【女装男児】女装家且来素子闊歩歩いて候:其の弐拾
「且来素子准尉は確かにお腹が出ています。
ともすれば確かに個の大陸に巣食い在らす勇者の姿に似ています。
然し。それは外見だけであり。其の人の成とは違います。
現に勇者共から街を一つ救ったはありませんか?手掛ける饂飩屋の店も順調に・・・」
「別にあの者の話を聴きたいと言うわけではありません。近藤准尉殿。
どちらかと言うのなら貴方の事を聽かせて頂きたいのです」
それはそれは豪勢で絢爛であり尚且つにと規律然とした妖精王国城の中庭に面したテラスで
其の國を納める女王と倭之御國帝国陸軍・近藤少尉は面会を果たす。
近藤は戸惑う。
確かに目の前の凛とする涼し気な表情を崩さずも何処か威厳さえも感じられる大陸妖精王国の覇者。
其の女王に謁見を求められ和やかな午後の一時を過ごすのは居心地も良い。
近藤の家柄こそが軍事関係でなければこそにもし自分の進んだ道が違うなら
今日も明日もそれこそ銃弾飛び交う戦さ場よりも社交界の方が好みである。
まるで随分と昔の様にも思える枯れ枝拾いの勇者との一件は兎に角にも肩が付いた。
この地にて改めて且来が鍛え直した七尺にも及ぶ斬馬刀の試し切りに彼奴は七つの閃と共に
肉片を化して地に転がる。
且来の子となる第一子の卵を宿す妻も共に槍を掲げた妻たちも
半ば巻き添えを喰らってもそれでも一緒に戦った勇者二人もそれぞれにと歓喜に湧く中に
いつくかの問題が尾を引くことにも成る。
その大抵の問題は近藤准尉に降り掛かって来た。
先ずは彼奴の勇者が治めていた領地の引き継ぎ手続き。
これも又、複雑怪奇な手続きを得てこそに。当時こそは且来自身が治めるべきであると言う
住民領民の意見を且来は確固として受けれ入れず。紆余曲折の末に勇者ピュウシャが
暫定的に後を引き継ぐ形と成った。尤も当の本人は自分の姿を肌に刻んだ漢にどこまでも付いて行く
と剣を振り回し暴れまわるのをやっと且来が宥めたのである。
「久しぶりに儂も頑張った。褒めろ。近藤少尉」ピュウシャの部屋から褌一丁で出て来た且来が
じろりと睨めばこそに自分だって楽しんだ癖にと近藤は軽口を叩いた。
大抵の場合に且来が口にする受難とは且来自身が口にして横道に逸れる事にある。
最初に弐つ目の大陸に鶏竜の脚をつけた領地では勇者もどきと軍事を構え
其れが方が付いたと思えば元凶の枯れ枝拾いの勇者の首を撃つなどど腹を擦る。
そのお陰で最初に訪れるべきで有った大陸妖精王国・その首都となる妖精都への到着が随分と遅れる。
妖精都に到着すればしたで又と面倒が起こる。
その元凶こそが 精錬大陸妖精魔法國・現女王・ツェツィーリエ・ゲルマーヌ・ゾヌンである。
当初の予定よりも遥かに遅れて妖精都到着した且来一行に女王ツェツィーリエは懸念を隠さなかった。
其れもそうで有ろう。
且来が倭之御國帝国陸軍近藤大将から下知と示された命令こそは
精錬妖精魔法國家においてその國の姫と成る魔法妖精姫を娶り
愛情を注ぎ守り愛し時に尻に敷かれ時に鞭で叩かれそれでも尚愛情を注ぎつつも
襲い掛かる魔王軍を見事蹴散らて退け國を守り切る事を命ずる。
これこそが前提であり又に其の全てに集約される。
それの後に続く彼の種族は一夫多妻制を認めて居らずされど多産子宝沢山が奨励されておる故に
愛人妾等はほどほどにとあるならば。やはり且来が最初に唯一人の妻として娶るべきなのは
ツェツィーリエ当人。ただ一人で有るべきであった。
否然し。且来が大陸妖精女王・ツェツィーリエ・ゲルマーヌ・ゾヌンの前に姿を現した時
自分が迎えに送った騎士団その全員こそ52名を妻として娶るもその後ろにも何人か控えて居ると知れば
怒り心頭も御釈迦様の顔も三度では済まないだろう。
初めての謁見の時に正装とは行かずとも大陸精霊王国様式の鋼鎧が且来の体に
合わなかったのも運が悪かった。後にもっと気を使って於けばよかった近藤自身も後悔するが
且来は半腕を露出させていた。
当然と肌の上には其れまで縁を結んで来た女性の姿が入れ墨をして肌の上に刻まれている。
「その腕の文様は何を意味するのしら?且来殿」開口一番に問い詰めるツェツィーリエに
「決して長くもない人生であり。この先戦さ場で死ぬと分かっているのだから
責めて死ぬ刻位彼女等に抱かれて死んで行きたい。儂の我儘である」と且来は通す。
「確かに其の気持ちは分からなくもない。然し其の肌に妾の姿を刻む場所が有るのかしら?」
