」
買い付けたばかりの娘の尻を漢が撫で回せば買われた娘がその手を抓る。

夫を亡くして年を二つ重ねる・・・。
仕事も忙しく有り身体を動かしていれば忘れていられる。
庭の手入れも余り出来ずそれでも代わり往く事も有ればあの頃の儘の事もある。
一度身体に刻まれた印は溶けて消える事の無ければ新しく縁を結んだ者もいる。
且来八尾狐少佐はその名字を捨てなかった。
尤も未亡人と成れば付け狙う輩も多い。少しは目移りしても頬を抓って我慢する日も多い。
「只今ぁ~~~。誰も居ないけど、只今ぁ~~~」
「おかえりなさぁ~~~~い」弐年もの間絶対に帰ってこない人声が木霊する。
「へっ?」
今日のその日は夏正月に辺り使用人達はそれぞれに休暇を楽しんでいるはずだ。
意味もないのに習慣で大きく張り上げた声に戻ってきたのは若い女性の声だった。
其れも首を跳ねられ身体は海の遠く彼方へと流れて消えた夫の奥の私室である。
泥棒にして間が抜けてる。確かに朝でかげに家鍵はきちんと掛けてもいる。
軍人で有ればこそ強く警戒しそろりそろと脚音を忍ばせ夫の私室の扉を開けて蹴る。

「良いか?我が愛する娘よ。
こう言う丸いものでもな。此処をこうやってこうするだろ。
こっちをぐるりと回してこうすればきちんと形に縛れるのだ」
「云々。父者様お上手。
何時も私を縛ってくれるやり方ですね。
それにしてもこの髑髏誰のでしょうね・・・?」
夫の私室のど真ん中に向こう背中の其の奥で何やら忙しく手を動かす漢
姿の全部を伺えるわけではとうないないが大きな背中は亡くした夫の影が在る。
それでも違うと視えるのは海焼け収まらぬ褐色の漢縁の民の肌。
手の平でつるりと撫でたら気持ちよさそうな禿頭。
漢縁民族衣装には何処かで観た流れ倭文字で女装家と大きく刺繍がされる。
態々と習いもしなければ読めぬ流れ倭文字でも意味を分かれば尚更首を捻るだろう。
山々の様に大きい背は知った夫のそれとも違う。
自分の夫も巨躯であったが腹はぶよぶよで殴ると跳ね返る。
眼の前の泥棒もどきの漢の身体は良くと見えずも有れより大きい。
腕も筋が盛り上がりあれで女を抱いたら骨が折れるに違いない。
その上に女座りで脚を崩し身を漢に預ける女性の正体知れずに
父者様と読んだのなら夫と自分の間に子供も居ない。
其れにあんな大きな子供がいるならばやっぱりこの漢は思い過ごしの別人となる。

軍人である八尾狐であればこそ荒事悪事には成れていても
夫によく似た背姿に気圧される。
「なっ。何者であるか?名乗りなさい。
この場所この家を且来家の屋敷と知っての狼藉かっ?」
戦場によく響く戦兵の轟声の其の如くに喉を絞って吠えて猛る。
「如何にも此処は且来家其の主人且来素子。否に且来八尾狐の私室である。
何せ自分の部屋で在るからな。
よぉとよぉ我が妻八尾狐よ。息災で遭ったか?暫く家を開けてすまんだ。
ところで個の髑髏は誰の物だ?儂の髏ではないようだが・・・。
それから儂の可愛い可愛い盆栽が植木鉢になっているのは何故ゆえだ?」
余りに急に漢が立ち上がったせいで半身を預けて居た少女がばたりと倒れる。
「眉毛ない。眉毛ない。眉毛ない。怖い・・・ツルツルピカピカ」
ぐるりと振り返り八尾狐に身体の正面を向けた漢は確かに自分の夫の顔姿である。
「剃ってるのよ。剃ってるの。毎朝私が剃って上げてるの。偉いでしょ。母上様」
「あの・・・少々まっていただけますか?御人殿。其れに動かないで頂きます?」
漢の声は確かに亡くした夫の癖のある太い声である。
それでも余りに豹変した姿を自分の夫とは一概に信じられずに
八尾狐はばたばたと廊下を転がり文卓から太めの木炭棒を引っ張り出す。
今度は何処か嬉しげにぱたぱたとを廊下を踏み戻ると
言われた通りにじっと動かずに待ちつづけた巨躯の漢の顎に手を添え
キュキュと片眉書いては太めに眉を書き加え反対側も太めに顔の眉を描く。
人の美的感覚と空間認識力にはそれぞれに拘りと才がある。
漢の顔上に眉を書いて観たが左右の太さの違いが気になるのか
三歩下がって漢の顔をじっと睨む。
・・・
「あっ。貴方・・・。生きてたの?本当に貴方なの?
帰ってきてくれたのね。私の元に帰ってきてくれたのね」
弐年の年月を帰らぬと悟った夫を待ち続けるの女に辛い。
齢三十を一つ超えるとなれば。尚に熟れ未亡人となれば舌を舐める輩も多い。
感極まり憚らず八尾狐は夫に抱きつき更にこそ熟れた身体を押し付け号泣する。
その身体の方を夫素子は大きな手で押し返す。
「海に流れて丸壱年。脚を棒に陸を渡って更に壱年。妻に迷惑かけるども。
風体変われば情も薄れる。新たに結んだ縁もあれ途切れて消える縁も在る。
儂の飯丼の縁が掛けて負った。此処は確かに我が家であるが
どうやら其れは今や昔に雫に溶けたらしい。いくぞ。语汐。
今夜の宿を探さばならんからな」
弐年前と同じ野太い声そのままで有るがどうやら性根は腐ったらしい。
それでも昔と変わらず筋の通る話であり且来は色々と怒っていた。
「はい。父者様。三日ぶりのお布団ですしね。ふかふかが良いです。
それでは母様。お世話になりました。」
父様と呼ぶ且来の言葉は絶対なのか娘语汐は言葉流して床に落ちた旅鞄を手に拾う。
「待って。待って。貴方。待って。何?個のふてぶてしい腹と態度。
妻よ?私妻よ。貴方の妻なのよ。待ってお願い・・・」
馬力とも言えば熊力か。
基ただの馬鹿力ものすごく前に立ちはだかり身体を押す妻の細腕など全く気にせず
ずいずいすんずんと木造りの廊下を突き進む。
「貴方。お願いお待ちになって・・・。
髑髏は死んだと言われた漢のものです。
饂飩。つくるから。好きでしょ饂飩。ねっ。
盆栽が植木に化けたのは鋏怖くって。やり方知らないし。
おっ。お寿司も付けるから。倭之御國握りずし食べ放題よ
噺ます。全部噺ますから。あの人の事も。
三日・・・三日で良いから此処に居て・・・お願い。貴方」
泣き縋り立ち去ろうと摺る夫の身体を号泣するも抵抗する妻に娘が助け舟を浮かべる。
「お寿司食べたい。父者様。高級寿司。
三日でしょ?三日くらいなら良いんじゃない?
饂飩とお寿司と温かいお布団好きです」
弐年離れた妻よりも弐年過ごした娘が大事なのかそれとも饂飩と寿司に未練わいたのか
「うむ・・・三日だけだからな」
「有難う御座います。貴方」やっとの事に進む脚を止めた夫の足元で八尾狐は鳴いて崩れて又と泣く。

「これより第二十三回。且来家家族裁判を開廷しまっす」
実に大鍋にして七杯。椀にして凡そ二十禄杯の饂飩を啜り
今も尚高級寿司に手を伸ばす且来と娘。少し人心地がついたのか楽な服装に着替えた八尾狐。
「はい。裁判長。御二人はどうゆう関係でありましょうか?
随分と年の近い親子となりますが。元より夫と私の間に子はおりません。
しかもうら若き乙女の癖に父者と呼ぶ助平な漢と一緒にお風呂に入る仲って?」
当然に二人の仲を疑うべくして妻が問い詰める。
「はい。先生っ。父者様と私は愛し合っているのです。
旅も歩けば父者の股間も熱く猛るのです。三日に一回二日に弐回。寧ろ毎日?
頭の毛と眉毛を剃るのも私の仕事だし。らぶらぶかっぷると言うか愛し合ってるていうか
寧ろ絶対服従?父者の性処理係と性奴隷かも?」
この街でもそうでなくも随分と憚るべき言葉を平然と口にする娘に八尾狐は脳震盪を覚える。
それでも聴きたい事は聞けたしそれが歪んでいてもそうゆうものなのだろう。
「八尾狐被告殿。
儂が聞きたいのは事の顛末だ。何が起きてどうなった?儂の葬式は立派だったのか?
それからあの人とやら健在か?奴と未だ続いていているだろう?」
何が起きたかときかれ八尾狐は分かる範囲で淡々と答え。
「貴方の葬式は質素だったわ。拒まれたのよ。軍葬を・・・軍が断った理由は分からない。
女装家連隊も解散を命じられ多くは前線に送られ散った者も多いと聞くわ。
あの人は元気だし・・・御免なさい・・・断れないの・・・」
且来の妻となる前から八尾狐は上司の大佐と言う漢に身体を捧げ躾けられる関係を続ける。
以前の5年に今度の2年を足せば都合7年とも成れば人形どうぜんだろう。
「責めはせん・・・」
悲しそうで在るものの割り切っているのかボソリと漏らすと且来は鮪寿司を二貫摘む。

夫の責めはきつい。
弐年ぶりと成る情事に胸弾ませた心を八尾狐は後悔する。
「ぷはっ。これは嫌。無理。お願い許して。貴方」
「無理なものか。语汐なら楽にこなすぞ?あいつにならやってやるんだろ?」
無理な体制で言われる通りにしても夫の怒りは消えてくれない。
四肢の太腿と脛を折って付けたまま両方を荒縄で括られる。
それも両足となるし自分で脚を伸ばす事は出来ない。
首後ろから熟れた乳房を縛り通り股ぐらまで亀甲にも括られば乳房が歪に歪む。
乳首には重り鎖が繋がれ無理に引かれればピリピリと痛む
それに夫は加減をしてくれない。
態と重り鎖を強く手前まで引くから乳房が円錐の形に尖る。
背に両腕回し手首も縄で閉じらてるから到底自分で身体を動かすことなんて出来ない。
出来るのは畳に尻を付いて身体を折り曲げ夫の一物を咥える事くらいだ。
「あの人のをしゃぶっても何時も詰所だからこんなぶさま格好してないわ」
「儂の居ない間にしゃぶったあやつのものは、ざぞに美味かったろうな?」
「美味しわ。すごく美味しい。でも。これが一番ほしかった」
「嘘つけ。死んだと思ってたろうに。あやつの者にしゃぶりついてた雌豚妻め」
余り身体が柔らかくもない八尾狐の頭を掴み一物に押しるける
「ぐぼっ。ああ・・・美味しい。美味しいの貴方の」

