【異世界女装漢児】壱の噺【覚醒】


ぽちょん・・・ぽちょん・・
右目と鼻の間に少しばかり冷たい水雫が落ちてくる・・・。
「んん・・・・」
雫が落ちた所を無意識に擦り反対側の目を開けてみれは見える風景は岩肌だ。
よくわからずのも四肢に力を込めて半身を起こして観れば
なにやら岩肌が視界一杯に広がっているらしい。
「屏?いや・・・?洞窟・・・。ダンジョン。此処は何処だ・・・?」
もう一度目をゴシゴシと擦り顔を上げて辺りを見渡す。
やっぱり其処に映し出されるのは実がなれたとは言え
洞窟でしかない。

洞窟でしかないのなら今さっきまでいた場所はどうなったと言うのだろうか?
自分は少なくてもこんな場所にはいなかったはずである。
確か雑踏眩い街並みを人混みに塗れて小走りに歩いていたはずだ・・・。
・・・・そうは言ってもそれもおぼろげでもある。
何処か誰かに突き飛ばされて頭を打ったのかもしれない。
そう考えるのが妥当な所では或るように思える・・・・。
追さっきまでの事が思い出せないと成ると急に不安になってしまう。
慌てて自分の名前を口に出す
「秤徹・・・。はかりと書いてまかりと読むんだ。
僕の故郷ではそう読むし地元訛で罷りって読む。
皆そうだし親戚一同が集まってクラス村だから皆、秤家に連なる。
齢参十と参。結婚はしてるけど冷めきってる。
あまりに冷めきってるから妻が週一で堂々と浮気してるくらいだ。
云々・・・大丈夫だ。余計なことを思い出したけども・・・」
どうやら記憶を失ったわけではないらしい。
幾度となく名前について聞かれ其の度に向上の如く説明するいつもの言い回しも
きちんと言えるし次いでに余計な事も思い出せる。
ついさっきまで・・・つまりはちょっと前の出来事は覚えて無くても
自分の名前が思い出せれば何者かは分かる。
それが分かると次は体の事だ。
少々記憶が混濁してると言う事は頭を打ったのかもしれない。
それでも自分の体を見回し手でパタパタと叩いて確認すると
多少の擦り傷はあるが特に怪我をしたと言うわけでもないらしい。
尤も全裸であったから洞窟を流れる冷気に当てられ
くしゅん!くちゅんと!弐回ほどくしゃみがでてしまう。
「状況を考察するならば・・・
僕は倭之御國の街を通勤に向かって居たはずだけど・・・
今、気がつけば何処かで転んで軽くでも頭を打ったに違いない。
ついでに服がどっかに行ったのは兎も角して洞窟の中に放り出されたと言う所に
違いない・・・。佐々木女史に怒られるのは確定だけど・・・」
多少の擦り傷と全裸で有ると言うことに不安を覚えるが
それ以外はまぁまぁ対処出来る範疇だと無理に思い込む。
比較的広い洞窟の真ん中と言うのにも気後れもする。
周りに人っこ一人居ないこともあれば不安がますのも当たり前だろう
何処となくなんとなく背筋を丸め辺りの暗闇に目がなれてくるのを待って
ひたひたと脚音を鳴らしても岩肌の床を歩き進んで岩壁の所まで歩いてみる
壁の側まで来て周りよりも更に冷たい岩壁に背を預けうずくまる。
屈んで宙を見上げても周りに見えるのは岩肌然りでしかない。

