【異世界女装漢児】四の噺【変体】
「げほげほっ・・・。
云々。良いじゃない?これくらいなら私いなくても回せるでしょ?」
「確かにそうですけど。大丈夫です?無理なさらないように」
云々、有難う。アピレルさん。変態熊坊主にサボるなって言っておいて・・げほっ」
最近では貸し切り状態と成っている定宿の一室。
寝巻きの襟元をしっかりと閉じたヒヌヌルが咳き込む。
店で暴れた輩を追い出してから更に数日、ヒヌヌルは体調を崩した。
記憶朧げであっても元々体が弱い方ではなかったはずだが
やはり異世界異国に身を投じれば何処か心も体も緊張しているのだろう。
そればかりが多少でも熱ぼったいとなれば風邪か若しくは風土病と
言う所であろうか。
少し話題を戻すと先程の会話が成り立って入る事に気付くだろう。
異国わたりのヒヌヌルと地元の民のアピレル。
それぞれ違う言葉と風習を持って生きているが以前よりは意思の疎通が
出来るようになっている。勿論、言葉であるから双方が理解を深めて行けば
互いの言葉を理解も出来よう。それでも細かい事になるとやはり不便だ。
言葉が伝わらないと自然と体と手が動く。最初はその都度いい加減に
手を動かしていたがある日ヒヌヌルは思いつく。
大まかであっても言葉を示す手の動作を固定すればよいのではないか?
壱と言う数字を示すなら右手の指を一本立てる。
参なら右手の指を参本立てる。あっちを示すなら指で方角を示す。
これは簡単な例ではあるが言いたい事伝えたいことを手の形で示す。
一つだけではなく次々と組み合わせて行けば単語だけではなく
文章も表現出来ていく。所謂、手話であるがこれも又、この世界には
体系が整った物はなく、二人が独自に編み出した会話方法であり
後にヒヌヌル語とかヒヌヌル手語と呼ばれる物である。
まだまだ体系づけた言葉は少なく不便ではあるが悪くはない。
少なくても気持ちが伝わるし互いの絆も深くなる。
否然し、ヒヌヌルには秘密があった。
いくら身の回りの世話をしてくれると言っても限界もあった。
アピレルは営む店の店員でもあり夫も入れば娘も入る。
プライバシーの尊重は大事であるが不便でも有る。
何しろヒヌヌルは人にばれては成らぬ黙する秘め事を抱えている。
異国人・ヒヌヌルは漢である・・・。
この国の言い回しで言えば漢と雄と成る。
否然し、其の出で立ちは女性であり女と雌。
まぁ出で立ちとして女性の衣服を着込み銀飾りを好む。
下着こそ倭之御國漢児が好む捻り褌であるが
漢共の視線が痛い乳房は偽物だ。
幅広の布を中央で捻って胸板に巻き付け隙間山を作って
其処に布を詰め込みこんもりと山を作って乳房に見立てる。
簡単な誤魔化しであるが効果は有るらしい。
好き放題に伸ばした髪も肩口を超えればそれこそ女髪でもあろう。
薄く化粧でもすれば女は化けると言うが漢も化ける。
外見が女に観れるなら後は心と仕草だろう。
この点においてもヒヌヌルは抜かりなかった。
最初こそは幾度かボロが出そうにもなったやかもしれん。
それでも異国渡人とも成れば少々不審であっても
そういう物だと思ってくれる。
漢の性の身で有り柄も其の反対を演じるのも確かに楽しい。
その時其の日に体調を崩すまではである。
所謂、女装家と言われる輩の弊害は本来自分は漢であると言う事である。
人前で肌を晒す事は出来ない。裸を観られる事が駄目ならは
一緒に風呂にはいる事も許されない。多少なりとも不便で有る。
体調を悪くして病に伏せ看病する側もされる側もままならぬ、
迂闊に汗を描いたから拭いてくれとなども到底あり得ない事である。
此処まで来ると誰かの手を借りなければ成らないが
身近にそれが入るとはおもえなかった。
候補に上がるのはアピレルであろうが口は硬そうに見えるが
娘が噂好きであった。口約束しも何かの拍子に親子であれば
気を許すかもしれない。責める事は出来ないだろうが出来ればさけたい。
「あぁ~~~。メンド臭いなぁ~~~もう~~」
随分と女言葉が身についたとも思うが気は抜けない。
何処で誰が耳聞してるかわからないのだ。
あいかわらず体調がすぐれないし体は重いが仕方がない。
調子が悪い今こそ店を休めるのだしこのタイミングを逃すのはもったいない
抱える問題を全部解決するのは出来なくても少なくても手助けしてくれる
人物を探さなければ成らない。それも早急にだ。
多少ふらついてもなんとか真っ直ぐ歩けているのは精力剤のおかげだ。
何か危ない気配がひしひしと滲むがそれほど大げさな物ではない。
いつも店で使う蛇卵を置いた物に精力が付く薬草と解熱効果のある
動物の皮を潰して混ぜた物である。鼻を摘んでも匂いはキツく味は不味い代物である
それでもまぁ~なんとか人並みに歩けるのは助かる。
ヒヌヌルが当てにしたのは奴隷と言う物である。
朧げな世界と知識を引張だせばあまりいい言葉ではないだろう。
戦争捕虜とか異国の奴隷戦争が記憶に浮かぶ。
白飯を提供する店と市場。それに自分の定宿しか行き来しないヒヌヌルは
噂風で聞いた奴隷と其の店に付いてあまり知らない。
街なかの何処にそれがあるのかも全くもって検討もつかなかった。
あまり掛けられてる時間もないのにと街の裏路地に潜って行くと
いかにも胡散臭い輩が屯してる。
なるべく関わりたくないがそうも言ってられない。
「今日は。お兄さん達。この辺で奴隷を売ってる様な店知らないかしらん?」
ぶしつけてではあろう。それでも意図が伝わらないと困るから
片手でもう一方の手首を掴み奴隷が嵌めているだろう手枷を模して示し
どうにか伝わる事を祈って話をしてみる。
「あっ貴下。異国飯屋の料理人だろ?昨日行ったけど姿がみえなくてさ
ちょっと味が落ちてたぜ。うん?探しものかよ。仕草が可愛いなっ。
うぬぬ?奴隷・・・奴隷を探しているのか?まぁ店は忙しいし
人では多いほうが良いだろしな。云々。此処ら辺にも何件かあるけどもなぁ
どんなのがほしいかに寄るんだが。秘密重視とかだあっちだな」
ペラペラと気前よく話す漢は店の常連らしい。
ヒヌヌルも観た事のある顔だと思い出すし彼女が異国人で有る事も知ってるから
手振りで返してくれる。
強面の癖に以外にも気さくであり互いに固く握手を交わし礼とする。
常連客が教えてくれた奴隷商らしい店は目立たつも堅牢であり
品のある門構え出会った。
「だっ大丈夫かしら?私みたいな田舎者が入っても・・・。
ちょっと怖いわねぇ。えっと。頼もう!
