The Blood SucksPurple-red rose

病と言うものは自分が本当に患って見なければわからない。
屍肢病・・・。
スッツシンカーは屍肢病を患ってすでに十年といくつかの冬を巡っている。
ある意味、治る事もないであろう病を患って月日がながければそれと長く付き合っている。
その病は随分と特徴の強い病である。以外にもその致死率は低い。
だがそれでも人々輩は屍肢病を皮膚毒恐れる。
はじめにその病がどこで発生し誰がかかったのは今では分からない。
おそらくは街の外に救う魔物共が原因であろうとも言われているが、又に気が早い錬金術師が間違って
合成した産物であろうとも言われている。
ともあれ屍肢病の症状を明記するならば以外も単純でもある。
その病を患う四肢の水分が抜けて行く。外見が大きく変わるのは人々輩にとっては恐怖だ。
得に女性はそうだろう。体の水分が抜けて肌がシワシワになってしまえば実際の年齢が若くても
周りから見れば老人にしか過ぎないだろうし、それで住めば良いほうだ。
四肢の水分が抜け皺くちゃになるだけならいいが病が進行していけばミイラの様に見える。
世に言う屍人である。
一度屍人となるまで病を進行させてしまうと元に戻る事はほとんど出来ないだろう。
「あれほど辛かったことはない。
話すことさえままらないのに餓えだけは止まらない。二度とああはなりたくないものである」
スッツシンカーは苦渋を舐めつつも振り返るが逆に三度の屍人化から復帰してる人物でもある。
これは極めて異例の事である。通例であれば屍人化からの復帰は非常に困難でもある。
最もだからと言って他の人々と同じ生活を営めているかと言えばそうではないし
やはり病人で有る事は変わりない。

その屍肢病の症状はともかく治療法とはなんぞやとなれば、これも又、厄介でもある。
四肢の水分が抜け肌が皺くちゃになるの屍肢病の症状の一つにしか過ぎず
最大の厄災は内蔵が変容してしまうことである。単純に言えば腸や体質が大きく変容する。
それまで人々輩のそれとして食べられていた物が食べられなくなる。
一杯の水さえ毒を飲むような激痛が走れば贅を尽くした食材等を見ても吐き気に襲われる。
では屍肢病を患った者達がなにを栄養分としているかとなれば血液である。
動物や魔物。それに人と言う動物の体内に流れる血液である。
人々輩も動物や魔物の肉を食べるのは常であるから屍肢病の患者が動物等の血液を栄養分とするのは
不思議な事ではないだろう。
最も病にかかり姿が変容し腸が変質したとしても口に牙が生えてくるわけではない。
だから獲物とかに襲いかかりその首筋から血を啜るとかは全く持ってできるはずもないのである。
何より彼らは病人である。人や魔物に襲いかかる体力も気力など全くもってないのが当たり前である。
運良く血液を手に入れる事が出来たとしても次の壁にぶつかる。
意外な事に血液を栄養源とする割に屍肢病の病原体は血液を受けにくい。
皺くちゃ屍肢病の患者であっても元々は人間であるからその構造上、液体状の血液は口から
喉を通って胃袋の落ちていく。
否然し屍肢病の患者は喉の筋肉が変容しその肉壁も薄い。しかも変容の影響で神経が脆くもある。
そこに血液を流し込むを異常なまでに反応し患者には激痛を与える。
つまりは只でさえ過酷な状態の患者は生き残るために自分の体に負担を強いて血液を胃に落とすのだ。
然し、屍肢病を患う患者にとっては違っても世情から見れば極に小さな事でもあり
最近までその病、屍肢病については大体的と言うまでには研究も進んではおらず
これと言って決定だと言うほどの治療法はみつかってはいない。
屍肢病の患者もそれほどに目を瞠るほどに多くはないと言うのも現状でもあるからだ。

その状況の中でスッツシンカー・ゲドニィルム・スンヌは屍肢病から立ち直った人物である。
尤も医者が直してくれたわけでもないし。完治とまでは到底に行かない。
屍人までに悪化してないと言うだけである。当然に口にする食べ物も人々連とも大きく違う。
それでも杖を突いても自分の脚でなんとか立ち、歩みが遅くても歩いて魅せるのは脅威であろう。
では、どうやってそこまで立ちなおったのだろうか?
