【女装男児】女装家且来素子闊歩歩いて候:其の弐拾

「且来素子准尉は確かにお腹が出ています。
ともすれば確かに個の大陸に巣食い在らす勇者の姿に似ています。
然し。それは外見だけであり。其の人の成とは違います。
現に勇者共から街を一つ救ったはありませんか?手掛ける饂飩屋の店も順調に・・・」
「別にあの者の話を聴きたいと言うわけではありません。近藤准尉殿。
どちらかと言うのなら貴方の事を聽かせて頂きたいのです」
それはそれは豪勢で絢爛であり尚且つにと規律然とした妖精王国城の中庭に面したテラスで
其の國を納める女王と倭之御國帝国陸軍・近藤少尉は面会を果たす。
近藤は戸惑う。
確かに目の前の凛とする涼し気な表情を崩さずも何処か威厳さえも感じられる大陸妖精王国の覇者。
其の女王に謁見を求められ和やかな午後の一時を過ごすのは居心地も良い。
近藤の家柄こそが軍事関係でなければこそにもし自分の進んだ道が違うなら
今日も明日もそれこそ銃弾飛び交う戦さ場よりも社交界の方が好みである。
まるで随分と昔の様にも思える枯れ枝拾いの勇者との一件は兎に角にも肩が付いた。
この地にて改めて且来が鍛え直した七尺にも及ぶ斬馬刀の試し切りに彼奴は七つの閃と共に
肉片を化して地に転がる。
且来の子となる第一子の卵を宿す妻も共に槍を掲げた妻たちも
半ば巻き添えを喰らってもそれでも一緒に戦った勇者二人もそれぞれにと歓喜に湧く中に
いつくかの問題が尾を引くことにも成る。
その大抵の問題は近藤准尉に降り掛かって来た。
先ずは彼奴の勇者が治めていた領地の引き継ぎ手続き。
これも又、複雑怪奇な手続きを得てこそに。当時こそは且来自身が治めるべきであると言う
住民領民の意見を且来は確固として受けれ入れず。紆余曲折の末に勇者ピュウシャが
暫定的に後を引き継ぐ形と成った。尤も当の本人は自分の姿を肌に刻んだ漢にどこまでも付いて行く
と剣を振り回し暴れまわるのをやっと且来が宥めたのである。
「久しぶりに儂も頑張った。褒めろ。近藤少尉」ピュウシャの部屋から褌一丁で出て来た且来が
じろりと睨めばこそに自分だって楽しんだ癖にと近藤は軽口を叩いた。

大抵の場合に且来が口にする受難とは且来自身が口にして横道に逸れる事にある。
最初に弐つ目の大陸に鶏竜の脚をつけた領地では勇者もどきと軍事を構え
其れが方が付いたと思えば元凶の枯れ枝拾いの勇者の首を撃つなどど腹を擦る。
そのお陰で最初に訪れるべきで有った大陸妖精王国・その首都となる妖精都への到着が随分と遅れる。
妖精都に到着すればしたで又と面倒が起こる。
その元凶こそが 精錬大陸妖精魔法國・現女王・ツェツィーリエ・ゲルマーヌ・ゾヌンである。
当初の予定よりも遥かに遅れて妖精都到着した且来一行に女王ツェツィーリエは懸念を隠さなかった。
其れもそうで有ろう。
且来が倭之御國帝国陸軍近藤大将から下知と示された命令こそは
精錬妖精魔法國家においてその國の姫と成る魔法妖精姫を娶り
愛情を注ぎ守り愛し時に尻に敷かれ時に鞭で叩かれそれでも尚愛情を注ぎつつも
襲い掛かる魔王軍を見事蹴散らて退け國を守り切る事を命ずる。
これこそが前提であり又に其の全てに集約される。
それの後に続く彼の種族は一夫多妻制を認めて居らずされど多産子宝沢山が奨励されておる故に
愛人妾等はほどほどにとあるならば。やはり且来が最初に唯一人の妻として娶るべきなのは
ツェツィーリエ当人。ただ一人で有るべきであった。
否然し。且来が大陸妖精女王・ツェツィーリエ・ゲルマーヌ・ゾヌンの前に姿を現した時
自分が迎えに送った騎士団その全員こそ52名を妻として娶るもその後ろにも何人か控えて居ると知れば
怒り心頭も御釈迦様の顔も三度では済まないだろう。
初めての謁見の時に正装とは行かずとも大陸精霊王国様式の鋼鎧が且来の体に
合わなかったのも運が悪かった。後にもっと気を使って於けばよかった近藤自身も後悔するが
且来は半腕を露出させていた。
当然と肌の上には其れまで縁を結んで来た女性の姿が入れ墨をして肌の上に刻まれている。
「その腕の文様は何を意味するのしら?且来殿」開口一番に問い詰めるツェツィーリエに
「決して長くもない人生であり。この先戦さ場で死ぬと分かっているのだから
責めて死ぬ刻位彼女等に抱かれて死んで行きたい。儂の我儘である」と且来は通す。
「確かに其の気持ちは分からなくもない。然し其の肌に妾の姿を刻む場所が有るのかしら?」
女として雌として夫の肌にその姿を刻んで貰うならば其れは出来るだけにと良い場所が良い。
且来は黙って利き手で突き出た腹を誘って魅せた。
それで終わりで有る。
女王ツェツィーリエがひらひらと手を振れば礼儀こそ起てた物の且来はそのままに部屋を出た。
以来にと彼女と且来の関係は最悪である。
そろそろ卵を産み落とし温卵の時期を迎える53番目の妻シリヌル・シシル・モリヌも
最初こそは毛嫌いしていたがそれでも態々と悪口を言い捨てに一日に何度も且来と交流が
有ったのはかなりマシな方である。ツェツィーリエと且来の間には其れもない。

「我等の妖精女王様が雄の趣味が悪いと言うの噂は本当であったな。
よりによってとひょろりと痩せた黄色い腕章の近藤殿に気にいるとはな」
本来こそは其の地位を剥奪されるかもしれない発言を城の庭廊下で
セシーグ・モレヌ・ウリンが堂々と吐き出す。
「全くその通りですね。
あのぷにぷにのお肉を内側から愛撫する快楽の味を知らないからです」
腰に剣を。背に盾を抱える副官イグも云々を縦に振る。
「近藤殿の詩に惹かれるのは分かるが。それで悪鬼は狩れぬ。
剣の使い方は知って居るらしいが・・・。戦傷の一つもない体ではな。
雄としては兎も角に夫には出来ぬな」自分達の夫を誇りに思い二人の騎士は互いに微笑む。

