小餓鬼族英雄譚:A story of an Goburin Lord .Ⅶ【少年人形】






人の頭がつぶれる刻・・・。
潰される側の人の瞳には何が映るのだろう・・?
白く滴る汗腹に映えるごつい拳腕がブンっと唸って顔が半分潰れると地面に転がる。
地面に尻餅つき転がる漢の前にドスンと脚を踏み鳴らし塞がるとふぅふぅと鼻息粗く慈悲も憐れみもなく振り上げる
拳が堕ちて来る。どぴゅっと二度目に降りてきた拳が頭を潰す。
外皮膚が裂け頭骨が砕ければ脳髄が潰れて飛び散る。
乱戦著しくも激しき混乱招く戦場となれば終一瞬のその前に肩を並べ剣を構える友兵の頭が小餓鬼族に潰される等に
気を取られてる暇はない。次の時には自分にそれが降り掛かってくる。
特に白腹揺さぶる小餓鬼族は他のそれに比べ体躯がふた周りほど大ききと思えば腕力はその数倍である。
互いに憎悪に瞳をもやし迫りくる拳腕と剣を交え命のしのぎを削る戦さ場では力の無さと運の無さは失命に直結する。
故に一兵にしか足りぬ少年が頭を潰されて息耐えたとしても敵にとっても味方にとってもそれこそ取るに足らない
命の一つでしかない。それほど間に巣溢れを起こした小餓鬼族との戦は激しくも又に悲惨の一歩を辿る。



それが最初に動いたのは首だ。
何故か当然に、たった今白肌揺する小餓鬼族の拳が頭を砕いたばかりと言うのにその首が持ち上がる。
次に首をもちあげたままぐいっと半身を起こしたと思うその腕を大地に踏ん張り勢いを付けて跳ね上がる。
不自然ではある。最初に頭を潰され脳髄を滴らせたまま勢いを付けて手が地面を叩くとぐんっと四肢が
跳ね上がり勢いが乗り空いて前のめりになる体勢を今度は片足をずいっと出して崩れるのを防いで魅せる。
だが然しありえない。何度観ても顔頭が潰れ髄汁も垂れているのだ。あり得ることではないだろう。
影響は有るのだろう。なんとか地面の上に立って入るがどうやら片脚の骨も砕けているらしい。
当人は真っ直ぐ立って居るつもりであっても軸となる脚骨が砕けているのでは真っ直ぐ経つのも難しい。
それでも頭を砕かれ脚の骨が折れていてもその遺骸は立っていた。確実に遺骸のはずである。
周りでは白腹の小餓鬼族共と先週に兵科訓練を終えたばかりの新兵達が小餓鬼族の拳爪を防ぐために
安鉄の盾をかがげ目をむき出して必死に堪えている。
離れた丘上でその戦を記録す戦絵師でさえ立ち上がった遺骸の姿を目に止め気づいても真逆頭が
潰れてるとは思わずにふらりと歩を進めた遺骸の立ち姿をなんとなく羊皮紙の上になぞっただけ出る。
意識もせずにその頭が潰れて居るのも観てと得れてそれらしく書き込んではいるが絵師の筆指が
勝手に奔っただけでありその瞳は凄惨にも無情にも只繰り返さえされる惨劇絵巻の一部に
しか見えてはいない。当然の如く後に白腹戦争と呼ばれる戦絵巻の一端を綴るだけである。
頭が潰されて居るのなら当然の如くと。
その周りは見えやしない。見えないのだから当然に視覚による情報を習得は出来ない。
状況がわからなければ進むべき方法もわからないはずであるがその意外はくるりと真後ろに向きを変え
とぼとぼと歩き出す。目をつぶって歩くとなれば乏しくでも手を前に突き出して何とか歩く人のように
なるべく手を前に突き出し周りを確かめならが歩いてはいくが上官兵から見れば前線逃亡にしか見えない。
それに気づいた輩が指揮棒を振り回し怒声を上げるがその遺骸は気づいてないのだろうか?