曰くに唯一。
「自分の四肢を生贄にして実験を繰り返した末の結果である。
あのやぶ医者め。いつか括り殺してやりたいが、巨乳なのがけしからん」
実際の年齢よりも年かさな話仕方をするのは闘病生活と自分の体を生贄とした結果でもあろう。
十年といくつかの冬を巡る最初の二年。
自分は降り掛かって来ないだろうと高をくくっていた矢先に倒れ運びこまれた病院で
あれこれと検査の果に屍肢病を宣告された。
当時はその症例が報告されたばかりで医学世界でも認知度も低く治療法等皆無でもあった。
唯一生き残るためには血液を栄養源とする必要があるがそれもままならない。
普通に喉に血液を流しこめば喉が焼ける。痛みに耐えかねて咽れば血が弾け飛ぶ。
一度その喉を通った血は酸化してしまい毒液の如くに口の中をも跳ねて焼き尽くす。
生きるために激痛を味わいながらも運良く喉を落ちた僅かな血液の栄養で日々を生きるのが精一杯だった。
もちろんそうならないような処置もあった。単純である。
腹に穴を開けチューブを胃袋にチューブを差し埋める。
同胞突き出たチューブの先には漏斗を取り付ける事が出来、そこに血液を垂らすとチューブを通って
血液は無事にスッツシンカーの胃腹に収まる。
楽には楽であるが随分を情けない。一生黄色いチューブを腹に括って生きていかなければならないかと
思えば随分と情けない思いをしたものである。思い出したくもないだろう。

人々が朝と夜に愛を営む大規模な街よりも商い馬車で二日と半日と更に数刻。
その建物が居を構える街からでも結局、馬でも使わないと脚が棒にもなるだろう丘の上に
それなりに大きな教会がある。
ケバ・トリグンはその教会の庭師である。尤も今は教会の役目半分、残りの半分は例の屍肢病の治療を
担う一種の治療院と言う所である。
ケバ・トリグンは治療院で働くようになって結構な年月が立ってもいるし、当時は感謝の念を胸に宿し
与えられた仕事に向き合って来て居たが、最近はそれも薄れても来ている。
災いも喉元をすぎれば忘れてしまう。確かにあの頃は辛くもあり屍肢病の治療を施してくれた
治療院には感謝の念を忘れる事は出来ない。優に十年を病との付き合いのスッツシンカーから見れば
随分と甘えた物であると嘲笑われるかもしれないがゲバに与えられた薬と治療法が肌に合うのだろう。
得にここ半年は体の調子も良いから他の人々輩ともほとんど変わらない生活を送る事が出来ている。
不便だと言えば人々輩が食す火を通した肉が喉を通らない事くらいだ。やはり変質してしまった腸には
人々輩が食らう料理だけは受け付けないらしい。
朝叫猫が甲高い声で泣き始めて数分足ればゲバは寝床から起き出し前夜に花から絞り取った朝食を喉の流し込む。
それは桶に氷を蓄え水筒を埋めてあるからこそにその液体は冷たくも甘くも少々にと苦味もあるが
サラサラと喉の中を通り落ち腸にしみると言えば至福のときであろう。
「これで人の・・・いや、獣の腸でもあれば最高なんだがなぁ~~~」
かつての味わった事のあるそれを自分の舌が欲しがるのを抑え込み軽く身支度を整えて仕事場へと向かう。
ゲバは屍肢病を患い屍人に墜ちた事がある。それ故に人々輩に許されざる所業を働いた事もある。
生きるために仕方が無いと言っても傍から見ればやはり悪鬼の如くでもある。
許されざる事では今でもあるからゲバは今でも街には戻らずに教会治療院の庭師として営みを続けている。
「お早う御座います。ケバ・トリグン様。今日もセが出る事ですわね」
手に採取用の桶の取っ手を握り、まだ日が昇りきって無いから窓からさす陽も温い廊下を歩けばその背に声がかかる。
涼やかにも色欲が交じる声の主は態とらしささえも感じられる。尤もゲバの思い過ごしかもしれないが。
「お、お早う御座います。アリューヌ修道婦様。何せ、仕事ですからね。
夜露に濡れて花も十分に血を吸い上げているでしょう。陽が高くなる前に摘み取ってしまわないと
