・半妻・
(どうしよう・・・どうしたら良いんだろう・・・)
輪湖は自分が置かれている状況に困惑する。勿論其れは自分の選択の結果である。
半ば眠そうにも怒るべき期待に顔を綻ばせ歪めてもベッドの上で寝転びその漢は輪湖の顔をじっと見上げている。
安易にもう待ちきれないとばかりと嗤みさえ浮かべている。
睨めつけるようなねっとりとし視線に火照る四肢を晒ながらも輪湖は漢の上にまたがって居る。
蛙が今に飛びかかるぞとばかりに脚を大きく広げ少し後ろに体を反らせながらも漢の脚に手を添えて支える。
パックリと開いた雌襞の入り口には其の漢の一物の先端が押し付けられている。
このままちょっとでも腕の力を抜いてしまえば自分の四肢の重さで雌襞はずぼりと漢の一物を咥え込むだろう。
(どうしよう・・・こんなことになるなんて・・・)
焦らして居るようにみえれば女の技とも取られようが輪湖は焦っている。
このまま腰を落とせば漢に貫かれる。見ず知らずも出会ったばかりの漢に貫かれこの漢の所有物に成ってしまう。
輪湖には夫が居る。結婚して四年。託児所に預ける弐歳の雄の子も居る。
一人目の御子を産み落としたとは言え、夫婦の営みが無いわけじゃない。寧ろ数日前も夫と愛し合ったばかりだ。
それでも弄られさらけ出した乳房の先端はジンジンと痺れ固く尖っている。
半開きに開く唇の端にはべっとりと涎と追さっき口中に射精されたばかりの漢の白濁がばっとりと残る。
雰囲気に呑まれたのは確かであったが、一頻りも熱い口づけに舌を絡め唾液を啜り我慢できぬとばかりに
漢の大きな手で頭を抑え付けられ追々舐め扱き味わい吐き出される白濁を輪湖は悦んで啜り呑んだ。
今更にどうしようもないのはわかり切っていた。此処まで来て拒むのは無理だろし輪湖自身も欲しくて堪らない。
「駄目・・・。これ以上は無理です。許して・・・」ふるふると頭を振って拒絶の意を示す。精一杯の抵抗だろう。
当然に今更とでも言うように漢は片眉を上げると輪湖の腰に手を添えて四肢を突き上げる。
「ああっ。あああ。駄目っ。駄目って言ったのにぃ」
漢が腰を突き上げ輪湖の雌壺を貫くそれと輪湖が腕の力を抜いて漢の一物を飲み込んだのは同時であった。
「あっ。ああ。駄目っ。突いちゃだめ。突き上げちゃ駄目。気持ち良い」
ひんやりとエアコンの効いた部屋に火照り茹だる汗が飛ぶと抑えていた欲望が爆ぜる。
これでもかと開いた雌壺にズンズンと漢の一物が突き刺さり喘ぎ身悶えして阿古が尻を打ち付ける。
心の中に優しげな夫の顔が浮かんだのは一瞬だ。其の名前を声に出さずに呼んだかも知れない。
「イイ。イイッ・・・もっと突いて・・・私は貴方の雌よ。犯してっ犯して。もっと・・・」
雌が上に成る形は輪湖が好きな体位であったがぐらりと天井がゆれる。
輪湖の雌壺に一物を突き刺したままにのそりと漢が起き上がり輪湖の体を押し倒すとそのまま細い足首を握りしめ
これ以上無いくらい左右に広げ伸し掛かる。無理な体制でひっくり返されたかと思えば先程より大きく脚が開かれ
不自然なままに股ぐらが天井高く向く。世間によく云うまんぐり返してである。
足首を持たれ開いた四肢と上を向く雌壺。其の上に一物を刺したままグイグイと輪湖の四肢に漢が伸し掛かる。
「ああっ。これ初めて。こんな事されるの初めて。もっと。奥まで。奥まで突いてぇ」