ヨタヨタと腕を突き出し脚を引きずりながら兵舎の方へと歩いて行くだけである。
誰もが変な奴がいると気が付かないわけでもないし実際に歩く遺骸をけが人と誤解して
近づいてくる衛生兵もいる。もっともその遺骸の側に辿り着く前に
「おいっ?何をしてる。お前、平成兵だろ?自分で歩いてる奴なんか放っておけ。
病院天幕で人手が足りないのはわかってるだろ。早く行け。いけってば」
後肩をちょっと好みの髭を蓄えた将校に促され気を取られた隙によたよたと歩く頭から
血を流して歩く少年兵の姿を見失う。
(前がよく見えないや。それに歩きにくい。おもったより損傷が大き良いのかぁ~)
頭を潰され四肢を引きずる遺骸のの頭の中で聞き慣れた自分の声が響く。
(しょうが無いか。後の手続きが面倒臭いけどここまでにしよう。結構気に入っていたんだけども・・・)
どこか名残惜しそうな声が響くと潰れた頭の遺骸がピタリと脚をとめてそのまま辺りを見渡す。
敵か味方かも知れず否に小餓鬼族共に火矢を放つ器用さはないから何か焦った味方の兵が
打ち損じた油布を巻いて撃った火矢が敵には届かず木製の荷車に炎を付けたのだのだろう。
「おっ、おい。其処の若造。何やっているんだ?死にたいのか?待てっ。ちょっと待てってば」
危なかっしく歩く少年兵を見つけた年長兵が気がつくが彼もまた怪我をした同僚の四肢を支えてる。
頭に怪我をおったようにも見える新兵がフラフラともはや火の山となり始めた荷車に向かって
ふらふらと歩き出したかと思うとそのまま止める間もなく火馬車に乗り込み
その四肢を燃料として更に大きな火柱が上がる。
「なんてこった。自殺しやがった・・・。彼奴。あれじゃ何も残らな無い」
轟轟と焔の柱が猛々と上がる火荷車の横で肩に担いだ同僚が呻く。
頭を怪我した少年兵は自分の死を覚悟したのだろう。もうそれ以上苦しみたくもなかったのだろう。
そうでなくてもこの戦場の凄惨さを知れば新兵卒で配属される少年兵の何割かは一週間もせずに
精神を病んでしまうものも確かに多い。それほどまでに凄惨な戦場であり勝利と言う物等はないのだ。



「何ということだ。もう後が無いと言うのにこの様だというのか・・・・」
街までの距離は疾馬車を仕えば五日程。普通の度馬車でも九日ほどの距離。
小賢しくも忌み嫌うべき蒼肌濁る小餓鬼族の彼奴が人種人類に警告を発したのが昨年の秋。
それから冬へと季節を迎える頃には彼奴の策略に染まるも深く考慮すべき厄災の存在を
認め無ければならなかった。最初こそたかが魔物如きの戯言と捨て置いた時間がもどかしい。
わすかな期間であったやも知れないが今となっては彼奴の同族の白腹の小餓鬼族の巣が溢れたのは事実である。
自分一人が忌み嫌っても確かにあの蒼肌濁る小餓鬼族の雄が貴族院の謁見上でぎゃぁぎゃあと喚いたのは
確かに正しいことだった。春には正式に妻となった教母の力添えがあったのも確かでもあろう。
当然であるのだが自分を含め貴族院の輩も魔物如きの妄言など聞くに値しないと一蹴したが
時が巡って冬期の終わりに最初の巣溢れが起きた。
そもそも巣溢れとは何か?簡単である。
小餓鬼族はその本能的な習性に基づいて行動する。
腹を満たすために狩りを行い。繁殖の為に人種人類の女性を攫い巣に連れ込んでひたすら犯す。
侵される女性はやがてに子を孕み産み落とすが子は当然魔物小餓鬼族である。
自然界の摂理として天敵も存在するが我等怨敵・白肌膨らむ小餓鬼族一党の巣は地理的に悪かった。
天敵の人種人類の街とはそれなりに距離もあり途中に山と川が彼等を遠ざける。
それ故に白肌膨らむ小餓鬼族は温かい巣城の中でぬくぬくと戦利品の女性共を犯し続けた。
後に大巣城となるそれは学者が言うには小さいものであったはずと嘯くが斥候共の報告はそうではない。
最初から目を瞠る程に考えられないほどに大きかったに違いないと兵共は口を揃える。
確かに本当の最初は他とも変わらぬ程度の物であったやもしれぬ。
だが然し直ぐに手狭になったのだろう。手狭になった巣城から追い出される形で若い小餓鬼族が溢れてくる。