味も質も墜ちてしまいますからね」互いに良くわかってる事を口にするのは気恥ずかしい。
何より自分とアリューヌの関係を絡めれば余計にわざとらしくも聞こえてしまう。
「そうですわね。私達にとっては花雫はまさに命で御座いますもの」
わざとらしくも冷笑を含む端正な顔の口元が歪みそれがまた淫猥さを増す。
教会治療院の下辺でもあり庭師と嘲笑うゲバの日毎を褒めるとなれば随分と気色の悪い気分にもなる。
「引き止めてごめんなさい。御仕事頑張って下さいませ。
・・・それから午後にでも手が空いた時にでも街まで馬車を出して下さいませんか。少々買い物がございまして」
最後の言葉を言い切る前にアリューヌはくるりと身を翻し大きすぎる知りを態と左右に降って廊下の影にへと消えていく。
「午後に街まで馬車を出す・・・買い物かぁ~」
投かけられた言葉にはある意味怒気が混じり苛立ちをも感じられた。
つまりは丁寧なお願いと言う形であれ言いつけでしかなくも結局は命令でありゲバに拒む権利は無い。
「買い物なら先週行ったばかりであろうに・・・まったくっ」
ゲバはゴホンと喉咳を払うと桶の取っ手を斬り直し、冷気貯まる教会治療院の裏庭へと脚を項垂れて脚を運ぶ。
教会治療院で働くゲバ・トリグンの仕事はある花の栽培と採取である。
それがこの教会治療院の要であり、吸花症を患う人々輩の唯一の希望でもある。
「吸花症・・・。恐れるに足りず。尤もだからと言って怠ってもならずでもあるが・・・」
何度もそれを口にするスッツシンカー・ゲドニィルム・スンヌにとっては使い捨てた台詞ではあろうが
意思を持ちながらも屍人に墜ちて変わった患者には天啓にも勝る聖者の言葉でもある。
尤もスッツシンカー自身も節度を忘れ怠惰な生活を四度目に送れば、又に屍人から元には戻れないのかもしれないのだ。
確実な保証はない。つまりは吸血華をつかった治療法は未だ確立された物ではなく。
幾つもあるはずの民間療法の域を出るものではくもあくまでも伝承口伝のそれにしか過ぎないのが現状である。
現状浮世では数ある治療法と言われる物の中で幾分ましなものであると言うところであろうか。
それでもその治療法の開発には当のスッツシンカー自身でさえ数年の月日と多大なる費用を浪費することになった。
いまだのその出生と成り立ちを正式な種類には消して明記しないスッツシンカーが吸血華症を患いも意識だけはあり
なんとか日々を生き抜いていた頃。極度の重症になりゆる病に対抗すべく医者共は奮闘したが行き着くところは
皆同じであった。打つ手などないからす街の外に捨てるべきである。もしくは暖炉の薪代わりくべるしかなし。
それが医者共の結論であるし、実際に冬風吹きすさぶ漁村を訪ねたスッツシンカーは麻袋に詰められ焚き火の薪代わりに
焚べられた経験もさえもある。尤も皺くちゃでみっともない屍人の皮膚は以外にも固くも焔にあぶられてもなんとも無かった故に
スッツシンカーは難を逃れたとも言える。
二度目の屍人化の生活の中。腹に管を刺したままの文字どおり世界を股にかけ放浪した末にスッツシンカーは
と在る華の噂をその小耳に挟んで聞く。
魔女か娼婦かとよく割らない女の寝床噺で聞いた噺は奇妙である。
秘境紛いの山沼地の奥のその奥に屍人が巣食う村があると。
魔女か娼婦と良くわからない女が言うには屍肢病はもとより病などではまったくも、世間世情で煙たがれる屍人等
そこには普通にいると言う。どういう事かと慌ててスッツシンカーが聞けば魔女もどきの娼婦は手のひらを返して
きっちり料金の上乗せをねだってる。それ位自分の健康には変えられないと分厚い財布を放って乗せると
そんな大喪な噺でもないからと半分だけ財布から金を抜き取って魔女もどきの娼婦は語る。
後の世に王政院所蔵庫に収められるスッツシンカーの記録書を覗けばこうとなる。
今は屯に兎も角・・・。
確固に至る治療法が見つからない以上となれ屍肢病なる物を患う患者は実に大陸の四割の数に届くであろう。
