ヒトノイド・discipline【暫定版】

・・・椎娜の少し後ろに位置を取り宙を浮く円盤器のランプが紅くチカチカと点滅する。
途端に脚が動かなくなり其の動きがピタリと止まる。
肺は空気を取り込まなく成り、叫んで助けを求める事も出来ない。
椎娜は自分の舌一枚満足に動かすことは出来ない。
意識は在る。そして唯一無二で自分の意思で動かせる右手をなんとか動かし病院着のポケットから
丸い無線器を取り出しスイッチをやっとの思いで強く押す。
「椎娜さん。駄目だよ。こんな所まで一人で来ちゃぁ~。僕が怒られるんだから。ちょっと待ってね」
椎娜の助けを呼ぶ専用のシグナルを携帯で受け取った専属義肢看護官。
惇があたふたと廊下の曲がり走り寄りすぐに円盤器と椎娜の糸針の接続と切る。
ひとつと一人を繋ぐ糸が切れる。
代わりに惇が手に持つ糸針器から椎娜の背首にきらりと煌めく糸が伸び受信器の刺さると椎娜の瞳に生気が戻る。
「有難う御座います。惇さん・・・」声を出せるのを嬉しく思い礼を述べるが肝心の惇は聞いてない。
「困るんだよな。こういうの。肺器官は異常なし。駆動系も通常の数値だな。云々。
こっちの義肢に異常がないと見えるしな。やっぱりRDの方かぁ~~~。
技術部の奴らは動作確認してるって言うけど手抜きだな。文句言ってやる。
あっ。御免御免。戻ろうか?RDを調整しないとこの先には行けないし」申し訳無さそうに惇が告げる。
「解りました。お願いします・・・」残念そうに頷こうとする椎娜の体はそれをせず。
勝手にくるりと向きを変え広場樹へと歩き出してしまう。
この時、椎娜の体。つまりは其の義肢を動かすのは椎娜の意思ではなく糸針の先に伸びるTNCを握る惇である。
椎娜は彼の呑穴の吐き出した隕物により四肢を失う事故に遭う。
なんとか瀕死で命は取り留める物の生き続ける為には【E.R.C.S.T.S】と略されるシステム。
ある意味活気で挑戦的な意味合いの強いシステムに試験的に組み込まれる必要があった。
昏睡する椎娜の意思など無視され、金銭的政治的に腕力を持つ親の意向のは手に
椎娜の体は精霊人形と呼ばれる技術とそれとは真逆の生体義体技術を融合発展させたヒトノイドと
言われる整体医療技術によって生存を許されている。
「それじゃ僕は技術部行くから。此処でゆっくり過ごしてね。宜しく」
椎娜の脚が床の紅いラインを超えると惇はさっさとTNCの操作を投げ出し自分の用事を片付けにいってしまう。
「はぁ~~~。せっかく森の空気を吸いたかったのに。少しだけでいいのに。
それも許されないなんて・・・」暗い気持ちでエリアの中央にある母木を見上げる。
とても人工物と思えない母木はマザーツリーとも呼ばれる。
医療型のヒトノイドは未だ未完成で在る。精霊人形と生体義体技術の融合技術は未だ生まれたばかりの物だ。
精霊人形のその技術と生体義体技術。相反するものでは有るが噛み合うはずもない。
どちらかに妥協を強いる事になる。当然それは患者にとっても苦痛と生涯を与える羽目に成る。
片方が動けば片方が沈黙する。主にそれは義肢装着者が体を動かそうと言う意思信号が
生体義肢にうまく伝わらない現象に陥る事となる。
生体義肢を優先させれば精錬人形で作られた部分が拒絶反応を起こす。
その調和を取るために医療技術研究者達は最も異端な方法を取る。
それがExternal Remote medical Tactical System.
欧州大陸語で記せばそれらしく聞こえるのだろうが要は操り人形だ。
ヒトノイドと成った患者は自分の意思で義体を動かす事はで出来ない。
それでは人としての意味がない。寝台の上に横たわる生体人形と変わりない。
体を動かし自律した生活を送るために患者達は義体の操作を他人に任せる
語弊が有るのは認めよう。体の動きをTNCを所有する第三者が操作する。
倫理と意見の問題は有る。飽く迄も未だ試験運用実験的な医療技術で有ると断言する。
椎娜を始め体の大部分を義体に換装してしまえばその分負担が大きくなる。
自分では動かせない四肢をTNCを持つ第三者に委ねるしか方法がないのだ。
糸針による操作はTNCだけではない。他の操作法としては宙に浮かぶドローンに操作を任せる事も。
人形の機械人に任せることも。小型の車輪付きのBOTに任させる事も出来る。
最後のひとつがマザーツリーと成る。あまり広くないエリアではあるが其の中に義体装着者が入れば
糸針に繋がれ誰かに体を操られる事もなく患者自身の意思で義体を動かせる。
患者にとっては快適な空間であるがマザーツリーの効果範囲は狭く。
彼女も又。研究過程の産物で有る。
置字