彼奴らも肉を食らうし寝言も言う。安らぎの場所は必要だからと適当に放浪して気に入った地面を掘り返し
今度は其処に自分達の新しい巣城をこしらえる。そして狩りに出かけては女と雌をさらって犯す。
地理的に人が住まう街の近くには小餓鬼族の巣城できやすい。
当然である。一人一人の人種人類は弱いし簡単に狩れる。女の四肢は魅力的で股ぐらの具合も良い。
更に他の動物とも違いその期になれば年中発情し性交もたやすく良く子も孕む。
少しづつ増えて行く白腹の小餓鬼族共の巣城の近くには比較的大きな街があったがいかんせん。
魔物を認めぬばかりか、この世にそんなものは一匹もないなと信じて断言する輩が住まう街だった。
一種の盲信的な宗教領主が居を構える街だったのも不幸の一端を担ったのも事実だ。
子供がちょっと背伸びすればよじ登れる石壁と貧相な板盾と包職人が仕方なく作った剣を構える兵士
そもとも彼等さえ街に百人もいたのかしらと言われるような宗教街であったなら餌を求める小餓鬼族にとって
最高に美味しい餌が群がる場所でしか無い。
その街の側に一つでも巣尻が席れば最悪だ。すぐにそれは二つに溢れて幾つも出来る。
街の人種人類が気がついた頃にはもう遅い。
一度人種人類の肉の旨味と女の股ぐらの良さを知った小餓鬼族共は止まらない。
対応しようにも兵が握る剣と盾は粗末すぎる。只の一度の戦闘で兵士達が全滅したと思えば
即日には彼等の妻と若い少女が拐かされ侵される。
それまでに魔物なんていないと豪語した宗教領主が哀れにも腕をちぎられ頭を齧られてるも
大事に育てられまるで少女にも見える嫡子少年も巣に攫われ後ろの穴を侵される。
散々に犯した後に孕まぬ雄とわかれば腹を咲かれて絶命に至る頃に街には既に白腹磨く小餓鬼族が溢れてる。
もはや土を穿って巣城を作る必要もない。その街に済めば良いのだ。
人が生活を営む家がそのまま小餓鬼族の巣になった。人が愛を貪る街が小餓鬼族共の巨大な巣城となった。
街一つ巣城になってもまだまだ足りぬとばかりに小餓鬼族は人の雌を犯し続け孕ませてその数が増える。
さすがに街一つが魔物小餓鬼族の大巣城となれば周りの人種人類も噂は聞くし実際に近くを通る行商人も
商隊馬車の被害にある。偶然に逃げおおせた人々が他の街にたどり着き騒ぎと成る。
其処まで着てやっと貴族院の議員共は忌み嫌い例の蒼肌濁る小餓鬼族の言い分は本当だったと信じ始める。
もっとも信じ始めたばかりであってその後に数回にわたり斥候偵察兵を送ってからの事であるし
当然その兵の大半は小餓鬼族の餌になってからの出来事である。
時既に遅しと文鎮さながらに重い腰を持ち上げたのが膝まで雪が積もる冬だった。
それから対策と戦の準備がやっと始まったのではあるが後手に回ってるのは諌めない。
幸いな事に蒼肌濁る小餓鬼族の警告があったのと今に至る大巣溢れの時期が予想より遅れた事が幸事であろう。
もっとも当初に予想された時期より三ヶ月程後ろにずれたのは恵み出であっても時期は良くない雨季である。
後少しも陽と月が巡れば夏が来るだろうし戦い安くなってもそれは小餓鬼族が最も動きやすい時期でも有る。
「これでもかっと兵を投入すれば。それも喰らう。
今度こそはと新兵器と新戦術で挑めば数で圧されて元の木阿弥と成る。結局、膠着状態が続けば・・・」
「王妃が生まれます。・・・・レスフィンネ上級将校殿」
「そうであろうな・・・」
王妃と言う事ば的確ではないと博識学者共は口を尖らせて激昂するだろう。
大体にして小餓鬼族共は雄である。雌はいない。やがて生まれるかも知れない小餓鬼族の王主の事と指すなら
やはり、王だろう。上級将校殿と呼ばれたレスフィンネ自身もそうは思う。
だが然し、博識学者共が大事に抱える古文羊皮紙の束の挿絵に二つの乳房と四つの副乳が書き込まれた
挿絵が乗っていたししっかりと王妃と読める字が刻んであった。
雌雄同体とも考察されているが恐ろしいのは其処ではない。本来、自種族では孕む事のできない小餓鬼族。
彼等を束ねる王妃足る個体が本当に子を孕めるとしたらどうなる?