どっ奴隷ちゃんの買付にきたんですけどぉ~~~」
恐る恐るに思い扉を押し開けて屋敷店に体を押し入れると
そこは別世界である。よく考えて観ればヒヌヌルが石扉の取っ手に
手をかける前にすぅ~~と向う側から扉が開き
「いらっしゃいませ。お客様。
本日は当店にお越し頂き有難う御座います。まずはあちらの席へ」
銀髪燕尾服白手袋の主人が憂ややかに頭を垂れて挨拶してくる。
「いや。そんな大層な物じゃなくて・・・あはっ。
遠慮なく・・・いえ・・・あの・・・その・・・」
白い手袋がさっと煌めき室内の赤と黒を基調にした豪華な席へ案内される。
「わ・・・私、異国渡りの者でして。此方の言葉はあまり話せずで」
申し訳無さそうに何度もペコペコと頭を下げるのは小心者か
店の雰囲気と作りに飲まれているからだろう。
柔らかくもちょうどいい硬さのソファに身を沈めてから
改めて執事風の店員に頭を下げて身振りで未の上と要件を伝える。
対する店員もこの客は言葉は話すが其の意味は知れず。
それでも此処が奴隷商の店と知っては入るようであるとも知れる。
ならばいつも通り優雅に接客し商品を用意するだけであるが
問題は客の欲しいそれが何かと言うのがつかめない。
多少疲れた顔つきと草臥れた印象を受ける服装。
細い指はあまり手入れされてもおらず小さい火傷の痕をも観れば
職人だろうか?足元を覗けば踵の低い靴であり土埃もこびり着いてるから
やはり何かの職人と言う所だろう。
そうとなれば仕事の助手代わりに奴隷を欲しがって入る所だろう。
云々。なるほど、外見よりも手先が器用な者を求めてるに違いない。
どの様な職についても即無くこなす無類が良いだろう。
それなら心当たりも何人か見繕える。
「それでは商品をご用意してまいりますのでしばしお待ちを」
優雅にもく凝り一点も無く流れる様な仕草で一例すると執事主人は奥に消える。
さほどの時間を掛けたわけでもないしむしろ短い間であったはずだが
客間に戻ってみると客の様子が一変していた。
先程までの田舎者丸出しのおどおどとした雰囲気と態度はバッサリと消え
イライラとした剣呑としたオーラさえ見て取れる。
「お客様?どうかなさいましたか・・?」
なにか失態を犯したか。否。そんなはずもないと気を取り直すが
先程とは部屋の雰囲気は変わりない。
商品を用意する間にメイドが紅茶とや和菓子を届け持て成したくらいだろう。
それも手筈通りである。
客の機嫌が悪くなる事も滅多にないとは言わないが稀にはある。
難癖をつけに来たわけでもなさそうだから何かの拍子に純粋に
機嫌が悪くなっただけだろう。
一応は紅茶を啜り柔菓子を頬ばった痕も観て取れる。
ここは粛々と仕事をこなし商品を並べ商談に進めばそれで良し
破綻すればさっさと帰って貰うしかないだろう。
そうと決まれば気を取り直して声を張る。
「それではお客様のご要望にお答え出来る者達をご用意させて頂きました。
お気に召した者がいらっしゃったらお知らせを・・・。」
敬々しくも右手で白手袋を上げて指で弾けば奥のドアが開く。
すっと音もなく4人ほどの奴隷が列を成してヒヌヌルの前に立つ。
二人が漢。のこり二人が女。
「お客様がご希望為なるように外見や能力というよりも
賢さと手先の起用さを重視した者達で御座います。存分に吟味なさって下さい」
これはいい商品であると厳選した商品を胸を張って客の前に陳列する。
否然しである。
確かに職人の様に見えるやも知れぬヒヌヌルであるが
機嫌の悪さは先程と変わらない。否、商品として並べられた奴隷の姿を観た途端
更に機嫌が悪くなったとも言えるだろう。
高価なソファに体を埋め肘掛けの上に手を置いて人指し指でポンポンと叩く。
これは観察眼の有るアピレルの娘ソーイが最初に気付いたヒヌヌルの癖であり
何か考え事をしてるか機嫌が悪い。それもとてつもなく機嫌が悪い時の癖で有る。
ヒヌヌルがこうやって入る時はアピレル親子どころか教えてもらったマルカヌさえ
知らぬ存ぜぬをきめこみ押し黙るのだ。
「あの・・・?お客様。どうかなさいましたか?」恐る恐るに声が届く。
「パサパサなの?このお菓子。紅茶は煮詰めすぎなの。
大体、貴下達?御飯美味しく食べてる?
奴隷ってのは主人に尽くすものでしょ?特にこの場は魅せるべき所でしょ?