「親方様。本当に食べるのですか?これ?」
「我が妻54番目に成るかもしれないとウキウキワクワク尻尾フリフリの恋次郎君よ
貴様が言い出したのだぞ?妖精王都にはとんでもなく旨い菓子があると。
もっとも儂もこれが菓子とは到底思えん。小猿の顔を干したのが何故故に菓子として出てくるのだ?」
倭刀匕首を腰から離せば未だうら若い恋次郎が旨い食べ物でもないかと聞かれ応えたのが其れである。
「恐れ多いで御座います。私奴ごときが・・・。尻尾が付いているなら当然振っておりますが。
私奴も噂でしか知りえません。すごく甘く。とろけるように甘く。ひたすらに甘くと更に甘くと
聴き及んでおります。御館様。なにせ高級品で御座います。あと腰が少し痛いです・・・コホン」
宿願と迄は行かずともそれでも何時かは自分もと思っていた願いが昨晩叶ったのは良いが
人種人類と精錬妖精族との交わりには慣れもあれば癖もある。
あまり人の形で異性と交わらない精霊妖精族に取っては余計に腰も痛めるのだろう。
それにしてもあまりこ綺麗な店とは言えぬ安酒場の卓に熊のような雄と一風変わった雌が
向かい合い神妙な顔つきで名物と小猿の干し顔が乗った皿を見つめるのは滑稽である。
食い意地が張った且来であっても決して下手物食いではありえない。
倭之御國でも猿と言えばきちんとした動物で有るし干して有るとなればこそ
更にと不気味な感じが否めない。然し旨いと言わられば食い意地の張る且来で有る。
一睨みも二睨みもした後にやはり我慢出来ずにと皿に顔を近づけて観れば香ばしくも甘く
確かに甘い香りが鼻腔を擽る。
「どれどれ・・・喰わず嫌い赤子の駄々こねに等しいしな。まずは・・・」
店主が言うには先ずは小猿菓子を手づかみで掴んで・・・とその
今に誠に且来の丸っこい指が子猿菓子を掴もうとした時。
ぐしゃりと其れが潰れる。
有ろう事かそこには御名子の否。雌の大きなお尻が卓の上に忽然と現れ有ったはずの菓子はべチャリと潰れる。
「貴様。私を誰と心得る閃光の䯢女アシュラフ・ゼイン・イルム。で有るぞ。
妖精王国への立ち入り許可証もこの通り所持しておる。それなのに何だ?
この無礼極まりない扱いは?貴様等。皆纏めて蟾蜍にしてくれるぞっ」
大声を上げ且来達の卓から小猿菓子を衣服の滲みとしながらも達退けると䯢女と名乗った雌が声を荒げる。
「立ち入り証を持って居ようがいなからろうが・・・
この店の料理を不味いと言い退けたのは御前だぞっ。
丹精込めて作った料理を不味いと言われて黙る料理人が何処に居る?
蟾蜍にすると言うなやってみろ!その前に三枚に卸して刺し身にしてやるわっ」
忙しい時間帯で有りながらも自分の作った料理が不味いと厨房の奥まで届くような声で
叫ばれたのならお玉と包丁を握りしめた儘に威勢よく飛び出して来てもしょうが無いだろう。
普段であれば精錬妖精族の雄は大人しい。されどこの時はそうではなかったらしい。
彼等が怖がるのは同じ種族の雌だけであり多種族と成れば堂々と渡り合う。
彼等の種族は嬶天下と言うだけであって決して雄が他の種族の雄より劣るわけではない。
「おぅおぅ。やってみろよ。少々美人でボンキュンど~~~んだからって調子にのるなよ!」
「不味い食事を作る料理人の目の抱擁に成るなんて屈辱的だわ。
この際。其の目玉も潰してやるから覚悟なさいな。
・・・日出のは東の空。高く登って南に輝き夜帳に堕ちるは西の彼方・・・」
見慣れない杖の形は異様で有るが高く前に突き出し呪文を唱えるなら䯢女なのだろう。

