御嬢様・・・日いずる御國の淑女たる貴方が毛糸のおパンツをお履きに成るのは・・だから呆けた顔で御腹をポンポン叩くのは御控え下さいませなっ。

「Esivanemate maa. Ainult valguse valguse tõestusega saame
näidata oma esivanemate pilti siin ja praegu」
(・・・祖いずる國。光明の証持ちてこそ今此処に祖の姿示さん)
人の生態現象として其の瞳を閉じていいれば確かに何も見えないが
聴覚が正常であれば耳に音は届く・・・。
例えそれが過去に一度も聞いた言葉でも無くてもそれが異国の言葉で有ると位は
理解できる。
次に感覚としてわかるのは床から伝わる其の冷たさ。
石作の床の上にでも横たわっているのだろうか?
瞼の向こう側に突然と温かくも眩しい光が当てられ開けてみようとした眼を固く閉じてしまう。
「Kas kohtukutse läks hästi? Sa ei ole ju seekord koletis?」
(召喚は上手く言ったのか?今度は化け物ではないんだろうな?)
最初に耳に届く言葉は確かに異国の物と聞こえるが少し遅れて其の意味が頭の中に浮かぶ。
自分の知識の中にない言葉で有るが数秒と待てば意味もわかる。不思議な感覚でもある。
それでも早口にいくつもの言葉が交わされると理解が追いついてない。
熱く眩しさを避けようと掲げた手の平の向こうでひとし誰かが叫び
やっと眩い光が熱さを消す。
やっとの事で冷たい床に手を付いて半身を起こすと少々用心しながら瞼を開けてみる。
眩しくも熱い光が去ったとは言えそこは未だ明るい。
恐る恐るも瞳を開けて見ればそこに映るのは白い色で埋められた景観である。
少し落ち着いて良く当たりを見れば絢爛豪華な建造物がズラリと並ぶが其の色は白色のみ。
かと言ってそれは床と背景だけであり自分の周りに集う人々は極彩色豊かな衣装を着込んでいる。
それと知れば目が痛くも成るも聞こえる声も聞き取りにくい。
「Kas teil on kõik korras?Kallis ja ainus tark mees.」
(大丈夫ですか?唯一無二の賢者様)
後々まで自分に付いて回る事になる女性が優しげに声をかけ覗き込み声を掛けてくる。
同時に誰かが優しげな手つきで体に布を掛けてくれる。
「多分・・・大丈夫。でも賢者って?」
(Võib-olla… Mul on kõik korras. Aga kes on tark mees?)
今度は順序が逆に成る。
唇から漏れた言葉は最初こそ自分のよく知る言葉であるが
その後を綴って良くも知らない言葉へと変わっていく。
何とか意思の疎通は出来る物の多少成りとも不便かもしれない。
大体にして唯一無二の賢者様って誰?
尤も記憶が定かとも言い難い。今確かに自分がいる場所は初めての場所であるはずだが
それ以外の事。何もかもが上手く思い出せない。自分の名前のその一つも・・・。

