御嬢様・・・日いずる御國の淑女たる貴方が毛糸のおパンツをお履きに成るのは・・だから呆けた顔で御腹をポンポン叩くのは御控え下さいませなっ。#ii
Mom kissed santa in 2022 winter
「伝令!伝令でっす。
敵将アルティシア・アイゼンソープ・ルリリン殿の直筆の書簡で御座います」
戦さ場埃が舞うドワングルブの夜谷。剣と槍を弓と盾を掲げ名誉を領土を奪い合う戦場。
其の日の朝早くに唯一無二完全無欠の賢者少女敵軍アルティシア・アイゼンソープ・ルリリン
彼女が率いるた谷向こうの山陣から狼煙が上がる。
黙々と煙高く上がる其の狼煙の色は昨夜から降り出した雨粒が凍え氷り雪と代わり
先日までの戦景色を白銀の世界と変えた大地と真っ青な空に良く映えるこれも又に白一色である。
「し・・・白色の煙狼煙が・・・参本筋・・・。えっと意味は・・・
・・・休みます。・・・今日は休日です。お昼までお布団の中でぬくぬくします・・・です。
・・・敵将敵将アルティシア・アイゼンソープ・ルリリン殿。お昼までお布団から出てきません。
あっ。追加の狼煙が上がりました・・・。
えっと・・・理由は今日が【母上様が三太さんとキッスする】日だからそうです。
・・・詳細を待てっということです。【母上様が三太にキッスする日】って何だ?」
自軍の高台に設置された見張り台のてっぺんで超が付くほどに高所交付症の見張り番は
膝をがくがくと震わせながら喉を枯らし其の職務だけは何とかこなす。
朝叫鳥が高らかに刻を告げてまもなくに敵陣にて起こった変化に司令官は苦虫を潰す。
「又か?又なのか?先月はおやつの山苺のケーキを食べすぎたとかで2日も休んだではないか?
しかもお詫びとか言い捨ておって我が軍全員全兵にお裾分けまで貰ったではないか・・・」
「あれは美味しかったです。
我が軍どころか故郷にもない菓子で御座いまして美味しく頂きました。
司令官殿も一人で3つも食べたじゃないですか?部下の分取り上げたくせに。
あとココアも美味しかったです」未だ若い副官は以前胃の中に収めた山苺のケーキの事を思い出し
又食べて見たいと気が付かぬ内に自分の腹を擦る。
「そっ。それで書簡を持った伝令人は何処だ?来てるんだろうな?
此処は戦場なんだぞ?命削って戦う戦場なんだぞ?なんで月一に弐回必ず休みがあるのだ。
伝令人を呼べ。【母上様が三太にキッスする日】とは何なんだ?ケーキは食べられるのか?」
「そこですか?結局はそこですか?只でさえ御腹出てる叔父さんの癖に・・・」
「煩い。明日負けるかも知れぬのだぞ。明日死ぬかもしれん戦さ場なんだぞ?
腹に脂肪蓄えて何がわるいのだ。伝令人を呼べ。伝令人を!」
結局は自分もケーキにありつきたいとその気持ちを誤魔化し大声で叫ぶ。
「常々の猊下の戦さ場に於ける其の采配。
其の又に兵の皆々様の勇猛果敢な御活躍には東軍としても真に感服しております。
さてと本日と明日は真に勝手ながら我軍総将
唯一無二完全無欠の賢者少女アルティシア・アイゼンソープ・ルリリン様の故郷
倭之御國にて【母上様が三太にキッスする日】となっており全世界的に祝日と成っております。
世界違えど異世界であっても祝日は祝日で御座います。
我が愛しき唯一無二完全無欠の賢者少女アルティシア・アイゼンソープ・ルリリン様は
日頃のお疲れもありお昼すぎまでお布団から出てきません。
戦場然り敵軍敵兵の皆々様には真にご迷惑をおかけしますがご理解の程を宜しくお願いします」
至極丁寧に恭しくも優雅に貴族礼をし頭を垂れる伝令人。
さもあらん。人でないと言うのは当たり前である。
敵将が今日はお休みなの。と態々と伝令人まで横したその使いの者を人と呼ぶのはおこがましい。
人在らずこそにそれでも唯一無二完全無欠の賢者少女アルティシアが好む純白色の礼服を着込むが
その服袖から視える手首は骨である。襟首から上は骸骨でもある。
一般的に言えば骨漢とも歩骨漢とも呼ばれるが兵の間ではスケルトンの方が良く馴染む。
「起こしたらどうなるのだ?無理やり攻めこんでお越したらどうなるのだ?