「親方様・・・。御館様・・・?
そっそんな・・・目を開けたまま気絶なさってる?」
此処最近は特に良事もなく唯一の楽しみとした小猿の甘菓子を掴もうとした瞬間。
大きくも形の良い尻に物の見事にべっちゃりと潰され且来はあまりのショックにおののき
弐瞬三瞬と気絶した。自分ではチャームポイントだと言い張る丸く小さな目を見開いたままに。
「日出のは東の空。高く登って南に輝き夜帳に堕ちるは西の彼方とその先に・・・
我が名䯢女アシュラフ・ゼイン・イルムに集いし精霊の御霊よ。いざ・・此処に」
安酒場に漂う空気が䯢女が携え掲げる杖の周りに集まり歪む。
否然し・・・。術者に忠実な精霊の御霊とやらは無情にも霧散する。
「えっ?䯢女アシュラフ・ゼイン・イルムに集いし精・・・」
䯢女として術を習い行使摺るように成ってから初めて䯢女アシュラフの杖に集まり集う
精霊の御霊とやらはそれを無下にと断り何処かへと消えて溶ける。
正確には逃げ出したと言うべきで有ろう。
「なっ。何が起きてると言うの?術が発動しない?精霊が・・・・えっ?」
その日その刻に初めて䯢術に失敗し狼狽するアシュラフの背筋に悪寒が奔る。
対に脚を置く安酒場の主人の雄は己のした事を真摯に後悔する。
確かに自分がつくった料理を不味いと言われて頭に血が上ったのは確かだ。
然しついついと勝手に体が動き思い切りその女を突き飛ばしたのはいけなかったろう。
精錬妖精の雄は確かに雌よりは弱い。それでもその気になれば女の一人位は軽く宙に放り上げる。
ドスンと尻を乗せたのは別の客の卓の上だ。責めてもう少し加減すればよかったのだ。
尤も後の祭りである。呼び出され力を行使行しようと杖の周り集まる精霊達は悲鳴を上げ消える。
狼狽する䯢女の其の後背で山が動いた。
あまり高くもない天井に聳え立つと視えるのは其の漢の気迫で有ろう。
恐らくは䯢女が飛び乗った卓の上には料理が乗っていたはずで有る。
それが䯢女の尻の下敷きにでも成ったに違いない。
山とそびえる異国風情の漢の目は親の仇とばかりに爛々と焔に燃える。
体躯が大きいと言うだけでは済むはずもなく。体からも怒りの焔が轟々と燃える。
「おっ。親方様。落ち着いて。さっ。猿のお菓子は又注文すれば良いですから。
落ち着きましょう。只でさえ妖精王都では邪険扱いなんですから。
個々は大人しく。親方様。個々は大人しく。ねっ。ねっ」
異国風情の漢の側にこれも又にと異国着物を着込んだ妖精の雌が必死に宥める。
「あの・・・。小猿の甘菓子ならさっきので売り切れで・・・次は何時仕入れられるか知れず」
事情を察した主人が事情を説明する。尤もこれが叉に漢の怒に油を注ぐ。
ぬっと山が後背で動けば頭の上から声が堕ちる。
「儂は根っからの喰心坊で有る。
それこそ大陸飛び迄してこの地に脚を付ける理由の半分は食い物である。
異国の個の國は珍しくも旨い物有ると聴いて態々に運んだのも喰心坊だからだ。
確かに観た目も良くはないし匂いも癖が有った。然し旨いと聞けば尚更に腹が空く。
しかも又今度は何時入荷されるとわからずと尚更だ。
儂の小猿の菓子を潰したのは貴様の尻であるな?肌の色が違う女よ」
天井に頭をぶつけぬようそれでも真っ直ぐに仁王と立ち目玉だけをギョロリと浅黒い肌の雌を睨む。
「私はこの店主に突き飛ばされて・・・。そもそもこんな不味い物を出す店なんて・・・
・・・あっ。御免なさい。私の尻が菓子を潰しました。ちょっと大きいので」
䯢女アシュラフは自分は悪くないと言い訳しようとするが自分の尻についた小猿の菓子の残骸の
感触に気づくとこれは不味いと口をつぐむ。
「個々は精霊妖精族の王都で有る。
観た所。貴殿も又異国の旅路の果てであろうな。
だとすれば異国で口にする食べ物の中には自分に合わない物が合って当然ではないか?
それに一々にと腹を立てるのは他に理由があるのではないか?」
ぬぅっと大きな顔が䯢女アシュラフに迫る。
「そっそれは・・・」確かに異国料理ともなれば普段は食べない物の有るし
必ずしも自分が旨いと思えない物もある。それを理由に店の中で癇癪を起こすと成れば
何か後ろめたい事でも隠してると咎められてもしょうがあるまい。
「時に店の主人。
儂が注文した小猿の顔甘菓子は貴重品なのか?容易くとは手にはいらない物なのか?」
機嫌も治るはずもなく且来は主人に顎を向けて問いてくる。
「へぇ。体躯の大きな旦那。
あれは随分と珍しい品物なんです。この辺りじゃ手に入らないし時期も有るんです」
今にでも暴れ出しそうな巨躯の漢に申し訳無さそうに主人は答える。
「小猿の顔甘菓子と言うのが昴猿の頭を干した物だと言うのなら今の時期には手に入らない。
それに生息してるのもこの國ではない。我が故郷・䯢女国でありその一部の森にしかない」
「ほう。貴殿の國。䯢女国と言うのか?
只の菓子でも噂に成るくらいに旨いなら食物は尚の事に旨いものが揃って居るに違いない。
これは楽しみだな。貴殿の尻には貸しがあるからな。付き合って貰うとしよう」
「えっ。私のお尻に貸し?私のお尻が仮を作ったの?」
目を丸くし狼狽する䯢女アシュラフをヒョイと小脇に抱えると且来はそのままに店をでてしまう。
「えっ。待って待って?困るから。私未だこの國に・・きゃん」
「貴様の尻は儂が預かる。儂の腹の蟲が収まる迄。
䯢女国の旨い飯を喰らうまで御前の尻は儂の物だ。許可無く使わせる事はないと知れ」
「何よ。それ。私のお尻よ。私の物でしょ」
且来の小脇に抱えられジタバタと脚を振り回す䯢女アシュラフの尻がバチンと音を鳴らして強く打たれる。

「全くぅ・・・。あの人は勝手すぎるんだよ。
一夫多妻禁止の國でお嫁さん53人も娶ったと思えば。一番大事な人をほっぽりだして
お菓子食べに行くから僕に留守番しろっとか串ん坊すぎるでしょ
いい加減にして下さいな。且来准尉殿」王都の庭廊下を歩きぼやく近藤で有るが其の足取りは軽い。
相方を務める且来は一夫多妻を字で行くが当人としての近藤はこれまで全く持ててない。
これは一重に人種人類と精練妖精族との価値観の違いによる物で有る。
それでも庭廊下を歩く近藤の足取りは軽く向かう先の庭東屋には妖精女王のツェツィーリエが待っている。
「妖精女王ツェツィーリエ様。今日も又一段とお美しく・・・」庭東屋の柱に寄ると近藤は大げさに礼を尽くす。
「・・・挨拶等良い。早く来れへ」
待ちきれず待ちきれないと言うように妖精女王ツェツィーリエは自分の隣へ来るように促す。
またりと流れ草と花の甘い香る午後の庭園。
当然とばかりに人払いもされて居るならば周りも気にせずに済むのだろう。
敬々しくも態々と緩慢にと女王の隣に腰を落すと直ぐに細い指が股座に伸びてくる。
最初にツェツィーリエが手を伸ばしてく来るのは近藤がそうしろと教え込んだからだ。
自分が欲するなら先ずは相手に尽くせと躾けている。
最初こそ女王と言う立場もあれば憮然とした態度であったが一度快楽を与えてやると
次からは意外にも言う事を聴くようになる。
もっとも躾を守らなければ快楽を得られないとも教えたからである。
異国の漢の物を手で嬲ると成れば興奮も摺るのだろう。近藤自身も直ぐに猛る。
手の中に伝わる物が固くなるとツェツィーリエは瞳を潤ませ股座に顔を埋めていく。

