十弐臆八千参百七万六千4百と・・・二十壱
十弐臆八千参百七万六千4百と・・・二十弐
十弐臆八千参百七万六千4百と・・・二十参・・・十弐臆八千参百七万六千4百と・・・
二十と四・・・。
もう既に自分は正気じゃないと十分に自覚しながらもうつろな瞳を床に身を横たえたままに
天井から時折落ちてくる水滴の数を数えている。
尤も数える水滴の其の数は不正確だ。
さもあらん。漢が石牢の天井から落ちてくる水滴の数を数える事が出来るのは
忌々しい彼奴等の拷問と嫌がらせが収まった時だけだ。
言い換えればほとんど同族と言っても良い彼奴らが漢を嬲るのに飽きた後である。
其の彼がかび臭く苔の映える石牢に捕らわれて十年と幾年が過ぎているはずだ。
漢に馴染んだ言い方で言えば瞬冥の寿命しかない者達の感覚も違う。
日が登りそれが沈む。其の時間を一日と称するのであればそれを五百と数十を重ねて壱年と呼ぶ。
その漢達の世情では皿にそれを十個連ねて一節と定めている。
瞬冥の寿命しかない者の営みとその寿命が節数えで七節からよく伸びて九節と成っても
其の漢の種族ではたがが九節でしかない。
つまりは漢の種族は瞬冥の寿命しかない者達が恐れる寿命と言う物はあまり意識はしていない。
少なくても彼等は其の五倍から八倍の時間を営み生きる。
学術的に言えば瞬冥の者が人と言うならば彼の種族は長命種の部類に入る。
それ故に彼も又節数えの風習にならって時間の流れを捕らえていても
拷問されれば痛みも感じるし感覚も麻痺して行くだろう。
何時しか痛みもあまり感じなく成りかつての自分を失い。最後には呻く屍と成り果てる。

思い返せばと・・・。
最初の頃は同胞の理不尽な扱いに腹を立て唾を飛ばし罵詈雑言を浴びせたが
それを嫌悪した拷問官は躊躇も慈悲もなく漢の舌に鋏を入れた。
いっそのこと全部切り取るか半分ちぎるかにしてくれれば随分と楽であるのだが
数人掛かりで頭を押さえつけ鉄床で無理に引き出し伸び切った紅い舌の右に切れ目を入れる。
一人前の漢であれども舌に切れ目を入れられるとなれば恐怖いにすくみ
言葉に成りもしない呻きをあげて懇願するも容赦なく鐵鋏のジョッキンと刃が閉じられ
口の中には血液が溢れ出す。絶叫し失禁さえも垂れ流すがそれでも拷問官は満足せず
反対側の左側二度目に鋏を入れ泣きじゃくる漢の無様な様を歓んでいた。
結果的に漢がのたうちまわり押さえつけられた腕を振りほどき殴りかかって来る迄
漢の舌を四度と刻む。
半ば狂人と化した漢が拷問官に襲い掛かるが別の者が背後から鈍器で殴り倒す。
手慣れているのだろう。其の拷問官が使った器具も中々と珍しい。
剣と弓と槍と盾がぶつかりあう戦さ場でも時折疲れる武器ではある。
比較的伸縮性のあり同時にある程度の硬さのある動物の側を袋状に加工し
中に粗砂を詰め込んで有る。属に革砂袋と呼ばれるが人を殴り倒すのに最適な武器である。
振り回す。若しくは振り下ろす時の勢いでその威力は金槌にも匹敵すると言われ
事実其時に暴れた漢は一撃で意識を失い石床の上に伏せて倒れる。
目が覚めればそれも又に地獄が続く。
ついさっきに舌を刻まれ其の血も未だ乾かぬと言うのに拷問石の上に乗せられた右手の爪が
専用の器具で剥がれていく。
絶叫すれば口から乾き切らない血反吐を吐き出し項垂れれば次の指の爪が剥がされる。
五つの指爪が剥がされば今度は指の上に丸石が充てがわれその上目掛けて金槌が振り下ろされる。
ぎゃっと声を上げ指が潰れる度に丸石の角度がずらされ位置が定まると又金槌が堕ちてくる。
それでも指の爪を剥がせるのは五回だしどんなに気を使っても指を潰すのも同じくらいだ。
当然拷問管はそれで満足などするはずもなく。今度は左手を壊しに架かる。
相当に仕事熱心な拷問官なのだろう。相違工夫を怠らずと日々の仕事に精進する輩らしい。
そこに至るまで何度も失神した漢の顔を何度も殴り無理に意識を取り戻させると
虚ろな瞼を開ける漢の左手に奇矯な器具が充てがわれる。
奇妙と言っても世俗の農家でも見かけることも割りと見かけることが出来る道具だ。
多少手を加えられている其の道具は本来に葡萄の身を潰し汁を絞る時に使う物である。
一番下には平たい石面がありその左右に支柱がある。
その支柱を支え上部には同じ様に平石が据え付けられているが底に太螺子が付いてもいる。
螺子の上には当然に回し取ってが付いている。
痛みと苦痛に意識が朦朧と飛びもはや抵抗もままならない漢の左手が台の上に乗せられ
にまにまと嘲笑いながら拷問官が道具上部の回し螺子を回していく。
出来るだけ時間を掛けたくてしょうがないのだろう。
ゆっくりとそれでも確実に回し取ってが閉められていき
漢の左手の指は葡萄絞り器の間で軋み潰れていく。

拷問管共のその日の仕事が終わっても拷問は終わらない。
一日が過ぎ五百と重なり壱年・・・それを十と並べて一節。
天井から堕ちてくる水滴を数えて十弐臆八千参百七万六千4百と・・・二十と八・・・。
未だ石牢に閉じ込められる漢の右手は砕け左手は潰されあの後に鉄杭に打たれた後が残り
左膝は金槌で砕かれ靭帯も鐵鋏で切断され一人で歩く事も達がる事もできなくなっていた。
刻と後に百節戦争と呼ばれそれが始まった日より十年一節と少し前。
大餓鬼族が百の村を滅ぼし妖精谷に災いを齎すと懐に書簡を刻んだ知らせを持った伝令者こそ
ほとんど同胞の輩に囚われ拷問を受ける其の漢である。

置字

天鼠 蛭姫ノ壱

天鼠 蛭姫ノ壱

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