漢の癖に肌に油塗っててからせるってどんな詐欺なの?
女の子も肌の艶がいまいちだわ。内の店の女中の方が綺麗だわ。
それもこれも御飯がもきゅもきゅの煎り飯だからだわ。
・・・・しょうが無いわね。本当の御飯をご馳走してあげる。
はい。お握りよ。たんっとお食べなさいな。一人一個だからね。」
ソファからのそりと身を乗り出すと腰に抱えた革鞄から
皮布に包んだ異国飯をにぎったお握りを差し出す。
対面に列をつくる商品奴隷もこれには驚く。
自分達は主人の物に成るために陳列されているのだ。
それなのに眼の前にいる女主人は語りかける言葉は最初こそ
棘があったと思えば直ぐに溶けて消え優しげな調子で話す所か
なにやらごそごとと鞄を弄くり包みを取り出す。
これは異様な出来事である。当然自分達はまだ店の商品である。
女主人の意図はわかってもおいそれと従うわけには行かない。
「お食べなさいなっ」
一閃一言、語気が強く跳ねる。
其れは奴隷に身を窶す者にとっては逆らえない命令である。
「有難う御座います」一番左の奴隷女が包みを受け取る。
「頂きますってちゃんと言うんだよ。い・た・だ・き・ま・す」
一つ一つ言葉を切って教えてくれるように話してもくれる。
「頂きんます・・・」
突然のことだし聞き慣れない言葉であったから多少は間違いも有るだろう。
それでも受け取ったお握りの包み葉を半分開いてパクリと食べる。
「おっおいしい。だっ。駄目、止まらない。食べちゃうたべちゃう」
最初は一口、二口とぱくついたが壱度喰らいつくと止まらない。
残りの半分は葉っぱを剥くの惜しくそのまま喰らいつく勢いだ。
自分の昼ごはんとお弁当代わりに持ってきたお握りをど奴隷たちに配っていく。
「ぬはっ。何だこの食物はっ。ここの食事など比べ物にならない」
「美味しの。美味しすぎるの。駄目。もう逝っちゃう逝っちゃう」
「駄目だ。もうなくなってしまった。この先何を食べて行けと言うのだっ」
「いやん。美味しい。なくなっちゃう。なくなっちゃう。でも美味しい」
奴隷の身でありながらも人であればこそ生きる糧には拘りがあるだろう。
飲食という物を得るために主人に尽くすと言うのも又、奴隷の生き方だろう。
「良かったわねぇ。悦んでくれるなら私も嬉しいわ。
此処くらいの店とも成れば御飯位はまともなんだろうけどもさ
この御国の料理はまだまだだしね。云々しょうが無い」
自分の弁当を奴隷に分け与えても感謝されれば悪い気もしない。
まぁ、それでも興が冷めたとでも言うのか疲れが出たと言うのか
ドサリとソファに尻を堕とす。
元から体調が悪いのだし疲れても入る。
弁当のお握りも7個あった内4個も配ったら残りは3個である。
白手袋の主人は様子を只観ているだけだ。
眼の前の光景は長い奴隷商売でもありえない。
客が買い付ける前にちょっかいを出すこともあるし黙って帰る事もある。
まぁまぁ、取り敢えず喉を潤そうとソファに身を沈めたまま水筒を取り出す。
「ちょっとぉぉ~~~、待ったぁ~~~~~」
「お待ちにぃなって下さいませぇ~~~~」
口に含んだばかりのお茶を吃驚驚愕をばかりにヒヌヌルは拭き出しまう。
悲鳴とも雷鳴とも取れる声が5人の奴隷の後ろから響くと
カーテンがバサリと捲られる。気がつけば其処は一団高く一種の舞台となっていた。
「お待ちに成ってくださいませ。異国のお客様様」
「待って下さい。異国のお客様。退きなさいよ。貴下達」
「この店一番の商品奴隷を差し置いてお握りとやらを食べちゃうってどういう事?」
「そうよ。そうなのよっ。ずるいのよ。許せないのよ!
私奴達にも恵んで下さいな。異国のお客様。至極の奉仕を尽くして差し上げますわ」
紅いカーテンを邪魔過ぎるとばかりに跳ね除け
これもまた突然に二人の奴隷が姿を魅せる。美人白麗、奴隷としても一品である。
「何なのよ?貴下等は・・・双子なのかい?よくにた顔だけど
私は買わないよ。なんか興が冷めたし体が思いから落ち着いたら引き上げるよ
まぁ、それでもお握りくらいは馳走してやるけどさ」
いつもの抑揚が低くなり元気もない調子でも包みを二人の前に押してよこす。
「頂きますぅ~~~~。はぐっ。はぐっ。むちゃむちゃ~~。」
「頂きますぅ~~~~。もぐもぐ。むっちゃむっちゃ。美味しい」
差し出された包みから奴隷姉妹はそれぞれにお握りを取り出し頬張る。
カーテンの影で一部始終を観ていたのだろう。
食前の感謝の言葉もつらつら唱えたのもみれば聡明でもあるのだろう。
「お客様?少々具合でも悪いのではないですか?」
先に来た付いたのは妹の方だ。
「あっ。うんちょっとね。無理してきたんだけど。ちょっと限界」
「そっ其れは行けません。こんな美味しい物を作るる御方は偉人で御座います。
医者を。お医者様を。店主人速くお医者様をっ」
「御姉さま。医者様よりも馬車で御座いますの。
此処の空気が悪いのかも知れません。異国帰りの方にはどんより真っ暗ですの。
お前達。速く馬車を用意しなさいっ」
