【女装男児】女装家且来素子闊歩歩いて候:新章:其の弐拾壱

精錬大陸妖精魔法國。
其の一等貴族院に最近立てられたばかりの邸宅の門の表札を毎朝に水束子で
擦り磨き上げるの仕事の誇りと且来の三十一番目の妻コリリン・ケヌは宣う。
「全く夫様ったらツェツィーリエ・ゲルマーヌ・ゾヌン様までも放り出して
変なお菓子に魅入られるとは・・・。お出かけに成られて倭数えで2週間と半分。
一体どこで遊んでらっしゃることやら・・・」
五十参人と國に帰れば五十五を数える妻の序列の内その参十一番目と言えども
コリリンはやはり且来の妻で有り順番や格付けはあってもその寵愛を身に受けている。
精錬大陸妖精魔法國と言えば本来一夫多妻は禁じられているが大陸飛びの向こうの土地から
鶏竜の背にまたがって来た御人と成れば妖精國の法律や習慣の枠の外であろう。
ましてや知らずとも御國の古き習慣と習わしをきちんと守ったとなれば
潔し其の態度は且来をよく知らぬ者でも好感を覚えられずにはいられない。
最初こそ腹の出っ張った漢等、勇者其の物であろうと敬遠する者も多かったが
其の風体を違え以外にも義理を通し人情を大事にする輩と知れば見るめも変わる。
特に最近と最後に娶った妻が長い温卵期を無事に乗り切り第一子を授かったとなれば
話題にも事欠かず。又それが我ら妖精國の民と大陸向こうの御国の異なれば
物珍しさもあるし何処の國でも子は宝である。
その可愛さに一目惚れするものも多く、何やら変なお菓子を食べるとばかりに
大きく出っ張った腹を突き出して邸宅の主人が留守で居ないと知れても
何故か抱かせてほしいと街人から兵士・貴族風情の雌共が其の元を訪れて止まない。

ただ一人。否に二人。その輪に加わらない者もいた。
精錬大陸妖精魔法國・女王・ツェツィーリエ・ゲルマーヌ・ゾヌン。
その人で有り。又其の恋人とも称される事もある此れも又に大陸飛びの御人。
詩を読み歌を歌わせたらこの國の雄共の全てが感涙に咽び拝みだすとも言われる
倭之御國冷酷陸軍情報部所属。黄色腕章の近藤輝中尉である。
尤も大陸飛びの唯一の同郷の者こそ元は一介の女装漫才師を生業としていた漢
且来素子鏡蔵准尉であるが、其の我儘にはさんざんと振分回されて久しい。
精錬大陸妖精魔法國。其の國はある種の苦難と苦境と厄災に見舞われていた。
大雨や地震等の災害あれどもそれを優るまさるのが勇者と其の一党である。
悪党非道悪者共を何故に故に勇者と呼ぶのかは終と誰も知らぬであるが
極悪非道な勇者達は個の國にありとあらゆる厄災と災害をも齎していた。
國を滑る女王ツェツィーリエは星の大地に散らばる大陸飛びの国際社会に助けを求め
それに応じた唯一の御国が倭之御國帝国であった。
否然しと外れ籤を引いたのは女王ツェツィーリエではなく
倭之御國帝国陸軍・大将近藤政宗氏の一通の命令書で鶏竜に跨がり
其の大陸と大陸の間の海を飛ばされた且来素子准尉で有る。
もともとは一介の職業女装漫才師であったはずの且来は半ば騙され軍属に成ったとは言え
上司と切っても切れぬ心と体の契を結んだ女性を妻と娶る羽目に成ったかと思うと
それ以上に傲慢で薄情な上司と無理に結婚されられるもこちらはいまだに初夜もままならずに
大陸出兵の折には接吻を交わすも処女受胎してやると断言する始末で。
元より其の数日前には且来自身が知らぬ存ぜぬと言い切っても逃れられない失態を演じてしまえば
先んじる二人の嫁に増えること異人妖精人の妻が五十弐とまた増える。
近々では此れも厄災に絡んで漢欲情然りの粗相に加え、御相手を成る妖精雌が
見事に当たり籤を引いて子を宿し産み落としたと成ればこそ。
当人が菓子く痛さに国境の向こうまで出かけてしまうと音信取れずであればこそに
精錬大陸妖精魔法國・女王・ツェツィーリエ・ゲルマーヌ・ゾヌンその人の額の眉に
皺が参本寄って刻まれると言うの頷ける。
尤もに・・・。
精錬妖精國は一夫多妻を認めてはいない。一対となる伴侶を愛するのが古くからの仕来りだ。
それが国内で五十と参。國向こうに更に二人となれば一番最後に顔を合わせたツェツィーリエ等
一体いつになったら寵愛を受け等ると言うのだろうと甚だ疑問だと疑うのが道理であろう。
ましてや且来自身の体を覆う入れ墨。それと描かれる女性と雌の入れ墨姿。
「戦さ場で死ぬと分かっているのだから
責めて死ぬ刻位彼女等に抱かれて死んで行きたい。儂の我儘である」と言い切った且来。
その体一面。肌一面に描かれる妻達の姿。
「もし新たに入れるべき刻が来たのならそれは何処になるのか?」
それと聞いてて正した女王に且来は唯一未だ手つかずの場所。
つまり大きくと出張った腹を叩いて魅せたので有る。
これを女王女王ツェツィーリエは嫌悪する。
國の事情があればこそ助けを求めるとの見返りに自分の身を差し出す覚悟は当然の如くであったが
いざにその相手が目の前に現れたと思えば既に五十五人の妻子持ち。
しかも最近始めての子も生れたと成ればこそ。自分の入り込む余地などなくと知れるし
女王である自分の姿があの出っ張った腹のど真ん中に刻まれるのはゾッとする言うわけである。