女として雌として夫の肌にその姿を刻んで貰うならば其れは出来るだけにと良い場所が良い。
且来は黙って利き手で突き出た腹を誘って魅せた。
それで終わりで有る。
女王ツェツィーリエがひらひらと手を振れば礼儀こそ起てた物の且来はそのままに部屋を出た。
以来にと彼女と且来の関係は最悪である。
そろそろ卵を産み落とし温卵の時期を迎える53番目の妻シリヌル・シシル・モリヌも
最初こそは毛嫌いしていたがそれでも態々と悪口を言い捨てに一日に何度も且来と交流が
有ったのはかなりマシな方である。ツェツィーリエと且来の間には其れもない。
「我等の妖精女王様が雄の趣味が悪いと言うの噂は本当であったな。
よりによってとひょろりと痩せた黄色い腕章の近藤殿に気にいるとはな」
本来こそは其の地位を剥奪されるかもしれない発言を城の庭廊下で
セシーグ・モレヌ・ウリンが堂々と吐き出す。
「全くその通りですね。
あのぷにぷにのお肉を内側から愛撫する快楽の味を知らないからです」
腰に剣を。背に盾を抱える副官イグも云々を縦に振る。
「近藤殿の詩に惹かれるのは分かるが。それで悪鬼は狩れぬからな。
剣の使い方は知って居るらしいが・・・。戦傷の一つもない体ではな。
雄としては兎も角に夫には出来ぬな」自分達の夫を誇りに思い二人の騎士は互いに微笑む。
「親方様。本当に食べるのですか?これ?」
「我が妻54番目に成るかもしれないとウキウキワクワク尻尾フリフリの恋次郎君よ
貴様が言い出したのだぞ?妖精王都にはとんでもなく旨い菓子があると。
もっとも儂もこれが菓子とは到底思えん。小猿の顔を干したのが何故故に菓子として出てくるのだ?」
倭刀匕首を腰から離せば未だうら若い恋次郎が旨い食べ物でもないかと聞かれ応えたのが其れである。
「恐れ多いで御座います。私奴ごときが・・・。尻尾が付いているなら当然振っておりますが。
私奴も噂でしか知りえません。すごく甘く。とろけるように甘く。ひたすらに甘くと更に甘くと
聴き及んでおります。御館様。なにせ高級品で御座います。あと腰が少し痛いです・・・コホン」
宿願と迄は行かずともそれでも何時かは自分もと思っていた願いが昨晩かなったのは良いが
人種人類と精錬妖精族との交わりには慣れもあれば癖もある。
あまり人の形で異性と交わらない精霊妖精族に取っては余計に腰も痛めるのだろう。
それにしてもあまりこ綺麗な店とは言えぬ安酒場の卓に熊のような雄と一風変わった雌が
向かい合い神妙な顔つきで名物と小猿の干し顔が乗った皿を見つめるのは滑稽である。
食い意地が張った且来であっても決して下手物食いではありえない。
倭之御國でも猿と言えばきちんとした動物で有るし干して有るとなればこそ
更にと不気味な感じが否めない。然し旨いと言わられば食い意地の張る且来で有る。
一睨みも二睨みもした後にやはり我慢出来ずにと皿に顔を近づけて観れば香ばしくも甘く
確かに甘い香りが鼻腔を擽る。
「どれどれ・・・喰わず嫌い赤子の駄々こねに等しいしな。まずは・・・」
店主が言うには先ずは小猿菓子を手づかみで掴んで・・・とその刻。
今に誠に且来の丸っこい指が子猿菓子を掴もうとした時。
ぐしゃりと其れが潰れる。
有ろう事かそこには御名子の否。雌の大きなお尻が卓の上に忽然と現れ有ったはずの菓子はべチャリと潰れる。
「貴様。私を誰と心得る閃光の䯢女アシュラフ・ゼイン・イルム。で有るぞ。
妖精王国への立ち入り許可証もこの通り所持しておる。それなのに何だ?
この無礼極まりない扱いは?貴様等。皆纏めて蟾蜍にしてくれるぞっ」
大声を上げ且来達の卓から小猿菓子を衣服の滲みとしながらも達退けると䯢女と名乗った雌が声を荒げる。
「立ち入り証を持って居ようがいなからろうが・・・
この店の料理を不味いと言い退けたのは御前だぞっ。
丹精込めて作った料理を不味いと言われて黙る料理人が何処に居る?
蟾蜍にすると言うなやってみろ!その前に三枚に卸して刺し身にしてやるわっ」
忙しい時間帯で有りながらも自分の作った料理が不味いと厨房の奥まで届くような声で
叫ばれたのならお玉と包丁を握りしめた儘に威勢よく飛び出して来てもしょうが無いだろう。
普段であれば精錬妖精族の雄は大人しい。されどこの時はそうではなかったらしい。
彼等が怖がるのは同じ種族の雌だけであり多種族と成れば堂々と渡り合う。
彼等の種族は嬶天下と言うだけであって決して雄が他の種族の雄より劣るわけではない。
妖精族の雌には頭が上がらなくても多種族と成れば話が違うし
置字