「こら。キョロキョロするな。こんなの珍しくもないだろ。尻の持ち主よ」
「そうは言ってもだな。儂は初めて来たのだ。儂の尻女よ」
「それは言わないという約束だろう。特に人前では」
顔を真っ赤にし䯢女アシュラフは恐ろしげに曲がった手で且来の足甲を殴ろうとする。
尤もでぶの癖にしかも周りの風景ばかりに気を取られているのにヒョイと且来は交わす。
件の件。
且来は楽しみにしていた小猿の顔甘菓子を尻で潰してしまった䯢女アシュラフは
その代償に自分の尻を人質にと取られる。
自分の尻で有る恥ずであるのに且来が宙の上に丸っこい指でもぞもぞと何やら動かすと
それは光の文字と成り自らの腰に巻き付いた。
「ちょっと待て。それは因法か?呪文も唱えずに因方を使うと言うのか?
それより何だ?これは私の腰に巻き付いてるぞ?少し熱いし」
慌てて取ろうとしても指の間から光輪はするりとすり抜けつかめるはずもない。
「小猿の顔甘菓子を食わせるまで御前の尻は儂の物だからな。
然し其の尻は御前の体にくっついている。かと言って好きにはさせぬ。
御前の体にくっついては居るが儂の尻だからな」鼻息を荒くして且来は宣告する。
「何を言っているのだ。私の尻だぞ・・・。あっ。うぐぐ。急に色々と・・・」
「言ったで有ろう。御前の尻は儂の物だ。人質。否と尻質と成れば貴様の勝手に出来るわけなかろう」
「ちょ。ちょっと待って。そんな・・・うぐぐ。ちょっと用を足したいのだが・・・」
「駄目。とりあえず腹が減ったから何か喰らう迄お・あ・ず・け♪」
「そんなっ。極悪非道ではないかっ。菓子喰らいたさに淑女の尻を人質に取る悪党風情めぇ。
あんっ。ちょっと。そこ。いやん。もっとおくぅ~~~。ぐはっ。やっぱり用足しを!
この変態異国人。待て。私は䯢女だぞ。あん。漏れちゃう漏れちゃう。色々漏れちゃう」
態々とズタズタと早足で歩き去る且来を何とか杖を付いてよたりよたりと䯢女がついていく。

且来の腹はよほど蟲の居所が悪かったのだろう。
一旦は根城に帰ると其の足で直ぐ籠も付けずに鶏竜に跨る。
「待って。待ってくれ。之に乗ったら本当に漏れちゃうから。
頼む。我が尻の持ち主よ。慈悲を恵んでくれ。慈悲を。
案内するから。ちゃんと案内するから。責めて之に乗る前に用を足させて下さい」
只の甘菓子一つと思っていたが個々までくると且来が本当に怒っていると悟り
䯢女アシュラフは観念して当面は言う事を聴く事にする。
何処から湧いて来たかも知れぬ観たことも会ったこともない異国の漢に尻を人質に取られたのだ。
「軍命で有るとは言え。この地に儂のいる場所はない。
どうせ東屋の影裏で黄色い腕章の小童と慰め会ってるのだろう。
それも又、良しとするならば。儂は旨い物でも喰ってくるとしよう。
用が出来たら呼ぶが良い」自らの嫁達に機嫌悪く言い捨てると且来は鶏竜の腹を蹴る。

以来二日の朝と夜を空の上で過ごし辿りついた国境の市場村の光景に且来は小童の如く燥ぎ回る。
「これは何だ?食えるのか?儂の尻女」屋台の籠を覗き込んでは一々と声を上げる。
「それは水蝙蝠だな。食えない事はないがどちらかと言えば頭痛に良く効く薬だ。
だから人前でそう呼ぶのは止めて欲しい。我が尻の持ち主・・・様」
鶏竜に乗る前に何とか無事に用を足させて貰ったがこの地に付くまでこれも又ずっと我慢させられる。
そこまで来てやっとこの漢の性悪さが観に滲みたとは言え渋々にと丁寧にアシュラフは接する
「良薬口に苦しとなれば意味もないな。それよりこっちの籠はうねうねと草が動いているぞ」
「一々と籠がある度に止まらないで欲しい。我が尻の持ち主様よ。
早く行かねば良い乗り物がなくなってしまう。この先は鶏竜は翔べないのだ」
どうせ今夜は野宿と成るにしろ國堺を超えると成れば出来るだけ早い方が良いに決まってる。
何しろ着の身着のまま自分は杖一本。尻の持ち主ときたらでかく突き出した腹一つである。
精練妖精国と顎棘䯢女国との国境で小猿の顔菓子を求めてその先に進むと成るならば色々と
旅支度も必要である。何しろ妖精國とは違い顎棘䯢女の國では何もかもが違いすぎるのだ。
「鶏竜が翔べないと成ると歩くのか?馬か?それとも・・・」
「馬鹿者であるのか?我が尻の持ち主様は・・・。
妖精國が大陸壱との文明を持つ場所なら顎棘䯢女国はその真逆。
馬等が通れる道など国境に有るものか。二本の足で歩くのだ」
前を歩くアシュラフの大きな尻に付いて歩く且来の脚が止まる。
「歩くのか?山道を・・・?帰りたくなって来たぞ」むっとして脚が止まる。
此処で機嫌を悪くされると尻が返して貰えなくなる。
「大丈夫だ。自分の脚で歩く必要なないのだ。寧ろ其れが尤も危険なんだぞ。
ほら。観えてきた。彼処だ。彼処。頼むから脚を動かしてくれ」
結構真剣な眼差しでアシュラフは市場街の一角を指で指し示す。