奴隷にも格付けは有る。良く似た顔付きの奴隷姉妹は店の上級奴隷だ。
その一言は下の物に取っては使える主人の下知と一緒である。
更には今さっき至極極上の食事を恵んで貰ったのであればなおさらさだ。
そのお客が具合が悪そうな様子であればほって置けるはずもない。
確かに手先が起用と言っても男性奴隷であれば腕力があって当たり前。
素早く舞台に上がるとあかいカーテンの縁を握るをびりりと破く
そのまま腕を振って離せば見事な連携でもう一人がさらりと受け取り
優しくヒヌヌルの体に掛ける。
「退いて下さいませ。商い主人様。邪魔で御座います。
お水で御座います。異国のお客様。氷を浮かべて参りました」
壱度、奥に下がった奴隷がタッタと戻って来ると商い主人を邪魔だと退け
冷たい氷水を抱えて捧げる。もう一人は先程から手を握り擦っても入る。
「これはお熱がありますね。お飲みに成れますか?異国のお客様?」
云々と唸り始めたヒヌヌルの額に手を当てると其れが火照るとも知れる。
「ちょっと苦しそうで御座います。失礼します。」
差し出された水杯を手に取り縁に口を付け冷たい氷を含むと
勢いに任せてヒヌヌルに口移しで氷と水を注ぎ込む。
「んん・・・。ごくりごぐり・・・」喉を鳴らして氷水の飲み込む。
「御姉様。ずるい。口移しとかずるい。私もっ」
二度目に運ばれて来た水杯を半ば強引に受け取ると妹もヒヌヌルの唇を奪う。
「んんっ・・・ごくり・・・んん・・・んん・・・」
「ちょっと。我が妹よ。ずるいわ。ドサクサにまぎれて舌絡めたわね。この変態」
熱で意識が半分飛んでるはずのヒヌヌルの貞操を姉妹が強引に奪ってしまう。
「御姉妹様。馬車です。馬車が来ました。行き先は?」
二人の男性奴隷は付き合いも長いのだろう。言葉少なくても連携は素早い。
声が掛かるとヒヌヌルに掛けたカーテンでぐるりと丸め四肢を包む。
そのまま体を持ち上げ抱きかかえるともう一人が入り口の扉を抑え
進むべき道を確保し馬車へと駆け込む。
「この御方は東の商い市場の異国飯屋の料理人様で御座います。
彼処の御方が教えてくれました。定宿は蟾蜍の惣菜御宿。その角部屋で御座います」
「相わかった。お前は後ろの馬車にお乗り。店と主にお知らせを」
「貴下は医者に奔りなさい。異国御婦人の宿に脚を運べと申し付けて」
「はい。承りました。姉妹様」役割が与えられるとすぐさまに奴隷達が奔り出す。
ヒヌヌルが定宿、蟾蜍の惣菜御宿に早足馬車が到着すると
伝え聞いた角部屋にドタドタとヒヌヌルが運び込まれる。
最初こそ壱度大きな音がしたけれどもあとはシンっと静かに成る。
息を切らしてその後にヒヌヌルの部屋に入ろうとした医者は部屋の前で
厳つい二人の漢奴隷に入室を拒まれる。
往診は許されないが中から扉を半分開けて顔を出した女奴隷に
患者の様子を聞きなんとか症状を把握して薬を処方する事になる。
幸いな事にこの地の風土病ではあったが指して重いものでなく
多少、熱が出たり脱水症状には陥るが2日3日もすれば回復する物であった為に
薬をちゃんと飲ませれば回復するだろうと言う程度の物であった。
一安心と思った時にの後にも宿に顔を出したマルカヌも
又、部屋への立ち入りは拒まれる。
「うぬ等。何者だ?儂は異国飯屋の仮主を務める者だ」
「なるほど。御夫人様のお知り合いの方で御座いますね。
御婦人様は、病に伏せっております。暫くお休みに成れば回復為さると
お医者様の下知を頂いて折りますが、今はまだ休養が必要で御座います」
面会を求めるマルカスに扉を半分開けて顔を出した奴隷らしき女性が告げてくる。
「だぁ。大丈夫なのか?熱瓜病とも聞いたがちょっと顔を見せてくれるなら
此方も安心出来るのであるが・・・」と食い下がるマルカヌ。
「今はむりで御座います。御婦人様から今は休みたいから誰も通すとなと
きつく申しつかっております。
勿論、お元気に成られたらお顔をお見せに成るでしょうし。
何か所望為さるものがある時は此方から脚を運ばせて頂きます故。
今日はばかりはお引きおり下さいませ」
僅かに開いた扉の向こうからきつい言葉帰ってきたのなら仕方ない。
言い回しに疑問を感じるがどういう経緯でヒヌヌルのところに
奴隷らしい奴等が数人付いて入るのかもわからなぬではある。
それでも何か入用な物もあるかも知れぬからと少々多めの金銭を費用と預けもする。
帰り際に扉の前にズンっと塞がる二人の漢奴隷の姿をに睨み
「気に食わん。何ゆえに拒むのであろうかっ?」
出会って数日ではあるがそれなりに絆の一つも結んでいたはずでは有ると
思っていたのだが・・・やはりまだ壁があるのやもしれんと訝しむ。
「んん・・・っ」
何度かに口の中に冷たい氷が注ぎ込まれ喉を冷たい水が流れて行く。
朦朧とする意識の中では有るが何処か記憶にもある温かくも柔かい感覚が
四肢に触れ。時にむにゅむにゅと波打えば肌に擦って擦る心地よいのも伝わってくる
「はっ。此処は何処?私は何を・・・?
