闊歩歩いて屍ノ如く、

「頼もうっ」腹に力を込めて声を張り上げる。
最も個の屋敷の門前に辿り着くまでに随分と長い石坂を登り歩いて来ている。
何しろ個の街の港に先刻に到着したばかりで重い旅行鞄一つを抱え石坂を踏み締めて来てる。
土地勘も無ければこの土地の風習も良く知れぬ上に他の場所で見かける馬車などはなかた。
ぜえぜぇと息を吐きながら長い石道を歩けば時折に、何やら巨人族であろう者の首に跨っている者も
いれば、その大きな背に括られた背負子に座り此方にむかんてからかい半分に手を降って来る輩もいた。
それが馬車と同じ様な人力車とでも言うのだろうか?
勿論、それと知っていれば迷うこと無くあの巨人の首に跨ったろう。
だが其の様な店とか乗り場とかは見つからなかった。
少なくても蛮・鈍椀にはそれらしい店やら乗り場は見つからなかった。
其れに最も巨人族の人力車が其の首に蛮・鈍椀を跨がらせてくれる保証はない。寧ろ無理だろう。
なにせ、異国土地であり蛮・鈍椀は其の土地の支領地支配者で有るからこそ反感を買うに違いない。

「頼もうっ」怒声混じりに声を上げるが言葉尻には覇気が乗らない。
なにせ港から大鞄一つぶら下げ勾配の激しい石街をこれもまた一人登り歩いて来たのだ。
年甲斐もなく、背後ろで腰をぽんぽんと情けなくも拳で叩く。
予め待っていたのは確かだろう。ガラガラと門扉の下で鉄輪が転がり左右に開くと領主館への道が拓く。
最もそこへたどり着くには又、随分と距離もあり又に大鞄を引きずって有るかなければならない。
鉄門を開き開けた者など出迎えは自分の仕事ではないとばかりにさっさと門舎の日陰に引き持ってる。
「やれやれ、此処まで嫌われるてるとはこの先骨が折れそうである・・・」
一人愚痴る蛮・鈍椀は自分一人で引きずるのがやっとの大鞄の取っ手を握りずるずると脚を運んで歩く。

贅を尽くした領主屋敷へと向かう石畳の脇木の枝に白鴉が一羽と止まる。
我が物顔で人が営む市場や街で出てくる食べ物を漁る白鴉にとっても其の目に映るは其れの姿は目新しい。
自分達を忌み嫌う人と輩の鬼には変わりないのであろう。
背丈高さはそこそこ高く、この街に巣食う人の鬼どもとは見た目が違う。
先ずは色だ。街の鬼供が褐色の肌となれば鞄を引きずる奴の色肌は白い。
透き通る程に白ければ褐色肌のやつから見れば化け物に見えるかも知れない。
街の鬼奴よりも背は高いが痩せているから仲間と群れて突き襲えばポキリと骨が折れそうなくらいに
痩せている。やってみたら甲高い声で泣くだろう。面白うだから今度やってみたくも成る。
大きな鞄とやらに何が入ってるかは知らないが大層大事に引いても、中々進まないとなればこそ
彼奴の力がないのだろう。褐色肌の雄と比べれば随分と細く頼りなくも見える。
肌が白いと思えば髪毛も白い。髪毛が白いと思えば着込む衣服も白で染め上げられており
白皮の手袋は兎も角に白い革靴は既にこの街の黄砂にまみれ埃まみれなのも笑えてしまう。
塩風と黄砂が舞い散るこ個の街で上から下まで白い服など着れば汚れて当たり前、相当な馬鹿だろう。
何やら面白い馬鹿がやって来たとばかりに白鴉はカァと吠え鳴き気を揺らして飛び上がる。
今度あったら突いて来がらせてやろうと白い奴の頭上をくるりと回ると又、一声泣いて飛んで去る。

右を見れば華やか裏やかな色園の庭に涼し気な滝をかたどった噴水が水を噴き上げ左を見れば
この街の前領主の石像が蛮・鈍椀をじろりと見渡す。
まるで嫌味とも感じられるが策あっても自分が領主に矢が当たったのは突然であるから到着迄に撤去する
時間もなかったのだろう。もとより領主従者に其の気があったのかと言えばないであろう。
とにかくも荘厳成るも只、長い石床を鞄を引きずりやっとの事で屋敷前にたどり着く。
「嫌味かっ。貴様等、嫌味かっ。そんなに迄して僕が嫌いかっ」
其れも又に優雅荘厳に装飾ゴテゴテの屋敷の門前でずらりずらりと列を作る従者一同の輩に
声届くかそうでないのか、否。聞こえてるんだろう!貴様等と言う様に蛮・鈍椀は声を張り上げる。
当然である。その日其時と其の場所に其の地を収める新しい領主がたどり着くのは至極に承知のはずである。
それなのに先ず、港に迎えがなかった。全く持って一人もである。
港で迷い彷徨く蛮・鈍椀を未だ、其時は領主と知らぬ行商人を捕まえ何とか領主館の場所を聞けば
今度は街の反対側の石坂を一人延々と上り歩く羽目になった。
時に馬車代わりの人車らしき巨人の姿はあっても勝手も分からない。
結果に一人、大鞄を引きづりとぼとぼ歩くしかなかった。
其れなのにである。やっと屋敷に付いたと思えば其処に迎えもこれ又皆無でも又、ひたすら石畳みに脚を
引き釣り歩けばたどり着く領主屋敷の玄関前にて、ずらりずらりと従者共が列を作る。