大陸に生まれ、果は島国に生まれ育っても女が漢の肌に振れる時
一番最初に憶え知るのが其の先端と成る。
それは何度味わっても何時も至極の味と成る
「待ってたの・・・待ってたの・・・待ってたの・・・ずっと待ってた。
幾らあの人の咥えても。この味には敵わない。艶も形もすごく良いの」
先に汗を流してこいと夫に言われるが八尾狐は首を横に降って断る
親子と繋がる二人が風呂に使った後に湯に浸かり肌をほぐして
八尾狐は下腹部に群叢する毛を剃り堕とす。
言わずともがな八尾狐の黒毛はもとから黒くも剛であり
軍属のあの人もそれを良しと愛でる。
恥じらいもあれば少しでも整えようにも憤怒とばかりに殴られる。
その逆に八尾狐の夫と言えば漢一物を咥える様が良く見えぬと毛嫌いする。
自分の夫が戻ってきても未だ暫くもあの人の言葉に身体は囚われの儘だろう。
それでも求めて入れてくれる漢の好みに合わせ風呂場で脚を開いて剃刀を当てた。
後手に括られ四肢も結ばれば夫に跨るには自分では出来ない。
「駄目駄目。観えちゃう観えちゃう。全部観えちゃう」
腰に手を充てがわれ反り返るも猛る漢根の先端が女襞の入り口に充てがわれると
八尾狐の女襞は嬉しそうにぐちゃりと音を鳴らして素直に呑み込む
先が膨らむ亀頭の形に剃って襞が開き其れがすぎれば生き物しかりに竿を舐め
うねうねと這いずり根本までずぷりと夫の漢根を丸呑みしていく。
「あああああぁぁぁ。逝っちゃう逝っちゃう。貴方逝っちゃう」
自分の女襞が夫の漢根を呑み込む様から目を剥がせずの八尾狐は根本迄全部呑み込むとと
歓喜に溺れ身体を反らして上り詰める。
「駄目。駄目。突いちゃ嫌。突き上げちゃ嫌。加減して。貴方。」
届かぬ願い虚しく八尾狐は奥の壁まで貫かれ幾度も首を振り絶頂に身を震わせて気を失う。

「夫に飯も作らずにお天道様が傾くまで布団の中で鼾を欠いてられるとは
いざ。最近の嫁と軍人とは良い御身分だな。」
「自分でしょ?自分が悪いんでしょ?絶倫熊のおでぶのでぶでぶ」
あれから何度も夫の胡座の上で腰を振り畳の上に転がり乳房を潰して尻を高くに犯された。
まさに犯されたと言うのだろう。
書類上の夫と妻で有りながら妻は他の漢に抱かれ尽くす人形であり
夫は旅で拾っった娘を毎夜の様に抱いて貫く。
弐年の間に結んだ縁と変わらず拒めぬ人形妻との交わり
想いそれぞれ在るとしても久しく離れても夫妻の愛欲一本の糸絆こそ
余りに激しい情事は長く尾を引きお天道様顔出すまで続いて終わらずであった。

「果に其れ。この辺も随分と変わった物であるな。
角の饂飩やが蕎麦屋に成っておるし。あの逢引茶屋は立派な娼館に成って負った
いやはや。旅の二年は人の心も街も変える物であるな・・・うぉっ」
背筋に悪寒が奔る。確かに月日は街並みも変える。新たに建つ建物もあれば消えゆく物もある。
風体山伏にも視える且来の首に悪寒を指すのは邪気である。
この恨み晴らさず置くべきかとあからさまに怨念ただ漏れにゆらゆらと邪気が揺れる。
何やら戸口扉が少し開いているのが原因であるらしい。
使いすぎた腰に手を添え午後に遅くに妻は軍詰め所に脚を運び
昨夜は母の悲鳴が煩くてと娘が昼寝を決め込む我が家とはきっちり対面となる呪家。
以前は縁を絡めた情婦終いが住んでいたが且来が介した仕事を真面目にこなし
姉妹揃って故郷に凱旋したと妻に昨夜に聞いた。
恐らくは其の後に誰かが家屋を買い取り改築でもしたのだろう。
住人の数に合わせた部屋数が削られ随分とこじんまりと姿を変えた家。
恐らくは土間と台所に風呂。それに部屋が一つ二つくらいであろう。
一人暮らしには十分とも観て取れる。その分庭は広くなりきちんと手入れもされている。
少々と又、それなりに長い時間にと家の前で睨み思案している間も邪気は止まらない。
寧ろ呪霧が増すその色に且来は何処かそれを知り馴染みのある殺気であるとも感じて取れた。

嫁と暮らす且来の本宅は真向かいで在る。
それなのに且来は邪気の香りに唆られ小さな家の門を潜る。
山伏姿に成りて旅に脚を棒にすれは今更と恐る恐るとは似合わない。
鬼が出れば拳で殴り蛇がでれば首を絞めて堕とすだけである。
増々にとねっとりと邪気が濃くなる玄関の取ってに太い指を掛け
それでも首を縮めて隙間から奥間を覗く。

「御帰りなさいで御座います。我が愛しの飼い主・且来様。
二年の年月前の約束果たして頂きたくも其の頭千切られたと聞き及び信じられず。
尚の事に尻肉広げ漢根を刺仕込んで頂きたく想い猛り我慢できず。
ほうぼう手をつくしてあれこれと事情探れど女の手では答え及ばず。
責めて御帰りを待つ間。箱によく似た家に一人入っておりました。
良くぞに御戻りになられました。貴方様の奴隷人形秋月雪華で御座います。
想い出して頂ければ至極この上幸せで御座います」
これも又、礼儀よりも長い口上を且来の顔を睨んで垂れ流し
何時からだろうにずっと待っていたらしくも脚の痺れもきちんと耐え
去る軍人の妻秋月雪華が且来の前に三指を突きて頭を伏せる。

「おうおう。憶えているぞ。雪華殿。
其の次に会うことあればちゃんとした穴に入れると約束申した。
息災であったか?軍属の主人はお元気であろうか?」
「雌豚とお呼び下さいませ。飼い主様。
残念ながら愚夫殿は肌の艶も良くも
毎日の昼の休みに部下に股間を弄らせ悦に浸っていると聞き及びます。
いっそ毒でも盛ってじわじわと命削ってやろうかと思っておりますが
そろそろ齢四つの娘が姉弟が欲しいと煩いので種を頂ければ幸いです」
「ふむ。約束はきちんと果たそう。倭男児に二言成しである。
街中で求めた物だが二年待った褒美土産にくれてやろう」
互いに随分と堅苦しく仰々しいのは約束守れと雪華が纏う恨み晴れぬ邪気のせいか
女を飼うと言う事に元漫才師の且来には慣れぬ事柄であろうなのか。

倭之御國では愛人・妾と囲うは漢の誉れと嘘吹いても。互いに対等な立場である事が多い。
夫と妻と漢と女の間に尽くし尽くされどはあってもその場所限りな事が多い。
寧ろ漢縁の女にはそれが理解し難くも在る。
漢縁の女性が夫を持ちも誰かに飼われたり其の逆も極々普通に在る。
その対象と趣向は違えども相手に尽くすのならとことん尽くすのが普通である
尤も去る軍人ですでに子を育てる秋月雪華と言う女性は少々と言えず
寧ろ異様な執念を盛って且来に尽くす覚悟を決めている。

「美味しく頂きました。飼い主様。
このようなお高い物を豚の一匹如きに恵んで頂き感謝の極みで御座います」
漢であれば主としてどんと構えるべきだと勝手に頭の中で思い込むも
後で腹の足しにと買った握り寿司を雪華の前に出してやる。
その食べ方がある意味行儀も悪く。
それが飼われる女の作法なのかと目を細めて雪華が入れた辛茶を啜って且来は誤魔化す。
漢縁の母と倭之御國の父の間に産み落とされた雪華の肌は褐色である。
これで二度目に姿を見るが漢縁の地の民族衣装を嫌うのか倭着物に身を包む。
いざ畳上の寿司折りの包が解かれると頂きますと挨拶すれば。
手を後ろに回しそのまま身体を前に倒して寿司に喰らいつく。
世間世情の習わしでは良しとはされぬも所謂犬食いである。
後に時々且来と一緒に食餌を楽しむ時は必ずに回りに人がいないと知ると
雪華は好んで床に置いた皿から食べ物を喰らう。
犬如きと豚や動物の様に口の回りが汚れるのも全くもって気に留めず
其れが当たり前と信じているのだろう。
少々熱い茶さえも平皿に垂らし顔を側に寄せ舌を伸ばして舐めて啜る。
雪華に取って一番の褒美となれば且来が手平から直接食べ物を頂くことであり
それを特に悦楽に浸れると豪語もする。

「主様・・・飼い主且来様。
二年の年流して性根が腐ったので御座いますか?ああ・・・駄目。
最初に約束が違います。又尻穴にお入れなさって。あん。きもちいい。
せめて解してからと申したのに。其れにこんな事・・・恥ずかしい。
駄目で御座います。出ちゃうから。摘んじゃだめです・・・ああ気持ち良い」
丁寧に整えられた庭の竹林の影で且来に抱えられ雪華が喘ぐ。
陸続く漢縁の地の旅は且来を多々に色々変えたらしい。女を嬲る技もそれ成り。
「朝にちゃんと御華には水を指したばかりで御座います。
なのに今度は私の恥水を御華に上げろと言うのですか?飼い主様。
駄目駄目・・・そこ。擦ちゃ駄目です。人目が御座います。ああ・・・
彼処の雌豚は尻に漢根ずっぷり咥え脚を開いて御華に恥水飛沫とばすと噂に成ってしまいます。
お許しを。飼い主様。どうか慈悲を恵んで・・・ああ・・駄目・・出ちゃうぅぅ」
しゃ~~~っと言う音とが勢い良くも長く続き羞恥極まりなく雪華は且来の腕の中で仰け反り
尻を貫かれた儘に脚を大きく開いて昇つめると同時に華の上に恥水飛沫を飛ばして果てる。