小餓鬼族は他種族の雌の子宮を狩りて繁殖を成す。父方の素質を色濃く受け継ぎ小餓鬼族として生まれるが
少なからずも母の影響を受けて生まれてきてるのだ。それが父も母も小餓鬼族であればどうなる?
現在は半分だけの血と姿を受け継いで生まれる小餓鬼族が父母同族の血と姿を受け継いでうまれたらどうなる?
それは本来に真の小餓鬼族の姿と力であるとも考察するのは容易い。
当然の如くそれは種族としての小餓鬼族であり。
それがどのようなものであるかと問いても蒼肌濁る小餓鬼族は鼻を鳴らしただけだった。
「そんなのしるかっ?観た事も聞いたこともないっと言ってますの。私の夫君は」
隣でふくよかな四肢を揺らし小餓鬼族の妻・教母が意地悪く答えた。
それが春先の出来事であればずいぶん昔にも思え懐かしくも思えるレスフィンネである。



「それで何と呼べば良いのかね?」
白肌揺れる小餓鬼族に対抗する為に人種人類が必死につくった防壁城の執務室。
二人の人物を迎えその一人に向かい上級将校レスフィンネが問いかける。
「ぼっ、ボクっ!は・・・上級・・・貴族・・・・Chastity Belt・・・の家の・・次男・・・
えっと・・・その・・・・✘✘✘・・・です・・」細身の少年が其処そ必死の形相で答えてくる。
「えっ?何だって?Chastity Belt家と言うのは聞き取れたぞ。
余り聞かぬ名だがHouse of Chastity Beltとなるのか?云々。それで貴殿の名前は?」
「House of Chastity Belt・・・の・・・✘✘✘・・・です」
さっきよりも顔を揚げ真っ直ぐにレスフィンネの顔を見上げて声を発するが肝心の単語が聞き取れない。
「お前ふざけてる訳ではないだろうな?ここが戦場とわかっているのか?
そんな事では一度、奴らの前にでも出れば太い腕で殴られて頭を砕かれるだけだぞ?
その前に私に殴られる方が好みか?お前マゾヒズム好みか?通な趣味をもってるな。小僧」
細身ではあるが大きな乳房を揺らし上級将校レスフィンネが鼻で少年兵を嘲笑う。
Chastity Belt家。礼儀正しく言葉を並び替えればHouse of Chastity Beltとなるのだろうが
聞いた事がない。最もこの戦には近くの町や都市を含め総力戦を余儀なくされている。
それほどまでに白腹膨らむ小餓鬼族との戦は窮地に陥っているのだ。
レスフィンネ自身が知らないどこぞの地方貴族か汚名を挽回しようと企む没落貴族が自身の代わりに
嫡男ではなくもわざわざ潰しの効かない次男を送り込んできても不思議ではないが面倒でしかない。
大体にしてChastity Beltと言う単語の意味も測りかねる。おおよそになんとなくおぼろげな意味しか
頭に思いつかないし、そんな事よりも目の前の少年の姿は少年にしても貧弱で有る。
「再度。問うが貴殿の名は何というのだ?きちんと答えられなけば牢にでもぶち込むが・・・」
「ぼっ、ボクっ!は・・・✘✘✘ですっ」自分では声を張り上げ元気に答えたつもりであっても
周りのものにはごもごもと濁った言葉の羅列にしか聞こえない。
貴様。上官を馬鹿にするつもりかっ!怒鳴り散らす代わりに帯剣する柄に手を掛ける時
「あの。上級将校レスフィンネ殿。
我が父より預かりし書簡で御座います。目を通して頂ければ解が得られると父が申しておりました」
「何?そんな書簡が有るのか?早く魅せてくれれ良い物を。・・・どれどれっと」
としはの行かない少年相手にちょっとむきになってまった自分を恥じると
厳重に封のされた書簡を二人目の人物から受け取る。
最初にそれを出せばよかったにとも思うが凛とした真面目そうな顔に似合わず程に
大きな双房を揺らす少女に嫉妬さえも覚えるがレスフィンネ自身も男児兵の視線を集める乳房を持つ。
双房相塗れると言うのはこの事かも知れない。対照的に隣でもじもじと直立する少年はいじらしくも情けない。
手渡された書簡はずいぶんと長くも丁寧であるが金槌で叩いて平らにすれば次と成る。
少年は確かにHouse of Chastity Beltの次男坊であるが母親が病の間に生まれたために
失語症を患っていると言うことであった。特定の言葉の発音がうまく出来ずにも極度の緊張症でもあるらしい
病弱であるし喘息でもある。自閉症の傾向も強く他人との協調性も低く独自の世界を好むとも。
おおよそ常人とは歩を合せて生活も戦も出来ぬとも記されているが頭脳は明晰であるとも。
だからどうした?こんなの兵士として役にたつはずもないだろう?