「御館様。お勤めご苦労さまで御座います。当領主屋敷に御到着成されたこと心から歓迎致します。
本来、私奴一同、港にてお向かえさせて頂く予定でしたが、何分急のお達しで御座いましたし
御顔も良くと解らずでは行き違いに成ってはいけませんと考えましたので此方にてお待ちしておりました。
無礼と思いますが、どうか寛大な御慈悲を恵んでくださいませ」流れる詩のような声で最初に釘を指したのは
其の先長くも鉾を互いに構える相手。若くも美しくも決して嫌味を忘れない従者長のアルフィナである。
「もう、良い。こんなに坂が多い街だとは知らなかった。
とっ、とにかく先にやるべき仕事を熟したい。・・・それから水を一杯所望する」
「畏まりました。・・・・親方様」毅然、憮然とぶっきらぼうに返事を返す主人の後ろをアルフィナがついていく。
此処でやっと大鞄を引きずり持つ事もなくなるかと思えば甘かった。
アルフィナを始め、この屋敷に働く者達は本当に心から新領主蛮・鈍椀の事が嫌いらしい。
水を求めて歩き出す蛮・鈍椀であるが背後を振り返ると自分の鞄がポツンと石畳の上に鎮座していた。
誰も其の鞄を持とうともしない。さっさと自分の持ち場の仕事に戻ろうと足早に散ってちまう。
力自慢の半黒巨人族の女でさえ、長い髪を書き上げてバツ悪そうな仕草を見せるが黙ってそっぽを向く始末である。
結局、蛮・鈍椀は登った階段を降り自分で大鞄の取っ手を両手でつかみ上げ
「畜生っ。なんで僕が、こんな事」と盛大に愚痴をこぼしてあるき出す。

鞄の件は兎も角も。
豪勢な屋敷の階段と廊下を大鞄の埃を絨毯に擦りつけて執務室に入ればやっと一杯の水にありつく。
この時こそはあまりに喉が乾き疲れ切っていた為に忘れてはいたのだが、蛮・鈍椀の立場であれば
先ず最初に口に入れる物と喉を通る水と酒には、特に気をつけるべき事があった。
毒である。自らの立場であればこそに先ず毒殺を警戒すべきである事さえも付かれ果てた蛮・鈍椀は忘れていた。
又、然りに領主交代の書面手続きの間も更に蛮・鈍椀は水杯を掲げお代わりを強請り
アルフィナが黙って水を注ぐと言う小さな攻防であるながらも互いに牽制し合う動作が続く。
何故、其の様な歪み会いがあるのかと言う前に一番に被害を受けるのはアルフィナ以外の従者達である。
皆も確かに蛮・鈍椀と言う白い肌の漢をこの土地の新領主と掲げるのは反対で有るが故に街人と同じように
受け入れはしないが、果さてあの大鞄は結構大きくも埃まみれであった。
それをズルズルと弐階まで引きずられると成れば高価な絨毯に筋傷が刻まれる。
おまけに埃と泥まみれであれば尚更に絨毯の修繕が手間となり仕事が増える。
残業とまでは行かなくてもそれなりの人数が動員され手間が掛かる大仕事には変わりなかった。
結局、それは日常茶飯事の事柄に成り。蛮・鈍椀の一挙一動に逆らえば結果自分達が苦労すると成る。
なんとも歯がゆい職場へと領主屋敷は変わっていく。