その病に数々の特徴はあれども腸と四肢の変容を伴うこの疾病の完全なる治癒は認められずとも
幾つかの民間類の治療法を用いれば制限あれども世の常々人々類と同じ良うな日々を送る事は可能でもある。
又にその病に侵され煩わしい日々を送ると慣れでも利点も多い病こそが屍肢病でもあると言わざる負えない。
ともあれに人々が屍肢病と呼ぶ病は厳密には病のそれではなく一種、人々類の進化の過程に含まえるかもしれない。
その理由こそは打ち捨てられた山沼の更に奥に巣食う人によく似た、否寧ろ人に良くにた魔物が証明もしているである。
冒険者の狩りの対象にも全くならないその魔物は二本の脚で地面を歩き回り二本の手で道具を使い日々を営む。
独自の生活を営むがその皮膚は皺くちゃで在るも固く、冒険者が放った鏃を弾けば巻き上げた焔さえも
熱さを通さずも平然と歩き回ると言う。人々類からみれば当に化け物であるが屍肢病にかかり四肢が変容した
所謂の屍人との容姿は当にそれに良く似ていたとスッツシンカーは記録に残している。
つまりはスッツシンカーは魔女もどきの娼婦の寝噺を心底間に受け、その後のⅲ年を費やしてその魔物を探し出した。
当然に噂風の噺は噂であるからあの変の山沼の奥の奥では分からずも時間を掛けても見つかるはずもはかったが
そこから更に東の魔森に彼等は本当に住んでいた。
正に瀕死ともその巣にたどり着いたスッツシンカーを彼らは以外にも同胞として向かい入れる。
何せその姿が全くといっても同じであるからそれも当たり前だろう。
彼等にしてみれば何処か別の場所の同類の者が運悪く魔森に迷い込んだにしか見て取れなかった。
満身創痍のスッツシンカーの世話を彼らは惜しまずとも飲み物と食事を与える。
その飲み物こそがスッツシンカーが患う吸華症の特効薬であった。
類に吸華症の薬となる物は早くから判明していた。血液である。
最初は動物のそれ。次に魔物の血。ついに人々類の血液と貯められたその治療は完全には程遠くも
病を患う患者屍人の延命には役にたった。肌は皺くちゃに固くなっても正常な意識を保ったまま生き残るには十分であり
それ以上の進行を抑える事には幸をそうしてもいる。
問題はその接種に患者の喉を焼くことである。しかも水杯一杯を口にいれれば激痛が奔り喉を焼く。
無理矢理に飲むこんだ極々僅かな量の血液を日々の糧にするしか無いのがそれである。
否然しスッツシンカーがの骨ばった手に持たされた奇妙な形の杯に満たされたその血は全くに違う。
見た目こそも一見同じに見えもするが処方される血液よりも紅くも香りさえも甘くも感じた。
まるで悪魔の誘惑に惹きつけられたかのように杯を煽れば喉を快楽が満ちて溶ける。
こってりと甘くも舌の上で溶けて喉に流れ込めば喉管を通っていくその感触さえ甘美でさえもある。
もっとほしいと必死にねだるスッツシンカーはその場で煩わしい腹の管を抜き周りの彼等を驚かせる事になってしまう。
ともあれバケツ一杯ほどの血を腹に収めるとあろう事かスッツシンカーの四肢が変容し丸裸ではあったが
その世に性を受けた本来の人々類の姿へと二度目に変容する。あまりにも感動し椀々と声を挙げて泣き遊ぶ
スッツシンカーを魔森に住む輩は何を当たり前の事でそんなに泣くのかと訪ねたが元より言葉等互いにわからない。
翌日を待って少々落ち着いたスッツシンカーに彼等が教えてくれた。
もっとも魔森に住むスッツシンカーにとって食事を取り十分な血液を腹に収めた彼等の姿は随分と気恥ずかしい物でもあった。
何を恥ずかしがっているのかと頭をひねられれば確かにそうである。
生まれたままの姿で過ごすのは魔物や動物にとっては当たり前であり、衣服を着ると言ういわばたり前の事は
人々類だけの特徴にしか過ぎない。つまりは魔森に住む彼等には裸であると言う羞恥心と言う概念がない。
そうは言ってもスッツシンカーは目のやり場に困った。
食事を取り腹を満たした魔森の住人は人々類のそれと同じであった。