教え刻まれる快楽に溺れ仰け反って強請れば漢が更に伸し掛かり輪湖の唇を割って入って舌を絡める。
求められるままに直ぐに答え舌を絡めてはじゅうじゅると注ぎ込まれる唾液を輪湖が啜り飲む
輪湖は自分がこんなに献身的な女だとは思わなかった。
夫と絆を結び結婚生活を営んで数年。夫の世話は当り前だし子供に愛情を注ぐのも忘れてはない。
寧ろ掃除も洗濯も好きな方であるが料理はあまり好きでも無いし得意でもなかった。
いつも笑顔を絶やさない夫の給料日に外食すれば夫は満面の笑みで食事を楽しみ、出前でも取るかとなれば
飛んで跳ねいそいそとピザ屋にオーダーを掛ける其の姿を妬ましいと思った事はない。
つまりは輪湖自身、自分の作る料理はあまり美味しくはないと自覚さえしていた。
だが然し・・・。其の漢は違った。
「御前。料理上手だな。上手いし。上手いなっ」
冷蔵庫のあまり物で作った誰にでも出来るであろう牛丼の椀を斜めに方向けしゃかしゃかと箸を
動かしかっこむ姿は適当に作ったのが申し訳ない位に嬉しくも有る。
蹄脚飜蔵と後で知った漢は輪湖の夫とは真逆でもある。輪湖自身の漢性の好みとも大きくも違っている。
輪湖の夫はするりと背が高く週に弐度はスポーツジムで黙々と四肢を鍛えれるが
飜蔵は背丈こそ夫より少し低い位で有るが駄肉がくっついてる。太り過ぎと言ってもいい。
見合い写真を初めて観た時にその整った顔立ちに一目惚れした夫に対して
正月に皆が買い求める厄払い達磨に良く似た顔付きが半蔵だ。普段からぶっとい眉を釣り上げると
反対側の目がすっと細く成る。それが癖であると知っても睨まれてると感じてしまうから居心地が悪く成る。
其れだけでゾクリと背筋に電気が奔る感覚に陥ってしまう。
常に明るく時に冗談も欠かさない夫は几帳面でも面白くよく笑わせて暮れるが
飜蔵は人見知りが激しくも寡黙である。職業も変わっていて夫が弁護士で稼ぎも良いが
追々体を許してしまい其の度に罪悪感に苛まれる相手の飜蔵はいつも黙り、輪湖が話しかけなければ
いつまでもむっすりと黙り自分の仕事とばかりに皺畳む古紙に向かって筆を奔らせてもいる。
あまり広くもない築参拾年は経っているだろう五階までのエレベータがやけに遅い名だけはマンションに住む。
夫に尽くす妻であればこそ気になって出来るだけ綺麗にと部屋を片付けるのは文句は言わないが
どうやら春画を書いてるらしい仕事の部屋は安易に脚を踏み入れるならシッシッと手を振って追い出される。
ドアを開けて中を覗くには一行に構わないらしいから覗いてみると雑多に並ぶ絵具と道具は良くわからないが
立てかけて有る大きな春画には此方に背を向け大きな尻を突き出し半顔を此方に向ける女性は確かに艶煌めく。
良夫と可愛い盛りの子に囲まれ幸せの生活を営みを過ごす輪湖。
夫との営みも定期的に有るかと思えば夜に突然求められる事も有る。驚きもするが求められればやはり嬉しくも
普段とは違う雰囲気に呑まれシーツの束を掴んで尻を降り貪られる快楽にも身を攀じる。
それは其れとして幸せだと思う輪湖でもあるが、いつの間にかそれも物足りなくなる。
刺激が欲しいと言うわけではない。飜蔵の所に通う事が家庭崩壊の尖端を開く事も重々解っても居る。
それでも朝の玄関で夫のネクタイを直し頬に口づけを受け、忙しくも慌てて寝ぼけ眼の娘に食事を取らせ