「なんて仰ったのですか?秋月の奥様?
食べ物を床直から食べぬと天井から吊るされ右も左も朱く腫れるまで乳房を叩かれる上に。
飼い主様の食皿を四つん這いに成り卓として支え茶碗一つも揺らし粗相もすれば
隣人覗くかも知れぬ庭先で尻穴に入れられ蓋をされ股ぐら嬲られ無理矢理に
華に恥水漏らし飛ばすまで尻穴貫かれるとぉ?
なんとまぁこの上なく羨ましく。私の飼い主は一つ憶えの洋服遊びだけだと言うのに」
縄飼会と呼ばれる名も場所も黙するべき同じ趣味を持つ女性の定例会の席で
恥ずかしくも誇らしげにこぼした雪華の告白。それに集る一同が椅子を蹴飛ばし鍔を飛ばす。
「どっ。何処の御人に飼われているのですか?秋月の奥様」
「かっ。通いの茶屋は何処なのです?」
「縄は太いのですか?細いのですか?」
「雌犬の散歩はして頂けるのですか?勿論。鎖首輪つけたままで」
嫉妬交じるも羨望称賛と羨やむ同胞のわめきに気圧され
「私奴の飼い主様は女装家然り且来素子様で御座います」
二度目に恥ずかしくも誇らしげに小声でも皆に聞こえるように雪華は飼い主の名を漏らす。
「おお。且来素子様。素子様・・・」皆々が其の名を口中で何度も復唱する。
其れ以降しばし寧ろずっと且来の自宅の回りにて
何故か自分が好む色の着物を着込む女性が歩いていたり
全くもって知らない女性に目配せされると思えば深々と頭を下げられたりと
どこか釈然としない散歩を且来は楽しむ日々と成る。

「入らないの。入らなかったの・・・。」
最近は遅い時間迄かかる任務を断固として断る且来八尾狐少佐は
娘が味噌汁を予想頃には自宅へとたどり着く。
「何が入らならないと言うのだ?玄関の鍵穴か?あれは先日油を指したぞ?」
すでに待ちきれると手を打ち鳴らし飯前の感謝の言葉を先人様に告げて夫が唸る。
「何時も家事と家屋の手入れご苦労さまです。貴方。
入らないの全部。入らなかったのあの人の・・・」
「母様の想い人の長いやつでしょ?」
着替えもせずに膳の前に座る母八尾狐に娘が飯碗を渡しながら聞く
「長くはないわ。寧ろ。普通よ。多分。
其れよりもぶっといの咥えてるのよ?最近ずっと。なのに先っぽしかはいらないの」
「父者様の極太ですからね。長いし。私も最初は苦労しました。最初こそ」
「あれは一気に腰を下ろすのよ。味わってちゃだめ。太すぎるもの
其れに比べ短くて細いのが入らいのよ?誤魔化すのが大変だったわ」
「御名子の方々。入る入らない談義はともかくとして飯刻で在るぞ
もうちょっと慎ましく世間を騒がす事件の話題とか
華に水やるつつましき女性の話題とかないのか?我が家の御名子は露骨過ぎていかん」
四杯目の白飯をくらいながらも何処か愉しげにも且来が嘲笑う。

「きついわ。ぎちぎちにきつくて襞壷一杯に貴方のが入ってるのよ?
なのにあの人のははいらないの。きっと壷が貴方の形になったのね
形違うなら無理もないわ。口で咥えても萌えないの。只に棒を舐めてるみたい」
其の夜も例の漢との情事を夫に告げる八尾狐ではあるが
何やら上手く物事行かず変わりゆく身体に不満げに苦言を垂らす。

「ねぇ~~~旦那様。背中の入れ墨の女性って私でしょう?
随分と脚を開いて喘いでいるけど。恥ずかしいわ」
夫が帰宅した日こそ一緒に風呂には入れぬが日回れば共に湯に浸かる。
「自分の妻と家族くらい。男児なら背中に背負って死道歩く覚悟である」
「見知らぬ土地を歩けば厄災も寄ってくるわ。首を千切られた後なら尚更に
でも脚を開いた私の股ぐらを舐めようとしてる女性は誰なの?
娘语汐ちゃんは後ろから私の乳房を嬲ってるわ。それならこれは誰かしらん?」
家族と言うには人数が合わない事を眼光鋭く言い当てる妻。
「そっ。其れはだな。頭をは殴られ川海に堕ちる前に縁を絡め
ちょっと約束を果たすと指を切った相手でな・・・・ごぼごぼごぼ」
ぺらぺらと有りの儘をしゃべれば少々不味いと湯面の下に且来は顔を埋める。
「説教ね。二年ぶりの説教ね。语汐ちゃ~~~ん
座布団一枚と荒縄用意して頂戴ねぇ~~~。縄は極太でぇ~~~」
樫の木の風呂場に妻の声が大きく猛て吠え響き渡る

役所仕事の書類上に且来素子軍曹の処遇は面倒極まりない物となる。
軍に属する軍曹が娼婦街で生首をして発見される
関係者が遺骸を確証をもって其れが且来軍曹であると見極める前に
複数の輩が其れと認めしたがって漢縁の風習に則って髑髏と焼かれる。
それは悪事では寧ろ無く直ぐに蛆が湧き遺骸人を汚すと信じられる信仰もある。
故に責める事誰一人とせず物の間が悪いのは首から下が川海に流れて沈んだことである。
自治領管轄役所はその妻が届けた死亡認書にポンと判子を押して棚にしまうが
揉めたのは本国倭之御國の帝都民、しかも一介の女装家漫才師を漢縁の地まで
呼び込んでまで軍属とさせた将校達である。
権力に連なる軍将軍将校に取って思惑策略は常に絡む。
どれだけ甘い汁を吸えるか。どれだけ金を懐に入れられるかと誰もが指で勘定する。
軍の思惑に翻弄される一介の女装家であるが本来成すべき軍葬を由々しき力が押さえつけ
無下に断った手前のその二年の後に真逆且来素子軍曹が頭をちゃんとくっつけて
自宅に戻ったと成れば軍上層部は蜂の巣を煙で炙った騒ぎと成る、

少なくても先に発行されしも
領地上州自治國に渡航し現地陸軍情報将校を妻として娶り
幸せな夫婦生活を送りつつも現領地にて差別迫害の対象にされる人々に
愛と勇気を与える女装家として活躍して行くものと命ず。
その命令を且来素子軍曹は潔くも正しく受け取り身を粉にして身体を動かし
連隊規模の軍平を率いて大小成れど成果を上げていたのだ。
あまつさえにも娶った妻を二日と開けずに可愛げに愛で弄ってもいたのだ。
正しく命令を遂行した兵士に功績を認めずにも葬儀さえ一銭も出さなかったと成れば
軍の古見に関わらずも面子は丸つぶれである。
本国倭之御國陸軍の猛将大将方々にこれが知れたら手が飛び腕が飛べば首が飛ぶ。
軍曹の妻が夫の健在を上司に報告する物の軍への復帰は特に願わなかった。
脚を棒にと長く歩いた旅の垢をしばし落してやりたいとの妻の想い成ればこそ。
否。其れだからこそに軍の一部の将兵は首に水手拭いを浸して恐怖に怯える。

恐らくは大抵の人が日常繰り返す日々の内に何時しか忘れて久しくも
漢縁之御国倭上州自治区の外周の線路を奔る武装列車の列が人々を守るこそに平和に視える事で有る。
轟音虚しく疾走摺る二十と連なる列車あればこそ人々は其の中で日常に浸れる。
其の列車の壁に近づくほど肌に振れるは戦の風匂いと血の香りと有る。
近年は数に限りある列車運行の隙きを付き線路のこちら側になだれ込んでくる漢縁の兵軍も数多い。
且来も丑三つに国領線と呼ぶ線路の上を盗んで歩き自宅へと戻ったのである。

「うむ。漢縁の酒は香ると言うものがない。一々と喉を突く刺激も悪くはない。
否然しと・・・やはり女の唇に香る紅の様な倭之御國仕込みの酒は良い。
五臓六腑を焦がすほど強くも次朝にも酔いが残るのが又に良い。
親父。もう一枡注いでくれ。」如何にも大酒呑に絡み酒を楽しむ倭の山伏と且来である。
さして高い酒でもなく貧相と言える飲み酒屋の一列卓に肘を付き
枡酒片手に烏賊の塩辛摘みに又枡酒を煽る。
今夕も囲い女を嬲り躾けた後でもあろうに妻も遅くとなれば時に娘も若漢遊びに精を出すなら
暇を持て余せば店働き女の小さい尻を我慢我慢と目で盗み枡酒の杯を重ねるのも悪くない。

「そろそろ枡を置いたらどうだね。且来素子准尉殿。
その辺にして置かぬと明日の軍務に差し控えるぞ。
だが次の酒は私が奢ろう。親父。倭東郷米絞を熱燗で二本頼む。
耳に届くと言うよりは生暖かく熱を帯び躾を求める女の濡声の如き
十分にも殺気を絡めた声が首筋を撫で回しぞくりと悪寒が奔る。
其れまで気持ち良くも安酒を量で誤魔化た良いが瞬で溶けて覚める。
これではせっかく奢らる熱燗も只の御湯にしか思えまい。
「小生。もはや軍属であらぬ故。
況してや弐年と前に首を千切られ胴体は海藻に流れて消えた身。
見知らぬ漢縁の土地を脚を棒にと我が家にたどり着いたばかり。
二度目に申せば准尉等ではあらぬ故。人違いではごさらぬか」
流石に良いも冷めたし機嫌も悪くも成る。
二度の徴兵に応じ二度目は特に理不尽な命令をこなしたのだ
娼婦街で自分の身に起きた事は忘れも出来ないし
自分の妻を人形扱い摺る漢も気に食わない。一度は死人遺骸と扱われたのだ
軍葬も拒み妻が質素な葬式ですましたとも知る。
軍命や軍に関わる気など今更毛頭に有るはずもない。