そして斯々然々と日がめぐり落胆を埋めてくれる相手を妖精國の常識とはかけ離れた
黄色腕章の近藤輝に求めた。
個の國の恋愛事情から言えば例え歌が上手くても体に戦傷もないならば
他の妖精の雌共は見向きもしない。容姿や評判と雄共の羨望の視線を無視すれば
近藤は自分だけを見ていてくれる。それが愛とは別物であったとしてもだ。
季節巡り温春の日差しも更に熱く感じられる様に成りつつ有るその日も。
昨日と同じようにの花壇テラスの壁に隠れ伏せツェツィーリエは
教え躾けられた通りに近藤の股間に顔を埋め頬張る。
「んん・・・。上手になったね。・・・気持ちいい・・・」
臆面もなく立場も弁えずに近藤がツェツィーリエの頭に手を置きながら告げる。
「んん・・・。美味しいの。とても美味しいの。近藤殿の・・・」
一物を咥えたままに声を濁らさせ喘ぐ女王の姿に近藤は悦楽を覚える。
相方と成る小煩い太った准尉殿は邸宅を預けて数週間。
音沙汰がなければ万事よしと言えるのであれば特に構える大事もない。
國を統べる女王が自分の一物を咥え啜り喘ぐと成れば悦に暫し悦に堕ちても
攻める者もいないだろう。与えられる強い刺激に耐えられず熱く震える漢の股間
その瞬間。ビリビリと悪寒が奔る。

(戦の事を生業とする一兵が仕事の戦も只もせず・・・
暇と潰しに女雌の口に己の分身を突っ込んでばかりとは情けない。
漢裸一貫。生涯一度くらいに命燃やして抗うって魅せる事が何故できぬ)
その瞬間。耐え消えず快楽に抗えず一物が震えたと思えば白濁が迸る。
「きゃっ」短い声が跳ねて上がればツェツィーリエが驚きも声を上げ顔を背ける。
「ご・・・御免なさい。我慢出来なくって・・・」
漢らしくもないと言われればそれと知っても気恥ずかしい。
普段なら我慢出来る事でもあるし、そうでなくてもこんな形でもなかった。
あまりに突然でもありべっとりとした漢の白濁を顔に吐き出されたツェツィーリエは
困惑もするし少々苛立ってしまう。決してそれが人にとって当たり前の事であり
自分の奉仕が相手に快楽を与えたならそれは誉であってもおかしくもない。
ましてやこれも又初めてでないはずでも有るのだが今日この時ばかりは気分が優れない。
それも又に気まずい空気が漂うにも関わらず且来の妻と成るやもしれぬ妖精雌の一人
愛称となれば恋次郎成る者黙ってぐいっと書簡を手渡してくる。
「これは・・・?」情事の時を見計らってと言うのなら間が悪すぎる。恐らくは緊急なのだろう
「たった今知らせが入りましたのでお伝えに。
大層にと大事の様で御座います。特に親方様を慕う者であればこそに。
私奴もその一人で御座いますので。これにて御免」
それだけ漏らすと恋次郎はトンと自分の陰を踏んで跳んで消える。
「何か・・・?」
近藤に態々連絡が来ると言いうことは恐らく且来に係わることだろう。
気にならないと言えば嘘になる。だが自分が尽くす漢には不義になる。
責めて少しでも素振りを気取られぬようツェツィーリエは言葉短めに書簡に見入る近藤に
強くに問いかける。