託児所まで何とか送り届けた後に自分の仕事と電話サポートの仕事場まで電車を乗り継いで階段を登る。
何年かとそんな生活を送っていた物の所詮は派遣の雇われ人である。ある日突然に勤務時間が半分に制限される。
輪湖の労力がどうしたと言うわけでもなく大きな会社であるからこそ派遣会社同士利害の奪い合いの結果であろう。
当初はどうしようと悩み抜いたが、今と成っては娘を向かいに行く夕方のそれまで時間を得た事が
輪湖の欲望を加速させる。賃金は減る事には成っても元々夫が弁護士であり金に無頓着な所があればこそ
黙しているのが得策で輪湖に取っては都合の良いとなる。尤も・・・飜蔵はそんな事全くもって意に返さない。
「まっ。待って下さい。着いたばかりですよ?汗臭いかも」
「構わん。御前だって欲しいだろ」野太く粗暴な言葉に輪湖は逆らえない。
エレベーターで近隣の住人に会わないようにときりきりと胃を痛めながら五階まで登ると足早に玄関を開けた途端
奥部屋からドスドスと廊下を踏みしめて奔り寄って来ると飜蔵は輪湖の体を制服の上から弄る。
「皺に成っちゃいますから。脱ぎますからお待ちに」四肢を弄られ乳房を嬲られれば疼きが湧き上がる。
「そんなの面倒だ・・・」本当に面倒臭いのか態とやってるのか分からないが襟元に太くも丸い手が掛かると
ブチブチと糸を切って釦が弾け床に転がる。直ぐに手がブラジャーに掛かればぶるんと乳房が揺れて堕ちる。
「駄目。駄目ですっ。あんっ。摘まないで。潰さないで・・・乳首」飜蔵は輪湖の体を知り尽くしている。
子を宿し乳を与えれば色も変わるものであってもそれを気にしたケアし桃色になった乳輪と乳首を弄られるのも
我慢出来ない弱点でもあり弄られば直ぐに喘ぎ首を振る。
「んん・・・んっ・・・」乳首を弄れば頭が跳ねて上に向くと当り前の様に知る飜蔵は持ち上がった輪湖の顔を舐め
喘ぎ開いた唇の中に舌を差し込む。べちゃりと音が成るとぺしゃりと輪湖が応え舌を絡め飜蔵の唾液を擦って啜る。
柔楽も張る乳の肉に指がぎりぎりと喰い込み尖端の乳首がぴんと弾かれ潰されれば吸い上げる舌が震え答える。
刺激され快楽に身を震わせればそれだけで身悶えし膝ががくりと堕ちるのを飜蔵が支えるがスカートが捲られる。
「今日もあれか?紫の奴か?」ぐちゃぐちゃと口の中で舌先で歯茎を愛撫されれば言葉も聞きづらい。
「だっだって・・・・飜蔵さんが・・・そうしろって・・・紫のガードルです・・・嫌っ」
夫と妻の関係であれば対等であって然る出来である。何かをしてほしいとか営みの時につけて欲しいとかするならば
それは対等な立場の上でも頼み事になる。だが輪湖と飜蔵の関係は其れとは違い明確に輪湖が下で飜蔵が上位である
其の世界で言えば主従関係が明確であると其れに似る。飜蔵がこうだと言えば輪湖の意思など関係なくそれと成る。
輪湖に取って飜蔵の言葉と言いつけば絶対である。今日は未だましなほうである。
朝から飜蔵の所に辿りつくまで下着を付けない日もあれば小さくも丸いバイブレータを
雌壺に収めて過ごした事も有る。このまま行けば極太のバイブを咥えたまま日がな一日過ごせとか
夫と一緒に身を休めるベットの中で自慰を施し証拠をもってこいとでも言われそうで恐怖に身が縮む。