どこぞの貴族が病持ちの次男坊の厄介払いに押し付けてきたと言うのだろうか。
それから表も裏も何回かひっくり返して観たが家名は刻んであっても肝心の少年の名前は一字も書いてなかった。
「はぁ~~。失語症とな?失礼したと言うべきであろうが結局、お前の名前はわからなぬ儘だな。
それは色々と此方も困る。困るゆえに私が付けてやる・・・・えっと・・・坊や。
今までなんと呼ばれていたか知らないが、ここでの御前の名前は坊やだ。
・・・・して?隣の貴殿は何の縁をこの坊やと結ぶ?」
「ボクっ!・・・」
先ず最初に上官に坊や勝手に命名されてしまったことが気に食わない少年がちょっと苛立って声を上げる。
不満にぷくっと頬をふくらませるのは幼い顔立ち故に可愛いが隣でずいっと軍靴を鳴らして少女が前に出る。
「はっ!上級将校レスフィンネ殿。
私奴はセィンフォルダー・ド・ネイン家の長女・ニケで御座います。
この度、彼の戦場に於いて憎き怨敵白腹膨らむ小餓鬼族を打つべしと参上しました。
出立の朝に御父上殿からHouse of Chastity Beltの次男殿の世話と護衛せよときつく申し承っております。
以後、お見知り置きを!」かつんと再び軍靴を鳴らしこの世でも勝利の女神の名を関する少女が答える。
勿論、十と七にもなれば成人とみなされるがそれい以上に四肢が色気をむんっと漂わす。
自分で言い切ったものの、本人の気持ちでは打倒白腹膨らむ小餓鬼族彼奴とでもあろうとも
家の家長に見知らぬ他貴族の次男坊の世話とは情けないかも知れない。
「なるほど。此方の坊やの世話を進んで受けてくれるなら此方は助かる。
まぁそれでも兵にはかわりない。安穏と過ごさせる余裕はないの事実でもある。
ふたりとも精々精進するように」面倒事を引き受けてくれそうな少女に同情の念を覚えるが
それでも余計な事に気を取られる事もないだろうとレスフィンネはほっと安堵した。



「坊っちゃん君!
お肉食べないと大きく成れないでしょ!漢の子なんだからちゃんと食べなさい!」
「嫌だっ。お肉嫌い。あと坊っちゃん君て呼ばれるのも嫌い!」
「それはしょうが無いでしょ?✘✘✘って言われたって聞き取れないんだからっ」
どことなく頬を赤らめつつも自分の肉粥の椀を先割れ匙でニケが救う。
ここまでが大絞め扉を要と守る防壁城の兵役食堂で行われるニケと坊っちゃん君の朝の会話である。
最も朝の儀式とやらはもう少し破廉恥で有るのだここが戦さ場であるのと人に知られるのは
少々憚れれるとばかりにニケはグッと我慢して椀に残る汁を匙で救う。
白腹膨らむ小餓鬼族との戦さ場。
ここ数ヶ月の間に忽然と勃発した残虐極まる戦。
その様を一つ一つと烈嶼すれば百や二百枚の記録事を羊皮紙に纏める記書管が一番に忙しいだろう。
たが然し、どこぞの没落貴族の次男坊・通称坊っちゃん君とその世話を義務とするニケの生活は少し違う。
通常であれば着任その日から数人単位でまとめられ小隊へ配属と成るであろうが
失語症や自閉症を始め様々な疾患を抱え込む坊っちゃん君をそんな環境に投げ込んだ日には癇癪を起こし
暴れるのに決まってるし、同小隊に配属された同僚が呼び名を適当に誂っただけなのに激情し
側にあったスコップで頭をかち割ろうとする奇行魅せた。
その場をとっさの判断でニケが収めたものの。
ニケ自身としてはあの行為が後々に坊っちゃん君に悪い癖を覚えさせてしまったとも悔やんでいる。
House of Chastity Beltの次男・坊っちゃん君。
その直属の上司上級将校レスフィンネが命名した字名であるが本人は気に入らないらしい。