洞窟の中で目を覚まして弐日がすぎる。
勿論、時刻を知らせる物なんかないから自分の感覚だ。
洞窟に一人しかいないのだから岩壁に背を預けて座っていても何似もならない。
人種人類に属する人であるから喉も乾くし腹も減る。
最初はそれほどで無くても刻々と時間が過ぎて行けば
喉の乾きにも空腹にも耐えられなく成ってくる。
「しょうが無い・・・よっこいしょっと・・・・」
岩肌に手を付いて体を起こしひたひたと歩き出してみる。
國の一般男性く比べれば多少は背も高いと思うのだが
何せ何処とも知れぬ洞窟の中である。
自然と背を丸め猫背に成るのは仕方がないだろう。
足元に転がっていた木の棒を拾い杖の代わりにコツンコツンと付いて歩く。
幸いな事に水は以外にも速く見つかる。
岩が組み合う壁の隙間からちょろちょろと流れて溜まっている。
岩水溜りとでも言うのだろうか?兎に角ありがたい。
歩来まわる道筋は位から岩壁に手を添えてゆっくりと確認しながらも
慎重に道筋を進んでいけば所々に岩水溜りを見つける事が出来た。
問題は食べ物である。
洞窟であれば安易にもダンジョンと言う物を連想してしまうし
記憶の中に浮かぶ小説や漫画の中に出てくる物を連想はしてしまうが
この洞窟がそれに類する物かどうかはわからない。
水は簡単にも手に入るのは助かるが人の欲求はそれだけで満たされるはずはない。
時間の感覚は無くても餓えが止む事はないから必死にも探す。
水辺があれば少量でも緑苔が岩にくっついて入るから
恐る恐るにもそれを口に運んでは観る。
苦いとも甘いとも塩っぱいとも渋いとも言えぬ味がするのはしょうが無い。
兎にも角にも何か腹の中に詰め込まなければ気が済まない。
人は有る一線を超えてしまうと次からは抵抗がなくなる。
箍が外れると言えばわかりやすいはずだ。
最初は岩水溜りの縁にこびり着いた苔を食せば
次は蟲だ。其の次は鼠となって行く。
蟲は蟲で厄介で上に任せて喰らうのは良いが捕まえる時に
何かの針で刺されば手が腫れ上がり喰らえば味はともかく
舌が腫れ上がりのたうち回る事になる。
鼠は淡白質だから腹に貯まるが生で食べるしかないから
原始人か動物に成った気分だ。
鼠は菌を運ぶとも言われるから若し洞窟の中から出られても
何れは病気に成るかもしれない。
それでも餓えを満たす為に水を啜り苔を舐め鼠を喰らう。
そうして弐日・・参日となんとか生き延びる。