それでも輪湖は逆らえない。そうしろと飜蔵に言いつけられば何度か拒んでも結局は受け入れて従うに違いない。
濃紫のパンティの裾が捲られ太い指が雌壺にめり込み入ると刺激に耐えられず身悶えし膝が堕ちる。
「気持ちいい。弄れれるの好きです。襞捲られて中に入れてもらうの好きです」
ぐちゃぐちゃと音が響くも悦によがり壁に手を突っ張って無理に体を支えるが飜蔵が伸し掛かり重さに耐えられない
結局いつもと同じ様に冷たい床に制服の儘四つん這いに膝を着いてしまう。
「おらっ。尻出せよ。自分で捲って広げろよっ」ぐひひとも淫猥な嗤みを浮かべ飜蔵が吐き捨てる。
一息も付ける暇もなく輪湖は床に頭を付け乳房を潰しぐいと高く突き上げた尻肉を両手でつかみ左右に開く
「どうぞっ。私は飜蔵さんの穴です。ご自由にお使い下さい。犯して下さい・・・あっ」
教えこまえた通りに尻肉を広げ雌壺と尻穴を広げるも其の言葉が終わる前にズンっと衝撃が奔り漢竿に貫かれる。
「はっはっ・・あん・・駄目・・・気持ちいい・・・んふ・・ひぃっ」
飜蔵が白濁を吐き出すまで輪湖は自分の尻から手を離せない。そうしろときつく言いつけられてるからだ。
尻肉に手を付き激しくリズミカルに突き上げる漢竿の刺激に声が重なり喘ぎも止まらない。
変な言葉が漏れるのは輪湖の尻穴を飜蔵が指で擦ったからだ。丸い指平が尻穴を撫でる度に
輪湖はひぃひぃと声を上げる。解っている。飜蔵は自分の四肢を弄んでいると。
所謂に後ろ穴の性交は未だ許していない。其れも時間の問題だろう。飜蔵は輪湖の体をじっくりと時間を掛け
自分好みに開発していくつもりなのだ。輪湖が逆らえないのを知っているし求めているのも解っている。
少しづつ快楽を与え刺激を刻み教えていき二度と離れ成れなく成るまで甚振るつもりであろう。
何かの拍子に夫と飜蔵を図りに掛ける自体に陥っても其の日が今日で合っても輪湖は全くの躊躇もなく飜蔵を選ぶ。
容赦なくもズンズンと雌壺をズンズンと突き上げられ体が揺れる度に床に貶した乳房が揺れ尖端が擦れる。
「イイっ。イイっ。いきそう。逝きそうです。逝かせて下さい。飜蔵さん」床に伏せたまま首を上げ悶え強請る。
「もう逝きたいのかよ?早すぎだろ。もっと粘れよ。豚妻の癖に」バチンと響くと張られた尻肉が撓み雌壺が締まる
「きゃっ。逝っちゃう逝っちゃう。逝かせて下さい。イクッイクッイクッイクッイクッイクッウゥゥゥ」
尻肉を張られびくりと強張り雌壺が締まる穴にズンと肉が打つかり輪湖は堪らずの気取り声を上げ弓なりに反り返り
快楽に溺れるも喘ぎ果てる。それでもまだ白濁は注がれずも輪湖は最初の絶頂を迎えて喘ぐうねる。
それでも未だ・・・・。
到底満足にも至らない飜蔵は火照り四肢のまま惚ける輪湖の雌壺に竿を突っ込んだまま圧し歩き
突き上げ圧されるままに四つん這いのまま輪湖は床に手を突いて奥の部屋まで這いずって行く。
「ああっ。恥ずかしい。こんな格好で歩くなんて・・・」
「好きなだろうが。犬の如くに扱われるのは大好きだろうに」ボソリと飜蔵が突き放すように吐き捨てる。
「すっ好きです。犬の様に扱わえるの。ああ。御主人様。御主人様にこうやって・・・」
言葉尻を呑み込んだのは自分でも驚いたからだ。飜蔵を自分の主人と認め読んでしまったのに驚く。