「はっ。ちょっとまって・・・?」
(Oodake hetk.)自分が発した言葉が変化しその意味を周りの者に伝わって行くのを待たずに
自分の体を確かめる。
パタパタと自分の手で体の上をなぞり叩きそれこそ自分の体を確かめて行く。
最初に手に伝わる感覚は柔らかくも温かい頬。意外な事にもそれは思いよりも小さくも感じる。
髪の毛は有る。否然し・・・それは朧げに残る記憶らしき物よりも長い。
なめらかで艶もあり指の間をするりと流れて行く。
頬の次といっても眼があり鼻があり口が有る事は代わりない。
本の少しの安心が胸に湧き上がる。ほっと出来た事には代わりない。
少なくても周りの人々と同じような人の顔をしているのに違いない。
其の次と成れば極々単純であろう。パタパタと体の線を確認して行く。
「・・・・・・・。」
(・・・・・・・。)
「むっ・・・胸が有る・・・。お胸がくっついてる。・・・・ちっちゃいけど胸があるの・・・
ぼっ・・・ボクの体にお胸があるの・・。おっぱい・・・が・・・」
愕然と驚愕とあまりにも吃驚して声が出る。
有るはずなんか絶対にないと思い込み極々自然に胸板に手を添えてみただけなのに
そこには有る恥ずのない女性特有の膨らみが確かに有る。
自分の手に収まる位の大きさであるから小さいとも言える。
狼狽し上げた声に周りの者も身を引いて驚くも其の瞳には当たり前であろうとでも言う思いが宿る
どんなに冷静に頭を巡らせても自分の体に女性の乳房がついていると言うのは理解出来ていない。
記憶と言う物が正しければボクは生理学的に男性で有るはずだ。そう記憶が断言する。
「はっ。お・・・お胸がくっついているって事は・・・」
恐怖が背筋をざわざわと走り体を覆う白い毛布を肌蹴ると其の股間を確かめる。
さすがにこれは憚れるとでも言うのだろうか。
自分を取り囲む人々の内、従者らしき物は身を呈し周りの愚漢共の視線を遮る。
「なっ・・・ない。・・・お稲荷さんがない・・・つるつるぺったん・・・。
ボクのお稲荷さんなくなった・・・ボクの・・・」
わなわなと声が自分でもわかる位に大きく震え目尻に涙が浮かぶ。
「Üks ja ainus täiuslik ja täiuslik tark mees on…Tüdruk.」
(唯一無二完全無欠の賢者様は・・・女の子ですよ)
優しげにも声を掛けてくれる女性の唇から言葉が漏れ聞こえそれの意味を理解する。
「ぼっ・・・ボクは・・・女の子・・・おんなのこ・・・」
言い諭され断言された言葉を受け入れる事はすぐには出来ずに涙が溢れうなだれてしまう。

「こほん・・・みっ・・・観たか?あの麗しきも可憐な御姿を」
「うぬ。如何にも。確かに完璧なまでな裸体。否に御姿であったぞ。」
宮廷錬金術士と其の力も匹敵するかそれ以上の著名さを持つ召喚士が秘術を駆使し
真に可憐で儚くもある絶世の美少女を個の世に生み出したのは間違いがない。
尤も世に生まれ落ちたばかりの幼き少女となれば観たこともない世界の大人たちが
累々と周りを囲んでいたと成れば怖がりもするだろう。
本来であれば直ぐにでも従属印の儀式を執り行うべきであったが
いまれ落ちた少女自身が取り乱し可憐儚くも泣きじゃくると成れば少し時間を奥必要があった。
獅子と毒蛇の姿を持つ巨大な白柱の下に陣取り何やら漢二人が言葉を濁す。
「あれだけの四肢を持っているなら買い手は引く手数多だぞ・・・」
「否々にあれだけの逸品なら人手に渡す等もったない。いっそ我が手で首輪を括って・・・」
ひそひそと声を潜め殺し互いの顔をも満足に見ずに漢たちは言葉を交わす。

「えぐっ。えっ・・・えぐっ・・・」
自分自らの事をボクと呼称しても傍目から見れば儚くも可憐で移ろやかな少女である。
其の少女が丸く大きな眼を晴らし多少であってもズルズルと鼻水を啜りながらも泣いていれば
一般常識を持つ大人であれば何とか対処しなければならない。
「御嬢様・・・。こちらへ。
皆々様には申し訳ないと存じますが。御嬢様はこの世に生まれ出たばかりで御座います。
これ以上に好機の眼に晒されるのは耐えがたいと存じます。
少しばかりに御時間を下さいませ・・・。」
泣きじゃくり鼻水を垂らす少女を見かけて先に声をかけてくれた従者が言いはなつ。
尤も従者が気にしたのは。否に少女の気持ちを察してのことであったが
それよりも少女が自分でも止められず止めどなく流れる鼻水を寄りによって
従者が纏うエプロンで拭き取ろうと小さな手を伸ばしてきたからでも有る。
言うべき事を言い捨てると何気なくも優しげな動作で白布を取り出し少女の顔鼻に当てる
ズズ・・・チーンと鼻を啜るもきちんと涙と鼻水を拭き取ってもらうと少女は
やっと別室につれて行かれる。