「ギギ・・・ギギギッ・・・」
洞窟に迷い込んでおそらくは五日目。
用心の為に岩肌に触れながら歩き進むのが癖に成っていたのが
幸いしたのかもしれない。
聞き慣れない音が耳に届いたと思い身を固め隠れる。
咄嗟に岩肌に隠れては観るが好奇心は遥かに勝る物だ。
隠れた岩影の後ろから声のする方を覗き込んで観た。
「ギギギッ・・・・」
再び聞こえた声は自分の世界には居なかった動物である。
それを動物と言えるかどうかも解りはしない。
灰色の肌に低い背たけ。痩せこけて入るとも知れれば
やはり洞窟の中で食べ物を探すのは大変だと示している。
骨ばった手には金属片が握られて入る。
恐らくは短剣とでも言うのだろう。
思いつきを纏めれば自分の世界では空想の動物。
小説や漫画の化け物かモンスター。
雑魚で有るが小餓鬼族と言う所だろう。
小餓鬼族と云うのは
それが二匹・・・。
岩床の上に何か別な獲物でも捌いて入るようにも見える。
腹が空いていればこそ得体はしれなくても
小餓鬼族共が涎を垂らして捌いているなら食える物なのだろう。
それと知った途端に口の中に唾が溜まり・・・
ぐぅ~~~~っと腹が盛大に成る。
「ギギッ!」
腹が空きまくり音が成った途端に小餓鬼族が一斉に此方を向く。
爛々と細瞳をがっと見開き乱ぐい歯をむき出しに紅舌を垂らして
唸り声を上げて此方を睨んで来る。
「やばい・・・やばい・・」
慌てて後ろに下がれば勢い余って地面に尻もちをぺたんと付く。
情け無いと言えばそれまでだが小餓鬼族は自分より弱いだろう獲物を
見つけ笑みを浮かべ歓喜の声を上げる。
「辞めろ!来るな!来るなってばっ!」
獲物を見つければ闘争本能が湧き上がる。
得体の良く分からない弐匹の小餓鬼族が襲いかかって来る。
壱匹目が上半身に張り付くと骨ばった手で顔を抑えてくれば
弐匹目も混ざってきて短剣を振り落とそうと粘る。
岩床を右に左にゴロゴロと転がってはねのけようとしても小餓鬼族共は離れない。
そこそこの体躯であっても小餓鬼族が二匹。
体に掛かる重さは結構出し誰かと争うなんて事は日常生活ではないだろう。
それでもこれは命のやり取りだ。
鈍い光りを放つ短剣が目の前に迫れば小餓鬼族の手首を掴んで
刺されないように踏ん張るのが精一杯だ。
其の横のもう一匹の奴は顔の上を骨ばった手で抑え込んで唸る。
「ギギィ・・・ギギ・・」
もうすぐ餌に有りつけると其の目はギラギラとひかり
むき出しの乱ぐい歯の隙間から涎雫が垂れてくる。
「ギギギギッ・・・・」
短剣を握る小餓鬼族と顔を押さえつけてくるもう一匹
疾風が一閃舞ったと思えば体の上の重さがなくなる・・・・。
渾身の力で振り払ったのは自分であり体の上の小餓鬼族を投げ捨てる。
同時に握り奪い取った短剣を凪げば最初の小餓鬼族の喉から
どっと青い血飛沫が飛び散る
「ギギっ・・・」
手で喉元を抑え脚をジタバタとバタつかせるが長くは持つまい。
自分達よりも確実に弱いはずの獲物が仲間の喉を掻っ切っる。
慌てると小餓鬼族の前で短剣を振ると慌てて暗がりの中へ消えていく。
古武柔術。子供の頃に祖父に叩き込まれた護身術だ。
体に染み付いて入るとは言え随分とご無沙汰ではあった。
咄嗟に体が動いたのは命の掛け引きだったからだろう。
はぁはぁと逃げていく小餓鬼族を見送るが脚元には一匹転がっている。
齢参十を超えてもいままで全うに生きておれば殺傷事には縁遠い
自分の意思ではなかったとしても。
得体の知れない生き物でもあっても生物をこの手で殺したのは変わりない。
嫌悪感を罪悪感が湧き上がり吐き気が湧き上がると思うがそれは錯覚だ。
それよりも目に付いたのは小餓鬼族が腰に腰にくくる鞄らしい物だ。
殺したばかりだと言うのにその持ち物を漁ると云うのは抵抗が
有るかと思えばそうでもない。
もしかしたら食べ物でも持ってるのではないかと言う期待が
殺傷事の嫌悪も干渉も捨て流してしまう。

追さっき人生初めて生き物を殺してしまったと言うのに
今はその小餓鬼族に感謝さえしている。
束の間であっても餓えを凌ぐ事が出来たからだ。
見窄みすぼらしくも粗末な小餓鬼族の鞄は幾つかの物が入っていた。
大抵は使い方も分からない道具みたいな物なかりであったが
観るからになんとか食べる事のできそうな物・・・何かの干し肉だろう。
何の躊躇も無くしゃぶり喰らいついたのは当然の事だ。
少しは人らしくも頭を巡らし一回で全部食べるのは控えても良かったのだろうが
壱度餓えてしまえばそんな余裕なんか有るはずもない。
そうすれば良かったと思ったのは干し肉のほとんどを喰らってしまってからだ。
後悔さきにはいつも立たないなと思いつつも石床に転がった小餓鬼族の遺骸を
ちらりと見つめる。
「もしかしたら・・・食べられる物なのだろうか・・・?」
理性が勝るか餓えが勝つかと競わせれば当然餓えが勝るに決まってる。
それでもなんとかそれを我慢できたのは自分が手にかけたと言う罪悪感からだろう。
食べられる物なら食べるべきかもしれないが、此処はぐっと堪える事にする。
そのままにしておくのも気が引けたのもあり一応は洞窟の角にまだ引きっておく。
弔うと言う感覚がこの世界にあるかどうかは知らないが
とりあえず手を合わせたのは殺生した責任感に苛まれたからだ。
もっとも腹が膨らんで人身心がついた体でもある。