それから賢者少女アルティシア殿故郷・倭之御国の風習らしい。
【母上様が三太にキッスする日】と言うのはなんだ?」
「唯一無二完全無欠で可憐で麗らかな賢者美少女アルティシア・アイゼンソープ・ルリリン様で
御座います。司令管殿。そこは略しては行けないしきたりです。あっ。失礼しました」
ぴしりと軍靴を鳴らし敬礼したのは若き副官で有る。
「御聡明で御座いますな。若き御人殿。
我軍に置いても其の名を略して呼ぶ事など許されてる者は少ないのです。
許されるとするならば口に出さずに其の身心の家で及びになる時か
正に病や剣に倒れ絶命する其の瞬間に願いを込めて其の名に祈りを捧げる刻だけで御座います。
勿論。其の例外もあります。
極々特別に賢者美少女・賢者美少女アルティシア様の御心のままですが・・・」
「略したぞ。貴様。今短く略したぞ」自分の間違いを指摘したスケルトンが舌の根も乾かず
その内に主人の其の名を略して発した事に司令管は思わずツッコミを入れる。
「私奴は良いので御座います。忠臣でもあり何しろちゃんと賄賂を毎月送っておりますから」
「何だと?賄賂で済むのか?賄賂を毎月送れば其の名を略しても・・・
川魚にされて生け簀で飼われたり魚拓を取られたりしなくて済むのかっ?」
場所も立場も憚らず司令官は顔を真っ赤に染めて鍔を撒き散らす。
自国に深く伝わる敵将賢者少女の噂話の真理はともかくそう噂される逸話噺を信じ司令官は焦る。
何しろ其の配下・スケルトンの前で禁呪ともなり得る行為を犯したかも知れないのだ。
「此処は私の顔に免じて見逃して頂けないでしょうか?
勿論。唯一無二完全無欠で可憐で麗らかな賢者美少女可愛いアルティシア・アイゼンソープ・
ルリリン様には後ほど我が故郷名産・梅しそ甘辛極塩蜂蜜饅頭を是非に送らせて頂きますので。
それでこの場を収めて頂きたく。・・・更に肝心の祝日に付いての詳細を・・・」
普段は完璧に指揮を取る司令官の失態を何とか収めようと背伸びをして取り繕うも
点数を稼ぎたい若き副官は半ばずれた噺を戻す。
尤も骸骨漢がうっかり口にした賄賂の方法を後で聞き出そうと心に決めるのも忘れない。
「その梅しそ甘辛極塩蜂蜜饅頭とやらは甘いのでしょうか?しょっぱいのでしょうか?
件の毒見役蟾蜍の元錬金術士でも食べられる物でしょうか?
出来れば苦しみ悶えるほどの甘い食べ物で有る事を望みます。
さて・・・【母上様が三太にキッスする日】に付いての詳細はこちらで御座います。
ご理解いただけるように賢者美少女・賢者美少女アルティシア様が直々にお書きになった・・・
落書き・・・否に絵画とも称賛されるべき図柄で御座います。
敬愛する主人を語る言葉であるはずがよくよく聞けばちょくちょくと正直な気持ちが
垣間見えるスケルトンの人間臭さに驚くも差し出される書簡を覗き観る。
「読めん・・・。読めんぞ・・・。
字がのたくっておる・・・。海蚯蚓がのたくっておる。
この字は母上と読むのか?こっちは三太か?暗号だぞ?これは難読暗号だそ。
なんだこの絵は・・・子供であろう?子供が書いた絵であろう?
確か六つか?七つ。それでもちょっとお胸が有るとか?早熟であるとも聞くが
それでもこの絵は何だ?まるで地獄の縮図とでも言うような。
我が共和国でもこれほどの手腕を持つ絵師はおらんぞ?
其の割にこの字は汚いぞ・・・。これではわからん」
差し出され手に持つ絵書簡をじっくりと見つめながらも其の内容の把握には至らない。
字を書くと言う技を覚えたての子供に誰もが読めるようにと教えるのは確かに難しい
それとは反対に描かれる絵柄の世界は逸品すぎる。
黑と紅を基調に描かれる三人の人物。
確かにそれは子供が寝入る寝室で母上が三太と思われる人物であろう漢と微笑ましく・・・
と言うのではなく明らかに欲情塗れの身心のままくぐれほぐれずに抱き合っている場面である。
それが漆黒と鮮血の朱色で紛う事無く暗黒地獄の筆使いで描かれている。
「ふっ。不謹慎ではないか?我が子眠る寝室で母親であろう。
子を育て愛でる母親で有るべき者が寄りによって紅いおべべを着込んだ変態間男と
ぐぐりほぐれずに・・・・。けしからん。これが貴国の伝統の祭りなのか?」
自分の常識を遥かに超えそれを覆す光景に司令官は混乱する。
「司令官は・・・少々と絵画鑑賞眼は疎いのでは御座いませんか?
少女の寝台の脇には樅の樹があります。この日の為に誂えたのでしょう。
其の次に樅の樹の下に靴下があります。
少々大きめで有るのは少女が欲張りなのかも知れませんね。
ほら。靴下の口から何か観えております。これは人形の頭にも見えますね。
つまりこの絵は普段から良い子として暮らす少女に褒美を上げる祭りなのではないでしょうか?