「ふんふんふ~~~ん。きゅきゅ~はぁ~~」
既に散々に磨き上げた且来家邸宅の表札に更に息を吹きかける三十一番目の妻コリリン・ケヌ
「あのぉ~~~。こちらが我が尻の持ち主・且来素子鏡蔵様の御自宅で有ろうか?」
「はい。そうでございます。こちらが我が愛しき夫且来様の立派なご邸宅であり
私奴はその表札を預かる門番。三十一番目の妻コリリン・ケヌで御座います」
「おおっ。さずが我が尻の持ち主と成ると噂通りであるな。
否と然し関心している場合でもないのだ。火急の要件故にその壱番目の妻。
饂飩好き。天麩羅海老より鰊を乗っけた饂飩が好物のセシーグ・モレヌ・ウリンに
取り次いで頂きたいのだ」
「かしこまりました。でも誰それとお召し通りが許されるわけではありません。
其の名をお知りになるとは言え縁と絆を結んだ者でなければ許されません」
そこそこにも乳房もお大きいコリリン・ケヌが背筋を余計にピンと伸ばし
魅力を誇示すれば、多少なりとも旅の疲れを隠せないも張り合いつつ褐色肌の雌が
背筋を伸ばし口上を述べる。
「それなら私ほどの縁を結んだものもそう居ないと思われるぞ。
何しろ自分の意思で用一つ足す事等出来ずに夢々のまた夢なのだ。
つまり・・・その・・・貴殿の夫殿に・・・し・・尻を・・人質に取られているのだ。
あの・・・その・・・人質と言わず尻質に取られているのだ。
その・・・あの・・・自分では満足に用を足すどころか慰めることも許されてない身なのだ。
あの。えっと申し遅れた。御恥ずかしい。緊張のせいか名のるのを忘れてしまうとは。
元の俗名は閃光の䯢女アシュラフ・ゼイン・イルム。
今取っては且来殿の尻女で有る。よっ宜しく御願い申す」
「まぁ~~~。これはまた面妖な。否。羨ましい。
そっそれはどのような縁で御座いますの?どのようにすれば且来様に其のように扱って
頂けるのでしょうか?いやはや本当に羨ましくも。お疲れでしょう。
直ぐにセシーグ様に取り次ぎますので。どうぞこちらへ」
丁寧にこそ相対するもののついついに願望を隠せないコリリン・ケヌは
旅の疲れを隠さないアシュラフ・ゼイン・イルムの手をぐいと引き豪勢な邸宅へと案内する。
火急の要件で有るからこそに。
又に便りの一つもよこさぬ我が夫様の近々の噺を是非に聞こうと邸宅の何処からか
笑々とその五十人近くの妖精妻が姿を現したかとおもえば旅埃も拭わずに
只一口と水を求めた尻女の其の事アシュラフ・ゼイン・イルムが皆に語る。
「初めましてと成候。我が尻の持ち主。且来様のお奥様一同の御方。
私奴はアシュラフ・ゼイン・イルムと申す一介の愚魔女にしか在らずとも
其の縁を結んだ由縁よりも先ずは且来様の近々の状況をお知らせ申す。
何しろ火急の事と成り覚悟召されてお聞き下さいませ」
妖精國の言葉使いとは大きくちがい聞きづらい言い回しと知れれば
その綴言葉を吐き出すのがこの辺ではあまりに見かけぬ褐色の肌と成れば
䯢女森国の出身となり態々國超えを挑んできたという事になる。
「我が尻の持ち主且来殿。貴校等の夫且来殿は・・・。
今もこそに今日も病に伏せて倒れておるのだ・・・」
一口飲んだばかりの水のコップを膝の上にそっと置きつつ絞り出す息に乗せてアシュラフが
吐き出し伝える。
「夫様が御病気・・・?」
幾度も戦に身を投じても不死身の如くに腹を突き出して歩き回る女装家且来。
それが病に倒れるとはにわかにもセシーグも他の妻も信じられない。
「病気と申してもどのような?どれくらい重い御病気なので御座いますか?」
アシュラフ自身が吐き出した言葉よりも不安げにセシーグが問を絞る。
「うぬ・・・食欲がない・・・」
「しょ・・・食欲がない?食べないと言うのですか?」
あまりに信じられずセシーグが身を乗り出す。
「うぬ。食欲もなく。日に三度の食事を二度しか食べず。
米粥を二杯。大盛りの碗では有るがそれ以上は食べらぬと時には残すことも・・・」
「日に参度欠かさず。常に間食を怠らず。時に四食五食は毟ろ当たり前。
勿論夜食は欠かさず大盛り碗で常に五杯欠かさずの夫様が・・・。
そっ・・・それ以外にどんな感じなのでしょう?」
「あの悪食には関心するばかりであるが常に熱もあればうなされており
意識も朦朧とうわ言ばかりに出っ腹にも似たように大きく頬が膨らませておる」
「熱もありあの御腹と一緒に位に頬を膨らませていると言うのですか?」
そこまで聴くと集まる妖精妻達が互いに顔を見合わせて若しやと首を撚る。
「お多福風邪かもしれません・・・」
その妻の集まりの中でも物知り通と知られるソレヌがボソリと漏らす。
「お多福風邪・・・」はっきりとした病名であろうと改めて知らされると
わやわやどやどやと妻達が不安げに言葉を繰り返す。
「お多福風邪って只の風邪でしょう?
本来は子供の時に済ませておく病気ですよね。大人に成ってからは大変らしいけど」
タンタンと石造りの階段を後から降りてきた腕に黄色い腕章を巻く近藤中尉が
さして大事でもないと言うように言い捨てる。
「ただ事でないとでも言うのですか?近藤殿。
お多福風が大病でないとでも言うのですか?」
無礼極まりなようとでも言いたげに戦時には常に其の先頭に立つイグがきりっと近藤を睨む。
「いや・・・これは失礼。
僕らの御国に置いてはという事です。
所詮は風邪の一種ですから決して大事とに捉える事もなく。
体を温めてしっかり休めばいずれ直ぐ治る物で・・・」
自分の故郷とは土地柄も違えば其処に巣食う病も大きく違うと言うことを
失念したのを恥と知った近藤は気まずく黙る。
「そちらの御人は我が尻の持ち主殿と同郷なのであろうか?
確かに同名の名を称する病気も有るやも試練がこの地のそれは死に至るに堕ちる。
早くも正しくも性急に治療しないと死を絶するほどに苦しむ病なのだ。
それにどうやら貴殿は高い場所が好きな様で有る」
最後に残した石階段の上から声を出した近藤の姿をチラリと睨み観るとアシュラフが言い捨てる。
事によりそれは嫌味の一つでもあろう。後に其の訳をも近藤自身は恥じることにも成る。
「とりあえず直ぐにでもお側に行くべきであろうが・・・。
事がことでは有る。我が夫様の為であれば命など捨て惜しくはないが・・・。
察するに大陸飛び所が国越となると流石に厄介かも知れません」
「御子様の事も有るから全員で出立するわけにも行きませんし」
「かと言って厄介であるな。国堺を超えると成ると戦も覚悟しないとならない。
䯢女の森国へ出向くと成れば相応相応しき理由と人物が出向かねばやはり戦に成るだろう」
皆それぞれの立場で口々に心配ごとを連ねて言葉にする妻と側近達。
其の近藤も又少々最近は図に乗って居たかもと旅人風情に諌められ
あの大きな拳骨が堕ちてくるかと首を縮める思いであった。