「ボクっ!は坊っちゃんじゃないの!✘✘✘なのっ!」
彼を坊っちゃんくんと呼ぶ度に唾を飛ばし口を尖らせて強く否定するのは確かであるが
肝心の単語が聞き取れないほどに濁るのだから結局ニケもレスフィンネも坊っちゃん君で通す。
その坊っちゃん君の奇行はなかなかに癖の有る物である。
極々普通に歩いているかと思うと突然に立ち止まって動かなく無くなる。
その瞳に光を失ったかとでも異様に何の表情もなく数秒間棒立ちになったかと思うと
傍っと我に返ったかのように歩き出すが大抵脚がもつれてつんのめって床に転ぶ。
他の少年兵よりも幼顔で若干背も低い癖から一部の女性には可愛がられるが
なにやら一定の条件を基準としてるのか今の所ニケとその上級将校レスフィンネしか懐かない。
ちょっとした粗相をしてレスフィンネに怒られて居るときでさえ平然と聞き流してるように見える。
(どんだけ面の皮が厚いのかしら?自分が失敗して怒られてるのにあんなに平然としてるなんて・・・
てかっ。胸観てるわね。レスフィンネ殿の胸ばかり観てる。視姦してるのね。嫌らしい」
何やら些細な事でも失敗でも軍事とその身を預かるレスフィンネとしては
坊っちゃんを叱るのも仕事だ。それなのに割と平然として懲りた様子もないのは何故だろう。
何故と言うなら一人で用を足す時もそうである。
「ボクっ!ちょっとお花積んでくる」
今どき貴族の御嬢様でも憚れる言い草を残してタッタッタと奔っていけば。
直ぐに戻ってきた試しがない。十分で戻れば早い方、大体その倍の時間は籠もってる。
「そんなにゆっくり時間をかけて何してるの?」
「用足は神聖な儀式なのっ」
やっと手を洗い戻ってきた坊っちゃん君に何度か問いてみてもそれと返ってくる。
もしかして大きい方なのかと思えばそうでないらしい。それの時は更に時間がもっと伸びる。
行動の先が読めないのもしばしばである。
下された命令で書簡を前線の兵舎に届ける時などは一苦労だ。
届け先がわかっているのだから真っ直ぐ歩けば直ぐに終わるのにあれやこれやと寄り道をする。
下級兵舎の食堂の叔母さんの所に駆け寄っては世間話に花をかせては時間を取り
病院天幕に行っては自分で服をめくって腹を突き出し女医に聴診器を当ててもらう。
兵站天幕に潜り込んでは何やら果実の入った籠を盗んでくる。
「そんな事してるから簡単な任務に凄く時間がかかるのよ。いい加減にしないと怒るわよ」
腰に手を当てて声を荒げると果実籠を抱えたままその場にぴたりと棒立ちに立ち尽くす。
「全くっ。なんて子なのよ。自由すぎるのよ。ちょっとしっかりしなさいよ。坊っちゃん君」
体を揺すってやろうと肩に手を伸ばそうとすれば途端に動き出し、つかもうとした手が宙を切る。
何事もなかったようにさっそうと奔っていったかと思うと小さな身体でスルスルと板梯子を勝手に登り
監視等の兵士と何やら声を揚げて冗談を交わしあう。それがおわると反対側の梯子を降りていくから
世話係としてほっとけないニケははっと気づいて全力疾走する羽目になってしまう。
万治がこうであるから世話を担うニケはろくに戦闘訓練に参加する暇もない始末だ。
「だっ・・・だからいい加減にしなさいよ・・・毎朝、毎朝っ」
挙動不審を日常茶飯事とする坊っちゃん君の悪癖は止まらない。
「あのね?坊っちゃん君。私も年頃の乙女なのっ。興味があっても恥じらいもあるの・・・あんっ」
「ニケさんの乳房はボクっ!のものなの!ボクっ!の枕なの。乳枕なのっ」
「何がボクっ!の物じゃないでしょ?大体乳枕ってなんなのよ!あんっ。鼻でこすっちゃ駄目・・・あん」