小餓鬼族・・・。
所謂、ファンタージと称される世界に登場する空想上の怪物である。
何故そんな物がこの洞窟に存在するのかと言う事は分からないし
深く考える事も僕はしない事にする。
思いを巡らせればこの洞窟で目覚めた時から元の世界とは違う場所に
移動したと言うか・・・・神妙な言い方をするならば異世界に転生した
っと!でも言うのだろう。
そんな事柄を受け入れられるはずなんて到底なくて当たり前だ。
そうは言ってもこの洞窟には小餓鬼族が入る。
尤も小餓鬼族と言う呼称は僕が勝手につけて思いこんでいるだけだ。
彼らは確かに存在するが本当は違う名前なのかも知れない。
其れでも小餓鬼族は存在するし、今の僕には必要だった。
壱度は倒せたとは言え、其れは幸運に恵まれただけだ。
たった二匹であったしそれほど体躯も大きくはなかった。
次に対峙した時には勝てる状況とは限らない。
何故そう考えたかと言う理由は簡単でもある・・・。


岩肌に手を添えてソロリソロリと歩いて行くと・・・
その先に灯火が観えてくる。
こっそりっと岩肌から頭を半分出して覗いて観ると
少し離れた所に松明を持った小餓鬼族が歩いてる。
数を数えれば四匹か五匹。もっといるかもしれない。
あの数を壱度に相手にするのは厄介だろう。
以前は二匹だけだったし、思い返せば肉弾戦と言うか接近戦だった。
だからこそ錆びついた古柔術の技でも投げ飛ばせた。
それでもその前は短剣を目玉に突き刺されそうになったのだ。
到底あの数を相手には出来ないだろう。
良くと観れば一匹一匹が恐らくは銅製の短剣を持つか
岩から削った矢尻を棒に括った石槍らしき物を握っていたり
それに加えて木弓を背に背負う奴も観て取れた。
対する此方と言えば情けなくも心元ない。
以前の小餓鬼族を仕留めた時に手に入れた革製の鞄には干し肉以外に
少しは使えるような物は確かにあった。
最初はなにやらわからなかったが試して観る内に火打ち石のような物
馴染みはないが少しごわごわとした布が数枚。
其れから何かの皮をよって編んだような長めの紐。
後は何に使うのかも分からない多分雑多なゴミ位だ。
いくらなんでもこれで小餓鬼族全部とやり合うのは絶対に無理だ。
それでも小餓鬼族の一行から目を離す訳には行かない。
厄介な相手と数で有るが彼奴等の腰鞄には干し肉が有る。
喰物がある以上、危険はあっても餓えを満たさねばならない。
そうなると覚悟は直ぐに決まる。
ギギっ。ギギギと頻繁に発する短い軋音の言葉も耳障りであるが
頼りにも成る。それをよく聞けばどれ位離れているかも分かるし
何処へ行こうとしてるのかも大体検討もついてくる。