「ふむん・・・。
あのてぶ・・・?おでぶと称すれば良いのか?
蔑称であると聞いたがが間違いないな?ふむ。それなら良い。
そのおでぶの且来とやらが国越の異国の向こうで病に倒れたとか?
なにやらお多福風邪とも聞いたぞ?でぶの短命とは真のようだな。
・・・詳しく話して見よ」
あからさまにも不機嫌であるとばかりに
精錬大陸妖精魔法國・現女王・ツェツィーリエ・ゲルマーヌ・ゾヌンは装飾極まりなくも
毟ろゴテゴテと飾りの施された寝椅子の上に鷲羊の羽毛皮を纏っただけの姿で
ふてぶてしくも自らの前に項垂れ傅く密偵の妖精雄に下知を下す。
密偵と言うが其の物が忍ぶのは騒ぎの火中の且来の邸宅で有る。
今この時に顔を少し上げれば確かに女王の艶肌を一生の想い出と瞳に刻めるであろうが
同時にそれを成した瞬間に首が切り落とされるのを重々知り尽くした雄は
想いを悟られぬようにとビクビクと声を詰まらせながらも必死に答える。
「恐れ多くも我が主人女王様。
確かに聞き及ぶ通りにおでぶと言うのは食に貧欲な者の蔑称で御座います。
その極みと成る大陸飛びの彼の軍人。且来素子准尉とやらはこれも又確かに
国越の先の異国にて病に倒れ動くに動けず難儀しておるようです。
其の國こそ邪悪極まりなくも悪行正義正しいと信じる勇者共が逃げ込む
䯢女の森國で御座います。一説には素手に敵性勇者軍にも囲まれ
何やら鐵馬と呼ばれる戦具まで持ち出され随分と苦しんでおられると聞き及びます。
・・・その節は我が主人女王様を足蹴にも似た行為を働いた輩であればこそ
今回は捨て置き掃き溜めにでも投げ込めば宜しいかと愚策する次第で御座います」