「良いのか?従属印の儀式が未だだぞ?あれこそが今回の醍醐味であるぞ」
「たっ。確かにそうではあるがさすがにあのような少女には刻すぎるのではないか?」
「否然し。だからこそ見ごたえが有ると言うもの」
白い広間に集まり屯する輩。
当然の如くにその儀式こそが真の目当てだとしても肝心の少女があの姿ではと
苦言を漏らすやからも少なくはないが儀式を司る司祭は仕方なくも眉をひそめるしかない。

これも又に目が痛くもなるほどの白色で彩られた部屋の中
其の真ん中に据え置かれた寝椅子の上に蹲り暖かくも白い布を頭まですっぽりと被る少女。
「ケーキ食べたいの。あと熱いココアが飲みたいの・・・」
すっぽりと被った厚手の白布の向こうでぼそりと告げてくる。
「け?けーき・・・で御座いますか?それにココアと・・・」
王家貴族。其の果は豪商までもと幾人の主人に仕えてきた従者オルビヤ・アンガシャにとって
白い布を頭から被り未だ眼を真っ赤にして鼻水を啜る少女は厄介であった。
「ケーキと言う物は食べ物でしょうか?ココアは飲み物のようですかが?」
従者オリビノは若くしても熟練の経験を持っている。
未だ主人と従者との絆を結んでいるわけでもないが自分の知識にない物であっても
それを恥とする心得はきちんと持っている。
「恐れながら・・・御嬢様。
愚鈍無知極まりない私奴はケーキと言う食べ物に付いて知識が御座いません。
ましてやココアと言う物についても同様で御座います。
恐らくはこの宮廷にもそれを良くと知る者もいないでしょう。
宜しければ愚鈍成る従者一同にケーキとはなんぞやたるかを教えて下さいませな」
淑やかにも礼儀正しくも少女が座る寝椅子の側に自らの頭を垂れる。
「んとね・・・。ケーキはふわふわで甘いの。クリームが乗っていてね。
中に大きな苺が入ってるの。ココアは苦いけど甘いケーキに良く合うの」
「ふわふわで甘い?クリームとは?それも甘いのですか?
苺・・・山苺ならありますが・・・ココアは苦い飲み物なのですね」
「うん。苺はこれくらい大きいの。クリームはとっても甘くて美味しいの」
「ケーキはふわふわで甘く。其の上にクリームと言うとても甘いものが・・・?
苺は大きいとおっしゃりますか?其のような物は・・・
はっ?御嬢様。そんなに甘い物を食べちゃえば・・・太るのでは?」
従者オリビヤ自身も甘い物には眼がない故に普段は摂生を心掛けている。
「・・・・」白布の向こうから鋭い眼光がぎらりと輝きオリビヤの背中に殺気が走る。
「すっ。直ぐに甘い物と温かい飲み物をお持ちします。
こら。従者其の弐。グズグズしないでその大きなお尻をもちあげなさい」
オリビヤの背に走った殺気は本物である。冗談など微塵もなく恐怖を悟った彼女は
億面もなく従者其の弐とやらに下知を投げつける。

