屋台巡り仮


大陸世界にもその十弐億とも十四億とも言われる独特の信奉を求める宗教国家・印度螺子丸億國。
一種も二癖もある此の國は悪評が高い。國の入口の空港に立ち下りた瞬間からそれは始まる。
摺り、置き引き、詐欺、誘拐、男女構わずの強姦、陵辱、輪姦ありとあらゆる悪事悪行が抜港する國である。
國営の石油鉱山が上げる利益は確かに莫大でもあるが利益を独占するのは上級市民だけである。
國中に蔓延する悪事悪行を助長してる問題の一因でもあろう。
「屋台主殿。その煎り飯粥をいっぱい所望するぞ」やけに野太い声が屋台の軒先に響く。
「مشروب واحد؟ كوبين؟ أرز مشوي فقط؟
المزيد من الدجاج؟ صب الحليب فوقه؟」独特抑揚が乗る國言葉で店主が長お玉を振りまわしてかえす。
「云々、其の粥を一杯所望する。
えっと、魚は乗っけてくれ、白い液体は牛の乳かな?甘そうだからそれはいらない」
なにやら此の國に着たばかりの旅行者という所だろう。
熱波吹きすさぶ街中で替えた頭を白布で拭きながらもにこやかに煎り飯の釜を太い指で指さしてくる。
巨漢である。此の國の民で無いのは確かでもある。浅黒い肌には変わりないが比べれば黄色味が強い。
せが高ければ腹がずんと前に出る。痩せて細身の体系の方が女性には持てると言われる民の好みでもあるが
にこやかに煎り米飯を待つ目の前の漢の姿は真逆である。
自分の國では女にもてるのかもしてないが此の國ではむるだろうなと心の中で思うも
山盛りに積み上げた飯器にオタマを傾け牛の乳を注ぐ。

さっぱりとした味である。
故郷違えば味わう飯も又違う。寡婦漢児の一人旅とも成れば普段と違う味わいも又一興である。
「うむ、屋台主殿、中々の美味である。儂には物足りなさもあるが、異国風味の煎り飯は旨い。
もう一杯、お代わりを頼む。お・か・わ・り・た・の・む」
ゆっくり口をおおきく開け言葉を発しても自國の言葉であれば元よりつたわりもしない。
「إعادة التعبئة؟ جولة أخرى؟」満面の笑みでものすごい勢いで殻になった飯碗をおとこが突き出す。
「بالكامل,إنه غريب، حتى بالنسبة لنعمة الله」意味解らずとも身振りでなんとなくともわかる。
飯碗を受取りオタマを振り回し飯桶から煎り飯を掬う。

BANG!BANG!
黒頭雑踏行き交う市場の細裏路地をオート三輪車が奔りずぎて行く。
此の國の工業自技術は高くても独特の宗教観と民族性から一度作られた機械を豆に手入れする事は少ない。
余り手入れもされてないエンジンがその時その場所で機嫌悪く咳をするのも良くにもある。
だが然し、BANG!と吠えたマフラー音は確かに大きかった。
「آه、آه、آه、آه・・・」
殻になった銀色の飯碗と同じ様に腹を突き出す異國の漢。
餡・壱噸の目の前で屋台店主は目をむき出して胸を抑え空気を求め喘ぐ。
「大丈夫か?店主殿。苦しそうだが・・・・」
「آه、آه、آه、آه・・・・تسوق من فضلك أحتاج إلى متجرتسوق من فضلك أحتاج إلى متجر」
それはあっと言う間だった。
朝起きてから眠るまでずっと手放す事もないオタマがするり滑りぬけカツンと堕ちる。
屋台店主は餡・壱噸の前で旨を掻きむしり苦しんだと思うと自分の旨を抑え空気を求める様に
喘ぐぎ四肢をヒクヒクと痙攣させると全ての動きを止め糸を切った人形の宛らに地面に崩れ落ちる。
有る種独特の環境で過ごす事を仕事とする餡・壱噸で有るから余り驚かなかった。
否、確かに驚いきはしたが、まぁそんな事も有るだろうと言う位ではある。
それでも人命に関わる事であれば四肢も勝手に動く。
雑多に散らかる小さな屋台店の料理場に回り込むと床に倒れ込む屋台主の頭を抱え支える。
なれた手つきで首に指をそえるが脈はない。
「أبي.أبي.أبي.」
「أأنت、أنت」
直ぐに二人の女性が駆け寄って屋台主人を囲む。
怒声と悲鳴が吠えるとあたりに人だかりが出来る。それもまたあっと言う間であった。