「クルル・アルフィナ・ピアン従者長。少し休ませてくれないか?」
「畏まりました。蛮・鈍椀御館様。では、御夕食の準備が出来るまで邪魔にならなきよう手配します。
突然に名前の最初から最後まで全部を呼ばれ驚くが眉を潜めただけで止め同じ様にアルフィナが突き返す。
態々に唖々言えば乞う突き返してくるアルフィナの棘を水と一緒に呑み込むとドサリと背もたれに身を蛮・鈍椀は沈める。
「なんで僕にこんな役回りが回ってきたのだろう。順風満帆に平凡な生活を送っていたと言うのに」
派閥争いの結果にと随分とそんな役回りに当たった蛮・鈍椀。悲しげに手を伸ばす先には貸しも麦酒もなく
只の水を入れて湛えた水瓶だけでもある。
時に見知らぬ土地に来たならば楽しみと成るのが酒と女と食事だろう。
この状況では酒と女の恩恵は棚に上げてしまえばせめて食い物喰らいはうまいご馳走にありつきたい。
確かに領主の館の食堂は広い。蛮・鈍椀一人が食事をするには広すぎる食卓の上に豪華な花飾りと皿が登る。
仰々しくも多少緊張を隠さずに食卓を前の椅子に蛮・鈍椀が尻を沈めるとすかさずアルフィナが進み出て声を掛ける
「御館様。本日は長い旅の末にこの館での最初の御食事となります故。
私奴一同、誠心誠意を込めておもてなしをさせていただきます。当屋敷の最初の食事と成ればこそ。
個の國自慢の蒼宝石蟹の五右衛門茹で御座います。存分にご堪能下さいませ」
これ存分に意気揚々と口上を述べ頭を垂れるアルフィナ。然しその出で立ちは先ほどとも少々違う。
大体の所は同じだろう。黒生地の従者服と真っ白なエプロン。長いであろう髪を丹念に結ってきっちり結ぶ。
気になるのはその衣服の生地が暑いと言う事。何かから身を守る必要が有ると言うのだろうか?
更には厚手の布袋を確りと両手にはめると片手には細くも長い金属の曲がり鋏をも握る。
夕食のはずである。何かから身を守るように態々と固めた出で立ちで饗しを行う必要が又に有るのだろうか?
なにやら嫌な予感に身をひこうとすると向こう扉がバタンと空き配膳の係が入ってくる。三人ほどであるが
此方も随分と厚手の手袋をはめてると思えばその手に銀色の深鍋を握る。
危ないから気をつけていると言うのがわかるほどに慎重な足取りを見せつけられば此方も背筋が凍ってしまう。
「では。御食事の前に手袋をなさって下さいませ。御館様。
では。いざに、蒼宝石蟹の五右衛門茹で御座います。ご堪能下さいませ」
態々大げさにと思えばさもあらん、脇に控える配膳係が抱える銀なべに銀燭鋏を突っ込むと
其れっとばかりに渾身の力を込めて引き上げると今夜の獲物食事をどずんと皿の上にアルフィナが放り置く。
「うわぁ~~~。これが噂に名高い蒼宝石蟹の茹で・・・。って生きてるぞ!此奴動いてるぞ」
確かに此の街、塩海の沿海でのみに深網に掛かる蒼宝石蟹は美しくも又至極にと美味であると聞くが生きている。
生き茹でという言葉があったのを思い出すが時既に遅し。確かに鍋の中で茹でてはあるが半茹でなのか
蒼宝石蟹の生命力が強いのか?皿の腕でゴゾゴソと動き周り大きな鋏を蛮・鈍椀の方に向けガチガチと威嚇してくる。
「どうしろって言うんだ。生きた蟹を食えってどういうことなんだよっ」慌てふためき半べそで吠える。
「御館様、動かないで下さいまし。手元が狂うといけません」
「へっ」と顔を上げると銀燭鋏を持つ手とは反対にアルフィナが握り掲げるのは木製の金槌一本。
「待て、待て。着任早々に頭かち割られるのはひどすぎる。化けて出てるぞっ。鬼従者め」
鬼と呼ばれれば其の物に目を細めてはぎりぎりと構え振り上げた金槌の一撃が振り下ろされる。
「ひぃ~~~。お母さん~~~。仏様~~~」情けなくも悲鳴を上げる蛮・鈍椀の頭上をきちんと避けて
アルフィナの渾身の一撃が堕ちたのは蒼宝石蟹の硬い甲羅である。
「ほら。今で御座います。手袋を嵌めて甲羅を抑えてください。脚を引きちぎってお食べに成って下さいまし!」
「へっ。て、手袋。脚を引きちぎって食べるの?そういう食べ方なの?」
アルフィナが蒼宝石蟹の甲羅を金槌で叩いたのは正にそれである。蒼宝石蟹のは生命力が高い。
塩茹でにしても尚、生きるから甲羅を叩いて気絶させる。気を失った所で脚を引き千切り身を啜る。
其れが蒼宝石蟹のの正しい食べ方であり、この街に済む子供でさえも当たり前に知ることである。
「ずずぅ。あっ。上手い。蟹脚の肉が絶品だ。うわっ、又動いた。未だ生きてるのかよ」
正気を取り戻した蒼宝石蟹のが脚を食われたとばかりに激怒し鋏を広げ威嚇してくる。
慌てて身を捩る蛮・鈍椀の眼前を一閃の風が奔り金槌がゴツンと蒼宝石蟹の甲羅を叩けばピクリと黙る。
そこがつけ目と慌てるも蛮・鈍椀が脚を千切もぎ、蟹脚の肉を啜って喰らう。
それは、当方の國で行わる神事にも似た光景である。
蒼宝石蟹が脚を取られたとばかりに激怒し鋏を振り上げて蛮・鈍椀の指を挟もうとすれば
渾身の力を込めたアルフィナの金槌が旋風巻いて振り下ろされる度に蛮・鈍椀は慌てて身を引き避ける。
ゴツンと音が響いて蒼宝石蟹が失神すれば急いで脚をちぎって脚肉を啜る。
「上手いだけど。アルフィナ・・・アルフィナ殿。ちょっと渾身過ぎない?
親の形見みたいに腕力任せに金槌落ちてくるんだけど。間違って僕の頭に堕ちて来ない?」
「大丈夫で御座います。私奴、弓の心得がございますから的は外しません。
其れより次の蟹が茹で上がりますから。甲羅を割って中の味噌を啜ってくださいまし。御主人様」
「これ?此処わるの?おおっ、ばきって言った。中身結構グロいな。味噌ってこれか・・脳みそじゃん。
うぐ・・・ずずずずのず。あっ。上手い。濃厚な味だ。うんうん。弓の心得ってすごいね。アルフィナちゃん
ぼっ僕の脳天狙ってないよね?其時は的外してね。お願いします。・・・・ずずずっ」
言われた通りに割った甲羅の味噌を啜ると感嘆の声があがるが同時にアルフィナが握る金槌が怖くてしょうがない。
蒼宝石蟹の脚肉と味噌に舌太鼓を打ちながらも金槌が振り下ろされる度にびくりと身が縮む蛮・鈍椀であった。