「此処は何処なの?・・・ボクは誰・・・?」
極めて単純でありながらも其の答えを口するには従者オリビヤには責任が重すぎる。
本来は白い扉の向こうで今は未だか未だかと少女の推参を待っている高貴な輩の仕事である。
従者其の弐とやらが足早に少女の元へ届けた菓子は到底にケーキとは呼べない物だった。
何やら小麦粉を練って三角に形を整えてはあるがぺったんこである。
其の上に甘い物と言えば蜂蜜くらいしか思いつかぬのかそれがこれでもかとどっぷりと掛けてある
最後に申しけ程度に小さい山苺がコロンと乗っかっているだけであった。
所望したココアに至ってはそれ自体が存在しないのだろうか?単純に温めた牛の乳であった。
「はっきりと申し上げるのでありましたら・・・。
御嬢様は私奴共とも大きく違います。私奴達が人種人類と称するのであれば・・・。
御嬢様はそれに類しても御座いません。御嬢様こそ唯一無二の存在で御座います。
そして御嬢様は人種人類とは違い母親の御腹からも生まれては御座いません。
個の世界の聡明なる偉大な錬金術士様とそれに匹敵する召喚士の御方々が
お作りになられたのです・・・」
少女の誕生において結構衝撃的な事実を告げたにも関わらずも当人は意に介してないのか
それよりも御腹が空いているのか。
とりあえず眼の前に用意された菓子を手づかみで抓みわしゃわしゃと口の中に運んでいる。
オリビヤが一旦言葉を切って其の言葉が伝わっているかと確かめると
一度だけ蜂蜜菓子を口に放り込む手を止めクリクリと眼を回してその先を促す。
それを承けてオリビヤは少々と臆しながらも先を進める。

其の建国以来。
絶えず常に戦を生きがいとし其の大陸を覇を目指す帝国。
大陸の制覇を目指すと成れば常にも戦に明け暮れる。
時に既存の兵法と軍で怒涛の如くに他国に攻め入りいとも簡単に其の國を蹂躙出来て
しまうこともある。
否然し当然に激しく抗うあがらう国民もいればいつもの兵法と軍が通じないことも多々にある。
特に近年はその傾向が強く帝国皇帝はその領土を広げるのもままならずに苛立っていた。
皇帝となれば思う以上に我儘であり当然に癇癪を起こし無理難題を他人に押し付ける。
新しい兵法とそれを担う軍隊の確立。それも儘ならぬほどに追い詰められた側近の輩は
結果的に昔ながらの術にすがる。
錬金術である・・・。
不便な事に個の世界に魔法と言う概念はない。
代わりに性質は違うが其の代わりを担うのが先人たちの知恵と努力の結晶・錬金術である。
其の術は最初こそ朝の朝食の準備から夜の営みの道具も然りに。
戦の兵法と軍。それに付随するであろう戦具。
例と上げるならば兵士が着込む鋼鎧には戦付きの錬金術士が寝食を削って作り出した
鎧塗料がこれでもかというくらいに塗り込んであり。
それを着込んだ兵士が敵陣敵兵が確固たる意思で放つ矢じりを跳ね返し
放たれる大砲の玉を喰らっても平然として立ち上がりこれも又敵陣へと攻め込む事も出来る。
人々の生活に根付き戦においても期待以上の成果を生み出すのが錬金術のおかげとも成る。
刻に求められずであっても術と言うのは常にその精度の密度を上げることが求められる。
只でさえ戦法として極められる錬金術はやがて矢や大砲等の対策は元より
それ以外の物へと発展研究が突き詰められて行く。
やがてそれは戦具・兵具だけではなくも兵自身へと代わり行く。
そう入っても兵と言ってもそれは人間である。
人間であればこそに錬金術にも施せない禁呪も多い。
従って・・・。
用いられる錬金術の秘術が兵としての人間に施せる術に限界が有ると言うのなら
人としてのそれ自体を生み出せば良い。
それが正しいと言う倫理的な問題を唱える者等帝国にはいなかった。
直ぐに帝国内で地位と名声確かな錬金術士が集められ研究が始まった物のやはり困難を極める。
当然であろうにもその術の完成には幾年もの時間を要する。
最初こそはフラスコの中で生まれた生命は人にならずも見えぬ者。
言ってみれば化け物にしか成長せず。やがて人のような姿を成しても凶暴な獣のままであったりと
研究を極めて言っても中々に成果は出なかった。
はじめにその皇帝が癇癪を起こし下知を下してからおよそ五拾と数年の後にやっと・・・。
従者オリビヤの眼の前に唯一無二完全な口の周りをベッタリと蜂蜜で汚す少女が姿を現す。
「ふにゅ。そうするとボクは誰かに作られた存在って事なんだね。
個の世界で言う人でもないって言う事?うにゅにゅ。
それならボクの父上とか母上様とかは誰なの?その人もいないのかな?うにゅ」
言葉の中に濁音が交じるのは未だには蜂蜜菓子を口の中に詰め込んでるからだ。
「君が父上と呼べる御方は確かにいる。個の部屋の向こうの広間に」
いつの間にか部屋の中に滑り込んできた痩せて背の高い漢が告げてくる。
「その人は何処にいるの・・・?」
砂糖菓子と温かい飲み物でとりあえず少しは落ち着いたのか少女はくりくりと眼を回す。
「君を生み出した父上様はこの部屋の外にいて、君と合うのを楽しみにしているよ」
痩せてもいるが確かに美形であり漢の癖に長い髪をたゆらせて漢が答える。
「宮廷召喚士筆頭・ゾニン様・・・」半分は畏怖と残り半分は侮蔑を含む声でオリビヤが呟く。
「父上殿は君をとても心配しているんだ・・・。
何しろ未だこの世に生まれ落ちたばかりなのに泣いてしまっただろう。
君はそんな事をしちゃ駄目なんだ。さぁ父上殿に元気な姿を見せてあげよう」
「うん・・・」あろう事か少女は宮廷召喚士の優男の言葉に素直に頷くと
寝椅子からぴょんと飛び降りる。一度従者オリビヤの方を観て顎をしゃくり
口の周りに付いた蜂蜜を拭いてくれとねだりオリビヤもそれと察しハンカチを取り出す。
この時少女の瞳が一瞬に紅くと染まり其の奥に魔性とも言える光が宿るのを
オリビヤも又見逃しもしなかった。