うはっ。裸じゃん。私裸?きゃんエッチ。貴下達誰よっ
何してるのよっ。あんっ。ちょっと気持ちいい。そうじゃなくて。
何処触ってるのよ。其処は漢の子の大事なところよ。駄目よ。
さわっちゃ駄目。いじっちゃダメダメ。あっ。あたしの秘密がっ」
少しは熱が下がり意識が戻った途端に自分の置かれた状況に驚き悲鳴を上げる。
「お目覚めに成りましたか?御婦人様。
否っ。私の愛しい御主人様。私奴の名前はイヌルと申します。
御主人様にお握りを恵んで頂いた性奴隷の一人で御座います」
「私めは妹のパムルで御座います。愛しの御主人様
意識が戻られて成りよりです。幾つかご報告するべき事がありますが
まずは何か果物でも用意扨せましょう」
「待ってっ。待って・・・。なんで裸?なんで・・私・・僕はなんだ。
剥いたのか?お前らが剥いたのか?勝手に裸にしたのか?
説明を求む。説明を・・・」状況が飲み込めないヒヌヌルが真顔で言い捨てる。
それも其のはずである。最後の記憶は奴隷商人の屋敷だ。
確か奴隷の品定めをしていて幾人かに握り飯を恵んでやった。
其れが今見慣れたとも言える定宿の寝室で裸に剝かれ
自分の四肢の右にも左にも全裸の女性二人が全裸で乳房を押し付け
四肢を絡め二人で同時に股間をも弄って入る。
良く似た顔の姉妹のパムルが言ったようにこれもまた薄着の奴隷らしき女が
苺に似た果物を皿に掲げ、イヌルがつまむと口に含み恥じらいもなく
ヒヌヌルの首後ろに腕を回し抱きつくと小さく喘ぐも口移して口中に
食べさせてくれる。
「姉様。ずるいの。私も私もぉ~~~」
姉が喘いで唇を話すと直ぐに妹のパムルも唇に挟んで食べさせてくる。
姉のイムルはある程度節度を持った物であったが
妹のパムルはあからさまにくちゃりくちゃりと紅い舌を絡めて来る。
「むはっ。有難う。でもやっぱりちょっと冷静に成ってくれた前
状況が読めぬ。わからぬ。なんで君たちが入るのだ?
説明を求む。それに僕は異国超えしたばかりで言葉がわからん」
「御主人様はこの土地の風土病。熱瓜病にかかったのです。
普通なら子供の時にかかってしまう。土地の病で御座います。
よその土地からいらしゃったので少々病が張り切ったのでしょう。
私達を品定めした時に熱が激しくなったのですよ。
美味しいお握りを巡んで頂いたお礼に看病させて頂いておりますの」
驚いた事に姉のイムルは言葉と一緒にヒヌヌル手話をつかって見せる。
未だ体系の全てがなされたものでもないが話の大半は分かったし
不明なところは簡単な仕草を混ぜて補う。
「そうなのか・・・有難う。助かったよ。手話を覚えたのか?
そう言えばアピレルと相談して羊皮紙に記録していたけども。
それにしてもすごい。助かったがあの店に戻さなくはならないな」
「其れには及びません。愛しの御主人様。
既に姉様も私奴も御主人様の物で御座います。ぬふふのふ。」
その妹。パムルも姉ほど悠長ではないにしろ手をくるくると動かし
手話を使って伝えてくる。
「否否。確かに僕は奴隷店に言ったけども
品定めの途中だったはずだ。商談が成り立ったわけでもないだろう?
それでいてお前達は店から出てここに入るのは不味いだろう?」
「ご心配にはお呼びません。御主人様。
我等にとってはそうお呼びするのは早計と知りますが・・・。
少なくとも姉妹様方に至っては接吻による契もなされておりますし
我等もお握りを恵んで頂いだ恩義が御座います。
商売契約が成されていなくも御主人様への恩は生涯の忠義で
お返しさせて頂く所存で御座います」
一時的にでも部屋の見張りを中断してヒヌヌルの前に傅いく
ヤサクレロとヒサムリと名乗る漢奴隷二人は手話を話せない。
外で見張りをずっとしてたから羊皮紙を覗く時間がなかったのだろう。
それでも発する言葉に胸元でパムルが手話で言葉を訳す。
「そうは言ってもお握り一個だぞ?確かに美味しい食べ物で或るかもだけど
お握り一個で生涯の忠義を捧ぐとは大げさではないのか?」
「そんな事はございません。あんなに美味しい物を食べさせて頂いたのです。
確かにあの奴隷店の質は上の上でしょう。与えられる食べ物も質が良い
物ばかりで御座いました。否しかしで御座います。
あんな美味しい物を壱度でも口にしたら何を食べても魚の皮ほどの味しかしません
至極幸せな味を押し付けて置いて今更返れとは殺生で御座います。御主人様」
するりとヒサムリの脇に傅いたキキペと知れる女奴隷が言葉を紡ぐ。
「其れは。そう顔も知れないが・・・。店の主人の対面もあるだろう?」
「あの場合。しょうが無いとは思います。
私達が勝手に店を飛び出したのは事実であっても
あの主人は何も出来ませんでした。事が起きても呆然としてるだけで御座いました。
本来、お客様が手前どもの店で倒れてもしたら店の責任で御座いますし
むしろ何もしなかったのは店主の落ち度で御座います。
私奴達の代金などは適当にお握りでも凪げておけばよいのです」
これも又パムルが訳してつ和えてくれるが当人の名をルヌキというらしい。
「なるほど。有難う。大体は理解したけどもやらないといけない事も多いな。
まずはしっかりと体をや休めないと行けないし気になることも或る。
その前にイヌルとパムルとやら?いつまで僕のお稲荷様をいじっているのかね?」
「いやん。ぷにゃぷにゃで可愛いですのっ」
「おやん。ぷるんぷるんで楽しいですのっ」
「いい加減にしろ?変態奴隷め。主人のお稲荷様で遊ぶな。変態め」
こればっかりは言葉が伝わらなくて仕草で理解できた。
イムルとパムルの頭が軽くこづかれ笑い声が上がる。
「もうちょっと煮込んでもいいわね。米の形が崩れるくらいよ。
キキペ。宿の厨房から塩と鶏卵貰って来なさいな。
長く泊まってるだから其れくらい我儘きくわよ」
髪を結い直しいつもの女性の服に薄めの外套を羽織り宿先で木箱にヒヌヌルは座る。
簡単では有るが軒先に料理釜をつくり鉄鍋に米を炊く。
「御主人様。其れがお握りになるのですか?随分。汁気が多い気がしますが」