司令官が間男と見たのは実はこの少女の父親で御座いましょう。
何やら派手な衣装を着込んでいるのはいい子にしてたら三太という人物が贈り物をくれると
言う逸話を無垢に信じているからでしょう。子供心を無下にしては行けません。
母親が仮装をした夫の朗をねぎらうのもこれ又に自然な事であり
それが少々に興が乗ってしまうのも極々自然な成り行きで御座いましょう。
・・・司令官殿の眼と頭の中は少々腐っているのではないしょうか?」
長々では有るが司令官が震え手に持つ絵画を脇から覗き込み解釈を副官が講ずる。
「なんだと。そうなのか?そう言われてみれば確かにそれとも視える。
多少成りとも暗雲垂れ込める地獄絵図にも視えるのだが。
貴殿は絵画絵師の家系であったな。それならばきっとそうであろうな。
疑問は残るが・・・」絵の解釈は人それぞれであろう。解る者もいればわからない者もいる。
「どうやら若い御人は聡明であるも又絵画の世界にも精通しておられるようですな。
いっその事指揮を譲り交代なさたほうが良いのでは御座いませんか?
そうすれば我軍ももうちょっと手を抜かずに歯ごたえのある戦が出来ると言う物です。
さてに我が愛しき賢者美少女アルティシアちゃんがお書きになられた絵の通り
【母上様が三太にキッスする日】というのは・・・・
年に一度。普段から良い子として営み過ごす子どもたちに
彼の妖精谷の其の奥から三太と呼ばれる朱の衣装を纏う人物が馴鹿と言う動物が引く
橇に乗り天空彼方より現れ子供達に贈り物を送るで伝説に基づいた祭で御座います。
勿論純粋無垢な子供達にそんな物はいないと断言するのは禁呪で御座います。
ですから大抵の場合子供を早く寝しつけ深々と振り続ける雪の中家屋の煙突から
父親が忍び込み純粋無垢に眠る子供の枕元の靴下に贈り物を入れてあげるの
が習慣で御座います」よどみなく又何処から声を出してるのかわからずも骨漢が雄弁に語る。
「家屋の煙突からだど?
儂のような腹の出た漢はどうするのだ?狭くて腹が引っかかるではないか?」
「例え話で御座いましょ?何でも間に受ける癖は直したほうが宜しいかと
はて。寝入る子供の事はわかりましたが。それにしても・・・」
良く言えば純粋な性格。悪く言えばそれ故に騙されやすと言える司令管を脇に置き
副官は首を捻る。【母上様が三太にキッスする日】は理解出来た。
それでも何か腑に落ちない。其の日が子供達の祭りにしては敵陣の兵の動きがおかしいのだ。
其の日が祝日と成れば戦はない。その日一日二日。確かに命を落とす事も無ければ
ゆっくり寝ていても良いはずだ。ましてや其の将は昼過ぎまでお布団から出てこないだ。
少々惰眠を貪ってもさぼっても怒られないはずだ。
それなのに敵陣を覗く超高所恐怖症を患う偵察兵は声を上ずらせながらも
朝早くから敵陣の動きは活発だとも言う。昨夜から降り積もる雪を除けるにも忙しいとも。
然しその姿は楽しげでもあり浮かれてもいると。
何か大きな木が運び込まれたり何やら観た事もない装飾がされていると思えば
兵士達が何やら雪を集め丸め重ね人形のような物を作ったり。
態々に運び込んだ氷の塊を削り彫刻まがいの物を作ろうと奮闘する芸術肌の兵もいるとか。
そうなればこそ。
【母上様が三太にキッスする日】と言うのは子供達だけの祭りではないのではないだろうか
「確かに此処は戦場で御座います。朝に夜に刻には夜通しにと剣と槍と命を削ります」
人が言葉を発するには舌が必要と成るがどこから声を出してるのか分からずとも
骨漢は悠長に話す。美声でも有るから歌を歌わせたら人々も酔いしれるだろう。
「それでも人が営みを行う場所でもあります。
例え戦さに明日とその生命を落とす場所であっても。
否にそれだからこそ一日二日くらいは安らぎと憩いと人の温もりを確かめる日があっても
良いのではないでしょうか?