一度は綺麗に拭き取ってもらった鼻水では有るが気になるのかずずっと一度鼻を啜ると
若くしてもその地位に登りつめた宮廷召喚士筆頭・ゾニンが差し出したてを握り有るき出す。
確かに優しげで人の持つ体温は温かい。それに少女は安心感をも覚える。
もっとも其の小さな手を引くゾニンにしてみれば先に召喚されtばかりとは言え
その後に続く儀式が又残っている。此処でまた逃げ出されては面目が立たないと思惑があった。
白い布を頭からすっぽりと被りゾニンに手を惹かれ大扉を潜り大きな白い儀式場へと戻る。
「おおお・・・」
「やっとおでましか・・・」
「やはり美しくも可憐であるな」
皇帝貴族は元よりも数々に累々と人々が密やかに声を吐き出す。
白い獅子と大鷲の大柱の足元に其の人物は立っていた。
「あの御方が君の父上と呼べる御方だよ。
偉大なる大錬金術士・カーテン・ノソデ・ノシタ様だ。」
偉大なると大錬金術師と名を関するカーテン・ノソデ・ノシタという漢は二本の柱の間に
敷かれたふかふかの敷物の上に杖を付いて立ち真っ直ぐに少女を向かい待つ。
唯一無二完全たる賢人少女。
その誕生を見届けた各人様々であるがそれで全てが終わるわけではなかった。
少女本人はそれとも知らずにいるが存在自体が稀有であり同時にあまりにも危険でもある。
それ故にだからこそに枷をはめる必要があった。それ故の従属印儀式が必須となる。
儀式自体にも意味は有るがそれ以上にある意味見世物的な意味合いも強い。
「怖い事何もないよ。さぁ父上の元へ行ってごらん」
精一杯の優しさを込めてゾニンは少女に微笑み掛ける。