「おうっ。これは何と言えば良いのか?鶏竜を観た時も驚いたが。
彼等は人で有るのか?それにしても儂が子供に見えるな。いやはや儂の見聞も未だ狭いな」
「彼等は魔族だ。尤も先祖こそ造られた物でも有るが長い年月の刻に独自に進化した種族と成る。
尤も進化したのは体だけじゃない。その生活様式と信仰も独特だ。こら。不用意に近づくな」
さっきは歩くのが嫌だと言ったくせにいつの間にかするりと前に出てきた且来を無理に止める。
そうは言っても物珍しさに狩られ小童の如くと瞳を輝かせて黑班巨人族の元へと且来は無遠慮に近づく。
且来が不用意にも近づこうとする場所は一種も二種も異様である。
危険及ばすにと少し離れた場所で眺めるなら幾つかの小山が観て取れる。
尤もきちんと叩き鳴らされて居ると成れば誰かの大きな手平で均されたのだろう。
其の小山の面は段々と作られ其の段に山を鳴らした手の持ち主達が尻を乗せ屯している。
倭之御國民としても且来は背が高い方だし体躯も良い。
且来を初めて観る輩は山とも例えるがそれが山なら段に座る輩は大山だ。
背が高い大きいだけとは言えず且来よりも頭3つも背が高ければ難いも大きい。
人種人類の枠で括るのなら黑班巨人族は最大の背の高さと体躯を誇る。
「これだけ体躯が大きいなら食物も相当喰らうのだろうな。喰心坊仲間だな。
それにしても美人である。だが解せぬ。雌ばかりであるぞ?雄は恥ずかがり屋なのか?」
「黑班巨人族に漢と雄は居ない。子を宿す時は多種族を無理に犯すんだ。
なにせこの体だぞ。当然交わりは激しく三日も五日も続くと聞こえる。
雄共に取っては悪夢であるな」恐る恐ると且来の背中に隠れアシュラフが教えてくる。
「なんと。雄いらずか?普段はどうしてるのだ?」純粋に不思議と思った且来が口にする。
縁巡りて偶然に且来が一番最初に近寄った黑班巨人族の雌は他の山でなく少し離れた切り株に腰を下ろす。
且来が美人と呟いたのが聞こえたのから其れまで浅黒斑肌の雌の向こうからもう一人が顔を出す。
体の向きを変え前の切り株に座る雌にこれも又大きな乳房を押し付けて居るのは誘惑でもしてるのだろうか。
「なるほど。この二人は番らしいな。相方を美人と褒めてくれたなら自分はどうだとでも言うのだろう」
「ほうほう。番と成れば互いに絆を結んで居るという訳だな。
それなら儂としては頭痛の種には成らぬ。ふむ。手前の淑女は野性味溢れても美しい。
背後の淑女は幼さの中にも妖艶な微笑みを持つと観れる。似合いの二人と思えるな。
互いに惹かれ会い縁と絆を結んでいるなら羨ましい限りである」これも且来は素直に言葉を紡ぐ。
それを聴いて二人の黑斑巨人族は互いに顔を見合わせ世辞と言えるかも知れぬが素直に喜び
且来の前の株に座る大きい雌がぐるりと頭を巡らし少し離れた木造りを小屋を顎で指し示す。
すると何やら待ってましたとばかりに人影が且来達ににじり寄って来る。
「黒斑巨人の人足運びをお捜して御座いますか?御客様。ですがこの番は気性が少々荒く。
宜しければもっと扱い安いのを御用意出来ます。
正しこれが良いと言うならつまみの一つも恵んでやって下さいませ」
悠長にも妖精標準語を匠に扱う係の者も且来の目には新鮮な姿に映って見える。
人姿で有るが其の耳は顔横には無く頭の天辺にニョキリと二本並ぶ。
其れは直ぐに自分の世界の兎の耳に良く似てるとすれば兎人とでも云う所であろうか。
「我が尻の持ち主よ。彼女等の体躯を観れば良くと知れ様。貴殿と同じ同類で喰心坊なのだ。
係の者が言うように私の目から観ても気性が荒いと見えるが小腹を満たしてやるのも一興だろう」
蜂刺し棒を持つ係の者に声を掛けても貰いやっと安心出来たとでも言うのだろうか
アシュラフが且来の背後ろから出て来て又も教えてくれる。
正直な所。且来は係りの者がピクピクと動かす耳の方が気に成るのだがとりあえずうなずいて見せ
腰鞄から金貨弐枚を兎人係りの者に投げてやる。尤もこれは少々に多い。
放って寄越された金貨を落としそうになりながらも何とか受け止めるとわたわたと小屋へと奔る。
「二人の淑女の名は何ていうのだ?」何やらに当たりが騒々しく成っていく中で且来が問う。
「ドグ・・・」後に彼女が夫で有ると知る体の大きい雌が最初に応え。
「ニヌ・・・」夫の背に乳房を押し付けたままの妻の巨人が次に答える。
「ドクとニヌとな。儂は且来素子鏡蔵で有る。隣の奴は尻女となる」
「誰か尻女だ。私は䯢女アシュラフだ。断じで尻女ではないぞ」
顔を赤く染め頭に湯気でも立ち上らせようかと憤慨するアシュラフの横に四本角の牛が届く。
係の者と数人の世話焼き人らしき者達が連れてきたのはドグに三頭。ニヌに三頭と都合六頭の牛だ。
互いに顔を見合わせ目を丸くしたのはドグとニヌである。
ドクもニヌも黒斑巨人族であればこそ其の営みは人足と荷物運びで有りいくら喰心坊であろうとも
仕事をきちんとしないと飯にはありつけない。自分達に仕事をくれる輩はそれなりに多いかもで有るが
其の前に何かを奢ってくれる輩は多くない。自分達が大食らいであると知っているからだ。
「これが慈悲なのか?それぞれに牛三頭とな。儂一人で喰うにも1頭は多いが・・・。
儂の財布が減るのは気にするな。儂が喰うか主等が喰らうかでどのみち財布中身は減るものだ」
ゲラゲラと声を上げ腹を叩くと且来は係の者が用意した簡易作りの軋む椅子に尻を乗せる。
そうと言われれば遠慮も要らぬとなる。夫となるドグは逃げようとする牛を掴み上げ〆ると
妻であるニグに最初に渡してやる。
嬉しそうに受け取るニグもドグが自分の分を締めて咥えるのを待ってから初めて食らいつく。
「〆たばかりとは言えそのまま食らいつくとは何とも豪快な淑女であるな」
関心したとでも言うように且来はぽんと膝を撃ち〆たばかりの牛一頭にそのまま食らいつく巨人に微笑む。
腹が空いて物欲しそうな顔に観えたのかそれとも未だ当たりに残りがあると知っての事か
ドグは力任せに自分が咥える牛の後ろ脚を千切ると且来の前に差し出す。
「儂にも馳走してくれると言うのか?礼儀も知る大きな淑女であるな」
「待って。待って。ちゃんと火通すから待ちなさいってば」
受け取った脚にこれも又食らいつこうとする且来を止め䯢女の本領と手から赤く焔をたゆらせ
アシュラフが引き止める。当然に上がった焔に兎人も慌てるが且来は椅子に座ったままだ。
「おっ。御客様達は国越をなさるのですよね?どちらまでお行きに成るですか?」
それぞれのやり方でちょっとした腹ごしらえと舌太古を撃つ且来達距離を置きながらも係が問いてくる。
「尻を人質に取られて小猿の顔菓子を食べに國超えと成るんだ。情けない事に」
「あの顔菓子は確かに美味しいですが・・・時期も悪ければ遠地の森への道行と成るのですね。
それ程の焔を興す䯢女様が尻を人質と・・・?面妖で御座いますね。
其れよりも色々と入用な物が多いと思いますが・・・」
兎耳の係の者は商売上手でも有るらしいが主であろう体躯の大きな漢は食べ比べとばかりに忙しい。
「只にあの小猿の森は危険も多いと行きますし。やはり多少成りとも準備が居るかと・・・」
尚も喰い下がる係の者の言葉に適当にしろとばかりに且来が腰の袋に手をやり金貨を投げてくる。
「其れで適当に揃えろと言う事だと思うけど・・・あと桃酒も欲しいみたい」
「畏まりました。奥方様。人足は其の二人と他に入用な物をこちらで御用意させて頂きます」
「奥方じゃないのよ。お尻を人質に取られてるだけなのよ・・・」
言ってもきっと伝わらないと知ってるし急に奥方と呼ばれても困るのも事実であろう。
且来の足元に個の地でしか飲めないらしい桃酒の樽が一樽置かれるが巨人二人の前には
更に多くドスンドスンと桃酒樽が降ろされる。
「貴方等も番なのか・・・?」ドグが二頭目の牛を腹に納めて聴いてくる。
「番とかじゃないから。全然違うから。これにはふっか~~~い理由があるのよっ」
「是非に・・・」こちらももう少しで二頭目の牛を喰らい終わる頃合いのニグが聴いて来る。
「それはですね。斯く斯く云々と云々かんぬん聴くも涙。語るに乙女の恥なのよ。云々・・・」
一応は恥じらって観る癖に番と決めつけられては堪らないとばかりに仕方なくアシュラフが話出す。
「なるほど。こちらの腹の出っ張った御主人とやらはこうやって雌を手籠にしてるのだな。
中々斬新な手口だ。愉快愉快」腹が膨らむと今度は膝を叩いてドクが嘲笑う。
「斬新ところか極悪人で御座います。用足し一つもままならず・・・」
そこまで言うと何やら都合の悪い事でも思い出したのかアシュラフは黙り込む。
且来はフンッとばかりに鼻を鳴らし横を向く。なにやらこちらには思惑も有るのだろう。
「御客様。承った商品を御用意しました」恭しくも少々と大げさに係の者が声を掛けて来る。
良く火の通った牛の脚の殆どを腹に納めた且来が振り返るとそこには数人の輩が並び立つ。
「御主人様が御食べに成りたいと言われる小猿の菓子はその生息地が限られておりますし
勿論と稀有な商品となります。それ故に危険な旅路となりますししっかりと準備してしかるべきでしょう」
大袈裟にも誇らしげに話す兎人の掛かり者は口上を垂れる。
何故かしっかりと旅燕尾服に着替えてきてると言うのなら自身もその商品に入っているとでも言うのだろうか。
「先ずは私奴兎人族一家の長兄ことヌキラ。あらゆる者と物を調達するのを得意としております。
次に長女のヌクリ。脚の疾さと木々の上を跳ね回るのなら誰にも負けません。
末妹のヌピピは未だ少女ですが・・・その・・・とても喰心坊で食通で御座います。
御察しの通り三兄妹で御座います。必ずや御役に立って見せますので何卒に」
長兄長女が深々と頭を下げると言うのには末妹は嬉しそうにぴょこんと未だ長くもない耳を起て且来に駆け寄る。
近々に子を持つと成る且来もこうなるとたまらない。末妹ヌピピの頭を撫でると
「儂は構わぬが聞けば結構と大変な度になるのではないか?幼子でも行けるのか?
代金の方は先程の物で足りるのか?」戦人の割りに仕える者にも且来は気を使う。
この辺の土地の相場も解らぬし人を雇うと成ればそれなりに掛かるはずだ。
尤も且来が支払った金貨は精練妖精王都金貨であるから多すぎるくらいでもある。
それでも黒斑巨人族の番一組。兎人の兄妹其の三人と一頻りの道具と食料と成ればそれなりに物も多い。
「大丈夫で御座います。御主人様が承諾して頂ければ直ぐにでも契約手続きを進めさせて頂きます」
これも又大袈裟に長兄ヌキラが頭を下げる。
「うぬ。そうしてくれ。尻女も構わんな。これからでかけけると成ると野宿にも成るだろう。
儂らだけ腹を膨らませたのは気が引ける。さっきの金で貴様等も食事するが良い。
でかい二人にも追加を頼む」且来の言葉に一番喜んだのは兄妹ではなく大きな番の方でもある。