まるで東方の御國の催事の様な食事を身を縮めながら取りあれず堪能すれば次は風呂であろう。
「遠方からの長旅となれば、塩埃も付いていらしゃるでしょう。
此処は一番風呂とお背中を流させて頂きます」
やっと一人になれるかと思えば蛮・鈍椀の前にこれ又に特殊な出で立ちのメイド達が前にずらりと並ぶ。
「いや、僕の奥には風呂と言う習慣ないから。結構です。軽く庭先で行水すればいいから」
「ぎょ、行水?果て聞き慣れない言葉で御座いますが、此の國。この地の領主様と成れば慣例に従って頂きます。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、郷に入っては郷に従え、武士は食わねど高楊枝。据え膳食わねば雌の恥でございます
いざ、圧して参るで御座います。。じゃがいも丸洗いの刑担当第参メイド隊。前えっ」
号令たくましくもアルフィナな吠えて白い笛を何処からか取り出しピピぃと息を吹き込む。
「じゃっ。じゃがいも丸洗いの刑って何?まさか丸洗いされるのか?僕?
そっ、其れは嫌。お風呂嫌いなの。大嫌いなの?」
自分の身に何か起きるかと悟と蛮・鈍椀は慌てて走り逃げる。逃げ足と女癖が悪いのが得意技でもある。
「あっ。こら。待ちなさい。其処は危ないですから。窓から離れなさい。御館様」
思いのか素早く動きで逃げ出そうとする蛮・鈍椀の首根っこをむんずとばかりに褐色の大きな手が掴む。
「なんだ。君は!随分背が高いな。其れに乳もでかいな。けっけしからん。
否。そうじゃやなくって離せ。離し給え。ぼっボクは領主だぞ。あっ。可愛い顔じゃん。
背がでかいけど肉付きも良ければ器量も良しとくればこそ、今度手合わせなど。だから離し給え」
褐色の手で蛮・鈍椀の首根っこを掴んで持ち上げるのは背も高く肉付きも良い半黒巨人族の雌女性である。
眉を寄せて黙っているが器量良しと褒められたのが少し嬉しそうでも有るが、否にだからと言って慈悲はなかった。
首根っこを掴まれ宙に浮いたままジタバタと手をばた付かせるも其れ以外に何もできなままに背の高い半黒巨人の雌に
廊下迄連れ出されると蛮・鈍椀の体を幾つもの手が弄ってくる。
はじめは靴の紐が解かれるたと思うとすぐに次の誰かが靴を逃がす。
栗色のお下げ髪のメイドがうんしょとばかりに背伸びして腰の革ベルトの金具をかちゃりと外すと
待ってましたとばかりに次のメイドがズボンの裾をズルリと引張り脱がす。
「そっ。其処は駄目。そこは駄目だってば。褌だから。ふ・ん・ど・し!
見えちゃうから。観ちゃ駄目だから。イヤン。ひっぱちゃだめ。引っ張らないでっ」
ジタバタと何とか抵抗するも幾つもの可愛い手が伸びてくれば全部は貼らない。
抵抗虚しく漢児の嗜みの一枚が剥ぎ取られると宙に浮いたまま情けなくも膝を曲げおり何とか隠そうとする。
「おっ。お風呂嫌いなの。お風呂はっ。汚れてないから。ボクよごれてないから。
其処っ。嘲笑わない。指さして嘲笑っちゃ駄目でしょ?格好悪くでも僕、領主なの。お風呂は勘弁してん」
騒ぎ立てる領主主人の気持ちだど具の骨頂と嘲笑うもあいたてでひときわ大きな扉を巨人の雌が開け放つ。
濛々と湯気が上がれば其処は領地一番の大きさを誇る大浴場。
さすがに豪勢な作りで有るが目を見張るは其処にに控えるじゃがいも丸洗いの刑担当、第参メイド隊の面々達。
以外に年端の行かない者が多いようであるが手にするモップは何を意味するかと効くのは愚問。
「待って?あのモップは何?みんな可愛いお嬢ちゃんだけど、水着ポイメイド服はない?
僕っ。一人でもお風呂入れるから。其処。石鹸泡立てなくていいから。行水でいいから。ねっねっ」
宙吊りの儘、健闘むなしくも騒ぐも我知らずとばかりに巨人の雌が勢い良くも腕を振り上げ
あろうことかと自分の主人で有る恥ずの蛮・鈍椀を大風呂磨けて放り投げる。
「あれぇ~~~~」と悲鳴が上がるとどっぷ~~~んと湯面に飛沫が挙がる。
「ぶはっ。何するんだよ。溺れるだろ?泳ぎは苦手なんってばっ」
大風呂であっても風呂であればそこまでは深くはない。