体感で参拾分も小餓鬼族の後を付けただろうか・・・。
彼奴等は耳があまり良くないのか?それとも全裸で有るし裸足だから
ひたひたとしか足音がならないのが幸いしてるのだろうか?
今の所は上手く立ち回れてるかもしれないっと思った矢先に風景が変わる。
洞窟の先が二つの道に分かれ片方は開けた崖のような場所に繋がるように
思え明かり所か太陽からの恵みと言える日差しさえ刺しているようだ。
其の反対の道はまたもや洞窟で先は暗がりへを続く。
「ぎぎぎぎっ・・・」
一段の中で一回り体の大きい小餓鬼族が尖った爪指を掲げ
暗がりの道を示す。
「ぐぎぎっ・・・」隣にいた奴が不満にも取れる声を上げるが
仕方なくも渋々と体をゆすりもう一匹と暗い道へを歩きだして行く。
明るい崖道は恐らく彼等の住処へと続くに違いない。
数がいれば群れと成るしそれを養う食料もある。
喰物だっ。
反対の道へと進む二匹は外れ籤を引いたと言うことだろう。
恐らくこの小餓鬼族の一団は食料の調達に出かけていたのだろう。
思いの他に実入りが少なかったのかもしれない。
だからこそ、お前らはもう一度回ってこいとでも言いつけられたのだろう。
流行る気持ちを抑えるのは面倒ではあるし食料の誘惑は断ち切るのが難しい
それでも僕はまずにと暗がりの道へと進む二匹の小餓鬼族に付いて行く。
何故、そうしたかと言えば簡単だ。数が少ない少ないほうがやりやすい。
先に自分を獲物として狙って来た奴等であればこそ又見つかれば
必ずに向かって来るだろう。
つい先日であればこそ平々凡々と暮らしていたのだろうし
きっと三食の飯にも苦労してなかっただろう。
所が今と成っては餓えが何度も押し寄せる。
最初に奪った干し肉なんてその場で食い散らかしているから
其れ以来長いあいだ岩溜まりに貯まる水だけで過ごしているのだ。
当然の如く頭の中には小餓鬼族の腰鞄に入ってるであろう干し肉の
事だけしか考えられない。
「ぎぎ・・・ぎぎぎぃ」
「グガ・・・・・ググ」
自分達の帰巣を拒んだ上司の文句でも言ってるのだろうか?
骨ばった指で互いを指差し歯ぎしりのような軋声を発してる。

・・・其れは悪魔だった。
観た事もない生き物が襲いかかって来た。
最初の一撃は突然だった、背後からの一撃。
「ギャッ」聞き慣れた同胞の声が聞きたくもない悲鳴に変わったかと
思うと青い血飛沫が顔に跳ねて掛かる。
腰の短剣を掴もうとする前に悪魔が口を開け怒涛に唸り襲いかかって来る
正直観えなかった。そいつの攻撃は全く観えなかった。
只、顔の横に鋭くも硬い物があったのを感じ其れが石の様に硬いと
思った時には石床に転がり倒れていた。
「ぎぎっ」次の攻撃を避けようと転がる前に悪魔が石を振り落として来る。
自分の体の上に跨がり弐度、参度と悪魔の武器を振り下ろし
四度目、五度目を食らう前に意識が溶けて消える・・・。

使った武器は即席だった。
以前奪い取った腰鞄の中にごわごわとした皮が入っていた。
弐匹の小餓鬼族の背後の近づきながらそれを広げ手頃な石を包み込む。
意図したわけでもないし思い出したわけでもない。
それでも記憶の何処かにそれが武器に成ると知っていた。
布の中に石を包みそれを振り回して獲物を叩く。
ごわごわとした皮布の袋の中に石が入ってるだけではあるが
渾身の力を込めて振り回せば遠心力が加わり立派な殺傷武器になる。
これが世ではジャックナイフとも呼ばれるもので音も少なく
最大の効果を生む事になる為、暗殺を好む者がよく使う。
最初の一撃で右側を歩いていた小餓鬼族の頭を殴り血飛沫が飛んだと
知れば迷わずに左の二匹目の頭を目がけて振り回す。
慣れぬのか当たり方が悪かったのか一撃では仕留めらなかった。
体制を崩した所を逃さず小餓鬼族の体に跨がり幾度も皮布石を打ち付ける。
頭蓋骨が砕け脳髄が飛び散るまで何度も振り上げては叩きつける。
動かなく成ってもそれでも何回も叩きつけたのは恐怖からだろう。
二度目とは言え得体の知れない奴を殺したのだ。
今回もたまたま奇襲が上手く言ったと言うだけであり
偶々に自分が勝てたと言うだけだ。
次は勝てても其の次は負けるかもしれないのだ。
弱肉強食の食物連鎖が成り立つのなら何時か自分が餌になる時が
来るだろう。其れは今日の夜かも知れないし明日の昼かも知れないのだ。