しかも皆々が美しくも可憐でさえもある。右をみれば大きな双乳を隠さずに揺らし微笑むとなり
左を見ればしなやかに美しくも大きな尻を揺らす雌の住人が可憐にも笑う。
どうしても猛る股間の熱をなんとか抑えて自分に起きた事を身振り手振りで伝えると
右では乳房を揺らし左では知りを突き出す雌が不思議そうに顔を見合わせて笑う。
ついにはこれも又はっきりと言えばスッツシンカーのこの未のど真ん中と言える双房も尻も大きな雌が手をにじり寄り
手をとると草と枝で編んだ巣膜から連れ出され彼等の食事を収穫する場所へと案内される。
そこは贔屓目にいっても墓に見えた。
敬意を表して彼等の巣を村に見立てればその隅の一角。
人手を割いて開拓した土の上に幾つかのこんもりとした土山がある。
少々大きな物もあれば比較的小さい物もあった。縁起も悪いが自分と同じ位の山もある。
地面の上によいこらしょっと寝転び体の上に土を被せて守ればそれ位の山になるだろうと想像してしまう。
随分と縁起が悪いなと思うがその山の上には草が生えている。
否。土塊小山の上に草花が植えられていると言うのがきっと正しい。
寝転んだ自分と同じ位の大きさの山の上にある草華はまだ十分には成長していないらしくその背丈も低い。
だが兎を埋めた位の大きさの小山んい映える草花は十分に成長しその樹上に華をつけている。
ひと目見てその華にスッツシンカーは魅入られた。
真っ朱に染まる花びらは薔薇にも見えるがそれとも違うのだろう。茎に遂げが在るわけでもなかった。
真朱の花びらは妖艶に風に揺られるがよく見ればそこには濃紫の筋が幾重にも通る。
その華は動物や魔物の血を啜って生きていた。
それまで人々類が見つけられば買った植物であろうから呼び名はスッツシンカーがつけた。
血吸草と・・・・。
直感的にそう命名した訳では無い。
手を引く魔森の雌の白い指先に促されて兎ほどの大きさの小山の土を退けてほってみると
「ひえっ」とスッツシンカーが声を上げる。
なんとなく兎でも埋まっているのかと勝手に思い込んでいたが自分の指先で掘り返してみると
遺骸となり腐り始めたばかりの獣の頭ってあった。
年甲斐なくも大声で叫び転がりそうになったスッツシンカーをとっさに後ろで受け止め支えてくれた雌の
大きな乳房に恥じ入るもなんとか吾を取り戻す。人並に冷静さを取り戻してよく見れば土の中に埋まるそれは
確かに切り堕した魔狼の頭である。
先程自分の腹中に収めた血の意味をその時スッツシンカーは理解する。
この魔森の住民は自分達の食事の糧として動物と魔物を狩る。
その肉を属するのではなくも恐らくは血液だけが必要でありそれも直接接種するのではなく
適当な大きさに切り分けて土に埋める。
その上で近い後に屍肢病の治療法となる方法としてその小山の上に血吸草を植えて十分に育てば
血吸草を絞りその蜜酒となる血液を自分の喉に注ぎ込んでいるのだ。
ポンと手を打って下知を得たスッツシンカーでは在るもののやはり一筋縄で行かなかった。
一時は確かにスッツシンカーに四肢は屍肢病の症状と四肢の変容を改善に向かわせたがそもそも病となる屍肢病と
先祖元来の姿と習慣を持つ魔森の住人達とは違いが多い。
魔森の住人達にとっ屍人の姿は自分自身のもう一つの姿であり生活にも根付いていれば狩りに適する姿である。
時に暫しの絶食を行い腹がすけば屍人の姿で魔森にはいって狩りをする。狩取った獲物の腸を抜き土に埋め
血吸草を植えれば数日もすれば糧となる。それを飲んで人姿になって互いの肌を温めるのだ。
つまりは人姿も屍姿もそのどちらも彼等の生活に極々当たり前に根付いた姿である。
だが然し、スッツシンカーはそうは行かない。
元より人々類として生まれたスッツシンカーは自分自身も他の者も忌み嫌う屍人の姿には戻りたくなかった。
人々類としては当然の願いであろうが元よりそう簡単には行かないのが道理だ。