「云々。これは御粥という奴よ。
言わば病人が食べる飯飯って言うところね。具を加えて普通にも食べるけど
胃が弱ってる時とかね。食べやすいし力をける為の食事よ」
まだ調子もよくなさそうなヒヌヌルの脇で不思議そうにルヌキが鍋を覗き込む。
成り行きで頭数が増えると流石に前の部屋では狭すぎるので
参階の部屋を借り直しす。イヌルとパムルは上級奴隷とやらで
他のものより格上らしい。基本は主人にべったりらしいが
主に自室や寝台で尽くのが仕事らしい。キキペとルヌキは主に
主人の身の回りをこなすらしくもある。
残る二人の男性奴隷ヤサクレロ、ヒサムリは護衛などをこなし
主人を守るのが常らしい。
今は二人とも奴隷店と仲間が待つ市場の店に出向いて用事をこなしてる。
そうもしてると鉄鍋の上で蓋がグツグツと音立てて傾き御粥が煮えてくる。
奴隷商として失態を犯した。
なんという恥であろう・・・。
半日も前であれば当店の、否に自分の店の商品奴隷であった一団。
主人とは言わずとも商主人として自分を忠義を尽くしていたヤサクレロが
今、この時には燐と目の前に立ち書状を突き出してくる。
忠義と献身を捧げるべき主人を得ると言うのはこれ程までに奴隷にとって
大きな物なのだろう。元から背は高い方であるがいまは其れよりもずっと高く感じる
恐らくは気迫の違いであろう。
「とっ。当方は其れに依存はない・・・。
そっ。其の達者でな。・・・皆にも伝えてくれ」
「はい。お世話になりました。店主殿」
ヤサクレロはおそらく弐年位はこの店に居ただろう。
長いようであってもこうなってしまっては短くもある。
本来であれば喜ぶべき音であろうが胸が詰まるのは
自分も歳をとったということだろうか?何とも涙腺が緩むのが辛い。
燐と粛々と言葉を綴り一礼するとヤサクレロは晴れやかな足取りで店を出ていく。
手元に残されたのは一通の書状であり売買契約書である。
突発的な出来事と大事に至らずとも厄災に見舞われたと言うのに
短い時間できちんとした書類を作って寄越すとは中々の御婦人である。
弁えていると言うよりは良く知っていると言う事だろう。
イヌル・パムル姉妹の看板奴隷を最初に他に四人。
姉妹は店の看板奴隷とも言える存在であり、他の者も差異はあっても
引けを取らない立派な商品奴隷であった。
未だ在庫は有るし、直ぐに次の商品をも仕入れる事も出来ようが。
ふむ。自分も精進しなければならんと店主は書状をもう一度覗き込む。
彼ら禄人の料金は金銭では支払われない。
珍しい事では有るが店主自身が納得して合意したのだ。
奴隷6人の代金。其れは今後参年間の異国飯屋の優待権利である。
好きな時に主人は店に行く事が出来、例え他の客が列を作って
待って居ても女中に直接注文すれば最優先で食事に有りつける。
どんな料理もただで食べる事が出来る。出前も可能だと言う。
勿論、此方は出前に掛かる運送費は取られる事にになるが
好きな時に好きなだけ異国飯屋の料理が食べられるのだ。
金貨50枚、否に其れ以上の好条件である。
書状を観た瞬間、店主はうぬんと相づちを売って即断し了承したのだ。
訳もあった。
店主は無粋、無知な事に彼女の店の事を知らずにいた。
商売人として全くもって恥ずかしい事であった。
仕事からあちこちとである事はあっても大抵は馬車中である。
せいぜい。馬車籠の中から外景色を垣間見る位だ。
市場の近くまで行っても馬車から降りる事は少ない。
もっと自分の脚で歩いて周りを観るべきだと苦く思う。
支払いを金貨以外でもと承諾したのはあのお握りである。
これも又。恥ずかしい事ではあるのだが、渦中の騒動が一段落し
店に取り残された時、目に入ったのが葉包みのお握りである。
偶然か創造神の恵みなのか、先程まで御婦人が座っていたソファの肘掛けに
お握りが一る転がっていたのだ。
奴隷たちはそのお握りを口にしてから態度を変えた。
忠義を尽くすべき主人は御婦人であると一瞬で知って悟ったのだ。
高が一個の握り飯である。だが其れは奇妙な形もしていた。
この國、この土地に飯を握ると言う食べ物はなかった。
米は浅い鉄鍋で少量の水を加え手早く炒って仕上げる物だ。
常にパサパサで食べてもきゅもきゅという食感しかない。
さほど味もないし硬い。取り敢えず口に入れて何かの飲み物で胃に流し込む。
そんな食べ物である。
否然し、異国拵えのお握りと言うのは違うらしい。
ふと自然に脚が勝手にソファに駆け寄ってしまう。
肘掛けに顔を寄せて異国お握りをじっと見つめる。
米粒の塊と言うのは何とも不思議でも有る。土地の米はパサパサだから
丸く固めると言うのは絶対に無理だ。それに色も真っ白と言うのも不思議だ。
商売目とでも言うのか?間近でじっと見つめていると自然を口中に唾が貯まる。
仄かな甘い香りがわずかに鼻腔を擽ると、もう我慢できない。
これは、窃盗である。これは盗み食いである。
奴隷商人と言えでも真っ当に生きてきたつもりでは有る。
例えお天道様をまっすぐ観るのが辛くなる商売であっても
仁義、人道から外れるのは好かんと言う人生を歩んで来た。
だが然し。否しかしに・・・・。
恐る恐るのばした手はお握りを掴んで口に運んだ途端、稲妻と化す。
「なっ。もぐもぐ・・・もぐもぐ・・・。
何だ、これはっ。この世食べ物ではない・・・もぐもぐ・・・。はみゅっ
なっ。ななってまった・・・・ぐはっ。何だこの紅茶は!渋すぎる!」
閃光眩電光石火。
元々、女性の手で握ったものであるからそんなに大きな物でもない。
然し米粒がぎっしりと詰まり塊食べごたえもある。
何より噛めば口の中に甘みがじわりと広がると中には焼き魚の具が入ってる。
米の甘さと焼き魚のしょぱさが絶妙で堪らない。
あっという間に口の中で溶けてしまったのが残念で仕方がない。
しかも最後に手を伸ばした客に用意した紅茶は渋すぎて飲めたもんじゃなかった。
「お握り・・・・こんな食べ物が世にあったというのか?