その後も何度も求め雌壺から白濁をたらたらと漏らし垂らすまで何度も何度も雌壺に飜蔵の漢竿を刺されて呑み込む
最初に其の言葉を聞き流すのに輪湖は苦労する。日常生活であまり口にする事も無いはずなのに意識し始めると以外にもきになってしょうが無い。あの日突然に飜蔵が呼んだ豚妻と言う言葉でもある。
尤も日常に聞き慣れぬ言葉の組わせでもあるからズバリその物を聞く事はない。
但し言葉端の[豚]というそれはTVのニュースでは良く漏れてくるし寝物語にと娘が好む絵本は其の豚が出てくる。
顔には出さない様にと気を配っていても[豚]と言音が耳に届くと心が跳ねる。
いつの間にか飜蔵も輪湖の名を呼ばなく成り豚妻と声が飛べば[はい。飜蔵様]と自然に輪湖も応え受け入れている
飽く迄も個人的な営みの中で有るはずなのだが、若しその業界と界隈と言う世界では躾とか調教と呼ぶのだろう。
いつからか尤も最初に飜蔵を受け入れてしまった時から輪湖は逆らう事を許されていない。
徐々に段々と階段を登るように躾が強くも厳しくなっていく。
雌経の軽い日を狙って小さくも丸いバイブを雌壺に咥えいれて一日を過ごす。朝一番から帰宅し夫と家族と夕飯を
食して一人風呂に入るまで取り出す事は許されない。事ある度に雌壺の中で蠢き動く刺激に身悶えせざる負えない。
「大丈夫か?輪湖。調子悪そうだな」
「ええっ。なんか最近は重くって・・・。ちょっとつらいかもです」
TVを観ながらもモゾモゾと身を攀じる妻・輪湖の様子を心配してソファの向こうで夫が首を傾げる。
引くべき一線の境界線を軽々と超えてしまう自分の行為に身を捩らせながらも必死に誤魔化すのにも必死になる。
かと思えば・・・。
仕事の締め切りが近いとでも言う日は禄に相手もしてくれない癖にそれでも耐えるのにキツめな責めを与えても来る
作業場の縁を超える事はユウルされぬもその場所で極太のバイブを股ぐらに刺され手枷が嵌められると
後ろ手に固定される。膝立ちで股間にはバイブが蠢き唸り乳房の尖端には重しクリップが挟まれる。
口輪が口を閉じる事が許さないから垂々と涎が垂れて仕方ない。
飜蔵の仕事が一段落するまでその状態でずっと待たされる。その間ずっと強い刺激に身を捩り涎を垂らす。
輪湖が一番にきついと羞恥に塗れ困惑したのは本当にきつかった。
珍しくも冷蔵庫の中身がなくなってしまったのを機会に買い物に一緒に行くと言い出したと少し嬉しく思えば
当然に脚を開かれいつもの太いバイブを差し込まれる。・・・其れはあまりにご無体なと哀願しても願い届かずで
無造作に遠隔でスイッチを入れられ拒めない。
「せっ、責めて腕を貸してくださいましな」火照る体に身を攀じり何とか飜蔵の腕にしがみついて歩く物の
羞恥にと背徳感に身を焦がす。飜蔵の腕にしがみつきなんとか歩く商店街でも行き交う誰かの視線が痛くも
交番の前を通れば遠目にも警官がこっちを睨んでいるような錯覚におちいれば、股間の刺激が更に強くなる。
羞恥の果ての極悪な責めを与えてくるのは飜蔵であるが、黙って腕を貸してくれる飜蔵にも又と安堵と信頼感が
頭をもたげ心地良くも胸に熱く絆を紡ぐ歪んだ愛情さえ輪湖は心地よく感じて行く。
たった今、担当する裁判で敗訴の宣告を受けたばかりの司法弁護士・錨波疾斗。
足早に司法裁判室を出る疾斗の背姿を敵対する検察官や関係者の鋭い視線が刺さる。