最初こそ血吸草の効果に感謝するものの特性は必ずも血吸病を治療するまでには至らない。
あくまでも屍人の姿から人々類へと戻す事は出来てもその能力はまちまちである。
魔森の住人に取っては人姿になるのは時々で良いのだし極端に言えば血吸草の床種となる獲物はどれでもなんでもよかった。
せいぜい狼の頭は血が甘く飲みやすい。豚猪のそれは喉ごしは悪くても濃厚で味わい深い。
時々その美しい姿に惹かれ手籠めにしようと魔森に入ってくる人と呼ばれる動物はそれ至極の味わいをもたらすから
少し位乳房を触られても巣に持ち帰って縊殺して土山に埋めてやるのが楽しみだと目の前のスッツシンカーを小突いて笑う。
実はそこそが鍵であった。スッツシンカーが二度の春と冬を彼等と一緒に魔森で過ごした理由でもあった。
動物や魔物、時に人々類の血を床種として栄養を吸い上げる血吸草は蓄える血によって僅かに味が違う。
魔森の住人が味と呼ぶそれが屍肢病を治療するその効果に影響する。
森羅万象、恐らくは時の巡るずっと先には病を引き起こす原因と示させる最近の概念はまだこの時代には捉えられては
おらぬからあくまでも効果の在る。もしくは薄い等の結果を確かめるのは実際に試してみるしか無いのだろう。
つまりはスッツシンカー自身がその身をもって実験した結果、その患者個別の治療方法が必要と言う結論に至る。
幸いにもスッツシンカー自身は比較的魔森では手に入りやすい猿猪の血を吸わせた血吸草のエキスが体に良くあった。
二年も過ごせば情も移り上手く話せせずとも気持ちは理解できる位には親しい雌が猿猪の血エキスを啜る
スッツシンカーを変わり者目つきで見るが滑稽でも在るくらいでも在る。
「それ・・・乳飲み子が好きな・・やつ・・・。そうえば、貴下。私の乳ばかり吸う・・・」
「ばっ。馬鹿野郎。皆いる所で言うべき事じゃないだろっ」顔を真っ赤して起こっても無理がある。
「私の乳房の根本を縄で縛って歪に歪んだ乳房の間に顔を挟んで喜ぶ変態・・・」
「言うな。お前も言うな。お前らには羞恥心と言う言葉は無いのか?人前で中身をバラすな。しかも詳しくっ」
最初の雌の横から乳房を突き出して最近、契を結んだ別の雌が割り込んでくる。
「乳を貪るのは当たり前。私くらいになると雌壺では飽き足らず後穴に入れてもらえる・・・
ちょっと苦しいけど。気持ちいいの・・・。思い出したら欲しくなる・・・」
「駄目だ。駄目。ああいうのは夜にこっそり嗜むものだ。こら、羨望の眼差しを向けるな。縄持ってくるなこの色欲雌共め」
古参者と言っても過言でもないスッツシンカーと二番目に契をむすんだ雌が潤んだでで強請ってくる。
「まっ、まだ日が高いだぞ。それに兎狸の日も近い。腹の膨らんだ奴もいるんだからそろそろ摂生せねばならんのだ。ウンウン」
これ仕切り言い訳を並べると巣村の中でも他のそれ蓋まりほど大きな草編天幕の外へスッツシンカーは腰を曲げて逃げ出す。
もっとも草編天幕の外に出てもそこにいるもの達の姿は変わらない。
魔森の縄張りとして日々を営む住人共は蚕糸から取って編んだ頭隠しの布一枚だけをかぶる習慣は在るもののそれ意外の布類の
一切を身に着けない。髪の毛だけを隠したうら若い雌たちが乳房も尻もさらけ出しているとなれば幾らと病を患う
スッツシンカーでさえ下半身が疼くの古い諺通りに抑えるのは難しくも愚かである。
魔森の住人確かに奇妙で在った。当然と人村までは出ていかないから外からは噂噺での知識しかなかったが
その大半はあっていた。まずに皆に長命であると言われ黒い髪を蚕布で覆い隠すのが神聖な行為とみなすが
総じてどの村も漢もいなければ雄もいない。されど営みはどうしているのかと問えば雌共は笑ってスッツシンカーの胸を小突く。
なるほどそれはそうだと頷き納得もする。魔森の住者・血吸人の噂はこの辺では有名だった。
スッツシンカーが寝噺で聞いた噺と良く似た噺は街の酒場でも噂に登る。
まさか信じた馬鹿が魔森に入ってくるなど無いだろうと考えるよりもやっぱり馬鹿な奴らはいるらしい。