小餓鬼族の長は驚愕していた・・・。
思ったより餌が取れず二匹をもう一度狩りに行かせた。
この部落を守り維持して行くには必要な事だしいつもと代わりない。
其れがいつまで立っても二匹が返ってこない。
心配であっても顔に出さずに怒りに任せて探してこいと命令する。
所が次に送り出した奴等も同じ様に返って来ない。
さすがに可怪しいと思い最後は自ら脚を運ぶ。
前の弐回よりも多くの手下を連れて言ったのは臆病風邪に吹かれた
訳では無いが、其れは正解であったとも言える。
寝蔵へと続く二つ分かれの道を暗がりに少し進んだだけの所。
常々に狩りを行う小餓鬼族から見てもその光景は凄惨だった。
最初に送り出した弐匹は頭蓋を砕かれ青い血を垂れ流す。
次に探してこいと言いつけた残りの五匹も頭蓋も割られているが
此奴等は体に傷がある。短剣で胸から腹下まで裂かれてる者もいれば
体を石槍で貫かれて入る奴も入る。
くたばった奴等に感傷はないがそのやり口は嫌なものを覚える。
頭蓋砕くには一撃は無理だろうから何回も殴る必要がある。
脳髄が跳ねて石床に溢れるまで殴りつけるのは悪魔の仕業に違いない
腹を裂くのはもっと酷いがこれは喰らう為ではないだろう。
確実に遺骸にする為にやったに違いない。
石槍で付くのも同じ理由だろう。確実に殺す。確実に遺骸にする。
自分の一族と敵対する集落の奴等だろうか?
それとも洞窟の外でやり合う黄色い二本脚の彼奴等だろうか?
自分達は彼奴等の雌を拐かしては玩具にしてるのだ。
面白くはないだろう。
それにしてもきっと奴等ではないだろう。
幾ら恨みを買ってはいても彼奴らは個々まではしないだろう。
互いに毛嫌いしていても尊厳と礼儀は彼奴等は重んじる。
戦いに興じて相手を殺しても遺骸を辱めを与える事はしない。
其れは自分達小餓鬼族でも同じである。
だとすれば・・・・。この惨状を作り出したのは悪魔に違いない。
同族先祖の古から伝わる我等が天敵悪魔に違いない。
この集落がある場所は過ごしやすい。
手近な場所に水場もあれば隠れる穴もある。
狩り場への移動も楽だし道中にも天敵はいない。
それでも悪魔が潜んで入ると成れば話が変わる。
黄色肌の二本脚共の雌を捨てて逃げるべきだろうか?
其れは其れでもったいないかもしれない。
それでも此処に長く居座るのは危険だろう。直ぐにでも逃げるべきである。


遠目に観ても小餓鬼族の巣は以外にも大きい。
岩肌に寝そべって眼下に広がる巣穴を覗く。
何匹か岩穴の前で屯して声を上げている。
以外にも文明も高いのだろう。取った獲物を石包丁で捌き
火を起こして串焼きにしてるのも見える。
一回り体躯の大きな奴が一党の長だろう。
なんやかんやと周りを囲む他の小餓鬼族が声をも上げている。
見える範囲で目を凝らし数を数えてみると大体弐十位だろうか?
気になるのは岩壁に開いた穴だ。
幾つかあるのだが其の穴の前に何故か二匹つづ屯してる。
食料の貯蔵庫だろうか?それとも別な何かをしまってるのだろうか?
どちらにしても崖上からでは分からないし今考える事でもないだろう。
彼奴等が寝静まった所を狙い崖を降りて得意とも言えぬ忍び脚で
通り抜ける事も出来るかもしれない。
もしかしたらその先に洞窟ので出口へと続く道が或るかもしれない。
其の方が確かに危険度は低い。
否然しである。幾ら出口の或る道に繋がるかもしれないが
其れは飽く迄も自分の希望でしか或るまい。
何よりも腹が減り始めても入る。そして手持ちはまったくない。
ともすれば、やはり小餓鬼族の巣を襲うしかないのかもしれない。
いつの間にか物騒な考えが浮かぶのはほどほどにするべきでもある。
とは言え手持ちの武器は貧相である。
倒した小餓鬼族の遺骸から剥ぎ取った武器といえば石矢尻の槍。
参本ほどの木の矢とそれを番える弓。それに皮で包んだ石。
それだけである。他に使えるかどうかと言うのが或るとすれば
少し長い位の革紐らしきもの。
自分が目覚めたこの世界。その身を置く世界が所謂、異世界とは
認めたくはないが恐らくはそれに近いのだろう。
森羅万象。理の全てが全く同じとはいえないかもしれないが
それでも森羅万象。事の生業は近いのかもしれない。
相違が或ると言うのなら殺生を重ねた小餓鬼族だろう。
何よりもあれだけの数が徒党を組んで屯してるだ。
溜め込む食料も多いに違いない。
考えるべき問題はどうやって都合、弐十匹と成る邪魔な小餓鬼族を
どう片付けるかである。容易くはないだろう。
果さて・・・どうするべきであろうか・・・?