「だから尻を人質に取られてるだけで番でも奥方でも妻でもないの!」
それぞれの好物を口に運びながらもアシュラフは顔を真っ赤にしながら怒りを爆発させる。
「そうは言ってもですね。奥方様。
尻を人質にと仰っしゃられるという事はですよ。世の中に色々と趣味が御座います。
下の世話を仕える相手に託し管理して頂く事に喜びを感じる輩も御座います。
躾けと言うか。やはり躾けられる事に悦を感じるっとっ」事情通を気取るヌキラが指を立てて告げる。
「何だと?私は䯢女だぞ。䯢女がこんなでぶに躾けられてどうする。
断じて私はそんな趣味はもってないからな。絶対持ってない。嫌々絶対あり得ない」
自分の置かれる立場が其れに類するのかどうかと頭の中で思い描きブルブルと顔を振る。
「䯢女の奥方様はまんざらではないと見えるぞ」牛の血液をベッタリと口の周りに付けたドグが誂う。
腹の突き出た且来が其の一党の頭となるならば。人足を担うのが黒斑巨人の番ドグとニグ。
道案内と見張りをこなすのが兎人の長女ヌクリ。物の調達と多々の交渉を担うのがヌキラであり
まだ少女のヌピピ。尤も役に立たないと決めつけられたのは䯢女アシュラフである。
「虐める・・・虐めるの。䯢女の私を皆が虐めるのよ・・・」
ため息混じりにアシュラフが項垂れたのを頃合いにと且来が腹を叩いて出立の合図とする。
巨人の番が風を伴い立ち上がりそれぞれにと準備を始めるとカラカラと掠れた声が辺りに響く。
「困りますな。其の黒斑の人足は私が先に目を付けていた物でしてな」
掠れているとは言え喉を広げて大きな声で叫ぶと成れば辺りの誰にも声は届く。
頭を巡らせればそこには小太りにと腹を突き出した薄緑の衣服を着込んだ漢が手下を従え列を作る。
国境の商人かそれともかと言う思いに且来は目を細めて考える。
どちらにしても面倒でありつまらない事では有るが其れもまた市場の出口の方向を塞ぐとなれば邪魔でも有る。
「目を付けて居たと言うのは貴殿の勝手ではないのか?
目を付けていたからどうしたと言うのだ?其れは前金でも払ったとでも言うのか?」
且来は交渉役を担うヌキラに確かめる。
「否で御座います。番のドクとニグは珍しいので御座います。体は大きいですか美人で繊細ですから
目を付けて居たと言われても初めて聞きましたし。御主人様への嫌がらせかと」
それでもヌキラは苦手なのだろう。堪らず身を竦め後ろへと下がる。
「嫌がらせとな・・・。其のちょっと出た腹に見覚えがある。
別に親しみを感じるというのではないぞ。寧ろ中途半端に付き出した腹は・・・」
「ほうほう。他人の商品をかすめとる盗人にしては知識が有るらしい。
私こそがこの国境を仕切る領主勇者の・・・」声を返され問われればこそに口上を上げるが其れも止まる。
自分より何倍も腹を突き出した山の如くの体躯の漢がずんずんと土を踏みしめ目の前に迫り来る。
「領主勇者とやらは初めて聞く言葉だ。
儂は倭之御國帝国陸軍且来素子鏡蔵准尉で有る。勇者と吐かれては捨て置けぬ。
仮にも精練妖精女王ツェツィーリエ様とやらに呼び出されてた身で有る。
言ってみれば勇者退治を営む者だ。枝拾いの勇者を狩ったのも儂である。
今日は御前が獲物らしいぞ」無造作に小太り領主勇者の頭を大きな手で握り掴み潰そうとする。
「ぬぐぐ。こら離せ。失礼であろう。え?勇者狩り?枝拾いの輩を狩った?今日は私の番?」
頭を捕まれ手足をじたばたと振っても振り解けるはずもないが・・・。
奥の手とばかりに領主勇者は体を捻り且来の手から見事に抜け出す。
尤も其の頭の上には髪の毛が殆どない。
「これは失礼した。鬘とは知らなんだ。許せよ。領主勇者とやら」
ぷぷっ。クスクスと失笑が漏れる中に且来は意表を突かれるも漢に恥を欠かせたと礼儀を立てる。
勿論興が冷めたとばかりに新しくも自分が雇い入れた面々に手を上げて市場出口へとずんずんと歩いて行く。