精錬大陸妖精魔法國。
如何に其の全てを統べる女王・ツェツィーリエ・ゲルマーヌ・ゾヌンであっても
それ故に体裁を気にするべき時と事も有る。
内心はともあれ妖精族の長として期待される振る舞いをするべき時も多い。
「ですから。女王ツェツィーリエ様。
事が事で有るのはわかります。大陸超えよりも国境を超えると成れば大義も名分もいるでしょう。
否然し。同時に病に倒れる者を放って置くのはあまりに不文でございます」
厳かと言うよりは極めて気まずい空気感が漂う謁見室でセシーグは語気を強めて陳情する。
「あれを人と言い切るのはどうであろうな?
腹の出っ張った勇者もどきと対して変わらぬのではないか?
幾ら貴殿等五十と幾人かの夫とは言え。
それがどうしたというのか?所詮は私事の想いであろう?
そもそも國の法律と習慣に照らせば一夫多妻の重婚など認められておらんのだぞ」
嫌味に侮蔑を付け足して審議官を勤める輩が声をも荒らげる。
「でっ・・・ですから。我ら数名の少人数で國超えを行い。
夫様に薬を届け早急に引き上げるという形で・・・」セシーグも必死に食い下がる。
それが単純に言葉通りになど行かないことも重々承知でも当然と知る。
それでも国越の許可を女王から貰わなければ且来は助けられない。
「戯けたことを・・・。
大勢で乗ろこもうと少数であろうと國越は國超えであろう?
無断で國を超えると成ればいかなる理由でも䯢女森の國への侵攻となり得る。
でっぷり腹の漢が如何なる病に伏せようとも我々に今出来る事はないと知れ」
これぞ正義と言うばかりに審議官はやたら長いローブの袖を振利回して豪語する。
実際の所。
審議官の言うことは正しいと言える。
魔女の森國と妖精国とは政治的には関係が薄い。
妖精國自身においても昨今は其の国内で災いを呼び起こす勇者共が暴れ回っているから尚更に
そちらに手間と兵を割ってしまってもいる。少人数で國超えに挑んでも国際問題になりゆるし
いざに兵を送り出すにもそもそも余裕もない状況でもある。
全体の流れが放置するべきという方向に流れて言っても
その決断をも統べるべき女王ツェツィーリエは最早飽きたとばかりに王座の籠の中で寝そべり
早く終わらないかと欠伸をも隠さない。
「そっ・・・それはつまり・・・見捨てろと・・・」
認めなくない言葉をセシーグは喉から絞り出す。
勿論それが妖精国院の決定と成ってもセシーグ達は無視してでも國渡りを行うつもりでもあろう。
「最初からそう言っておるだろう?出っ腹の中で昼寝ばかりしてるから情が湧くのだ。
あんな勇者もどきの腹で踊るとは汚らわしい事など品性正しい者から見れば・・・」