これでは彼奴等も主人と認めて当たり前であろう。・・・儂の完敗である」
勝負事ではないのにも関わらず呆然と惚ける奴隷商人。
「御主人様・・・・?お握り。独り占めになさったのですか?」
はたっと我に返れば当然の如くメイドと奴隷達が鬼面で此方を睨んでいた。
「本日より、輪が愛しくも凛々しくも敬愛する
ヒヌヌル様にお使えする事になりました。
ヒサムリと申す一介の奴隷畜生で御座います。
まずは皆様にご挨拶に炊さん致しましたが、詳細は後ほどに。
あつ。ヒヌヌル様のご溶体は安定しております。
もとより熱瓜風邪で御座いますし大事には到りませぬが
何せ異国渡りの御婦人でも有りますゆえ、今暫くは養生為さるとの事です。
御婦人様のお世話は私共が行いますが、明日からは皆様のお見舞いも構わぬとの事
心配を掛けて申し訳ないと大変恐縮成っておりますが
まずは、幾つかの食材と調理道具を所望なさっておいで御座います。」
突然に今や繁盛店極まり疑いなしと噂される異国飯屋にやたらと
肌を露出させた背の高い漢が姿を見せる。
それと知れれは奴隷の輩と知れるが女共は眼福然りと頬を染める。
マルカスよりも恐らく背は高いかもしれない。其れでいて筋肉質でもある。
かと言っても戦士憮然と力を鼓舞するわけでもなく燐と背筋を伸ばし
極々、礼儀を重んじて頭を下げるとなればマルカヌも毅然と態度を改める。
「相わかった。姉御が言って貴殿を寄越したなら間違いないだろう。
店の事は任せておくと良い。入用な物があるとな。
火急であればこそ、直ぐに揃えよう。いかなる物であるか?」
「はい。異国飯屋筆頭番頭マルカヌ殿。
輪が愛しくも凛々しくも敬愛するヒヌヌル様が所望しておられるのは
此方で御座います。それと慎ましながら・・・苦言を申しても降りました。
昨日の御飯が少々味が薄かったのではないかと?
えらく心配しておられる様子でした」
「何だとっ。姉さんが言ってたのか?其れは大変だ。
確かに昨日は姉さんが倒れて我等だけで調理した最初の日。
あたふたしたのは確かだが・・・。
有無。明日からはそうならないように対処しようぞ。
おいっ。今日は早くに店を締めるぞっ。文句を云うな。お客人。
残りの客の代金は五割引にする。昨日今日の客には申請してくれれば
同様にする。まずは料理人共を集めろ。再確認だっ。」
苦言とは大げさで或るかもしれない。少々大げさな物言いであっても
ヒヌヌルが路地で聞いた客の舌は確かであったのだろう。
それを店の大事と捉え早仕舞いするのも料理屋の大事な仕事でもあるのだろう。
グツグツと具材煮込まれる少し大きな鍋の周りを薄手の外套に身を包んだ輩が囲む。
鉄鍋の中にお玉を入れてかき回し時より表面をなぞってアク汁を取るのはヒヌヌル。
「なんですてちゃんうです?親方様?せっかくの煮汁ではないのですか?」
「これは肉や具からにじみ出るだけど、そのままにしておくと不味く成るんだよね
鍋物はいろんな具を一緒に煮込むだろ?だから混ざると不味く成る成分を
こうやって掬ってとってやるんだ。そうすると美味しいところだけ残るんだ」
まだ、少し体がだるく重いのだろう。時より横をむいて咳の一つも吐き出してしまう
「大丈夫ですか?ごしゅじ・・・・親方様。
でも不思議ですね。この國、この土地では大量のお水で食材を煮る料理って
少ないのですが。これはなんと言うお料理なのですか?」
「う~~~ん。思いつきって言うか。早く直したいしね
精の付くものってあまり思いつかないしさ。取り敢えず芋鍋?