何とか這い上がり濡れた上着を剥ぎ取ろうと暴れる其の好きに又、ぴぃ~~と笛が成る。
「じゃがいも丸洗いの刑担当、第参メイド隊。かかりなさい!突撃ぃ~~」アルフィナが笛を拭いて吠える。
「突撃~~~。わぁ~~~~~い」
「御館様のおへそみっけ!意外と丸いの。可愛い」
「此処はいかがです?感じちゃいますか?気持ちいいですか?お腹周り!」
「ゴシゴシ・・・ゴシゴシ・・・ゴシゴシ・・・ゴシゴシ・・・ゴシゴシ・・・」
「そっ、そこは駄目。いやん。元気に・・・そこは脇の下。痛いからこすり過ぎだから。
可愛い顔して。其のブラシ金属製だろ!痛い。痛い。痛い。ブラシは馬の毛で作れよ。
耳引っ張らないでいいから!。そこは感じないから。だめ、敏感な所、金属ブラシで擦っちゃ駄目」
「ゴシゴシ・・・ゴシゴシ・・・ゴシゴシ・・・ゴシゴシ・・・ゴシゴシ・・・御館様・・おへそ可愛い!」
「此処なんてどうです。此処に指なんて入れてみたり。あとこの辺もどうですか?感じるでしょ。この変態領主」
「いやん、そこは僕のおへそだから。ほじくるなっ。へその胡麻ほじくろうとするな。
誰が変態だ。領主の体金属ブラシで擦り上げるほうがよっぽど変態であろうが、この変態少女メイド部隊め」
ああ言えばこうなるとばかりに少女達の可愛い手が蛮・鈍椀の四肢を余す事無く擦り上げて行く。
多少成りとも敏感なところであってもお構いなくとばかりにブラシの先で擦り上げられば堪らずであるが
なにせ相手は年端の行かぬ少女達であれば理性と野生が激しくも打つかりなんとか耐えるがくすぐったくて堪らずも
金属のブラシの先で肌をこすられれば痛みが奔る。
「こっ、これがじゃやがいも丸洗いの刑。僕はじゃがいもだったんだ・・・・。おっ、恐るべし第参メイド少女隊」
やっと、やっとの事で第参メイド隊の魔の手から逃れ何とか風呂から上がろうとする。
さすがに体力を奪われフラフラと湯船から上がろうと試みるが足元がおぼつかない。
これは少々やりすぎではないかと例の半黒巨人族の雌が手をかそうと伸ばすが不運は重なる。
偶然にもじゃがいも丸洗いの刑で飛び散った石鹸の泡が湯床に屯貯まれば当然に滑りやすい
蛮・鈍椀の左足が滑る石鹸泡の上に乗るとつるりと滑る。
「とっ、とっ、とっ、とっ・・・・」どっかの演劇舞台の道化師の様に手をばたつかせるも大げさに体制が崩れると
ざっぱぁ~~~んっと大きく音と一緒に湯飛沫が挙がって蛮・鈍椀は湯船にしずむ。
「ぷはっ。膝にきてる。僕も齢か?未だ、若いのに・・・」
思い切り湯船に転倒し藻掻いて顔を出した所にぴ~~~っと小笛の音が鳴り響く。
「お代わりですね!。御館様!。第参メイド少女隊突撃~~~」
「きゃ~~~。御館様のスケベ。変態っ」
「まて、待て、誰が増え吹いた。変態は僕じゃないぞ。やめろ。大事な所をブラシで擦るな。
剥けるだろ。色々向けちゃうだろう。ずる剥けに成っちゃうだろ。変態メイド少女隊目、たっ助けて」
「好きな癖に。嫌も嫌よももっとやってもっとしてのお強請りですっ」
「ちっ、違う。違うから。こら、そこは駄目ぇ~。お腹に顔書くな。尻に落書きするな、変態供めっ」
その日弐度もじゃがいも丸洗いの刑が執行される羽目に成ったがそれを仕切るメイド長アルフィナの責任ではないだろう。
基、確かに二度目の笛に息を吹き込みはしたが悪気があったわけではない。
蛮・鈍椀が滑る泡床に脚を載せて大根役者の如く滑稽に踊り湯船に勝手に堕ちた時
アルフィナの意識の中では不味いと思って手を貸すべきだとは思ったが時既に遅しであった。
湯飛沫を上げて湯船に転がる蛮・鈍椀を心配したのも事実である。
否然し、それも又、偶然にも口には小笛を加えたままであり吐いた息が笛の中を勢い良く通る。
良く訓練された変態メイド少女隊にとって笛音は突撃開始の合図であり下知を得たとばかりに
目の前の獲物に向かって突撃するのは当たり前である。彼女等に罪がなければ偶然に小笛に息を通す
アルフィナもバツが悪いと言えばそうであるが、何より不運不幸を被ったのは蛮・鈍椀で有るのは確かである。