「其処の者・・・」
いよいよに噺が結論を決めつけようと成る刻。
それまで只に黙しおやつ代わりの棘葡萄を細い指で摘みながら目線を送る。
「はぁ?私奴で御座いますか?精錬妖精御国の女王様」
指を刺されたと言うより鋭い視線が突き刺さったのは且来に
尻を尻質と取られるアシュラフである。
「うぬ。聞きたことがあるのじゃ・・・」
「わっ私奴に応えられる事であるのならなんなりと・・・精錬妖精御国の女王様」
アシュラフは意外な問いかけに驚く。
且来の状況を説明する為だけにこの場に身を置いているにしか過ぎない
只の使い走りであるとしか考えてなかった所に其の女王が声を掛けて来た。
「御主は・・・其の尻を人質に取られていると言う事だな。あの醜男の且来とやらに」
「はいっ。それは真の事で御座います。女王様」
「具体的に申せ・・・。
向学の為である。人質とは理解出来るが尻を取られると言うのは意味が知れん」
「恐れ多くも精錬妖精御国の女王様。文字通りで御座います。
我が尻の持ち主・且来殿の術に縛られ我が尻は我が物に在らずで御座います」
「もうちょっと具体的に・・・」
単純に珍妙な噺に興味が湧いただけなのだろうか?
つまらなそうにではあるが細い指が幾つか目の棘葡萄を摘む。
「わっ・・・私奴の如きの噺など・・・。
お恥ずかしい噺ではありますが・・・自分の尻と尻質に取られると言うことはですね。
あのその・・・つまり・・・自分の気持ちで用を足す事を私奴は許されて降りません」
人前で其のような事を言わされる身にも成って欲しいものでは有るが
相手は妖精国の女王である。例え羞恥に塗れても答えぬ訳には到底行かぬ。
「なっ何だと?自分の意思で用を足せないだと?
否然し。あれは人としての整理現象だろう?どうしろというのだ?」
理解がおぼつかないとばかりに体制はそのままにツェツィーリエは顔を異国の䯢女に向ける。
「が・・・我慢します。否。我慢させられます・・・」
床に膝を付き傅いて頭を垂れているにも関わらずアシュラフの顔が赤面してるのが伝わる。
「何?我慢するのか?させられるのか?
つまりそれは無理やりにでも用を足すのを我慢しろと言いつけられるのか?」
あまりに衝撃的な噺に周りの者は付いても行けずだが
毟ろ問いただしたツェツィーリエは勢いあまり摘んだ棘葡萄を潰してしまう。
「そっ。それはどれくらい我慢させられるのだ?」
「はっ。女王様。最初は半日ほどで御座いました。
辛ろう御座いました。嫌で嫌でたまりませんでしたが・・・。
我慢を重ね慣れてくると・・・その後の開放感が堪らず。くっ癖に成ってしまい。
丸一日・・・。尻の持ち主様の機嫌が悪い時など一日と半分から丸2日ほど我慢させられます」
「何だとぉぉ~~~。一日も我慢させられるのか?
なんと言う悪行だ。うら若き乙女の用足しを二日も我慢させると言うのか?
悪魔の如き所業ではないか?御主はその間用を足したいと言う衝動に悶え苦しむのだな。
なんと羨ましい・・・」
遂にほろりと漏れた言葉に周囲も異変を感じ取る。
「信頼の為せる技で御座いましょう。
我慢させられるのは辛ろう御座いますが。用を足させて頂けた暁に快楽も一層強くとなります故」
「なっ。何と羨ましい・・・。然し一日は長すぎる。
それにやっぱり醜漢だし・・・。どうした?皆の者?瓢箪のような顔をして。
妾の言ってる事が可笑しいとでも言うのか?勘違いするな。向学の為である。
噂話で其のような荒唐無稽な趣味を持つ輩共もいると聞いたのでな。
ところで・・・御主・・・この本を知ってるか?」
王座の柔らかい下袋の隙間から何やら分厚い本を取り出し䯢女を手招きする。
要は近くに来て其の本を読めと言う事であろう。