「女に冷たく当たると罰が当たるぞ。准尉殿。
どれどれ。私が酌をしてやろう。遠慮なく猪口を掲げるが良い。
それとも貴殿は惚れた腫れたの女の顔に泥を塗るのが趣味の愚弄者か?」
くすくすと漢を誂い虐めるように口元を歪め徳利を傾ける。
女の顔にと恥を塗るかを睨まれればしかたない。それに女の声にべとつく殺気も消えて溶ける。
誘われ促されるままに且来は猪口を上にあげれば女が笑顔で酒を継ぐ。
太い指の間の猪口に酒を継ぐと成れば気を付ける。
白く濡れる倭女の指先はしおらしくも艶やかに猪口に酒を注ぐ
十分に猪口に酒が満たされれば女が顔の向きを変え且来の顔に視線を注ぐ。
倭美人と言えばその女の顔を指すと成る。
上目使いに睫毛を長くゆらし瞬けば其の音さえ耳に聞こえるに違いない。
迂闊にも接吻一つも強請り頬を包む指が間違って其の目の触れるも摺るならば
指に激痛奔り血が垂れる程に眼光鋭く刃物の如し。形の良き鼻は仮面の様な顔貌に生気を与え
厚ぼったくも濡れ開けた唇の隙間に八重歯が尖る。
もっとも其れよりも且来が真に怯えるは美顔の半分近くに張り付く爛れた火傷痕で有る。
視線が絡んだと思えば火傷痕の肌がすっと近づき視界に呆ける。
あっと声を漏らす間もなく口中を女の朱舌が犯したかと思えばぬちゃりと粘付き
ぬるりの舌が絡み離れると互いの唇の間を唾糸が結ぶ。
「本日をもって
倭之御國上州自治区・陸軍大鉄道管理局運行局に着任した道筋噂徳成しずゑ上級大佐である。
うら若き処女の私の唇を強引に奪ったとなれば道筋の家に連なる者が許さん。
たった今から御前は私の者だ。最後まで付き合って貰うぞ
女装家・且来素子陸軍准尉」
「ちらっと顔観ただけだし。未だ。酒のんでないし。
嫁に怒らるし。娘に張り倒されるし。妾に呪われるし・・・
できるなら軍務免責して頂きたく・・・未だ処女なのですか?」
完全に軍属の女性大佐に騙され釈然とぜずに猪口も下ろし且来はいじける。
「あっ。こら。猪口を置くな。さっさと飲め。高いんだぞ。其の酒
態々本国から取り寄せたんだからな。契の盃だぞ。漢なら一気に呑め。
呑まないなら私が呑ましてやる」
うららかで清楚に見えたかと思えば全くの嘘である。軍属の女性は皆癇癪持ちであるらしい。
一杯に交わす杯がよほど大事なのか未だ熱い熱燗の徳利を勢いに任せ得て掴み上げ
自分でごくりと喉を鳴らして呑むかと思えば且来の頭を無理に使って口を押し付け
五臓六腑を焦がし溶かす倭の銘酒を注ぎ込む。
「ぷはぁ~~~。旨い。このお酒美味しい。流石倭東郷米絞であればこそ。
契ったからなっ。互いに杯を交わして契り縁を結んで夫と妾。間漢と妻
飼い主とわんわん。だからな。ひっく。兎に角云々・・・
御前は私の物だからな。ひっく。うぷぷのぷ。親父。勘定だっ」
玄人好みと言える度数の高い酒を一気にと喉に流しこみ
且来に呑ませるために急に立ち上がった途端に女性大佐の脚が絡んでもつれる
地面に転がすのも一興であるが此処は礼儀と四肢を支えてやる。
「流石。夫婦だな。何?重婚は嫌だと?
安心しろ。ちゃんと挨拶の寿司折りは届けてある。特上であるぞ
私は尽くすぞ?どっかの大佐の股ぐらを撫でる女よりもな。
処女だし。私処女だし。初心なの・・・うぷぷ。ぐえ・・・」
これ以上絡まれると面倒だと酒飲み屋台の影に潜む軍属の将校を睨み呼び。
道筋噂徳成しずゑと名乗る大佐の身体を預けるが身体をくねらせ戻ってくると
酒臭い吐息ので二度目に且来の口中に舌を絡め歯茎を愛撫し
「末永く可愛がって遅れ。私の御前様」声を濡らし千鳥足で部下に身体を支えられ軍車に担ぎ込まれる。

「誰れで有るか?
あんな女に高い酒充てがったの?貴様か?貴様等グルだな?最初から?
何だど?隣弐件の店全員入れ替わり網を張って待ってたと?
全員か?二十四人で待ってたと?又、軍は無駄に金をつぎ込むのか?
呼べは良いだろう?家の呼び鈴ピンポンすれば良いだろうがっ
其れよこせ。其の酒。儂のだ。瓶ごとよこせ。この馬鹿二等兵め
摘みだせ。摘み。これが呑まずに要られるか?
何だと?勘定だど?そんなもの・・・あっ・・・」

【拝啓。且来素子准尉殿】
此度は死線を潜り超え弐階級特進めでたく祝いとする。
尚速やかに下記命令を実行すべしと申しつける

漢縁之御国倭上州自治区外周戦線において
少々じゃじゃ馬で手の施しようない陸軍将校を軍妻として娶り
朝に夕に情を注ぎ夜にはきちんと躾け嬲り散歩も欠かさず愛を育み
外周戦線を奔る列車を断固遅れなきように運行し
時に兵士を鼓舞し時に民を手を握り声を掛け助ける
情け立派な女装家として活躍する事を命ずる。

注)貴殿はすでに民間役所にて結婚届けを提出に至っておるが
今回のそれとは似て異なる物で有り陸軍人事科が認める飽く迄も
任務を遂行するための形式的な軍婚であり倭之御國の法律にも
漢縁之国の両方の法律に照らしても全く抵触しないものと判断された事を留意されたし。

「何?この超難解でいい加減な馬鹿 命令?
注意書きまで付いてるよ?ちゃんと・・・。
二等兵君。怒鳴って悪かった。すまぬ。
ちょっともう一度。これ読んでくれる?理解に苦しむ?陸軍って怖い。
あと・・・安酒で良いから注いでくれる?噛鯣あぶってくれないかな?」

「二度と会えないと成るわけじゃなし、特上寿司折り食べちゃったし。
休暇も多めにとれるらしい。其の度に縄で括って自宅まで引きずって来るって言うし。
言ってらっしゃい貴方様。あの人の貧相な奴で我慢できるから?」
「漢遊びで忙しの・・・。
でもやっぱり父者様の縄使いが一番旨いの。御土産よろしくですの」
妻は寿司折りの賄賂を受けっ取った手前に納得すれば
娘は若い漢のと遊びを憶え夫と父の立場はど声やら。
「弐年も家箱に通いはいって居たのです。
待っていろと言われれば幾らでもお待ちします。
鉄道車両に飛び乗り忍んで行く等造作のない事で御座います。
其れよりそろそろ夫の薬に毒の数滴垂らしても宜しいでしょうか?」
果に紐鎖で繋ぐ飼い女も夫に毒を盛るを余興に且来の帰りを待つとも言う。
少しは遠いとなれども互いに手の届かぬ距離でも無ければ其れは安心と皆が頷く。

道筋噂徳成しずゑ上級大佐。
倭之御國に魔人有り。戦さ場に道筋の名字冠する者有るならば
敵兵首を千とは成ればその半分の味方の手足が千切れ飛ぶ
されど敵の最後の一将一兵まで全て狩り殺して魅せるが道筋の家の者。
道筋噂徳成しずゑと名を冠する女性も又に家の名に恥じずも
その姿のこれも道筋家の物である。
暗闇に道と筋を引き大損をしても最後に徳と得る。
倭之御國の古逸話に登場する商人の家筋の末裔の者達で有るが
其の噂徳の名を継いだ者は皆にと身体に大きな爛れ火傷を刻む。
先ず顔の半分は必ず醜く爛れるから人前に出る時は布で覆う。
うら若く適齢を迎えるしずゑが初対面の且来に覆い布をせず儘に
素顔を晒したのは其れ相当の覚悟たあっての事だろう。
又それぞれに身体に刻む爛れ火傷の差異もあれば場所も違うし
何故火傷を負ったかの理由はそれぞれ違う。
在る者は成人の儀を済ませた夜に就寝するが火付け強盗に会い
家人を先に逃した為に半身に火傷を追う。
在る者は若き日の初陣となる戦さ場を仲間と乗った車両に
焼夷弾が空から堕ちて自分を犠牲に戦友を先に下ろした為に
その全身に火傷を刻む。
道筋噂徳の名をしずゑが頂けは誰もが爛れ火傷に苦しむが其の美しい顔と
白い皮手袋に隠す爛れを何故負ったかは言わず知れず仕舞いである。

なんとも馬鹿げた命令書を何度読んでも文字は変わらないからし
家族なり妾なりの見送りを受ければ前に進むしかなく
軍用車に積まれて丸二日の後。倭之御國上州自治区・陸軍大鉄道管理局運行課とやらに
たどりついてみればある意味壮観な場所であった。
漢縁の土地の天空を優雅に泳ぐ鴉鷲の目を借りて遥か上からそれをみれば
まさに軍用武装列車の巣窟と言える運行基地である。
一台の列車に連なる車両は凡そ弐拾と成るが時と任務に其の数は変わる。
前から数えて弐両が煙吐き出す動力車両でありその次は燃料の石炭を山を積む。
それから後ろは本格的な武装車両となる。
特徴的となる列車大砲車は勿論三連砲車。弐連対空機銃車。爆砲車等の武装車両を挟んで
砲手操作室。食道車両・作戦指揮車両・兵站車両と兵士個室車両と連なる。
其の組わせも状況に寄って変われば四六時中に爆煙を上げて駐列場を埋め尽くし
基地の司令書から飛んでくる信号弾無線に寄って管理運行がおこなわれる。

「大丈夫だろうか?あの指揮列車管。随分とアホ面だっだぞ?御前様」
「確かに嫌味のひとつも垂れていたろうが。個の列車は彼奴の指揮下で奔る列車であろう。
自分より偉い大佐殿が更に美人と乳房が揺れるの成れば漢気の一つも魅せたくもなるさ」
道筋大佐と且来准尉が視察訓練として乗り込んだ武装列車の指揮管は二人の顔を見ると
御託を並べ知識をひけらかし講釈を垂れた痕に自分より軍位の高いしずゑの身体を視姦し
次に位の低い且来に嫌味を垂れて嗤い蔑んだ。
其の名を知り頭の中にさらりと知識があっても実際に列車の運行に関わるとなれば
一度や二度は領地線の上の線路を列車で奔る経験を積む必要が有る。
列車を指揮する者にとっては名の通る上官がj自分が指揮する列車に乗るとなれば
誉であるが同時に邪魔でも在った。御時世を巡る状況は悪化の一途をたどるからで有る。

国境と成る領地線の上を武装列車が煙を吐いて一周するには凡そ弐週間となる。
しずゑと且来に取っては成れぬ事ばかりでも有るしそれぞれに学まねばならぬ事も多い。
軍婚夫婦を押し付けられたとはいえ、夫であれは妻でも有る。
互いの距離も未だ遠くもあり一々にぎこちなさがまとわりついてしまう。