日柄も天気も良く白銀の世界にて
朝から準備を始め昼にそれを整え夕に宴にと温かい食事と酒を食べて喰らい飲み
子は宝と愛情を込め愛で互いの絆を結び恋人や伴侶と互いに心を通わせる。
それが一刻の出来事であろうとも至福の刻であるには違いありません。
これが【母上様が三太にキッスする日】の其の全てで御ざいまます」
伝えるべき事をつたえると舌のない骨漢は最初と同じように恭しくも貴族礼にと頭を垂れる。
「まっ・・・祭であるな・・・」涙もろい齢とでも言うのだろう
故郷に置いてきた妻子の顔姿でも浮かんだのだろうか。
猛将豪将と呼ばれて久しい司令官はうっすらと目頭を熱くしてぼそりと呟く。
「祭りであるな・・・」
「はい。お祭りであります。司令官殿。年に一度のお祭りであります」
「て・・・敵将唯一無二完全無欠賢者美少女アルティシア・アイゼンソープ・ルリリン殿も
昼過ぎまでお布団から出てこないと成れば戦にもならん。
ましてや今日が【母上様が三太にキッスする日】と成れば戦など言語道断然りで有る。
何をしておる。今日は祭だ。全軍に伝えろ。休みだ休み。
例え敵軍の祝日であろうとも【母上様が三太にキッスする日】ではしょうがない。
我軍も慣例に従い祭りを行う。葡萄酒を持って来い。
【母上様が三太にキッスする日】だぞ。皆で祝わずにいられん神聖な日で有るぞ。
と・・・ところで伝令人殿。け・・・ケーキは食べられるのであろうか?ケーキは」
「勿論で御座います。司令官殿
本日は【母上様が三太にキッスする日】で御座います。
失神するくらい甘いケーキと鴨鳥の丸焼きは欠かせません。
勿論。貴軍の分も多すぎるであろう位に準備させて頂き間もなく到着する手筈で御座います」
「まことにありがたい。あのぽっぺた所か腹の脂肪も溶ける位に甘いケーキはたまらん。
いや・・・何かこちらも返礼すべきであるな。直ぐに用意させよう。
何しろ今日は【母上様が三太にキッスする日】であるからな。云々」
何やら楽しみが増えたとばかりに余計に膨らんだ腹を擦り司令管はほくそ笑むも
態々一介の伝令管の骨漢を自軍の外まで見送る事さえ厭わなかった。
余談余話である。
この日【母上様が三太にキッスする日】に骨漢が【母上様が三太にキッスする日】の詳細を
敵性司令官に教え届ける為に適当に僅か半刻でかきあげた少女アルテイシアの絵画もどきの
落書きはあまりの見事な作品であった為に紆余曲折あったが後の賢者少女信仰の礎と成り
件の教会の大聖堂に飾られる事にも成る。
それも又恐れ多くも賢者少女様がお書きになった絵画として模写も盛んに行われ
やがて歴史が動き印刷技術が発展すればこぞってそれが印刷されると幅広く
皇帝宮廷に収めされる所か極々平民一派の家庭にも【母上様が三太にキッスする日】と
広がる祭りと一緒に宗教然り家庭へと深く浸透していく。
唯一懸念が有るとすればこそに。
絵画としては正に誉高く称賛に値するべき物であるが。
同時に描かれる字がどう観ても海蚯蚓がのたうち回ったようにしか観えない。
そして又それを正確に読んで魅せる者など皆無に等しい事柄であった。
絶えず常に戦を生きがいとし其の大陸を覇を目指す帝国。
かつてその國の宮廷召喚士筆頭・ゾニンと名を馳せた漢である。
否然しにとそれも随分と昔の事であると懐かしむ。
少しばかり哀愁を禁じえない其の想いも今日は一瞬にと頭の隅に追いやる。
何しろ今日は大事な日。【母上様が三太にキッスする日】である。
この日のために態々と普段職務とし詰める宮廷から十日も掛けて馬車に揺られ
戦さ場まで旅をしてきたのだ。
「久しぶりにお会いする麗しの御嬢様は歓んでくれるだろうか?
嫌々。またどうせ私の顔を観るなり侮蔑の瞳を向けるに違いない。
それも又褒美であるな。何よりもあのお嬢様だ。冷徹な眼差しこそ我が誉れである」
人の身であった頃は確かに侮辱侮蔑は耐え難いものであったがいざに身が変わるとなると
それも又大きくも変わって行くものなのだろう。
何より久しぶりの謁見が叶うものならば少々の侮蔑など甘んじて受けるべきでもある。
年甲斐にもなく今日がその日であると知れば唯一無二完全成る賢者少女アルテイシアの
側近であり副世話係総長としての立場とも成れば気合も入る。
予定より早くも戦場に入ったのは元より其の明日がその人成れば胸も高鳴る。
ほとんど一睡も出来ずにいたとも欠かわわずこなすべき仕事はあまりにも多い。
まんじりとも出来すに朝叫鳥が煩く声を上げるそれを待って身支度を整えると
未だすぅすぅと深く寝息を立てる若き息子の頭を撫でる。
恐らく人の身であれば未だに独り身であったかもしれない。
縁巡ると言うのは不思議な物であり正式な妻を頂いてはいない物の我が息子と呼ぶ子供に
巡り会えたのもやはり主人と仰ぐ賢者少女アルティシアの力添えあってのことだろう。
「さて。御嬢様がお布団から出てくる前に幾つも仕事をこなさなければ。
それに件の妖精谷からも御人をむかえなければならない。忙しくなるな」
表向きこそ職務を全うすべくと歩き出すが恐らくは
この日一番に心踊らせているのは当人であろう。
昨夜までの殺伐とした戦場の情景は一変していた。
この季節には珍しいと昨日は聞いた雨粒が祭りと成る日に備えたのが雪えと変わる。
戦場で有るから戦具も多く用意されているが其の日ばかりは使ってはならぬとばかりに
鏃先には雪がかぶり剣の鞘は冷たく氷柱が凍りつく。
戦太鼓がならぬと成れば遅くまで寝ていても誰も攻めはしないのであろうが
何故か兵はいつもより早起きで焚き火の前で手を擦り体を揺らし
部隊の隊長が来るのをこれも又遅しと待っている。珍しい事であろう。
「お前等。やたらと今日は早いな。さては昼に出る鴨鳥の丸焼きを酒が目当てだな。
当然働かざる者が喰らう飯はないとしっておろうな?