【近代軍事国家倭之御國に於ける男尊女卑其の常識に抑圧される雌狗に於ける日常意識と躾方法】
何処でそんな物を手に入れたか等追求したらその場で首が跳ねるに違いない
「えっと・・・これは異国の御本のようで御座います。無知に等しい私奴には」
女王に手招きされ側に寄って膝を付いて差し出された本には異国文字が並ぶ。
「うぬ。妾もまだ勉強中でな。読めない所も多いのだが・・・」
「夫様の御国の倭文字で御座います。背表紙にそれと描いてあります故。
何やら随分と難しくも狭儀界隈のつまりは趣味趣向に付いての論文かと」
「セシーグは読めるのか?なるほど。夫の御国の言葉分からずでは妻も失格と言うわけだな」
既に異国文字を読むのに熱中してるのだろう。それでも分からぬとなれは理解できる者を
拒む理由などないだろう。ひらひらと白い手を降って近くへと呼ぶ。
「この御本は・・・えっと・・・。
旦那様の御国に於ける所謂漢と雌の夜の営みに於けるその趣向を纏めた物の様でございます」
久しぶりに目にする異国文字で有るも尚更に論文まがいと成れば読み解くのも難しい。
紙面にびっしりと印刷された文字をセシーグは顔を寄せて読み解く。
「さっ。最初からだぞ。こう言う専門書は最初が一番大事なのだぞ。セシーグ。
きちんと読み解かねば。御前も用を我慢させるからな」
どうやってその論文本を手に入れたかは大きな謎のままにも読み解こうにも
文字が読めないと成れば難儀していたのだろう。其の謎が解けるとなれば尚のこそ
ツェツィーリエは棘葡萄のお代わりを所望し側近の妖精雄が床につんのめりながら運んでくる。
「倭の御国の文化は非常に発展した世界で御座います。
因による影響はありませんがそれを補う文化と技術が有る御国で御座います。
当然。文化水準が上がれば漢雌の営みも多種多様と発展して行き時に変わった物も生まれでます。
他人にはけして受け入れがたい物であっても当人がそれを望み其処に悦を見出す物なのです」
「云々。生活水準が上がれば夜の営みもさらなる極みに達すると言うわけだな?
・・・貴様。其処の貴様だ。何か言いたげな顔をしてるが。
妾は今。忙しいのだ。邪魔するな。ひっこんでおれ・・・しっしのし」
論文本が取り出された当たりから話がずれて行きそうに成り本来の議題に戻そうと
恐れながらも咳の一つで注意を引こうとした審議官は女王に部屋の外へと追い出される。
「これは・・・何かしら?文字は読めるのですが。動物らしいですが・・・狗って何かしら?」
「狗だと?それは何だ?魔物ではないのか?動物だとな?」
その場に同席したほとんどの物は其の狗という言葉を知らず理解も出来ないらしい。
「はいっ。私知っていますっ」
元気よくも自慢げにびしっと手を上げたのはあの表札番の三十一番目の妻コリリン・ケヌである。
「貴様。知っているのか?狗と言うのはどんな動物なのだ。それと漢雌の営みがどう関係するのだ
ちょっと紙を持って来い。其処の雄共。早くしないか」
鼻息荒くしつつ声を上げれば慌てて羊皮紙と羽筆が届けられる。
「犬って言うのは。動物の一種で大陸飛びの向こうでは極一般的に人々に飼育される愛玩動物です
種類も多種多類でありますが。主人に寄り添い其の忠義を捧げる動物で御座います。
「なんと。大陸の向こうには其のような習慣が有るのだな。
我らの世界では猫しかおらんがあれを飼育するとは難儀するものだしな」
女王がたわいなくも漏らした言葉の意味は正にそれである。
妖精族が住まう大陸は他のそれとは大きく違う。
妖精大陸では一般的な動物の類であっても外では存在自体していなかったり
同じ名前で呼んだりだり字で示したりしてもその外見と習性が全く違う物だったりする。
同時にそれは他の大陸にはいても此処には存在しない物も多い。
「然し・・・その犬とやらと営みがどうつながると言うのだ?
さっ先を読め。セシーグ。早くっ。早く」
記憶を掘り返しな比較的よく書けたコリリンの犬の絵を覗こみ少々頭を捻りながらも催促する。
「えっとですね・・・。
本来、動物の犬とは人々の生活に寄り添いその忠義と愛情を捧げる物ではある。
然しそれとは互え、狗と呼ばれる物は抑圧された生活と営みを好み其処に悦を見出す趣向である。
ともすれば一般的には屈辱であろう扱いや躾等も主人の愛情と受け止め其処に信頼と絆を
感じえずにはいられない一種独特な性的指向を示すものである」
「つっ・・・つまりは人の身で有りながらも狗として扱われ虐げられる事に性的な快楽を見出す
そういう意味か?なんて面妖な・・・しっ・・・然しだ・・・悪くない」
「他者から見れば歪に歪んだ趣向であるのかも知れません。
それでも信頼と愛情が有るからこそに為せる技で御座います」
形は違う物のそれと良くにた事柄を身をもって知るアシュラフが云々と頷く。
「い・・・犬の様に扱われる事に悦楽を求め受け入れる・・・。
なっ難易度が高いな・・・。妾は妖精族の長と言う立場でもある。
それが何処ぞと知れる雄に犬として扱われる。くっ屈辱だな・・・。だが惹かれるなっ」
既に十分に歪んだ欲望を持つと露見しているにも関わらずもツェツィーリエは身悶える。
「い。否然しである。
妾が狗の様に扱われて観たいと念じてもだ。
肝心の飼い主がいないではないか?
この國に雌狗を其のように扱える者等いると言うのだろうか?」
さすがは妖精国の長を務める女王である。良い観点を付いたと言える。
この國は女尊段卑である。種としてこの世に誕生した刻から絶対的な関係として
雌が雄の上に立つ。雌が前にでるのなら雄はその陰で支えるのが常である。
と成れば女王であれそうでないであれ雌を足蹴に扱える雄など居ないに等しい。
「恐れながら女王ツェツィーリエ様。
我が夫且来様ならそれを成してくれるでしょう。
現に御国向こうの奥方様は首に太くも首輪成る物を括り。
且来様にその先の鎖を握らせ預け衣服を脱ぎ去り肌を晒し四つん這いに成って床の上を
夜な夜な部屋を三週するのが日課とすると聞き及んでおります」
「なっ。なんだと。それは・・・すごく・・・難易度が・・・。
しかも醜顔の出っ腹ではないか?あっあの漢が妾の飼い主に成るのか?ぐぬぬ・・・」
「もうお一人いると言えばいらっしゃいますが・・・。
痩せ体に戦傷の一つもありません故に。軟弱であればこそ姫様には・・・」
言わなくても良い事をセシーグはボソリと口にする。
「あれか・・・。薄いのだ・・・彼奴のは・・・。
戦傷ところか蚊に刺されただけでも痛がり悲鳴を上げるに違いない」
先日まで受け入れていたはずの輩に平然と文句をも言えるのは女王故の我儘であろう。
「あれが・・・妾の主人・・・。
衣服を脱ぎ捨て四つん這いに成り鶏竜の様に首輪を括られその先をあの漢に預け
部屋の中を夜な夜な三週するとな。なっ難易度が・・・醜雄だし・・・。
だっだからこそであるのか?倭之御國の営みは敷居が高い。高すぎるぞ・・・」
愛読する論文本に挿絵として欠かれた四つん這いになる女性のその様に自分の姿を重ね
その脇に立つ漢が且来となれば随分と気が引ける。
それでも・・・。