お肉も野菜も入っているけど。まぁ病み上がりの時とか力つけたいしね
そろそろいい感じだね。ほら、キキペ。椀よこしなよ」
頃合いだと観るとついつい癖なのだろう。
病に伏せる自分の為に作った芋鍋であるが、自分以外の物に先に振る舞ってしまう。
「そんなっ。私奴は後で宜しゅう御座います。最初に親方様こそ」
奴隸身分のキキペにとっては親方と言うのはまだ成れぬ。
それでもヒヌヌルは料理人の意地もあるからお玉を握る時は親方と呼べと言いつける
「はいっ。ハイッ。親方様!!お・や・か・た。様
芋の鍋汁下さい。私が一番です。芋汁芋汁ぅ~~~」
「ちょっとずるいですっ。イムル姉さま。
一番最初は親方様に決まってるのです。次が私奴ですのっ。芋汁下さい」
それまでは参階の自室に籠もっていた姉妹が何処で嗅ぎつけたか
戦場を駆け抜けるように階段をすっ飛ばし疾風さながらに突っ込んでくる。
イヌルはそこそこに大きい椀を握りしめ、パムルはそれよりも大きな椀を突き出す。
「部屋でゴロゴロしてたくせに。何様奴隸なんだろうねぇ~~~。
それでも皆可愛い奴隸だし、ちゃんと並ぶんだよ。多めに作って有るからさ」
「親方様って優しぃ~~~。でもこんなに美味しい食事してたら太っちゃう」
「其処は大丈夫。親方様に跨って運動すれば相殺できちゃうわ。毎晩よっ」
食を喰らった分以上に運動すれば其れは確かに良いだろうが、床に伏せる主人を
襲うと公言されると気恥ずかしさを通り越しむしろ清々しいと言うものである。
「お手やわらかにお願いしたいものだわね。
さてっと、頂こうかしらね。うんうん。おいしそう。頂きま~~す」
「頂きま~~すっ」話す言葉が詩に聞こえるヒヌヌルの声を真似
同じ様に倭之御國言葉で感謝の儀式を済ますと皆、一心不乱に芋汁を啜る。
一家、家族。大酒飲みのろくでなしの夫と聡明な子供立ち5人ほど。
自分を含めて7人となれば夕飯作りは大仕事である。
ましてや大酒飲みの夫より育ちざかりの子供より何より自分が一番
食に拘り大食いとなればこそ右手に網籠二つ左手に包み布が三つ。
小太りの背後ろには背負包みを二つと抱える。
近所でも有名ところか寡黙であれど喰らう飯に拘り持っての美食主婦と
其の名を馳せる叔母さん一人。
其の脚がたった今通り過ぎた宿の軒先を三歩進んで弐歩戻る。
「御幾らかしら?大椀と中椀で御幾ら?」
椀を啜るルヌキの前にずいっと顔を突き出してくる。
「うぬ・・・。御婦人。これは身内の食事であってな。
親方様の料理は確かに旨いのだが、本体は病人用の食事らしい。
健康な者が食べては駄目だとか決まりはないだろうが・・・」
「貴下等、東市場の異国飯屋の料理人だろ?
此処2日ほど料理主が休んでるようだけど貴下だろ?
何より、あの店の魚腸味噌つかってるのが証拠だね。
私の鼻は誤魔ないよ・・・・」
前を只、歩き通り過ぎただけであろう。
それだけで芋汁につかってる魚腸味噌の香りを当てるとは強者である。
「大椀が銅貨参枚。中椀が銅貨弐枚。
持ち帰りなら蓋付きの椀が良いかと思うけどね。食通極まる主婦の叔母さん」
ヒヌヌルも叔母さんの噂くらいは知っていたのだろう。
忙しくお玉を振り回す夕方にちらりと顔をあわせたのかもしれない。
「助かったよ。蓋なら大丈夫。東の市場までは遠いからね。
うんうん。これは芋汁って言うのかい?ついでだから味見に一杯。
小椀でくれるかい?」云々と頷くと叔母さんは背中の袋から
椀を幾つか取り出して並べる。当然、蓋付きである。
少し咽るも手を振って良しと下知をヒヌヌルが下す。
「ふむ。親方様が仰るならよかろう。
小椀の分はサービスで。それにしても椀を持ち歩くとは大変であるな」
「貴下の店が出来てからだよ。この辺の者は皆そうしてる。
椀を持っていけば安くしてくれる店も増えてきてるしね。
そのお肉も入れておくれよ」
未だ成れぬ手付きであれど強請られ肉片を掬ってルヌキがお玉で掬う。
「やれやれ・・・。親方様の料理は上手くて当然であるが。
それにしても寡黙であれど喰らう飯に拘り持っての美食主婦殿の
嗅覚もすごいであるな。眼の前を通り過ぎただけで其の匂いの中に
魚腸味噌の香りまで当てるとは強者であるな・・・あっ」
椀の中の一汁一滴も残さずに啜って顔を下げると鍋の前に人影が並ぶ。
「お幾らかしら?中椀と二杯と大椀一杯で」
しとやかではあるが既に買うき満々で手提げ籠から椀を差し出す若い主婦が告げる。
「こっ。これは身内の食事で・・・。病人用の・・・」
慌てて言い訳するヒサムリに咽ながらもヒヌヌルが手を振って寄越す。
「中椀で銅貨弐枚。大椀で銅貨参枚。味見を所望なさるなら小椀で無料である。
コホンと口元に手を添え言い放つ。
最も言い終わる前に新婚であろう新妻風情の主婦は椀を重ねてキキペに渡してる。
「やれやれ・・・。落ち落ち病に伏せる事も出ないとは料理人身寄りに尽きるのかね
ヤサクレロ、店に疾走って。味噌と芋。それと鍋を取ってきておくれよ。
どうやら一働きしないと行けないようだからさ」
咳払い一つにやれやれと首を降るヒヌヌルの鍋の前に人だかりが出来て集まり始める
「おっ親方様。これでは我等が食する分がなくなってしまいます。
其れは何とも悲しくも辛い処遇では有りませんか?」本音をヒサムリが漏らす。
「客が求めるのなら料理を出すが料理人だろ?
宿の軒先でも店は店だしね。品書き描いておくれ。地面の上でいいよ。
貴下等にはちゃんと賄作ってやるからさ」
賄を作ってくれると言う下知が下ると納得したのかヒサムリも黙る。
| 異国飯屋の薬膳芋汁(奇病万病・虚弱改善の見込み有り・病は気から) |
| 中椀で銅貨弐枚。大椀で銅貨参枚。味見を所望なさるなら小椀で無料 |
登場人人物
| ヒヌヌル | イヌル |
| マルカヌ | パムル |
| ペリル | ヤサクレロ |
| トングル | ヒサムリ |
| プリグラン | キキペ |
| アピレル | ルヌキ |
| ゾーイ |
置字
置字
置字