当然だと?さぼり魔の御前が言うのか?
ともかくだな。我らが将。賢者少女様はお昼までお布団で惰眠を貪っておらえる。
御起きに成って出てくるまでに広場の雪を除けるのが我らの班の仕事である。
何?賢者様の名前と略したと?バカを言うな。三日前に弐ヶ月分の賄賂を支払ったわ。
結構たかくついたんだぞ。
何しろ遠方から取り寄せた赤味噌辛蜂蜜お萩饅頭だからな。うん。あれは高かったぞ。
とにかく朝飯を食いおわったら直ぐに仕事っだ。
何?雪を除けた後は誰が飾り付けをするのかって?それは第参班の獺兵の仕事だ。
うぬ・・・?残業したいだと。貴様。追加報酬の蜂蜜酒狙いだな。
良いから働け。その情熱を戦に注げ。酒と女にばかり精を出すな。馬鹿者め」
手にした仕事の割り振り表の板を振り回しながらも隊長らしき漢が声を上げる。
もっとも今日が祭りで有るがゆえにその声には明るさが籠もる。
焚き火の周りであれこれと指示を受ける兵士の一段の側を歩きすぎればゾニンにも声が掛かる。
「ゾニン様・・・。
後半刻もすれば妖精谷から招待客がお着きになります。
彼の御人はともかく体の不自由な愛人様もご同行なされているとお聞きしました」
するりと陰のように背後に付き従い言葉を告げる者には脚と言うものがなかった。
季節柄寒いとなれば外套を着込むがその脚裾に二本の脚はない。
上の半身こそは人の女性であるが雌と言うのが正しいのか美麗美女であるにも
その下の半身は一つに纏まり胴下に膨らむ豊かな尻から其の下は一つの尾となり
それは鱗さえ生えている。もっともそれを化け物と嫌悪しないのはゾニン自身も
其の姿こそ正体で有るからだ。賢者少女の気まぐれで今でこそ鱗人となったゾニン。
其の立場をも考慮されたのだろうか。外交も担う事も有るからか人の姿と成ることも多いが
ゾニン自身はやはり胴から下を尾っぽとしてるほうが遥かに心地よく過ごしやすい。
こうして二本は脚で歩くのは何処か不便さも感じてしまうのだ。
「彼の御方がいらしゃるのは至極の幸せであるな。
聡明高き夫をお持ちに成ってると言うのに手間の掛かる愚人を愛人と持つは流石であるな。
其の御方に不便を感じさせぬよう万全の奉仕を尽くすように手配したまえ」
一見すればこそ悪口にも聞こえるが妖精谷と其の客人の深い事情を良く知っての言葉でもある。
「御衣に・・・」頷き言葉を発しこれも又するすると雪の上に尾後を引きずり去るゾニンの従者
それがはそれと済むとゾニンは見張りを務める巨人族の兵士が太い手で開け放つ天幕の中へと
身を滑り込ませ簡易作りではある戦術卓の向こう側に周り木造りの席に座る。
「さて・・・諸君。
今日こそは【母上様が三太にキッスする日】である。
万事つつがなく事を進めなければならず其のための諸君の精進を強く求めたい。
・・・報告を聞こう。対処すべき事は山積みであろう」
「はっ。ゾニン様。
否。【母上様が三太にキッスする日】執行委員会総長ゾニン様
まず。昼までに大広場の雪かきを終わらせないと行けません。
何しろ昼休みの後に妖精谷から彼の来賓と愛人御一行様がお着になります。
雪かきには第弐歩兵連隊と第四猿人連隊が当たる予定で御座います。
高い所の雪かきには猿人のほうが有利ですから。高い所が好きで好きでたまらないですし。
それでも昼までに作業を終わらせるには多少の不安が御座います」
「いくら木登りが得意でも彼奴らは遊び好きだからな。
途中で雪玉投げを始めるに違いない。そこにはクソ真面目な大猿班を追加しておけ。
お目付け役は必要だからな・・・次」
「私奴の担当は広間に樅の樹のを運び込むことなのですが・・・
どうやら木こり共が少々張り切りすぎて少々・・・その予定より大きな樅の樹を用意してしまい。
運びこむのに難儀しております。このままでは・・・其の」
「興が乗ったのか?木こりとは言うがどうせ例の巨人族共だろう。
待てよ・・・?力任せに樅の樹のを根本から引っこ抜いたとでも言うのか?
それは切り出したとは言わんぞ。馬鹿者め。後で戻そうとか姑息な事を考えたのか?
