月額幼妻。其の弐

倭之御国を深海深く潜り離れる事弐ヶ月と十弐日。
斎玉子弐蔵が乗り込む潜水艦。
彼は窮地に堕ち言っていた。
戦神の慈悲に恵まれなかったと言えばそれだけになるが。
敵性駆逐艦を見つけたのは良いが。
いざに攻撃を開始するその前に逆に敵に見つかり攻撃を受ける。
敵駆逐艦の爆雷が雨と槍と潜水艦の頭上に降り注ぐ。
致しかたなく深く潜るしかないとしても限界は有る。
海底深くに逃げて潜っては見ても駆逐艦の爆雷の数は減らなかった。
せめて出来る事と言えば身を固くして身動きせず音を消すくらいしかない。
弐蔵がソナー・無線機担当で有るように敵駆逐艦にも同様の士官がいるのは当然だ。
いくらエンジンを止め息を殺しても僅かにも物音を立てれば駆逐艦のソナー係が聞き逃さない。
たった一つの足音でも彼らの耳にそれが届けば再び三度と爆雷が降ってくる。
生きた心地がしない時間が只々に過ぎて去く。
前回に陸に上っておよそ十四ヶ月後。
その日。斎玉子弐蔵は緊張していた。
寡婦暮らしのマンションに帰って来たのは一週間と3日前。
最初こそ命からがらにとあの戦闘を乗り切り無事に陸に上ったと喜んでもいたが
部屋のあちこちに有る二人用の家具に温もりを感じてしまう。
避けて遠のけた思いが蘇る一週間と四日目。
弐蔵は我慢出来ずに携帯のアプリを叩いて画面を呼び出す。
当然の如くと以前一緒に暮らしたぺったんお胸の結衣香の名前を探すが
それが見つからない・・・。
そんなはずが有るはずがないと一人勝手に想いこみ。
最初は検索機能を使って見ても該当がないと知れると。今度は最初の画面からに。
携帯の画面を突いて結局にと登録してあるすべての人物を確かめる。
それでもかつて数ヶ月を仮夫婦として一緒に過ごしたあのぺったんお胸の結衣香はいない。
そこに見つからないと言う事は結衣香自身が登録を抹消したのだろう。
壱年と数ヶ月は決しって短くはないのかもしれない。
人の情けも時と徒然に・・・。
月額払いの妻を演じる必要がないと言うのなら良い漢でも見つけたのに違いない。
理由はどうあれ貧乳の妻と会えない虚脱感に弐蔵は強くも落胆する。
その後の事はあまり覚えていなかった。
だからこそに・・・。
ぴんぽんぴんぽんと二度ドアベルを鳴らしマンションの玄関に立つ女性。
その姿に弐蔵は息を吸って止める。反対に瞳は大きくと開いたままだ。
倭撫子・・・。
日いずる帝国倭之御国において理想の女性と称さえる其の言葉は
弐蔵の瞳に映るただ一人の女性の為に有るような言葉で有る。
「初めまして。御夫様。今宵より仮初とは言え妻として仕えさせて頂きます。
しずゑと・・・斎玉子しずゑと申します。可愛がって下さいませな。御夫様」
これも又に長い髪を倭結いに纏め長いまつげをぱちぱちと閉じて深々と頭を下げる。
今風に言えば何処ぞの雑誌モデルかと言えば旧貴族良家の娘かと言うほどに
淑やかに美女である。艶やかなまつ毛と切れ長の瞳。
綺麗に筋が通る鼻筋に明らかに厚くぽったりとした唇。
それだけに留まらずも倭和服を艶やかに着こなせば其の上からもはっきりとわかるくらいに
帯の上の胸元が大きく膨らむ。倭之御国の和装となれば少々古臭くも感じてしまうが
昨今にしてみれば其の姿も新鮮に思える。
上品な紫色の帯で胴体を締めるが其の下に続く腰と尻はこれも又見事に膨らみ
以前に仮嫁と認めた意地悪な幼妻と同じくらいかさては少々大きいかとなる。
「こっ。好みだ・・・」言葉図らずについついに口に出してしまうと
「まぁ~嬉しいで御座いますぅ」とぴょんと跳ねて弐蔵の腕中にしずゑが飛び込む。
「私奴。少々眼が悪くて御座います。普段は眼鏡をかけているのですが・・・。
良くと御顔を拝見させてくださいませ。旦那様」
腕中で上目つかいで見上げるしずゑの顔にみまにまと頬が緩むのをも弐蔵は止められない。