本来、外ノ國の民と成る壱噸であるが、偶然であっても一人の人間の最後に立ち会ったとなれば
ある程度、否応無しにでも突然に未亡人となった女性の側にいてやるのもまた然りである。
「لقد ماتهذا بالتأكيد ميت」
医者である事が屋台店に黑鞄を抱ええっちらほっちらと腹を揺らして走り込んでくる。
頭に巻きつけるターバンが白ければ此の國の漢の民族衣装も白一色である。
結構遠くから走ってきたのだろう。ゼェゼェと肺を膨らして店主を診るが既に事切れてるのも確かである。
幾つもと人の生き死にを共としてきた壱噸の見立てでは店主は心臓発作だろう。
若そうににも見えるが心臓に疾患がある持病持ちだったのかも知れない。
崩れ落ちる黑色一色の民族衣装に身を包む未亡人は一目憚らずもわんわんと声を上げて泣いた。
側に娘らしい女性が母の肩をだき慰めてもいる。
恐らく壱時間手くらいは声を上げ未亡人は泣き続けるも、頬を伝う涙が枯れるとすっと立ちがる。
集まった者たちへの礼とばかりに胸の前で独特の形に指を絡ませ指印を組んで刻む。
それが合図だったのだろう。白い民族衣装の医師が再び遺骸となった店主の脈を測り
止まっている事を確認すると首を降る。宣告が成されたと言うことだろう。
誰かが手配していたのだろうか。人頭の集りを退け別け黒いターバンと民族衣装の男たちが数人
店の軒先に入ってくると店主の四肢を白い帯布でぐるぐると巻きだす。
(俗に言う木乃伊でもいうのだろか?と言う音は河葬と言うのだろうか?
異国の地にても早々に人の生死に手を合わせるとは・・・・。まぁいつもの事であろうか?)
ぼんやりとも頭の中で葬送の思いを感じていると、ワタワタと当たりが騒ぎ出す。
見ていれば数人の漢が屋台主人の遺骸を白布で巻き出す。國においての一般的な葬式とも成る。
屋台店主の遺骸の側でおそらくは長く寄り添ったであろう妻が頭を誰分かれを告げる。
続いて娘が続き、なぜか壱噸が参番目にと促され此の國の作法など知らぬから自國の作法で
頭を垂れ手を合わせる。その後は妻を筆頭に近くの河まで皆で遺骸を担ぎ列を作り練り歩いた・
河岸まで来ると他の者は遺骸から手を話し妻と娘が抱え込み河へと半身を浸して流す。
尤もか弱い女性二人で遺骸を支えて川に流すと言うの結構たいへんでもあり
見兼ねて壱噸は大きな体躯で河に入り半身を浸し店主の遺骸を抱いてやり
妻と娘が本当に最後で有ると祈りと別れを告げる間、店主の遺骸を支えてもやる。
その刻が来たとばかりにおっとの額に唇を押し付け手を握る。
娘もそれに習い手を重ねると、軽く頷き、支える遺骸を流してほしいと促してくる。
此の國の葬式のしきたりは大奥の場合、遺骸を布に包んで街に流れる大河に流す。
いずれば河の魚立ちの餌にも栄養にもなり巡ればいつかは魂も洗われると信じられてもいる。
当に河の波間に消えて久しい夫の遺骸を随分と長いあいだ妻と娘は見送っていただろう。
其の背と傍らに寄り添い碗・壱噸もずっと河藻の果を見送っていた。