「これで良いのか?初めてで解らぬな。
余りじろじろ観るな。馬鹿夫様め。恥ずかしいではないか
こんな肌の爛れた女の四肢など観ても吐き気しか出ぬぞ」
「十分に美しくあり見惚れるぞ。傷肌あればこそ際立つ御名子の濡れ肌ではないか。
痛むのだろう?薬塗ってやるから側に来い。しずゑ」
二人一緒に過ごせる時間は短い。互いに気持ちを確かめ繋ぐ時を軍務が邪魔する事も多い。
「すまぬ・・・有難う。御前様の手は大きくて温かいな」
まだ夫と言えども漢に爛れ肌を魅せるのは抵抗もあるのだろう。
時々邪魔だと苦く罵る乳房を手で隠し背だけを向けて火傷薬を塗って貰う。
そろそろ適齢である割には未だ漢のそれを知らぬと言い切る割には
しずゑは甘え上手で特に朱い舌を良く絡め接吻を強請る。
ちゅるりと唾を吸い糸とを引いた痕に忙しなく手を動かし首枷を首に括る。
「本当に初めてなのだ・・・それに恥ずかしい・・・」
長い睫毛をはたりはたりと瞬かせると首枷に繋がる手持ち輪を夫且来の手に持たせる。
出来るだけ観られない様にと気を使い隠した乳房も尻も露わにさらし
身体を折り曲げ冷たい車両の床に手を突き膝を突いて四つん這いに成る。
「貴方の雌妻を散歩させてください。お願い・・・」
最後の言葉を呑み込むのは今更ながら自分がしてる行為への羞恥であろう
決して今まで他人には晒した事のない爛れた火傷痛々しいも濡れる肌の全部魅せ
夫漢の脚元に乳房を揺らし尻を突き出し夫が脚を前に出せば
ひたりひたりと手を床に突き自分も付き従う。
犬の散歩そのままに狭い私室車両の中を三週程回り夫の歩に合わせ床を這う。
其れがすむと褒美とばかりに乳房を押し付け夫に抱きつき舌を絡め情を求める。
「恥ずかしい。あんな格好で床を這うなんて・・・恥ずかしい」
大佐准尉夫婦の特権であれば少し大きな寝台に夫の胸に潜り込み顔を深く埋めてぼやく。
「訳の解らぬ軍命にそこまでして従う事も有りもせん。
況してや誰も観てないのだ。少々手を抜いても責められんぞ?」
「嫌だ。ちゃんとする。御前様の飼う雌豚に出来て私に出来ぬはずがない。
それに首枷に繋がれるのは安心出来る。だから明日も三周回る」
嫉妬を隠さず腕に力を込めてぎゅっと抱きつく様は女はこう在って欲しい物だと笑い
且来も答え軍嫁を抱いてやる。

「あの二人。軍夫婦とか軍妾とか言っては何時も一緒にいる。けしからん」
「否。夫婦ですから其れで良いのでは?指揮官殿。
其れにちゃんとそれぞれに軍務をこなしてますよ。責める言われはないのでは?」
「けしからんと言ったらけしからん。時に激しくも良く揺れる乳房がけしからん」
轟音響き直走る指揮室の中で頭の上に通る手すりにを握りながら副官は
軍務中に他人の嫁の四肢を視姦してるほうが寄っほど怠けてるのでないかと
思うが口を閉じ電光瞬く計器盤に目を通す。
状況は常に良くない。國領線の線路を奔る御國自慢の武装列車も外れくじを引くことも有る。
それが上司でないかと未だ妄想豊かに拭ける上官の間抜け面に呆れて言葉も出ないと成る。

「ふむふむのふむ・・・今日も操砲の邪魔にならない程度に揺れそうな・・・げふ」
且来の腹と鋭い角度を維持したままに鉄拳が喰い込む。
「今日も薬包を抱えて砲台詰めるのにとても邪魔になりそうな位に
お腹を突き出してる且来准尉殿。息災で何よりです」
「ふむふむのふむ・・・痛いぞ。相変わらず鋭い鉄拳であるぞ。
粗胡椒少尉。もうちょっと優しく。今朝の風は嫌な風であるな・・・」
「軍学校では拳闘部に所属してましたので。
朝一番で私の身体を舐めるように観てるからです。奥様がいらっしゃるでしょ?」
「あれは確かに儂の嫁であるが軍婚であるかならな。
任務が終われば溶けて消える情と縁らしい。それに定期チェックは大事だからな」
且来と軍妻が軍務で詰める担当列車砲台は離れている。
しずゑが担当するのは所謂列車主砲であり遠距離の敵を打つのに使われる。
相当な火力を誇るが指揮と操作の手順が複雑でも有る。
且来准尉が乗り込むのは中距離列車砲台である。
勿論遠くの敵に撃っても砲弾は届かないが少ない人員で操砲出来るのと
連射が可能であるのが特徴であるが薬砲を詰める且来の腹が邪魔になりそうだと
相方を止める粗胡椒少尉は何時も心配で堪らない。

「しずゑ・・・。其れはいかんぞ」
その朝の軍勤にで掛かる前。爛れてはいない方の反面の顔に薄く化粧を乗せ
最後に軍帽を結った頭に乗せたしずゑを軍夫が諫める。
「何が悪いのか?腹の出た我が軍夫よ・・・
こんな美人の私にあんな事させるとは不届き千万。万死に値いするぞ」
軍の任務を遂行摺る間だけ夫婦夫婦を演じるしずゑと且来は目下喧嘩中である。
漢関係の其れに疎いしずゑに取って夫婦の間事に必要とされる事に
疎くも有り恥ずかしくもあり未だ抵抗もある。
「いや・・・そうではないぞ。昨夜の事はそれはそれで有るが
その首枷を付けたままでは不味いのではないか?」
「あっ・・・」
そこで初めて自分がどうゆう状態であるのかを悟り
とたとたとまだ寝台の縁に腰を下ろす且来に近寄ると無言で立ち尽くし顔を背ける。
魔神とも呼ばれる名字名を継ぐ癖に時に小さなボケを噛ますしずゑの首に
括った枷を外してやる。夫婦の営みの形にも色々有るしそれが歪んで居てもであるが
しずゑは未だ床を張って三周回るのにも抵抗もあるらしい。それだけ初なのだ。
唯一安心出来ると言うのが首枷を嵌めると言う物であり
時に軍勤に出かけると言うのに枷を付けているの忘れて砲台車に向かおうとする。
目に見えぬ夫婦の絆とは違いはっきりとした形を記す首枷と鎖で有るが
その所有権が主人にあれば鍵をはずのは夫且来の役目でもある。
かちゃりと音がして細い首に冷たい風が振れて撫でしずゑは枷を外すのに
邪魔で有ろうと髪を支えた手を下ろす。
はらはらと長い髪が肩と背中にへと堕ちていく。
間が開いた・・・。
且来は手持ち無沙汰に寝台の縁で外したばかりの枷を手持ち無沙汰にゆらゆら揺らし
しずゑは態とらしく髪を漉いて頭に浮かぶ言葉を口には出来ないでいる。
互いに何か声を掛けるなり抱きしめるなりすれば喧嘩の一つも収まるだろう。
痴話喧嘩夫婦喧嘩に主たると悪いのは大抵漢と決まっているが
大抵漢は意固地で馬鹿で不器用だ。特に且来は意地を張る。
しずゑが折れて受け入れば且来も頭をきちんと下げるがしずゑは初でもある。
息を呑み吐て一緒に言葉を伝えようとした途端。
しずゑの腕時計が煩く騒ぐ。軍勤の10分前を知らせるアラームで有り
何も言わずに軍帽を頭に乗せきすびを返し軍婚の契を結んだ妻が扉の向こうへ消えて溶ける。

「来ると思うかね?」
「はい。多分来るでしょう」
来るに決まってるだろう。そんな事も分からないのか。こいつは。
髭の手入ればかりして後は軍嫁の乳房を視姦するしか能がないのか。この上官は。
轟音猛る速さで疾走する指揮車両の中で暇さえあればこれで何人とも女が寄ってきたと嘯く
自分だけが格好良いと思ってる髭を手で弄る馬鹿な指揮官を
連峯と家名を継ぐ副官が心の中で罵る。
「そろそろ砲撃速度に落した方が宜しいでしょう」
「まだ。良いのではないか?今日の今今に来るとは限らん」
「否然し・・・」
白色交じる髭先を指で挟みながらじろりと連峯を睨む。
前回の襲撃もこの地で起きたのぞ。あの時も負けているのに。
同じ事を繰り返すのかこの馬鹿髭男爵もどきめ。
心の中で罵る。
時代のその先に名将匠の戦術使いと皆に呼ばれる様になる連峯と家名を継ぐ副官が
苦い過去の経験から警鐘を鳴らすのは武装列車が進むこの先の地形にある。
広く平らな平地が長く長く続き平坦な線路の上だけを一方方向に進む列車を
敵の戦車が平気が襲撃に摺るにはとてもとても寧ろ絶好のチャンスである。
列車は急に止まれない。まさにその通りである。
圧倒的な火力を誇る武装列車であるからこそ其の運用は複雑となる。
一定の速度。しかもそれなりに疾く奔る列車の上で
各種砲台を敵の戦車にむけて砲を回し標準を合わせ射撃摺るには条件がいる。
一定の速度と安定した射撃姿勢。
つまりは國領線の上の線路を直走る巡航速度と戦闘砲撃速度に違いがあるのだ。
当然巡航速度は疾くて当たり前だし戦闘砲撃速度は遅く有るべきだし安定も求められる。
外装防壁装甲の有る砲撃車両もあれば粗末な荷台に無理に砲台を乗せた物もあるのだ。

兎に角にも倭之御國上州自治区・陸軍大鉄道管理局運行局が誇る武装列車が
実際に戦闘を行うには有る一定の速度までスピードを落とす必要があり
つまりは鈍重とまでは行かないが敵戦車の的に成りやすい。
更には特にと戦闘を開始するには巡航時の妨げにならないようにと考慮された
格納されている砲台を動かす前に先ず外装屋根を開ける必要が有る。
これは蒸気と油圧を用いた仕組みであるがそれ故に開閉までに時間も掛かる。
操者兵が紐を引いたらぱっと開くとか杖をまわしたらポンと開くなんてことはないのだ。
5分・・・。
7分と在っても髭をひたすら弄って指揮車の窓を呆然と見てる指揮官。
頭の中で道筋なる女を嬲る夢想でもしてるのだろうか?
馬鹿だろ?魔人と呼ばれる女を相手に夢想してる場合か。
連峯は堪らず成るべく小さな動作で部下に指示を出す。
髭弄りの司令官を馬鹿だと思ってるのは連峯だけでは無く
そして蓮舫以上に苛立ちを憶え我慢していた操車係の部下は操作棒に手を掛け握る。
隣の者は息を止め計器盤を握り反対の位置では警笛係も操桿を握る。
「指揮官?」
9分もの長い沈黙を破り堪忍袋が切れた蓮舫は拳を握り皮手袋の音を出し声を掛ける。
「あっ。すまん。そろそろ頃合い・・・」
やっぱりか・・・こいつ馬鹿だ。いつか殴ってやる。
憤怒に溺れるも最後まで聞かずに叱咤を飛ばす。
「巡航速度解除。戦闘速度へ移行。各兵準備。」
「巡航速度解除。戦闘速度へ移行。各兵準備。警笛鳴らせっ」
やっと発せられた命令は兵士の手足に躍動を与える。
直ぐに武装列車の速度が堕ちる。警笛が成る。
砲弾車両もこれで動き出すだろう。戦闘出来る状態に成るだろう。