普段であれば結果がでても冷静に対処し机の上に書類を叩いて揃えて一呼吸置いてから退出するのが常で有るのに
流石の疾斗で合っても敗訴が五つも重なれば同様を隠せない。所属する法律事務所の若手でも勝てる程度の
案件であり、疾斗が真逆敗訴と成るのは正に信じられない事でもある。
「どうしたの?随分とキレの無い弁論だったじゃない?たかが窃盗事件にあんなに手こずるなんて」
「なんでもない。これが僕の今の実力だよ。神崎検察官」いつもはもっと高等な裁判で強敵と抗う相手の顔さえも
満足に見れずに裁判所を後にする。
全く持って情け無い。
かつては司法界の新鋭敏腕弁護士と噂に名高くもあった疾斗であるが今や比較的小さい案件も手を役事が多い。
家に返れば少々と肉付きが良いが魅惑的な妻がおり、可愛くも愛しい弐歳の娘も疾斗の帰りを楽しみまつ。
妻との営みも少ないとも言えず娘が邪魔をしなければ寧ろ堂々と当り前の様に快楽を貪る。
家庭生活が順調であればこそ仕事の失態は大きくも疾斗に伸しかかってる。
よりによって此処最近の成績は悪い。二つの案件で勝訴すれば次は立て続けに四つ負ける。
それが積重なれば上司怒鳴る嫌みよりも自責の念が自分に襲いかかる。
疾斗がつまずいているのは原因がある。ある事件に携わったのをきっかけに信念が揺らいだのだ。
裁判事であるから検察は必死でもある。検察官の背には犯罪の犠牲者と言う被害者の念がいつも有る。
対する弁護人には弱気を守り正義を成すと言う信念も大義もあまりない。
弁護士と云うのは罪を犯した加害者の救済のためである。加害者の権利として法律に乗っ取り公正に裁判を受ける
権利が其れも又に法律で保証されてもいる。
だが然しである・・・。
加害者と言う言葉が記すように。前提として罪を犯している者達である。
一件の盗難事件が起きる。追さっき疾斗が扱った案件である。
深夜に店を締める電気屋のチェーン店に若い強盗二人組が侵入する。目当ては新発売のゲーム機とソフト。
自分達で遊ぶのか転売目的なのかは分からない。供述書には後者であると記載もされていた。
最近の店は大抵の場合。商品棚に品物自体を陳列することは少なくも大抵は模型だけが置いてある。
それとは知らずに若者二人は棚を壊して商品を抱え込む。当然な事に異変を察知した警備員が後を追いかけ
睨みあいに成ったまでは大事に成らずも小競り合いであれば罪もそこまで大きくは成らずとも
若気の到りかやっぱり馬鹿なのか冗談で持ってきた刺し身包丁を両手に抱きかかえ警備員に突進したのが
運のつきとなる。結果を見れば警備員は若い犯人の動きに対応できずに腹に刺し穴の怪我を負う。
命は拾ったとはいえ負傷したとも成れば裁判の結果は目にもよく視える。
たかが窃盗であればこそ罰金刑で収める事も出来たかも知れぬ。否然しにそれが殺傷事となれば話は変わる。
どうあがいても敗訴は目に見えている案件ではあるが、そこに弁護士の腕が成る。
この様な案件の場合。罪を認めるかどうかはあまり関係ない。
閉ざされた空間に鍵を壊して侵入するのであるから、その時点で窃盗としての犯罪実行意思が有るのは確かだ。
問題は刺し身包丁を握りしめ警備員に突っ込んだ瞬間に加害者自身に殺意があったかどうかが焦点だ。
窃盗の現場を発見され、逃げる為に包丁を握るその行為が威嚇であるのか?