「へっ・・・変態がいるの・・・。変態の叔父さんがいるの」
わなわなと声を振らわせ少女が悲鳴をあげる。
「・・・・なっ。なんだとぉ~~~」
ふるふると体を震わせ縮めながらも小さな指を立てビシっと指さしたその先。
その先にいた漢こそが錬金術師と名を関するカーテン・ノソデ・ノシタ。
「御兄さんの嘘つき。あれは父上様じゃないの。変態叔父さんなの」
自分自身も尊敬の念を込め長年の間、師として仰いできた大錬金術師。
二つの大柱の床間に立つ大錬金術師
その姿はこそは高価な獣のマントを羽織り右手には大錬金術師の証となる杖も視える。
否然し・・・。
それ以外の衣服と言える衣服は身につけていなかった・・・。
「変態なの・・・。変態のすっぽんの叔父さんがなんかおっ勃てて・・・こっち見てるの。
あれを変態って言わないなら。何を変態って言うの?あれは絶対に変態なの」
ふるふると体を震わせ慄きかわいい瞳を大きく見開き怖がる。
「待ち給え。これは正当な儀式なんだ。君の為でも有るんだ。必要な事で・・・」
「あの変態叔父さん。怖いの・・・。鼻息荒くしておっ勃ててるの。
御兄さんもあの人の仲間なの?変態叔父さんの仲間なの?」
「いや・・その・・・それは・・・その・・」あやふやな返事をゾニンはせざる負えなかった。
身を危険を感じた少女はぱっと駆け出し従者オリビヤの元へを駆け寄る。
ぱふっと音を立て屈んだオリビヤの胸に飛び込むとすりすりとその旨に顔を埋める。

「我が名こそはカーテン・ノソデ・ノシタ。
日いずる我が帝国に置いて大錬金術士を務める者でありそなたの父とも言える。
御前は我が手によって生まれた唯一無の存在で有るが故に其の力の制御は難しい。
その力を持て余し暴走する事もあり得るだろう。時に帝国の弊害にも成り得るのだ。
だからこそ印従属の儀式は必要なのだ」
極めて的を得た説明にも聞こえる。
「変態叔父さんが妾の体を視姦してるの。裸でなんかお勃てて・・・迫ってくるの。
いやらしい事しようと鼻息荒くして迫ってくるの・・・」
確かに正当性は有るのかもしれない。
印従属の儀式とは錬金術と召喚術の其の先に生まれた創造物をその主人して
縛り契約を結ぶ物であり。それは主人の性を創造物に注ぎ込むと言う物である。
否と然し・・・。
生まれたばかりの少女にしてみればそれは恐怖であろう。
何やら本人の思う以上の知識を有しているとも思われるが。
それ故にである。その身に起こるべき事を危険と感じるのだろう。
「あの変態叔父さん・・・怖い。御兄さんは嘘つきなの・・・」
抱きしめるオリビヤの胸の中ですんすんと泣きながらも怖怖と声を上げる。
「グスン・・・この國の大人の人たちは生まれたばかりの可憐な少女が
変態の叔父さんに色々されるのを喜んで観るのがすきなの?
みんな変態なの?そんな御国滅んじゃえば良いの・・・」