「これより䯢女の森御国へと国境超えを行う。
何をしているっ。・・・いっ・・・狗小屋を持てっ」
号令一閃下知が下る。
精錬妖精刻女王・ツェツィーリエ・ゲルマーヌ・ゾヌン自ら声を上げ他国への侵攻を命じたのだ。
目指すは䯢女の森御國の國境の向こうに病に倒れる且来の救出。
大義はどうあれ其の思惑は自らの首に括った首輪のその先の鎖を握って貰うその為だけである。
少々に。否毟ろ大層に歪んだ欲望を満たすために妖精國の女王は出兵を命じる。
「黄色腕章の近藤殿。
い・・・狗小屋と云う物はどのような物で御座いましょう?
大きさはどれくらいで?材料はなんで出来てるのでしょう?
そもそも狗とはどんな動物なんですか?四足で有るのなら偽人に似てるのですか?」
夕涼みがてらにきちんと手入れされたテラスに一人屯していた近藤の元に
学者風の士官が走り寄ってくる。従える雄達も息も絶え絶えとなるのはよっぽどの事だろう
「へっ。犬って犬の事ですか?そんなの突然言われても」
近藤は少々機嫌が悪かった。
可憐に淑やかに華が揺れるテラスはつい先日までの女王との密会場所である。
拳骨を落とす且来の姿も其処かに消え特に懸念すべき厄介事も無ければすることもない。
大陸を超えて久しく若い四肢に持て余す欲望を異國人の女王に慰め避けるの悪くはないはずだ。
今日も今日とで楽しみであったはずだがどうやらそうも行かないらしい。
いつもの時刻に現れない女王の代わりに息を切らし真剣な顔つきで
犬小屋は何だと聞かれてもこまり果てるが訳を知らされると近藤は自分の浅はかさに
まじまじと気づく。どうやらやらかしたようであった。色々とである。

「貴様の部隊は参番詰所の鶏竜が運ぶ事になってるじゃないか?
此処は一番詰所だぞ。えっ?何だと?女王ツェツィーリエ様の狗小屋用の建材だと?
早く言え。この愚か者。それは最優先で運ぶべきものであろう?
参番ではなく特急便発着所に決まってるではないか。早くいけ。遅れるぞっ。
護衛兵!迷子に成られると困る、ちゃんと先導しろ。この馬鹿者め」
騒乱極まりない中で國境超えの準備が合わただしくも行なわれる。
それにしてもその数と用意される兵站の量は誰もが思うよりも遥かに多かった。
「あっ・・・あの醜漢が妾の飼い主・・・」
国境超えの下知を下した後に私室へと戻ったツェツィーリエは自分が発した言葉と
その重みに耐えかねガックリと床に膝を突くものの来るべき快楽の予感を感じると身悶えする。
否然しとそれも僅かな時間である。
仮にも國超えをすると云うのはやはり大事である。
自分の欲望一つでおいそれと出来る事等実際には出来ることなどでもあり得ない。
しかしその真の理由が定かではない以上となれば何か別な理由を担ぎ上げる必要も確かであった。
それが自分の中に芽生えた欲望を皆の前でさらけ出すことに成るとは羞恥であるとしてもである。
「こ、こんな時こそ。彼奴の知恵を借りるべきなのだろうか?
はて?いつもの時間は当に過ぎておるのだが・・・どこぞで暇でも潰しておろおうか?」
女雌共の恋は上書きされると言うが事実昨日までの戯言等とっくに忘却の彼方に押し流し
黄色い腕章の近藤を無理に呼びつけるのも又に女王の我儘と成るのだろう。

天鼠 蛭姫ノ壱

天鼠 蛭姫ノ壱

0 0 votes
Article Rating
Subscribe
Notify of
guest

CAPTCHA


0 Comments
Oldest
Newest Most Voted
テキストのコピーはできません。