小餓鬼族と言う生き物は虚勢を張る。
種の特性と言えばこそ、本来は臆病でもある。
だからこそ窮地に陥ると声を張り上げ虚勢を張る。
声を上げて唸り威嚇すれば敵が尻込みする事も多い。
その隙を付いて手下共が獲物に遅い掛かる。
これが小餓鬼族の常套手段でもある。
だが、その時そんな事は出来なかった・・・。
戦が始まった・・・。
狩りが始まったと小餓鬼族の長が認識した時には既に手下が
「ギャっ」っと唸って石床に転がるっていた。
悲鳴が耳に届き咄嗟に振る向くと又、悲鳴が聞こえて弐匹目が沈む。
慌てて武器に手をかけると参匹の頭に弓矢が刺さって後ろに弾ける。
最初の奴がやられたのは石槍だった。
何処から投擲されたかわからなかったがそいつの姿が観えない。
相当遠くから凪げてるのではあろうが普通では無理だろう。
最初の壱凪と弐度参度と放たれた弓。
それが終わると途端に静寂が訪れた。沁々しんしんと音が静まると
怒りが爆発する。
「ギャン!ギャン!」声を荒げ唸りを上げて手下を鼓舞する。
「ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!」それに手下共も答えてくる。
席を切ったと言うのはこれの事だろう。
一斉に拳を握り武器を掲げ怒涛の如くと走り出す。
小餓鬼族は群れを成して獲物を襲う。
一人、若しくは一匹の獲物に数匹の小餓鬼族が同時に襲いかかる。
小餓鬼族一匹は大した事はなくても同時に多方向から襲いかかるとなれば
獲物も堪らない。一匹の攻撃を避けても他の奴が傷を追わせる事が出来る。
怒涛の如くと最初の攻撃が振ってきた方角へ手下が奔る。
地響きを鳴らしてと言っても過言ではない勢いで迫っていく。
否然し、手下の小餓鬼族が其の眼に収めたのは全く違うものだった。
突然に崖上から岩が堕ちてくる。それは岩石だ。
がらがらと轟音鳴り響くと煩くも堕ちてくる岩石塊。
一つ二つとは言わず。5つ6つと小餓鬼族共に襲いかかってくる。
ガラガラと音を立てて堕ちてくる岩石塊は当然に下に入る小餓鬼族を
ぶちゃぶちゃと潰していく。
この世界にも万有引力が或る事に感謝すべきではある。
最初の一撃。石槍の投擲には気を使った。
少年時代に嗜んだ古柔術では限界も或る。
只たんに槍を掴んで凪げただけでは人の腕力以上の飛距離は出せない。
幾ら崖上に陣取っても距離が届かないだろう。
だから槍の柄棒の後ろに紐を巻きつける。そのまま槍棒を握り
投擲するタイミングで槍からは手を離すが紐を掴んだまま振り放す。
投擲される槍の力の上に紐を振り払った力が上乗せされ
本来の槍の疾さと括った紐の勢いと力。
それが槍に力を与える。当然飛距離が抜群に伸びる。
的に当たるかどうかは運次第だ。
女神が幸運を恵んでくれたなら次は矢を射る。
これも少年時代に何度かやった事が或るだけであるが
昔取った杵柄とでも言うのだろう。放った弓の内外れたのは
一本だけだった。そこで崖上に身を隠して岩後ろに隠れる。
当然の如くに攻撃が当たれば小餓鬼族はこっちに向かってくるだろう。
其の間に岩下に太い木を差し込んで押し上げて堕とす。
結果、屯する小餓鬼族の頭の上に岩石塊の雪崩が堕ちていく。
「ギャア~ギャ」と次々に悲鳴を上げて小餓鬼族共が潰れていく。
その悲鳴と断末魔を耳にと止めながらも岩肌の坂を駆け下りる。
視界に捉え真っ直ぐに疾走って行くのは小餓鬼族の長だ。
烏合と集と決めつける訳では無いがこういう場合は群れを纏める
輩を片付けるのが壱番だ。
勢いは此方に或るのだから機を逃すことはない。
息を肺に貯め渾身の力を込めて岩袋を振り上げ
小餓鬼族の頭を殴りつける。
「うおぉぉぉぉぉ~~~」
人生でも上げたことがないような奇声を張り上げ何度も
腕を振り上げ小餓鬼族の長を殴りつける。
殴り、叩き、潰す。
最初の一撃で顔が歪み、弐発目で顔が歪む。
参回四回と繰り返し殴れば血が飛び散り骨が見える。
息が続く限り手に力が宿る限り殴りつければ
石棍を握る小餓鬼族の手がピクピクと震え動く。
何度も殴り腕が痺れ力が抜け落ちると周りがやっと見える。
まるで本当に其処に悪魔が具現化でもしたような惨劇と
その光景を眼前にして驚愕する他の小餓鬼族。
闇討ち強襲は成功しても所詮は一人だ。
平常心を取り戻されると所詮は数に任せて責められば
結果は目に見える。
「うおぉぉぉぉぉ~~~うおぉぉぉぉぉ~~~」
今度ど張り上げたのは完全に虚勢だ。
それに驚いた手下の小餓鬼族が体を強張らせたのを機として
一目散に。脱兎の如くと背を返して逃げて奔る。
それを勝利と呼ぶにはいささかか情け無いだろう。
それでも焚き火の側に投げてあった皮鞄を無理に拾い上げて
真っ直ぐ奔る。
「どわぁ~~~~~~~」
案の定に我を取り戻した小餓鬼族達が悪魔退治とばかりに
追いかけてくる。