切り出した樅の樹は後で製材して越冬の薪にする予定であろうに。
どいつもこいつも後先を考えずに熟しおって・・・。ちゃんと木こりに仕事をさせろ。
大きすぎると言うなら人手を増やせ。人でを。責任を持って仕事するように
ウスラトンカチの巨人族の尻を叩け。この馬鹿物め」
言葉こそも汚くはあるがまっとうな事を用意された温かい紅茶を
飲みながらもゾニンは吐き捨てる。多少不機嫌でもあるのはしょうないだろう。
「敵軍司令官への伝達と贈り物の方はどうなっている。
持ち込んだ資材で足りるのだろうな。敵軍とは言えこちらの都合で2日も戦を止めるのだ。
礼儀を欠いてはならん。絶対にだぞ」
ついさっき帰って来たばかりであろうで伝令人を拝命した骨漢をじろりと睨む。
「滞りなく全て順調に済ませて参りました。ゾニン殿。
小太りの司令官よりもその副官の御人の方が物わかりも良く
絵画への理解も深い立派な御方だと心得ます。願わくは司令官を変わっていただけるならば
よりいっそう戦らしい事ができるであろうとも愚行ならざるも進言してきた次第で御座います」
「うむ。貴殿が取り扱ったなら誠にそうなのだろう。
かと言っても心配でもある。お裾わけの量を増やせ。
そうだな。馬車十台分を敵陣に追加で送れ。わかったな」
「御衣に・・・」これもまた美声を発ししとやかな声で骨漢が答え其の答えにゾニンは満足する。
「やめろ。こらっ。猿人の輩共め。
高い所から雪玉を投げるな。痛っ。中に石ころを詰めるな。怪我人が出るぞ。
止めさせろ。大猿人。貴様等はお目付け役だろ?投げ返すな。
一緒になって遊んでどうする。怒られても知らんぞ。
ええ~~い。弓隊前へ。射ってしまえ。この際。撃ち落とせ。面倒くさいぞ。痛いってば」
祭りの準備と言えばいくら大変でも心弾むのは人種も猿人も同じであろう
血気盛んな兵どもであれば多少の怪我人が医療天幕に数人運ばれても
それも又祭りの愛嬌であると知れる。
緩やかな光が専用天幕の寝室に差し込んではくるが同時に肌寒く感じるのは
昨夜振り始めた雨が凍え氷り雪となったからだろう。
天幕の外でどさりどさりと雪を落とす事が聞こえそれで自分は目が冷めたのだとも気づく。
「ぷはぁ~~~。ふみゅ~~~」眠気眼でもごそごそと寝台から身を起こしして眼をこすれば
「我が愛しき唯一無二完全無欠の超美少女・アルティシア様。お早う御座います」と声が掛かる
そこにいつから待っていたのだろうであろうか。
初めてこの世界に生まれ堕ち創造されたあの日。
生まれたばかりの少女にある儀式を強要しその片棒を担いだ若い美青年。
今でこそその正体を見にくくも哀れな化け物と変えられたこそに
罪を咎め償う為に少女の世話に一生を捧げると誓ったゾニンである。
「御退きなさいな・・・。このスットコドッコイの鱗人の癖に。
御飯なの・・・。今日こそ。銀盆の列レベル参をクリアしてみせるの・・・」
まだまだ六・七歳の体付きのくせに食い意地だけば魔王を凌駕すると言われる少女は
心底敬愛し礼儀正しくも頭を垂れ膝を折るゾニンに眼を細め侮蔑の眼差しを送ると
寝台からぴゅんと跳ねおりその日一日のために誂え用意された紅いスリッパに小さな脚を
いれるとトテトテと歩き出す。
専用となる寝台天幕からこれも又御一人様用と成る食堂天幕まで子供の脚でもおよそ十歩。
その道筋にの横には専属の従者達がずらりと並ぶ。どの従者も態々選ばれたエリートである。
容姿や其の振る舞いそして愛情の深さと忠誠心どれを取っても比類なき者たちである。
「ん・・・。くちゅくちゅ・・もぐ・・・ゴシゴシ・・・ペっ」
最初の列を作る従者が磨きこまれた水杯を差し出すと少女は水を含み一度吐き出す。
二人目の従者がよりすぐりあまり硬くもない馬の毛で作った歯ブラシに白鯨の腹油を練り込んだ
磨き粉を乗せて口の中をこすってくれる。参人目の従者が抱える桶にぺっとはきだすと
四人目が水杯を差し出し口を濯ぐ。
それが五人六人七人へと進むといつの間にか髪の毛は綺麗に整えられお気に入りのリボンが結ばれるとやはりその日用に誂えされた洋服と靴に履き替えさせられる。
都合十と弐人の従者の最後の者が白と赤で縁取られた小さな前掛けを胸に結んでくれると
朝食を食べる準備が整う。
「皆の者。お早う御座いますなの。今日は【【母上様が三太の変態叔父さんにキッスする日】なの
妾の母上様はいないのが残念だけどお祭りにはかわりないの。
そしてその前に今日こそ銀盆の朝食列レベル参をクリアしてみせるの。
皆。宜しくなのよ。・・・かかってきなさい。愚民ども・・・。
盆を。銀盆をお持ちなさい・・・なの」
「はっ。御衣に・・・・」
小さい癖に張りがあり透き通る元気な声が天幕に届くと下知を得た料理長と其の配下の者が
一斉に声を上げ頭を垂れる。
「まずは前菜で御座います。
本日はお祭りでありますから小腹も空くでしょう。夕飯のお楽しみもあります故。
此処はあっさりと最初の銀盆は蜂蜜熊のお手々。其の一番美味しい所を四角に
切り抜き其の中に森の特産蜂蜜幻想茸と黑白菜のおひたし和えを詰めて御座います。
どうぞ。御堪能を・・・」自慢の逸品であることは間違いない。
「うぐぐ・・・。
一品目はもうちょっとあっさりめな物を出すのが主人へのこころずかいではないのか?