「警笛。戦闘準備警笛成り。信弾は青。敵影見えず。
繰り返す。戦闘準備警笛成り。信弾は青。敵影見えず。訓練在らず」
運悪くも昨夜のアレはアレだった。夫のアレがあんなにも・・・。
それから朝の失態はまずかった。道筋家の名に連ならるのに。
油断していたとはいえ、主砲台車の壁に付けられた無線と車両に伝わる衝撃に
訓練された身体は雷神の様な活力をしずゑに与える。
回りの者には神業然りと視える手付きの速さで操作釦を叩き
操桿を引き主砲を包み隠す外装屋根を外していく。
「何見てる?急げ。手を動かせ。呆けてるな。弾込め。開始」
敵影あらずも戦闘態勢である。此処で遅れを取るわけにはいかない。
自分の叱咤で兵が奔るが彼らが何を観ていたまで解らずも
外装屋根が空き主砲が國領線の向こうを向いた時。

「且来准尉。お腹・お腹っ」
「わかっておる。でぶの特技はな好きな時に腹を凹ませる事が出来るのだ」
何処かの漫才のような余り受けない冗談を飛ばしつつも。
外装布一枚を繋ぐ綱紐を引き砲台をむき出しにする。
且来が詰める砲車は外壁がない。荷台車両の上に中距離砲台が乗ってるだけだ。
「こら。御前。こっちだ。こっち。ここだ。御前は」
訓練学校を出たばかりの新兵を怒鳴り指差し粗胡椒少尉が飛び乗る砲台の下に
我がみ車輪取っ手を身体全体で押し回す。
且来と粗胡椒少尉。それに新兵二人が担当摺る車両は一々全部が手動だった。
それ故に新兵二人のちからよりも遥かにまさる且来の腹力が他の砲台より疾く回る。

「何あれ?なんか視える・・・?」
粗胡椒少尉が砲台の上で遥か彼方を見つめる。
そして・・・且来達の隣の車両が弾けて飛んだ。

最初に命令を発するべきであった時刻から
凡そ12分。最初の車両が被弾し指揮車掌も軽く揺れる。
「被弾有り。損害1・・2・・・7両。半壊若しくは全壊」
「敵影発見。戦車中規模。然し射程距離に入ってません」
少し揺れた指揮車両に怒声が上がる。
損害報告と命じる上官の言葉等待ってはなれない。
状況は刻々と移る。瞬時で的確な判断を上官に強いる為に兵士が叫ぶ。
「遠方に敵影らしき確認。巨大です」
「敵兵視認確証。我等。敵と遭遇。船です。陸を奔る船ですっ」
直接に外を見張る兵が無線を通して伝える。

それを聞いて蓮舫は望遠鏡を握り窓を観る。
何処だと探す必要もなくに距離はあれどもその船は見える。
巨大とは言えずにもそれなりに大きい船はどう見ても船である。
不思議な事に船がどうやって陸の上を奔っているか蓮舫にはわからない。
遠くはなれてもいるが何とか分かったのは船の側面に四角の部位がずらりと並んでいる。
四角形の部位の中央に穴が空いてるようにも見えるがそれだけだ。

「砲の。砲の稼働率はどれくらいだっ?」振り返り制御盤の前に座る兵の背に問う。
「三割強っ。四割に届きませんっ。これでは・・・これではまともに戦えません」
あと4分。否。あと3分と早くに戦闘速度に移行していれば
砲の稼働率はほぼ全部まで達していただろう。
隣で未だに髭を弄り黙り込む司令官の頭を殴りたい衝動に蓮舫は強く狩られる。

「装填良し!油圧機構異常なし!撃てます。道筋大佐」
遅い遅いとその声を待っていたしずゑは標準の中の敵船を覗く。
自分に才能があるとは思わない。それでも時々身体が勝手に動き神速の様に技が冴える。
この武装列車の中でも最速で主砲を展開し敵船に弾を打ち込める状態に有るのは
勝手に動く指と道筋のお陰だろう。

しっかりと標準の真ん中に敵船を納めてしずゑは引き金を絞る。
ドンっ。
防御栓を耳に嵌めていても砲身が吠え振動が身体を包む。
手応えはあった・・・。

「主砲発射。敵船着弾迄・・・4・3・2・1着弾せり・・・」
確かに敵船にあたったはずである。命中必死の一撃で有る。
否然し。土煙があがり其の向こうに視えるはずの爆炎があがらない。
しかも常に移動する自分達の列車と同じ速度で当たって上がった土煙の向こうから
悠然とも無償の姿を魅せる悠々無敵の陸の上を敵船が奔る。

「外したのか?私が外したのか?」呆然と一瞬に瞬きすると
「次弾装填!道筋大佐。行けます」無線機に煩く声が成りしずゑは我に変える。
実際の戦闘時間は極短かったと言わるこの戦いの中でしずゑは3回の砲撃を敵船に行い。
その三発とも見事に敵船に当てたのにも関わらずも敵船は土煙を激しく上げだけで
一切殆ど無傷のままにしずゑ達が砲を構える列車に攻撃を咥える。

「あの砲弾・・・可笑しくないか?」
「何言ってるんですか?おでぶ准尉。早く次をっ」
「厭。御前が何発撃っても当たらんぞ?あんな遠くの敵に届くと思うか?」
極めて正しくも正解で在る事を指摘され粗胡椒少尉は標準機から目を離す
「砲弾が可笑しいってどうゆうことですか?おでぶ准尉」
「うむ。こっちの列車は向こうより少し速い。
だから敵弾は徐々に後ろの車両に当たって行く。
それを防ぐには偏差射撃法が必要になる。そうでないと前には当たらん。
なのに当たる。観る限りあの船の砲台は固定式だ。
砲弾が曲がっているとしか思えん。」
「なに馬鹿言ってるですか?撃った砲弾が曲がるわけ無いでしょ。うへ」
随分と使い込んだつまり中古の砲台席に座る粗胡椒少尉の腰を且来の腕が掴んで引っ張る。
二人転んだ先にはさっき怒鳴りついたばかりの新兵の下半身がどさりと堕ちる。
頭を巡らせれば粗胡椒少尉が一瞬前まで座っていた中距離方台が瓦礫と崩れている。
一瞬遅れて頭が追いつき且来と粗胡椒少尉の車両に敵砲弾が当たったと知れた。

「損害多数。稼働砲台残り3・・・敵船速度加速・・・追いつかれます。」
元々に戦闘態勢に移行する前に敵に叩かれたのだ
その時点で負けだろう。後少し判断が早ければ撃てる砲は多かったはずだ。
出来ることは余りない。何せ線路の上を奔るしかできないのが列車だ。
時間が立てば追いつかれて敵の砲弾が振ってくるだろう。

「中間移行の車両を切り離せ・・・。何ならもっと前でも良い」
その時まで何一言も離さなかった髭弄りの司令官が威厳のる声で命令する。
「なっ何を言ってるんだ。車両には兵士が・・・」
「車両を切り離し重量を削れば速度が上がる。
この先には山がある。トンネルもある。中間基地もある」
「それでも。それでも。貴方は兵見捨てろと言うのか?」
あまりに無謀で余りに馬鹿な命令に怒り任せ拳を連峯は拳を上げる。

「儂は生き残らねばならん・・・」
殴り掛かる連峯の顔前に陸軍速射拳銃の銃口が向いている。
髭を捻るだけのやつかと思えは銃の速抜きも出来たらしい。
「上官に歯向かう時は重々に気をつけるばべきだ。老獪と侮ってはいかん」
確かにそうであった。こいつは只の馬鹿ではなった詐欺師である。
しかもお飾りの司令官でもない。
じろりと睨む連峯に銃口を向けたまま素早くも列車管理操作盤に近づくと
慣れた手付きで弄りだす。まるで幾度も練習したようでもある。
最初から戦に負けた時の為に常々準備してきた様である。
「待て。待ってくれ。切り離された向こうの兵はどうなる?蜂の巣だぞ?」
全くもって躊躇もなくいくつかの釦をおし最後の操桿を握ると
「儂が生き残れば次は勝てよう。其れが兵士への手向けで在る」
正しくもって自分勝手な屁理屈を捏ねてがちゃりと操桿を押し倒す。

「被害甚大の為。これより8番車両より後ろを切り離す。
緊急処置として司令官直々に実行された。
8番車両より後ろを切り離す。8番車両より後ろを切り離す。
・・・武運を・・・武運を祈る」
髭弄り司令官が操桿を倒した後直ぐに連絡兵は慌てて無前を掴む。
見張り兵が信号弾を上げる。
[我等破れたり・敗走するなり。我等破れたり・敗走するなり]

「ちょっと待って待ってば」
ガクンガクンと床下が弐度揺れる。同時に一定の速度を保っていた車両から生気が消える。
且来が載っている中古の車両の床には大きく10番と書いてある。
「そんな置いてきぼり?おいてきぼりなの?」
「良いから。ほっとけ。これつけろ。腰に早くっ」
おでぶの且来が粗胡椒少尉の細腰にそれなりに頑丈なロープを括り付ける。
その先のフックをでっぶりとでた自分の腹腰に結んだロープに又括る。
「たとえ足踏みしてもさほど揺れない胸であっても胸は胸である。
ここで死なすわけにはいかぬのでな」
「揺れます。揺れまっすってば。ちゃんと揺れます。」
減速していく車両の上で声を張り上げる粗胡椒少尉。

「貴方・・・まさか・・・」
強制切り離しの無線と同時に二つ後ろの車両で炸裂音が成り連結器が外れる。
電稲の速さで主砲室から飛び出し背のびして後ろを見れば
兵士の腰に何を括ろうと身を屈める軍夫の丸い尻。
次に風が凪ぐと軍夫がこちらを向く。
二度と三度と分厚い唇が動いたとも観えた。離れ去る列車同士の距離遠く。
離れ離れに千切れる夫婦の距離をあざ笑うかの様に・・・。