「御館様・・・。御夜伽はどうなさいましょう?寝酒は・・・?」
ジャガイモ丸洗いの刑を弐回も執行されれば蛮・鈍椀でもたまらない。
とぼとぼと脚を引きずるも何とか手をひらひらと振り、そんな体力一滴も残っておらんと
中年の危機を迎える漢の用に精一杯に哀愁を背中にかも出して断ってくる。
少々やりすぎではあるかもやと本のちょっと反省するも置きた事はしょうがないと肩をすくめるアルフィナでもある。

「これはどうやって食べるんだ?アルフィナメイド長殿・・・」
昨夜のじゃがいも丸洗いの刑2連戦にも関わらず翌朝の蛮・鈍椀は元気そうである。
長旅でしつこくもまとわりついた旅埃も塩海特有の生臭さもすっかり消えてはいるのだろう。
其の翌日の朝の朝食。やはり一日の活力は朝飯にこそ大事とばかりに楽しみにする蛮・鈍椀の食卓の上に
出されるたのは少し大きめの皿一枚である。
皿の上には何やら薄く切りった動物の薄肉が一枚乗っているだけである。
それから何やら真四角とは言わずも其の形に近いさくらんぼらしき果実が一粒。
その他に食卓の上に乗るのは盆にもつけられたとにかく甘い香りのする華笊。
極薄に切られた肉切れは半分燻製された物に見えるからおそらくは故郷で言う低唱か其れに近いでのであろう。
其の一枚の低唱と四角いサクランボもどき一個。それがその日の朝食と言う事らしい。
「こっ。これだけ?朝ごはんってこれだけ?白米は?塩鮭焼きは?味噌汁は?お箸もないよ?
どうやって食べるの?ちょっと、其れくらいしてくてる?お水に角砂糖入れなくていいから?麦茶ないの?」
蛮・鈍椀にとって異国の食べ物で有るからその作法も知らないが、喉を潤す水にもころんころんと角砂糖が落とされる。
「郷にいれば郷に従えで・・・。何分朝は忙しくもありますが私共の生活の基礎は優雅さにあります。
朝食こそ、その極みで御座いますから・・・。そこの刺し串を使って燻製低唱の真ん中に四角サクランボを置いてから
低唱の隅から畳んで華を組み上げて包み頂くのがこの地の習わしで御座います。御館様」
淀みなくもうららかにメイド長アルフィナが顎をくいっと上げ自慢気に応えを返す。
「個の國の習慣は勉強したけど。少しはさ。こんなのなかったぞ?
えっと。真ん中にサクランボを置いて・・・。刺し串って難しい。え?刺しちゃ駄目なの?
二本の串でサクランボを持ち上げて・・・無理だって。手の方がはやいよ?」
故郷之御國であれば二本一組の箸を使うが此処では違うらしい。そこそこに短い折れそうな刺し串を左右の手に
それぞれ一本づつ握りしめサクランボのへた茎を挟んで持ち上げ低唱の上に置けと言うのだ。
刺し串なんて使った事ないし当然に苦労する。細いサクランボのへた茎を持ち上げるなんて至難の技である。
当然、五回も六回も失敗すれば蛮・鈍椀の眉も自然と睨み寄ってくる。
何とか低唱の真ん中当たりにもってこれたが、次も未だ面倒だ。
二本の刺し串を駆使して低唱を畳んで観るが当然の如く華の様に綺麗にはならない。
畳んで綴じては又開きを此方も五回程繰り返し、7度目に何とかサクランボを包む事ができたが当然に華などに
見えるはずもなく、道端に転がる薄切り低唱の塊でしかない。
それでも頂きます!と個の國にはない食前の口上と祈りを捧げ口に運ぶが・・・。
甘い・・・。とてつもなく甘い。
大体にして燻製低唱から噛み出る汁が甘く量も多い。肉汁が甘いと言えば四角サクランボはもっと甘い。
果肉から漏れ出る果汁は口の中に残る低唱の甘さと何重にも重なりものすごく甘くも甘すぎる。
慌てて水で流し込もうと杯を煽れば当然の如く、此方も角砂糖がゴロゴロと入ってるからやっぱり甘い。
「げふっ、げふっ、こんな甘い朝食は初めてだ。無理、こんなの無理だっ」ゴホゴホとむせ返る蛮・鈍椀。
「あっ。サクランボの種は吐き出して下さい。御館様。
朝のサクランボの種を飲み込んでしまうとその日壱日、厄災が降りかかると言い伝えがございますので」
「それ?今言う?思い切り飲み込んじゃったよ?今日一日厄災塗れが確定じゃん。僕」
喉とその奥にべとつく甘さに辟易しながらもその日起こるだろう厄災に打ちのめされて蛮・鈍椀は項垂れる。

