亡灵游行.March_of_Ghosts.



「貴下っ。又、食い散らかしたの!今月。厳しいのよ。生活費ギリギリなんだからねっ。」
狭くも本当に狭いアパートの安アパート。それほども大きくもない寧ろ中古の冷蔵の扉前で腕を組み
扉を開けたまま鷲掴乳廻が大声で唸る。唾を飛ばし怒髪天に仁王と立ち誰かに怒鳴り散らしているが
果さて其処に誰が居ると言うのだろう。築参拾年を軽く超えるボロアパートの其の部屋に
声を枯らして喚いて吠える。一際にも大きな乳房とぷるんぷるんの尻を持つ鷲掴乳廻以外に誰も観えない。
それでもまるで誰かが存在するのが当り前であると言うように思い乳房を下に組んで仁王と喚く。
そう入っても怒鳴る相手の返事も乳廻自身にもきこえない。其の姿も観えないしそれが正しい。
それでも乳廻は彼奴の気配は感じとれるらしい。目で観ることは叶わぬとも気配でわかると言うのだろう。
「だから、なんで私の味噌喝ハンバークずんだ餅スーパーレリシャスヨーグルト三個で三百八十園を
全部一人で食べちゃうの?大体、貴下食事しなくても死なないでしょ?
私は人間なのよ。貴下と違って食べ物接種しないと死んじゃうのっ。その前にお腹がすくんだってばっ
えっ?ダイエットしろって?最近、二キロ太ったって?なんで知ってるのよ?
お腹の駄肉削らないとおパンツの紐切れちゃうって?大きなお世話よ。
すっとこどっこいのおたんこなすぅ」
ばんばんと擦り切れた畳の上で誰かいるであろう場所めがけスラリとした脚で蹴り上げる。
「あっ。もうこんな時間じゃん。全く貴下の性でこんなに遅く成っちゃたし。くそったれ!
お風呂入って寝ないと明日もバイト入ってるんだからね。覗くなよ。覗くじゃないぞ。
この変態GHOST。GHOSTの癖に盛りの付いた犬なんだから。
覗くの駄目だし風呂上がりのアイスも食べたら駄目からね。食ったらぬか漬けにしてやる」
ドタバタとお気に入りのキャミソールの肩紐をずらして捲り漢の視線が突き刺さる乳房を晒すと
これもバタバタと風呂場へ乳廻は飛び込む。
一人寡婦の筈の鷲掴乳廻がいつも煩くも苛立つのは同居人がいるからだ。
もっともその存在を知ったときからも其の姿等一回も観た事もない。気配を感じるだけである。
この世界に生まれ存在する乳廻ではあるが其の生まれも生い立ちかなり特殊では有る。
纏めて言ってしまえば今は十と九の歳であるからその五年前迄の記憶はまったくもない。
きが付いたらこの貧民街で十と四齢で行きていた。それ以外の記憶がないから父母の事も知らないし
一切の記憶もない。つまりが家族と言う物がなんなのかも知った事もない。
その代わり彼奴が居る。十と四齢の時に傍と気が付いた時に一番最初に感じたのは空腹だった。
何もわからないくせに何故か常識はあり自分の手に御金と言うものがないと食べ物が買えない事は
理解していた。当然そんな御金なんて代物都合よく持ってる筈もないしどうしたら良いかも分からない。
昼時を過ぎる貧民街市場には室は悪くても食べ物を売る貧銭屋台がやたらと軒先に品を並べる
(金がないんだから普通の方法じゃ手に入らない。でもお腹は減った。なんとかしないと)
あまりの空腹にぐぅと腹の蟲が鳴き声を上げた特、首筋当たりにもぞりと何が蠢く。
それはずるずると自分の背中からはいでてくるような悪寒さえ疼く。
後で嫌でも何度も体験するそれを言ってしまえば、自分の中に屯し寝静まる何かが蠢き背中から
外へとずるりとはいでて来る感覚だ。なんとも言えないその感覚は乳廻の背中からずるっと出ると
誰かが自分の背の上に手を付いて乗りかかってるように思え、膝ががくりと曲がる。
「あれっ。あれれ?」と圧されもしないのに背中が重くも一時的だったのはもしかして気の迷いかと
おもえばじつはそうでもあらずに背の上にのっていた何かが乳廻の背から降りただけだった。
(なんかおかしいな?なんか居るようないないような?変なのが其処を・・・・)
視覚、聴覚、嗅覚。人の五感の其れは得たいの知れない彼奴は待った観えずにも何も解らず
但し、鈍感天然ボケそれから結構せっかちで性格悪しの乳廻でも僅かにむず痒くも感じるのは
人の第六感とでも言うのだろうか。雑踏黒頭に人だかりが行き交う向こうと通りの屋台まで
彼奴は乳廻の目にも他の者の目にも観えず一切観えず、だが然し朝方に降った雨粒が土につくった
溜まりの上を彼奴が通った途端に飛沫が上がる。じっと目を凝らしている乳廻はそれを見逃さなかった。