意地悪な調理長め・・・なの。ぱくぱくりん・・・」
「何の。我が愛しきお可愛い御嬢様。
此処は戦場でございます。ましてや御嬢様の胃袋は魔王にも匹敵するので御座います。
我等料理人に油断と言う言葉はありません。既に平らげて御座いますではありませんか?
二皿目の銀盆こそ・・・海の幸の盛り合わせ。八本腕の悪魔と言われる霧タコの丸煮込みと
十本脚の深海烏賊の脚のぶつ切りと鰊の頭を酸っぱい駱駝のお乳で
とっても酸っぱく煮込んだ・・・おっ・・・御嬢様。説明が・・未だ・・・
料理人の見せ場。口上を述べる前に食べ終わるのは止めて下さい。
口の周りに酸っぱいお乳をべったりおつけになって・・・吹いて差し上げろ。
お水も差し上げるのだ。次の皿の味も分からぬ内に食べ終わられたら元もこないだろう。
つ・・・次こそは・・・海を超え態々に猫印の宅配業者に運ばせた東邦由来の小麦を練った
饂飩・・・ちょっと御嬢様。啜るの早すぎです。何処で覚えたのですか?そんな妙技。
こっ。今度こそ最後まで口上を・・・」悔しそうに地団駄を踏む料理長を後目に
次の銀盆が賢者少女アルティシの前に運び掲げられる。
此処は戦場である。否。この天幕の中の其の此処が戦さ場である。
魔王の如きと揶揄される胃袋を持つ賢者少女アルティシア。
その彼女に腕は確かに大陸一と言わしめた料理長ゴンザレス。
眼光鋭く絡み合う中に次々と少女の前に銀盆を掲げ持つ給仕達が列をつくる。
当初こそはその数が十に満たずで満足していたアルテイシアであるが
少しづつ体が成長していくたびに天幕の外にも銀盆を抱えた従者が並ぶように成り
今では其の数参十を超える。それでも未だ足りぬ時もあるかもしれんと
予備の銀盆も用意される事さえあるのだ。
そしてそれはたった一人の朝食であると言うのを忘れは行けないのである。
「ゲップぷぷのぷ・・・なの。悔しいの。
あと二つの盆で完食出来たのに・・・。料理長は意地悪なの。
バケツ大のプリンの中に極甘餡を仕込むなんて極悪人のすることなの」
少しだけぽっこりと膨らんだ御腹をポンポンと叩きながら何処か満足気に
アルティシアが食堂天幕をトテトテと歩き出ていく。
「勝った・・・料理人の威厳と意地は守ったぞ・・・。
否然しと払った犠牲は計り知れん・・・」
それが故郷の宮殿であろうとも命削り合う戦さ場であっても
毎朝行われる賢者少女と料理長の戦いは壮絶を極める。
この戦さ場に置いても投入されている一般兵士の約三分の一は料理人と其の助手であり
戦材として本国から送られる資材の半分は食材である
つまりは槍や剣や盾その他の備品と堂々の量の食材が運びこまれるが
その食材のほとんどがアルティシアの小さな御腹に収まるのである。
やっとのことで彼等が朝一番の戦争と呼ばれる儀式が終わったと成るが
確かに其の犠牲は大きい。アルティシア専用の食堂天幕の裏側には当然に
それ専用の厨房天幕が六つほど用意されているが其の二つは既に沈黙している。
朝から銀盆三十枚を用意するとなれば勿論朝叫鳥が鳴き出す遥か前から仕込みを始め
いざ朝一番の戦争が終われば勝ったはずとは言え二つの天幕の周りと其の中で
膝を降り蹲る料理人達の顔は疲労困憊が当たり前であり
中には米炊き釜をかき回す棒を杖代わりにやっと立ち上がるもの。
お玉を握りしめたまま失神する者がいるかと思えば・・・
「御坊二本と半分・・・人参は三本・・・烏味噌は小さじ二杯。甘味料は水蝙蝠の腸少々」
自分の担当の釜のレシピを呪詛のように吐き出してこれもまた地面にドサリと倒れ込む。
それほどまでに疲弊しているのにも関わらず。此処は戦場である。
「整列。気をつけぇ・・・小さく前ならえ・・・。直れ。
諸君。朝一番の戦争を乗り切った勇猛成る同士に敬礼・・・。黙祷・・・・・・。直れっ。
これより我ら愛しき美少女アルテイシア様専第十二お昼担当師団及び
本日の【母上様が三太にキッスする日】臨時担当部隊第参料理師団と第七お菓子師団。
任務に付きます。前任の方々ご苦労さまでした。料理人衛生兵前へ」
ともすれば敵陣深く攻め込む兵士さながらに。
若しくはそれ以上に厳しくも訓練された料理人が天幕の中に怒涛と流れ込む。
号令を承けた料理人衛生兵達が軍靴を動きやすいように改良された軍料理靴の足音を鳴らし
天幕の中で作業を始める。当然の如く最初に任務遂行の果に倒れた同胞に救いの手を差し伸べ