個の國、この港ま街に生を営む街人立ちの大半の者は個の地で生まれ育つから特徴的な物も似てる。
一つ上げれば肌の色であろう。他の地域の者よりも多少成りともその色は浅黒い。
真っ黒と言うのではないし褐色に近い。他の地からくれば最初こそ気になるであろうがさすぐに皆馴染むし
一日の労働で汗でも掛けばしっとりと輝き艶が乗るその肌に引かれる輩も数知れずである。
だが然し、蛮・鈍椀の其の肌は白い。雪の様に白くも好き好んで着込む衣服も白である。
言ってしまえば白銀の髪と眉、四肢の色も白ければ着込む外套も白。白兎の皮をなめした手袋を常に嵌め
白生地のボトムズと白鰐の皮の靴となれば正に雪色白一色であるが、これもまたかぜが強くも寒い日となれば
二本尾狐のマフラーを巻いて凍え寒むそうに脚を引き釣り歩けば御白の領主様とやがてに呼ばれる。
肌の色も出で立ちが違うのも当然の如く、この地に外からやって来た異邦人であり事情ありきで逃げ出した
全領主の後釜でもある。これも又然り、この街に性を営む住民にとって異邦人であり忌むべき輩でもある。
「この領収様は・・・やはり」とメイド長アルフィナも眉を顰め怪訝に声と漏らしたのは来訪しても
それほど日も過ぎぬ時期である。
「まず、この地の囚人で大罪を成した者。既に死する刑が確定し施行日を待ってる者。
その者の処刑を速やかに行うように。期限は一週間後・・・。刑の種類は見せしめも兼ねて串刺しが良いでしょう」
「そっそれは。一週間後に死する刑が決まっている者の刑を一週間後に実行しろと言う事でしょうか?」
「そう言いましたよ。それから罪に対する罰則をも強化します。又、市民に対しての税制も変更します」
「お待ち下さい。死せる刑を処遇を待つ者は確か二百と数えるかと?それを一週間後に?見せしめで御座いますか?」
風通しの良いテラスで新領主の蛮・鈍椀に会談を求められた祭事家執行管は面食らう。
確かに重罪であり、確かに他人を殺め死せるべき刑が決まった者であっても大抵の場合は恩情と慈悲を与えて
出来るだけ引き伸ばすのが子の街のやり方である。罪人、咎人にも人権はあると言う考えかたであり
刑が決まっても本当に実行されるまでに十年や二十年。中には齢を重ねて病でも患えば恩赦が与えられる事も多い。
「それでは・・あまりにも酷いのでは?わずか一週間後に処刑されると知れば。串刺しとは酷すぎます。」
「今まではそれがどうだったかと言うのは関係ありません。
既に極刑と決まった者達に態々、御金を掛けてご飯を食べさせる必要が有るのですか?
其れに・・・愛する人を殺されたのにその咎人は例え牢屋の中でも生を満喫出来ると言うのはおかしくないいですか?
家族を失った人の恨み辛みをどう晴らせと言うのですか?咎人にも人権が有ると吠えるのは貴方の身に起こってないからです。
貴方の娘さんが強姦され殺されたとしたら、貴方は咎人を許せるですか?・・・実験してみますか?」
そこそこに若いと見える確かに自分よりも若い新しい領主はコツコツと靴音を鳴らし近づき
態々と質素でも質の高そうな銀縁眼鏡の縁とクイと押上げ執行管の顔を覗き込む。
嫌味たらしくも正論でもある。しかも実験してみると言ったのも本気だろう。
白服の若い領主はこれ以上御託を並べるなら執行管の娘を犯し殺害に至って魅せると言い捨てる。
それでも咎人を許す事ができるかどうかを実験すると言うのだ。
所謂この街の仕来りや風潮などどこ知らず咎人供を一週間後に死せる刑にしなければ自分の娘も殺されるのかも知れない。
「おっ。おっしゃるとおりで御座います。
たっ但し。一週間後に二百を超える咎人を串刺しにするのは時間も材料も足りません。何とかお時間を頂けないでしょうか?」
別に逆らうつもりではなく。只、役人として成すべき仕事の量に対し完遂するには時間が必要と考えたのだ。
「ふむ、成る程。準備に時間が掛かると言うのですね。決してやらないと言うわけではないと。
では、こうしましょう。最初の一週間後に弐十名を串刺しにします。其の次の一週間後の三十名。
残りは順次で宜しいでしょう。出来るだけ早く処理すると約束するなら形式はこだわりませんよ・・・僕は」
「あっ。有難う御座います。領主様」思わずでた言葉であるが、蛮・鈍椀は其れをも嫌悪する。
「仕事とは言え、仮にも人を殺す噺しなのですよ?感謝の言葉など漏らしては成りません。
人を殺めた輩ととは母股から出てきた時からでは有りません。尊厳と威厳と正義の上に罰を与えて下さい」
「失礼しました・・・。尊厳と威厳と正義・・・。でっ、では其の次の案件は・・・」
蛮・鈍椀が口吐き捨てた言葉を納得行かずも胸の中に染み込ませ顔をあげる執行管は直ぐに唇を噛む。

本日から一週間後、死せるべき刑が確定しその順番を待つ者達に対し刑の実行を順次執行する
又、本日より殺人等の大罪を犯し死せるべき刑が確定した場合、猶予無く一週間後に必ず刑の執行を行う。
次に又、現在の刑法を変更し罪事に対する刑罰を引き上げ厳罰化する。
例として
右手で盗みを働いた者、右手の切断。
左手で人を殴り怪我をさせた者、左手の切断。
口で災い導き人を騙した者、細針金にて口縫い。
その他、行った罪と同等の罰を処するものとする。


領主蛮・鈍椀と祭事執行管の会談の二日後に告知が行われる。
もっともそれは罰刑の厳罰化に留まるはずもなく。
担当の執行管が呼びされる度に人々の営みに制限が加えられて行く。
時に刑の厳罰化は賛成反対の論議有れど、皆一同に声を上げ吠えるのが税の増加である。
交易港で有ることも幸いと庶民の税はある程度免じられてきた。
其れを新しい領主とやらは完全に撤廃し新たな税制を祭事の要とする。
何を考えているか知れずも、何故この時期に無理に税を上げると言うのもいざ知らず。
まるで庶民に嫌われるのを楽しんでいるかの様な雰囲気さえ若い領主には観て取れる。

「今の時期にお出かけに成るの差し控えたほうが・・・せめて護衛をおつけに」
「いや、いらないよ。出かける必要はあるしね。その代わり着替えを用意してくれたまえ」
今や世間に響く白服の領主の噂を心からではもなく一応の建前と心配してアルフィナが蛮・鈍椀に告げる。
先の執行管に言いつけ実行された刑罰の厳罰化にとその処刑は既に三分の一の数が執行されている。
お役所仕事では有るゆえにも蛮・鈍椀の言いつけに必死に手はずを整えた執行管の努力の賜物であるが
これも又、よく思わない輩も多かった。それこそ殺人の被害者にとっては積年の恨みを晴らすことになったが
もっと長く生きられたはずの咎人達の家族はやりきれない。其の父親が咎人であったも父は父である。
死を持って償うべきと理解はしていてもその日を堺に失ってしまうのは、幼い子には辛すぎる。
罪人であっても生きていてくれさえすればとの思いがあればこそ、憎しみの矛先は蛮・鈍椀に剥けられる。
税の徴収にも同じ様な苦しみが積み上がる。正確には少々違いがあるのであるが見得づらいといえばそうであろう。
蛮・鈍椀は細かい税制を其れこそ細かく分析し、それぞれに個々に掛かる部分を撤廃してもいる。
その代わり家一件当たりの大きさや其処に住まう人数から割り出した家税と言う形の物を施行した。
金槌で叩いて平たく言えば、寝床も住処も無いものはその税を免除する。
それに対して住む家が大きくなればその分多く税金が掛かる。これは金持ちであれば有るほど住む家が
大きき成るから彼等こそ税の負担が多くなる。其れ以外にも物を買う度にも税が掛かるから
大きな買い物をすればするほど払う税金は多くなる。庶民然り生活を意図営み夕飯の材料を変えば税かかり
金持ちが強欲に観えをはり金を仕えば、又税金が掛かる。
どちらにしても何にしても街人には税の負担が重くのしかかってくる。