「へっくしょん。風邪を召してしまうぞ」
やっとの事で河から上った壱噸が最初に愚痴て吐き捨てる。
隣を歩いた屋台店主の娘がくくっと笑う。少しは元気になったのだろうか。
店主の遺骸を大河に流した後は葬宴だった。料理人の店主なくなってしまっても店には食材も有るし
料理を嗜む婦人が民族衣装の腕をまくって厨房に立ち料理を作っていく。
葬宴おとなれば近所からも通行人も顔を並べて卓を囲む。盛況と言ってもいいくらいである。
「へっ、へっくしょん」余り衛生的とは言わぬ河中で長い間も半身を沈めていればやっぱり冷える。
見兼ねたと言うのだろう。母の機嫌を伺い問いかけてから若い娘はい壱噸に着替えを渡してくれた。
此の國の民族衣装であるが、当然ににあうはずもない。屋台店主のは細身だった。
体躯の大きい壱噸が着込めば寸法もあわない。ぱっつんぱっつんである。
その姿を観て娘は声に出して笑う。遠くで妻も呆れたように苦く微笑んでいる。


「あの~~。どうしてこなったのだろうか?
出来ればきちんと説明して頂きたいのであるが・・・・女店主殿」
碗・壱噸は旅行者である。上辺だけではあってもだ。
だから、・印度螺子丸億國営空港から比較的安全で料金のボッタクリもないタクシーを故意にさけ
荒い運転も陽気に振る舞いわざと遠回りするオート三輪車の運転手にも文句も言わず
とりあえずは此の御國の職を味見しようと出来るだけ庶民的な小さな食堂に顔を出してみた。
正直に本音を漏らせば熱気籠もる此の國と街の風土では体力も消耗し易い。
比較的に味の濃いものや香辛料が聞いた食事が好まれる事が多いが店主が差し出した粥は味が薄かった。
不味いというのではない。寧ろ香辛料で燃える胃を労り正す優しい味でも有る。
偶然にもそこで立ち寄った店で粥を一杯腹に納めた。
運命の悪戯が起きたのはオート三輪車のエンジンが機嫌が悪かったせいだろう。
小さな店を切り盛りする屋台の主人は近所でも余り評判は良くなかった。
料理の腕も余り良いとは言えず、香辛料が聞いた食事が好まれる時勢において甘い牛乳の煎り米粥を出す。
ギャンブルを好み店が跳ねた後に賭場に足蹴なく通うが負けるの為に通っているようなものであった。
それでもわきまえているのかその日の財布に入っている額の量にかかわらず一定の金額を負けると
鼻の頭をポリポリと嗅いてさっさと家に帰る。大体決まった時間に店の二階の住居に帰ると
湯船につかり汗埃を流した魅力溢れる妻を愛でる。
あれこれと問題はあっても極々に普通の屋台料理屋の主人でもある。
運悪くオート三輪車のマフラー音の爆発に驚いて心臓発作に見舞われたの運が悪かっただけでも有る。
だが然し、運の巡りが悪いのは寧ろ碗・壱噸の方だろう。
不味くはないが甘い牛乳がたっぷりかかった粥を喰らい、満腹にはほど遠くもお代わりを所望したが
あとは知っての通りとも成る。
問題は屋台店主の河葬が終わった後の藻宴である。
此の國の葬式は遺骸を大河に流した後に故人を偲んで宴を行う。
故人の財力にもよるが大抵は三日も四日も続くものであるが飽く迄も財力次第ででもある。
小さくても食堂であるから食料はある。それを材料と呼べば料理が作られ藻宴の客に振る舞われる。
酒もそうである。この國の酒は結構強い。壱噸にしてみれば自分でも結構に強いほうだと思っていた。
それでも何故か屋台店主の馴染客が次々と酒杯を掲げ理由のわからない言葉で寄ってくる。
其の度に強い酒を飲み干し故人を偲べば酔も回るだろう。
妻と娘に尻を圧されて店の二階の部屋のソファに転がったのは覚えてる。