「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~。ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~。
ゆれるぅぅぅぅぅ~~~~。ぶつかるっ。ぶつからるから~~~。ぐえっ」
森峡谷を疾走し下る黒斑巨人ドグの首に跨がり必死に捕まる且来が悲鳴を上げる。
「尻の持ち主様は巨人族の乗り方もままならぬとは情けない」此処ぞとばかりに勝ち誇る䯢女アシュラフが大声で叫ぶ。
「ドグちゃんとやらもうちょっとゆっくり。ねっ。ねっ。僕初めてなの。手加減して・・・ぐはっ」
勢い余って迫る木枝を兎人末っ子のヌピピは器用に避けて交わすが直ぐ隣で捕まる且来の顔にもろに当たる。
腹満腹と成れば力も漲る。それに人足こそが仕事であればこそ其の日に決めた場所まで荷物を運ぶのが仕事でもある。
尤もこの場合の荷物とは且来で有る。番夫のドクが一応の命綱として編み込んだ髪を背に結び必死に且来が捕まる。
ドクが森峡谷を奔って下れば其れは稲妻の如くの疾さであり隣を負けずとばかりにアシュラフを乗せたニグが並び奔る。
少し離れてるとは言えしっかりと後をついてくるのは兎人の兄妹ヌキラとヌクリ。
こちらも器用に木々と枝を跳ねて飛んで楽しげでもある。
「親方殿。捕まっておられろよ。向こうまで飛ぶからな」荷物であっても大事な飯の種で有るから注意を飛ばす。
「待て待て待て・・・。向こうってどっちだぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~」
身構えるもなくドグの逞しい脚て大地を蹴り躍動し跳ねると成ればそれは砲弾の如くと天空を跳ぶ。
ドスンと四肢を地面に突き刺して着地を決めると弐歩先にニグも着地する。
「私の方が遠くへ翔べたわ。番夫のドク」ニヤリと指を立ててニグが微笑む。
「其れは親方が途中で失神したからだ。呼吸が合えば私が遠くまで翔べたんだ」
悔しそうにも楽しげにニグの肩を叩いて褒めるが飯種の親方且来は確かに失神したままである。
「やれやれ。異国の兵隊とやらも黒斑巨人族には敵わないってことかしらね」
悦に浸るアシュラフがニグの背から降りてきた所で残りの兎人達も追いついてくる。
「今の一跳で縄張りに入ったとは思いますが・・・少々と妙ですね。
親方様を起こして休憩とでもしましょう。何やら気にもなります」
兎人ヌキラが言うように縄張りには入ってるはずだ。普段なら直ぐ彼等が姿を見せる。
其の姿がないと成れば少々どころかかなり面妖であった。