其の刻・・・。
絶えず常に戦を生きがいとし其の大陸を覇を目指す帝国。
生まれたばかりの少女が滅べと願った其の國。
其の宮廷然り東の土地。南の土地の彼方。西の土地の狭間。北の土地の彼方にて
忽然に突然と漆黑の岩肌を纏う石塔が地面の底から湧き上がる。
土を盛り上げ岩煙を纏い天の雲に突き刺さる黑岩の塔。
それも又に彼等集う宮廷の儀式場にさえも其の黑い風が吹き荒れる。
白き大柱は黑き霧風に包まれ獅子の像は大蛇の姿にも帰る。
狼狽し逃げまどう貴族と人々の姿も禍々しく変容し醜い化け物にも変わる。
あまりにも凄惨と成る宮殿とその人々。
ともすればその半身を醜い化け物と変える物もいれば其の全身が化け物と变化し
咆哮を上げ歓喜に身を震わせる者もいる。
体の肉が削げ落ち骨だけに成ってもケタケタと嘲笑う骸骨さえもいる。
其の中にも彼等とも違う姿の者達もいた。
泣きじゃくる少女を胸に抱くオリビヤは若い女性そのままの姿に衣服が溶けて消え
晒した艶肌にしっとりと色香が乗ったと思えば其の背に白い翼が羽ばたき光る。
その姿こそ天使と見間違えれば誰もが其の姿を羨み化け物が吠える。
ふわりと又に風が拭いたかと思えば次にこそ世界は暗転とする。
意識と視界が戻るとそこには付いさっきの風景はなく。
元の風景と一つも何も変わりない。
あまりに平然と平穏な空間でもあった。

「なっ。何をしているっ。衛兵共。
そっ・・・その者は変態であるぞ。
生まれたばかりの少女に不埒な変態行為を強いる変態であるぞ。
捕えろ。直ぐに捕らえて幽閉せねばならん」
真っ先に大声で叫んだ者こそゾニンであったがその顔は蒼白である。
「待て。何をするんだ。儂は大錬金術士であるぞ。こら・・・マントを剥ぐな。
・・・儀式だ。儀式を行わなければっ」
それも又。顔面蒼白に恐怖に駆られた衛兵が大錬金術師に群がり唯一の着物マントも
その証である杖さえも奪われ白石の床を引きづられていく。
「えぐ。えぐ・・・怖かったの。変態なの。あれは変態なの・・・」
天使の香りを肌に纏うオリビヤの胸で少女は声を震わせて泣き続けていた。

「御嬢様。そんなにお腹をポンポンに膨らむまで食べ物を口に入れてはいけません。
淑女たる御嬢様の威厳がなくなってしまいます」
先程の騒ぎが一応の落ち着きを見せ一段落が付いたと思えばこの騒ぎである。
「錬金術とか言うの使ったらお腹すいたの・・・」半べそをかいたままに別室の寝椅子に
戻った唯一無二完全無欠の賢者というよりは泣きべその少女は食べ物を当然とばかりに要求する。
「御嬢様・・・。みっ・・・見事な食べっぷりでございますが。
良く噛んでください。ご飯は飲み物では御座いませんの・・・。
だから御櫃を抱え込まないでください。おっ・・・おかわりで御座いますか?
御櫃ごとご飯おかわりで御座いますか?えっ。おかずも・・はは・・当然で御座いますわね」
最初こそ碗の持ち淑やかにご飯を口に運ぶが串棒の持ち方に未だ慣れていないのだろう。
上手く行かないとわかると碗を口元につけしゃかしゃかと串棒でかっこむ。
その間に従者が掲げるおかずとやらをぐさりと指しては又、口に運ぶ。
瞬く間に空になる碗にタイミングを見て従者其の弐と呼ばれる女がご飯をよそう。
段々と手慣れてきた手つきと成った頃合いで今度は少女が御飯の入った櫃を
取り上げ抱え込む始末だ。当然にみるみる内にそれも空になる。
「こっ。このままではみんなの御夕飯までなくなってしまいます。
私奴も御飯は食べたいのです・・・」
半ば諦め少しの間小言を漏らすの口を止め当たりを見渡す。
白石造りの大広間の寝椅子の上にちょこんと座り御櫃を抱える少女。
勿論口の周りにはベッタリと御飯粒や鳥の皮トカゲのしっぽのかすがべっとりと付く。
御櫃を取り上げられた従者其の弐はそれでも献身的に身を尽くし
少女が次のおかわりが欲しいと突き出しす皿のそのタイミングを見計らい
汚れた口の周りを水に浸した布で綺麗に拭き取れば従者其の参と呼ばれる者が
水の入った杯を少女の口元にそっと差し出す。
云々と満足げに頷くと目の前には朝叫鳥の丸焼きが皿に乗せられて突き出される。
それさえも恐らくは三分もただずに骨の残骸となっていく。
「このままでは・・・本当に私の御飯が・・・」
筆頭従者と言えどもやはり人の子。
自分の食い扶持がなくなると思えば眉を潜めても当然だ。
其時そのとき。確かに救いの主が現れた。
「御待たせした・・・。我が愛しき唯一無二完全成る幼女様よ。
御所望であろう食べ物をご用意持参させて頂く。いやいや確かに見事な食べっぷりであるな。
しかも其の姿さえ麗しくも可愛い」どうやらお世辞のつもりではあろうが
其の漢・宮廷召喚士筆頭・ゾニン様の口元は妙に引きつっている。
それでもゾニンの言葉には偽りはない。
指先が震えながらも促した手の合図につきしたがい新たな従者達が前に出る。
その全身ビシッと頭から爪先のその先まで従者礼服で決めた彼等は専属の者達だろう。
彼等は一糸乱れぬ歩調で靴音を鳴らし少女が陣取る寝椅子の前に弐列と列をつくる。
其の手にはそれぞれ銀盆を抱えもつ。
一番最初の従者が恭しく頭を垂れると同時に銀盆の蓋を取るとそこには
こってりと油が乗った海豚の半身焼きが載っている。
当然の如く一辺倒の貴族でも滅多に口に運ぶ事など出来ぬ珍味逸品である。
「なっ。なんとまぁ~~~。豪勢なご食事を・・・。ゾニン様どこから?」
「なぁ~~~にこれくらい。
我が愛しき可憐な幼女様の為ならば個のゾニン。身銭も切ること等動作もない」
ひくひくと口元を歪めながらもそれが本気であるとオリビヤも知っていた。