半分は仕事であるも半分は観光でもある。
空港から真っ直ぐ街の隅の小さな食堂に脚を運んでいる。
運の巡りも悪く店主が妻と娘を置き去りに天に召されたのはしょうが無いだろう。
残された妻と娘の心中を察し異国の漢でありながらも礼儀を尽して河葬も立ち会う。
その後の喪宴にも参加し言葉解らずとも赤ら顔で酒杯を掲げる群客にも身振り手振りで話し込む。
だが然し、問題は次の朝である。
さすがに喪宴での酒数は随分と進んだのも確かである。昨夜の寝床は屋台食堂の弐階のソファである。
確かに少々飲み過ぎで頭が呆けていたのは事実でもある。
世話になったとばかりも顔を水鍋の湯で荒い妻と娘に礼を告げようと弐階から下りてくると
「المنقذ、المنقذ、بسرعة، من هنا」自分の父を無くしたばかりの娘が何故か嬉しそうに駆け寄ってくる。
酒に強くても飲み過ぎであれば頭も呆ける。國の言葉でأبي.倭言葉で言えば父様か爸爸もしくはぱぱとなるだろう。
勿論その意味等理解できるはずもないのだが、ずんとつきでた腹に薄汚れたエプロンを
巻かれてもされるがままである。でっかい尻をグイグイとされいつの間にか厨房の鍋の前に立たされる
「أبي.بسرعة، ارفع الطائر、أبي.بسرعة، ارفع الطائر」
急かすように屋台食堂の娘が背を押して急かす。
眼の前に置かれた油を注いだ鍋とバケツの中の鶏を観ればこれを料理しろと言うのは何となく分かる。
「否っ?儂、軍人だし料理とかしないし・・・、コンビニのから上げでいいじゃないのか?」
ワチャワチャと手を動かしバケツから鶏をまな板に乗せて捌き油鍋で揚げると言う料理手順を娘が説明する。
仕草のかわいい娘の姿は観ていて商いだろうが、肝心の壱噸は全く持って料理の経験がない。
独り身であっても軍属であれば喰飯には困らない。軍務の合間を見つけて食堂に行けば好物のカツ丼が食える。
非番の時は小料理屋で定食を腹に収めればそれでいい。つまりは料理に縁がない。
少し注意して周りを見ていれば・・・。
心臓の病で突然に世を去った屋台食堂の主人。妻と娘を残して天に召されたのは運の巡りだろう。
此の國の貧富の差は激しい。宗教権力者が共を貪れば貧民街では戌の如くと残飯を漁るものもいる。
其の界隈で食堂を営むには苦労と運が必要でもあろう。
異国情緒の習わしとしても短くも簡素は河葬のあとの藻宴。形式的であっても葬式を無事に済ませば
その日、次の日にも営みを続けなくては行けない。一日休めば金銭がそれだけ目減りする。
夫と食堂の店主と料理人がいなく鳴れば商売が成り立たない。
食堂の妻と娘に取って夫と父と料理人を失ってはしまったが、太陽の雌女神は二人に幸を恵んでもいた。
やたら体躯のでかい太った異国の漢、碗・壱噸である。
この國では肥ると言うのは大変ある。より多くの食べ物が必要である事は当たり前であり
それを成しているなら料理人か美食家であると示している。自分で料理もこなすだろう。
國事情の違いもある。印度螺子丸億國では女と雌は家庭を護る。影で夫を支えるのが美徳とされ
家族の為に料理をしても商売として料理を客に出す場合は夫か料理人を担う。
代わりに妻が商品の金銭の受け渡しなどを行い助ける。つまり妻は食堂の一角に丸椅子を起き
膝上に小さい丸鍋を抱え込みそこが自分のしごと場であるといっぽも動かない。
「أبي.بسرعة، ارفع الطائر、أبي.بسرعة، ارفع الطائر」
そろそろに店の開店時刻でも迫ってるとでも言うのか。壱噸の周りで声を上げる。

「困ったのぉ~~。何か作れと迫られる気がするのだが・・・
儂が作れるものとかほとんど無いしのぉ~~。









天鼠 蛭姫ノ壱

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