「その土竜鴉族と言うのは大地の中に済んでるのか?それとも木の上なのか?魔族魔物の一種なのだろう?」
「尻の持ち主様の癖にしてなんにも知らないんだな。本当に。あまりにも無知すぎて言葉にもならないのよ」
戦さ場を友とする且来でも巨人の頭にしがみついての行軍は初めてだったのだろう。
珍しくも恥ずかしながらとも且来は休憩を求めた。意外にも他の物も其れに習う。
本来ならもう少し先まで進みたかっただがこの辺り一帯と縄張りとする土竜鴉族が姿を現さない。
「個々は既に彼等の縄張りですし。あちらこちらに罠を仕掛けて獲物を喰らうです。
森賊と言われて久しいんですが。変わった所も合って。筋を通せば気のいい奴らなんですが・・・」
「つまりは礼儀を通せば助けて暮れるがないがしろにすれば代わりに其奴等の腹に収まると言うわけか」
且来の足元で河原石を拾い重ねながら末っ子ヌピピがうなずいて見せる。
少々と予定よりも早くも其の日の目的地には着かぬと分かってはいても且来は特に焦りもせずに
手頃は河原で野宿することを決める。風噂で訊く旨い猿の菓子を食べに行くと言うだけの用であればこそ
其れが逃げるという訳でもないし特に火急の用事でも軍命でもないからだろう。
「それなら、飯だ。なんか取ってくる」と言い残して巨躯を誇るドグとニグは地を跳ねてどこかに消える。
「何が手頃な獲物でも獲ってくると言うことだろうが。こんな森奥に獲物等居るのだろうか?」
「彼等には彼等のやり方がありますから任せておけば良いのです。・・・それより・・・」
アシュラフが意味ありげに且来を見上げ小声で強請る。
「どうした?䯢女アシュラフやら・・・」こちらもわざと意地悪に眉を上げてとぼけて来る。
「尻の持ち主様。あの・・・その・・・用を足させて欲しい。否。用を足させて下さい」
䯢女アシュラフが尻の持ち主と言えば且来である。其の所有件を且来が持っていると言う事は
アシュラフの尻で有っても自分でどうこう出来るものではなかった。
いちいちに且来の許可が必要となる。
「此処でしなくても良いのではないか?もうちょっと我慢しても?」
「無理。無理。無理。さっきからずっと我慢してるのです。漏れちゃいますから漏れちゃうから」
兎人の兄妹達が周りに居るのにも構わず且来に縋り付くアシュラフの姿は随分と真剣にも思える。
此処で意地悪しても楽しいかも知れない年端の未だ行かぬヌピピの目もある。
「尻䯢女の癖にだらしないな。まぁ御名子に恥を欠かせるのは又の刻としよう」
間が悪いと言えたのは事実であるし真っ直ぐな目で幼子が見ていればしょうが無い。
且来は軽く手を振り尻䯢女と呼んだアシュラフの呪縛を問いてやる。
「有難う御座います。尻の持ち主様」簡素に礼を述べると大股で森を跳ねアシュラフが奥に消える。
よほど我慢してたのだろう。且来としてはもう少し意地悪して楽しみたいと思ったのは事実ではあるが。

「羊なのか?熊なのか?それとも虎なのか?」
「異国の言葉では何と言うかわかりませんが。これは熊虎ですよ。我が尻の持ち主様」
主人と認めるのには未だ抵抗が有るのだろう。
それでも用を足させて貰ったのに感謝を込めてアシュラフが丁寧に答える。
黒斑巨人族のドグとニグが森奥から狩ってきたのは且来に取っては観た事もない獲物である。
しかもどさりどさりと足元に落とす其の数は七頭にも八頭にも成る。
「今日も同じでしたね。番夫様」番妻と成るニグがドクの腕を突いて微笑む。
「私の方が一回りほど大きいから私の勝ちだ。我が妻よ」
勝ったと言うよりは意地を張ってるという様にも視える仕草が何処か意地らしい。
「夫婦睦まじく狩りをすると言うのは羨ましいな。それにしても全部喰うのは大変かもだな」
「なぁに。私等で半分。親方等で半分というところだろう。
喰いきれぬなら私等が喰うし、足りないならもっと狩ってくれば良いだけだ」乳房の前で腕を組みドグが言う。
「なるほどなるほど。喰いでが有ると言うのは良いことだな。
生で喰える物であれば良いがそうでなければ・・・おいっ。尻䯢女。出番だぞ」
「尻女も尻䯢女も止めて。私の品格が無くなるから・・あっ。尻䯢女で結構です。はい」
納得してないと強く抗議しても何せ尻が人質である。アシュラフは渋々と頷くしかない。
観た事もない熊虎は確かに変わった生き物である。且来の頭の中ではそれが熊とも虎とも区別が付きにくい。
凶暴そうな顔には馴染み深い羊の巻角が生えていると思えば幾本も鋭い牙を生やした口が有る。
黄色の肌に濃黒の縞模様が有るのなら虎にも視える。とは言え下半身は又別で今度は逞しくも茶色毛の熊にも似てる。
尻尾が蛇にでも成っていれば元の世界のキメラとやらの想像上の産物だろう。
「逞しい体躯ですけど四本脚で歩くわけではないんですよ。どちらかと言うと大猿とでも言うのでしょうか?」
兎人の長女ニグが其の口を開かせ中に切り出した太い木を串代わりに刺しながら教えてくれる。
䯢女の國とやらに住む輩は皆に野宿の技に長けているのだろう。
会話を楽しみながらも手際よく虎熊八頭の調理の手を休めない。
黒斑巨人の番が狩ってきた獲物を皮を剥ぎ宙に掲げ持つと兎人の長兄が血抜きする。
その間に次女が支え棒を組み上げれば今度はニグが手伝い杭を通し丸焼きの準備を整える。
これも又慣れた手付きで䯢女アシュラフが焔の加減をしながらも灼いていく。
当の且来と言えば買い求めた寸胴鍋をゴソゴソと取り出すと黒斑巨人達が狩ってきた熊虎の肉はもとよりと
川水を汲み上げ寸胴鍋に注ぎ何やら鍋物を造り始める。
尤も其の辺の在るものと成れば且来も唸る。
「せっかくの御馳走であるなら灼いた肉だけではもったいないと思ったが。
果てこの森で食べられる物とそうでない物との区別が着かぬ」
寸胴鍋に水を注ぎ下に薪をく焔をお越しながら且来は悩む。
「親方の小父様さんは森の恵みを知らないのかしら?」
暫し姿が観えなかった兎人姉妹のヌクリとヌピピが羊皮の袋を抱えて森影から出てくると
其の中には馴染みはないがおそらくは食べられる物がいっぱいに詰まってる。
「それは栗にも視えるが。喰えるのか?
儂は異国生まれの倭男児だからな。こうと観えて観えても都会育ちなのだ」
寸胴鍋の前にどかりと腰を下ろし姉妹二人が突き出した袋を覗き込む」
「都会育ちと言う割に随分と大きく膨らんだ御腹で御座います事」
クスクスとヌクリが笑い川水で洗ったばかりの栗や食草を鍋に放り込む。
「都会にだって喰心坊は居るのだ。オイ。米を持ってきれくれ。大きな尻の䯢女とやら」
「誰か大きい尻の䯢女ですって。少し大きいのは認めるけど・・・」
ぶちぶちと文句は言って観るものの且来の因法で尻を人質にされているなら逆らいはしない。
御名子一人には少々重い米袋をながらも且来の所へと運んでくる。
「どれどれ虎熊の肉と栗だけでは物たりぬかもしれぬからな」

置字

天鼠 蛭姫ノ壱

天鼠 蛭姫ノ壱

0 0 votes
Article Rating
Subscribe
Notify of
guest

CAPTCHA


0 Comments
Oldest
Newest Most Voted
テキストのコピーはできません。