そして狩りが始まる。
砲弾の嵐と雨が進む力を失い親に見捨てられた迷子を襲う矢のように
一切の容赦と慈悲身もなく雨在られとばかりに敵砲弾が遅い掛かる

「貴方・・・」
要らぬ子供を捨てた様に身を軽とした前方車両の砲台の上で
且来の軍妻しずゑが長き睫毛を閉じえば涙雫が弾と成り風に漂い何処かえ消え得る・・・

「来るぞ・・・構えろ。粗胡椒少尉」
「はい。且来准尉。否。おでぶちゃん。何が来るって言うです?」
「砲弾である・・・」
「それはわかってます。砲弾にあたれば死にますよ?」
「案ずるな・・・・あれは只の砲弾ではない。」
「只の砲弾でなくても砲弾です。何をしようって言うんです?」
「腹芸である。脂肪である。でぶだからこその脂肪で在る」
「解りました。私死ぬんですね。云々・・・」
良くもわからない死に際の会話に十も数えぬ内に且来が手を広げる車両に砲弾が飛んでくる。

程無くて髭弄りの司令官と連峯。
夫の最後を見届ける事も良くと出来なかったしずゑを乗せた前方車両は
何とか無事に敵船の攻撃から逃れ長いトンネルの中に身を隠す事ができた
もうすぐ中間基地にたどり着けるだろう。
剣呑な雰囲気が流れる司令室の中で連峯は怒り心頭で震えが止まらない。
然し同時に黙ってるのは髭弄りの司令官が銃口をいつまでも自分にむけているからでもある
只。それも長いあいだ続かない。

司令室とその次の作戦管理室を隔てる扉は鉄製である。
万が一の事を考え戦闘中は鍵が施錠されてもいる。
其の扉にゴツンと鈍くが成る。
余りに異様な音だったため皆が振り返る。
扉に又ゴツンと音がなる。目を凝らせば扉の向こうから叩いているらしい。
そしてゴツンと扉がなる度にむしろ最初の一発から鉄板には拳の後がはっきりを刻まれ凸に歪む。
作戦室にいるものが怒りに任せて司令室へと繋がる扉を素手で叩いてるらしい。
そしてそれは何度叩くまでもなくば~~~~んと扉等が弾けとんで声が裂けた。

「御前かっ?御前か?私の夫を見殺ししたは御前か?」
一番最初に道筋噂徳成しずゑ上級大佐と目が在った連峯は稲妻の速さで
髭弄り司令官の顔を指で指す。
「御前かっ?御前か?私の夫を見殺ししたは御前か?」
前に突き出していたはずの銃口が観えてるはずなのに構わずと
閃光一撃鉄拳が飛ぶ。
「御前だな?御前が私の夫を見殺しにしたんだな?
貴様の命は見逃してやっても御前の家族と愛人と子供末代まで
道筋噂徳の家に連なる者が呪い殺してやる誓ってやる。」
一度は床にころがった司令官の襟元を掴み上げ睨み家族全員呪うと宣言してから
又殴り引き起こしては又殴る。幾度殴っても気がすまず。
しずゑは列車がしばし後に停車するまで司令管をずっと殴り続けていた。

「ぬぉっ。思ったより痛かったぞ・・・。鍛錬が足りぬか?
もうちょっと饂飩喰らって太った方が良いのか・・・?」
「其れ以上太ったら腹が邪魔で奥さんが跨ってくれませんよ。
・・・・あれ?生きてる?生きてるし?」
「粗胡椒少尉。儂が上に跨がらなくてもだな。
世の中に56手に手合わせする方法もあるのだぞ。このおこちゃま少尉め。」
「知ってますぅ~~~。半分くらいはためしたもん。夫いるしぃ」
「何だど?夫持ちか?唆るな。貧乳好みの夫か・・・云々」
「そうなの・・・貧乳いじるのいつも・・・否。なんで生きてるですか?私達」
辺り一帯地面であるし幸いにも且来が砲台に打たれて飛ばされた大地は砂の上であった。

「大地は凶器と言うが儂の腹芸が功を奏したのと運が良かっただけだろう。
それにしても・・・人の形を砲弾するとはな。否。人形砲弾か。」
「人形砲弾?」聞いたこともない名称に人妻貧乳粗胡椒少尉は促されて足元を観る。
そこにはたしかに人と似てる形ではあるが白い陶器の様な肌の人形が壊れて転がる。
「おでぶちゃん准尉・・・?
もしかしてこの人形砲弾をお腹で受け止めたんですか?
その勢いで列車を脱出したとでも?」言われてみれば身体中に擦り傷がのこる。
「それしか思いつかなんだ。
流石に砲弾を腹で受けた後では痛いのだ。まず休もう」
且来は腹が出てても只のでぶだ。
随分と前は漫才だったし女装を好んでも生粋の軍人でもない只のでぶだ。
体力の限界もあるし胃袋の燃費も悪い。それから人智を越えた力とやらは信じないし
そんなもの絵空事であるとも思ってる。

・・・最初から変な砲弾だと思ったのだ。
あの砲弾は爆発しない。確かに我らが列車は破壊されるが爆発はなかった。
それが在ったかに視えるのは恐らく何かの拍子だろう。
人形砲弾が貫いた後の砲台の中の弾が爆破したとかだな。
小奴らは爆発はしないが貫通する。一種の貫通砲弾であるな。
其れに砲弾が曲がるのも可笑しい。
だが人形砲弾なら説明がつく。これは貫通弾だ。人形の形をしたな。
起動を変えられるのは恐らく船から射出された後に人形の内燃機構で蒸気とか
何かで無理矢理起動をかえるんだ。其の計算をするために頭脳機構を持たせているのだろう
だからこその人形であろうな。
何?随分とまじめだと?儂とて考え事位するわ
腹を満たすしかない漢だとおもってた?小娘人妻め。
ちょっと脱げ。貧相な胸魅せろ。誰が変態だ。漢の性であるっ

External Remote combat soldier Tactical System.
【E.R.C.S.T.S】と略されるシステムは大陸の小国台椀朧蝋月の國の主力戦時戦略兵機である。
そんな記事をぼんやりと新聞のどこかで読んだ事が在るように思える。
尤もそれは現時点は図面の上の構想上のものであったはずだ。
其の元はE.R.H.B.M.Tと名付けた医療技術の発展形でありE.R.H.B.M.Tとは
前者とは違いかなり実質的な成果を上げている現実的な医療技術とも聞く。
幸いにも人より余計に腹のでた健常の且来には縁遠いものであるが
日常生活でも起こり得る交通事故でやむなく四肢に損傷を受けた者や
其れこそ戦争に出兵し被弾を受け失った身体の代わりに代替え的な
器械の手足を装着しそれを外部の操作装置から操作して健常な生活を送る事ができる。
そんな装置とやらが在ったようななかったような。
どうやらそれに似た何かの器械をこの人形は組み込まれているのだろう。
陸の上を奔る漢縁の軍の船から真っ直ぐに射出された後、その直線上に目標があれば良し
その位置がずれていれば自らの体内の射出装置を起動させ起動を修正して目標を粉砕する。
漢縁と倭之御國の長い戦争の歴史の中で初めて戦争技術が逆転したと言えるのかもしれない。

なんとなくそんな事をぼんやりと考えていると立ち尽くす腹の上にぷにんと感触が伝わる。
長年の生活習慣と首後ろを撫でる悪寒で其れが女性ではなく地面に腰を落とす粗胡椒少尉でもない。
且来は腹も出てるが背も高い。そして腹に伝わる嫌悪交じる感触を確か様と視線を下ろすと・・・。

「倭之御國茶々丸の土地に御生まれになった天下を轟かす女装家。
且来素子様。基、且来鏡蔵様とお見受けします。お初に御目に掛かります」
丁寧に且来の生まれた土地どころか芸人を目指した時に付け直した本名まで告げて魅せる漢一人。
何処かよく知る風体の漢である。なんとなくではあるが。
「貴殿は何者であるか?それに出来れば少しさがってはもらえないか?
当たらずと知っても腹の前に漢肌を押し付けられるのは不安と成る」

「其れは其れはご不便を・・・。且来様。
私奴。旅の商人。尤も特に店を構えてるわけでは御座いませんし。
刻にお客様がお困りであれば入用な物を好きに勝手に押し付けてるだけで御座いまして。
道を筋を示し大損してもいずれ徳を得ると信じて商品を鞄詰める道筋噂徳と申します」
且来の軍嫁と同じ苗字を冠する旅の商人とやらはとりあえず且来の腹からは下がる。

道筋噂徳。
なんとも言えない不思議な出で立ちでは有る。
子猿の骸骨や妙に華やかな鶏の羽飾りを括った黒い山高帽子を深々と頭に乗せる。
道筋家のそれにご多分に漏れず半顔を朱い布で覆うならやはりその顔は爛れに焼けるのだろう。
旅の燕尾服はよく見るものにも視えるが黒い布地の上を更に漆黒の糸が編み込まれ
文様が刻まれる。その手も火傷に爛れてるのか、白皮の手袋を嵌める。
出で立ちは異様で在っても何処か親しみの在る仕草でもある。

「儂の軍嫁も道筋噂徳の名を冠する者であるな。出で立ちも良く似てるが・・・
きちりと服装を整えてる割にはサンダル履きとは恐れいるな」
「あれは私の遠い末裔と存じます。未だまだ未熟物の様でも御座います。
サンダル履きはおしゃれですね。おしゃれは足元からと申します。
はて。さて・・・。本日且来様がいり様な物は・・・っと」
展開が読めないと言うのこうゆう事を言うのだろう。
人形砲弾が頭の上を疾風雷電の如く掛けて飛んでいく戦場の中を
閃きと腹芸一つで切り抜けた途端に次は得体知れない怪人が目の前に突っ立ってる。
そうかと思えは自分の本名をしっかりと語り通し道筋噂徳と名乗る怪人は
ずっと手に握っていたボロボロの鞄を土砂の上にドスンを置いたかとも思えば
其の横に少し大きな風呂敷布を置いて広げる。
どこまで芝居掛かっておるのだ。この商売人は。と且来が鼻を鳴らす
道筋が広げ白革手袋で皺をなでつける風呂敷の文様が白丸に越後屋と書かれている。
極太の一本面を客に出す倭之御國の饂飩屋で漫才師を営んで居た頃に
且来も何度も通った店の物である。何処からそんな物もって来たのかと首の一つ捻りたく成る。