一度雌に見初められればあとは村に持ち帰られ若くも熟れた四肢に溺れるのに時間はかからないのだろう。
まぁ当然でもそれを味わったらスッツシンカーと同じように断ち切るのは難しいであろうが大抵の場合は
その真身の姿に驚くも時すでに遅し快楽を取るか化物姿の雌共と暮らすかの選択を迫られたあとに結局は
逃げ出そうとし雌の手で縊り殺され土の小山に成り果てればその上に血吸草を植えられる。
後の祭りとばかりに姉妹にはその血は雌共の食事と成り果てるのである。
すでに屍肢病を患うスッツシンカーは運が良かったのだろう。互いに事情わからずしれずとも
雌達は数は少ないがいないわけでは無い雄であろうとスッツシンカーを同胞として迎え入れた。
たとえ似て非なるとしても自分達と同じ屍であるのも受け入れられた要因でもある。
もちろんスッツシンカーにとっては病のち療法を見つける為であっても彼等の助けは有り難いものである。
それが一夫多妻をも厭わず二日と開けずに一つの天幕で五匹七匹との相手にすることであってもである。
尤も誰でも彼でもというわけではなく雌の貞操観念は意外にも硬かった。
元より金銭と言う観念もないから金で一晩の温もりを買い漁る事もできない。
所謂。外から来る馬鹿な輩との営みはあくまで血を得るためであ辛くも騙され衣服を纏わぬ姿に惹かれ
編天幕の中に連れ込まれてもその乳房を揉み掴んだ刻には細腕で首を捻られ絶命然りだから
その断末は結構幸せのなかで逝くのかもしれない。
それと知ったスッツシンカーの首筋が妙に冷たくなったのもよく分かると言えよう。
病のおかげとは言えずとも情が絡まれば縁でもある。二つ冬の間、魔森の住民と共に刻と営むがやは人々類である。
体調が良くなれば街に戻りたくもなるのが筋でもあった。
もっとも切れぬ縁を結んでしまえばスッツシンカー自身の我儘も通らぬところ数多いのも又事実でもある。
したがって二年の月日を人街で過ごし次の一年を魔森で過ごす生活を営むスッツシンカーであるが
それが上手く行ったのは最初だけであった。大体にして不精で在る彼はころころと居場所を変えるのも好まない。
病も完全に治るわけでもないから薬となる血吸草が手近にあったほうが良いし自身の体質に合う猿猪の頭が手に入るのは
当たり前の如くに魔森の中である。街中世情でスッツシンカーが営みを巡らせるには今となっては不便なのでもある。

「なぜ故に儂がこんな王都如き綺羅びやかな所まで出向かねばならんのだっ」
其の作りのいたる所まで贅を尽くした貴族馬車の柔らかい座席の上に腰を乗せそこまで年も取って無いのに
威厳を見せつけるためか自分の事を儂と言い張るスッツシンカー・ゲドニィルム・スンヌはやはり実際の年寄りも
老けて見えるのは病で疲れ果てた四肢を引きずるだからであろうか。
「ですから当家の親方様が屍肢病を患いになり、御医者様が匙を投げてしまったので御座います。
唯一私共がすがれるのはスッツシンカー・ゲドニィルム・スンヌ様だけであり・・・」
「往々にしてこの場所は王都で在る。此の国の王が知りを座布団の上に置くその王都で
屍肢病より酷い病は数も多いはずであろう。つまりは其れに携わり研究するべき医者も多くいくるべきでもある。
大体にして一回の民族療法の術を知るだけの儂がつくりだけ立派な馬車に詰め込まれて荷物の如く・・・・」
鬱陶しい講釈と御託をよく回る口から垂れ流したスッツシンカーは其の途中で言葉を遮り口を噤む。
向かいの馬車席に座る彼の親方様の従者は癇癪の勢いにまかせて唾を飛ばし嬉々と迫るスッツシンカーの迫る顔に驚き
身を引いて硬め二三度其の瞳を瞬いてしまう。
「失礼した・・・。理不尽な振る舞いを許して頂きたい。傲慢な貴族に連なる者とばかり思って勘違いしてしまったのだ。
コホンっ。痛むかね。其のよければ患部を魅せて頂けないかね。淑女殿」