担ぎ担架に乗せって運び出す。散乱甚だしい料理器具は丸洗いされ所定の位置に戻される。
とっちらかった具材食材の切れ端は箒とちりとりでかき集め後に適切に処理されるだろう。
「聞きましたよ。本日も麗しく可憐な御嬢様の胃袋相手に勝利されたとか。お見事です」
「否・・・。辛勝であった。残り二皿のところまで攻めこまれてしまった。
次の当番の其の時まで新レシピを生み出さねばならない。
あの悪魔の胃袋には同じ兵法・・・レシピは通用しないのだ」
「良く知っております。第弐朝食担当料理長殿。
私も幾度となくあの胃袋の洗礼を受けております。
あんなにちっちゃくて可愛いお口で長大盛りミートスパゲティを三秒で啜り終わるとは・・・
自信作だったのに・・・美味しく作ったのに・・・」相当に悔しかったのだろう。
過去の所業を思い出し少々痩せ気味の第十二お昼担当師団長は憚らず肩を震わせる。
「師団隊長。作業準備完了です。ご命令を頂きたく」未だ若くも腕の確かな料理人が声を上げる。
苦い思いを共に共有する仲となれば言葉もいらぬ。
料理長と同士の暗黙の情を絆と結んで久しい。互いに目配せすると頷き下知が飛ぶ。
「良いか。とってもプリティで儚くも憂い芳しいアルティシア様であっても
あの胃袋は我ら料理人にとっては悪魔の如くである。
只に御腹が膨らめば良いとかの悪食に在らず。早食い大食いは常勝のそれでもあるが
何しろ味が悪いと残すのだ。可愛らしくも眉をキュっと寄せて口をすぼめるのだ。
あれは許せん。可愛いけど。許せん・・・。やっぱり可愛い・・・コホン。
良いか?本日は【母上様が三太にキッスする日】である。妖精谷から来賓もいらしゃるのだ。
此処で料理が気に食わないとかあってはならん。絶対にだ。
我ら第十二お昼担当師団及び臨時担当部隊第参料理師団と第七お菓子師団。
全身全霊を掛けてプリティなお顔と残酷な悪魔の如くの胃袋を持つアルティシア様に立ち向かう。
いざ。調理開始っ。遅れを取るなっ。口より先に手をうごかせっ」
戦士の武器が剣であればこそ
第十二お昼担当師団長のそれは特別に誂えた銀のお玉である。
長い髪を綺麗に結い上げ周りからは少々に貧乳気味であると噂風流されても
若くして師団料理長を担う立場となれば其の腕は確かである。
声高らかに下知を飛ばし生涯の友と認めた銀燭色のお玉を振り上げ叫ぶ。
その声が天幕に響き終わる前に応礼が上がると釜に火が入れられ
一度は沈黙した厨房天幕に活気が戻る。
そしてそこも又に戦場と化して行く。
「あのお猿の人。あんな高い所で何してるの?
樫の木の上で縄で縛られて泡吹いてるの。皆。雪玉投げてるよ?
中に石はいってるの?痛そう。はっ。新しい大人の遊び?夜営みの趣味趣向って奴?
きゃ・・・嫌らしいの。変態なの」
「御嬢様。何処でそんな言葉を覚えてくるのですか?
御嬢様は淑女なのですから、もっと上品な言葉使いを為さいませ。
あれは罰で御座います。消して夜営みの趣向で御座いませんです。
今日は【母上様が三太にキッスする日】で御座います。
あの輩は其の準備を担当してたのですが少々と興が乗ったらしくちょっと騒ぎになりましたの
作業が本少々送れた言う事で罰を受けているのです。ほっといて上げましょうね」
「ふ~~~ん。罰なのにちょっと楽しそうな顔してるの。
罰ならリボン付けて上げればいいのに・・・」アルティシアが真顔で言い捨てる。
「り・・・リボンで御座いますか?まさか桃色ピンクのリボンで御座いますか?
猿顔人の長い尾っぽにピンクのリボン。それは・・・なんと残酷な。
御嬢様?本気で御座いますか?」
何気なく覗いたアルティシアの顔が真剣そのものであると知れると
従者オリビヤは当人には観えないように腰後ろでパタパタと手を降り合図する。
大きなオリビアのお尻の陰でそれを見た従者その二十参番の者は慌てふためくも
脱兎の如く広間の向こうを飾る樫の木の元へを走って行く。
「何とも残酷な仕打ちで御座います。猿顔人のしっぽにピンクのリボンだなんて・・・
あっ。御嬢様。銅羅が成っております。来賓の方々がお付きになったのですね。
さっ。参りましょう御嬢様」
白銀の雪と綺麗な装飾が施された絢爛豪華な広間に銅羅が鳴り響く。
そして門の向こうに人影が現れる。
今日こそは【母上様が三太にキッスする日】
戦場に身をおいてこそ其の兵も敵兵もアルティシアも温もりと一刻の愛情を求め
絆を深めあう祭りの始まりである。
置字