先程の儀式場で幼き賢者が魅せた其の力の片鱗。
有るものは天使と見間違うほどに美しく姿を変えるが大半は其の真逆であった。
その場にいた者の多く若しくは其のほとんどは化け物とかしていた。
泣きじゃくり自分の乳房に顔を押し付け泣きじゃくる少女を抱きしめていたオリビヤ。
その目の隅の先に宮廷召喚士筆頭・ゾニン様の姿があった。
当然の如くに黒霧風に飲まれたかと思うと其の姿が変わりゆく。
良くも細かくも見えずともゾニンは苦しみあえぐ。
その様は何か空気を求めてるようにも視えたがそれに在らず。
空気以外の物を求め喉を掻きむしる指にはかぎ爪が伸びその間には水かきの膜がはる。
苦しみ床にのたうち回ると人に弐本有るはずの脚が太い尾となりビチビチと床を叩く。
人の身でありながらも半魚となったゾニンは空気の代わりに水を求めた。
だからこそその場で息をすることは出来すに床を跳ねのたうち儀式場の隅に
偶々と用意してあった水瓶に顔を突っ込んでいたのだろう。
一瞬であったはずの黒霧風が過ぎた後にゾニンは真っ先に声を上げその場を仕切ったが
その半身がずぶ濡れであったのは苦しみ喘ぎ水桶を求めた故としれる。
「それにしても確かに見事な食べっぷりであったな。
然し毎回これと成ると少々大事になるかもしれない。
新たに法令でも作って貴族共から巻き上げないと行けないかも知れん。
尤もそれくらいの物は皆も歓んで差し出すに違いない」
たかが少女一人の食事一つと言うのに大げさとも取れるだろうが
ゾニンは本気であった。そしてその法令が実際に発行された後においても
貴族共は歓んでそれを受け入れる。自分達の真の姿を覆い隠す其の為に。

 

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天鼠 蛭姫ノ壱

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