殺意を持って殺してやる。とでは裁かれる量刑が違ってくる。
つまりは弁護士は加害者が犯した罪は潔くは認める上で宣告される量刑の軽減が目的と成ることが多い。
警備員を刺したけれども。殺すつもりはなく。気がついたらそうなっていた。激情のあまりの殺傷であり
故意に殺意を懐いて刺したわけでなないと裁判長を説得出来れば罪は軽くも成るだろう。
一人の加害者の弁護を担当する前の疾斗であればこそ。この手の案件で量刑を軽くするのは出来ない事ではなかった
それほど雄弁でもあり自分にも自身があった。未だ引きずる彼奴に関わる前であればである。
四苦犂八九
倭之御國の弐百五十年前の大華江の時代。そこから続く家名の一つ四苦犂。
名前が八九と言うからづづればしくりはっくと成るが初対面でも疾斗はその彼奴に嫌悪感を覚える。
「小生の事は四苦犂八九と呼んでくれたまえ。呼び擦れてはかまわないが略さないで四苦犂八九と・・・」
「其れは名を呼ぶ時は常に四苦犂八九と呼べと言うことですか?」訝しげに疾斗は確認する。
「そうである・・・」数多くの加害者が其の罪を認めて供述するまでずっと閉じ込められる取り調べ室で漢は
憮然と言い放つ。とても奇妙な風体の漢でもある。
四苦犂八九・・・。
淡い黄色の監獄服に身を包むのは他の者の其れと同じでもある。
それなのに妙に威圧感が有るのも不思議で有る。この漢が犯した罪を疾斗は知っているからだろうか。
到底に人の所業とは思えないほどに残虐な罪を犯した犯罪者である。
其の体毛は一本もない。頭皮も眉毛も睫毛も胸毛も産毛もない。聞けば陰毛の一本も無いらしい。
それが産まれるつきのものとも知らされるがそんな病があるのかとも疑いもする。
丸く形の良さそうな頭と痩せて痩けた頬骨。鋭くも先の丸まった三角顎。
目は細くもあるが何処か非対称にも視えるのは見開く左目に対して右目が半分位しか開いてない様に視える。
ぱらぱらと書類を捲れば幼少時の父親の虐待が原因で顔骨が変形したせいだとも呼んで取れる。
大きな鷲鼻も多少と左に曲がるがこれも軍兵時代の上司の制裁のせいだとも成っている。
いくつかの書類確認の受け答えにも明確にはっきりと答えるがその度に口元をへの字に曲げるのは癖らしい。
堂々としてるともみえれば何処か居心地が悪いのか時より体を揺らして椅子に座りなおす。
同じ様にパイプ椅子に座る疾斗の座高よりも高い視線であるなら立てば結構背も高いのだろう。
とは言え逆にひょろひょろと四肢は痩せていたサイズが合わないほどぶかぶかな監獄服の脚袖から視える足首は
細いと言うより骨にちょっとだけ皮が突いて居るだけに見えて仕方ない。
確りと固定された机の上に置かれた水杯には目もくれずに此処では嗜好品極まれりの煙草の煙を肺に送る。
勿論、手を枷で括られているから両手を顔前に持って行き不幸健康と良く知るがやめられないとでも言うのだろう。
容姿仕草と纏めても結構、他の者とは逸脱しているが隅をつつけば未だまだ異様さは有るのかも知れない。
「小生がやった・・・。あの事件は全部自分がやったのだ。間違いはない。
だが死にたくはない。故に君には完全な無罪を勝ち取って欲しい・・・」
四苦犂八九と言う漢は自分の肺に煙草の煙を送り込みながらも、さぞ当り前だと言うように吐き捨てる。
「なっ。何を言ってるんだ?君はぁ。自分の罪を完全に認めた上で自分は無罪放免を望むのか?
大体にして道徳倫理に反する行為だぞ?」疾斗は四苦犂八九のあまりの暴言に興奮しどんっと机を叩く。
「君等弁護士に道徳倫理とは何かを問われる筋合いは全く持ってないぞっ。君等が一番もってないじゃないか」
「うぐっ・・・」痛い所を疲れた疾斗は一度は立ち上がりかけた腰を椅子にドスンと堕とす。
置字
置字