一応で有るにしろ其の表情は確かに心配であると言うアルフィナの苦言をも厭わずも蛮・鈍椀は
専用の馬車にも乗らず街へと繰り出す。
頭から革靴の先まで白装束一辺倒であり、街人の其れより背が高いと成れば直ぐに其れが
白服の新領主蛮・鈍椀その人とわかり知れる。雑踏黒頭屯する石畳の坂をコツコツと歩けば
否応なしに人並みが割れる。極に自然と蛮・鈍椀の行く手は人頭が消えて避け道が開ける。
親の敵とは言えずとも日々の生活を圧迫る愚祭事を執行した張本人が歯視界に入れば皆に顔を顰めて睨む。
慣れているとでも言うのだろうか?それとも気にしてないとでも言うのか?否に恐らくは予測しているのだろう。
戦の果てにこの街の前任の領主殿を追放し満まと領主の座に座った異国の若造。
悪行悪事の刑罰を厳罰化したお陰で少しは治安が良くなったと観えても、其のために未だ生きられた咎人を
残虐非道に処刑し続けている。其れが週末に行われるとも決まられているから仕事休みの休日に
街をぐるりと囲う街壁の上に拾も弐拾も木杭に貫かれた遺骸がずらり並ぶ様を魅せつけられるのは気が滅入る。




置字


「不義を働きました・・・」

どうしても言わねばならぬ事と心に決めても尚、実際に口にする迄3日の刻が必要だった。
「っと、今言うことか?アルフィナメイド長。優雅に手早く済ますべき朝食時に告げる事じゃないだろう?
河豚じゃないのか?・・・不義?。結婚してたのか?さもあらん。だからどうした?
不義で有るなら身を捧げた夫に足してだろ?僕に言われても困るぞ」
此処で言わねば、いつ言えば良いのかと随分と悩み尽くしてアルフィナは蛮・鈍椀と密かに話せる個の時を選んだつもりである。
「結婚はしております。確かに尽くすべき夫はおりますが先んじて領主様に仕える身の上で御座います。
その・・・先の御祭りにて・・・私奴も、楽しませて頂きました・・・」
恥じるべき事であり憚るべき事で有ると重々知りながらもあの漢の巧みな話術と気の緩みが災いし身を情けなくも身を許した。
「別に良いだろう?夫に操を立てれども仕える主人が求めえば身を預けるのも従者の仕事との一つであろうし
其の時の主人が彼の者であれば其れが正しいのではないか?其れに君自身も楽しめたらなら其れで良いんじゃないか?
好きで堪らず思わずほの字だったのは前から知ってるし、何より僕は嫌われ者の厄介者だからな。
もう、食べて良いかな?御腹すいてるんだよね。僕」本当に興味なさそうに蛮・鈍椀が皿の上の低唱を指さして言い捨てる。
「どっ、どうぞ。お食べに成ってくださいませ。御館様。
然し、不義で御座います。私奴のしたことは不義であり本来なら罰も・・・」そこまで言いかけてアルフィナは言葉尻を呑み込む。
あの御祭りの前までは刺し串の扱い所か四角サクランボを低唱で包んで華に見立てて属するなんて出来なかったし
5回も7回も失敗した挙げ句、その味の甘さに辟易してむせぶのを無理やり我慢してやっと飲み込んでいたくせに
どこかの誰かに習ったのだろうか。くるくると器用に刺し串を使うと思えば燻製低唱を畳んでしまえば庭園に咲く薔薇の如く
美しくも流れる動作で口に運び音も少なく咀嚼しあまつさえ角砂糖の転がる甘い水さえゴクリと飲み干す。
「まぁ~~~。不義を働いたと言うなら夫に言えば良いんじゃないか?
一度の迷い心と彼も許してくれるに違いない。まっ。僕には関係ないな。美味かったよ。御馳走様」
確かに苦言では有るが、寧ろそれは楽しい朝食をつまらぬ戯言で邪魔されたと言うのが正解であろう。
個の街、個の土地の領主に仕える従者で有る者が、他の誰に寝取られようが其れが自分に忠義を尽くすべき者であっても
果さてそれがどうしたとばかりに苛立ちに顔を曇らせるだけの蛮・鈍椀である。

其の朝以来、アルフィナは自分の主人たるべき蛮・鈍椀との間に距離を感じる様になる。
正確には蛮・鈍椀自身が提言したあの御祭りの後と言うべきだろう。
例え、ぐちゃぐちゃに絡み私怨怨念違えるとも最低限の糸絆はあったはずであるがその糸がきれた。
不義を犯した自分だけへの者で有ると考えたがどうやら違うようである。ともに世話をする他の従者達も陰口とも
文句とも言わずとも挙げ句にはと平々淡々と鉄面皮の様な態度を崩さな無く成ったと報告が上がってくる。

天鼠蛭姫

天鼠蛭姫

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