「まずは・・・夫婦箸が二組。これは私からの結婚祝いで。嫁様が御二人とは羨ましいですな。
娘様に柳桜の女下駄が良いでしょう。最初の奥様に張り子が一本。極太ですな。
なんとまぁ。これを咥えるとは中々ですな。愛情と良くの成せる技で御座います。
二人目の奥様は未だまだ初で御座いますね。いきなり鋲付きの枷は重すぎるでしょう。
生憎そこまで軽い物は御用意出来なかったのですが内側に毛布がついてる物を。
壊れた人形には頭核でぐね。夢々扱いにはお気をつけ下さいまし。
お探し訪ねびとも多いと思いますので人磁石を。長く持つ品では御座いません。
砂地の上を暫く歩くでしょうから。水筒代わりの羊胃袋と雨石三つ。ちゃんと鞣してありますよ。
最後に足踏みしても余り揺れない人妻様にも・・・何かお一つ」
道筋と言う怪人は広げた風呂敷の上に自慢の商品とやらを丁寧に並べる。
もっともそれを取り出す鞄の中から且来は直ぐに目をずらす。
半分肉のついた動物の手や舌をだらりと吐き出した人の顔皮は未だましだ。
うねうねと動く紫色の植物塊があれば二つ頭の鶏が鞄から逃げ出そうと暴れている。
「ふむ。これでは少々邪魔になりますかね?
今々と必要にならないものは後日使いの物に届けさせると致しましょう」
昨今の怪人とやらは気遣いも忘れないらしい。
とりあえず風呂敷にあれこれと包んでみた物も少々やはり邪魔に成る。
一度は持ち上げた大きな包に手を添えてくるりくるり回せして戻せば
一回りも二回りも小さくなりどうやら近々に入用な物だけが風呂敷の中に収まる。

「これで暫しの道行も少しは楽に成るとも存じます。
それほど長く掛からぬ道行でも気が滅入るかも知れません。
持っと腹芸女装の得意な且来様の事ですからさほど面倒でもないでしょう。
それでは旅の道行と女難の道もこれ然り
道を筋を示し大損してもいずれ徳を得ると信じて商品を鞄詰める道筋噂徳。
これにてお暇させて頂きます。重々にそれにはお気を付けを」
地面に転がる人形砲をちらりと睨むと道筋は深々とも業業しくも一礼する。

そして・・・消える。
風が吹いたとか霧が待ったとかのその一つも全くとなく。
何事はあったとしても今やそこには誰も居なかった。
「誰ですか?あの人?戦場にしては随分と変人でしたよ?」
「儂は世情に虚ろ住む妖かし怪奇と空とぶ何とかは全くもって信じておらんが
刻に家の名に連なる者達の恨み辛みは身に滲みておる。
紙切れ一枚でおしつけられた軍嫁の其の名と同じであれば
あの商人は御先祖様に違いない。やれやれ随分と面妖で世話好きな御先祖様である」

ついにさっき迄人形砲弾雨あられの戦さ事に首を縮めていたと思えば
國と領民の為に命を預けた味方の列車は煙猛々、糸を引き履き。
どうやら逃げ足疾く山の向こうに無事に消えたらしい。
「こっ・・・これ動いてます。動いてますよ。きゃっ」
魔人怪人御先祖様が風景の向こうに溶けたらしいと視える其の後直ぐに
それまでうんともすんともいわずに地面に転がっていたはずの
人形砲弾が息を吹き返しガタガタと歯を打ち鳴らしずるりずるりと地面を這いずり
粗胡椒少尉の細脚首をがしりと掴んで離さない。
「痛い。痛い。おでぶ准尉殿。なんとかして早く早く」
「大人しくしてると思えば隙きを探しておったか・・・
此処まで壊れても尚、敵兵命狙うとは不憫であるが」
且来は力自慢の腕力を活かし粗胡椒少尉から人形を引きはがしその手を軸に宙へとぶら下げる。
「ボロボロですよ。そんなに成ってまでも私を狙うなんて・・・
やっぱり私って可愛いんだ。うふふ。」
「厭・・・。単純に敵兵然りと思い込んだだけだろう。
飛んで跳ねても揺れない胸よりも少しは立派な乳房が付いておるぞ?」
「ゆれますぅ~~~。ちゃんと揺れますぅ~~~。本当だ。女の子なんですね」
「真っ直ぐ飛んで敵に穴を開ける砲弾を人の形に似せる必要が何故にある?
ましてやそれなりに凸である意味は何故であろうか?」
巨漢を誇る且来に手首を捕まれぶらぶらとと宙に浮く人形は異形であった。
人形であると同時に砲弾で在るそれは頭顔はあってもつるりと毛髪はない。
人の顔に似て二つあっても不格好な部品を無理に付けたような物。
それを瞳と言うにはやはり不気味だ。眉毛も無ければ鼻もない。
代わりに乱ぐい歯をかちがちと鳴らし隙き在らば且来の鼻を噛ろうとも吠える。
右手左手は無事で在っても膝より下は損壊している。
もはや自分の脚では歩けまい。もっと人形が歩く事を知っていればであるが。

「持っていくんですか?そんな危ない物。
それから中間基地はあっちですよ?なんで反対に行くんですか?」
「道筋家の御先祖様は入用な物を風呂敷に包んでくれた。
用途が解らぬ物もあるが、これは分かる。生きた人間の場所を指し示す磁石だ。
それなら救わねばなるまい。戦友で有り我が部下である」
ガチガチと未だに歯を鳴らす壊れた人形にその辺の布を猿轡と噛ませ
背中に回して掛けると且来は風呂敷の中に転がる人磁石を取り出し覗き込む
余り持たないと聞かれた人磁石は確かに置き去りされ人形砲弾に貫かれた
武装列車の残骸の方角を示している。それは生き残りがいると証拠で在る。

其の動力が切れたのかそれとも満足に動けないからか
或いは後で且来の顔に噛みつこうと力を温存してるのか
油断ならずもおとなしい人形を縛って担ぎ人磁石の針が示す道を二人が歩く。
その道筋は惨劇有りきの地獄絵図である。
先ずに地面大地を埋めて尽くすは敵兵人形砲弾のそれで在る。
あの陸を奔る船の者から見ればその人形は砲弾で在るのだろ。
それを頭で見知っても敵兵貫く砲弾が人の形をしていれば
地面大地に壊れて転がる人形遺骸の数が多すぎる。
所狭しと転がるその中にやはり味方の遺骸も目に移る。
人と人形の遺骸を重ねて造った人形地獄絵を正にそれであろう。
且来の背中に縛られ括られながらも時より目玉をぎょろぎょろ回し
刻にガタガタと歯を鳴らすそれは如何にも楽しそうに狂おしく嘲笑う。
それはまさに地獄の怪鬼の様である。
いっそその顔に岩拳ぶつけて潰してやろうかと且来は何度も頭を巡らす。

嗚咽を吐き気を我慢し風呂敷を抱え且来の後ろを急ぎ脚で付いて歩く粗胡椒少尉。
本来は地面大地に転がり捨てる其の仲間の遺骸ひとつひとつに黙礼を捧げ
かっと見開く断末の目を撫でて閉じてやりたかった。
否然し且来はそれを重い声で制する。
「貴殿の気持ちは良くと知る。然し今は歩くのが先である。
人磁石は妖かしの術の賜で有ればいずれ直ぐに術は解ける。
その前に手足千切れても命在るものを救わねば成らぬ。
女装家且来素子の家の名に掛けて必ずや戻りて弔ふと誓う 」
何時になく重くも悔しさ籠もり絞り出した言葉に
云々と頷くのが精一杯であった。

「そこか・・そこに追ったか?ぼんくら兵士共め。
何人居るのだ?水が欲しいか?それとも飯か?」
「そっ、そのやたらと無駄に腹を突き出して歩く姿には見覚えがあります。
且来素子准尉殿。我らは6人。その内動けるの半分。歩けぬ者は二人。
・・・それから・・・それから・・・今生の別れに水を少々頂けば光栄であります」
崩れ瓦礫となった列車車輪の側影にやっと見つけた兵士が軍靴を鳴らし敬礼する。
動けずも地面に転がる兵卒でさえ失った脚の痛みに耐えても無理に笑顔で一礼する

威勢良くも張り上げた声の言葉の末尾を拾い且来は水筒を兵士に投げる。
「抱いてやれ。粗胡椒少尉」虚しさに苛まるように地面を脚で蹴って告げる。
兵士で有ればこそ死体遺骸はよく見ても今生に死を見送るには慣れる事はない。
且来の言葉が終わるより早く粗胡椒少尉は今から度逝く兵に歩みより
其の半身を胸に抱きしめる。

「貴方の母にも恋人にも私は到底成れません。
それでも私の胸の中でどうぞ静かにお逝きなさい・・・」
「・・・有難う」
一口水筒から水雫を含むを兵士にそっと口付けし今生最後の水を注ぐ。
ごくりと喉が動くと安らぎに満ちた息が漏れ
仲間と共に戦うも無念に命燃やした若者はぽとぽとと涙落とす恋人の腕の中で
すっと瞳閉じ一つ胸を上下に鎮めるとそのまま弐度と息をせずに逝く。

貴様等良くぞ生き残ったと豪快に腹を撫で笑い互いに水筒代わりの羊胃袋を
回して呑み焚き火を囲み不味い軍用缶詰も皆で突く。
貴様等は少し安めと無理に言いつけると
且来は一人その場を離れる。

「南無阿弥陀仏・・・南無阿弥陀仏」
中々良い場所が見つからずも少しでも故郷倭之御國の方角に丘を見つけて
逝った若い兵士の土墓を掘り小山に埋め銃剣を墓標代わりにすると且来は手を合わせる。
後から来たとは言え何処ぞで探したと知れずも弔い華を一輪添え粗胡椒少尉が隣に並ぶ。
又それも休んでいろと准尉の名を受けたにしろ残りの者が集いて敬礼する。

人磁石は埃舞い曇る戦場後の中、今暫くその針先を示した後に動かなくなる。
其れまでに且来が拾っい集めた命は五十七。ちょっとした軍師団とも言えた。
勿論に手を失い脚を削り目と鼻をなくし満足に動けない者も多い。
更に最初に且来が人形を受け止めた場所から後ろへ戻った形であり
そこから又。軍妻も待つであろう列車基地までは数日数夜の行軍となる。
歩ける者はそうでない物に肩を貸し。熱に魘される者を急作りの担架に括り綱を引く。
行き道に且来等が目にした人形地獄絵の中に苦しみの儘顔を歪めた仲間の遺骸を
其の目に焼付ながらの行軍である。

 

天鼠蛭姫

天鼠蛭姫

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