昨晩に不妊症も追加で患う坊っちゃん君に多めに角砂糖を沈めたミルクを飲ませ寝かしつけたはずである。
世話をする都合上部屋続きであるが仕切る扉には鍵を二つ余計にかけてもいた。
だが然しである。
虚ろなにぼうっと目を覚ますと乳房に坊っちゃんの顔が埋まってる。
こっちもまだ夢ごごちであろうにもニケの双房に顔を埋め中年スケベオヤジの如くに鼻の下を伸ばしてる。
小柄な癖に四肢をうまく使いニケの股ぐらに太ももを差し込んで布の上からでも雌壺を刺激しても魅せる。
「こらっ。子供の癖に何してるのよ!そこは駄目。やんやんっ。レスフィンネ殿にバレたらどすうるのよ」
「大丈夫っ。レスフィンネさんの乳もボクっ!の乳枕だから」
「えっ。レスフィンネのも乳枕にしてるって!・・・あん・・・卑らしい・・」
有る種淫猥な告白を聞かされるが尖った鼻で乳首の先を擦られ堪らずニケは声を上げてしまう。



「リーネンファルンさん・・・
こっ、コホン。リーネンファルンローゼヌミルグさん。
御自分の荷物は自分でお持ちになった方がよろしいのでは御座いせん事!」
坊っちゃん君の世話役ニケがキリッときつい目で文句を言うのは当たり前だが
途中で言い直したのは隣で背の低い坊っちゃん君がムッとして副袖を引っ張ったからだ。
「其処の坊っちゃん君とやらより私達の方が先輩なのよ。
後から部隊に入ってきた輩が先輩を敬うのは当たり前の事でしょ?そうよね。坊っちゃん君」
短く切りそこねた薄茶の髪を細指で書き上げ勝ち誇ったとばかりに名指しされた女性士官が言い捨てる。
リーネンファルンローゼヌミルグ・ビストロルーネ。
名前が長いのは家名であるからしょうが無いだろう。最も著名であるから品格にも拘る。
だからこそ正式な場所でなくてもその名を略して呼ばれるのは好きではない。
「俺のブンも持ってくれや小僧」これも又、先輩面をする漢がリーネンファルンローゼヌの肩後ろから
ひょいと顔を出して坊っちゃん君の前に鞄をも投げ出す。
「ブーテンさんまで荷物を坊っちゃんに持たせるつもりですか?規則違反ですよ?」
ぶつくさと文句を言ニケがぼやく隣で坊っちゃん君が女性士官の鞄を持ち上げる。
「ボクっ!大丈夫だから。さっさと前に進もうよ。ニケ姉ぇ様」
いつの間にかレスフィンネ姉ぇ様と字名で呼ばれる事にも随分と慣れたもんだ。
「あらっ。いい子ねぇ~~。お坊っちゃん君」
正に勝ち誇ったとばかりにふんっと鼻を鳴らしリーネンファルンローゼヌが胸前で腕を組む。
確かに坊っちゃん君の世話役ニケの乳房に比べれば遥かに見劣りすれば
世に言えば貧乳の類に入るだろう。大体にして自室では自分の漢と認め寝台を一緒に温める
ブーテンがいつもリーネンファルンローゼヌの感じやすい乳房のを探してる。
よいしょっと声を掛けリーネンファルンローゼヌの鞄を後背に抱え乗せると坊っちゃんが歩き出す。
「おいっ!俺の鞄も持てよ。小僧」
リーネンファルンローゼヌの鞄は確かに背負うがトコトコとカッタに進み出せばブーテンの鞄は地の上に取り残される。
世話役ニケが良く面倒を良く観てるからなのだろうか?
最近は奇行も少なくなったように思える坊っちゃん君はやっと通常の小隊に配属され偵察任務に付く。
兎に角に無理させないようにとも考慮されてはいるが配属された小隊は余り物だし
赴く任務も超が付くほどに簡単なものでもある。
自陣基地から二日ほど離れた丘谷への偵察任務。他の小隊に任せれるなら朝に出かけて次の日には帰って来れるほどの
遠足気分の工程に三日の期間を掛けても良いと上級士官が認めたのも坊っちゃんの脚と奇行を考慮してのことである。