命かながら逃げおうせたのは奇跡だろう。
餓えを凌ぐために小餓鬼族に奇襲を掛けた。
戦争の成果を戦果と呼ぶ。戦果評価はよく行われる。
敵を倒した戦果は上場である。
たった一人で挑んだ割には群れの半分位は仕留められたのではないだろうか?
問題は戦利品である。小餓鬼族の袋鞄一個。
最初に襲った奴よりは一回り弐周りと大きいかもしれない。
中身も悪くはそれなりである。色々と入ってはいたが
食べられるであろうものは少なかった。
皺々な葉っぱにくるまれた肉と言うか何かを潰して丸めた団子が参個。
本当に食べられるのかと鼻を近づけて匂いを嗅いでみるが
最初こそほんのり甘いが直ぐ鼻腔に突き刺さる刺臭が突き刺さる。
さすがにこれが食べ物であるのかは疑ってしまうが
やはり餓えには逆らえない。
耐えられないほどの匂いを鼻をつまんで耐えて小餓鬼団子に喰らいつくと
それが何かの肉だとは分かる。思ったよりも複雑な味であれば
幾つかの獲物の肉を潰して纏めた物かもしれない。
匂いは兎も角食べられるしなれると旨さも感じるかもしれない。
とりあえず腹が膨らむのは嬉しいことであった。

それから多分、四日か五日の後。
洞窟の中で過ごした数日の果に外界へと出ることが出来た。
其処は・・・。
紛れもなく自分がいた世界とは違って異世界と呼ぶに値する場所であった。

天鼠 蛭姫ノ壱

天鼠 蛭姫ノ壱

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