一瞬前まで怒鬼如くに間近に身を寄せて怒りをぶつけたスッツシンカーは悪魔憑きが墜ちたように急に穏やかになり表情を緩めた。
極めて紳士的とも又に医療従事者かとも言えるような態度で向かい席に座り身を固める銀縁眼鏡の従者を優しく接する。
春から夏へと流れ行く季節であればこそ長い袖のと布手袋を従者服を好むのは不自然でもあろう。
思い返せば終始小声で話すのはそうせざる理由があるのだろう。屍肢病の患えば普通の食べ物は喉を焼く。
パッチリとした瞳は本来は蒼黒色であるやもしれん。それが屍肢病特有の朱色に変わるのは仕方の無いものである。
そうと見えなかったのはさすが王都というところだろうか女性貴族は見栄えを極めると言うから瞳色を変える薬品でも在るのやもしれん。
それも乙女心の為せる態であろう。田舎住まいの魔森に籠もるスッツシンカーはやはり世間貴族のしきたりには疎すぎる。
銀縁眼鏡の従者はスッツシンカーの見立て通りに屍肢病を患っていた。
恐る恐ると気まずそうに手袋を取ってスッツシンカーの目の前に突き出すのは気苦しさが胸に湧き上がる。
「ふむ。自分では結構悪い症状見える屋もしれんが、手先から屍肢化するのは寧ろ軽いほうだ。
お多福風と同じようなもんだな。此の程度なら直ぐに直せるし毎日薬を飲む必要も無いだろう。
何ひとつ月も治療すれば元の四肢に戻れるだろう。確かに儂を馬車に詰め込んだのは正しいかと言えるな」
「えっ?何を言っているのです。屍肢病は不治の病です。一度患えば肌は固くなり皺くちゃで屍人になるのが
当たり前の物で御座いますよ?御館様同様、私奴もお医者に匙を投げられた・・・」
信じられないと声を荒げる銀縁眼鏡の従者の向こう正面でスッツシンカーがガサゴソと黒鞄の中に手を突っ込んで
一本の瓶を取り出して渡してくる。
「まぁ一口に屍肢病ととっ言っても貴殿の症状はお多福風邪程度の物であるからな。
ちょこっと指だけが屍肢化しているだけに過ぎぬのだから説明は簡素でいいだろう。
本来重篤の患者ともなればそれぞれの体質や病の進行度によって血吸草の床種を吟味しないといけないのだ。
時に床種が合わないと病をも悪化させる事も多い。まぁ今回は汎用の兎耳の物で良いだろう。
さっさと飲んでくれ給え。兎耳の血と言っても血吸草に吸わせた物で在るから
飲み悪さも緩和されているはずだしな。どうやら喋りすぎたとも見える。眠くなった・・・」
病に苦し淑女のを前に伝える事だけべらべらと垂れ流すとスッツシンカーは眠いとばかりに欠伸を噛み殺す。
なんとも無礼な輩であろうとおもっても先程の優しい眼差しは確かなものであろう。
兎の耳の血と聞かされば少々多分に気味悪くあっても病患う身となればすがって魅せるしか他に道はない。
すでに寝持たれに身を預けて眠りに落ちていくスッツシンカーを一瞥して半信半疑を拭い切れずも
手渡された小瓶薬の蓋を開け、エイヤっとんばかりに兎耳の血液薬を一気に飲み込む。
それは血液であろうとも薬とは違った。
良薬口に苦しなど誰が言ったか知れずとも態々探し出し殴り倒したくもなる。
それほどにしっとりと甘く優しくも滑らかにすっと喉奥に流れていくと思えば腸に染み渡り
屍肢化で皺くちゃで固くなった指先のしびれが溶けて消えたと感じる間も無く。
指に生気が戻るとその他の肌にも艷が戻りまるで五歳も十歳も若返ったかのような潤いが戻る。
「こっこんな事ってっ?どうなっているのですか?スッツシンカー様
説明して下さい。小瓶一杯の血で私の指がもどるなんてお肌の艷まで戻るなんてありえません。
ちょっと狸寝入りやめて下さい。バレてますから。ちゃんと起きて下さい。
お礼をさせて下さい。私何も持っておりませんがせめてお礼を・・・」












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天鼠蛭姫

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